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*現聴研・第一話「荻上・始動」 【投稿日 2006/04/07】 **[[現聴研]] ここは現代聴覚文化研究会の部室。 新会長の笹原がノートPCを部室のコンポのスピーカーに繋いで 音楽を聴いていると、新入会員の荻上さんが入ってきた。 部室にはPSY・Zの「二心」というベストアルバムだ。 「ども……」 「ちわー…あ!ギプス取れたんだね。おめでとう」 「いえ、どうも…ありがとうゴザイマス」 そして椅子に座ると、右手に提げていたアコギのハードケースを 横に立てかける。 笹原はそれを横目で気にしながらも、PCで作業を続けている。 荻上はというと、ノートを取り出してペラペラと捲っている。 会話の無い二人。 部室には音楽だけが流れている。 「これ、PSY・Zの二心ですね」 しばらく聴いていた荻上が口を開いた。 「え?知ってるの?古いのに…」 「まぁ、色々と自力で」 「俺はここに入会してから、色々と古いの洗脳されたんだけどねぇ(苦笑)」 そう言っている間に、荻上はハードケースからギターを取り出している。 「荻上さん、ギター弾けるんだ……!」 「ええ、アコギ2本とクラッシックとエレキとセミアコと、6本ほど持ってます…」 そう答えながら、音叉を取り出し叩くと、ボディーに当てる。 ポーンと気持ちのいいA音が響く。 「あ、音楽邪魔?止めようか?」 「いえ、もうちょっと時間掛かりますから」 言いながら、ハーモニクスで調音を続ける。 さらに、弦のウネリを合わせる方法でも確認してる念の入りようだ。 ストラップを肩に掛け、右足を組むとギターを抱える。 それを見て笹原は音楽を止めた。 「ん、ん…」 咳払いをすると荻上さんは、何やら小さな瓶からクリームを少しだけ 右手の指に馴染ませると、ピックをつまみ、1回強くストロークし、 すぐに右手で弦を止めてミュートした。 「何を弾くの?」 と、笹原が問いかけるが、荻上は答えずに、ジャカジャカと アコギを掻き鳴らし始める。 笹原は何の曲が始まるのかさっぱり解らなくて、頭に「?」が浮かぶ。 と、ギターを弾くのを止めた、荻上が一言、 「今のは、怪我して久しぶりだったから慣らしです」 と、小声で告げた。ズッコケリアクションの笹原だったが その姿勢が直る前に、荻上は曲を弾き始めた。 左手はネックの根元辺りで動く。イントロのメロディーですぐわかる。 「♪駆けてゆく~子供たち…」 まず荻上の歌声が始まり、追いかけるように軽いタッチでギターのストローク。 『あ、PSY・Zの、水の辺境か…このアルバムの最後の曲だ』 笹原はすぐに気づいた。 荻上はといえば、机の上の手書きのノートに眼を遣りながら歌い続ける。 PSY・Zの中でも哀愁を帯びたメロディー。荻上の表情にも憂いが浮かぶ。 2番のBメロに合わせて、笹原も口の中でコーラスを呟く。 「♪なーがーい髪ーを解いて~」 サビの高音も綺麗に声が伸びている荻上の歌声。 盛り上がりに合わせて、荻上のギターにも力がこもる。 笹原は背中がゾクリとして身震いした。 やがて歌い終わり、荻上は目を閉じると 「ふう…」 と、溜息をつく。笹原のほうは恥ずかしくて向けずに、うつむく。 「上手い、上手いよ荻上さん!ギター1本だと元の曲と雰囲気変わるねぇ。  それに自力で耳コピしたの?そのノート?」 「ええ、良い曲だったので……イメージ違うっていうなら、こっちの方が」 言うなり激しい16ビートのストローク。 和音でなく、オクターブ奏法を使って並んだ2本の弦だけ同じ音で鳴らし、 メロディーを奏でる。本来はヴァイオリンの音色であった独特のイントロ メロディーがギターで響くが、すぐに解る。 「ああ、天使の夜だ」 笹原のその声は、荻上のギターの音にかき消される。 「♪イルミネーション、真下に見下ろし…」 アニメ「都市狩人」のOPで有名な曲だが、アコギで歌うなんて笹原には 想いも寄らなかった。確かに一番有名な曲かもしれない。 そして歌の音域も高いが、普段の喋り声と違って荻上の歌声は楽に響く。 『すご…荻上さん、声、高ーーーっ…』 サビのところでは原曲ではベース音とドラムのハイハットだけだが 荻上さんもギターでベース音だけを鳴らして再現につとめる。 気持ちよさそうに歌う荻上さんの顔につられて、笹原の顔も笑顔になる。 その日、荻上は2時間、喋ることなく連続で歌い続けたのだった。
*現聴研・第二話 【投稿日 2006/04/07】 **[[現聴研]] いつものように部室では、笹原がギター専門誌をパラパラと眺めている。 別に買いたいわけではない。彼は演奏ができない。 興味がないわけではない。はじめてこの部室に来た時には、退室したフリをした斑目たちにドッキリを仕掛けられ、誰も居ない部室で「エアギター」を弾いているところを目撃されている……。 傍らで自分のギターをいじっていた荻上は笹原に、「現聴研にはほかにも楽器のできる人はいないんですか?」と尋ねた。 「ああ、いるよ。久我山さんと高坂くんができるでしょ……」 「高坂さんは何でもできそうですものね」 「うーん、でも彼はね……天然だから」 「はあ……」    ※    ※ 荻上が入部するずっと前の2002年。現聴研部室に、斑目、田中、久我山、笹原がいつものようにタムロしていた。 斑目は部室のコンポで、10年以上昔の打ち込み系テクノバンド「ソフトバレー」のファーストアルバム「アース・バーン」を流して聞き入っている。 傍らでは久我山が自分のギターを持ち込んで何度もコードを練習している。しかし、彼が実際に一曲弾いたところはまだ誰も見たことがない。 田中は笹原に、LPレコードのジャケットを手にもって、ウンチクを垂れていた。海外の有名バンド「女王」の代表作「世界に告げる」だ。 「どうだ笹原、このSF小説のような世界観を感じさせる絵柄! ピングーフロイドの“原始心母”のように、不可解なジャケットから物語を感じないか?」 「でも女王はメジャーでしょう。うちはマイナーな音楽が専門じゃないんですか?」 「一般人が存在を知っていても、その奥深いところにも目を向けるのが俺らみたいな人種だよ」 「でも田中さんCDも持ってましたよね?」 「LPジャケットは一幅の絵なんだよね~、質感が違うんだよ。……見比べてみる?」 カタンとデスクの上に同じ絵柄のCDが置かれた。 斑目は音楽を止めて、「え~第245回、ソフトバレー復活ライブ見に行きたいな会議~」とおもむろに会議を招集した。 笹「この夏に復活したばかりなのに、そんなに回数重ねてるんですか?」 田「そこは流せ」 斑「いやまあ、あの3人が再結成するとは夢にも思わなかったけどなあ」 久「あ、ひょっとしてモダンチェキチェキズと共演したりして。夫婦つながりで……」 田「ありえねえ!方向性違い過ぎ」 そんな中、ガチャリと部室のドアが開き、春日部さんがやってきた。「うお」「何だ?」春日部さんは驚く彼らを一瞥した後、笹原を手招きした。 「ササヤンちょっと相談あるんだけど」 「え、俺っすか?」 「うん、あんたが一番まともそうだから……ってなんで敬語なのよ。タメでいいよ」と語り、聞き耳を立てる他3人をにらみ付けてから、本題に入った。 「高坂の部屋で、“椎菜へきる”って奴のCDが散乱してるのに気付いたんだよ……」    ※    ※ 荻「椎菜……へきる……ですか……」 笹原の話を聞いて、さすがに荻上も微妙な顔をした。    ※    ※ 舞台は再び2002年。 笹「あー、椎菜へきる。声優ね」 春「いやデパートは関係ないよ」 (それは西友だろ)と心の中で突っ込む斑目。春日部さんは、周りの4人の反応が鈍いのを見て憤る。 「何?あんたらの世界ではフツーなのそれ? エムネミとかザザンとか平井拳を聞かないの?」 田「俺らも一応ヒットチャートは押さえるよ」 久「は 始ちとせは、いいと思うな……」 しかし斑目は、「俺聞いたことねーよ。ここ数年の巷のヒット曲なんて」と、ボリボリとケツをかきながら呟いた。思わず固まる周囲。    ※    ※ 荻上は、「なんか、高坂さんがどうとかって話じゃないですね、もう……」と汗を拭う。笹原も、はははと情けなく笑うしかなかった。 (この現聴研部室に集う人間は、みな一癖も二癖もあるのだ)荻上は、この世界はまだまだ奥が深そうだと感じた。

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