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*妄想少年マダラメF91・1 【投稿日 2006/03/25】 **[[カテゴリー-斑目せつねえ>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/48.html]] ……平成3年…… ……斑目晴信、10歳の晩夏…… 「妄想少年マダラメF91」 ……And I've seen it before   And I'll see it again   Yes I've seen it before   Just little bits of history repeating…… 【2005年9月24日13:15/秋葉原駅前】 秋葉原駅。電気街口から次々と、リュックを背負った暑苦しい男達の群れが吐き出されては、ラジオ会館や大通りの方へと消えて行く。 この日彼等は、有名エロゲメーカーの新作発売を目指して来ていた。発売日が急きょ数日伸び、異例の土曜日午後の発売となったのだ。 雑踏の中、何十人かは、そわそわといそいそと、同じ方向へ歩みを進めて行く。今にも駆け出しそうだ。 「慌てないでくださいねー。余裕は十分ありますからね!」 大通りに面した歩道に看板を持った男が叫んでいるが、誰も聞いちゃいない。 小走りのオタクが、「何で10時の開店時に売らないのかなァ?」とブツブツ独り言をいっている。 その横で、背を丸めながらボチボチ歩いていた男は、聞こえないほどの小声で、「間に合わなかったからじゃねーの……あんなに根詰めていたのに大変だな高坂も」と呟いた。 その男は、髪を雑に分けている。頬が少しこけた輪郭に、少し大きめの丸メガネ。ひょろりとした長身に、白いワイシャツと、よれたサマースーツを羽織り、磨いていない安物のローファーを履いている。 どこにでもいる疲れたサラリーマン。 彼の名は斑目晴信。この時、就職初年度。今日は午後から代休を取った。 斑目も昔なら、競うように駆け出して、必死に小売店の列にならんでいたであろう。 しかし、就職してからはスタミナと瞬発力を仕事に奪い取られていた。 (プシュケの新作、高坂に頼めば良かったかな? でも春日部さんにスゲー嫌がられそう……) そんなことを考えながら、とぼとぼと歩を進める。 歩道の脇にできた人だかりを避ける。おおかたメイド喫茶のフリフリメイドが立っているんだろう。 「マニアックが大手を振って表を歩くようになっちまったなぁ。昔みたいにアングラな方が燃えるのに」と一人でブツブツ言っている。 「昔か……アキバに初めて来たのは何時だっけ?」 「この道」が長いだけに、さすがに思い出せなかった。 【1991年9月21日13:15/秋葉原駅前】 秋葉原駅。電気街口から次々と、リュックを背負った私服の小学生の群れ3、40人がワラワラ出て来てラジオ会館の手前に並ぶ。 この日彼等は、社会科見学旅行の一環として、この街にやってきた。周りの雑音をかき消すほどに、皆落ち着きがなく、今にも駆け出しそうだ。 「班行動を乱すなよー。3時には集合だからな!」 ジャージ姿でファイルを手にした担任の先生が叫んでいるが、誰も聞いちゃいない。 男子生徒の一人が、「何でここに来たのかな?」と、傍らの生徒に尋ねた。 尋ねられた男の子は、けだるげに、「先生がウォークマンでも買いたいからじゃねーの?」と答えながら、手元のメガネを拭いてかけ直した。 メガネの男の子は、髪はちょっと長髪、えりあしを少し伸ばしている。輪郭に比べて大きめの丸メガネをかけている。 ひょろりとした長身に、長袖と半袖のTシャツを重ね着し、ジーパンと、有名メーカーによく似たパチモンバッシュを履いている。 どこにでもいる男の子。 彼の名は斑目晴信。この時、小学3年生。今日は一部自由行動だ。 大通りに出た班目は、「じゃ、またここで待ち合わせな!」と、班を組んだクラスメートと別れた。 (班行動なんてやってられないよなー) そんなことを考えながら、うきうきと歩を進める。 大通りの賑やかな店舗の数々に目を移す。ファミコン人気やスーパーファミコンの登場、パソコンの普及によって、秋葉原にもゲームソフトを扱う電気店や、ゲーム専門店が続々と現れていた。 「ドラゴンクエーサーⅣ・中古で売ってないかなあ!」 【2005年9月24日13:20/大通り】 斑目は大通りをプラプラと歩く。大手レコード店が近づき、目当てのゲーム店が視線の先に見えてきた。 しかし、前方の横断歩道を歩いて渡っている女性の姿が目に入ってきた瞬間、彼は我が目を疑った。 (嘘だー!なんでこんな所に春日部さんがいるよ? 幻でも見てるのか)幻ではない。春日部咲がいかにもつまらなそうに、秋葉原の街を1人で歩いているのだ。 咲は重い足取りで横断歩道を渡りきり、トボトボと末広町方面へと歩いていく。5、6メートル離れたところに立っている班目には全く気付かない。彼はアキバ男たちの間に、ものの見事に馴染んでいるからだ。 (コーサカが来てるのか? でも何か変だぞ) 思わず4、5メートル後ろを歩く班目。付かず離れず。 前を歩く咲がふと立ち止まり、量販店の店先で山の様に飾られた携帯電話に目を向けた。 瞬間、班目も思わず立ち止まり、反射的にゲームセンターの柱に身を隠す。(何やってんだ俺、まるで尾行じゃないか)身を隠しながら自己嫌悪に陥る。 脳内のスクリーンには、恋愛ゲームのイベントシーンのように、萌え絵に変換された咲を追いかける自分を思い描いている。 (あーもぅー! 相手は知り合いだぞ! とにかく声を掛けてみよう。何かトラブルかも知れん) そう思って意を決したとき、脳内スクリーンにお馴染みの恋愛シミュレーションの会話シーンが映し出され、コマンド画面が現れた……。 (よし!)咲の背後から肩を叩いた。 「あの、かすかb……」 その瞬間、斑目は目の前が真っ暗になった。大きな衝撃と激痛が腹を貫いた。咲が振り返り様、反射的にボディに拳をブチ込んでいたのだ。 「もしかして…オラオラですかあぁ……!」 斑目は古いネタを叫びながら、ドッギャァァァンッ!と仰向けに倒れた。 「痴話喧嘩か?」「何やってんだ?」周りの歩行者が少し足を止めて2人を見ては、また動き出す。 咲は思わず殴ってしまった相手の顔を見て驚いた。 「あれ? あぁッ斑目!? ゴメン! 変な人がつけて来てると思ってつい……! どうしてこんな所に……」 薄れていく意識の中で斑目は、上から自分を覗き込んでいる咲の心配そうな表情と、薄手のシャツから覗いた豊かな胸元に、ちょっと幸せな気分を味わった。 【1991年9月21日13:20/大通り】 ドラゴンクエーサーを売っている店を探す斑目少年は、大型電気店の前で、明るい栗色の髪の女の子を見かけた。 赤いランドセルを背負い、ひまわりの柄をしたワンピースを着ている。瞳が大きくて美人で、斑目は思わず見とれてしまった。 リコーダーを手に、不安げに周りをキョロキョロ見回している。自分より下級生みたいだ。フラフラと行くあてがなさそうで、誰かを探しているようにも見える。 (迷子かな?)思わず4、5メートル後ろを歩く班目。付かず離れず。 後をつけるだけでなかなか声を掛けられない。女の子がふと立ち止まり、電気屋の店先を覗き込んだ。 瞬間、斑目も思わず立ち止まり、反射的に別の電気店の柱に身を隠していた。(何やってんだ俺、これじゃ尾行じゃないか)身を隠しながら自己嫌悪に陥る。 脳内のスクリーンでは、ドラクエ(ドラゴンクエーサー)の町中のシーンのように、平面ドット絵の秋葉原の街で、ドット絵の女の子にピッタリくっついて歩く自分の姿を思い描いている。 (あーもぅー! 女子は苦手だよ! とにかく声を掛けてみよう。本当に迷子かも知れない) そう思って意を決すると、脳内スクリーンがピロロロロロ!と変わって、ドラクエのお馴染みの戦闘BGMと、コマンド画面が表れた……。 (よし!)女の子の背後から肩を叩いた。 「あの、ちょっときm……」 途端、斑目は目の前が真っ暗になった。大きな衝撃と激痛が腹を貫いた。少女が振り返り様、反射的にボディにリコーダーの先端をブチ込んでいたのだ。 「ア……アテナぁ~!」 斑目は古いネタを叫びながら、ズシャアァァァッ!と頭から倒れた。 「イジメか?」「病んでるのね最近の小学生は 」周りの歩行者が少し足を止めて2人を見ては、また動き出す。 女の子は、思わず人を攻撃してしまったことに驚いた。 「あれ? あぁッゴメンナサイ! 変な人がついてくると思ったから……」 薄れていく意識の中で斑目少年は、自分の側にしゃがみ込み、潤んだ瞳で心配そうに覗き込んでいる女の子の表情と、スカートの奥に覗いたぱん○に、ちょっと幸せな気分を味わった。 【2005年9月24日13:35/大通り】 ようやく痛みが治まってきた。 斑目は歩道脇のガードに腰を下ろして休んでいる。咲が隣に寄り添い、「ほんとに悪いね!」と、片手を上げてゴメンのポーズ。もうこれで3度目だ。 咲は、自販機でジュースを買って来てくれていた。2人とも同じ銘柄の紅茶。フタまで空けてくれた咲の気遣いに、斑目は(ケガの功名か……なんかこういうのも悪くないな)と、思わず顔がほころぶ。 「でも何で春日部さんがアキバにいるんだよ?」腹をさすりながら斑目が問う。 彼女が言うには、斑目も会ったことのある昔の女友達が、話題のドラマ「電波男」に感化され、アキバに行きたいと話を持ち掛けたらしい。 「あぁー、新宿に居た人ね」 斑目は相づちを打ったが、あの夜のことを思うと、ほんの少し胸がチクチクする。憂い顔を悟られぬよう、すぐに、「最近多いからねー、勘違いした人」と愛想良く話を合わせた。 「でしょー、あんたらの実態も知らないニワカが多いのよ」 「さすがオタに詳しい春日部さん」 咲はその台詞に反応、「それよ! 友達も“彼氏オタクデショ、詳しいデショ”ってね。それでも店の準備で忙しい中、1日空けてあげたのよ」と呆れ顔。 もう斑目を置いてけぼりで話を進める。 「そしたらどうなったと思う? 駅で待ち合わせしてたら、“彼氏に呼ばれた。また今度ね”ってメールが来やがって! 腹立たしい!」 言い終わるやいなや、咲は凶暴な顔つきで手にしていた紅茶の空カンを地面に叩き付けた。目の前の歩道をいそいそと歩いていたオタクどもが一瞬足を止める。 「高田馬場におばあちゃん家あるんだけど、このまま行くのもシャクだし……」 歩き去っていくギャラリーの視線を無視しながら、咲は空きカンを拾い上げる。腰を下ろしながら髪をフワッとかきあげる所作の美しさに、斑目は見とれていた。 (周りから見たら、俺たちどんな関係に見えるのかな……つり合わないかな?) (あ……何か昔、こんなことがあったような……) 「…………を買って帰ろうと思ったけどオタクばかりで、息を止めて歩くのが精いっぱい……って、ねえ斑目聞いてる?」 【1991年9月21日13:35/大通り】 ようやく痛みが治まってきた。 斑目少年は歩道の脇に腰を下ろしている。女の子が隣にチョコンと座って寄り添い、「本当にゴメンなさい~」と、両手を合わせた。もうこれで3度目だ。 斑目は、「ダイジョーブ、ダイジョーブ!」と引きつった笑顔を見せる。 シャンプーの香りが漂ってくる。斑目は顔がボーッと火照ってくるのを感じ、(カワイイなあ、うちのガッコこんな子いないよ……)と、思わず顔がほころぶ。 「でも何で1人で歩いてたの? 迷子?」腹をさすりながら斑目が問う。 彼女が言うには、友達が本を買いたいと言うので、学校帰りについてきたという。古本だから普通の本屋にはないそうで、電車を乗り継いで近くの駅まで来たのだ。 どうやら本を買った後、歩いているうちにはぐれたらしい。 「近くに古い電車の博物館もあるからって、ドンドン先に行っちゃうんだもん」 このあたりの地理に疎い斑目は、「ここら辺の街は、中古のモノを売ってる店が多いんだね」と答える。自分もゲームの中古ソフトを探しにきていただけに、変な納得の仕方をした。 斑目は、話に出てきた「一緒だった友達」が男の子だと知って、ほんの少し胸がチクチクした。 だがすぐに、「大丈夫か? 一緒に友達を探してあげようか?」と話掛けた。 「んにゃ! いらない!」と、女の子はきっぱりと断り、「アイツも私も、駅が分かればちゃんと帰れるもん」と、すくっと立ち上がった。 斑目を倒した後で背中のランドセルに刺しておいたリコーダーをむんずと掴み、ズバッと引き抜いた。 (おぉっ! Tガンガルのビームサーベル!!)思わず激しく反応する斑目。気付くと女の子は険しい目つきになっていた。 ポンポンと、リコーダーを警棒のように手の上で踊らせながら、「勝手に歩き回りやがって、アイツ絶対シメてやるもん!」と幼い声でドギツイ一言を吐き捨てた。 (あ、あれ? ドユコト?)嫌な予感がよぎる斑目。女の子が斑目を見下ろして言う。 「ねーねー、ちょっと」 「ハイ?」 「ツマンないからどっか遊びに連れてってよぉ」 「さっきまでの弱々しいキミハイズコ?」 「あれはゴメンナサイをしてたからぁ。上級生なんでしょ、どっか連れてってー“オニイチャン”!」 ささやかな幸せの直後に、危機感を感じる斑目少年であった。 【2005年9月24日13:40/大通り】 「……ちょっと、斑目、聞いてるの!?」 咲の声にハッと我に返った斑目は、「あー、聞いてるよー」と慌てて返事をした。 遠い記憶は思い出されないままにかき消された。 咲の話を聞いていなかった斑目は、上手くごまかそうとして、「高坂の会社のゲーム、今日出るんだけど、知ってた?」と尋ねた。 「え、ホント!スゴイネ…!」咲は何も知らなかったらしい。 パッと明るい笑顔を見せたが、すぐにジト目で斑目をにらみ、「……って、何でアタシがエロゲーの発売を喜ばにゃいかんのよ!」と毒づいた。 さらに咲は汗をかきつつ、「……まさかここら辺歩いてるオタどもはエロゲーを買いに……」と、歩道を行き来する男達に視線を移す。 「……斑目も?」と尋ね、一歩二歩と後ずさって距離を置く。「え、俺、俺はエーと……」すぐに赤くなる顔はごまかしがきかない。 「悲惨だわー、こんなオタどもの性欲のためにコーサカが命削って働いているなんて!」 さすがの斑目も、「ヒドイ言いぐさだー」と苦笑いするしかなかった。 もう咲はヤケになってきた。周りに聞こえるように大声で、「ホントにこいつら、アニメ絵にしか発情しないのかねー」と一言。オタクどもの足が再び、一瞬止まったように感じられた。 嫌な予感がよぎる斑目。咲はガードレールに腰掛けている斑目を見下ろして言う。 「斑目、ツマンネーからどっか食べに連れてってよ。ここら辺においしい店ねーの?」 「うわー、なんか春日部さん1年生のころのテンションに戻ってね?」 ささやかな幸せの直後、危機感を感じる斑目であった。 (あれ?……やっぱり昔、こんなことがあったような……) ……それは昔見たことを   再び見ているだけ   そう、昔見たこと   ただ、ちょっとした歴史の繰り返し…… (つづく)
*妄想少年マダラメF91・1 【投稿日 2006/03/25】 **[[妄想少年マダラメF91]] ……平成3年…… ……斑目晴信、10歳の晩夏…… 「妄想少年マダラメF91」 ……And I've seen it before   And I'll see it again   Yes I've seen it before   Just little bits of history repeating…… 【2005年9月24日13:15/秋葉原駅前】 秋葉原駅。電気街口から次々と、リュックを背負った暑苦しい男達の群れが吐き出されては、ラジオ会館や大通りの方へと消えて行く。 この日彼等は、有名エロゲメーカーの新作発売を目指して来ていた。発売日が急きょ数日伸び、異例の土曜日午後の発売となったのだ。 雑踏の中、何十人かは、そわそわといそいそと、同じ方向へ歩みを進めて行く。今にも駆け出しそうだ。 「慌てないでくださいねー。余裕は十分ありますからね!」 大通りに面した歩道に看板を持った男が叫んでいるが、誰も聞いちゃいない。 小走りのオタクが、「何で10時の開店時に売らないのかなァ?」とブツブツ独り言をいっている。 その横で、背を丸めながらボチボチ歩いていた男は、聞こえないほどの小声で、「間に合わなかったからじゃねーの……あんなに根詰めていたのに大変だな高坂も」と呟いた。 その男は、髪を雑に分けている。頬が少しこけた輪郭に、少し大きめの丸メガネ。ひょろりとした長身に、白いワイシャツと、よれたサマースーツを羽織り、磨いていない安物のローファーを履いている。 どこにでもいる疲れたサラリーマン。 彼の名は斑目晴信。この時、就職初年度。今日は午後から代休を取った。 斑目も昔なら、競うように駆け出して、必死に小売店の列にならんでいたであろう。 しかし、就職してからはスタミナと瞬発力を仕事に奪い取られていた。 (プシュケの新作、高坂に頼めば良かったかな? でも春日部さんにスゲー嫌がられそう……) そんなことを考えながら、とぼとぼと歩を進める。 歩道の脇にできた人だかりを避ける。おおかたメイド喫茶のフリフリメイドが立っているんだろう。 「マニアックが大手を振って表を歩くようになっちまったなぁ。昔みたいにアングラな方が燃えるのに」と一人でブツブツ言っている。 「昔か……アキバに初めて来たのは何時だっけ?」 「この道」が長いだけに、さすがに思い出せなかった。 【1991年9月21日13:15/秋葉原駅前】 秋葉原駅。電気街口から次々と、リュックを背負った私服の小学生の群れ3、40人がワラワラ出て来てラジオ会館の手前に並ぶ。 この日彼等は、社会科見学旅行の一環として、この街にやってきた。周りの雑音をかき消すほどに、皆落ち着きがなく、今にも駆け出しそうだ。 「班行動を乱すなよー。3時には集合だからな!」 ジャージ姿でファイルを手にした担任の先生が叫んでいるが、誰も聞いちゃいない。 男子生徒の一人が、「何でここに来たのかな?」と、傍らの生徒に尋ねた。 尋ねられた男の子は、けだるげに、「先生がウォークマンでも買いたいからじゃねーの?」と答えながら、手元のメガネを拭いてかけ直した。 メガネの男の子は、髪はちょっと長髪、えりあしを少し伸ばしている。輪郭に比べて大きめの丸メガネをかけている。 ひょろりとした長身に、長袖と半袖のTシャツを重ね着し、ジーパンと、有名メーカーによく似たパチモンバッシュを履いている。 どこにでもいる男の子。 彼の名は斑目晴信。この時、小学3年生。今日は一部自由行動だ。 大通りに出た班目は、「じゃ、またここで待ち合わせな!」と、班を組んだクラスメートと別れた。 (班行動なんてやってられないよなー) そんなことを考えながら、うきうきと歩を進める。 大通りの賑やかな店舗の数々に目を移す。ファミコン人気やスーパーファミコンの登場、パソコンの普及によって、秋葉原にもゲームソフトを扱う電気店や、ゲーム専門店が続々と現れていた。 「ドラゴンクエーサーⅣ・中古で売ってないかなあ!」 【2005年9月24日13:20/大通り】 斑目は大通りをプラプラと歩く。大手レコード店が近づき、目当てのゲーム店が視線の先に見えてきた。 しかし、前方の横断歩道を歩いて渡っている女性の姿が目に入ってきた瞬間、彼は我が目を疑った。 (嘘だー!なんでこんな所に春日部さんがいるよ? 幻でも見てるのか)幻ではない。春日部咲がいかにもつまらなそうに、秋葉原の街を1人で歩いているのだ。 咲は重い足取りで横断歩道を渡りきり、トボトボと末広町方面へと歩いていく。5、6メートル離れたところに立っている班目には全く気付かない。彼はアキバ男たちの間に、ものの見事に馴染んでいるからだ。 (コーサカが来てるのか? でも何か変だぞ) 思わず4、5メートル後ろを歩く班目。付かず離れず。 前を歩く咲がふと立ち止まり、量販店の店先で山の様に飾られた携帯電話に目を向けた。 瞬間、班目も思わず立ち止まり、反射的にゲームセンターの柱に身を隠す。(何やってんだ俺、まるで尾行じゃないか)身を隠しながら自己嫌悪に陥る。 脳内のスクリーンには、恋愛ゲームのイベントシーンのように、萌え絵に変換された咲を追いかける自分を思い描いている。 (あーもぅー! 相手は知り合いだぞ! とにかく声を掛けてみよう。何かトラブルかも知れん) そう思って意を決したとき、脳内スクリーンにお馴染みの恋愛シミュレーションの会話シーンが映し出され、コマンド画面が現れた……。 (よし!)咲の背後から肩を叩いた。 「あの、かすかb……」 その瞬間、斑目は目の前が真っ暗になった。大きな衝撃と激痛が腹を貫いた。咲が振り返り様、反射的にボディに拳をブチ込んでいたのだ。 「もしかして…オラオラですかあぁ……!」 斑目は古いネタを叫びながら、ドッギャァァァンッ!と仰向けに倒れた。 「痴話喧嘩か?」「何やってんだ?」周りの歩行者が少し足を止めて2人を見ては、また動き出す。 咲は思わず殴ってしまった相手の顔を見て驚いた。 「あれ? あぁッ斑目!? ゴメン! 変な人がつけて来てると思ってつい……! どうしてこんな所に……」 薄れていく意識の中で斑目は、上から自分を覗き込んでいる咲の心配そうな表情と、薄手のシャツから覗いた豊かな胸元に、ちょっと幸せな気分を味わった。 【1991年9月21日13:20/大通り】 ドラゴンクエーサーを売っている店を探す斑目少年は、大型電気店の前で、明るい栗色の髪の女の子を見かけた。 赤いランドセルを背負い、ひまわりの柄をしたワンピースを着ている。瞳が大きくて美人で、斑目は思わず見とれてしまった。 リコーダーを手に、不安げに周りをキョロキョロ見回している。自分より下級生みたいだ。フラフラと行くあてがなさそうで、誰かを探しているようにも見える。 (迷子かな?)思わず4、5メートル後ろを歩く班目。付かず離れず。 後をつけるだけでなかなか声を掛けられない。女の子がふと立ち止まり、電気屋の店先を覗き込んだ。 瞬間、斑目も思わず立ち止まり、反射的に別の電気店の柱に身を隠していた。(何やってんだ俺、これじゃ尾行じゃないか)身を隠しながら自己嫌悪に陥る。 脳内のスクリーンでは、ドラクエ(ドラゴンクエーサー)の町中のシーンのように、平面ドット絵の秋葉原の街で、ドット絵の女の子にピッタリくっついて歩く自分の姿を思い描いている。 (あーもぅー! 女子は苦手だよ! とにかく声を掛けてみよう。本当に迷子かも知れない) そう思って意を決すると、脳内スクリーンがピロロロロロ!と変わって、ドラクエのお馴染みの戦闘BGMと、コマンド画面が表れた……。 (よし!)女の子の背後から肩を叩いた。 「あの、ちょっときm……」 途端、斑目は目の前が真っ暗になった。大きな衝撃と激痛が腹を貫いた。少女が振り返り様、反射的にボディにリコーダーの先端をブチ込んでいたのだ。 「ア……アテナぁ~!」 斑目は古いネタを叫びながら、ズシャアァァァッ!と頭から倒れた。 「イジメか?」「病んでるのね最近の小学生は 」周りの歩行者が少し足を止めて2人を見ては、また動き出す。 女の子は、思わず人を攻撃してしまったことに驚いた。 「あれ? あぁッゴメンナサイ! 変な人がついてくると思ったから……」 薄れていく意識の中で斑目少年は、自分の側にしゃがみ込み、潤んだ瞳で心配そうに覗き込んでいる女の子の表情と、スカートの奥に覗いたぱん○に、ちょっと幸せな気分を味わった。 【2005年9月24日13:35/大通り】 ようやく痛みが治まってきた。 斑目は歩道脇のガードに腰を下ろして休んでいる。咲が隣に寄り添い、「ほんとに悪いね!」と、片手を上げてゴメンのポーズ。もうこれで3度目だ。 咲は、自販機でジュースを買って来てくれていた。2人とも同じ銘柄の紅茶。フタまで空けてくれた咲の気遣いに、斑目は(ケガの功名か……なんかこういうのも悪くないな)と、思わず顔がほころぶ。 「でも何で春日部さんがアキバにいるんだよ?」腹をさすりながら斑目が問う。 彼女が言うには、斑目も会ったことのある昔の女友達が、話題のドラマ「電波男」に感化され、アキバに行きたいと話を持ち掛けたらしい。 「あぁー、新宿に居た人ね」 斑目は相づちを打ったが、あの夜のことを思うと、ほんの少し胸がチクチクする。憂い顔を悟られぬよう、すぐに、「最近多いからねー、勘違いした人」と愛想良く話を合わせた。 「でしょー、あんたらの実態も知らないニワカが多いのよ」 「さすがオタに詳しい春日部さん」 咲はその台詞に反応、「それよ! 友達も“彼氏オタクデショ、詳しいデショ”ってね。それでも店の準備で忙しい中、1日空けてあげたのよ」と呆れ顔。 もう斑目を置いてけぼりで話を進める。 「そしたらどうなったと思う? 駅で待ち合わせしてたら、“彼氏に呼ばれた。また今度ね”ってメールが来やがって! 腹立たしい!」 言い終わるやいなや、咲は凶暴な顔つきで手にしていた紅茶の空カンを地面に叩き付けた。目の前の歩道をいそいそと歩いていたオタクどもが一瞬足を止める。 「高田馬場におばあちゃん家あるんだけど、このまま行くのもシャクだし……」 歩き去っていくギャラリーの視線を無視しながら、咲は空きカンを拾い上げる。腰を下ろしながら髪をフワッとかきあげる所作の美しさに、斑目は見とれていた。 (周りから見たら、俺たちどんな関係に見えるのかな……つり合わないかな?) (あ……何か昔、こんなことがあったような……) 「…………を買って帰ろうと思ったけどオタクばかりで、息を止めて歩くのが精いっぱい……って、ねえ斑目聞いてる?」 【1991年9月21日13:35/大通り】 ようやく痛みが治まってきた。 斑目少年は歩道の脇に腰を下ろしている。女の子が隣にチョコンと座って寄り添い、「本当にゴメンなさい~」と、両手を合わせた。もうこれで3度目だ。 斑目は、「ダイジョーブ、ダイジョーブ!」と引きつった笑顔を見せる。 シャンプーの香りが漂ってくる。斑目は顔がボーッと火照ってくるのを感じ、(カワイイなあ、うちのガッコこんな子いないよ……)と、思わず顔がほころぶ。 「でも何で1人で歩いてたの? 迷子?」腹をさすりながら斑目が問う。 彼女が言うには、友達が本を買いたいと言うので、学校帰りについてきたという。古本だから普通の本屋にはないそうで、電車を乗り継いで近くの駅まで来たのだ。 どうやら本を買った後、歩いているうちにはぐれたらしい。 「近くに古い電車の博物館もあるからって、ドンドン先に行っちゃうんだもん」 このあたりの地理に疎い斑目は、「ここら辺の街は、中古のモノを売ってる店が多いんだね」と答える。自分もゲームの中古ソフトを探しにきていただけに、変な納得の仕方をした。 斑目は、話に出てきた「一緒だった友達」が男の子だと知って、ほんの少し胸がチクチクした。 だがすぐに、「大丈夫か? 一緒に友達を探してあげようか?」と話掛けた。 「んにゃ! いらない!」と、女の子はきっぱりと断り、「アイツも私も、駅が分かればちゃんと帰れるもん」と、すくっと立ち上がった。 斑目を倒した後で背中のランドセルに刺しておいたリコーダーをむんずと掴み、ズバッと引き抜いた。 (おぉっ! Tガンガルのビームサーベル!!)思わず激しく反応する斑目。気付くと女の子は険しい目つきになっていた。 ポンポンと、リコーダーを警棒のように手の上で踊らせながら、「勝手に歩き回りやがって、アイツ絶対シメてやるもん!」と幼い声でドギツイ一言を吐き捨てた。 (あ、あれ? ドユコト?)嫌な予感がよぎる斑目。女の子が斑目を見下ろして言う。 「ねーねー、ちょっと」 「ハイ?」 「ツマンないからどっか遊びに連れてってよぉ」 「さっきまでの弱々しいキミハイズコ?」 「あれはゴメンナサイをしてたからぁ。上級生なんでしょ、どっか連れてってー“オニイチャン”!」 ささやかな幸せの直後に、危機感を感じる斑目少年であった。 【2005年9月24日13:40/大通り】 「……ちょっと、斑目、聞いてるの!?」 咲の声にハッと我に返った斑目は、「あー、聞いてるよー」と慌てて返事をした。 遠い記憶は思い出されないままにかき消された。 咲の話を聞いていなかった斑目は、上手くごまかそうとして、「高坂の会社のゲーム、今日出るんだけど、知ってた?」と尋ねた。 「え、ホント!スゴイネ…!」咲は何も知らなかったらしい。 パッと明るい笑顔を見せたが、すぐにジト目で斑目をにらみ、「……って、何でアタシがエロゲーの発売を喜ばにゃいかんのよ!」と毒づいた。 さらに咲は汗をかきつつ、「……まさかここら辺歩いてるオタどもはエロゲーを買いに……」と、歩道を行き来する男達に視線を移す。 「……斑目も?」と尋ね、一歩二歩と後ずさって距離を置く。「え、俺、俺はエーと……」すぐに赤くなる顔はごまかしがきかない。 「悲惨だわー、こんなオタどもの性欲のためにコーサカが命削って働いているなんて!」 さすがの斑目も、「ヒドイ言いぐさだー」と苦笑いするしかなかった。 もう咲はヤケになってきた。周りに聞こえるように大声で、「ホントにこいつら、アニメ絵にしか発情しないのかねー」と一言。オタクどもの足が再び、一瞬止まったように感じられた。 嫌な予感がよぎる斑目。咲はガードレールに腰掛けている斑目を見下ろして言う。 「斑目、ツマンネーからどっか食べに連れてってよ。ここら辺においしい店ねーの?」 「うわー、なんか春日部さん1年生のころのテンションに戻ってね?」 ささやかな幸せの直後、危機感を感じる斑目であった。 (あれ?……やっぱり昔、こんなことがあったような……) ……それは昔見たことを   再び見ているだけ   そう、昔見たこと   ただ、ちょっとした歴史の繰り返し…… (つづく)

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