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*第九話・戦禍の村の伝説 【投稿日 2006/03/01】 **[[第801小隊シリーズ]] 誰にだって触れられたくない物がある。 クチキ一等兵にとっての趣味は美しいものを撮影することだ。 戦場の殺伐とした中でも、自然は美しい。 沈みかける太陽、満天の星空、さざ波が寄せてくる砂浜。 さまざまな美しいものを集め、コレクトする。 その趣味は、時に許されない行動を伴うこともある。 しかし、それでも彼はそれを入手することを躊躇うことは無い。 なぜなら、それが美しい以上、残すことが使命だと感じている。 ・・・あの人にあってから。 「にょ~~・・・。」 勢いで飛び出してきたものの、すでに心細くなっているクチキ。 今彼は密林の中を一人歩いていた。 とりあえずおなかが減っていたので、何かしら食べるものを求めていた。 「勢い込みすぎたにょ~。すぐに謝るでありますか・・・。」 自分が悪いことをしたと思い込みつつあるクチキは、 隊の皆に怒られることが怖いのであった。勝手にMSを動かし、隊を抜ける。 早い話が逃亡兵である。逃げた兵士がたどる末路は一つ。死刑。 「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・。」 銃で撃たれる自分を想像し、体を震わせるクチキ。 ジムキャノンは密林の奥に、木や草で隠してきた。発見されることはまず無いだろう。 「しかしながらどこまで行けば食事が表れますか・・・。」 何か食べられるものを探しているものの、動物の一匹も出てこない。 夜になって暗い密林の中を懐中電灯一つで進んでいく。 足元ではパキパキ枝の折れる音。 クチキは気付いていないほどの小さい音だが、これでは敏感な動物達は出てこないだろう。 「にょ?」 目の前に少し明かりが見える。 「み、密林の終わりにょ~~!!」 密林がなくなるということは、すなわち人工の道、もしくは村になっていることが多い。 星明りも見えない密林は真っ暗だが、そのさきは星の光の当たる開けた場所。 「にょ!にょ!」 喜びのあまりスキップしながらその光へと向かうクチキ。 どんどんと光は近づいてきて、ついにその中へとクチキは身を躍らせた。 「・・・にょ?」 気付くと、地面がなくなっていた。 「・・・にょ。」 下を確認するクチキ。そう、崖だったのである。 「にょ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」 そのまま下へと落下していくクチキ。 地面に激突、「グキィ!」という音を聞き、痛みが走ったと思うと、意識が飛んだ。 暗い空間に朽木は一人立っていた。 目の前には一人の女性。軍服を着ているので、軍属なのもわかる。 「しょ、少将殿!少将殿ではありませんか!」 その女性はその声ににっこり笑うと体が透けていく。 「少将殿!待ってください!あなたには言いたいことが!」 しかし、その姿は完全に消えてしまった。 「少将殿ーーーー!!」 そこでぱちっ、と目がさめる。 「夢・・・。」 クチキはそういいながら体を起こす。周りは木で作られた家のようだ。 「にょ・・・?」 「あ、気付いたんですね!」 元気な女の子の声が掛かる。その方向を見ると確かに一人の少女。年の頃は14、5といった頃か。 かわいいみつあみが、話すたびに少しゆれている。 「あ、あの・・・。」 「あなた、崖の下で気絶してたんですよ!私が見つけて村の人に運んでもらったんです。」 元気は褐色の肌をした少女。元気なのは肌だけではないようだ。 「あ~、そうなんでございますか~。それはお世話様でした~。」 そういいながらぺこりと頭を下げるクチキ。 「でも、腕がぽっきり折れちゃったみたい・・・。」 「にょ!?」 確かに、腕には包帯。固定されており、指先しか動かせない。 「あの上から落ちてきたんですか?そうだとしたらものすごく軽症ですけど・・・。」 「にょ~。体の丈夫さだけには自信がありますです!」 そういってビッと敬礼するクチキ。 「あはは!面白い人ですね!」 満面の笑顔でクチキの言葉に笑い出す少女。 「そうだ、お腹すいてません?丁度ご飯にしようと思ってたんですよ~。」 その言葉に、とてもいいにおいがしていることに気付くクチキ。 ぐ~、とお腹がなる。その音に少女はさらに笑う。 「あははははは!じゃ、あっち行きましょう!」 「私ミヤっていうんです。」 「ボクチンはクチキ一等兵であります!」 食事をしながら自己紹介などを始める二人。 「ミヤは、一人なのかにょ?」 「うん・・・。お父さんは連盟の軍人さんだったの。でも、戦場で死んじゃった。  勇敢で優しい人だったから、しょうがないよね。」 そういって三人並んだ写真に目をやるミヤ。そこには、笑顔で並ぶ家族。 今より少し幼いミヤと、優しそうな父親と母親。 「お母さんも一人で私を育ててくれてたんだけど・・・。」 そこで俯き、悲しそうな顔をするミヤ。クチキもその変化に少し動揺する。 「皇国のゲリラの作った罠に巻き込まれて・・・二ヶ月くらい前に死んじゃったんだ。」 「それはそれは・・・。」 こういうときどういう反応をしていいかいつも解らない。悲しみは伝わる。 しかし、それに対しどういう言葉、どういう行動をとればいいのかが見えてこないのである。 自分の引き出しの少なさに口をつむぐしかないクチキ。 「でもね、お母さんが言ってたんだ。もし一人になっても笑顔で生きなさいって!」 表情を笑顔に変えたミヤに、少し、無理をしている感じをクチキは得た。 「・・・なるほどにょ~。」 「クチキさんどうしてここに来たの?お父さんと同じ軍人さんでしょ?」 「・・・・・・それは・・・。」 逃げてきたとはいくらなんでも恥ずかしくて言えない。 それに、ミヤは軍人である父親を尊敬しているのだ。 「て、偵察にょ~。」 とっさについた嘘に、ミヤの顔がパァッ!と明るくなる。 「え、本当!?じゃ、この村のこと聞いてきてくれたんですか?」 「え、え、話が見えてこないのですがにょ・・・。」 「それじゃ、私達が入れた連絡で来てくれた訳じゃないんですか・・・。」 少し、意外そうな顔に変わるミヤに、この村に何かが起こっていることを察知するクチキ。 「・・・事情を聞かせてほしいにょ~。」 ジャングルの真っ只中にある昼過ぎの村に、三機のザクが現れた。 『おら、いつもどおり、食料用意できたんなろうな!』 乱暴ともいえる声がザクのスピーカーで村中に響き渡る。 マシンガンやマゼラトップを構えるザクに、村中の人たちは恐怖に慄く。 『よし、そこにまとめておいとけ。』 コンテナに集められた食料を担ぎ、外へ向かう。 『こいつは料金だ、取っておきな!』 そういうと、踵を返し、一軒の家に向かってマシンガンを放つ一機のザク。 マシンガンの銃声と共に、その家は崩れ落ちた。 悲鳴が飛び交う。中には人がいたのだろう。 『ひゃははははははは!じゃあ、明日は女もらいに来るからよ!』 そして、ジャングルの中へとザクたちは消えていった。 その様子を影から見ていたクチキとミヤは、その崩れた家に走っていく。 「だ、大丈夫ですかにょ~!」 「あ、ああ・・・。だけど、中には子供が・・・。」 一人の男性が悲しそうな顔をしながら瓦礫を前に呆然としている。 「早く助けなきゃ!」 「し、しかし・・・。どうすれば・・・。」 「こうするにょ!」 一本の鉄棒を持ってきたクチキは、瓦礫の隙間に入れ、てこの原理で動かしていく。 怪我をした片手ながらも、必死に、救出を行おうとする。 「・・・な、なるほど!」 「村の人たち集めてくるにょ!すぐに!」 「は、はい!」 ミヤに向かってそう叫ぶクチキ。ミヤはすぐに走っていく。 「絶対に助けるにょ~!」 そういいながら加勢したその家の主と共に瓦礫を動かしていく。 人がだんだん集まってくる。少しづつなくなる瓦礫。声が聞こえてくる。 「・・・助けて・・・。」 「生きてるにょ!」 そう叫ぶクチキの声に、村人達の動きはさらに元気になった。 「助かりました・・・。」 夜の村。家がなくなったその主と、息子は、人の少ないミヤの家に来ていた。 「ありがとう・・・。」 「当然のことをした前でにょ!」 少し、誇らしげに胸を張るクチキ。 「さすがね、クチキさん!軍人さんはやっぱり頼りになる!」 食事を持ってきたミヤは、とても嬉しそうに話す。 「・・・しかし、あいつら何者なんですかにょ~?」 「・・・・・・はぐれ皇国軍ですよ。  宇宙へ皇国が帰還したとき、ゲリラ活動をしてて見捨てられた者達です。  ある意味、かわいそうな連中なのかもしれませんが・・・。」 そう語る男性に、ミヤは憤りながら叫んだ。 「だからと言ってああいうことしていい訳じゃないでしょう!」 「それはもちろんそうだ・・・。」 少しそれにびっくりしながら男性は答える。 「数日前から現れて、MSで脅かしながらさまざまな要求をしてくるのです。  初めは食料でしたが、女性も要求し始めてきました。  別に食事を分けるぐらいはなんでもないのですが・・・ああも高圧的だと・・・。」 なるほど・・・と合点がいったクチキ。食うに困り、山賊化したのだろう。 「・・・・・・連盟の方には連絡はしたんですにょ?」 「ええ、それはもちろん。ですが、到着は数日後と・・・。」 「だからですか、ミヤがそう勘違いしたのは・・・。」 「そう。でも、連絡無しできたクチキさんは勇者さまみたいね!」 食事を口に運んでいたクチキの手がそこで止まる。 「にょ?」 言ってる意味の解らないクチキに対し、男性が補足する。 「ははは・・・、村に伝わる伝説ですよ。  村、悲劇に見舞われしとき、手負いの英雄現れ、民を救い、悪意を断つ。  もう、何千年前からも伝わる伝承です。」 歴史の長そうな村ではあった。外には不思議なモニュメントなどもあった。 美しい概観、風景をしたこの村に、クチキは感動をしていた。 「そう、その勇者様!崖で見たとき、私ピンと来たんだから!」 そういいながら興奮してフォークを持ち上げるミヤ。 「クチキさんならあいつらやっつけてくれるよ!」 「おいおい・・・、伝説は伝説だろう。それに、腕の折れてるクチキさんがどうやって・・・。」 痛々しそうなクチキの手を見ながら男性は呟く。 「・・・・・・それはそうだけど・・・。」 ぷぅ、と頬を膨らませるミヤに、苦笑いの男性。 「・・・私のほうからも自分の部隊に呼びかけてみますにょ。  いま少し離れていますが、今来ている部隊よりも近いかもしれませんにょ。」 「そうしてくれるとありがたいです!早い方が、被害も少なく・・・。」 「解りましたにょ・・・。」 そうはいったものの、実は連絡手段など持っていなかった。 偵察といった以上は、言わなければならない言葉ではあったのだ。 「連絡を入れた部隊が来るのが明日の午後。しかし、やつらは昼には来てしまいます。  その前にやつらを何とか止められれば・・・。」 安心したような顔をする男性やミヤを前に、あせるクチキ。 しかし、先ほど言ったように、クチキには連絡手段がない。 「・・・わ、解りましたにょ・・・。」 そう繰り返すしかクチキには出来なかった。そして、一つ心の中で決心をした。 深夜。クチキはミヤの家から出て行く。ジムキャノンのところへ向かうのである。 ああいってしまった手前、やるしかないだろう。 一機のジムキャノン、そして自分の腕前でどこまで戦えるか不安はあった。 しかし。自分にやれることはやらなければならない。ジャングルへと戻るクチキ。 最初に所属した部隊で、直属の上司だった少将殿の顔が浮かぶ。 夢で見たせいだろうか、苦い過去を思い出し、重いものが心を埋める。 新人である自分を助けるために戦火に飛び込み、行方知れずになった少将殿。 彼女のいつも言っていた言葉。今でも共感するすばらしい言葉。 『私は軍のためじゃなくて、美しいものを守るために戦っているんですわ・・・。』 おっとりしていながら、その中に強いものを持っていた少将殿。 今でも、クチキの心の師でもあり、尊敬すべき人なのである。 今は美しいこの村、村に生きる人々を救うことが、彼にとってのリスペクトなのだ。 村の昼にて。朝、クチキがいなくなったことで、あわてていたミヤ。 今は少し落ち着きを取り戻し、クチキが来るのを待っていた。 自分の部隊を連れて来ていると信じて。しかし、クチキが現れる前に、やつらはやってきた。 『お~い、来てやったぞ、ははははは!』 相変わらず品性の欠片も感じられないような言葉を出すザク。 三機ともいまだに健在のようだ。 「クチキさん・・・まだ・・・?」 ミヤが集められた村人の中で、祈るように胸の前に手を組んでいた。 『よ~し、それじゃあな~、そこの女、みつあみの、お前、来い!』 そういって、指をさしてきた。その先にいたのは、ミヤ。 「・・・!!」 驚きのあまり、ミヤは声も出ない。 「いや・・・っ!」 その大きな叫びは、ザクに登場している男にも聞こえたようだ。 『おいおい・・・いいのか~?村がどうなってもしらねーぞー?』 ひゃはは、と言う笑い声が続けて聞こえてきた。 ザクたちの構える銃が村のモニュメントや、家のほうに向く。 「・・・うう!」 少しづつ、ザクへと近寄るミヤに、村人達は手出しを出来ない。 『あははははは!いい子だ!』 ザクとミヤの距離が後少しといったところまで来た。 (クチキさん・・・!) ここに来ても、ミヤはクチキを信じていた。 そこに、大きな砲弾の音が聞こえた。 ド・・ド・・ン!! 一体のザクに二つの砲弾が命中した。そのまま勢いで近くにあった家に倒れこむ。 「も、もしかして!」 ミヤがその砲弾のほうに向くと、そこには一機のジムキャノンがいた。 『な、な、連盟軍か!く、来るの早すぎじゃねえかあ!』 一応、連盟軍への報告は覚悟していたのだろう。 しかし、予想より早い到着に、動揺を隠せないリーダー。 『村の皆さん、一固まりになって安全なところに早く逃げてくださいにょ~!』 クチキの声がスピーカーから響く。その声に反応した村人達は、一斉に逃げ出した。 「ほら、早くミヤも!」 「で、でも・・・。」 昨日の男性がミヤの手を引く。しかし、ミヤは一機しかいないクチキに不安感を得た。 しかも、彼は手を骨折しているのである。 『て、てめえ・・・!』 ザクは、そのマシンガンを構え、ジムキャノンへと向ける。 ドダダダダダダダダダ!! よけたジムキャノンの後ろにあった家に命中する銃撃。 「にょ~~~~!!」 ジムのコクピットで叫ぶクチキ。痛みはあるが、腕は動かなくもない。 再び240mm砲を構え、一体のザクを狙う。 ドン・ドン! しかし、一発は命中し、腕を落とすが、ザクは反撃に移ってくる。 マゼラトップ砲から発射される砲弾。 「キョオ~~~!」 奇声と共によけようとするが、痛みの反射から、行動が遅れる。 直撃する砲弾。衝撃で後ろに倒れ、クチキは体を打ちつける。 「うぐおお~~~っ!」 痛みに気を失いそうになるが、立ち上がり、片手のザクに向かってビームライフルを放つ。 すぐに反撃を受けると思ってなかったそのザクは、その一撃を足に受け、倒れる。 そして、そこにクチキは続けざまに砲弾を撃ち込み、そのザクは沈黙した。 「こ、これで二機・・・。」 予想よりもうまくいった作戦に、口が思わずにやけるクチキ。 隠れてまず一機。あと二体は気合で。作戦のような、なんでも無いようなものだが。 しかし、気付くと残りの一機がいない。ディスプレイを見渡すクチキ。 「ど、どこにいったかにょ~~~??」 すると、敵影が目の前に現れた。 「にょにょにょ~~~!!」 ドン、という衝撃音とともに、後ろにはじかれるジムキャノン。 蹴りを入れたザクは、悠々と倒れたジムキャノンへと近づく。 『やってくれたじゃねえかあ・・・・。』 怒り心頭、といった様子の声である。 接近戦では武器が使えないジムキャノンにとって、この距離は危険だ。 しかし、簡単に相手が距離を取らしてくれはしない。 『ちょ、ちょっと待ちなさい。後で、連盟の本体が到着するでありますよ!  そうしたら、どっちにしろあんたら負けですから!残念!』 『うるせえ!仲間やりやがって!!』 『あんなことするあんたらが悪いんでしょうが!』 『なにいってやがる、それは関係ねーだろう!』 『おや、逆ギレですか、あーそうですか。  ・・・・・・・逆ギレ勝負なら負けたことねーよ!!』 叫びがスピーカーから響くと、ジムキャノンは、その体勢から思いっきり跳ね上がり、 体ごとザクへとぶつかって行った。そのまま、ザクは後ろへ飛ばされ、倒れる。 『ちょ、てめ・・・え!?』 ザクが声を出そうとした瞬間に、クチキはすでに近づいていた。 そのまま、ザクを抱えると、思いっきり高く持ち上げた。 「にょ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」 叫ぶと、ザクを放り投げるクチキ。 綺麗な弧を描きながらザクは近くにあった家へと落下する。 ドシン・・・・! 家を破壊しながら落下したザクは、もはや動かなくなっていた。 「はぁ、はぁ・・・。」 荒く息をするクチキ。そこに、村人の歓声が上がっていた。 MSを停止して、降りるクチキ。 そこに駆け寄るミヤ。 「すまないにょ・・・。村ボロボロにしちゃったにょ・・・。」 しょんぼりするクチキに、ミヤは顔を振り、答える。 「ううん。物はまた直せばいいから。私、クチキさんに助けられました。  やっぱり、あなたは勇者様だったんですね。」 笑顔で言われて照れるクチキ。村人も、みなクチキへと賞賛を浴びせる。 「にょ~、にょ~、恥ずかしいにょ~。」 そこに、一機の輸送船が現れた。連盟のものである。 「お、来たようだ。予定よりも早かったようですな。」 昨日の男性がクチキに向かって言う。 降りてきた輸送船から、兵が四人降りてきて、ザクの方へと向かう。 そして、最後に出てきたのは。 「少将殿!」 クチキは叫ぶと、降りてきた女性、少将の方へと向かう。 敬礼をするクチキ。微笑む少将。 「クチキ二等兵・・・今は一等兵でいらしたんですっけ?」 「そ、そうであります!少将殿こそ・・・。」 「あらあら。死んだと思っていたのですか?あの後、記憶を少々失いましてね。  最近ようやく原隊に復帰出来たのですよ。クチキ二等兵も元気そうで・・・。  あ、一等兵でしたね、すみませんねぇ。」 「い、いえ、恐縮であります!」 尊敬する人物の元気な姿に、涙を流すクチキ。よもや、こんな再会を果たすとは・・・。 「あらあら。・・・しかし、一等兵、頑張りましたね。一人でこの三機を倒したのでしょう?」 村人へと事情を聞いて回ったほかの兵が、少将へと報告に来た。 「あらあら・・・。素晴らしいじゃない。被害を最小限に留められましたね・・・。  しかし、あなたの隊はいま、皇国軍の兵器を追ってるんじゃなくって?  あなたの隊の大隊長から聞いてますよ?」 「そ、それは・・・。」 「うふふ。安心なさい。隊の方々はあなたを探しおられるようですよ。  連絡機、お渡ししますから、隊へ復帰なさい。」 微笑む少将に対し、もはやクチキは言葉もない。 「あ、ありがとうございます・・・。」 今までした中でいちばんの敬礼を少将へと向けた。 「いっちゃうんですね・・・。」 次の日。輸送船に搭載されていた作業用MSが村を直している最中。 ジムキャノンに乗り込もうとするクチキに、ミヤは寂しそうな顔を向けた。 「・・・今のままじゃ、また同じことが起こるかもにょ。  戦争を終わらして、早くこんなこと無くして来るにょ。  ミヤのお父さんも、きっと同じ事を考えて戦場へと向かったにょ・・・。」 「・・・そうですよね。でも、クチキさん、ひとつ、約束してください。」 「にょ?」 小指を立てて、クチキへと向けるミヤ。 「死なないで下さい。あと、戦争終わったらまた村に遊びに来てください。」 「・・・わかったにょ。」 死ぬな。マダラメ隊長がいつも言っている言葉。 これほど重く、大切に感じたのは今回がはじめてであった。 同じように小指を立てミヤと指切りをする。 クチキはそのままMSの乗り込み、コクピットから手を振る。 同様に手を振り返すミヤ。ジムキャノンは皇国から接収されたドダイにのって、 空へと上っていく。ミヤはその姿を見上げながら、涙を流した。 「あらあら・・・。」 その姿を見ていた少将が、ミヤへと近づいてくる。 「大丈夫よ、ミヤさん。一等兵は強くなったわ、私と一緒の頃より。  いい隊に所属しているんでしょうねぇ。きっと、無事にまた会えるわ。  さっき、ザクのデータから基地一覧が見つかってねぇ。彼の隊の使命も果たせそうよ。」 「はい・・・。」 クチキが去った後も、その空を、ミヤはいつまでも見つめていた・・・。 「ごめんなさい・・・。」 オギウエに謝られ、きょどるクチキ。 隊に戻ってきたクチキに浴びせられたのは、謝罪。 「ごめんな、クッチー。オギウエが持ってたよ、ペンダント。」 「ごめんなさいね・・・。」 「ごめん!」 口々に女性軍から謝られ、動揺するクチキ。 「・・・いえ、ボクチンも大人気なかったといいますか・・・。」 「・・・とまあ、謝ったんで、この件はOK?」 そういった咲の顔が引きつりだした。 「・・・まあ、OKですが、・・・なんですにょ?」 「・・・あなたのデジカメ、見せていただきました・・・。」 ビクッ!顔から異常なほどの冷や汗が流れてくるのが解る。 「・・・・・・隠し撮りとはねえ・・・・・。」 「え、え、どういうこと?」 一緒にその場に立ちあっていたササハラが、不思議がる。 「・・・・・・こいつね、あの水浴びのとき隠し撮りしてたんだよ・・・。」 「ええ・・・?!」 すぐさま逃げようと走り出すクチキ。 「ああ!!まて!てめえ!」 ケーコ、サキ、オーノがそれを追いかけていく。 走るクチキの手から金庫がこぼれる。落下して中の写真がこぼれる。 飛び散る水浴び写真。それが丁度歩いてきたマダラメの目に止まる。 「なんだこりゃ・・・。」 拾い上げたマダラメはびっくりする。そこにあったのはサキの水浴び。 「うぉおおおお!!?」 「コラ!マダラメ見るな!」 叫ぶサキに、動揺を隠せないマダラメ。 クチキは走る。美しいものを守るため。女体は世界の神秘だと心で叫びながら。 時には、盗撮もする。それも、美しいものを守るためならいたしかたない事なのだ。 次回予告 送られてきたデータからついに目的の基地へと到着した第801小隊。 初めてこちら側からの襲撃となり、少し戸惑いも感じる面々。 しかし、敵軍の新兵器の威力によって動けなくなる出撃隊。 そのピンチに、オギウエは自らMSに乗り込む。 次回、「オギウエ出撃」 お楽しみに。
*第九話・戦禍の村の伝説 【投稿日 2006/03/01】 **[[第801小隊シリーズ]] 誰にだって触れられたくない物がある。 クチキ一等兵にとっての趣味は美しいものを撮影することだ。 戦場の殺伐とした中でも、自然は美しい。 沈みかける太陽、満天の星空、さざ波が寄せてくる砂浜。 さまざまな美しいものを集め、コレクトする。 その趣味は、時に許されない行動を伴うこともある。 しかし、それでも彼はそれを入手することを躊躇うことは無い。 なぜなら、それが美しい以上、残すことが使命だと感じている。 ・・・あの人にあってから。 「にょ~~・・・。」 勢いで飛び出してきたものの、すでに心細くなっているクチキ。 今彼は密林の中を一人歩いていた。 とりあえずおなかが減っていたので、何かしら食べるものを求めていた。 「勢い込みすぎたにょ~。すぐに謝るでありますか・・・。」 自分が悪いことをしたと思い込みつつあるクチキは、 隊の皆に怒られることが怖いのであった。勝手にMSを動かし、隊を抜ける。 早い話が逃亡兵である。逃げた兵士がたどる末路は一つ。死刑。 「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・。」 銃で撃たれる自分を想像し、体を震わせるクチキ。 ジムキャノンは密林の奥に、木や草で隠してきた。発見されることはまず無いだろう。 「しかしながらどこまで行けば食事が表れますか・・・。」 何か食べられるものを探しているものの、動物の一匹も出てこない。 夜になって暗い密林の中を懐中電灯一つで進んでいく。 足元ではパキパキ枝の折れる音。 クチキは気付いていないほどの小さい音だが、これでは敏感な動物達は出てこないだろう。 「にょ?」 目の前に少し明かりが見える。 「み、密林の終わりにょ~~!!」 密林がなくなるということは、すなわち人工の道、もしくは村になっていることが多い。 星明りも見えない密林は真っ暗だが、そのさきは星の光の当たる開けた場所。 「にょ!にょ!」 喜びのあまりスキップしながらその光へと向かうクチキ。 どんどんと光は近づいてきて、ついにその中へとクチキは身を躍らせた。 「・・・にょ?」 気付くと、地面がなくなっていた。 「・・・にょ。」 下を確認するクチキ。そう、崖だったのである。 「にょ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」 そのまま下へと落下していくクチキ。 地面に激突、「グキィ!」という音を聞き、痛みが走ったと思うと、意識が飛んだ。 暗い空間に朽木は一人立っていた。 目の前には一人の女性。軍服を着ているので、軍属なのもわかる。 「しょ、少将殿!少将殿ではありませんか!」 その女性はその声ににっこり笑うと体が透けていく。 「少将殿!待ってください!あなたには言いたいことが!」 しかし、その姿は完全に消えてしまった。 「少将殿ーーーー!!」 そこでぱちっ、と目がさめる。 「夢・・・。」 クチキはそういいながら体を起こす。周りは木で作られた家のようだ。 「にょ・・・?」 「あ、気付いたんですね!」 元気な女の子の声が掛かる。その方向を見ると確かに一人の少女。年の頃は14、5といった頃か。 かわいいみつあみが、話すたびに少しゆれている。 「あ、あの・・・。」 「あなた、崖の下で気絶してたんですよ!私が見つけて村の人に運んでもらったんです。」 元気は褐色の肌をした少女。元気なのは肌だけではないようだ。 「あ~、そうなんでございますか~。それはお世話様でした~。」 そういいながらぺこりと頭を下げるクチキ。 「でも、腕がぽっきり折れちゃったみたい・・・。」 「にょ!?」 確かに、腕には包帯。固定されており、指先しか動かせない。 「あの上から落ちてきたんですか?そうだとしたらものすごく軽症ですけど・・・。」 「にょ~。体の丈夫さだけには自信がありますです!」 そういってビッと敬礼するクチキ。 「あはは!面白い人ですね!」 満面の笑顔でクチキの言葉に笑い出す少女。 「そうだ、お腹すいてません?丁度ご飯にしようと思ってたんですよ~。」 その言葉に、とてもいいにおいがしていることに気付くクチキ。 ぐ~、とお腹がなる。その音に少女はさらに笑う。 「あははははは!じゃ、あっち行きましょう!」 「私ミヤっていうんです。」 「ボクチンはクチキ一等兵であります!」 食事をしながら自己紹介などを始める二人。 「ミヤは、一人なのかにょ?」 「うん・・・。お父さんは連盟の軍人さんだったの。でも、戦場で死んじゃった。  勇敢で優しい人だったから、しょうがないよね。」 そういって三人並んだ写真に目をやるミヤ。そこには、笑顔で並ぶ家族。 今より少し幼いミヤと、優しそうな父親と母親。 「お母さんも一人で私を育ててくれてたんだけど・・・。」 そこで俯き、悲しそうな顔をするミヤ。クチキもその変化に少し動揺する。 「皇国のゲリラの作った罠に巻き込まれて・・・二ヶ月くらい前に死んじゃったんだ。」 「それはそれは・・・。」 こういうときどういう反応をしていいかいつも解らない。悲しみは伝わる。 しかし、それに対しどういう言葉、どういう行動をとればいいのかが見えてこないのである。 自分の引き出しの少なさに口をつむぐしかないクチキ。 「でもね、お母さんが言ってたんだ。もし一人になっても笑顔で生きなさいって!」 表情を笑顔に変えたミヤに、少し、無理をしている感じをクチキは得た。 「・・・なるほどにょ~。」 「クチキさんどうしてここに来たの?お父さんと同じ軍人さんでしょ?」 「・・・・・・それは・・・。」 逃げてきたとはいくらなんでも恥ずかしくて言えない。 それに、ミヤは軍人である父親を尊敬しているのだ。 「て、偵察にょ~。」 とっさについた嘘に、ミヤの顔がパァッ!と明るくなる。 「え、本当!?じゃ、この村のこと聞いてきてくれたんですか?」 「え、え、話が見えてこないのですがにょ・・・。」 「それじゃ、私達が入れた連絡で来てくれた訳じゃないんですか・・・。」 少し、意外そうな顔に変わるミヤに、この村に何かが起こっていることを察知するクチキ。 「・・・事情を聞かせてほしいにょ~。」 ジャングルの真っ只中にある昼過ぎの村に、三機のザクが現れた。 『おら、いつもどおり、食料用意できたんなろうな!』 乱暴ともいえる声がザクのスピーカーで村中に響き渡る。 マシンガンやマゼラトップを構えるザクに、村中の人たちは恐怖に慄く。 『よし、そこにまとめておいとけ。』 コンテナに集められた食料を担ぎ、外へ向かう。 『こいつは料金だ、取っておきな!』 そういうと、踵を返し、一軒の家に向かってマシンガンを放つ一機のザク。 マシンガンの銃声と共に、その家は崩れ落ちた。 悲鳴が飛び交う。中には人がいたのだろう。 『ひゃははははははは!じゃあ、明日は女もらいに来るからよ!』 そして、ジャングルの中へとザクたちは消えていった。 その様子を影から見ていたクチキとミヤは、その崩れた家に走っていく。 「だ、大丈夫ですかにょ~!」 「あ、ああ・・・。だけど、中には子供が・・・。」 一人の男性が悲しそうな顔をしながら瓦礫を前に呆然としている。 「早く助けなきゃ!」 「し、しかし・・・。どうすれば・・・。」 「こうするにょ!」 一本の鉄棒を持ってきたクチキは、瓦礫の隙間に入れ、てこの原理で動かしていく。 怪我をした片手ながらも、必死に、救出を行おうとする。 「・・・な、なるほど!」 「村の人たち集めてくるにょ!すぐに!」 「は、はい!」 ミヤに向かってそう叫ぶクチキ。ミヤはすぐに走っていく。 「絶対に助けるにょ~!」 そういいながら加勢したその家の主と共に瓦礫を動かしていく。 人がだんだん集まってくる。少しづつなくなる瓦礫。声が聞こえてくる。 「・・・助けて・・・。」 「生きてるにょ!」 そう叫ぶクチキの声に、村人達の動きはさらに元気になった。 「助かりました・・・。」 夜の村。家がなくなったその主と、息子は、人の少ないミヤの家に来ていた。 「ありがとう・・・。」 「当然のことをした前でにょ!」 少し、誇らしげに胸を張るクチキ。 「さすがね、クチキさん!軍人さんはやっぱり頼りになる!」 食事を持ってきたミヤは、とても嬉しそうに話す。 「・・・しかし、あいつら何者なんですかにょ~?」 「・・・・・・はぐれ皇国軍ですよ。  宇宙へ皇国が帰還したとき、ゲリラ活動をしてて見捨てられた者達です。  ある意味、かわいそうな連中なのかもしれませんが・・・。」 そう語る男性に、ミヤは憤りながら叫んだ。 「だからと言ってああいうことしていい訳じゃないでしょう!」 「それはもちろんそうだ・・・。」 少しそれにびっくりしながら男性は答える。 「数日前から現れて、MSで脅かしながらさまざまな要求をしてくるのです。  初めは食料でしたが、女性も要求し始めてきました。  別に食事を分けるぐらいはなんでもないのですが・・・ああも高圧的だと・・・。」 なるほど・・・と合点がいったクチキ。食うに困り、山賊化したのだろう。 「・・・・・・連盟の方には連絡はしたんですにょ?」 「ええ、それはもちろん。ですが、到着は数日後と・・・。」 「だからですか、ミヤがそう勘違いしたのは・・・。」 「そう。でも、連絡無しできたクチキさんは勇者さまみたいね!」 食事を口に運んでいたクチキの手がそこで止まる。 「にょ?」 言ってる意味の解らないクチキに対し、男性が補足する。 「ははは・・・、村に伝わる伝説ですよ。  村、悲劇に見舞われしとき、手負いの英雄現れ、民を救い、悪意を断つ。  もう、何千年前からも伝わる伝承です。」 歴史の長そうな村ではあった。外には不思議なモニュメントなどもあった。 美しい概観、風景をしたこの村に、クチキは感動をしていた。 「そう、その勇者様!崖で見たとき、私ピンと来たんだから!」 そういいながら興奮してフォークを持ち上げるミヤ。 「クチキさんならあいつらやっつけてくれるよ!」 「おいおい・・・、伝説は伝説だろう。それに、腕の折れてるクチキさんがどうやって・・・。」 痛々しそうなクチキの手を見ながら男性は呟く。 「・・・・・・それはそうだけど・・・。」 ぷぅ、と頬を膨らませるミヤに、苦笑いの男性。 「・・・私のほうからも自分の部隊に呼びかけてみますにょ。  いま少し離れていますが、今来ている部隊よりも近いかもしれませんにょ。」 「そうしてくれるとありがたいです!早い方が、被害も少なく・・・。」 「解りましたにょ・・・。」 そうはいったものの、実は連絡手段など持っていなかった。 偵察といった以上は、言わなければならない言葉ではあったのだ。 「連絡を入れた部隊が来るのが明日の午後。しかし、やつらは昼には来てしまいます。  その前にやつらを何とか止められれば・・・。」 安心したような顔をする男性やミヤを前に、あせるクチキ。 しかし、先ほど言ったように、クチキには連絡手段がない。 「・・・わ、解りましたにょ・・・。」 そう繰り返すしかクチキには出来なかった。そして、一つ心の中で決心をした。 深夜。クチキはミヤの家から出て行く。ジムキャノンのところへ向かうのである。 ああいってしまった手前、やるしかないだろう。 一機のジムキャノン、そして自分の腕前でどこまで戦えるか不安はあった。 しかし。自分にやれることはやらなければならない。ジャングルへと戻るクチキ。 最初に所属した部隊で、直属の上司だった少将殿の顔が浮かぶ。 夢で見たせいだろうか、苦い過去を思い出し、重いものが心を埋める。 新人である自分を助けるために戦火に飛び込み、行方知れずになった少将殿。 彼女のいつも言っていた言葉。今でも共感するすばらしい言葉。 『私は軍のためじゃなくて、美しいものを守るために戦っているんですわ・・・。』 おっとりしていながら、その中に強いものを持っていた少将殿。 今でも、クチキの心の師でもあり、尊敬すべき人なのである。 今は美しいこの村、村に生きる人々を救うことが、彼にとってのリスペクトなのだ。 村の昼にて。朝、クチキがいなくなったことで、あわてていたミヤ。 今は少し落ち着きを取り戻し、クチキが来るのを待っていた。 自分の部隊を連れて来ていると信じて。しかし、クチキが現れる前に、やつらはやってきた。 『お~い、来てやったぞ、ははははは!』 相変わらず品性の欠片も感じられないような言葉を出すザク。 三機ともいまだに健在のようだ。 「クチキさん・・・まだ・・・?」 ミヤが集められた村人の中で、祈るように胸の前に手を組んでいた。 『よ~し、それじゃあな~、そこの女、みつあみの、お前、来い!』 そういって、指をさしてきた。その先にいたのは、ミヤ。 「・・・!!」 驚きのあまり、ミヤは声も出ない。 「いや・・・っ!」 その大きな叫びは、ザクに登場している男にも聞こえたようだ。 『おいおい・・・いいのか~?村がどうなってもしらねーぞー?』 ひゃはは、と言う笑い声が続けて聞こえてきた。 ザクたちの構える銃が村のモニュメントや、家のほうに向く。 「・・・うう!」 少しづつ、ザクへと近寄るミヤに、村人達は手出しを出来ない。 『あははははは!いい子だ!』 ザクとミヤの距離が後少しといったところまで来た。 (クチキさん・・・!) ここに来ても、ミヤはクチキを信じていた。 そこに、大きな砲弾の音が聞こえた。 ド・・ド・・ン!! 一体のザクに二つの砲弾が命中した。そのまま勢いで近くにあった家に倒れこむ。 「も、もしかして!」 ミヤがその砲弾のほうに向くと、そこには一機のジムキャノンがいた。 『な、な、連盟軍か!く、来るの早すぎじゃねえかあ!』 一応、連盟軍への報告は覚悟していたのだろう。 しかし、予想より早い到着に、動揺を隠せないリーダー。 『村の皆さん、一固まりになって安全なところに早く逃げてくださいにょ~!』 クチキの声がスピーカーから響く。その声に反応した村人達は、一斉に逃げ出した。 「ほら、早くミヤも!」 「で、でも・・・。」 昨日の男性がミヤの手を引く。しかし、ミヤは一機しかいないクチキに不安感を得た。 しかも、彼は手を骨折しているのである。 『て、てめえ・・・!』 ザクは、そのマシンガンを構え、ジムキャノンへと向ける。 ドダダダダダダダダダ!! よけたジムキャノンの後ろにあった家に命中する銃撃。 「にょ~~~~!!」 ジムのコクピットで叫ぶクチキ。痛みはあるが、腕は動かなくもない。 再び240mm砲を構え、一体のザクを狙う。 ドン・ドン! しかし、一発は命中し、腕を落とすが、ザクは反撃に移ってくる。 マゼラトップ砲から発射される砲弾。 「キョオ~~~!」 奇声と共によけようとするが、痛みの反射から、行動が遅れる。 直撃する砲弾。衝撃で後ろに倒れ、クチキは体を打ちつける。 「うぐおお~~~っ!」 痛みに気を失いそうになるが、立ち上がり、片手のザクに向かってビームライフルを放つ。 すぐに反撃を受けると思ってなかったそのザクは、その一撃を足に受け、倒れる。 そして、そこにクチキは続けざまに砲弾を撃ち込み、そのザクは沈黙した。 「こ、これで二機・・・。」 予想よりもうまくいった作戦に、口が思わずにやけるクチキ。 隠れてまず一機。あと二体は気合で。作戦のような、なんでも無いようなものだが。 しかし、気付くと残りの一機がいない。ディスプレイを見渡すクチキ。 「ど、どこにいったかにょ~~~??」 すると、敵影が目の前に現れた。 「にょにょにょ~~~!!」 ドン、という衝撃音とともに、後ろにはじかれるジムキャノン。 蹴りを入れたザクは、悠々と倒れたジムキャノンへと近づく。 『やってくれたじゃねえかあ・・・・。』 怒り心頭、といった様子の声である。 接近戦では武器が使えないジムキャノンにとって、この距離は危険だ。 しかし、簡単に相手が距離を取らしてくれはしない。 『ちょ、ちょっと待ちなさい。後で、連盟の本隊が到着するでありますよ!  そうしたら、どっちにしろあんたら負けですから!残念!』 『うるせえ!仲間やりやがって!!』 『あんなことするあんたらが悪いんでしょうが!』 『なにいってやがる、それは関係ねーだろう!』 『おや、逆ギレですか、あーそうですか。  ・・・・・・・逆ギレ勝負なら負けたことねーよ!!』 叫びがスピーカーから響くと、ジムキャノンは、その体勢から思いっきり跳ね上がり、 体ごとザクへとぶつかって行った。そのまま、ザクは後ろへ飛ばされ、倒れる。 『ちょ、てめ・・・え!?』 ザクが声を出そうとした瞬間に、クチキはすでに近づいていた。 そのまま、ザクを抱えると、思いっきり高く持ち上げた。 「にょ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」 叫ぶと、ザクを放り投げるクチキ。 綺麗な弧を描きながらザクは近くにあった家へと落下する。 ドシン・・・・! 家を破壊しながら落下したザクは、もはや動かなくなっていた。 「はぁ、はぁ・・・。」 荒く息をするクチキ。そこに、村人の歓声が上がっていた。 MSを停止して、降りるクチキ。 そこに駆け寄るミヤ。 「すまないにょ・・・。村ボロボロにしちゃったにょ・・・。」 しょんぼりするクチキに、ミヤは顔を振り、答える。 「ううん。物はまた直せばいいから。私、クチキさんに助けられました。  やっぱり、あなたは勇者様だったんですね。」 笑顔で言われて照れるクチキ。村人も、みなクチキへと賞賛を浴びせる。 「にょ~、にょ~、恥ずかしいにょ~。」 そこに、一機の輸送船が現れた。連盟のものである。 「お、来たようだ。予定よりも早かったようですな。」 昨日の男性がクチキに向かって言う。 降りてきた輸送船から、兵が四人降りてきて、ザクの方へと向かう。 そして、最後に出てきたのは。 「少将殿!」 クチキは叫ぶと、降りてきた女性、少将の方へと向かう。 敬礼をするクチキ。微笑む少将。 「クチキ二等兵・・・今は一等兵でいらしたんですっけ?」 「そ、そうであります!少将殿こそ・・・。」 「あらあら。死んだと思っていたのですか?あの後、記憶を少々失いましてね。  最近ようやく原隊に復帰出来たのですよ。クチキ二等兵も元気そうで・・・。  あ、一等兵でしたね、すみませんねぇ。」 「い、いえ、恐縮であります!」 尊敬する人物の元気な姿に、涙を流すクチキ。よもや、こんな再会を果たすとは・・・。 「あらあら。・・・しかし、一等兵、頑張りましたね。一人でこの三機を倒したのでしょう?」 村人へと事情を聞いて回ったほかの兵が、少将へと報告に来た。 「あらあら・・・。素晴らしいじゃない。被害を最小限に留められましたね・・・。  しかし、あなたの隊はいま、皇国軍の兵器を追ってるんじゃなくって?  あなたの隊の大隊長から聞いてますよ?」 「そ、それは・・・。」 「うふふ。安心なさい。隊の方々はあなたを探しおられるようですよ。  連絡機、お渡ししますから、隊へ復帰なさい。」 微笑む少将に対し、もはやクチキは言葉もない。 「あ、ありがとうございます・・・。」 今までした中でいちばんの敬礼を少将へと向けた。 「いっちゃうんですね・・・。」 次の日。輸送船に搭載されていた作業用MSが村を直している最中。 ジムキャノンに乗り込もうとするクチキに、ミヤは寂しそうな顔を向けた。 「・・・今のままじゃ、また同じことが起こるかもにょ。  戦争を終わらして、早くこんなこと無くして来るにょ。  ミヤのお父さんも、きっと同じ事を考えて戦場へと向かったにょ・・・。」 「・・・そうですよね。でも、クチキさん、ひとつ、約束してください。」 「にょ?」 小指を立てて、クチキへと向けるミヤ。 「死なないで下さい。あと、戦争終わったらまた村に遊びに来てください。」 「・・・わかったにょ。」 死ぬな。マダラメ隊長がいつも言っている言葉。 これほど重く、大切に感じたのは今回がはじめてであった。 同じように小指を立てミヤと指切りをする。 クチキはそのままMSの乗り込み、コクピットから手を振る。 同様に手を振り返すミヤ。ジムキャノンは皇国から接収されたドダイにのって、 空へと上っていく。ミヤはその姿を見上げながら、涙を流した。 「あらあら・・・。」 その姿を見ていた少将が、ミヤへと近づいてくる。 「大丈夫よ、ミヤさん。一等兵は強くなったわ、私と一緒の頃より。  いい隊に所属しているんでしょうねぇ。きっと、無事にまた会えるわ。  さっき、ザクのデータから基地一覧が見つかってねぇ。彼の隊の使命も果たせそうよ。」 「はい・・・。」 クチキが去った後も、その空を、ミヤはいつまでも見つめていた・・・。 「ごめんなさい・・・。」 オギウエに謝られ、きょどるクチキ。 隊に戻ってきたクチキに浴びせられたのは、謝罪。 「ごめんな、クッチー。オギウエが持ってたよ、ペンダント。」 「ごめんなさいね・・・。」 「ごめん!」 口々に女性軍から謝られ、動揺するクチキ。 「・・・いえ、ボクチンも大人気なかったといいますか・・・。」 「・・・とまあ、謝ったんで、この件はOK?」 そういった咲の顔が引きつりだした。 「・・・まあ、OKですが、・・・なんですにょ?」 「・・・あなたのデジカメ、見せていただきました・・・。」 ビクッ!顔から異常なほどの冷や汗が流れてくるのが解る。 「・・・・・・隠し撮りとはねえ・・・・・。」 「え、え、どういうこと?」 一緒にその場に立ちあっていたササハラが、不思議がる。 「・・・・・・こいつね、あの水浴びのとき隠し撮りしてたんだよ・・・。」 「ええ・・・?!」 すぐさま逃げようと走り出すクチキ。 「ああ!!まて!てめえ!」 ケーコ、サキ、オーノがそれを追いかけていく。 走るクチキの手から金庫がこぼれる。落下して中の写真がこぼれる。 飛び散る水浴び写真。それが丁度歩いてきたマダラメの目に止まる。 「なんだこりゃ・・・。」 拾い上げたマダラメはびっくりする。そこにあったのはサキの水浴び。 「うぉおおおお!!?」 「コラ!マダラメ見るな!」 叫ぶサキに、動揺を隠せないマダラメ。 クチキは走る。美しいものを守るため。女体は世界の神秘だと心で叫びながら。 時には、盗撮もする。それも、美しいものを守るためならいたしかたない事なのだ。 次回予告 送られてきたデータからついに目的の基地へと到着した第801小隊。 初めてこちら側からの襲撃となり、少し戸惑いも感じる面々。 しかし、敵軍の新兵器の威力によって動けなくなる出撃隊。 そのピンチに、オギウエは自らMSに乗り込む。 次回、「オギウエ出撃」 お楽しみに。

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