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*第六話・密林の戦い 【投稿日 2006/02/13】 **[[第801小隊シリーズ]] グオォォォォォォォォォ・・・・。 時は夕方。日もそろそろ落ちかけるころ。 密林の上空を一機の大型輸送船が移動していく。 それには、第801小隊の面々が搭乗していた。 「いや~。よもや大型輸送船が来るとはな~。」 マダラメが艦長席にてふんぞり返っている。 「で、でも、じ、人員これだけで行けっていうのもなかなかね・・・。」 ドライバーを担当しているクガヤマがぼやく。 「作戦を成功させたいのか失敗させたいのかがよく分からんよ。」 丁度そこに来ていたタナカも苦言を呈する。 「軍も今宇宙宇宙で人員も裂けん、って言ってただろ~。  しょうがないだろ~、頑張るしかないだろ~。」 わざとおどける風に話すことで自身の不安も消そうとするマダラメ。 「まあ、大きな戦闘も起こらないだろ。  もうすでに皇国軍はほぼ撤退してるわけだし。」 そういいながら、マダラメは先日のことを回想した。 先日のことである。 ハラグチ少将が直々に基地にやってきたのである。 「え~、今日は貴君らに指令を与えにきたわけだ。」 わざと仰々しく話すハラグチ。 隊の皆は嫌な気分になりつつも体裁は保っていた。 「この前の兵器、あれを追跡するのだ。」 「な!?あれをですか?」 思わず声を上げたのはマダラメ。 「そうだ。せっかくそろった人員にMS隊だ。  軍のほうも宇宙への進軍で忙しい。ようやく戦局がこちらに向いてきた時だ。  あれが脅威になるか、意味のないものなのか、確認する必要性はあるだろう?  どうもこの先の元皇国領に基地が残っているようなのだ。」 「元?」 思わず聞き返したのはタナカ。 「そうだ。いままでの皇国領はすでに我が軍の領となっている。  ゲリラは多少いるかもしれないが・・・。安全だと考えることが出来る。」 「しかし・・・。我々には輸送船がありませんが・・・。」 ササハラが重要なことに気付き発言した。MSの輸送にはそれなりの空母が要る。 「安心しろ。最高級のを用意してやった。  これも私の力の賜物うんぬんかんぬん・・・。」 ハラグチの自慢話が始まってしまった。 嫌そうな顔はするものの、反論できない隊のメンバー。 「少将、その辺でいいかな?」 「・・・でな、え?あ、はい・・・。」 大隊長の言葉がそこで入り、急にしおらしくなり態度が萎縮するハラグチ。 「僕はここを離れるわけにはいかないので、マダラメ君を艦長としてくれ。  大丈夫、君たちなら目的を達成できるだろう。」 「「「「了解!」」」」 声をそろえ、小隊皆そろって大隊長に敬礼を向けた。 「とはいってもだな~。オギウエさんも数に入れるのはどうかと・・・。」 タナカがいまだ納得いかないように文句を言う。 「彼女自身の進言だ。それに・・・もう、仲間も同然だろう?」 マダラメがにやりと笑う。 「ま、まあね。い、いい子だよ。」 クガヤマも少し笑いながらそれに答える。 「だからこそ、なんだがな・・・。あまり戦場へは行かせたくない。」 「・・・それは一理あるかもな・・・。」 「う、うん・・・。」 この戦争で苦い思いをしてきた男たちだからこそ、 戦場のなにがあるか分からない怖さを知っている。 「一番反対してたのはササハラだったしな。」 「・・・あ、ああ。け、喧嘩凄かったね~。」 「あいつ、いまだに凹んでるんじゃねえのか~?」 キシシ、とマダラメは皮肉な笑みを浮かべた。 「お~い、そろそろ停泊したほうがいいんじゃないか~。」 タナカが日が落ちたことを確認して、声を出す。 「そ、そうだね。あ、あの川のほとりにするか。」 「OK。では、着陸!」 船は川のほとりのかわらに向かってゆっくりと降りていった。 「・・・はあ・・・。」 ササハラがジムのコクピットにてため息をつく。 (なにを考えてるんだよ・・・。オギウエさん・・・。) 彼女がついてくる、と言い出したときはびっくりした。 正直、戦場には二度と出したくはなかった。 (何でってそりゃ・・・。そういうことか・・・。) この一ヶ月で大きな存在になっているのが分かる。 だからこそ。離れてでも安全な場所で。 (くそ・・・。喧嘩したままだし・・・。) いらいらしながらいつものようにスイッチを入れる。 『・・・どうしたのですか?』 いつもと違った調子で話しかけてきたシステム、否、会長。 「え、どうしたって・・・。」 『なにかいつもと様子が違うようですが・・・。』 よもや会長にまで見抜かれるとは思わなかったササハラ。 いや、精神を媒介にしているのなら、それも当然かと思い直す。 「あはは・・・。ちょっと喧嘩をしましてね・・・。」 『・・・あなたの大切な人と?』 「・・・そうですね。」 会長の言葉が寂しそうで、ササハラも少し悲しくなった。 『・・・すぐ謝りに行ってきなさい。』 「ええ・・・?」 意外なことを言われ、ササハラは驚いた。 『仲のいい人ほど喧嘩をします。そう私は教わりました。  あなたがその人を本気で大切に思うのならば、謝るのがよいでしょう。』 「・・・そうですね。・・・ありがとうございます。」 『フフ・・・。笑っているほうがやはりいいですよ。』 「え・・・?」 ササハラはいま自分が微笑んでいることに気付いた。 実はそうしたかった自分の本音をつかれ、笑ってしまったのだ。 「・・・はい。では、いってきます。」 そして、スイッチを切り、急いでコクピットから飛び出した。 オギウエは調理室でオーノとサキとともに調理に勤しんでいた。 「やっぱり10人分ともなると大変ですね~。」 「・・・。」 「オギウエさん?」 無言で野菜を切り続けるオギウエ。気はそぞろだ。 「お、おい、オギー、あぶねーぞ!」 「えっ!?」 サキの言葉にはっとするオギウエ。 「いた・・・。」 包丁で少し指を切ってしまった。 「だ、大丈夫ですか・・・?」 「・・・すいません、大丈夫です。あまり切れてませんから。  絆創膏とってきます・・・。」 いまだに虚ろに見えるオギウエを、二人は少し心配する。 「本当、大丈夫かな・・・。」 「結構激しくやりあってたからね~。」 オギウエは医務室に向かいながらササハラとのやり取りを思い出していた。 『だから、残っててほしいんだって!』 『なんでですか!私がいったらまずいんですか!?』 『そうじゃなくて・・・。』 『だったらいいじゃないですか!ササハラさんには関係ありません!!』 『・・・勝手にしなよ!』 「あんな事いいたくなかったんだけどな・・・。」 そこまで思い出して、ササハラの言葉に胸が痛む。 『勝手にしなよ!』 「う・・・。」 立ち止まり、俯くオギウエ。泣きそうになる。 家族を亡くし、皇国軍に入ってからはあまり感じられなかった人の温かみ。 それを失うのが怖い。特に・・・あの人のは。 「助けになりたかっただけなのに・・・。」 そう思ってさらに悲しみがこみ上げてきた。 そこに、誰かが駆け寄る音。 「・・・はぁ、はぁ・・・。オギウエさん・・・。」 オギウエが気付くと、目の前にササハラがいた。 急いできたのだろう。汗をかいて、息を切らしていた。 「ササハラさん・・・。」 「あのさ・・・、この前のことなんだけど・・・。」 少し恥ずかしそうに視線をずらすササハラ。 「・・・ごめんね!」 そういって両手を前に合わせ、頭を下げる。 「え・・・。」 「きついこと言っちゃってさ・・・。」 「それはこっちもです・・・。すみませんでした・・・。」 オギウエも頭を下げる。 「・・・うん。でも、心配なんだってことは分かってくれるよね。」 「はい。でも、私は・・・お手伝いがしたかったんです。」 この人はどこまで優しいんだろう。オギウエは思う。 本当は今の言葉を、『ササハラさんの』と修飾したかった。 「・・・そっか。でも、無理はしないでよ。  それにこうなった以上、君の事は俺が絶対に守るから・・・。」 視線を合わせ、たまにササハラが見せる真剣な表情になった。 オギウエはドキリとする。顔を赤らめ、視線をはずしてしまった。 「はい・・・。」 「うん・・・って、て、手、怪我してるじゃない!」 「あ・・・。忘れてた・・・。」 今の出来事ですっかり忘れていた。痛みも感情に埋もれてしまっていた。 「ああ、もう!急いで消毒と・・・。ええい!」 オギウエの指に口をつけて血をぬぐうササハラ。 「ひゃっ・・・?」 「よし、これで、後は絆創膏だね、医務室へ行こう!」 オギウエを引っ張ってササハラは医務室へと向かった。 オギウエはというと、今の出来事に放心状態になっていた。 「ウマ~~~~~~~~~~~~~~~!!」 マダラメが食事を平らげて空を仰ぐ。 小隊は、船から降り皆で食事をしていた。 船の照明を利用し、明るくしている。 「これじゃまるでキャンプでありますね。」 クチキも楽しそうに食事をする。 「あはは。それですんだらいいのにね。」 「そうはうまくいかないんじゃない~?」 ササハラの言葉にケーコは皮肉っぽく返した。 「・・・わかってるよ。」 その言葉に皆、少し気分が沈む。 「あ・・・、私空気読めてなかったか・・・。」 皆分かっているのだ。この先におそらく戦闘があることを。 皇国軍も、全てが撤退しているわけではないだろう。 ・・・その先で、生き残れるかどうかも、分からない。 「まあ、まあ。みんな、今を楽しもうぜ~。」 マダラメが再びおちゃらけた調子で言葉を放つ。 「だね。明日の心配をしても仕方がない。」 「やっぱコーサカさんはいいこといいますね~v」 「だあ!離れろ!」 ここぞとばかりにコーサカに近づくケーコの邪魔をするサキ。 「まったく・・・。あいつは・・・。」 苦笑いでその光景を見るササハラ。 「・・・。」 その横でその光景を見つめるオギウエ。しかし、先ほどのことで頭がいっぱいだ。 「オギウエさん?」 はっと気付くと、目の前にササハラの顔。 「な、なんでもないです!」 「え。」 あわてて視線をそらすオギウエ。顔は真っ赤だ。 その光景を見ながら安心したように笑うオーノ、タナカ、クガヤマ。 「さってと、私たちはやることあるから~。」 そう言い出したのはサキ。 「は?」 マダラメがその言葉に反応する。 「み・ず・あ・び。この川綺麗だしね~。女はそういうの気にするのよ~?」 「ああ、そういうことね。はい、わかりましたよ。」 いたずらっぽく話すサキに、マダラメは少し顔を赤くして、答える。 「覗くなよ~?」 「覗くか!犯罪者か俺は!」 「冗談、冗談。あんたがそういう人間じゃないことは分かってるからね。」 サキに、にこっと笑われてどきどきするマダラメ。 「ああ・・・そうですか・・・。」 (なにどきどきしてんだよ俺!) 「まあ、終わったらあんたらも浴びなよ。気持ちよく寝れるよ~?」 「はい、そうしますよ。」 「じゃあいくよ~、女共!」 サキは懐中電灯を持って、女三人と連れ立って川のほうへ行ってしまった。 取り残された男たち・・・。妙な沈黙が周りを包む。 そんな中、遠くから声が聞こえてきた。 「・・・オーノやっぱりでかすぎ。」 「サキさんもなかなかじゃないですか~。」 「フン・・・、年上だっけ?」 「何が言いたいんですか!」 男たちは沈黙を破れない。 (誰か何か言えよ・・・。) そういう空気が流れていた。コーサカを除いて。 プ~~~~~~。プ~~~~~~。プ~~~~~~。 「警報!!??」 その音に皆立ち上がる小隊員たち。 「熱源探知装置に反応があったようだな。・・・近くに来てるぞ!」 そういったタナカはすぐさま船内に戻る。皆それに続いていく。 「クッチーは?」 マダラメが周りを見ても、クチキがいない。 「遅れたであります!」 「どうした!寝てたか!?」 「そんなところであります!」 そういいながら後ろから駆け足で追いついてきた。 「・・・早くしなきゃ!」 ササハラは真剣な面持ちで走る。 タナカから館内放送が響く。 『3時の方向、数は10。結構来てるぞ、気をつけろよ!」 そのタイミングで格納庫に到着した。 「3時の方向ね・・・。」 そういいながら、マダラメはザクへと乗り込む。 『よし、こっちもOKです!』 『OKです。』 『準備万端であります!』 『よ、よし。』 全員からの連絡が入り、マダラメが叫ぶ。 「よし!格納庫開け!第801小隊出撃する!全員、生きて帰るぞ!」 『『『『了解!』』』』 格納庫が開く。次々と飛び出すMS。 川から戻ってきていた女性陣が、その光景を見つめる。 「頑張れよ~!」 「頑張ってください~!」 「・・・頑張ってください!」 聞こえてはいないことは分かっているが、心からの声援を送った。 『チィ・・・。ジャングルの中か・・・。』 マダラメが敵のいる方向を見つめながら舌打ちをする。 『・・・明らかに誘ってますね。』 『あ、ああ・・・。し、しかし、このままでもジリ貧だ・・・。』 コーサカの言葉にガンタンクⅡに乗るクガヤマが答える。 そう、相手は消耗戦か、得意なゲリラ戦に持ち込もうとしているのだ。 『ですが、突っ込んでもやつらの思い通り・・・。』 クチキがジムキャノンのコクピットで呟く。 「くそ・・・。俺、行きます!」 ササハラのジムが一人、密林へと動き出す。 『ま、待てササハラ少尉!!何を焦っている!』 マダラメの静止も聞かず、密林の奥へと向かうササハラ。 『おい!待てといっているだろう!』 「任せてください・・・。このために訓練してきたんです・・・。」 システムをオンにするササハラ。 『敵・・・?』 「そうです!会長!お願いします!」 『・・・分かりました・・・。』 ヴィジョンが生まれる。敵、ザク迷彩塗装。 「そこか!」 ササハラはその情報から敵の場所を把握し、攻撃に移る。 ビームサーベルを抜き放ち、接近する。 よもや場所がばれてると思っていない敵機は、 直進で接近されなすすべもない。 ジムのビームサーベルがザクの足を切り落とす。 次に手と、動けなくした。 「・・・よし!」 次の敵機の位置を把握しようと、再びヴィジョンを見るササハラ。 「はぁ、はぁ。」 一機を倒した時点でかなり疲労がたまっていた。 このシステムの大きな弱点が、この疲労にある。 多くの情報を集めるシステムから、必要なものだけを取り出す。 その行為はまるで多くの文献から一冊の必要な資料を探す行為に似ている。 つまりは精神力の消耗が著しいのである。 (く、やっぱりきついか・・・。でも、俺がやらなきゃ・・・。) そのことは知っていた。ササハラはタナカから聞いてはいたのだ。 飛びそうになってしまいそうな意識の中で、ササハラが考えるのは・・・。 (あの子を・・・死なせるわけにはいかないじゃないか!) そして、次の敵機の位置をつかむと、接近していく。 しかし、今度はそううまくはいかない。 友軍機の撃破に気付いたザクは、すでに臨戦態勢であった。 ビーム兵器にはかなわないと思ったのか、機体そのものをぶつけてくる。 「ぐぅ・・・!」 その衝撃に先ほど食べたものを戻しそうになるササハラ。 しかし、歯を食いしばり機体を立て直すと、サーベルを構えなおす。 『前!』 会長の言葉が響く。ササハラはその言葉にはっとし、前方を見る。 接近してくるザク。手に持っているのはヒートホーク。 振り下ろされる斧。 「うぉおおおお!」 それより先にサーベルを突き出すと、ザクのコクピットに直撃していた。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」 動かなくなるザク。二機目、撃墜。 荒い息をつきながら、ササハラの思考は次の相手を探すことに移っていた。 この間も通信にはマダラメやコーサカの声が流れていたように感じる。 しかし、神経をシステムに集中しておかないと、意識が飛ぶ。 「どこだ・・・。」 近くにいることが把握できた。 「そこか!」 『まって!』 会長の静止が入ったにもかかわらず、突進していくササハラ。 神経が削られているせいか、冷静な判断が出来なくなっている。 目の前に現れたザクに対し、サーベルを振りかざす。 シュルルルルルルルル!!!!ガチン!ガチガチガチン! 不思議な音が聞こえたと思うと、ジムの動きが停止していた。 「なに・・・?」 腕が、振りかざした部分で停止している。 もう一方の手も、両足も動かない。 否、動いてはいるのだ。しかし、何かに引っ張られているよう・・・。 「まさか!!?」 ディスプレイで左右を確認すると、ジムを鋏む二体のザクが確認できる。 両手にはワイヤーが伸びており、ジムの四肢に伸びていることが分かった。 先端が超強力な磁気が発生しているようであり、ぴったりとくっついて離れない。 「く、くそ!」 囮の一体が、接近してくる。目の前に振りかざされるヒートホーク。 「う、動け!動けーーーーーーーーーーーーーー!!」 ササハラの叫びが密林の中にこだました。 次回予告 夜の密林でのサバイバルバトル。 システムの力で二機の撃破に成功したササハラだったが、 精神力低下のため、敵の罠にかかる。 果たして彼は生き残ることが出来るか・・・? 次回、「密林の戦い(後編)」 お楽しみに
*第六話・密林の戦い(前編) 【投稿日 2006/02/13】 **[[第801小隊シリーズ]] グオォォォォォォォォォ・・・・。 時は夕方。日もそろそろ落ちかけるころ。 密林の上空を一機の大型輸送船が移動していく。 それには、第801小隊の面々が搭乗していた。 「いや~。よもや大型輸送船が来るとはな~。」 マダラメが艦長席にてふんぞり返っている。 「で、でも、じ、人員これだけで行けっていうのもなかなかね・・・。」 ドライバーを担当しているクガヤマがぼやく。 「作戦を成功させたいのか失敗させたいのかがよく分からんよ。」 丁度そこに来ていたタナカも苦言を呈する。 「軍も今宇宙宇宙で人員も裂けん、って言ってただろ~。  しょうがないだろ~、頑張るしかないだろ~。」 わざとおどける風に話すことで自身の不安も消そうとするマダラメ。 「まあ、大きな戦闘も起こらないだろ。  もうすでに皇国軍はほぼ撤退してるわけだし。」 そういいながら、マダラメは先日のことを回想した。 先日のことである。 ハラグチ少将が直々に基地にやってきたのである。 「え~、今日は貴君らに指令を与えにきたわけだ。」 わざと仰々しく話すハラグチ。 隊の皆は嫌な気分になりつつも体裁は保っていた。 「この前の兵器、あれを追跡するのだ。」 「な!?あれをですか?」 思わず声を上げたのはマダラメ。 「そうだ。せっかくそろった人員にMS隊だ。  軍のほうも宇宙への進軍で忙しい。ようやく戦局がこちらに向いてきた時だ。  あれが脅威になるか、意味のないものなのか、確認する必要性はあるだろう?  どうもこの先の元皇国領に基地が残っているようなのだ。」 「元?」 思わず聞き返したのはタナカ。 「そうだ。いままでの皇国領はすでに我が軍の領となっている。  ゲリラは多少いるかもしれないが・・・。安全だと考えることが出来る。」 「しかし・・・。我々には輸送船がありませんが・・・。」 ササハラが重要なことに気付き発言した。MSの輸送にはそれなりの空母が要る。 「安心しろ。最高級のを用意してやった。  これも私の力の賜物うんぬんかんぬん・・・。」 ハラグチの自慢話が始まってしまった。 嫌そうな顔はするものの、反論できない隊のメンバー。 「少将、その辺でいいかな?」 「・・・でな、え?あ、はい・・・。」 大隊長の言葉がそこで入り、急にしおらしくなり態度が萎縮するハラグチ。 「僕はここを離れるわけにはいかないので、マダラメ君を艦長としてくれ。  大丈夫、君たちなら目的を達成できるだろう。」 「「「「了解!」」」」 声をそろえ、小隊皆そろって大隊長に敬礼を向けた。 「とはいってもだな~。オギウエさんも数に入れるのはどうかと・・・。」 タナカがいまだ納得いかないように文句を言う。 「彼女自身の進言だ。それに・・・もう、仲間も同然だろう?」 マダラメがにやりと笑う。 「ま、まあね。い、いい子だよ。」 クガヤマも少し笑いながらそれに答える。 「だからこそ、なんだがな・・・。あまり戦場へは行かせたくない。」 「・・・それは一理あるかもな・・・。」 「う、うん・・・。」 この戦争で苦い思いをしてきた男たちだからこそ、 戦場のなにがあるか分からない怖さを知っている。 「一番反対してたのはササハラだったしな。」 「・・・あ、ああ。け、喧嘩凄かったね~。」 「あいつ、いまだに凹んでるんじゃねえのか~?」 キシシ、とマダラメは皮肉な笑みを浮かべた。 「お~い、そろそろ停泊したほうがいいんじゃないか~。」 タナカが日が落ちたことを確認して、声を出す。 「そ、そうだね。あ、あの川のほとりにするか。」 「OK。では、着陸!」 船は川のほとりのかわらに向かってゆっくりと降りていった。 「・・・はあ・・・。」 ササハラがジムのコクピットにてため息をつく。 (なにを考えてるんだよ・・・。オギウエさん・・・。) 彼女がついてくる、と言い出したときはびっくりした。 正直、戦場には二度と出したくはなかった。 (何でってそりゃ・・・。そういうことか・・・。) この一ヶ月で大きな存在になっているのが分かる。 だからこそ。離れてでも安全な場所で。 (くそ・・・。喧嘩したままだし・・・。) いらいらしながらいつものようにスイッチを入れる。 『・・・どうしたのですか?』 いつもと違った調子で話しかけてきたシステム、否、会長。 「え、どうしたって・・・。」 『なにかいつもと様子が違うようですが・・・。』 よもや会長にまで見抜かれるとは思わなかったササハラ。 いや、精神を媒介にしているのなら、それも当然かと思い直す。 「あはは・・・。ちょっと喧嘩をしましてね・・・。」 『・・・あなたの大切な人と?』 「・・・そうですね。」 会長の言葉が寂しそうで、ササハラも少し悲しくなった。 『・・・すぐ謝りに行ってきなさい。』 「ええ・・・?」 意外なことを言われ、ササハラは驚いた。 『仲のいい人ほど喧嘩をします。そう私は教わりました。  あなたがその人を本気で大切に思うのならば、謝るのがよいでしょう。』 「・・・そうですね。・・・ありがとうございます。」 『フフ・・・。笑っているほうがやはりいいですよ。』 「え・・・?」 ササハラはいま自分が微笑んでいることに気付いた。 実はそうしたかった自分の本音をつかれ、笑ってしまったのだ。 「・・・はい。では、いってきます。」 そして、スイッチを切り、急いでコクピットから飛び出した。 オギウエは調理室でオーノとサキとともに調理に勤しんでいた。 「やっぱり10人分ともなると大変ですね~。」 「・・・。」 「オギウエさん?」 無言で野菜を切り続けるオギウエ。気はそぞろだ。 「お、おい、オギー、あぶねーぞ!」 「えっ!?」 サキの言葉にはっとするオギウエ。 「いた・・・。」 包丁で少し指を切ってしまった。 「だ、大丈夫ですか・・・?」 「・・・すいません、大丈夫です。あまり切れてませんから。  絆創膏とってきます・・・。」 いまだに虚ろに見えるオギウエを、二人は少し心配する。 「本当、大丈夫かな・・・。」 「結構激しくやりあってたからね~。」 オギウエは医務室に向かいながらササハラとのやり取りを思い出していた。 『だから、残っててほしいんだって!』 『なんでですか!私がいったらまずいんですか!?』 『そうじゃなくて・・・。』 『だったらいいじゃないですか!ササハラさんには関係ありません!!』 『・・・勝手にしなよ!』 「あんな事いいたくなかったんだけどな・・・。」 そこまで思い出して、ササハラの言葉に胸が痛む。 『勝手にしなよ!』 「う・・・。」 立ち止まり、俯くオギウエ。泣きそうになる。 家族を亡くし、皇国軍に入ってからはあまり感じられなかった人の温かみ。 それを失うのが怖い。特に・・・あの人のは。 「助けになりたかっただけなのに・・・。」 そう思ってさらに悲しみがこみ上げてきた。 そこに、誰かが駆け寄る音。 「・・・はぁ、はぁ・・・。オギウエさん・・・。」 オギウエが気付くと、目の前にササハラがいた。 急いできたのだろう。汗をかいて、息を切らしていた。 「ササハラさん・・・。」 「あのさ・・・、この前のことなんだけど・・・。」 少し恥ずかしそうに視線をずらすササハラ。 「・・・ごめんね!」 そういって両手を前に合わせ、頭を下げる。 「え・・・。」 「きついこと言っちゃってさ・・・。」 「それはこっちもです・・・。すみませんでした・・・。」 オギウエも頭を下げる。 「・・・うん。でも、心配なんだってことは分かってくれるよね。」 「はい。でも、私は・・・お手伝いがしたかったんです。」 この人はどこまで優しいんだろう。オギウエは思う。 本当は今の言葉を、『ササハラさんの』と修飾したかった。 「・・・そっか。でも、無理はしないでよ。  それにこうなった以上、君の事は俺が絶対に守るから・・・。」 視線を合わせ、たまにササハラが見せる真剣な表情になった。 オギウエはドキリとする。顔を赤らめ、視線をはずしてしまった。 「はい・・・。」 「うん・・・って、て、手、怪我してるじゃない!」 「あ・・・。忘れてた・・・。」 今の出来事ですっかり忘れていた。痛みも感情に埋もれてしまっていた。 「ああ、もう!急いで消毒と・・・。ええい!」 オギウエの指に口をつけて血をぬぐうササハラ。 「ひゃっ・・・?」 「よし、これで、後は絆創膏だね、医務室へ行こう!」 オギウエを引っ張ってササハラは医務室へと向かった。 オギウエはというと、今の出来事に放心状態になっていた。 「ウマ~~~~~~~~~~~~~~~!!」 マダラメが食事を平らげて空を仰ぐ。 小隊は、船から降り皆で食事をしていた。 船の照明を利用し、明るくしている。 「これじゃまるでキャンプでありますね。」 クチキも楽しそうに食事をする。 「あはは。それですんだらいいのにね。」 「そうはうまくいかないんじゃない~?」 ササハラの言葉にケーコは皮肉っぽく返した。 「・・・わかってるよ。」 その言葉に皆、少し気分が沈む。 「あ・・・、私空気読めてなかったか・・・。」 皆分かっているのだ。この先におそらく戦闘があることを。 皇国軍も、全てが撤退しているわけではないだろう。 ・・・その先で、生き残れるかどうかも、分からない。 「まあ、まあ。みんな、今を楽しもうぜ~。」 マダラメが再びおちゃらけた調子で言葉を放つ。 「だね。明日の心配をしても仕方がない。」 「やっぱコーサカさんはいいこといいますね~v」 「だあ!離れろ!」 ここぞとばかりにコーサカに近づくケーコの邪魔をするサキ。 「まったく・・・。あいつは・・・。」 苦笑いでその光景を見るササハラ。 「・・・。」 その横でその光景を見つめるオギウエ。しかし、先ほどのことで頭がいっぱいだ。 「オギウエさん?」 はっと気付くと、目の前にササハラの顔。 「な、なんでもないです!」 「え。」 あわてて視線をそらすオギウエ。顔は真っ赤だ。 その光景を見ながら安心したように笑うオーノ、タナカ、クガヤマ。 「さってと、私たちはやることあるから~。」 そう言い出したのはサキ。 「は?」 マダラメがその言葉に反応する。 「み・ず・あ・び。この川綺麗だしね~。女はそういうの気にするのよ~?」 「ああ、そういうことね。はい、わかりましたよ。」 いたずらっぽく話すサキに、マダラメは少し顔を赤くして、答える。 「覗くなよ~?」 「覗くか!犯罪者か俺は!」 「冗談、冗談。あんたがそういう人間じゃないことは分かってるからね。」 サキに、にこっと笑われてどきどきするマダラメ。 「ああ・・・そうですか・・・。」 (なにどきどきしてんだよ俺!) 「まあ、終わったらあんたらも浴びなよ。気持ちよく寝れるよ~?」 「はい、そうしますよ。」 「じゃあいくよ~、女共!」 サキは懐中電灯を持って、女三人と連れ立って川のほうへ行ってしまった。 取り残された男たち・・・。妙な沈黙が周りを包む。 そんな中、遠くから声が聞こえてきた。 「・・・オーノやっぱりでかすぎ。」 「サキさんもなかなかじゃないですか~。」 「フン・・・、年上だっけ?」 「何が言いたいんですか!」 男たちは沈黙を破れない。 (誰か何か言えよ・・・。) そういう空気が流れていた。コーサカを除いて。 プ~~~~~~。プ~~~~~~。プ~~~~~~。 「警報!!??」 その音に皆立ち上がる小隊員たち。 「熱源探知装置に反応があったようだな。・・・近くに来てるぞ!」 そういったタナカはすぐさま船内に戻る。皆それに続いていく。 「クッチーは?」 マダラメが周りを見ても、クチキがいない。 「遅れたであります!」 「どうした!寝てたか!?」 「そんなところであります!」 そういいながら後ろから駆け足で追いついてきた。 「・・・早くしなきゃ!」 ササハラは真剣な面持ちで走る。 タナカから館内放送が響く。 『3時の方向、数は10。結構来てるぞ、気をつけろよ!」 そのタイミングで格納庫に到着した。 「3時の方向ね・・・。」 そういいながら、マダラメはザクへと乗り込む。 『よし、こっちもOKです!』 『OKです。』 『準備万端であります!』 『よ、よし。』 全員からの連絡が入り、マダラメが叫ぶ。 「よし!格納庫開け!第801小隊出撃する!全員、生きて帰るぞ!」 『『『『了解!』』』』 格納庫が開く。次々と飛び出すMS。 川から戻ってきていた女性陣が、その光景を見つめる。 「頑張れよ~!」 「頑張ってください~!」 「・・・頑張ってください!」 聞こえてはいないことは分かっているが、心からの声援を送った。 『チィ・・・。ジャングルの中か・・・。』 マダラメが敵のいる方向を見つめながら舌打ちをする。 『・・・明らかに誘ってますね。』 『あ、ああ・・・。し、しかし、このままでもジリ貧だ・・・。』 コーサカの言葉にガンタンクⅡに乗るクガヤマが答える。 そう、相手は消耗戦か、得意なゲリラ戦に持ち込もうとしているのだ。 『ですが、突っ込んでもやつらの思い通り・・・。』 クチキがジムキャノンのコクピットで呟く。 「くそ・・・。俺、行きます!」 ササハラのジムが一人、密林へと動き出す。 『ま、待てササハラ少尉!!何を焦っている!』 マダラメの静止も聞かず、密林の奥へと向かうササハラ。 『おい!待てといっているだろう!』 「任せてください・・・。このために訓練してきたんです・・・。」 システムをオンにするササハラ。 『敵・・・?』 「そうです!会長!お願いします!」 『・・・分かりました・・・。』 ヴィジョンが生まれる。敵、ザク迷彩塗装。 「そこか!」 ササハラはその情報から敵の場所を把握し、攻撃に移る。 ビームサーベルを抜き放ち、接近する。 よもや場所がばれてると思っていない敵機は、 直進で接近されなすすべもない。 ジムのビームサーベルがザクの足を切り落とす。 次に手と、動けなくした。 「・・・よし!」 次の敵機の位置を把握しようと、再びヴィジョンを見るササハラ。 「はぁ、はぁ。」 一機を倒した時点でかなり疲労がたまっていた。 このシステムの大きな弱点が、この疲労にある。 多くの情報を集めるシステムから、必要なものだけを取り出す。 その行為はまるで多くの文献から一冊の必要な資料を探す行為に似ている。 つまりは精神力の消耗が著しいのである。 (く、やっぱりきついか・・・。でも、俺がやらなきゃ・・・。) そのことは知っていた。ササハラはタナカから聞いてはいたのだ。 飛びそうになってしまいそうな意識の中で、ササハラが考えるのは・・・。 (あの子を・・・死なせるわけにはいかないじゃないか!) そして、次の敵機の位置をつかむと、接近していく。 しかし、今度はそううまくはいかない。 友軍機の撃破に気付いたザクは、すでに臨戦態勢であった。 ビーム兵器にはかなわないと思ったのか、機体そのものをぶつけてくる。 「ぐぅ・・・!」 その衝撃に先ほど食べたものを戻しそうになるササハラ。 しかし、歯を食いしばり機体を立て直すと、サーベルを構えなおす。 『前!』 会長の言葉が響く。ササハラはその言葉にはっとし、前方を見る。 接近してくるザク。手に持っているのはヒートホーク。 振り下ろされる斧。 「うぉおおおお!」 それより先にサーベルを突き出すと、ザクのコクピットに直撃していた。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」 動かなくなるザク。二機目、撃墜。 荒い息をつきながら、ササハラの思考は次の相手を探すことに移っていた。 この間も通信にはマダラメやコーサカの声が流れていたように感じる。 しかし、神経をシステムに集中しておかないと、意識が飛ぶ。 「どこだ・・・。」 近くにいることが把握できた。 「そこか!」 『まって!』 会長の静止が入ったにもかかわらず、突進していくササハラ。 神経が削られているせいか、冷静な判断が出来なくなっている。 目の前に現れたザクに対し、サーベルを振りかざす。 シュルルルルルルルル!!!!ガチン!ガチガチガチン! 不思議な音が聞こえたと思うと、ジムの動きが停止していた。 「なに・・・?」 腕が、振りかざした部分で停止している。 もう一方の手も、両足も動かない。 否、動いてはいるのだ。しかし、何かに引っ張られているよう・・・。 「まさか!!?」 ディスプレイで左右を確認すると、ジムを鋏む二体のザクが確認できる。 両手にはワイヤーが伸びており、ジムの四肢に伸びていることが分かった。 先端が超強力な磁気が発生しているようであり、ぴったりとくっついて離れない。 「く、くそ!」 囮の一体が、接近してくる。目の前に振りかざされるヒートホーク。 「う、動け!動けーーーーーーーーーーーーーー!!」 ササハラの叫びが密林の中にこだました。 次回予告 夜の密林でのサバイバルバトル。 システムの力で二機の撃破に成功したササハラだったが、 精神力低下のため、敵の罠にかかる。 果たして彼は生き残ることが出来るか・・・? 次回、「密林の戦い(後編)」 お楽しみに

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