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*第四話・二人の少女 【投稿日 2006/02/0】 **[[第801小隊シリーズ]] 「どこだ・・・?」 ササハラはあせるように周囲に気を配らせる。 コクピットのディスプレイを凝視しながら、相手を探る。 周り一帯はジャングル。木は多く、視界が明瞭ではない。 「くそ・・・。」 ガサ・・・。 後ろから響く草を分けるような音。 「そっちか!?」 そちらのほうに機体前方を向ける。しかし、そこには何もいない。 「・・・なんだ・・・?」 そう思った瞬間、後ろから衝撃が加わる。 「ぐは・・・!!」 そのまま前のめりになり、一瞬息が止まるササハラ。 機体自体もバランスを崩して倒れこむ。 「く・・・。」 何とか体勢を整え、その衝撃のあった方向へ向き直る。 「うわ!!」 その瞬間、ササハラの視界は真っ赤に染まった。 「くっそ~~。勝てないな~。」 ジャングルの外、基地を丁度目の前にする道路にて。 ジムから降り、悔しそうにしながら手袋を脱ぐササハラ。 「けけけ。もう何連敗目だ?しっかし、コーサカの奴つえーわ。」 ジャングルの外にて待機していたマダラメがササハラのボヤキを皮肉った。 「はは。まあ、でもだんだんとうまくなってるよ。」 コーサカもジムキャノンから降りてきて、会話に混ざる。 「性能もほぼ一緒の機体でここまでかなわないと、流石にへこむよ・・・。」 そう、今行っていたのは模擬戦であった。 水性塗料の入った水鉄砲のような模擬銃と、白い後のつく模造刀を使い、 801小隊は良くこの近くのジャングルで模擬戦闘を行うのだ。 「いやー、ササハラもそう弱くはねーと思うんだがな。  コーサカが飛び抜けすぎだ。俺でも勝率3割程度だからな。」 「一応、それで生きてきましたからね。  正直、ジムキャノンだと機体が追いついてこないんですよ。」 苦笑いするコーサカ。 「ほう。あのガンダム、相当反応性いいんだな。」 「ええ、僕以外の人だときっと機体に振り回されますよ。」 「すごいね。心強いなあ。」 感心しきり、といった表情をするササハラ。 「よーし、次はクチキとクガヤマでいくぞー。」 「了解であります!」 「わ、わかったよ。」 「ふ~、暑いねえ。」 「ですねえ。」 医務室にてうちわを仰ぎながら座っているオーノとサキ。 「もう二週間がたつんですね・・・。」 あの事件から、すでに二週間が経過していた。 その間、これといった事件も、戦闘も無く、801小隊は日々まったりしていた。 「最前線って言うから日々ドンパチしてるもんなのかと思ってたよ。」 「そこまでする価値も無いんですよ、この地域には。」 一面のジャングル、交通の便も悪く、特に拠点が近いわけでもない。 皇国にとっても攻める価値も無く、連盟にとっても守る価値も無い。 「いわば、見捨てられた土地なんですよ、ここは。」 「ふーん・・・。まあ、そのほうが楽できるし。」 「ええ、このほうが、私もいいと思います・・・。」 そこに現れた一つの影。 「・・・戻りました。」 「お、オギー。」 「そのオギーっていうのやめてくれませんか?」 「まあ、いいじゃないですか。大分良くなりましたね。」 「・・・貴方がいたらそうならざるを得ません。」 むすっとした表情をしながら、ベッドに入るオギウエ。 「はは。毎日無理やりご飯食べさせられてたもんな。」 「食欲が無いって言っても・・・。」 「食べないと、大きくなりませんよ!」 「もうそんな年じゃありませんから!」 オーノが無理にオギウエの口を開け、食事をねじ込む姿は想像するに難くない。 「それにしても、言葉使いも変わったね。」 「・・・一応、敬意は払っておこうかと思いまして。」 オギウエの口調が変化したのは三日前。その変化に一同驚愕とした。 「まだ、信頼はしてくれないようですね。」 「・・・私は連盟軍を憎むべき敵だと教わってきましたから。  血も涙も無い鬼畜の軍団だと。」 「おいおい・・・。そんな人間だけの集団なんてあるかよ。」 思わず苦笑いのサキ。 「・・・貴方たちは妙なほどお人よしのようですけど。」 「うふふ。それがいいところなんですよ。」 にっこり笑うオーノに対して、赤面して布団をかぶるオギウエ。 「ありゃ。かわいいもんだね。」 「うーん、もう少し心を開いてくれるといいんですけど・・・。」 「ということになっているわけで・・・。・・・ササハラ聞いてんのか!?」 タナカが眠りに落ちそうなササハラに向かって檄を飛ばす。 先ほどの模擬戦も終わり、一同整備場に集まり整備をしていた。 整備員といえる人物は実はタナカしかいない。 クガヤマを初めとして、パイロットも総動員でメンテナンスを行う。 MSの数が多くなったため、みな整備も大変そうだ。 「は!す、すいません!」 ササハラは新システムの講義を聴いていた。 この前の戦いでの事情を聞いたタナカが数千ページはある資料を一週間で読破し、 ササハラにうまく伝えようと開いた講義だった。 しかし、何が何やらで、眠気がたまっていく一方であった。 かれこれ一週間も、講義を繰り返しても半分くらいしか理解できなかった。 「・・・まあ、薀蓄はいいか。  まあ、早い話が、このシステムは人格をモデルにしてる。  それがどこぞのニュータイプの女性、って話だ。」 「はあ。じゃあ、あの声はその人のってことだったんですね。」 「だろうね。」 「うまく、必要な情報を取りださなきゃいけないのか・・・。」 「まあ、慣れだろうな。うまくその人格と意思疎通をしなきゃいかんよ。」 「うーん。じゃあ、そろそろ試してみます。」 そういって、ササハラはジムのほうへと向かう。 「おう。そろそろいいだろ。がんばれよー。」 「えーと、システムオン、と。」 カチ。 機械音が響き、再びあの声が頭に響き渡る。 『・・・何がしたいのですか?』 「あなたの事が知りたいです・・・。」 素直にその声に答えていくことにするササハラ。 つい敬語になってしまうのは、 相手がニュータイプだと聞いてしまったから。 そして、要はコミュニケーションをとればいいのだと判断してみた。 一週間の講義はそれだけしか残っていない。 『・・・私?私は・・・よく解らない・・・。』 「そうですか・・・。名前・・・もですか・・・。」 そういえば、と。このシステムの名前を思い出した。 『こいつはプレジデント・システムといってだな・・・。』 タナカの講義を少し思い出した。 統轄者、という意味らしい。空間をそうする、という意味なのだろう。 しかし、プレジデント、といわれてササハラが浮かぶのはこっちの単語だった。 「・・・会長とでも呼べばいいですか・・・?」 『それが、私の名前?』 「うん。昔知り合いの生徒会長がジョークでプレジデントって呼ばれてまして。  言いやすいし、それでは駄目ですかね?」 『かまいません・・・。』 その声に、少しだけ前進できたことを悟るササハラ。 『他に何かしたいことは・・・?』 今回はなぜかヴィジョンが入ってくることはなかった。 タナカによると、それはササハラ自身が周囲を見ようとしたからだという。 その意思を感じ取ってシステムは映像を送ってきたが、 うまく疎通が出来なかった結果とのことだ。 「・・・ん、今のところありません。また今度よろしくお願いします。」 『はい。また・・・。また、があるんですよね?』 「ええ、もちろんです。」 「ふう。」 ジムから降りてきたササハラは一息ついた。 まるで記憶喪失の人間相手にしているようだった。 「なんなんだろうなあ、このシステム。実験的なものって言っても、  これじゃまんま実験させられてる気分だな・・・。」 腕を組み、少し悩むササハラ。 「ま、気にしてもしょうがないか。」 これがうまく使えるようになったら、この戦いの中でも生き残れるだろう。 他の人を助けることも出来るかもしれない。 大きな力を手に入れるチャンスを、むざむざ逃す手はない。 「おーい、ササハラ~、飯にすんぞ~。」 マダラメの大きな声に、笹原は振り向く。 「は~い、いま行きま~す。」 食堂では、すでにオーノとサキ、オギウエが食事をしていた。 「ごくろ~さん。毎日大変だねえ、戦争ごっこ。」 「一応、戦闘訓練なんだがな。」 そのサキの言葉に反応するマダラメ。 「まー、似たようなもんじゃない。」 「なんか遊んでるみたいじゃねえか、それじゃ。」 むっとして、食事を持ってマダラメは椅子に座る。 「ははは。遊んでるかー。そう見えなくもないかな。」 「サキちゃん、やめなってー。」 苦笑いするのはコーサカ。 「・・・遊びだけで終わったらそれでもいいんだけどな。」 そういって、少しマダラメはあきれた表情をする。 「・・・ごめん、言い過ぎた。」 マダラメたちが本物の戦争をして、日々を過ごしている。 それを茶化すような言葉になったことを素直に謝るサキ。 「へ?・・・まあ、いいってことよ。」 素直に謝られて、少し拍子抜けしたマダラメは、皮肉っぽく笑った。 「あはは・・・。本当、そうですよね。  遊びだけで戦争が済んだらどんなにいいことか。」 ササハラがマダラメの意見に同調する。 「・・・ま、まあ、そうはうまくいかないから俺らはここにいるわけだし。」 「しかし、まあそろそろ終結だろうな。」 タナカの言葉にいっせいにそちらを向く一同。 「え、どういうことですか?」 ササハラが一番最初に質問した。 「大隊長に聞いた話なんだがね・・・。」 「そこからは僕が話すよ。」 ビクッ! 声がした方向を見ると、さっきまでいなかった大隊長がいた。 「い、いつの間に・・・。」 「さっきだよ?まあ、それはともかく。」 そういいながら、みんなの座っている中心近くに移動する大隊長。 「戦場が完全に宇宙に移り変わったよ。  皇国軍の大半はすでに宇宙に帰還してる。  一部のゲリラ部隊だけが取り残されてるみたい。」 「マジですか・・・。」 マダラメがその言葉にほっとしたようにため息をつく。 「そ、そんな・・・。」 その言葉に一番反応したのはオギウエだった。 わなわな震えながら言葉を発する。 「そんな馬鹿な!わが軍が撤退してるって!?  そんなわけない!何かの間違いだ!」 「・・・しかし、紛れもない事実なんだよ。」 「お、落ち着いて、オギウエさん。」 ササハラがオギウエを抑えようと近づく。 「・・・落ち着けるもんか・・・。私は・・・。復讐を果たさなきゃ・・・。」 「復讐?」 「そうだ!連盟軍に殺された家族の!」 その言葉に場は凍りつく。 「私はアキバコロニーの住人だった・・・。」 「アキバコロニーってあの・・・?」 オーノがその言葉に反応し、声を漏らした。 「・・・あの大爆発事件か・・・。」 アキバコロニー。 丁度地球圏と皇国コロニーとの中間にあったそのコロニーは、 戦争開始当初、大きな戦場の舞台となっていた。 MS開発において出遅れていた連盟軍は不利な状況におかれ、 使用したのが超大型核ミサイルだった。 しかし、発射されたミサイルは皇国軍を巻き込むと同時に、 コロニーにも大きなダメージを与え、偶発的に爆発へといたった。 ・・・というのが大半の見解だが、これに異を唱える者もいる。 「私はその瞬間を見てた!一人で乗った脱出船から!  家族はみな死んだ!私はそれを復讐しなきゃならないんだ!」 「・・・それでも復讐なんて意味ないよ。」 「お前に何がわかる!お前も人殺しだろう!  だったら、あの時私も殺せばよかったんだ!」 バシッ! ササハラがオギウエの頬を張った。 「・・・!」 無言のままオギウエは走って外へと飛び出していく。 「・・・あ・・・。」 叩いてしまった手のひらを見ながら、ササハラは大きく後悔した。 「オギウエさん、ここでしたか。」 基地の屋根の上、窓から出られるベランダにオギウエはいた。 あの後、皆でオギウエを探すことにしたのだ。 ベランダで体育座りをして一人涙ぐむオギウエ。 「あれは言っちゃいけませんでしたね・・・。」 オーノはその横に座る。 「ササハラさん、ものすごく後悔してましたよ。」 「だって・・・。」 「あのね・・・?一つ聞いてください。」 オギウエに向かって優しい笑みを浮かべてオーノは語り掛ける。 「ここにいる人のほとんどは戦争で家族とか友達を失ってるんですよ。」 その言葉に目を見開きオーノのほうを向くオギウエ。 「サキさんとコーサカさんは最近来られたので分かりませんが・・・。  私も・・・そうですし、タナカさんも、マダラメさんも、クガヤマさんも、クチキ君も。  ササハラさんも、生き別れた妹さんを除いて家族は死んでるんです。」 そういって微笑みを絶やさず、しかし寂しそうにオーノは前方を見つめる。 「それでも、彼らは敵兵をなるべく殺さないようにしてます。  戦争での復讐が何も生まないことを知ってるから・・・。」 オーノはオギウエのほうを向き直る。 「そう簡単に憎しみが消えることはないでしょう。  私も現にそうでした。しかし、ここの生活でよくわかりました。  戦争を早く終わらすこと。  それを犠牲になった誰もが望んでるんだってことに。」 再びにっこりと笑ってオーノは続ける。 「さあ、ササハラさんに謝りに行きましょう。」 「・・・あの・・・。」 俯いたままササハラの前に立つオギウエ。横にはオーノ。 「・・・ごめんね、さっきは叩いたりしちゃて。  カスカベさんに怒られちゃったよ。女に手を出すなんて~って。」 苦笑いで疲れたような表情をするササハラ。 相当サキに絞られたのだろう。 「いえ・・・。こっちこそ・・・なんていうか・・・。」 「・・・まあ、いろいろあるよ。戦争だからさ。  沢山のものがなくなる。人も、物も、思い出もさ。」 昔を思い返すように遠くを見つめるササハラ。 「・・・戦争が終わるのはいいこと・・・なんですよね。」 「うん。分かってくれたらそれでいいよ。」 にこりと笑ってオギウエを見つめるササハラ。 その顔に思わず赤面するオギウエ。 その変化に、ササハラも赤面してしまう。 その光景をにやりと笑って見つめるオーノ。 「おーい!いつものあれやるぞー!」 大きな声でタナカが外から声をかけてくる。 「あ、はーい!」 近くの窓から顔を出し、答えるササハラ。 「さ、みんなでいこっか。」 「え、え、何を・・・。」 「そっか、オギウエさんは知らないのか。それじゃいってみようか。」 笑いながらオギウエの手を引き外へと向かうササハラ。 オーノもそれに続いた。 シャーーーーーーーーーーーーーーー。 盛大にジムとジムキャノンに向かって浴びせられる水。 「よーし、お前ら、気張って磨けー!」 そういいながら水浸しになって機体を磨く小隊員たち。 常に暑いこの地方だからこその涼み方。 一日一回の水浴び兼MSの汚れ落とし。 「毎日毎日よくやるねえ・・・。」 サキがホースで水を浴びせてるオーノの横で呟く。 「まあ、暑い昼を過ごすいい方法ですからねえ。」 「・・・楽しそうですね・・・。」 小隊員たちの楽しそうな姿を見て、うらやましそうに呟くオギウエ。 昨日までは、この時間はベッドにいたため、このことを知らなかった。 「じゃあ、行ってみれば?」 サキがにやーっと笑って、オギウエをけしかける。 「・・・いいです。別に・・・。」 「まあ、物は試しです、やってみましょうよお!」 そういうと、オーノはオギウエに向けて水をかける。 「な、なにするんですか!」 全身ぐっしょりになって怒りをあらわにするオギウエ。 「うふふ。ほら涼しくなったでしょー?」 「頭きた!」 そういってホースをオーノから奪い、かけ返す。 「な、な、な・・・。」 「お返しです!」 ぎゃあぎゃあいいながらホースの取り合いを始める二人。 「おいおい。お前ら少し落ち着けよ・・・。」 バシャ。 手元が狂ったのか、思いっきりサキに命中する水。 「お、お、おまえらーーー!!」 怒りに燃えたサキがホースを奪い、二人に向かってかけ始める。 二人はまっすぐMSのほうに逃げていく。 「おいおい、ちゃんとMSのほうにかけてくれよー。」 近づいてきた二人にタナカが苦笑いする。 「ご、ごめんなさい。きゃあ!」 謝るオーノに再び命中する水。 「オラオラ、お前らちゃんと磨けー!」 さっきの怒りはどこへやら。笑顔で水をかけ始めるサキ。 「あはは・・・。いやー、今日は一段と楽しいなあ。」 「うん。なんかいいね、こういうの。」 ササハラとコーサカが向き合って笑いあう。 水浸しになったオギウエがそこにやってくる。 「コーサカさん、あの人止めてください!!」 「あはは。わかったよー。」 そういって颯爽とサキのほうに向かうコーサカ。 「・・・びっしょりだね。」 「・・・ええ。散々です。」 「あはは・・・。でも楽しくない?」 「・・・そうかも、知れませんね。」 オギウエは少し笑った。つられてササハラも笑った。 日は下り始め、今日も一日がすぎていく。 次回予告 皇国軍の任務を受けた一人のスパイ。 第801小隊への潜入に成功する。 しかし、そこには懐かしい顔が。 そして自分の仕事に疑問を持ち始める。 次回、「女スパイ潜入」 お楽しみに。
*第四話・二人の少女 【投稿日 2006/02/08】 **[[第801小隊シリーズ]] 「どこだ・・・?」 ササハラはあせるように周囲に気を配らせる。 コクピットのディスプレイを凝視しながら、相手を探る。 周り一帯はジャングル。木は多く、視界が明瞭ではない。 「くそ・・・。」 ガサ・・・。 後ろから響く草を分けるような音。 「そっちか!?」 そちらのほうに機体前方を向ける。しかし、そこには何もいない。 「・・・なんだ・・・?」 そう思った瞬間、後ろから衝撃が加わる。 「ぐは・・・!!」 そのまま前のめりになり、一瞬息が止まるササハラ。 機体自体もバランスを崩して倒れこむ。 「く・・・。」 何とか体勢を整え、その衝撃のあった方向へ向き直る。 「うわ!!」 その瞬間、ササハラの視界は真っ赤に染まった。 「くっそ~~。勝てないな~。」 ジャングルの外、基地を丁度目の前にする道路にて。 ジムから降り、悔しそうにしながら手袋を脱ぐササハラ。 「けけけ。もう何連敗目だ?しっかし、コーサカの奴つえーわ。」 ジャングルの外にて待機していたマダラメがササハラのボヤキを皮肉った。 「はは。まあ、でもだんだんとうまくなってるよ。」 コーサカもジムキャノンから降りてきて、会話に混ざる。 「性能もほぼ一緒の機体でここまでかなわないと、流石にへこむよ・・・。」 そう、今行っていたのは模擬戦であった。 水性塗料の入った水鉄砲のような模擬銃と、白い後のつく模造刀を使い、 801小隊は良くこの近くのジャングルで模擬戦闘を行うのだ。 「いやー、ササハラもそう弱くはねーと思うんだがな。  コーサカが飛び抜けすぎだ。俺でも勝率3割程度だからな。」 「一応、それで生きてきましたからね。  正直、ジムキャノンだと機体が追いついてこないんですよ。」 苦笑いするコーサカ。 「ほう。あのガンダム、相当反応性いいんだな。」 「ええ、僕以外の人だときっと機体に振り回されますよ。」 「すごいね。心強いなあ。」 感心しきり、といった表情をするササハラ。 「よーし、次はクチキとクガヤマでいくぞー。」 「了解であります!」 「わ、わかったよ。」 「ふ~、暑いねえ。」 「ですねえ。」 医務室にてうちわを仰ぎながら座っているオーノとサキ。 「もう二週間がたつんですね・・・。」 あの事件から、すでに二週間が経過していた。 その間、これといった事件も、戦闘も無く、801小隊は日々まったりしていた。 「最前線って言うから日々ドンパチしてるもんなのかと思ってたよ。」 「そこまでする価値も無いんですよ、この地域には。」 一面のジャングル、交通の便も悪く、特に拠点が近いわけでもない。 皇国にとっても攻める価値も無く、連盟にとっても守る価値も無い。 「いわば、見捨てられた土地なんですよ、ここは。」 「ふーん・・・。まあ、そのほうが楽できるし。」 「ええ、このほうが、私もいいと思います・・・。」 そこに現れた一つの影。 「・・・戻りました。」 「お、オギー。」 「そのオギーっていうのやめてくれませんか?」 「まあ、いいじゃないですか。大分良くなりましたね。」 「・・・貴方がいたらそうならざるを得ません。」 むすっとした表情をしながら、ベッドに入るオギウエ。 「はは。毎日無理やりご飯食べさせられてたもんな。」 「食欲が無いって言っても・・・。」 「食べないと、大きくなりませんよ!」 「もうそんな年じゃありませんから!」 オーノが無理にオギウエの口を開け、食事をねじ込む姿は想像するに難くない。 「それにしても、言葉使いも変わったね。」 「・・・一応、敬意は払っておこうかと思いまして。」 オギウエの口調が変化したのは三日前。その変化に一同驚愕とした。 「まだ、信頼はしてくれないようですね。」 「・・・私は連盟軍を憎むべき敵だと教わってきましたから。  血も涙も無い鬼畜の軍団だと。」 「おいおい・・・。そんな人間だけの集団なんてあるかよ。」 思わず苦笑いのサキ。 「・・・貴方たちは妙なほどお人よしのようですけど。」 「うふふ。それがいいところなんですよ。」 にっこり笑うオーノに対して、赤面して布団をかぶるオギウエ。 「ありゃ。かわいいもんだね。」 「うーん、もう少し心を開いてくれるといいんですけど・・・。」 「ということになっているわけで・・・。・・・ササハラ聞いてんのか!?」 タナカが眠りに落ちそうなササハラに向かって檄を飛ばす。 先ほどの模擬戦も終わり、一同整備場に集まり整備をしていた。 整備員といえる人物は実はタナカしかいない。 クガヤマを初めとして、パイロットも総動員でメンテナンスを行う。 MSの数が多くなったため、みな整備も大変そうだ。 「は!す、すいません!」 ササハラは新システムの講義を聴いていた。 この前の戦いでの事情を聞いたタナカが数千ページはある資料を一週間で読破し、 ササハラにうまく伝えようと開いた講義だった。 しかし、何が何やらで、眠気がたまっていく一方であった。 かれこれ一週間も、講義を繰り返しても半分くらいしか理解できなかった。 「・・・まあ、薀蓄はいいか。  まあ、早い話が、このシステムは人格をモデルにしてる。  それがどこぞのニュータイプの女性、って話だ。」 「はあ。じゃあ、あの声はその人のってことだったんですね。」 「だろうね。」 「うまく、必要な情報を取りださなきゃいけないのか・・・。」 「まあ、慣れだろうな。うまくその人格と意思疎通をしなきゃいかんよ。」 「うーん。じゃあ、そろそろ試してみます。」 そういって、ササハラはジムのほうへと向かう。 「おう。そろそろいいだろ。がんばれよー。」 「えーと、システムオン、と。」 カチ。 機械音が響き、再びあの声が頭に響き渡る。 『・・・何がしたいのですか?』 「あなたの事が知りたいです・・・。」 素直にその声に答えていくことにするササハラ。 つい敬語になってしまうのは、 相手がニュータイプだと聞いてしまったから。 そして、要はコミュニケーションをとればいいのだと判断してみた。 一週間の講義はそれだけしか残っていない。 『・・・私?私は・・・よく解らない・・・。』 「そうですか・・・。名前・・・もですか・・・。」 そういえば、と。このシステムの名前を思い出した。 『こいつはプレジデント・システムといってだな・・・。』 タナカの講義を少し思い出した。 統轄者、という意味らしい。空間をそうする、という意味なのだろう。 しかし、プレジデント、といわれてササハラが浮かぶのはこっちの単語だった。 「・・・会長とでも呼べばいいですか・・・?」 『それが、私の名前?』 「うん。昔知り合いの生徒会長がジョークでプレジデントって呼ばれてまして。  言いやすいし、それでは駄目ですかね?」 『かまいません・・・。』 その声に、少しだけ前進できたことを悟るササハラ。 『他に何かしたいことは・・・?』 今回はなぜかヴィジョンが入ってくることはなかった。 タナカによると、それはササハラ自身が周囲を見ようとしたからだという。 その意思を感じ取ってシステムは映像を送ってきたが、 うまく疎通が出来なかった結果とのことだ。 「・・・ん、今のところありません。また今度よろしくお願いします。」 『はい。また・・・。また、があるんですよね?』 「ええ、もちろんです。」 「ふう。」 ジムから降りてきたササハラは一息ついた。 まるで記憶喪失の人間相手にしているようだった。 「なんなんだろうなあ、このシステム。実験的なものって言っても、  これじゃまんま実験させられてる気分だな・・・。」 腕を組み、少し悩むササハラ。 「ま、気にしてもしょうがないか。」 これがうまく使えるようになったら、この戦いの中でも生き残れるだろう。 他の人を助けることも出来るかもしれない。 大きな力を手に入れるチャンスを、むざむざ逃す手はない。 「おーい、ササハラ~、飯にすんぞ~。」 マダラメの大きな声に、笹原は振り向く。 「は~い、いま行きま~す。」 食堂では、すでにオーノとサキ、オギウエが食事をしていた。 「ごくろ~さん。毎日大変だねえ、戦争ごっこ。」 「一応、戦闘訓練なんだがな。」 そのサキの言葉に反応するマダラメ。 「まー、似たようなもんじゃない。」 「なんか遊んでるみたいじゃねえか、それじゃ。」 むっとして、食事を持ってマダラメは椅子に座る。 「ははは。遊んでるかー。そう見えなくもないかな。」 「サキちゃん、やめなってー。」 苦笑いするのはコーサカ。 「・・・遊びだけで終わったらそれでもいいんだけどな。」 そういって、少しマダラメはあきれた表情をする。 「・・・ごめん、言い過ぎた。」 マダラメたちが本物の戦争をして、日々を過ごしている。 それを茶化すような言葉になったことを素直に謝るサキ。 「へ?・・・まあ、いいってことよ。」 素直に謝られて、少し拍子抜けしたマダラメは、皮肉っぽく笑った。 「あはは・・・。本当、そうですよね。  遊びだけで戦争が済んだらどんなにいいことか。」 ササハラがマダラメの意見に同調する。 「・・・ま、まあ、そうはうまくいかないから俺らはここにいるわけだし。」 「しかし、まあそろそろ終結だろうな。」 タナカの言葉にいっせいにそちらを向く一同。 「え、どういうことですか?」 ササハラが一番最初に質問した。 「大隊長に聞いた話なんだがね・・・。」 「そこからは僕が話すよ。」 ビクッ! 声がした方向を見ると、さっきまでいなかった大隊長がいた。 「い、いつの間に・・・。」 「さっきだよ?まあ、それはともかく。」 そういいながら、みんなの座っている中心近くに移動する大隊長。 「戦場が完全に宇宙に移り変わったよ。  皇国軍の大半はすでに宇宙に帰還してる。  一部のゲリラ部隊だけが取り残されてるみたい。」 「マジですか・・・。」 マダラメがその言葉にほっとしたようにため息をつく。 「そ、そんな・・・。」 その言葉に一番反応したのはオギウエだった。 わなわな震えながら言葉を発する。 「そんな馬鹿な!わが軍が撤退してるって!?  そんなわけない!何かの間違いだ!」 「・・・しかし、紛れもない事実なんだよ。」 「お、落ち着いて、オギウエさん。」 ササハラがオギウエを抑えようと近づく。 「・・・落ち着けるもんか・・・。私は・・・。復讐を果たさなきゃ・・・。」 「復讐?」 「そうだ!連盟軍に殺された家族の!」 その言葉に場は凍りつく。 「私はアキバコロニーの住人だった・・・。」 「アキバコロニーってあの・・・?」 オーノがその言葉に反応し、声を漏らした。 「・・・あの大爆発事件か・・・。」 アキバコロニー。 丁度地球圏と皇国コロニーとの中間にあったそのコロニーは、 戦争開始当初、大きな戦場の舞台となっていた。 MS開発において出遅れていた連盟軍は不利な状況におかれ、 使用したのが超大型核ミサイルだった。 しかし、発射されたミサイルは皇国軍を巻き込むと同時に、 コロニーにも大きなダメージを与え、偶発的に爆発へといたった。 ・・・というのが大半の見解だが、これに異を唱える者もいる。 「私はその瞬間を見てた!一人で乗った脱出船から!  家族はみな死んだ!私はそれを復讐しなきゃならないんだ!」 「・・・それでも復讐なんて意味ないよ。」 「お前に何がわかる!お前も人殺しだろう!  だったら、あの時私も殺せばよかったんだ!」 バシッ! ササハラがオギウエの頬を張った。 「・・・!」 無言のままオギウエは走って外へと飛び出していく。 「・・・あ・・・。」 叩いてしまった手のひらを見ながら、ササハラは大きく後悔した。 「オギウエさん、ここでしたか。」 基地の屋根の上、窓から出られるベランダにオギウエはいた。 あの後、皆でオギウエを探すことにしたのだ。 ベランダで体育座りをして一人涙ぐむオギウエ。 「あれは言っちゃいけませんでしたね・・・。」 オーノはその横に座る。 「ササハラさん、ものすごく後悔してましたよ。」 「だって・・・。」 「あのね・・・?一つ聞いてください。」 オギウエに向かって優しい笑みを浮かべてオーノは語り掛ける。 「ここにいる人のほとんどは戦争で家族とか友達を失ってるんですよ。」 その言葉に目を見開きオーノのほうを向くオギウエ。 「サキさんとコーサカさんは最近来られたので分かりませんが・・・。  私も・・・そうですし、タナカさんも、マダラメさんも、クガヤマさんも、クチキ君も。  ササハラさんも、生き別れた妹さんを除いて家族は死んでるんです。」 そういって微笑みを絶やさず、しかし寂しそうにオーノは前方を見つめる。 「それでも、彼らは敵兵をなるべく殺さないようにしてます。  戦争での復讐が何も生まないことを知ってるから・・・。」 オーノはオギウエのほうを向き直る。 「そう簡単に憎しみが消えることはないでしょう。  私も現にそうでした。しかし、ここの生活でよくわかりました。  戦争を早く終わらすこと。  それを犠牲になった誰もが望んでるんだってことに。」 再びにっこりと笑ってオーノは続ける。 「さあ、ササハラさんに謝りに行きましょう。」 「・・・あの・・・。」 俯いたままササハラの前に立つオギウエ。横にはオーノ。 「・・・ごめんね、さっきは叩いたりしちゃて。  カスカベさんに怒られちゃったよ。女に手を出すなんて~って。」 苦笑いで疲れたような表情をするササハラ。 相当サキに絞られたのだろう。 「いえ・・・。こっちこそ・・・なんていうか・・・。」 「・・・まあ、いろいろあるよ。戦争だからさ。  沢山のものがなくなる。人も、物も、思い出もさ。」 昔を思い返すように遠くを見つめるササハラ。 「・・・戦争が終わるのはいいこと・・・なんですよね。」 「うん。分かってくれたらそれでいいよ。」 にこりと笑ってオギウエを見つめるササハラ。 その顔に思わず赤面するオギウエ。 その変化に、ササハラも赤面してしまう。 その光景をにやりと笑って見つめるオーノ。 「おーい!いつものあれやるぞー!」 大きな声でタナカが外から声をかけてくる。 「あ、はーい!」 近くの窓から顔を出し、答えるササハラ。 「さ、みんなでいこっか。」 「え、え、何を・・・。」 「そっか、オギウエさんは知らないのか。それじゃいってみようか。」 笑いながらオギウエの手を引き外へと向かうササハラ。 オーノもそれに続いた。 シャーーーーーーーーーーーーーーー。 盛大にジムとジムキャノンに向かって浴びせられる水。 「よーし、お前ら、気張って磨けー!」 そういいながら水浸しになって機体を磨く小隊員たち。 常に暑いこの地方だからこその涼み方。 一日一回の水浴び兼MSの汚れ落とし。 「毎日毎日よくやるねえ・・・。」 サキがホースで水を浴びせてるオーノの横で呟く。 「まあ、暑い昼を過ごすいい方法ですからねえ。」 「・・・楽しそうですね・・・。」 小隊員たちの楽しそうな姿を見て、うらやましそうに呟くオギウエ。 昨日までは、この時間はベッドにいたため、このことを知らなかった。 「じゃあ、行ってみれば?」 サキがにやーっと笑って、オギウエをけしかける。 「・・・いいです。別に・・・。」 「まあ、物は試しです、やってみましょうよお!」 そういうと、オーノはオギウエに向けて水をかける。 「な、なにするんですか!」 全身ぐっしょりになって怒りをあらわにするオギウエ。 「うふふ。ほら涼しくなったでしょー?」 「頭きた!」 そういってホースをオーノから奪い、かけ返す。 「な、な、な・・・。」 「お返しです!」 ぎゃあぎゃあいいながらホースの取り合いを始める二人。 「おいおい。お前ら少し落ち着けよ・・・。」 バシャ。 手元が狂ったのか、思いっきりサキに命中する水。 「お、お、おまえらーーー!!」 怒りに燃えたサキがホースを奪い、二人に向かってかけ始める。 二人はまっすぐMSのほうに逃げていく。 「おいおい、ちゃんとMSのほうにかけてくれよー。」 近づいてきた二人にタナカが苦笑いする。 「ご、ごめんなさい。きゃあ!」 謝るオーノに再び命中する水。 「オラオラ、お前らちゃんと磨けー!」 さっきの怒りはどこへやら。笑顔で水をかけ始めるサキ。 「あはは・・・。いやー、今日は一段と楽しいなあ。」 「うん。なんかいいね、こういうの。」 ササハラとコーサカが向き合って笑いあう。 水浸しになったオギウエがそこにやってくる。 「コーサカさん、あの人止めてください!!」 「あはは。わかったよー。」 そういって颯爽とサキのほうに向かうコーサカ。 「・・・びっしょりだね。」 「・・・ええ。散々です。」 「あはは・・・。でも楽しくない?」 「・・・そうかも、知れませんね。」 オギウエは少し笑った。つられてササハラも笑った。 日は下り始め、今日も一日がすぎていく。 次回予告 皇国軍の任務を受けた一人のスパイ。 第801小隊への潜入に成功する。 しかし、そこには懐かしい顔が。 そして自分の仕事に疑問を持ち始める。 次回、「女スパイ潜入」 お楽しみに。

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