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*とりかえばや物語 【投稿日 2006/02/05】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] オギルームで笹原と荻上は頻繁に会うようになっていた。 二人はキスを交わしている。互いに目をつぶり、うっとりした表情でく ちびるを重ねている。そしてお互い、ゆっくりとくちびるを離し、閉じた目 を開け、お互いの目の前の顔を見つめた。そして、『その異変』に気付いた。 笹・荻「えっ!」 二人が見たものは、お互い見慣れた自分の顔だった。 荻(笹)「俺?こっこれはどういう・・・」 笹(荻)「しっ信じられない・・・こんな事が・・・」 荻(笹)「おっ落ち着いて!いや!落ち着かなきゃいけないのは俺か・・・」 笹(荻)「落ち着けって言ったって無理ですよ!」 二人は混乱する頭をどうにか収めようと、懸命に状況の判断に努めたが、事 態を理解する事はできなかった。 荻(笹)「とっとにかく、整理してもう一度考えよう。なっ何か分からない けど、俺たちの体が、もとい心が入替ったと・・・。原因は不明・・・。誰 かに相談は・・・。」 笹(荻)「むっ無理ですよ!こんな・・・漫画かアニメみたいな話・・・。 信じる以前に気が狂ったと思われますよ!」 荻(笹)「だっだよねえ・・・。となると原因が分かるまでこのまま・・・。」 事態を受け入れ、落ち着きを取り戻すと、二人は今後の事を相談し始め た。まず何時元に戻れるか分からないので、しばらく一緒にいると言う事、 その間、この事は周囲には秘密にしておき、二人の生活を続けると言う事に した。 とりあえず、笹原は卒論の為のゼミの単位が残っており、それを落とす わけにはいかないので、荻上に出席してもらう。ゼミの交友関係は事前 に説明した。もちろん笹原にも荻上の出席する講義に出てもらうという 事にした。講義やゼミの内容は後でお互い情報交換するという事もこま ごま決めあった。 荻(笹)「とりあえず、いのちの危険や生活に支障は無いわけだから・・・」 笹(荻)「大有りですよ!他人の体なんて!それに男の体なんて・・・」 荻(笹)「まあ、それは俺も一緒だし・・・はーこれからどうなんのか・・・。 ってごめん、トイレ行きたくなった」 笹(荻)「!!!!!!!」 笹(荻)「ダメです!絶対ダメです!」 荻(笹)「無茶だよ・・・。漏れちゃうよ・・・」 笹(荻)「大丈夫です!何とかなります!でっでも漏らしたら、呪います! 舌かみます!」 荻(笹)「そんな馬鹿な!つかもう無理・・・」 笹(荻)「あっ!」 バタン ジャー (静寂) 荻上はうなだれている。 笹(荻)「・・・見ましたか・・・聞きましたか・・・」 荻(笹)「(汗)・・・いや見てないよ・・・聞いてないし・・・」 笹(荻)「ウソです!!こっこんな生き恥・・・」 荻(笹)「おっ落ち着いて!いまさらそんな恥ずかしがっても・・・」 笹(荻)「(涙)どんな間柄でも見られたくないもんありますよ!ああもう・・・」 荻(笹)「うわー、窓から飛び降りても、ここ一階だから意味無いって!取 り乱されると、荻上さんの体じゃ、俺の体押さえられないんだ!落ち着い て!」 ぜえぜえ息を切らせて、ようやく落ち着きを取り戻した荻上はへたり込んで、 グスグス泣き始めた。 荻(笹)「しかたないよ・・・お互い様と言う事で・・・」 笹(荻)「グスグス・・・そうですね・・・。とりあえずトイレの時にはア イマスクと携帯プレーヤー付けてください」 荻(笹)「それで気がすむなら(あまり意味無いと思うけど)そうするよ。 トイレットペーパーは・・・」 笹(荻)「使うしかないですね・・・。ウォシュレット使用して、紙は多め に・・・。防臭スプレーも・・・。ううっこんな・・・変態ですよ・・・変 態・・・こんな会話・・・(涙)エロゲーのピーみたいな会話・・・」 笹原は荻上に慰めの言葉も見つからず、途方にくれていたが、自分自身も事 の大変さに気付き始めて、気が遠くなった。とりあえず、今晩は笹原が荻上 宅に泊まることになった。外出する気になれず、夕飯は家にある適当な食事 ですませた。 荻(笹)「・・・あの・・・風呂・・・どうしようか・・・」 笹(荻)「!!もっもちろん、入らないわけにはいきませんね・・・わたし が洗います!目隠ししてください!」 荻(笹)「ええっ?」 笹(荻)「何か文句でも?」 荻(笹)「いえ(汗)」 目隠しをされた笹原は荻上に手を引かれて、浴室まで先導された。脱衣所で 荻上の手を借りて、服を脱ぎ、目隠しをしたまま浴室に入った。荻上は当然 服を着たまま、一緒に浴室に入った。 (かなり変だ。かなりヤバイ状況だよな・・・) と笹原は思った。 荻上はボディーソープをタオルにつけて、笹原、もとい自分の体を洗い始め た。笹原は自分の体じゃないとはいえ、触覚は自分のものなので、タオルが 体をはう感触はしっかり感じていた。 荻(笹)「目隠ししてると、なっ何か変な気分になってきたんだけど・・・」 笹(荻)「わっわたしもですね。なんか腹の下が痛いんだけど・・・。いっ いやらしいですね!」 荻(笹)「なっ!いやらしいのは君だろう!」 ギャーギャー言い争いながら、どうにかこうにか、笹原は入浴を終えた。笹 原は荻上のパジャマに着替えた。 笹(荻)「次はわたしですね」 荻(笹)「手伝うよ」 笹(荻)「けっこうです!」 荻(笹)「ずるい!」 笹(荻)「はあ?」 荻(笹)「いえ、何も・・・(汗)」 荻上が入浴中、笹原はコンタクトをはずした状態でぼんやりと部屋の様子を 眺めていた。 (うわ、何も見えない・・・。近眼ってこんな感じなのか・・・眼鏡の場所 聞いてなかったな。コンタクトのつけ方も教えてもらわなきゃダメなわけ だ・・・) やがて荻上も入浴をすませて出てくる。 荻(笹)「荻上さん、長かったね。眼鏡どこ?何も見えないんだ」 笹(荻)「ああ、ここですね、すみません」 荻(笹)「ありがとう。ん?何その手鏡は?風呂に何を持ち込んでたの(怒)」 笹(荻)「いえ、あの・・・これは・・・その・・・(汗)」 二人はクタクタに疲れて、その日は寝入った。明日になれば元に戻ると、かすかな期待を抱きながら・・・。 だが翌日、目を覚ましても事態に変わりは無かった。戸惑いながらも二人は 入替りの生活を続けた。そうこうしてる内、一週間が過ぎた。 咲「おや、久しぶり!仲のよろしい事で!」 二人は一緒に久しぶりにげんしけんに顔を出した。 咲「一緒に住んでるんだって?早いよね」 笹(荻)「言っておきますが、同棲ではなく、同居!同居ですからね(怒)!」 咲「??笹ヤンらしくないなー、どう違うわけ?」 荻(笹)「(汗)まあまあ、おや、朽木く・・・いや先輩!」 朽木が部室に入ってきた。 朽「おや!お久しぶりですなー。お二方!いえいえ、荻上さんとはわたくし めが落とした講義でお会いしてますか!」 荻(笹)「そうだ・・・ですね」 朽「それにしても、荻上さん、クラスの最近評判がいいですよ!」 荻(笹)「えっ?」 朽「にこにこ笑顔をわけ隔てなく振舞ってますし、男子達も雰囲気変わった って驚いてますよ」 荻(笹)「そっそう?普通に振舞ってるだけなんだけど・・・(普段の彼女っ ていったい・・・)」 朽「ところで、先日も本屋で荻上さんを見かけましたよ!エロゲーの雑誌の コーナーで立ち読みされてましたよね!荻上さんも興味あったとは知りま せんでしたな!わたくし!」 荻上は笹原をキッとにらむ。笹原は冷や汗を流して、目をそらした。 咲「それより、笹ヤンの評判が心配だよ。聞いたよ、ゼミの討論で論争吹っ かけて、相手をけなしまくったとか・・・。それに笹原を乙女ロードで見か けた奴がいて、笹原の交際は実はカモフラージュで、実はガチホモだっつー 噂が・・・」 荻(笹)「そんなわけないでしょう!」 咲「まあ、荻上が一番知ってるわけだろうけど・・・」 咲はニヤニヤしながら、二人を見た。 笹原が荻上をジッと見ると、荻上は滝のような汗を流してスッと顔をそむけ た。 帰ってから、二人は口喧嘩を始めた。 荻(笹)「あの時、遅く帰ってきたのはそんな理由で・・・俺の評判が・・・」 笹(荻)「笹原さんこそ!わたしの姿で変な事しないでください!」 結局、その日は二人は口もきかずに寝てしまった。そして次の日の朝・・・ 笹(荻)「あれ?どうかしました?」 荻(笹)「なんか・・・おなかの下が・・・痛い・・・気分も悪い・・・」 笹(荻)「あ・・・」 荻(笹)「何なのこれ・・・」 笹(荻)「せっ生理ですね・・・。すみません、ドタバタして忘れてました。」 荻上はいたたまれない表情で、顔を真っ赤にして、表情を歪めた。 荻(笹)「そんな・・・謝らなくても・・・(俺もデリカシーが無かった)こ んなに苦しいもんなの?」 笹(荻)「普段はそんなにひどく無いですよ。たぶん、ストレスで・・・と にかく、生理痛の薬とかありますから・・・それと・・・」 笹原は荻上に教えられた通りにしたが、やはりこういうデリケートな事柄は 二人ともいたたまれず、気まずい雰囲気になった。 笹(荻)「じゃあ、寝ててください。わたしはゼミ出席と卒論の資料借りて くるのに、大学行きますから・・・」 荻(笹)「うん・・・わかった・・・」 荻上が出てってから、笹原はぼんやりと考えた。 (大変だな・・・何と不自由な・・。何も気配りしてやってなかったんだな、 俺・・・) この不思議な体験を通じて、理解した『つもり』になっていたのに、実 は何も理解してなかったと分かった。変な話だが、笹原は男の自分の体 を見て、興奮するとは思いもしなかった。 女の人もそういうもんかと思ったが、荻上に言うと、傷つけそうなので 言わなかった。最近はそうではないが、やはり自分の汚い面や恥ずかし い面を見せる事への恐れが荻上にはあったから。 笹原は近眼の目で、鑑に薄ぼんやりと映った荻上の姿を見て思った。 (そういや、まじまじと彼女の『姿』見たこと無いよな・・・一人だし・・ いい機会だよな・・・) 笹原はパジャマのボタンに手が伸びて、一つ目のボタンを外した。だがそこ で、荻上に申し訳ない気がしてやめた。やがて生理痛の薬が効いてきて、眠 りについた。 荻上は大学に向かう電車の中で思った。 (男というのも、思ってたより不自由なものね・・・) 散々、自分の妄想の中で弄んでいながら、いざ自分が男になってみると、意 外なほど自分が無知であると気付いた。(笹原には悪いが)しげしげと眺め てみると、想像してたよりも不恰好で、自分の意志に反した部分であるとい うのも驚きだった。 先ほども、こともあろうに自分の体に興奮していたなど、笹原に知られるの が怖かった。 (本当にわたし、女子大生?) 自分の無知に呆れると同時に、自分のその抑えがたい欲望と好奇心が妄想に 拍車をかけていたと気付いた。同時に、やおいに対する嗜好とはそれは別な のだが、そうした生々しい自分の恥ずかしい面を笹原に見せても、考えてい たよりも平気な自分に驚いた。 (望まずともお互い見てしまったわけだし・・・) 荻上は『その時』の事を思い出し、顔を赤らめた。好奇心を抑えがたく、こ のまま弄んだら・・・とあの時思ったが、さすがに罪悪感に囚われ、それは やめた。 笹原が目を覚ますと、目の前に自分の顔があった。 荻(笹)「寝てた・・・」 笹(荻)「もう大丈夫ですか?」 荻(笹)「うん・・・」 笹(荻)「思ったんですけど・・・キスしてこうなったんですから、同じよ うにキスすれば戻るんじゃないでしょうか・・・」 荻(笹)「戻らなければ?」 笹(荻)「一生このままでもしょうがないですね。お互い隠すものなど、も う何もありませんから・・・。あるいは・・・さらに先の方法を試すという 手も・・・」 荻(笹)「俺が『受け』で君が『攻め』?」 笹原は荻上に笑いかけた。 笹(荻)「逆でもいいですよ」 荻上も笹原に微笑み返した。 笹原と荻上は目をつぶってキスを交わした。 目を開けると、あるべき姿が目の前にあった。 笹「なんだ、意外と簡単だったんだね!」 荻「悩んで損しましたね!」 もう一度試してみたが、今度は変わらなかった。 笹「たまには変わるのもいいかな?」 荻「わたしはもう嫌ですね!!」 とある二人に起こった不思議な出来事・・・。
*いくらハンターⅡ 【投稿日 2006/02/07】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] 大学の帰り道、まだ明るい時間帯のこと。 荻上はコンビニに寄ると、またしても弁当コーナーに 「ミニいくら丼 395円」という新商品を発見した。 狼の目で手にとって真剣に眺める荻上だったが 『でも、まだ夕食時間じゃないし…ミニなら夜食かな?』 ちょっと名残惜しそうに棚に戻す。 なんだか前と同じ失敗をしそうな荻上だが…。 夜も更けて。今夜は、夏コミで本を買ってくれた人からの依頼で くじあん女性向けアンソロ本に寄稿することになって、 2ページ分の原稿に向かっていた。 冬コミではなく他のイベントでだが、マイナーな 盛り上がりに参加できるのは嬉しくも有った。しかし…。 「降りてこないナァ」 1枚物のイラストなのでアイデア勝負なのだが、今日に限って なかなかコレ!という萌えシチュエーションが降りてこなかった。 右側に描くものが決まらないので、左に描くピーな物の シチュエーションも決められない。 その時、携帯の着信メロディーが穏やかに鳴る。 BUMP OF KITCHEN(通称バンキチ)の「超新星」。 しみじみと良い曲で笹原への感謝を忘れないように という自戒の意味もある。 すぐにぱかっと携帯を開いて笹原のフォルダを開く。 「なんか原稿やるって言ってたよね?差し入れしに寄るよ。  あ、泊まらないから気を遣わないでね。邪魔しちゃ悪いし。  今からコンビニだから何か欲しいものあったら言ってね。」 「ありがとうございます。締め切りは遠いので気を遣わないで下さいね。  でも嬉しいです!それで…ミニいくら丼を買って来て貰えれば……。  笹原さんの好きなチャイと角砂糖の準備をして待ってますね。  寒いから気をつけてください。」 返信を送ると、気分転換になると思い、シナモンなど香辛料と茶葉を ごそごそと取り出しにかかる荻上だった。 しかし、なかなか笹原は来なかった。 30分ぐらいなら気にならないが、40分、50分となると不安が募る。 「夜に来る時は自転車で来る事も多いけんども、今日は歩きなんべか?  それとも交通事故とか…いやいや、心配性過ぎだナァ……」 などと考えていると呼び鈴の音。 荻上は返事もせず扉に走ると、覗き窓も見ないでそのまま扉を開ける。 「あ、ごめん。遅れちゃって……。  あと、もひとつゴメン!いくら丼探したけど無かったんだ」 荻上の憮然とした表情に、笹原は焦って言い訳を続ける。 「今日は自転車だったから4軒巡ったけどどこにもなくって―――」 「いいですから!」 笹原の冷えた手を、荻上の小さく温かい掌が包む。 「イクラ丼より笹原さんが来てくれたのが嬉しいんですよ」 「えっ、でも………」 「心配だったんですから。もう……入ってください」 とりあえず買ってきたミートソーススパ1つを机に置き、 まずは二人で熱いチャイを飲む。 「笹原さん、チャイだけは砂糖山盛りなんですよね」 「ん、まあね」 「それ、食べる時はレンジで温めるから言ってね。  原稿続けてよ。―――調子はどう?」 「やー…その……じょ、女性向け2Pなんですけど、どうも……」 「あ(汗)ひょっとして俺のせい? ほんとゴメン」 「いえ、その前からアイデア出てませんでしたから……」 しばし無言になる二人。 立ち上がると、スパゲティーをレンジに運ぼうとする笹原だったが 「あ―――、ちょっと」 「え?あぁ、ひょっとして…気分じゃない(苦笑)?」 「うぅ……ごめんなさい、せっかく買ってきてもらったのに」 ちょっとへこんで、へにゃっと潰れ気味になる荻上だった。 「いや、前にもいくらモードになると他の食べ物が入らなくなるって事が有ったし  ひょっとしてって思って、これ1つだけ買ったんだ(苦笑)。俺が食べるよ」 「なにから何までスミマセン…ありがとうございます」 ちょっと涙が滲みそうな雰囲気だが、流石にこんなことで泣けないと ぐっと表面張力で頑張る荻上だった。 『笹原さん、ありがとう……私って、けっこうワガママなんだな……』 笹原はそんな荻上の潤んだ瞳を見て一瞬顔を曇らせたが、次の瞬間 晴れやかな笑顔でこう告げた。 「じゃあさ、二人で探しに行こうか!」 「―――え?」 「だからさ、深夜のコンビニツアーに、探索の冒険に出立さ(笑)」 ちょっとおどけた笹原の口調。 『深夜…ツアー…探索…冒険』 そのキーワードと、笹原の楽しそうな様子につられて荻上にも笑顔が戻る。 「なんか、わくわくしてきました」 「夜明けを待たないで帆を張るんだよ」 「私達、愚かな夢見人ですね(笑)」 二人にしか通じない、歌詞の引用。バンキチの「船出の日」だ。 笹原はもう立ち上がるとコートを羽織り始めている。 荻上も、慌ててコートと手袋とマフラーを準備した。 外に出ると、真っ暗な闇夜に白く雪がきらめいている。 そして笹原が自転車に跨って振り返っている。 「さあ、乗ってよ」 「っはい!」 荻上の頬が少し赤いのは、寒さのせいではなく興奮しているせいだ。 後輪の軸のステップに足を掛けると、荻上はしっかりと笹原の胸に抱きつく。 前に二人乗りした時は、肩に手を付いて離れて不安定になったり、逆に 首を絞めてしまって大変な事になった経験が生かされている。 まあ、笹原もこれで心身ともに暖かくなるだろう。 二人乗りの自転車は重いダイナモの音を響かせながら 雪の夜道に旅立っていった。 「沿線の違うあっちの町に行ってみようか?」 「私、あっちの道は喫茶霊峰までしか行ったことありません」 二人で雪の深夜に出かける、そして探索の旅。そのことで高揚した二人は きっとすぐに目的のいくら丼と、楽しい記憶の財宝を手に入れるだろう。 荻上が深夜の自転車二人乗りのシチュエーションで原稿を仕上げたのは また後の話―――。

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