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*あやしい2人 【投稿日 2006/02/04】
**[[カテゴリー-その他>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/52.html]]
笹荻無事成就してから2ヶ月ほど後のある日曜日、笹原と荻上さんは神田神保町の古書店街に出かけた。
2人のお目当ては、今度新たにオープンした同人ショップだ。
付き合い始めた頃は、待ち合わせの場所と時間を決め、各々1人で買い物していた2人だったが今ではすっかり打ち解け、それぞれの買い物にもう1人が連れ添う形になっていた。
もっとも目的の同人誌が見つかると、見つけた方も連れ添った方も赤面してるあたりは相変わらずだ。
その店は思ったよりも品揃えが良く、2人ともコミフェス並みの分量を買い込んだ。
2人が戦利品を背負って店の外に出ると、見慣れたひょろ長い男の姿があった。
朽木「おや、これは笹原先輩と荻チンじゃないですか」
2人は一瞬硬直したが、冷静に考えてみれば現視研公認のカップルである2人が慌てることもないことに気付き、多少ぎこちないが挨拶を交わした。
笹原「やあ、朽木君」
荻上「こっ、こんにちは」
朽木「お2人揃って、お買い物ですかな?」
笹原「うん、ここ新しくオープンしたんで様子見に来たんだけど…」
ここまで言いかけた時、クッチーの後方から声がかかった。
「朽木くーん、お待たせ!」
声の主は児童文学研究会(以下児文研)の会長(以下児会長)だった。
クッチーは去年の新人勧誘の一件以降、児文研の部室に出入りするようになった。
児文研の部室からだと現視研の部室の中がよく見えるからだ。
勧誘の一件以来大野さんや荻上さんと気まずくなり、なるべく2人きりにならないようにする為の、彼なりの気遣いだった。
児会長に正直に事情を話してお願いしたところ、クッチーが形だけでも児文研に入会することを条件に部室の使用を快諾したくれた。
(児文研もまた昨年は入会ゼロで存亡の危機に立たされていたのだ)
その後そのことが発覚し、却って大野さんたちの誤解を招いて危機に立たされたクッチーだったが、事情を説明してその危機を救ってくれたのが児会長だった。
(この辺りの詳しい事情はリレーSSのクッチーと児会長の項参照)
一宿一飯の恩義を忘れない男クッチーは、それ以来児会長を尊敬し崇拝するようになった。
珍獣として面白がっているのか、本質的にはいい奴だと見抜いているのか、児会長もクッチーのことを妙に気に入って何かと世話を焼いた。
先ずはこんなアドバイスをした。
児会長「あなたの言動は個性的ではたいへん面白いけど、普段はなるべく大人しく物静かにしていた方がいいと思うの」
朽木「やっぱりわたくしウザいですかね?」
児会長「そういうことじゃなくて、あなたの個性は非日常的なハレの場でこそ生きると思うのよ」
朽木「とおっしゃいますと?」
児会長「つまり現視研で言えば、コミフェスとか、学祭とか、コンパとか、そういう場にエネルギーを取っておいて、普段は出来るだけ自分を抑えるの」
さらに児会長は続けた。
児会長「刀というものは普段は鞘に仕舞っておかないと、いざという時に切れ味を発揮出来ないのよ。分かる?」
朽木「そうか!ギャグもそれと同じで、ここぞというところで言ってこそウケるんだ!分かりました、お師匠様!」
何時しかクッチーは児会長のことを「お師匠様」と呼ぶようになっていた。
次に児会長は、「この機会に、形だけでなく本格的に児童文学に親しんでみては」と様々な本を薦めた。
本のセレクトは、クッチーの趣味に合わせたのか最初は漫画やアニメやゲームのノベライズ版から始めて、次第に本格的なファンタジーや童話に移行していった。
最初はお師匠様からの課題図書という義務感から読み始めたクッチーだったが、次第に児童文学の面白さに目覚めてのめり込んでいった。
こうした児会長の教育により、クッチーのかつてのウザイ意味不明トークは、非日常的なイベントの場以外ではいつしか影を潜め、秋頃には無口な読書青年に変貌していた。
最近では部室で「銀河鉄道の夜」を黙々と読んでいて、咲ちゃんたちを「クッチーが宮沢賢治?」とドン引きさせたりしていた。
話を神保町の4人に戻そう。
笹荻のご両人は、今度こそ本格的に硬直した。
児会長「あら笹原君と荻上さん、お久しぶり」
荻上「こんにちは…」
笹原「ども、ご無沙汰してます」
児会長「今日はおデートかしら?」
笹原「まあ、そんなとこです」
赤面する笹荻。
児会長「よろしいですわね、お若い方は」
笹原「いやお若いって、歳そんなに変わんないですし…」
荻上「あの、会長さんと朽木先輩は…」
朽木「わたくしはお師匠様のお供だにょー」
笹荻「お師匠様?」
児会長「彼、私のことそう呼ぶのよ。大げさだから会長でいいって言ってるのに…」
朽木「何をおっしゃる!わたくしに人の道と児童文学の奥深さを教えて下さった方をお師匠様とお呼びするのは当然ですにょー」
児会長「(苦笑)ハイハイ」
笹原「それでその、お2人は今日は…」
児会長「時々この辺に買い物に来るんだけど、いつもたくさんまとめ買いしちゃうから重くってね、大抵は宅配便で家に送っちゃうんだけど…」
朽木「それを知ったわたくしが荷物係を志願した次第であります」
荻上「そんなに古書を?」
児会長「まあ児童文学系の原書とか買うこともあるけど、メインは矢倉書店よ」
笹原「矢倉書店って、ドラマや映画のシナリオのたくさん置いてあるあの矢倉書店ですか?」
朽木「お師匠様は院に上がられて児童文学の研究をお続けになる一方で、シナリオの執筆もなさっているのです。その為の勉強用の資料として、シナリオを多数買われるのです」
児会長「まあそういうこと」
笹荻「(尊敬)へー」
しばし歓談の後、児会長が切り出した。
児会長「さあさあ朽木君、何時までも若いお2人の邪魔しちゃ悪いわよ」
朽木「そうですな、後は若い方どうしで」
荻上「仲人さんじゃあるまいし」
笹原「ハハッ」
朽木「でもお師匠様、矢倉書店が開くにはまだ早いですな」
児会長「そうね。(同人ショップを見て)朽木君、ここ寄りたい?」
朽木「まあ寄りたくないことも無いですが、お師匠様は興味あるのですか?」
児会長「朽木君の話を聞く限りでは、なかなか面白そうな世界のようですね、同人誌って。ちょうどいい機会ですからヤオイというものを見てみましょう」
笹荻『(赤面し)会長がヤオイ?』
朽木「それならば解説はわたくしめにお任せ下さい。わたくし最近、ヤオイの道にも目覚めましたので」
笹荻『(最大赤面)クッチーがヤオイ?』
児会長「それは頼もしいわね。ぜひお願いするわ」
朽木「お任せ下さい。不肖朽木学、ループで鍛えた眼力でお師匠様にとっての直球ど真ん中の逸品を探し出してみせます」
児会長「それではお二方、わたしたちはこれで」
朽木「それでは朽木学、任務に戻ります」
笹荻のご両人は、同人ショップの店内に消えるあやしい2人を呆然と見送った。
咲「クッチーが彼女とデート?!!」
翌日、部室では咲ちゃんがサークル棟中に響き渡りそうな大声を上げた。
笹荻の2人には、別に昨日のクッチーのことを広める積もりも隠す積もりも無かった。
ただ昨日の笹荻デートの話からの流れでクッチーのことが出てきただけだった。
だが縁結びに異常な執念を燃やす見合い婆さんのDNAを21世紀に引き継ぐ咲ちゃんは、当然この話題に食い付いた。
笹原「いやまあ、まだデートと決まったわけじゃないし」
荻上「彼女と決まったわけでもないですから」
咲「いやそれって普通にデートだろ?なあ大野」
大野「うーん、どうでしょう…何か天変地異でも起きなきゃいいんですけど」
笹原「まさか…」
大野「いーや分かりませんよ。地震や台風は最近あったから…例えばこの冬例年に無い大雪が降って、この辺でも何十センチ単位で積もるとか…」
荻上「やめて下さい!ここらでそんなんになったら、豪雪地帯のうちの田舎だと死人が出ますよ!」
一瞬雪ん子オギーを思い浮かべてしまう笹原。
咲「でも言えてるかも。あたしの店の出資者の1人がデイトレで1発当てたここの学生なんだけど、株暴落したりして…」
咲ちゃんと大野さんの心配は、年末から年始にかけて的中してしまうがそれは後の話。
ちなみに斑目は我関せずと黙々と昼飯を食べていた。
そこへ入ってくるクッチー。
朽木「こにょにょちわー」
咲「(ニンマリと笑い)クッチーあんた、児文研の会長と付き合ってるってホント?」
朽木「何をおっしゃる!わたくしとお師匠様との関係は、そのような世俗的な男女の関係ではございませんぞ!」
咲「じゃああんたは会長の何なのよ?」
朽木「わたくしは、お師匠様が進む真理への道にお供する使徒に過ぎません!」
予想外の回答に戸惑う一同。
咲「じゃあさあ、その真理への道であんたら何やってんの?例えばこの間神田にいた日って他に何してたの?」
朽木「あの日は買い込んだ台本をお師匠様の家まで運んで、晩御飯をご馳走して頂きました」
大野「ご馳走って、それ会長さんの手料理ですか?」
朽木「ええ、お師匠様って料理も上手いんですよ」
しばし無言の咲ちゃんと大野さん。
咲「なあクッチー、会長と2人で会ってたのって昨日が初めて?」
朽木「最近は日曜や祭日のたびにお誘いがありますなあ」
咲「『お誘い?向こうからかよ!』それで誘われて何してたんだ?」
朽木「何とおっしゃられても…図書館や映画館に行くことが多いですな」
咲「2人で映画?」
朽木「お師匠様は脚本も執筆なさるので、その勉強の一環として映画をよく鑑賞なさるのです。それも古い映画がお好きなので名画座で見ることが多いです」
咲「映画の後は?」
朽木「映画の後は、いろんなとこに立ち寄りますよ」
咲「例えば?」
朽木「えーとこの間はレストランで食事、その前は酒飲みに行ったかな。お店はえーと確か…」
クッチーが名前を出した店を咲ちゃんも知っていた。
いい店だが高い店だ。
咲「それでお前ちゃんと金払ったのか?」
朽木「いえ、お師匠様ってけっこうお金持ちで、いつも奢って頂いてます」
咲・大野「……」
朽木「まあ奢ってもらってばかりでは心苦しいですから、せめてものお礼にわたくしもアキバを案内したり、アニメのビデオや漫画をお貸ししたりしてますがね」
突如部室に、甲高い笛の音に似た「ピピピピー!!」という音が3度響いた。
朽木「(携帯を出して)おっとお師匠様が呼んでる」
咲「マグマ大使かよ」
朽木「ではわたくしはこれで」
クッチーが部室を出た後も「第1回クッチーは児文研の会長と付き合っているのか会議」は続いた。
咲「映画に食事に酒に自宅に招待って、これってどう見てもデートだろ?」
大野「まあ後はピーがあるかどうかですね」
咲「あの2人のピーねえ…ちょっと想像しにくいな」
笹原「ハハッ」
荻上「それにしてもあの会長さん、朽木先輩のどこが気に入ったんですかね?」
一同「うーむ…?」
それまで黙々と昼飯を食べていた斑目が口を開いた。
斑目「あそこの会長って、確か俺が1年の時にはもう会長やってたな」
笹原「斑目さんが1年の時ですか?」
斑目「ああ、ドッキリに引っかかった後、初代会長から紹介された。(顔面蒼白で)あっ…」
咲「ん?どした?」
斑目「俺たちが1年の時って、ハラグーロが掛け持ちな関係もあって、ヤナ以外の漫研の会員もよくここに出入りしてたんだよ」
咲「?」
斑目「何かの話の流れで出た話なんでうろ覚えなんだけど、確かそん時3年生だった漫研の会長が言ってたんだよ」
咲「何を?」
斑目「児文研の会長って、漫研の会長が入学した頃から会長やってたって…」
部室に「ザワッ」という音が轟いた。
笹原「ちょ、ちょっと待って下さい」
大野「えーと、斑目さんが1年の時に3年生の人が1年の時に会長ということは…」
荻上「それじゃいったいあの会長さんっていくつ…」
咲「言うな!」
斑目の顔を見据える咲ちゃん。
咲「斑目、今の話忘れろ!(みんなに)私たちも、聞かなかったことにしよう!」
*イッツタフ! 【投稿日 2006/02/05】
**[[カテゴリー-その他>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/52.html]]
「ここが噂の乙女ロードか。うーむ確かに乙女がたくさん居るにょー」
クッチーは池袋の乙女ロードに来ていた。
彼は最近ヤオイにも目覚めた。
ここ1年ほどの間、部室にはヤオイ同人誌が毎日のように置かれており、1人になるとつい読んでしまい、それで病みつきになったのだ。
「おー空気が乙女の匂いでムンムンするにょー。(深呼吸)おー!」
思わずクッチーのピーが巨大化してしまった。
「まっ、まずいにょー!こんな女の子だらけのとこでピーがこんなことになってたら、変態と思われるにょー!」
幸いクッチーは前掛けのように大きなウエストポーチを股間の前にぶら下げていたので、外からはさほど目立たなかった。
「よし、かくなる上は何処かでトイレを借りて、ピーをピーして鎮めるにょー」
クッチーは乙女ロードから外れて、駅前の方へ歩き始めた。
駅前では大勢の人だかりが出来ていて、何やら騒がしい。
「ムムッ、何事にょー?」
野次馬たちの肩越しに、彼らが見物していたものを確認するクッチー。
野次馬たちの向こうでは、若い男女が何やら揉めていた。
男は長身のイケメンだが、黒のスーツにロン毛のホスト風。
女は茶髪のギャル風、そして見覚えがあった。
「あれは笹原殿の妹君ではござらんか。はてさて、いかがいたしたものか」
何故か時代劇風の口調になりつつ、助けるべきか悩むクッチー。
だが相手の男は、恵子相手に暴力を振るおうとするDQN男だった。
「ムムッ、おなごに手を上げるとは!もはや捨て置けん!」
殴られそうな恵子を見て、ついに仲裁に入ることにするクッチー。
朽木「まあまあまあ、ここはひとつわたくしに免じて、日本的馴れ合いで穏便にまいりましょう」
恵子「こいつ…朽木…?」
DQN男はクッチーを外見からオタクと判断し、甘く見て暴言を吐く。
DQN「ブサイクは黙ってろ!キモイんだよ!」
自分と対局の、イケメンだけで何の努力も苦労もせずにいい思いして生きてきたDQN男に2大NGワードを言われたクッチーは、脳内の制御装置のヒューズが切れた。
DQN「(恵子に)お前こんなのとも付き合ってるの?」
恵子「んなわけねえだろ!」
DQN男が恵子の方を見たその時、クッチーの右手が彼のロン毛を鷲掴みにした。
そして一気に手前に引き寄せて、頭突きを彼の鼻に炸裂させた。
DQN「ぶぎゃあ!」
情けない悲鳴を上げて、DQN男は頭突き1発で戦意喪失した。
まあ鼻がつぶれて鼻血を吹き、歯の何本かを失ったから無理もないが 。
だがキレたクッチーはその程度では終わらなかった。
今度は両手で髪の毛を掴み、一気に下に引き落としつつ顔面に右の膝蹴りを見舞う。
自分の胸の高さまで膝を蹴り上げた、ディーゼルノイばりの見事な天を突く膝蹴りだ。
(注釈)ディーゼルノイ
80年代後半頃に活躍した伝説のムエタイ選手。
タイ人には珍しい180センチの長身(ムエタイの選手人口が最も多いのは軽量級、ちなみに彼は長身なのにライト級)と抜群の強さ(観客にとってのムエタイは競馬のような賭博なので、強過ぎるとマッチメイク出来ない)ゆえに、若くして引退した。
得意技は膝蹴りで「天を突く膝蹴り」の異名を誇る。
歯がさらに数本折れた上に顎も砕け、完全に失神するDQN男。
それを蹴り上げた瞬間に手を放すクッチー。
倒れていくDQN男を、膝蹴りの際に振り上げた足が追って下りていく。
DQN男は膝蹴りの際に完全に気絶していたが、倒れて地面に激突した瞬間、そのショックで一瞬だけ意識を取り戻した。
だが次の瞬間には、後頭部の割れる音と共に再び暗黒の中に落ちていった。
彼が最後に見たものは、クッチーの靴の裏だった。
これでトドメと思いきや、キレて止まらなくなったクッチー、倒れた男の腹の上に馬乗りになり、いわゆるマウントポジションからさらに顔面を殴り始めた。
最初恵子はクッチーの意外な強さに呆然としていた。
だがマウントパンチはさすがにヤバイと思った恵子、クッチーにしがみついて止めようとする。
恵子「おいっ!もうその辺にしとけ!死んじゃうぞ!」
だがイッてしまっているクッチーには誰の言葉も届かない。
恵子はクッチーの正面に回り、往復ビンタを何発も食らわす。
だがクッチーは却って元気になって男を殴り続ける。
恵子は知らなかった。
クッチーが女性に殴られると3倍にバワーアップすることを。
恵子「ちきしょー、素手で殴っても効かないな。こうなったら…」
周囲を見渡す恵子。
野次馬の中に、どこか近くの店で買ったらしいゴルフクラブのセットを持ったオッサンがいた。
恵子「これだ!」
恵子はオッサンに駆け寄ると、クラブの1本をひったくった。
オッサン「おい、何するんだよ?」
恵子「ゴメン、ちょっと借りるね」
恵子はオッサンから無理矢理借りた5番アイアンで、クッチーの後頭部をフルスイングでぶん殴った。
パコーンという快音と共に、クッチーは正気を取り戻した。
朽木「おや、ここは誰?私はどこ?(自分が馬乗りになってるDQN男を見て)にょっ?君々、どうしたんだい?」
恵子「(くの字に曲がった5番アイアンを見つめ)こいつ…気絶させる積もりで殴ったのに…」
朽木「(DQN男に覆い被さり)よかった、とりあえず息はしてるな。待ってろよ君、今救急車を呼んでやるからな。それにしても誰がこんな酷いことしたんだ?」
野次馬一同『お前だ!』
その時、パトカーのサイレンの音が近付いてきた。
恵子「ヤバい、サツだ!」
恵子は5番アイアンを投げ捨てて、携帯を出しかけたクッチーの腕を取った。
恵子「んなことしてる場合か!ズラかるぞ!」
朽木「にょっ?それは何ゆえ…」
恵子「『こいつ、まるで覚えてないな』説明は後だ!」
恵子よりも当然クッチーの方が力は強い。
だが女性に強気に出られるとつい従ってしまうマゾ男属性ゆえに、クッチーは恵子に連れられて走り出した。
朽木「誰か救急車呼んであげてねー!」
心優しい男クッチーは、立ち去り際に野次馬にそう叫ぶことを忘れなかった。
散々遊び歩いた経験からか、恵子は池袋界隈の裏道を熟知していた。
巧みに人目を避けて2人が辿り着いたのはホテル街。
恵子「(ホテルの一軒を指して)ここ、入るよ」
朽木「にょ?」
恵子「今出歩いちゃ捕まるから、夜までここに隠れてるんだ」
朽木「それは何ゆえ…」
恵子「中で説明すっから!」
朽木「そんなことをやったんですか、わたくし」
恵子「ほんとに忘れたんだな、あんた」
ホテルの中で事情を聞いて慄然とするクッチー。
自分のリュックからトランシーバーのような機械を取り出し、何やら操作し始めた。
恵子「?」
やがてその機械から、何やら無線の交信中らしき会話が聞こえてきた。
マジ顔でダイヤル操作しつつ、それを聞くクッチー。
しばらく聞いていて、やがてスイッチを切る。
朽木「どうやらあの人、無事だったらしいにょー」
恵子「それ何なの?」
朽木「小型無線機ですにょー。これ1つでパトカーや救急車の通信が聞けますにょー」
恵子「そんなもん売ってるんだ」
朽木「もっともパトカーの通信は最近デジタル化してるんで、自分で少々改造しましたが」
恵子「…あんた意外と頭いいんだな。あっそうだ、頭って言えば、あんた頭大丈夫か?」
朽木「(後頭部を触り)何かコブになってますな。でもさほど痛くないですよ」
恵子「『あれでコブで済んだのかよ』そう…」
朽木「わたくしよりも、あの彼は大丈夫ですかにょー?」
恵子「死んでねえんなら問題ねえよ。ここいらは毎日もっとエグい事件たくさんあるから、たかがホスト1人殴られたぐらいじゃ、サツはマジにはならねえよ」
やや見当違いな答えを返す恵子。
恵子「まあここいらじゃ、あの程度のことはチャリ泥棒と一緒さ。見つかったら捕まえるけど、見つかんなきゃそんでチャラさ」
朽木「あのー立ち入った質問ですが、さっきの彼とはどのような…」
恵子「あーあいつね。前に行ったことあるホストクラブのホストさ」
朽木「ホストでありますか」
恵子「まあ少し付き合ってたけどね。あいつの顔で1回ツケにしてもらって、別れてからそのまんまにしてたら、さっき会ってツケ払えって絡んできやがった」
朽木「それは払った方がいいのでは…」
恵子「いいんだよ。どうせホストなんて顔だけで楽チンかまして金稼いでるんだから。それにあたし本名教えてないし…」
朽木「そういう問題では…」
恵子「んなことよりあんたさあ、服洗った方がいいよ。血まみれだし」
朽木「(自分の服を見て)にょ?ほんとだ」
恵子「脱ぎな。洗うから」
朽木「ここででありますか?」
恵子「ここのホテル、コインランドリーあるんだよ」
クッチーを脱がしにかかる恵子。
朽木「にょっ?そのようなご無体な…」
恵子「恥ずかしがってるガラかよ!ついでに風呂でも入ってな!」
恵子がクッチーの服を洗いに1度部屋を出て戻ってみると、クッチーはホテルのバスローブを着ていた。
朽木「あのーお風呂先に頂きました」
恵子「あたしも入るかな」
朽木「にょ?」
この段階になって、ようやく女の子とこういう場所に居ることを意識し始めたクッチー。
そんな彼を無視して風呂場に向かう恵子。
恵子もバスローブ姿で戻ってきた。
ベッドに座ってるクッチーの隣に座る恵子。
恵子「さてと準備が出来たとこで、ちょうどいいからあんたへのお礼を済ませとこうか」
朽木「お礼?」
恵子「やっぱオタはこういうことには鈍いねえ。この状況でお礼って言えば、アレしかないじゃん」
クッチーの股間に手を伸ばす恵子。
朽木「にょっ?」
思わずベッドから飛びのくクッチー。
恵子「(ニッコリ微笑み)そっちの方は元気そうね」
実はクッチーのピーは、乙女ロードで巨大化して以来そのままだった。
恵子「それにしてもあんた、ほんとタフだね。見直したよ、喧嘩も強いし。まあ顔はアレだけど、そっちの方は期待出来そうね」
恵子はベッドの真ん中に移動し、バスローブを少しずらして生足や肩を露出した。
見る見る真っ赤になるクッチー。
恵子「(人差し指で手招きし)カモン、年上のチェリーボーイ」
朽木「にょーっ!!」
こうしてクッチーは、今日2回目の制御装置停止と相成った。
そして翌日。
部室でデレデレする恵子とクッチー。
咲「でっ、何でそうなってるわけ?」
恵子「しゃーねーじゃん。だってやったみたら、すげーよかったんだもん。ねークッチー」
朽木「ねー恵子たん」
咲「やってみたらって、お前…それに恵子たんて…」
2人の言葉の語尾にハートマークを感じてたじろぐ咲ちゃん。
恵子「だってすげーんだよ、クッチー。初めてにしちゃすげー上手かったし」
朽木「日頃の訓練の賜物ですな」
咲「何の訓練だよ」
恵子「それにピーも意外にでかかったし」
笹原「お前そういうことを人前で…」
朽木「毎日使ってたから成長したのでしょう」
荻上「下品…」
席を立って部屋の隅に行く咲ちゃん。
咲「恵子、大野、ちょっとこっち来い」
2人が来ると、小さな輪になって何やらヒソヒソ話。
3人はそれぞれ両手を合わせ、一斉に少し広げる
何かの大きさを比べてるらしい。
にこやかに意気揚々と席に戻る恵子。
一方落胆の表情で席に戻る咲ちゃんと大野さん。
大野「いいんです。田中さんは30分もつから…」
恵子「クッチーは1時間はもつよ」
青ざめる大野さん。
咲「いいもん、高坂は最高で連続10回出来るから…」
恵子「昨日は覚えてるだけで20回ぐらいやったよ」
青ざめる咲ちゃん。
不機嫌な表情の笹原が口を開く。
笹原「お前実のアニキの前で、そういう話を露骨に…」
恵子「いーじゃん別に。減るもんじゃなし」
笹原「お前なあ…」
笹原の視線が一瞬クッチーの方を向く。
その大佐そっくりのマジ顔のガンツケにビビったクッチー、爆弾発言をかました。
朽木「こうなったらわたくし責任取ります!笹原先輩!今日から義兄さんと呼ばせて頂きます!」
笹原「えっ?」
一同「えーっ?」
恵子「いーねー、それ。週7日やりまくりじゃん」
笹原「お前の頭ん中はそれ1色か!」
笹原の隣の席では、荻上さんが頭の中で家系図を組み立てつつ考え込んでいた。
やがて1つの結論が出て思わず叫ぶ。
荻上「ダメです!そしたら朽木先輩が弟になっちゃう!」
一瞬固まる一同。
そこで自分が叫んだことの意味に気付いて赤面する荻上さん。
隣では笹原も赤面している。
朽木「おおそうか。よろしく千佳義姉さん」
荻上「やめて下さい!」