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*新年サークル始動 【投稿日 2006/01/07】 **[[カテゴリー-現視研の日常>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/49.html]] 「ふう~~~。」 冬が過ぎ、春の心地よい風が吹いてくる。 時は3月。別れのシーズンだ。 サークル棟の屋上にて笹原は春の心地よい風を感じていた。 「きもちいいなあ~~~。」 もうすぐ卒業を控えた身。ちょっとした感傷に浸っていた。 「もう明日、か。」 そう、卒業式はもう明日に迫っていた。 しかし、卒業に対しての後悔は無かった。 「やるだけのことはやったしな。満足だ~~~。」 そういいながら大きく伸びをする。 「お疲れ様。」 そう声をかけられれ、後ろを振り向く。ぎょっとする笹原。 「か、会長???」 いつの間にやら現れたのか、目の前には初代会長がいた。 「もう卒業だね。本当お疲れ様でした。」 「え、え、卒業したんじゃなかったんですか?」 「うん、そう。でも、今年君らが卒業するから、少し話がしたくてね。」 「はあ・・・。」 思えば会長が部室にいた頃まともに会話した事は無かった。 「笹原君は本当頑張ったね。」 「いやあ。俺なんて何もして無いっすよ。」 褒められて少し恥ずかしがる笹原。 「いや、君がいなかったらこのサークルはうまくいかなかった。」 「え?」 「もちろん、他の誰が欠けてもね。」 いつもの顔で淡々と会話を続ける初代。 「斑目君の世代が入ってきたときも思ってたけど、  君たちの世代が入ってきてさらにサークルが活発になった。」 「そうなんですか?」 「元々ね、部員がいないなんて時期もあったから。僕以外。」 そういって笹原に近づき、横に並ぶ初代。 「それでも色々ごまかしてサークルは継続させてた。  僕はこのサークルの意義を信じていたからね。」 「はあ。」 「現代視覚文化研究会なんて、聞いたことも無かったでしょ?ここに来るまで。」 「まあ、そうっすね・・・。」 初代は笹原のほうを見ず、大学の構内を見渡しながら言葉を続ける。 「僕がこのサークルを作ったのは、行き場の無い同好の志を救いたかったのがある。  例えば、漫画やアニメ、ゲームは好きだけど創作までは行かない人。  例えば、コスチュームプレイをするため、ほかのサークルではまかないきれない人。  例えば、絵はかくけど公開はしたくないという人。」 「それって・・・。」 今あげたのはどう考えても笹原の知っているあの人たちのこと。 だがそれを口には出さず、話の続きを聞く。 「僕も、まあ似たようなところがあった。  だから、力があるうちにそんな人を守れるところを作ろうと思った。」 初代は空に視線を移し、懐かしむように空を見る。 「だけど当初はうまくいかなくてね。  勘違いして入ってくる人もいて、中々うまくいかなかった。  そこで、一端部を閉じることにしたんだ。」 「はあ・・・。」 聞いたことがあった。現視研にある空白の数年間のことを。 「まあ、再開したのが丁度6年前。原口君が一年生のときだよ。」 そういえば、あの人はどこに行ってしまったんだろう? そう思うくらい懐かしく感じる名前だった。 「彼も勘違いして入ってた部分があってね。まあ、一年目はこんなものだろうと。  次の年。斑目君たちが入ってきた。これは、って思ったよ。  彼らのような人を入部させたかったんだ。」 「・・・。」 その告白にもはや言葉の出ない笹原。なぜ、今自分にこんなことを? 「それで、彼らに関しては僕直々にあの伝統を行った。  見事に引っかかってくれたよ。  ・・・君のようにね。」 そこで笹原の方にくるりと体を向ける。 「その後は君の知ってのとおり。」 「でも、何でそれを俺に・・・。」 「君にいっておきたかったんだ。皆を繋ぎ止めていたのは君だから。」 「え?」 「君は気付いてなかったかもしれないけど、  君がいなければ酷くなっていた関係もあると思う。  例えば、春日部さんと高坂君とか。」 「え、でも俺なんもしてないっすよ?」 「いや、あのつかみ所の無い高坂君と付き合うのは不安が付き物だろう。  それをある程度緩衝していたのは君だと思う。  彼の趣味が、おかしすぎないものだということを君が証明していたよ。」 いつも少し笑っているように見える初代の顔が、さらに笑った気がした。 「それに、斑目君にしろ、田中君にしろ、久我山君にしろ。  君のような後輩はとても一緒にいて楽しかったことだろう。  初心者の君に色々教えて。僕らのようなタイプは教えたがりだからね。」 「でもそれはこっちが感謝してるぐらいで・・・。」 「控えめなのも良かった。しかし、その奥底で強いものを僕は感じていたよ。  会長就任のあの演説。冗談めかして言ってはいたが、とても感じるものがあった。」 何でそれを?しかし、笹原は言葉が出ない。 「大野さんも、君がいたからこそ会長をやれているんだろう。  君が自分の色を出したからね。彼女も自分なりに頑張ろうと思った。」 「・・・。」 「その後入ってきた後輩たちへの対処も良かった。  朽木君。彼は厄介なタイプだよね。  だけど、それも旨く溶け込めるよう皆に言い聞かせたり。」 「その辺は春日部さんの方が・・・。」 「まあ、それもそうだ。しかし、彼女がああいう風になったのも君のおかげでもある。」 風が吹く。春一番といえる暖かい強風だ。 「はあ。」 「それに・・・。荻上さん。彼女も厄介な子だった。」 「それはちがいますよ。素直に・・・、なれなかっただけで。」 その言葉にはすぐさま否定の言葉を入れる笹原。 「それを厄介、っていうんだよ、笹原君。  でも、このサークルのメンバーと君とが。彼女を変えた。」 ざあっ、と風が再び強く吹く。なにか、何かを訴えるように。 「僕がこのサークルを作った目的が、様々な形で達成されている。  久我山君が本を出せたり。  朽木君が社会を知ったり。  大野さんや荻上さんが自分を出せていけたり。  斑目君が新たな感情に目覚めたり。  うれしかったよ、僕は。  だから、君には、言っておきたかったんだ。  卒業する君に。」 「笹原君!」 呼ぶ声に笹原がそっちの方を見ると高坂がいた。 「やあ、高坂君。仕事はもう終わったの?」 「おとといかたがついてね。昨日は一日寝てたよ。」 「あはは・・・。あ、そうだ会長?」 振り向くと、そこにはすでに初代の姿は無かった。 「え・・・?」 「大野さんなら下だよ?」 「いや、初代が今いたんだけど・・・。」 「え・・・?でも、僕は見てないよ?」 「うそ・・・。じゃあ、あれは一体なんだったんだ?」 青ざめた顔をして笹原は彼のいた場所を見つめる。 「・・・笹原君、実はさっき気付いたことがあってね。」 「何?」 「初代のことと関係あるかもしれない。ちょっと来て。」 場所は現視研の部室前。 「ここ?」 「うん、おかしいと思わない?」 「え?なにが?」 「あ、そうか、笹原君は他の部室はいったこと無いんだよね。」 「うん。」 「ここの間取りって、他と変わらないはずだよね。」 「ああ、見た限りだと。」 「でも、中が他に比べると小さいんだ。心持ち。」 「え?」 「前、アニ研の部室に行ったことがあってね。そのときはもっと広く感じたんだ。」 そういって、部室の扉を開ける高坂。中は誰もいない。 「みんなは?」 「卒業式の前だから、色々準備してくれてるみたいだよ。  追い出しコンパ。」 「ああ、そっか。」 「それよりも。こっちの方が、少し狭いんだ。なぜかは分からないんだけど。」 そういうと、高坂は同人誌ロッカーの前に立った。 「このロッカー、動かしたこと無いよね?」 「まあ、中身も多いし、重いからね。」 「ちょっと動かしてみよう。気になるんだ。」 「ええ?・・・まあ、いいけど。なんか面白くなってきたな。」 まず、中身を全部出す二人。 途中、懐かしい本なども出てきて手が止まるが、順調に全てを外に出した。 「よし、動かそう。」 「うん。」 二人で両端を持ち、手前に引きずり出す。 「あ・・・。」 「うそ・・・。」 そこには、小さい扉が一つ。 「こんな扉があったなんて・・・。」 「予感は当たったようだね。」 二人は顔を向け合い、お互いに頷く。扉を開け、中に入るのだ。 ギィ・・・。 重くさびたような音のした後、暗闇に包まれた中が見えた。 「電気ないのかな?」 手で暗闇の壁をまさぐる笹原。突起物が見つかり押す。 パチ。 電灯がついた。その奥に見えたのは。 「階段?」 「降りてみよう。きっと、何かが分かるはずだよ。」 笹原と高坂は息を呑みながら地下へと降りていく。 カツン・・・。カツン・・・。 乾いた靴の音が響く。途中何度か曲がりながら階段は続いていく。 丁度、四階分降りたあたりだろうか。 広い地下室へと出た。 「これは・・・。」 「まさかとは思ってたけど・・・。」 巨大なコンピューターと、学内を見渡せる数々のモニターがそこにはあった。 「初代の力ってこれだったのか・・・。」 「力?」 笹原は先ほどの初代との会話をかいつまんで高坂に説明した。 「なるほどね・・・。」 そういいながら高坂はそのコンピューターに向かう。 カチャカチャカチャ。 恐ろしいほどのタイプスピードで、コンピューターにつながったキーボードを操作する高坂。 「え・・・。」 「ど、どうしたの?」 高坂の仕事を見ているしかなかった笹原は、高坂があげた声に驚く。 「これ、超高性能のAIだ・・・。」 「AIって、スパロボで出てくるあれ?」 「そう、人工知能ってやつ。」 そういいながら再び作業を再開する。 「ん・・・。まるで人間の記憶を持ってるような・・・。」 ぶつぶついいながらその解析を続ける高坂。 笹原はというと、周りのモニターがありえないほどの数存在し、 あらゆる場面を写していることに驚いていた。 「これ・・・。部室も写してるし・・・。これは自治会室?  あ、トイレとか・・・。これまずいでしょ・・・。」 そういいながらも興味なくも無い笹原は顔を赤らめながらも見てしまう。 そんなとき、画面に見えてきたのは。 「荻上さん!?」 すぐさま視線を別の画面にそらす笹原。そらしながらモニターの電源を落とす。 「やばかった・・・。」 別にばれるはずも無いのに、一人で勝手にほっとする笹原。 「わかったよ・・・。」 「え?」 高坂が上げた言葉に、近寄っていく笹原。 「これ、人工知能で、初代会長の記憶を元に動いてるんだ。」 高坂がした説明はこうである。 このコンピューターはあらゆる映像情報を常に捕捉し、 そのデータを解析する機能を持っている。 また、立体映像を写す能力もあり、実態に近い画像を作ることもできる。 「じゃあ、今まで会ってきた会長は全て映像??」 「うん、その可能性が高いね。でも、本人が今どうなってるか分からないけど・・・。」 「うそ・・・。」 「僕も信じられないよ。存在感の無い人だとは思ってたけど・・・。」 しかし、見つけた記録にこのコンピューターが会長像を映し出した履歴が残っていたという。 「じゃあ、この機械が初代の意思を継いで・・・?」 「継いで、っていうか、本人そのものだね。」 ベースの思考回路は人間をコピーしたようだった。 そこまで、精密な機械であったのだ。 「世界でも最高峰のコンピューターだよ。」 「すごいね・・・。でも、それを現視研のために?」 「初代自身が、それほどまでにここを守りたかったんだろうね・・・。」 ここに残るのは現視研を作った偉大な先人の証。 きっと必要になるだろうこのサークルを守るために。 「うーん、なんか、びっくりしちゃったね。」 「ねえ、みんなには黙ってようか。」 笹原がひたすら驚く中、高坂がそれを提案した。 「え?なんで?」 「僕らの守り神なんだよ、これは。存在を知ったら興醒めでしょ。」 「あ、そうだね。初代も、だから俺だけに言いにきたのかな・・・。」 「きっとそうだよ。笹原君は、現視研に大きく貢献したから。」 にっこり笑う高坂に対して、笹原は照れるしかない。 「いや、そんなことは・・・。」 「ううん。僕は好き勝手やってたしね。笹原君がいてくれるから、  できてた部分もあるんだよ。ありがとう今まで。」 「いやいや。こっちこそありがとう。」 お互い礼を言って、少し黙る。その後、笑いがこぼれた。 「卒業しても、僕らは変わらなさそうだね。」 「うん、そうだね。今後も、よろしく。」 先に手を伸ばしたのは高坂。笹原も手を伸ばし、手を結ぶ。 「そろそろ戻って片付けなきゃ。咲ちゃんにばれたらうるさそうだ。」 「あはは・・・。それもそうだね。」 二人は急いで階段の方に向かう。 彼らが去った後。初代が姿を現す。 「ありがとう。君達はもう大丈夫だ。」 すぐに部室に戻った二人は、すぐさま片づけを開始。 ロッカーはすぐ戻せたが、目の前には魅力的な同人誌の山。 片付けなど、進むはずも無く。 かしましムスメーズが来た時には、二人してマジ読みしていた。 「何してんだお前らはー!」 「卒業を前にして二人して同人誌・・・。ある意味お二人らしいですね・・・。」 「・・・そんなに巨乳がいいですか・・・。」 笹原が読んでいたのは好みの巨乳キャラものだった。 「いや、これはその!」 「荻上さん、それはそれ、これはこれだよ!」 高坂もフォローになってるのだかなってないのだか分からない。 「だあ、早く片付けないと日が暮れるよ!こんなに出しやがって・・・。」 「ふむ・・・。大丈夫そうだね・・・。」 初代が地下室から現視研部室を覗いている。 笹原たちの卒業後、部員数が減少し、またも存続の危機になるかと思われたが。 「四人か。またも迷える子羊たちが・・・。」 入ってきた新入会員たちの顔を見ていく。 「しかし、もう、僕が出るまでも無いだろう。  だが彼らの手におえないことがあれば、僕はいつでも・・・。」 その言葉を残して、初代の姿は消えた。
*現視研の秘密 【投稿日 2006/01/07】 **[[カテゴリー-現視研の日常>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/49.html]] 「ふう~~~。」 冬が過ぎ、春の心地よい風が吹いてくる。 時は3月。別れのシーズンだ。 サークル棟の屋上にて笹原は春の心地よい風を感じていた。 「きもちいいなあ~~~。」 もうすぐ卒業を控えた身。ちょっとした感傷に浸っていた。 「もう明日、か。」 そう、卒業式はもう明日に迫っていた。 しかし、卒業に対しての後悔は無かった。 「やるだけのことはやったしな。満足だ~~~。」 そういいながら大きく伸びをする。 「お疲れ様。」 そう声をかけられれ、後ろを振り向く。ぎょっとする笹原。 「か、会長???」 いつの間にやら現れたのか、目の前には初代会長がいた。 「もう卒業だね。本当お疲れ様でした。」 「え、え、卒業したんじゃなかったんですか?」 「うん、そう。でも、今年君らが卒業するから、少し話がしたくてね。」 「はあ・・・。」 思えば会長が部室にいた頃まともに会話した事は無かった。 「笹原君は本当頑張ったね。」 「いやあ。俺なんて何もして無いっすよ。」 褒められて少し恥ずかしがる笹原。 「いや、君がいなかったらこのサークルはうまくいかなかった。」 「え?」 「もちろん、他の誰が欠けてもね。」 いつもの顔で淡々と会話を続ける初代。 「斑目君の世代が入ってきたときも思ってたけど、  君たちの世代が入ってきてさらにサークルが活発になった。」 「そうなんですか?」 「元々ね、部員がいないなんて時期もあったから。僕以外。」 そういって笹原に近づき、横に並ぶ初代。 「それでも色々ごまかしてサークルは継続させてた。  僕はこのサークルの意義を信じていたからね。」 「はあ。」 「現代視覚文化研究会なんて、聞いたことも無かったでしょ?ここに来るまで。」 「まあ、そうっすね・・・。」 初代は笹原のほうを見ず、大学の構内を見渡しながら言葉を続ける。 「僕がこのサークルを作ったのは、行き場の無い同好の志を救いたかったのがある。  例えば、漫画やアニメ、ゲームは好きだけど創作までは行かない人。  例えば、コスチュームプレイをするため、ほかのサークルではまかないきれない人。  例えば、絵はかくけど公開はしたくないという人。」 「それって・・・。」 今あげたのはどう考えても笹原の知っているあの人たちのこと。 だがそれを口には出さず、話の続きを聞く。 「僕も、まあ似たようなところがあった。  だから、力があるうちにそんな人を守れるところを作ろうと思った。」 初代は空に視線を移し、懐かしむように空を見る。 「だけど当初はうまくいかなくてね。  勘違いして入ってくる人もいて、中々うまくいかなかった。  そこで、一端部を閉じることにしたんだ。」 「はあ・・・。」 聞いたことがあった。現視研にある空白の数年間のことを。 「まあ、再開したのが丁度6年前。原口君が一年生のときだよ。」 そういえば、あの人はどこに行ってしまったんだろう? そう思うくらい懐かしく感じる名前だった。 「彼も勘違いして入ってた部分があってね。まあ、一年目はこんなものだろうと。  次の年。斑目君たちが入ってきた。これは、って思ったよ。  彼らのような人を入部させたかったんだ。」 「・・・。」 その告白にもはや言葉の出ない笹原。なぜ、今自分にこんなことを? 「それで、彼らに関しては僕直々にあの伝統を行った。  見事に引っかかってくれたよ。  ・・・君のようにね。」 そこで笹原の方にくるりと体を向ける。 「その後は君の知ってのとおり。」 「でも、何でそれを俺に・・・。」 「君にいっておきたかったんだ。皆を繋ぎ止めていたのは君だから。」 「え?」 「君は気付いてなかったかもしれないけど、  君がいなければ酷くなっていた関係もあると思う。  例えば、春日部さんと高坂君とか。」 「え、でも俺なんもしてないっすよ?」 「いや、あのつかみ所の無い高坂君と付き合うのは不安が付き物だろう。  それをある程度緩衝していたのは君だと思う。  彼の趣味が、おかしすぎないものだということを君が証明していたよ。」 いつも少し笑っているように見える初代の顔が、さらに笑った気がした。 「それに、斑目君にしろ、田中君にしろ、久我山君にしろ。  君のような後輩はとても一緒にいて楽しかったことだろう。  初心者の君に色々教えて。僕らのようなタイプは教えたがりだからね。」 「でもそれはこっちが感謝してるぐらいで・・・。」 「控えめなのも良かった。しかし、その奥底で強いものを僕は感じていたよ。  会長就任のあの演説。冗談めかして言ってはいたが、とても感じるものがあった。」 何でそれを?しかし、笹原は言葉が出ない。 「大野さんも、君がいたからこそ会長をやれているんだろう。  君が自分の色を出したからね。彼女も自分なりに頑張ろうと思った。」 「・・・。」 「その後入ってきた後輩たちへの対処も良かった。  朽木君。彼は厄介なタイプだよね。  だけど、それも旨く溶け込めるよう皆に言い聞かせたり。」 「その辺は春日部さんの方が・・・。」 「まあ、それもそうだ。しかし、彼女がああいう風になったのも君のおかげでもある。」 風が吹く。春一番といえる暖かい強風だ。 「はあ。」 「それに・・・。荻上さん。彼女も厄介な子だった。」 「それはちがいますよ。素直に・・・、なれなかっただけで。」 その言葉にはすぐさま否定の言葉を入れる笹原。 「それを厄介、っていうんだよ、笹原君。  でも、このサークルのメンバーと君とが。彼女を変えた。」 ざあっ、と風が再び強く吹く。なにか、何かを訴えるように。 「僕がこのサークルを作った目的が、様々な形で達成されている。  久我山君が本を出せたり。  朽木君が社会を知ったり。  大野さんや荻上さんが自分を出せていけたり。  斑目君が新たな感情に目覚めたり。  うれしかったよ、僕は。  だから、君には、言っておきたかったんだ。  卒業する君に。」 「笹原君!」 呼ぶ声に笹原がそっちの方を見ると高坂がいた。 「やあ、高坂君。仕事はもう終わったの?」 「おとといかたがついてね。昨日は一日寝てたよ。」 「あはは・・・。あ、そうだ会長?」 振り向くと、そこにはすでに初代の姿は無かった。 「え・・・?」 「大野さんなら下だよ?」 「いや、初代が今いたんだけど・・・。」 「え・・・?でも、僕は見てないよ?」 「うそ・・・。じゃあ、あれは一体なんだったんだ?」 青ざめた顔をして笹原は彼のいた場所を見つめる。 「・・・笹原君、実はさっき気付いたことがあってね。」 「何?」 「初代のことと関係あるかもしれない。ちょっと来て。」 場所は現視研の部室前。 「ここ?」 「うん、おかしいと思わない?」 「え?なにが?」 「あ、そうか、笹原君は他の部室はいったこと無いんだよね。」 「うん。」 「ここの間取りって、他と変わらないはずだよね。」 「ああ、見た限りだと。」 「でも、中が他に比べると小さいんだ。心持ち。」 「え?」 「前、アニ研の部室に行ったことがあってね。そのときはもっと広く感じたんだ。」 そういって、部室の扉を開ける高坂。中は誰もいない。 「みんなは?」 「卒業式の前だから、色々準備してくれてるみたいだよ。  追い出しコンパ。」 「ああ、そっか。」 「それよりも。こっちの方が、少し狭いんだ。なぜかは分からないんだけど。」 そういうと、高坂は同人誌ロッカーの前に立った。 「このロッカー、動かしたこと無いよね?」 「まあ、中身も多いし、重いからね。」 「ちょっと動かしてみよう。気になるんだ。」 「ええ?・・・まあ、いいけど。なんか面白くなってきたな。」 まず、中身を全部出す二人。 途中、懐かしい本なども出てきて手が止まるが、順調に全てを外に出した。 「よし、動かそう。」 「うん。」 二人で両端を持ち、手前に引きずり出す。 「あ・・・。」 「うそ・・・。」 そこには、小さい扉が一つ。 「こんな扉があったなんて・・・。」 「予感は当たったようだね。」 二人は顔を向け合い、お互いに頷く。扉を開け、中に入るのだ。 ギィ・・・。 重くさびたような音のした後、暗闇に包まれた中が見えた。 「電気ないのかな?」 手で暗闇の壁をまさぐる笹原。突起物が見つかり押す。 パチ。 電灯がついた。その奥に見えたのは。 「階段?」 「降りてみよう。きっと、何かが分かるはずだよ。」 笹原と高坂は息を呑みながら地下へと降りていく。 カツン・・・。カツン・・・。 乾いた靴の音が響く。途中何度か曲がりながら階段は続いていく。 丁度、四階分降りたあたりだろうか。 広い地下室へと出た。 「これは・・・。」 「まさかとは思ってたけど・・・。」 巨大なコンピューターと、学内を見渡せる数々のモニターがそこにはあった。 「初代の力ってこれだったのか・・・。」 「力?」 笹原は先ほどの初代との会話をかいつまんで高坂に説明した。 「なるほどね・・・。」 そういいながら高坂はそのコンピューターに向かう。 カチャカチャカチャ。 恐ろしいほどのタイプスピードで、コンピューターにつながったキーボードを操作する高坂。 「え・・・。」 「ど、どうしたの?」 高坂の仕事を見ているしかなかった笹原は、高坂があげた声に驚く。 「これ、超高性能のAIだ・・・。」 「AIって、スパロボで出てくるあれ?」 「そう、人工知能ってやつ。」 そういいながら再び作業を再開する。 「ん・・・。まるで人間の記憶を持ってるような・・・。」 ぶつぶついいながらその解析を続ける高坂。 笹原はというと、周りのモニターがありえないほどの数存在し、 あらゆる場面を写していることに驚いていた。 「これ・・・。部室も写してるし・・・。これは自治会室?  あ、トイレとか・・・。これまずいでしょ・・・。」 そういいながらも興味なくも無い笹原は顔を赤らめながらも見てしまう。 そんなとき、画面に見えてきたのは。 「荻上さん!?」 すぐさま視線を別の画面にそらす笹原。そらしながらモニターの電源を落とす。 「やばかった・・・。」 別にばれるはずも無いのに、一人で勝手にほっとする笹原。 「わかったよ・・・。」 「え?」 高坂が上げた言葉に、近寄っていく笹原。 「これ、人工知能で、初代会長の記憶を元に動いてるんだ。」 高坂がした説明はこうである。 このコンピューターはあらゆる映像情報を常に捕捉し、 そのデータを解析する機能を持っている。 また、立体映像を写す能力もあり、実態に近い画像を作ることもできる。 「じゃあ、今まで会ってきた会長は全て映像??」 「うん、その可能性が高いね。でも、本人が今どうなってるか分からないけど・・・。」 「うそ・・・。」 「僕も信じられないよ。存在感の無い人だとは思ってたけど・・・。」 しかし、見つけた記録にこのコンピューターが会長像を映し出した履歴が残っていたという。 「じゃあ、この機械が初代の意思を継いで・・・?」 「継いで、っていうか、本人そのものだね。」 ベースの思考回路は人間をコピーしたようだった。 そこまで、精密な機械であったのだ。 「世界でも最高峰のコンピューターだよ。」 「すごいね・・・。でも、それを現視研のために?」 「初代自身が、それほどまでにここを守りたかったんだろうね・・・。」 ここに残るのは現視研を作った偉大な先人の証。 きっと必要になるだろうこのサークルを守るために。 「うーん、なんか、びっくりしちゃったね。」 「ねえ、みんなには黙ってようか。」 笹原がひたすら驚く中、高坂がそれを提案した。 「え?なんで?」 「僕らの守り神なんだよ、これは。存在を知ったら興醒めでしょ。」 「あ、そうだね。初代も、だから俺だけに言いにきたのかな・・・。」 「きっとそうだよ。笹原君は、現視研に大きく貢献したから。」 にっこり笑う高坂に対して、笹原は照れるしかない。 「いや、そんなことは・・・。」 「ううん。僕は好き勝手やってたしね。笹原君がいてくれるから、  できてた部分もあるんだよ。ありがとう今まで。」 「いやいや。こっちこそありがとう。」 お互い礼を言って、少し黙る。その後、笑いがこぼれた。 「卒業しても、僕らは変わらなさそうだね。」 「うん、そうだね。今後も、よろしく。」 先に手を伸ばしたのは高坂。笹原も手を伸ばし、手を結ぶ。 「そろそろ戻って片付けなきゃ。咲ちゃんにばれたらうるさそうだ。」 「あはは・・・。それもそうだね。」 二人は急いで階段の方に向かう。 彼らが去った後。初代が姿を現す。 「ありがとう。君達はもう大丈夫だ。」 すぐに部室に戻った二人は、すぐさま片づけを開始。 ロッカーはすぐ戻せたが、目の前には魅力的な同人誌の山。 片付けなど、進むはずも無く。 かしましムスメーズが来た時には、二人してマジ読みしていた。 「何してんだお前らはー!」 「卒業を前にして二人して同人誌・・・。ある意味お二人らしいですね・・・。」 「・・・そんなに巨乳がいいですか・・・。」 笹原が読んでいたのは好みの巨乳キャラものだった。 「いや、これはその!」 「荻上さん、それはそれ、これはこれだよ!」 高坂もフォローになってるのだかなってないのだか分からない。 「だあ、早く片付けないと日が暮れるよ!こんなに出しやがって・・・。」 「ふむ・・・。大丈夫そうだね・・・。」 初代が地下室から現視研部室を覗いている。 笹原たちの卒業後、部員数が減少し、またも存続の危機になるかと思われたが。 「四人か。またも迷える子羊たちが・・・。」 入ってきた新入会員たちの顔を見ていく。 「しかし、もう、僕が出るまでも無いだろう。  だが彼らの手におえないことがあれば、僕はいつでも・・・。」 その言葉を残して、初代の姿は消えた。

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