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*朽木 10:00 【投稿日 2005/12/18】
**[[げんしけん24>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/63.html]]
「ハラショーッ!!!」
勝利の雄叫びを上げるクッチー。
朝っぱらから2ちゃんねる漫画板の某漫画スレを舞台に繰り広げたクッチーVS暇なヒッキーの対決は、遂にクッチーに軍配が上がった。
執拗なクッチーのレスの猛攻にヒッキーが音を上げたのだ。
クッチーがそこまでその漫画とスレに入れ込んだのには訳があった。
その漫画とは、ある架空の大学のオタク系サークルのぬるい日常を描いた作品だった。
同じ様なサークルに所属するクッチーは、その漫画を気に入って我がことのように感情移入していた。
中でも彼がご執心なのは、特徴は無い(強いて言えば平凡なことが特徴)が真面目で心優しい主人公と、その相手役とされているロリ顔ロリ体型ツンデレのヒロインだった。
その漫画のスレでは、この2人のフラグが立ってる派と立ってない派の2派に分かれて、日夜熱い論争を繰り広げられていた。
クッチーはフラグ立ってる派の急先鋒だった。
だから立ってない派のヒッキーに執拗に噛み付いたのだ。
クッチーがその漫画のスレに入れ込んでいるのには、もう1つ大きな理由があった。
それは最近のげんしけんの雰囲気だった。
かつてクッチーが入会した頃のげんしけんは、ぬるいオタクが集ってぬるいオタ議論を繰り広げるぬるいサークルだった。
だが斑目たちの代が卒業し、笹原たちの代が就職活動に入り、現役会員が大野会長、荻上さん、クッチーだけになると、その雰囲気が変った。
(クッチーにとっての恵子は、時々遊びに来る先輩の妹という認識だ)
大野さんと荻上さんという、表現する側・作る側のオタが主流派になった為に、げんしけんはぬるオタサロンというよりガチオタ製作現場に近くなったのだ。
それはそれで嫌いじゃないが、かつてのようにぬるいオタ議論が延々続くげんしけんが消えつつあるのは寂しかった。
そんな彼が、2ちゃんねるの自分の好きな漫画のスレに活路を求めるのは、当然の帰結だった。
一通り関連スレに目を通して、ようやくクッチーはパソコンの電源をオフにした。
そして出掛ける用意を始めた。
リュックサックの中をざっと見て、枕元の携帯を取る。
メールの着信があったようだ。
2ちゃんねるに夢中で気付かなかったらしい。
「おー斑目さんからだにょー。何々・・・今度の0時売り・・・他のみんなは来れないから2人だけだけど一緒にどう?、か」
いつ、何処でも、誰の挑戦でも受けるをモットーにしてるクッチーは、敵に背を向ける訳には行かなかったので「ラジャー!!!」と返信した。
一通り用意が済むと、昼の講義にも昼休みにも間があり、中途半端に時間が空いてることに気が付いた。
そこで先程2ちゃんねるでの死闘の原因になった漫画の掲載されてる、分厚い漫画月刊誌の今月号を読み始めた。
改めて読んでみて、彼は自分のフラグ立ってるという主張は正しかったと確信した。
そしてふと、ご執心の漫画内のカップルに似た、現実の男女に思いを馳せた。
『春日部さんはあの2人フラグが立ったみたいに言ってたけど、どうなんだにょー?まあ確かに、あの2人ならお似合いだとは思うけど・・・』
『でもあの2人って、カップルと言うより血のつながってない兄妹みたいな感じだからなあ。カップル成立するには、何て言うか、お互いに異性だということを意識するような、そういうイベントが必要な気がするにょー』
「さて、出掛けるかにょー」
自分自身に言い聞かせるように呟いて、立ち上がってリュックを背負う。
「電気も窓もオッケーと」
部屋を見渡して、ふと壁を見つめた。
壁にはたくさんのポスターがあった。
萌え系女の子キャラと硬派系男キャラのポスターが混在する壁の一角に、パネルにした写真が貼られていた。
被写体の女の子は、斜め後方からというアングルのせいで、横顔しか見えない。
その写真を見るクッチーの顔付きは、普段ほとんど見せることのない、優しさに満ちた柔和なものだった。
「ちっとはお洒落して、ニコニコしてれば可愛いんだから、もっと素直になるにょー。そうすりゃ笹原さんなんてイチコロだにょー」
かつて携帯で盗撮したものを引き伸ばした、イベントの行列に並ぶ筆頭の少女の写真にそう呟くと、クッチーは部屋を出た。
「昼の講義まではヒマだから、とりあえず部室に行くにょー」
*朽木 11:00 【投稿日 2006/01/01】
**[[げんしけん24>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/63.html]]
クッチーは部室の窓から双眼鏡で向かいの部屋を見ていた。
部室と言っても、児童文学研究会(以下児文研)の部室である。
つまり、彼が見ていたのは現視研の部室なのだ。
クッチーは新人勧誘の日以来、部室に行く前に児文研の部室に寄るのが習慣になっていた。
あの日以来、彼と大野さんとの間には微妙な緊張関係が続いていた。
誤解が解けて笹原が間に入ってお互いに謝罪し、形式的には和解したものの、感情面でのわだかまりは当然残った。
そのわだかまりというのも、お互いに相手を責める気持ち半分、相手にすまないと思う気持ち半分の複雑なものだった。
だから2人きりになると、お互いに不自然な気遣いをし、腫れ物状態で接してしまう。
その緊張した空気に耐えられないクッチーは、なるべく大野さんと2人きりになることを避ける為に、児文研の部室から1度確認してから部室に行くことを思いついた。
(屋上からだと部室は見辛かった)
クッチーは児文研会長(5巻の冒頭で斑目たちに応対してた女性)に、正直に事情を話してお願いしたところ、快諾してくれた。
その代わりに児文研に名前だけ入会することをお願いされ、彼もまた快諾した。
その際に、現視研と児文研の古くからの関係について説明された。
この2つのサークルは、共に文化サークルの中では弱小で、古くから何度も解散の危機に見舞われてきた。
その度に両会は会員の籍の貸し借りを行なって乗り切ってきたのだ。
今年は児文研も入会ゼロだったので、クッチーの来訪は渡りに船だった。
と言うのも、この関係は誓約書を書くようなしっかりした関係でなく、恒例のドッキリ等のついでに代々の会員同志の口約束で行なわれてきた緩やかな関係だった為に、改まって請求しに行くのも気まずかったからだ。
実は児文研会長のそういった行動の背景には、もう1つ事情があった。
それは文化サークル同士の横のつながりだった。
文化サークルで1番女子の多い漫研は、文化サークル全体に対して大きな影響力があった。
そしてその漫研女子は、最大の反大野・反荻上勢力でもあった。
彼女たちは、新人勧誘の際の大野さんの、会長風吹かせた態度を快く思っていなかった。
だから今回の騒動に溜飲を下げ、文化サークル全体の女子の間に密かに「あそこには絶対救いの手は差し伸べるな」という暗黙の回状が口頭で回されていた。
だから個人的にはさほど悪感情を持ってない児文研会長も、表立って現視研に救いの手を差し伸べることは避けていたのだ。
その一方でクッチーについては、敵の敵は味方という毛沢東理論に基き、文化サークル全体の世論は同情的だった。
だからかつてのアニ研の仲間も「我慢出来なくなったら戻って来い」とまで言ってくれた。
もっともそれに対してクッチーは丁重に固辞した。
義理人情を重んじる男の中の男クッチーは、そうすることは受け入れてくれた春日部先輩や優しくしてくれた笹原先輩への義理を欠くと考えていたのだ。
朽木「うーむ大野さん1人だにょー」
大野さんはこちらに背中を見せて座っていた。
その周囲には様々なコスが広げられていた。
朽木「こりゃ当分部室から離れないな。それにコスだらけのとこに僕チンが突入したら、また機嫌悪くなるかも知れんし・・・」
腕時計を見るクッチー。
朽木「斑目先輩が食事に来るには、まだ時間があるにょー。仕方ない、ここでしばらく待つにょー」
児文研の会長がお茶を入れてくれた。
朽木「こりゃいつもすいません」
会長「いいええ」
朽木「あっ荻チンが来た」
現視研の部室の方には、荻上さんが入ってきた。
こちらから見て右側に彼女は座った。
背中を向けている大野さんの様子はこちらからは分からないが、荻上さんの口の動きと終始赤面してる表情から、何やら真剣な話し合いであることは推測できた。
いつの間にかそんな荻上さんの一挙手一投足に見入るクッチー。
やがて大野さんが立ち上がり、カーテンを閉めた。
朽木「にょにょにょ?」
カーテン越しに、大野さんと荻上さんの動きがぼんやりと見えた。
朽木「着替えてる?・・・コスプレ?」
すぐに見に行きたい衝動に駆られるクッチー。
だがあの2人だけのとこへ突入したら、また気まずいことになるかも知れない。
焦燥するクッチーだったが、常人より視界が広くオタクにしては目のいい彼は、視界の片隅で笹原がサークル棟に入っていくのを捉えた。
朽木「どうやらここが勝負どころにょー!」
クッチーは児文研部室から飛び出して行った。