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げんしけんSSスレ7

1マロン名無しさん :2006/04/20(木) 01:41:22 ID:???
……うわ、書きてえ
すっげえ書きてえ
前スレの事も 今なら笑って話せるんじゃねーか?
いや それだけでなく 書けなかった話も
今まで 書けなかった話も すべて
書いてしまいたい。

どうせダメならここで玉砕してしまうという手もある……
消化してしまうための通過儀礼として!
……書くか?書くか?書いていいのか?
え―――い 書いてしまえ(考える前に動け)

げんしけんSSスレ第7弾。
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアンSSも受付中。

☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評連載中。
☆単行本第1〜7巻好評発売中。
☆作中作「くじびきアンバランス」ライトノベルも現在3巻まで絶賛発売中。

【注意】
ネタばれ含んだSSは公式発売日正午12:00以降。 公式発売日正午以前の最新話の話題は↓へ
げんしけん ネタバレスレ8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1140782112/
前スレ
げんしけんSSスレ6
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1143200874/

2マロン名無しさん :2006/04/20(木) 01:44:36 ID:???
げんしけん(現代視覚文化研究会)まとめサイト(過去ログや人物紹介はこちらへ)
http://ime.nu/www.zawax.info/~comic/
げんしけんSSスレまとめサイト(このスレのまとめはこちら)
ttp://www7.atwiki.jp/genshikenss/

エロ話801話などはこちらで
げんしけん@エロパロ板 その3(21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1144944199/
げんしけん@801板 その4 (21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/801/1127539512/

前スレ
げんしけんSSスレ5
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1141591410/
げんしけんSSスレ4
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1139939998/
げんしけんSSスレその3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1136864438/
げんしけんSSスレその2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1133609152/
げんしけんSSスレ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1128831969/

げんしけん本スレ
「げんしけん」 木尾士目 その128
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/comic/1144074138/

3マロン名無しさん :2006/04/20(木) 01:50:07 ID:???
これで良かったんでしょうか…(汗)

ついでに
【シンカン!】荻上さん崇拝スレ 11筆目【モエロオレノコスモヨ!】
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1145290785/

4マロン名無しさん :2006/04/20(木) 01:52:24 ID:???
>>1
スレ立て乙です!
テンプレが斑目!斑目!!イヤホォォウー
…はい、気がすみました。 これからも投下頑張りましょーーう!

5マロン名無しさん :2006/04/20(木) 01:58:30 ID:???
現聴研第6話転載しなくていいですよね?それではおやすみなさいませご主人様。
投下頑張りましょう!

6マロン名無しさん :2006/04/20(木) 02:09:19 ID:???
>>1
乙&GJ。
何事も早め早めが慣用っと。
今晩中に二本ほど投下しまっす。

7前スレ360 :2006/04/20(木) 03:14:44 ID:???
今回もお楽しみいただけたようでよかったです。
前スレへレスガエシ
>>361
もはや脳内で可愛く於木野さんは話まくりです。
>>362
クガヤマはきっと生きてます。きっと。
ヤナは毎回出そうかなと画策してます。
>>363
今後もご愛聴よろしくお願いしますw
>>364
楽しく書ければなんでもありですのでw
>>365
ちょっと、狙いました。感謝ですw
>>366
こういうお遊びが大好きなのでw
>>367
あっちを書かれた方ですね。勝手な使用すみませぬ。
また投下楽しみにしてますw009ネタは・・・(゜ー゜)ニヤリ
>>368
あなたのせいで私も・・・「一万円と二千円くれたら・・・」チクショーw
>>369
最初そうしようかなーと思ったキタガワさん。
でもそれじゃ悲しすぎるからやめました。ハッピーエンドは世界一ぃいい!!
で、あなた様はあちらを書かれた方ですね。勝手な使用すみませぬ。
>>370
リクありですwネタ考えるのが少し楽になりましたw

88 :2006/04/20(木) 03:16:25 ID:???
なぜか一緒に投下するのが楽しくなってしまったので、
今回も連投させていただきます。
スレ占拠スマヌです。
全部で25レスぐらいです。

9801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』1 :2006/04/20(木) 03:17:57 ID:???
「オーライ、オーライ。」
第801小隊の面々を乗せたシャトルが、ドッグ艦「ビッグサイト」に到着した。
ドッグ艦、というには何かというと、MSなどの軍事兵器を開発、
運用実験、改修するための工場のような研究設備付きの宇宙艦である。
フェスト社は連盟お抱えの軍事設備会社であり、この「ビッグサイト」も連盟軍と共用で使われている。
「うはあ、無重力ってこんなんなんだー。」
入口から出て来る一同。間の抜けた声を出すケーコに一同苦笑い。
「そうか、ケーコは宇宙初めてだっけか。」
「そうなんだよね・・・、わわっ。」
ふわっとした独特の移動法に変なほうに移動してしまうケーコ。
それをうまく誘導するササハラ。
「おいおい・・・。とりあえずこれもっとけ。」
宇宙空間にある居住設備ならば必ずある移動用の取っ手である。
これが移動することで無重力空間でも行き過ぎずにすむのである。
・・・宇宙は、人が住むには少々大変だ。
「・・・久々だなあ、宇宙・・・。」
「ああ・・・。半年振りか?」
マダラメとタナカが並んで視線を落としながら進む。
「・・・だな。」
「・・・・・・やっぱ、嫌な気持ちは消えんなあ・・・。」
「・・・まあな。しかし、あの頃とも違うさ・・・。」
「・・・ああ。頑張ろう・・・。」
その二人の会話をいつもの表情で見つめる大隊長。
「全く・・・嫌なところに帰ってきちまったよ。」
サキがそうぼやく。
「まあね・・・。ここには二度と戻ってくる気はなかっただけにね・・・。」
コーサカもそれに同調する。心なしか顔色が優れない。
「コーサカ・・・。」
「大丈夫、いまさら戻れって事も、無いだろうから・・・。」
サキの心配そうな声に、コーサカはいつもの笑顔に戻って答えた。

10801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』2 :2006/04/20(木) 03:18:45 ID:???
「ご苦労様です。」
このドッグ艦における連盟軍代表と司令室にて対面する一同。
「・・・状況はあまりよくは無いのです・・・。」
「どういうことですか?」
代表の唐突な言葉にマダラメが訝しげな顔をしながら聞く。
「皇国の作戦が・・・不確かながら分かったのです。」
「それは僕から説明しよう。」
大隊長がすっと前に出、代表の横に並ぶ。
「あの兵器が地球圏のどこかの隠し基地にあることは分かったんだ。
 いま、連盟軍主要部隊は皇国の本拠点・・・『サン・シャ・イン』に向かっている。
 それを・・・。挟み撃ち・・・いや、後ろから壊滅させるつもりらしい。」
「なるほど・・・。」
「いま、勢いはこちらにあり、このまま進軍をすれば必ず落とせるでしょう。
 しかし・・・。」
顔を伏せる代表。それを見たコーサカが言葉を続ける。
「後ろからの攻撃を伝えれば勢いが止まる・・・。」
「そういうことです。しかも、情報としても不完全なものです。
 上層部も取り合ってはくれませんでした・・・。」
「勢いを優先させたわけか・・・。全く・・・。」
何かを思い出したのかタナカは呟きながら苦い顔をする。
「そこでいくつかの部隊に、地球圏に置ける基地探しを行ってもらっている。」
「・・・我々もそれを行う、と・・・。」
「それもそうなんだけど、我々はあの兵器とあい対する必要性がある。
 発見しだい、そこへ急行もしなければならない。
 なぜならあの兵器への対応策を思っているのは我々だけなんだ。」
そういうと、大隊長は後ろの大型ディスプレイを見る。
「・・・ササハラ君。あのペンダント、ミノフスキー振動の緩和をする効果があったんだ。」
耳打ちでササハラに地上で言い切れなかったことを伝えるコーサカ。
「ええ!?じゃあ・・・。」
「うん。成分解析が終わってね。僕らのMSにはそれの複製品を取り付けたんだ。」

11801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』3 :2006/04/20(木) 03:19:46 ID:???
「我々としては取り返さなければならないものもあるでしょ?」
くるりと後ろを向いてにっこり笑う大隊長。
「・・・はい!」
それにしっかりした口調で答えるササハラ。
「・・・・・・もらった借りは大きいですからね、返さにゃいけませんわ。」
そういってニヤリと笑うマダラメ。
「よっし、気合入れるか!」
そうサキがいうと、皆一斉に頷いた。
その姿にあっけにとられていた代表に、サキが近づく。
「あ・・・。そうだ、これ、キタガワ中尉から預かったんですが・・・。」
「え?ああ・・・。悪いね・・・。あいつ、元気でしたか?」
あいつ、という語感に親しい相手に使う感じがしたサキ。
「?ええ、まあ・・・。」
「そうか・・・。私とあいつは結婚を約束してましてね。
 戦争が終わったら一緒になろうって、ね。」
「!・・・そうだったんですか・・・。」
「私もここに配属されて一ヶ月は比較的安全だったんですがね。
 あいつはシャトル基地・・・。いつ皇国が攻めてくるか分かったものじゃない。
 シャトルが飛ぶたびに来る手紙だけが唯一の安全を確かめる手段だったんですよ。」
そういって手紙をみて幸せそうな、しかし複雑な表情を浮かべる代表。
「・・・早く終わるといいですね。戦争・・・。」
「ええ。早く終わらせるためにも、精一杯、支援させていただきますよ。」
そう、力強い敬礼を向ける代表。
その敬礼に、一同そろって敬礼を返す。
「とりあえず、ササハラ、コーサカ両少尉、タナカくんの三名はMSの所へ。
 マダラメ中尉とカスカベ二等兵は義手があるらしいから研究室へ。
 オーノさんは会わせたい人がいるから第630室のほうへ。
 クチキ一等兵は、残ってくれる?ケーコ君はとりあえず宇宙に慣れなさい。」
大隊長からの命令を、一同が聞き、敬礼を返す。
「「「「了解!!!」」」」

12801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』4 :2006/04/20(木) 03:26:19 ID:???
クチキ一等兵は悩んでいた。
(先ほどの指令・・・。納得いきませぬ・・・。)
大隊長からの残留命令で一人部屋に残ったクチキに、ある指令が下った。
『クチキ一等兵、ドライバー、やってくれる?』
『は?ドライバー、でありますか?』
『うん。ここで我々に支給される艦船の、ね。』
『し、しかし、私めは・・・。』
『MSに乗って戦いたいのは分かる。でもね、誰かがやらなきゃいけないんだ。』
『・・・ハア・・・。』
『君が一番適任なんだ。ドライバーとしてならコーサカ君よりもね。』
そこまでいわれてつい頷いてしまったのだが。
(私も・・・。MSで戦いたいであります・・・。)
骨折していた手も大分良くなった。それなら、MSで・・・。
もちろん、自分が一人で全てを解決できると思ってるわけでもない。
しかし、まるで、自分が要らないように感じてしまったのだ。
そう考えながら廊下を移動してると、声をかけられた。
「クチキ!クチキじゃないか!」
「サワザキ君!」
そこには同期で、最初の配属で同じ部隊だったサワザキの姿があった。
「久々だなあ。あの戦い以来か?」
「そうでありますなあ。」
懐かしさと共に、少し前に再会したそのときの部隊の隊長殿を思い出した。
「・・・まだ軍隊に居たんだな。てっきりやめたかと思ってたぜ・・・。」
「サワザキ君は違うでありますか?」
「俺は、あの後早々軍を辞めてここのテストパイロット。
 そうか、この前から試験繰り返してたのはお前らの部隊のか。」
「・・・あの戦いのせいですか・・・。」
「ああ。俺もあの事が堪えてな。戦場に立てなくなっちゃったんだよ。
 でもな、こういう形でもいいから戦争終わらせる役目にたちたくてなあ・・・。」

13801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』5 :2006/04/20(木) 03:27:04 ID:???
そういうサワザキは、横のガラス面から見える宇宙を見た。
「そうでありますか。・・・あ、そうです!隊長殿、生きていたんですよ!」
共にいた部隊で共に死んだと思っていたあの人のことを伝える。
「は?・・・本当か!」
「本当の本当でありますよ!この目で、地球で会って来ましたから!」
「・・・そうか・・・。良かった・・・。良かった・・・。
 俺・・・あの事だけがいつも気に掛かってて・・・。
 俺達があんな無茶で・・・、馬鹿なことをしなければって・・・。」
サワザキの目に涙が浮かぶ。
「・・・ええ。本当に・・・。良かったでありますよ・・・。」
久々に会った友の近況と、その涙に、クチキは自分の小ささを知った。
(・・・私、自分の役目を全うするでありますよ!過去は、繰り返しませぬ!)

「アンジェラ!スー!」
オーノが向かった630号室には、彼女の見知った顔が二つあった。
「ハイ!カナコ、久しぶりね。」
「・・・久しぶり・・・。」
いつものテンションで話す二人に、驚きを隠せない。
「なんで・・・。」
「ん?なに、カナコが困ってるって聞いてね。手伝いにでもって。」
「・・・まかせなさい・・・。」
こともなげに話すアンジェラ、Vサインを出すスー。
「だって・・・。あなたたち、自分の部隊は・・・。」
「私たちはしがない傭兵だよ?根無し草に決まった部隊なんてないさ。」
「風に流されふらふらと・・・。」
「でも・・・。」
「あのね、私たちはあの時約束したでしょ?
 困った時は、お互いがお互いを助けるって。あの時・・・お互いが全てを失った時に・・・。」
オーノの顔が曇る。あの時・・・。私たちの町が焼かれた日・・・。

14801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』6 :2006/04/20(木) 03:27:46 ID:???
「だから、カナコが困ったら私たちは助けるの。
 だって、前は私たちをカナコが助けてくれたじゃない?」
「お互い様・・・。」
笑みを浮かべ、しっかりした視線を向けるアンジェラ。
相変わらず表情からは感情が読めないスー。
しかし、二人の意思と、強い思いは伝わってきた。
オーノは、自分でも気付かないほど自然に涙を流していた。
「・・・あれ?嬉しいのに・・・。なんで涙が流れてくるのかしら・・・。」
「・・・フフ。相変わらず感情的だね、カナコ。」
「・・・・・・笑えばいいとおもうよ。」
その言葉に、泣きながらも笑うオーノ。
「皆に紹介したいから、来て。この素晴しい私の親友達を。」
「OK。まずはカナコの彼氏からだね。
 MSも用意してくれているらしいし。」
「ちょっと、誰から聞いたのそれ!」
「・・・私は何でも知っている・・・。」
久々に、昔街を三人で歩いていた頃を思い出しながら、オーノは笑った。
(オギウエさんのことで・・・ちょっと気落ちしてたけど・・・。
 大丈夫。この二人がいてくれば、きっと助けられる。)

サキとマダラメは研究室で、義手をつけていた。
「おお!動く、動くぞ!」
機械がはみ出した手を動かしながら、興奮した表情を浮かべるマダラメ。
「騒ぐな!・・・まあ、一日もしたら慣れるでしょ。
 意外と神経とか残ってたから、すぐに前と同じようになるよ。」
「そーか、そーか。すまん、感謝する!」
その言葉に、少し恥ずかしそうな顔をするサキ。
「・・・やることはやったよ。後はあんたの仕事を全うしな。」
サキはすっと立ち上がり、勝手知ったるように引き出しから薬を取り出す。
「これ、痛み止め。幻痛が必ず起こるから、飲んどきなよ。」

15801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』7 :2006/04/20(木) 03:28:39 ID:???
マダラメはさっきから気にはなっていた。妙にここに慣れているサキに。
「・・・カスカベ二等兵、ここ、知ってるのか?」
「ん?ああ、ここは前言ってた私の研究室さ。私とコーサカはこのドッグで働いてたんだよ。」
「!・・・そうだったのか。」
嫌な思い出のある所でありながら、表情一つ曇らせず自分の治療を行ったサキ。
その気丈な姿に、胸の鼓動が高鳴る。
「なに、前の嫌な軍人も消えてるみたいだしね。・・・思い出さないっていったら嘘になるけどさ。」
「すまない・・・。」
「だーから、いってるだろ!私は自分の役目を果たしただけだって。
 あんたも、しっかりやんなよ!」
「ああ・・・。」
そういって立ち上がり、研究室から出ようとするマダラメ。
「・・・あ。」
振り返り、何かをいおうと振り返る。
「なに?」
「・・・いや。なんでもない。まあ、期待しててくれよ。」
「?おう、頑張れ!」
サキはきょとんとした顔をしたが、そのまま返事をした。

マダラメは研究室から出た後、考えた。
(いま、何を言おうとした?何を・・・?)
いい加減、自分の感情には気付いていた。
(俺はきっと・・・。いや、そうなんだろうな・・・。)
生まれた感情はいつからだっただろう?
始めは・・・あんなに気に食わない奴だったのに。
「ははっ・・・。そうか・・・。」
何を言おうと思ってたのか分かった。言わなくて良かった。
「俺が君を守る・・・だって?
 コーサカがいるんだ、俺が言ったところで、どうしようもないだろ。」
そこまで呟いた所で、見知った人影がいることに気付いた。

16801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』8 :2006/04/20(木) 03:29:45 ID:???
「ヤナ?」
「ん?マダラメか!来てるとは聞いてたが!」
そういってヤナと呼ばれた男はマダラメに近づく。
「久しぶりだな。」
「あー、そうだな。『シティ』以来か?タナカやクガヤマもいるんだろ?」
「タナカはいるが・・・クガヤマはいろいろあってまだ地球だ。」
「そうか〜。まあ、よかったよ。」
「?何がだよ?」
そのヤナの言葉に、怪訝な顔を浮かべるマダラメ。
「お前ら、もう宇宙これないかと思ったからさ。
 あの最後別れる時の落ち込んだ顔が結構目に焼きついててさ。」
そういって少し苦笑いするヤナ。
「ああ・・・。まあ、いろいろあってな、やらなきゃならねえ事が出来たのさ。」
その笑いにつられ、同じように苦笑いするマダラメ。
「・・・安心したよ。顔が、生きてる。今のお前なら安心だ。」
「お前に心配されるほどおちぶれちゃいねえよ!」
ヤナの背中を叩きながら大声で笑うマダラメ。
「いてえ!・・・元気そうで良かったよ・・・。」
そこに、声が掛かる。
「タカヤナギ大尉!!準備中ですよ!」
気の強そうな女性兵の声が響く。
「すまんすまん。今行くよ〜。」
「お前の部隊か?」
「ああ。気の強い女の子ばっかりでね。気が休まらんよ〜。」
「羨ましい様な、微妙な状況だな。」
「はは、全くその通りだよ。・・・あんまり女の子は死なせたく無いしね。」
複雑な表情を作るヤナに、マダラメは思わず笑った。
「何の任務なんだ?」
「地球圏にいまだ隠されてる皇国の基地探しさ。」
「・・・そうか。気をつけろよ。奴さん、結構恐ろしい兵器持ってるからな。」
「・・・ああ、わかってる。話は聞いてるさ。任せとけよ。」
そういって胸を叩き、ヤナは去っていった。

17801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』9 :2006/04/20(木) 03:37:41 ID:???
「・・・で、ジムとしては最上級のチューンを行ってるわけです。
 よろしいですかな?」
そういった男は持ってたボールペンで額を掻く。ここはMS格納庫。
「なるほど・・・。で、オノデラさんといいましたっけ?システムのほうは・・・。」
タナカがその話に感心しながら聞いたあと、質問した。
「すでに積んでいます。確認してみますか?」
「ええ。いくぞ、ササハラ。」
「はい。」
そういって二人はジム・・・
と呼ぶには少しフォルムが洗練されてるMS・・・に向かっていった。
「・・・久々じゃないか。」
「ええ。オノデラさんこそ、お元気そうで。」
昔からの顔なじみのように話すコーサカとオノデラ。
「・・・目的の方は?」
「・・・・・・順調です。」
「本当だろうな?」
「もちろんです。ここであなたに嘘をつく理由がない。」
そういって、コーサカは二人の向かった先にあるMSを見ながら寂しげな顔をした。
「・・・それもそうだな。はやく、あの方が目覚めるといい・・・。」
「大丈夫、ササハラ君はうまくやってます。彼しか・・・無理でしょう。」
「ふむ。あと、お前の設計だが・・・。」
オノデラは目の前にある黒いガンダムに目を向けた。
「また、お遊びに走って。もっと洗練したMSを設計できるだろうに。」
「それじゃ使ってて面白くないんですよ。」
コーサカは視線を落として苦笑いした。
「まあ、お前が使うMSだからいいけどな・・・。しっかり作っといたよ。頑張れ。」
「はい、ありがとうございます。」
そこに、オーノが二人を引き連れて現れた。
「あ、コーサカさん、紹介します、今回私たちに加勢してくれる事になった・・・。」

18801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』10 :2006/04/20(木) 03:39:33 ID:???
スーとコーサカは見つめ合うと、少し気が特に言ってるように感じられた。
「アンジェラ・バートンと、スザンナ・ホプキンスです・・・。って、スー?」
スーは、コーサカから視線をはずそうとしない。
「・・・アンジェラさんと、スザンナさんですね?」
しかし、コーサカはそういっていつもの笑顔を向けた。
「スー、でいい・・・。」
スーはそういって恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「あなたがコーサカね。ふーん、このガンダムに乗るんだね?」
「ええ。そうです。お二方の話は聞いてますよ。」
そういってガンダムの前にある二機のMSを指差すコーサカ。
ジムが二機・・・。
しかし、カラーリング、フォルム共に少々従来のものとは異なっていた。
「あれがお二方のMS。しっかり調整してますよ、ね、オノデラさん。」
「ん?ああ・・・。あなた方のデータにあわせて機能を追加しているので、
 使いやすいと思いますよ。」
急に話を振られ、オノデラは淡々と話す。
「へえ、ちょっと触ってみてもいい?」
「構いませんよ。」
「OK。いこう、スー。」
「うん・・・。」
「ちょっと、紹介は?」
早々にMSのほうへ行こうとするアンジェラとスーに、オーノは声を上げる。
「えー、だって姿が見えないじゃない。MS弄ってるんでしょ?」
「そうだろうけど・・・。」
「ん、オーノさん、どうした・・・ん?どなた?この人たち。」
丁度そこにやってきたタナカが、オーノに声をかけた。
「あ、タナカさん、丁度いいところに。
 前話したことがあったじゃないですか、私の親友です。」
「あ、アンジェラさんに、スーさん?」
「はい。今は傭兵だったんですけど・・・。加勢に来てくれました。」
「だからか、MSの数が多いなあ、とは思ってたんだけど。」
そういってタナカは頭を掻いた。

19801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』11 :2006/04/20(木) 03:40:09 ID:???
「よろしく!じゃあ、挨拶も済んだし行ってるよ!」
「よろしく・・・。」
アンジェラは挨拶もそこそこに、挨拶を言いかけてるスーを引っ張って行ってしまった。
「私、説明して来ますね。」
オノデラが苦笑いしながら後を追った。
「ははは・・・。しかし、大隊長はどこまで考えてたのかね・・・。」
「え?」
タナカの急な言葉に、オーノは驚いた。
「いやね、何もかもがうまく行き過ぎ・・・。といったらおかしいんだけどもね。
 オギウエさんがさらわれた事以外は、全て大隊長の手のひらの上、というかね・・・。」
「・・・そうですね、あの人だけは僕にも読めない・・・。」
そういって苦笑いするコーサカ。
「まあ、悪い様になってないからいいんだけどもね・・・。」
「そうですね、この際、手のひらの上でも頑張るしかないじゃないですか。」
「うん、そうなんだ。あの人を信頼してるしね、俺は。」
ニヤリと笑うタナカ。それにつられて笑みを浮かべる二人。
「お〜い、どうよ、MSはよ〜。」
そこにマダラメが現れた。
「おー、タナカ、さっきヤナに会ったぜ。これから出撃だとさ。」
「本当か。・・・ずっと宇宙で頑張ってたんだなあ、あいつ。」
「・・・ああ。で、俺のはどれよ?」
その斑目の言葉にニヤリと笑うタナカ。
「あれだ。」
その指の先には、赤い塗装をされた、ザク・・・いや、あれは・・・。
「ゲルググか!!」
「ああ。首尾よく皇国軍から接収できたものを回して貰ったらしい。
 お前の操作に合うように、これから調整するよ。」
「おおー、こいつは・・・。燃えてきたな・・・。」
「ああ。・・・これで、終わりにしたいな。」
タナカのその言葉に、一同頷いた。

20801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』12 :2006/04/20(木) 03:41:11 ID:???
『お久しぶりですね・・・。』
ササハラはそのコクピットの中で久々に会長と対話していた。
「ええ・・・。あの時以来ですからね。」
『申し訳ありませんでした・・・。』
「?なにを、言ってるんです?」
急に会長に謝られ、驚きを隠せないササハラ。
『私が・・・もっとしっかりしていれば・・・。』
「それは違いますよ。」
ササハラはその悲しそうな発言を受けて、少し笑みを浮かべた。
『ですが・・・。』
「誰のせいでもない。そう思うようにしたんです。
 しいて言うなら・・・。自分のせいだと。」
視線を少し横にそらし、表情を曇らせる。
『・・・あなたは、頑張っていました。誰よりも・・・。』
「それでも、守れなかったら意味がないんです。」
『・・・・・・私、この一人だった期間に、考えていました。』
「・・・なにを、ですか?」
『自分のことです。自分が何者なのか、なぜここにいるのか。』
そういえば、とササハラは思った。
この人は、ちゃんとした一人の人間が元になっているのだと。
『・・・すこし、ぼんやり見えてきたんです。私にも、大切な仲間がいたことが。
 とても・・・大事に思っている人もいたことが。』
そういうと、イメージの中の会長は目を瞑る。
『だから・・・。私があの中に戻るためにも・・・。
 やるべき事をやらなければならないんです。
 あなたの大切な人、必ず助け出しましょう。』
その強い口調は、ササハラの心の重荷を少し払ってくれていた。
「はい・・・。会長、お願いします・・・。」

21801小隊第13話『廻る宇宙(ソラ)』13 :2006/04/20(木) 03:44:05 ID:???
「なにぃ?」
窓の外から地球か覗ける位置にある隠れた皇国軍基地にて、荒野の鬼は顔色を変えた。
「あの・・・。『砂漠サソリ』に連絡が付かない・・・と。」
まさか。
その第一報を受け取った時はそう思った。あの歴戦の三勇士がやられるとは・・・。
しかし。その考えも、あのときの戦いを思い出すと消えた。
やられたのだろう。あの三勇士すらも。
「・・・わかった。で、奴らは宇宙に・・・。そうか・・・。」
まずい。
奴らがここに来たら・・・。計画が崩れるかもしれない。
連絡を切ると、すぐさま頭を廻らす。
「ん・・・?奴らが・・・近くにいるな・・・。」
あの連盟軍悪魔の部隊を相手してきた奴ら。なぜこんな所に?
「・・・まあ、いい。うまく使わせてもらおうか、テンプルナイツ。」
そういってニヤリと笑みを浮かべた。

22第801小隊『次回予告』 :2006/04/20(木) 03:49:47 ID:???
宇宙へと艦船を泳がせ、基地の探索を始めた第801小隊。
そこに、独特の形をした艦船が接近する。
それは連盟の奇跡、第100特別部隊と死闘を繰り広げたといわれる部隊であった。
皇国軍第13独立部隊・・・通称テンプルナイツである。

次回、「テンプルナイツ」お楽しみに

23ヤナ再び〜幕間 :2006/04/20(木) 04:04:08 ID:???
「おいおい、ここに来て新キャラてこ入れ?
 多すぎだろちょっとさ〜。でもあのNT少女はアリか?
 結構残り話数詰まってんのかね〜。詰め過ぎ?

 おおそうだ、夏コミ後のラジオ、更新されたって言ってたなあ。
 気になることもあるし〜。聞くか〜。」

24ラジヲのお時間【葉月】1/11 :2006/04/20(木) 04:05:40 ID:???
〜BGM・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』テーマソング〜

〜FO〜

「どうも〜、いつ誰が聞いてるか分からないげんしけんのネットラジオをお聞きの方、
 今日も私、神無月曜湖と!」
「於木野鳴雪でお送りします。」

「・・・於木野さん?」
「なにか?」
「なんかいつもと違いません?」
「いえ、別に?いつも通りですよ。」
「え〜、なんか違う〜。いつもの於木野さんじゃない〜。」
「何を言ってるんですか。」
「むう・・・。」

〜BGM・完全にFO〜

「というわけで、コミフェスも終わって早一週間が過ぎようとしている今日ですが。」
「そうですね。暑さがまだ続いて、今年は残暑が長そうですね。」
「・・・なんか面白くない〜。確かに暑くて死にそうですけど〜。」
「は?」
「於木野さん淡々としすぎですよ!」
「・・・別に構わないじゃないですか。」
「それはそうなんですけど〜。・・・なんかありました?」
「・・・何も・・・ありませんよ。」
「・・・ならいいんですが〜。
 それで、コミフェス。私の友達が急にアメリカから来て大変だったんですよ!」
「あれは・・・。結構迷惑でしたね。」
「それは言わない約束ですよ!於木野さん!」
「いつ約束しましたっけ・・・?」
「違います、お約束、って奴ですよ!」

25ラジヲのお時間【葉月】2/11 :2006/04/20(木) 04:08:04 ID:???
「そうですか。」
「うーん、やっぱりテンションがおかしいです!何かあったでしょう!」
「何もないって言ってるじゃないですか・・・。」
「うむむむ・・・。」
「では、お頼りの紹介をします。・・・これでいいんですよね?」
「うー・・・。・・・はい、それです。」
「えーと、RN『黒神千砂十』さんから頂きました。ありがとうございます。
 『どうも、初めてメールします。前々からこのラジオはある縁で聞かせて頂いていました。
  この前のコミフェスで、於木野さんが本を出すということを聞き、
  ぜひとも拝見したいとブースの方へと伺わせていただきました。
  本の方、買わせていただきました。思っていたよりハードで、気に入りました。
  今後も描かれるんですよね?次も楽しみにしています。
  あと、一つ気になったのですが、隣にいた・・。』」
「?どうかしましたか?」
「いえ!ありがとうございました!黒神さん。次回の予定は特にない・・・。」
「ちょっと待ってください!今途中だったでしょう!」
「そんなことありません!」
「ちょ、それ渡してください!ほら!」

〜紙を奪い合うような音 紙が擦れる音〜

「はぁ、はぁ、なになに?
 『隣にいた方はラジオのプロデューサーさんだったんでしょうか?
  非常に仲の良さそうな感じでしたが、お二人はお付き合いなさっているんでしょうか?
  ああいうブースで手伝ってくれる男の方がいるって言うのは少し羨ましいですね。
  まあ、そんなこと聞くのは野暮ってもんですね。それでは、次回の放送も楽しみにしています。』
 ・・・なんで隠すんですか!こういうおいしいことを!」
「そういう反応されそうだったからに決まってるじゃないですか!」
「そんな中途半端な隠し方してもバレバレですよ!」
「しょうがないじゃないですか!今始めて読んだんですから!」

26ラジヲのお時間【葉月】3/11 :2006/04/20(木) 04:10:00 ID:???
「で・・・。お答えしてくださいよ、質問に。」
「ふへ?・・・・・・一緒にいたのは確かにベンジャミンさんでした・・・。
 ですが、ただお手伝いしてもらっただけです。
 そういう関係では決してありません!!」
「・・・何ムキになってるんですか。」
「ムキになんかなっていません!」
「フフフ・・・。ようやくいつもの於木野さんになってきましたね〜。」
「うー・・・。」
「無理してむっつりしててもすぐに剥がれるもんですよ、化けの皮って言うのは。」
「化けの皮って何ですか!」
「まあ、それはともかく。」

〜『エアリスのテーマ』・CI〜

「音楽です。PSソフト『FF7』より。『エアリスのテーマ』」

〜『エアリスのテーマ』・FO〜

「ちょっと落ち着きました?」
「落ち着くも何も・・・。」
「私の今回のコミフェス二日目にしたコスプレがこのFF7のティファだったんですけど。」
「なのになんで『エアリスのテーマ』なんですか?」
「私が好きだからです!」
「・・・ああ、そうですか。」
「於木野さんやっぱり冷たい〜。」
「で、『AC』買いますか??」
「いや、私は買わないんですけど。・・・ベンジャミンさんが見せてくれるって。」
「へ〜。・・・二人でこっそりとそんな約束を。」
「・・・・・・なんかその言い方いやです。」

27ラジヲのお時間【葉月】4/11 :2006/04/20(木) 04:10:42 ID:???
「まあ、それはともかく、期待できそうですよね!」
「FFのCG技術は素晴らしいですからね。あの予告映像だけでもすごいと思います。」
「そうですね〜。FFの映像美は素晴らしいですよね〜。」
「でもゲーム性は最近失われてるような・・・。」
「あー・・・。FF10とか嫌いじゃないんですけどね〜・・・。」
「確かに、ストーリーとか、面白いと思うんですけど・・・。」
「戦闘とか、確かに微妙かも・・・。」
「SFC時代のFFは、シンプルでしたけど面白かったと思うんですよ。」
「・・・・・・なんかいうことがベンジャミンさんっぽくなってきましたね。」
「は!?・・・似たような事言ってましたっけ・・・。」
「その辺のRPG論語らせると長いですし、よく話してますよ、そんな事。」
「う・・・。で、でもこれは私の意見であって、ベンジャミンさんは関係ありません!」
「でも、SFC時代のFFはリアルタイム体験じゃないですよね?」
「いえ・・・。一応・・・6からは・・・。」
「でも、4、5は違うと。」
「・・・大学入ってから借りましたよ。」
「誰から〜?」
「ベンジャミンさんですよ!」
「何語気を荒げてるんですか。では、ここで一旦CMです!」

〜ジングル・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』〜

〜CM〜
「それはかなわぬ恋だと思っていた」
「自分とあなたは月と太陽」
「決して近づく事はないと思っていた距離」
「MとSの距離」
「最新第5巻・発売中」
「切なさに、涙しよう」

〜ジングル・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』〜

28ラジヲのお時間【葉月】5/11 :2006/04/20(木) 04:16:31 ID:???
「いや〜、思わず泣いちゃったんですよ、CMの。」
「ああ、私も持ってますよ。・・・切ないですよね。」
「三巻で家にやってくるじゃないですか?そこの展開がもう・・・。」
「でも、四巻、五巻と経て・・・。私も少し涙ぐみました。」
「ついに、って感じですね。主人公が報われる時が・・・という感じで。」
「六感で完結だそうで、本誌連載も次回が楽しみなところです。」
「そうですね〜。で、まあ、FFの話に戻りますけど。」
「はあ。」
「4、5は大学でやられてということですが。」
「ええ。そうですね。リメイク版ですけど。」
「どのシリーズが一番?」
「えーと・・・。物語的には4で・・・。ゲームとしては5が面白かったですね・・・。」
「なるほど。私としても似たような感じですかね。」
「総合では6だと思うんです。PS以降のFFも悪くはないんですけど・・・。」
「確かに、少しゲームとしては・・・。と思う部分も少なくはないかもですね。」
「FC版は3以外リメイクもあったしやりましたけど、1・2は少し荒く感じますね。」
「まあ、FCのゲームですからね〜。」
「ベンジャミンさんいわく、DQもFFも3が最高らしいですけど。」
「3なんですか?私にはちょっと分かりませんね〜。」
「私も、FF3はやったわけじゃないんでなんとも・・・。」
「WSでリメイクするといって早数年。DSでリメイクが発表されましたけど・・・。」
「どうなることやら、って感じですね。」
「で、今話に出たDQのほうは、やられました?8が去年発売されましたけど〜。」
「一応一通り。出来ないものはないですから。」
「DQのリメイクはしっかりされていますからね〜。」
「確かに3は面白いんですけどね。私としては、6かな・・・。」
「ま、また意外なところを・・・。」
「6って結構駄目駄目言われてますけど、良く出来てると思いますよ。」
「・・・チャモロ総受けとか考えてたわけじゃないですよね?」
「ブッ・・・。」

29ラジヲのお時間【葉月】6/11 :2006/04/20(木) 04:32:22 ID:???
「・・・図星ですか〜?テリー攻めですか〜?」
「ち、違いますよ!ストーリーとか、設定とか、ゲーム性とかです!」
「全く?考えたこともない?」
「・・・ちょっとはありますけど・・・。」
「あるんじゃないですか〜。」
「・・・それはいいじゃないですか!なんといってもエンディングで泣けるんです。」
「あ〜、あのラストは・・・切ないですよね・・・。」
「漫画版のDQはその辺りフォローしてたので、結構お気に入りだったりします。」
「あの完結させた作品のない男、と呼ばれた方でしたね、描かれてたの。」
「らしいですね。でも、数年前完結してない作品、完結版出したりしてましたね。」
「そうですね〜。」

〜『空飛ぶベッド』・CI〜

「では音楽です〜。交響組曲DQ6より『空飛ぶベッド』。」

〜『空飛ぶベッド』・FO〜

「この曲は聴いてるとウキウキしてきますね〜。」
「ベッド関連のお話は、とても暗いですけどね・・・。」
「でも、素敵ですよね、あのお話。」
「ええ、ホリイさんの描く物語って、とても素敵だと思います。」

〜窓を軽く叩く音〜

「あ、プロデューサー!」
「!!」
「ようやくおいでましたか。え?『DQは日本の宝です。』・・・。
 それに関しては否定できませんねえ・・・。ねえ、於木野さん?」
「は、はい!?」
「ど、どうかしました?」

30ラジヲのお時間【葉月】7/11 :2006/04/20(木) 04:33:12 ID:???
「い、いえ、何でもありません!」
「・・・あやしい・・・。」
「本当、何でもありませんから!」
「そうですか〜?で、ゲーム、最近のでいうと、なにかやってます?」
「ちょっと前は、ハレガンの3やってましたけど。」
「もちろんそこは抑えていますか〜。」
「オリジナルストーリーですし、声もちゃんと付いていますしね。
 でも、ちょっとマンネリかな・・・。」
「あー、システムあんまり変わらないんでしたっけ。」
「基本は、そうですね。いろいろと細かい変更点はありますけど・・・。」
「なるほど。」
「なので早々終わらして、今はテイルズの新作が出るのを待ってる感じですか。」
「テイルズ〜。今度、キャラデザ猪俣さんでもふじしまさんでも無いんですよね〜。」
「結構冒険かなー・・・って思いますけどね。嫌いじゃないですよ。」
「でも、あれナージャ・・・。」

〜激しくガラスを叩く音〜

「!!びっくりした!なんですか?マムシさん。『そこに触れてはいけない。』・・・はあ。」
「・・・何か深い理由でもあるんでしょうか?」
「さあ・・・。マムシさん、あれに苦い思い出でもあるんでしょうか?」
「はあ・・・。」
「私は、三国無想の猛将伝出るので楽しみです。」
「三国無想なんてやってるんでしたっけ?」
「何を言ってるんですか!あの敵をなぎ倒す快感といったら!!」
「・・・・・・親父キャラ多いですしねえ・・・。」
「・・・スイマセン、ソレガモクテキデシタ。」
「一旦、CMです。」

〜ジングル・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』〜

31ラジヲのお時間【葉月】8/11 :2006/04/20(木) 04:34:29 ID:???
「それだけを 求めていた」
「どこにいっても 得る事は出来なかった」
「見つけることは出来ないと思っていたのに」
「どうしてだろう」
「あなたは それを持って現れた」
「NDSソフト」
「いくらハンター」
「9・15発売」

〜ジングル・『曜湖・鳴雪のげんしけんラジヲ!』〜

「そうそう、これ!これも楽しみなんですよ!」
「・・・いくら。」
「そう!何かミョ〜なBGMと、恋愛系シナリオが妙にマッチしてて!」
「・・・・・・いくら。」
「於木野さん?」
「・・・はっ!な、なんでもありません。NDSですか、私もやってみようかな・・・。」
「それはいいですね!楽しみが増えましたね〜。」
「そうですね。・・・あっ!」
「あら?どうかしました?」
「い、いや・・・。」
「フフフ・・・。忘れては無いですから安心してくださいネ!
 二回目のCMが終わったら!これっきゃない!
 『漫画・恥ずかしい台詞を大声で言ってみよう』のコーナー!」
「・・・はあ。」
「あれ?騒ぎませんね、今回は。」
「もう慣れました。早くちゃっちゃと進めましょう。」
「・・・え〜。於木野さんのあわてる姿が見たかったのに〜。」
「・・・・・・ご期待に添えなくてすいませんね。」
「やっぱり冷たい〜・・・。まあいいですよ、いいですよ。
 フンフングシュグシュ。」
「・・・それ何でしたっけ・・・。」

32ラジヲのお時間【葉月】9/11 :2006/04/20(木) 04:35:57 ID:???
「それはおいといて、今回は、『マリア様が観てる』より。」
「はっ!?漫画じゃなくないっすか?」
「漫画化もされてるからいいじゃありませんか〜。」
「はあ・・・。」
「ちょっと長いんですけどね。小説からの引用ですし。」
「・・・・・・結局小説から引用するんですか。」
「まあ、まあ。ここからです。『ところでユミ・・・』」
「『黄バラ』のラストっすね・・・。」
「さすが於木野さん!じゃあ、これ於木野さんの分。」
「ハア・・・。やっぱり私がユミなんですね・・・。」
「逆にします?」
「いえ・・・。いいっす・・・。そっちの方が長いですし・・・。」
「じゃあ、やりますよ〜。」
「はいっす・・・。」
「『ところでユミ。
  今度私はユミに『サチコさま』と呼ばれても返事をしないことにしましたから。』」
「『えっ。』」
「『だって。いつまで待っても、あなた呼び方変えようとしないんだもの。』」
「『サチコさまぁ。』」
「『無視されたくなかったら、ちゃんとお呼びなさい。』」
「『・・・えさま。』」
「『聞こえなーい。』」
「『・・・お姉さま!』」

〜むは〜 という息を吐く音〜

「むは〜、久々にやると恥ずかしいですね〜・・・。」
「・・・そんなものをやらせてたんですよ・・・。」
「でも、於木野さんの『お姉さま!』よかったですよ〜。
 本当に妹にしちゃいたいくらい!」

33ラジヲのお時間【葉月】10/11 :2006/04/20(木) 04:37:12 ID:???
「え!いや、その!」
「私とスールの関係を結びませんか〜!」
「嫌です!」
「そんな〜、つれないですね〜。
 いいですよ、いつかそっちから妹にさせて欲しいと言わせてみせるんですから!」
「何、本当のサチコさまみたいな事言ってるんですか!」
「そして二人でコスプレを・・・フフフ・・・。」

〜『pastel pure』・CI〜

「何言ってるんですか!音楽です!
 TVアニメーション『マリア様が観てる』OPテーマ『pastel pure』。」

〜『pastel pure』・FO〜

「・・・そしてあれを着てもらって・・・。」
「そろそろ戻ってきてください!」
「はぅ!・・・わ、私いま何を・・・。」
「・・・恐ろしい人・・・。」
「『硝子の仮面』ですか〜?」
「ち、ちがいますよ!本当に恐ろしく思ったんですから!」
「フフフ・・・。漫画の台詞を使ってしまうのは私たちのSAGAか・・・。」
「・・・チェーンソー持ってきましょうかね・・・。」
「・・・・・・それで分かる人も結構コアですよね・・・。」
「まあ、確かに・・・。」

〜ガラスを叩く音〜

「え?『SAGA2のFLASHはマジ泣きそうになった』・・・。」
「ああ・・・『ケンタ、ありが・・・』」
「やめて!思い出したら泣いちゃいそうなんです!!」
「・・・・・・まあ、すごく悲しい話ですけど・・・。」

34ラジヲのお時間【葉月】11/11 :2006/04/20(木) 04:42:31 ID:???
「で、『マリ観て』ですが。」
「立ち直り早いですね!」
「それが私のいい所です〜。・・・で、これ、おもしろいですよね〜。
 私はこっちで高校生活を送ってないですからね〜。
 こっちの高校はこんな感じなのかと思っちゃいますけど。」
「いや・・・。それは無いかと。かなり特殊な環境ですよ。
 私も女子高でしたけど、ここまでの学校ってそうは無いんじゃ・・・。」
「女子高!」
「え、ええ、そうですけど・・・。」
「じゃあ、『お姉さま!』とかあったんじゃないですか!?」
「ないですよ!・・・でも、先輩にキャーキャー言ってる子はいたかな・・・。」
「おお!やっぱり日本はチガイマスネ。HAHAHAHA!!」
「・・・なに急に偽外国人っぽい笑い方してんですか・・・。」
「そんな中で於木野さんはどんな生活を・・・。」
「・・・何もしてませんでしたよ。ただ学校行って、ってだけです。
 特に何も無い高校三年間でしたね・・・。」
「・・・じゃあ、色々ある大学生活にするためにコスプレしましょうよ〜!!」
「い・み・が・わ・か・り・ま・せ・ん!」
「楽しいですよ〜、楽しいですよ〜。そうです!今度の学園祭、一緒にやりましょ〜!」
「身内だけって言ったじゃないですか!」
「!!なら身内だけならやるんですね!」
「・・・それは売り言葉に買い言葉で!!」

〜BGM・FI〜

「よ〜し、あ、そろそろ時間ですね!
 では、この後私は於木野さんのコスプレを選びに行ってきま〜す!
 メインパーソナリティは神無月曜湖と!」
「え、ちょっと、お、於木野鳴雪でした!ちょっと待ってください!」

〜喧騒・FO〜

35ラジヲのお時間【葉月】11/11 :2006/04/20(木) 04:43:15 ID:???
〜BGM・CO〜

36今回のヤナマダ〜幕後 :2006/04/20(木) 04:58:10 ID:???
「いや〜、今回も飛ばしてたね、曜湖さん。」
「まあな〜。でも今回は妙に笹原が突っ込み入れづらそうにしてたけどな。」
「・・・なんかあったのかね?」
「さあ。単に就活で疲れてただけだろ。」
「でもな〜、夏コミのときの話聞くとな〜。」
「あん?」
「いやね、あの放送のメール、今年の漫研の一年生なんだよ。」
「はあ?何で漫研女子が現視研のラジオにメールして来るんだよ?」
「いやね、漫研女子内で嫌われてる現視研ってどんな所かって聞いてきてさ。」
「で、ラジオ教えたわけか。」
「そ。でね、ラジオ、気に入っちゃったらしくてさ。ちょっと普通と違う子なんだ。」
「はーん。それで、その子があのメールをってことか。」
「そう、その子曰く、ただの先輩後輩には見えなかったっていう・・・。」
「ははは、あの二人は普通に仲がいいからな。そう決め付けるもんでもないだろ。」
「そうかな〜。」

37後書 :2006/04/20(木) 05:00:51 ID:???
なんか、三回も連投規制に引っかかるのは何かの呪いですか?ソウデスカ。
ちょっと前まで忙しくて書けなかった分ぶいぶい書いていきたいところです。
アンソロの方もよろしくお願いします・・・。

とりあえず25日が楽しみのような怖いような〜・・・。

38マロン名無しさん :2006/04/20(木) 11:23:40 ID:???
>>1
乙&感謝。
ようやく長々と書き続けていた長編の第一稿が完成したものの、軽く40レスを越えるもので先に新スレ立てようかなと悩んでいたとこだったので、助かりました。
推敲の後、今週中に投下します。

>801小隊&ラジヲのお時間
何かこのコンボ、定番化しつつありますな。
なかなかやらない代わりに、いよいよとなったらまとめてやる、夏休みの宿題を31日に一気に片付けるタイプの人と見た。
それにしても801小隊、オールスター巨編ですな。
まるで最終回間近………

危ない危ない、ここ数日本スレに蔓延してる終末感のせいで、すっかり最終回という言葉にナーバスになってる。
何とか絶望発作を押さえ込んだ。
絶望するにはまだ早い。
本編もSSも、まだまだ弾は残っとるがの!

39マロン名無しさん :2006/04/20(木) 21:44:00 ID:???
>現聴研第6話
やっぱり寄生しにきたかハラグーロ!
まんまネタが当てはまりますね。
私も、原口が来るとしたら有名バックバンドを斡旋にくるんじゃないかと思ってましたが、その通りの展開でした。

で、リクエスト(現聴研でも他バンドでも)なんですが、私の場合は「筋肉少女帯」。例えば下記のような曲とか……、
「サンフランシスコ」←HR/HMに美しいピアノソロが融合、哀愁の詩!
「イワンの馬鹿」←プログレッシヴ!寒気のするダークな世界観。
「小さな恋のメロディ」←EATMANだったかの主題歌でした。タテノリマンセー。
↑筋少は「コミックバンド」のそしりを受け易いのですが、その演奏レベルは非常〜に高いのです。……知らないですかそうですか。いやマジで不採用にして…。

>801小隊
どんどんサブキャラが出てきて楽しかったです。
黒いガンダムにゲルググ〜!
そして外人さん2人も参戦ですか〜!
もはや「小隊」とは呼べないほど大所帯ですね(w
アンジェラとスーの「カラーリングとフォルムの異なる2機のジム」が気になります。詳細とスペック教えてください……正直、絵にしたい……。
「第13独立部隊」ってなんか連想させるものがヤバそうなんですが……次回期待してます!

>ラジヲのお時間【葉月】
8月…、原作の展開に合わせた於木野さんの態度が笑えます。
“合宿したのは9月だったか…、軽井沢で公開録音か……いや「ん」の後かッ、後なんだな!”と一人で盛り上がってます。
FF論と「ドラクエは日本の宝」には、「そうそう」と、思わずうなずかされました。もはや普通のラジオリスナー気分です(w


40マロン名無しさん :2006/04/21(金) 00:06:44 ID:???
>>801小隊13話
キャラが増えますねぇ。しかし落ち着いた展開。。。
クライマックスへの準備ですね!期待が膨らみます。

>>ラジオ【葉月】
時期的に微妙なのが面白いですね!!次回どうなるんだろう…wktk
そしてCMもまたしても、SS作品がww

41マロン名無しさん :2006/04/21(金) 00:31:00 ID:???
>801小隊
おおおーーー。赤いゲルググ!くはー。次回それで闘うマダラメの勇姿に超期待。
…こっちの世界でも「言えない」マダラメ…くう…切ない…
ジムの洗練されたフォルム…どんなだろう。絵で見たい。というか801小隊、アニメで見たいw本当に。
>ラジヲのお時間
まずは感謝。CMが…
本当にありがとうございました。嬉しくて画面の前で大騒ぎしてしまいました。
さて、今回もいい雰囲気ですねーラジヲ、曜湖さんと於木野さんの掛け合いは、読んでいてすごくなごみます。
二つとも、次回を楽しみにしてます!!

42マロン名無しさん :2006/04/21(金) 01:35:03 ID:???
現聴研6話書いた者です。

>>39
すみません、筋少は友人達は聴いてたのですが僕は聴いてませんでしたorz
オーケンの書籍は6,7冊ぐらい読んでるんですけどね(汗)。
よかったら。また書いてみてください。どうか…。

さてそれでは、軽い感じのものを4レス投下します。

43いくらハンター3(1/4) :2006/04/21(金) 01:35:51 ID:???
ある日曜のこと、画材の買出しを終えて、日も暮れて帰宅した
荻上が郵便受けを見ると、寿司のテイクアウトチェーン、
小象寿司の広告が目に留まった。
『特選北海セット(サーモン・かに・いくら丼)』
『特選海鮮セット(マグロ・サーモン・イカ・かつおタタキ丼)』
『特選いくらセット(いくらが山盛り丼)』
―全品、本日限り680円!!―
「特選いくらセット!?」
思わず声が出る荻上。しまったという表情で赤面するが
玄関に買って来た荷物を放り込むと、急ぎ足で最寄の小象寿司へ向かう。
どんどん暗くなる道を、時々通りかかる車のライトに照らされ
長い影を伸ばしながら、荻上は急いだ。
道の向こうに、小象寿司の窓の明かりが見える。
『間に合った………。』
荻上が店内に入ると、特選品の棚には海鮮セットの丼が2つと、
いなり寿司や、バラ売りの手巻き寿司が数本有るだけだった。
『いや、焦るな、言えば作ってくれるはず。それは知ってるべ。』
レジの前には、おばさんと青年が2人並び、逆サイドでは座って
待っている、孫を連れたお爺さんが居る。
荻上は、品切れになっていない事を祈りながら列に並ぶ。
その時、前の青年が順番になり、オーダーを告げた。
「あ、俺、特選イクラ丼を―――。」
「申し訳ありません、本日もう品切れとなっております。」
笑顔で答える、店員のお姉さん。モンゴル出身の横綱に似ている。
「え?じゃあ北海セットは?」
「大変申し訳ありません、そちらも品切れに―――。」
前の客よりも早く、店員の返答を最後まで聞かずに、
うっすら涙目で踵を返す荻上だった……。

44いくらハンター3(2/4) :2006/04/21(金) 01:36:36 ID:???
帰り道、スーパーに寄ってみるが、こちらも閉店間際。
今日はいくらはもう無くなっていた。
仕方なく子持ちししゃもを買って帰るのだった。


翌週の土曜日、笹原とデートの荻上だが、脳内は既にディナーに飛んでいた。
『笹原さんのことだ、きっと「何が食べたい?」って訊いてくるはず!
 そしたら私は「回転寿司にしましょう」って答えるんだ……。
 よし!「回転寿司にしましょう」「回転寿司にしましょう」うん!
 返事のシミュレーションもばっちりだ、私!』
でれでれと歩く笹原の横では、目の中に炎を灯して歩く荻上の姿が見られた。
そして日も暮れて…。
「今日の晩御飯だけど、これから……。」
その台詞を待っていた荻上の目がギラリと光る。
『よし来た!「回転寿司にしましょう!」さーこい!』
「この先の、イタリア料理店予約してみたんだ。」
「かい…え?ええ〜っ!?」
荻上は笹原の方を2度見してしまうほどの吃驚っぷりである。
「あれ?ダメだった、荻上さん(汗)?」
「え?いえ!……そ、そんなこと無いデスヨ!?」
「ひょっとして、嫌いだったかな?」
顔に縦線を浮かべながら冷や汗もたらしている笹原。
「違うんです、笹原さん。気のせいです、気のせい。」
そんな笹原を見て焦り気味の荻上。

45いくらハンター3(3/4) :2006/04/21(金) 01:37:13 ID:???
「ただ、そんなお洒落っぽいお店を予約するのが意外だったというか――。」
「はは、そうだね、オタクが、俺がお洒落を気取っても駄目だよね………。」
思わず失言が飛び出した荻上と、どんどん落ち込んでいく笹原。
二人の空回りは、この日は修復不能であった。
食事はしたけどみかんは無しで別れる二人だった。

とはいえ、すぐに何事も無かったように、デレっとしたり感激したりする、
この時期の二人は翌週までには雨降って地固まる状態である。

翌週末の深夜、オンリーイベント向けの原稿のネームを切っている
荻上の部屋を訪ねる笹原の姿があった。
手にはコンビニのビニール袋が提げられている。差し入れのようだ。
「こんばんは〜。荻上さん、差し入れ持って来たよ。」
「こんばんは、ありがとうございます。」
言葉は素っ気無いが、笹原の来訪が何よりの嬉しい差し入れだ
といった様子が、嬉しそうな目元に表れている荻上だったが……。
差し入れの中には、苺の生クリームカステラ挟み260円と、
手巻き寿司(いくら)150円。
「あ!いくら巻き新発売ですか。今日からでしょうかねぇ。」
「うん、どうだろ…そうかもねぇ。」
いくらに過剰反応する荻上だった。
そしてそのまま包みを開き、オレンジの粒を確認すると海苔をスライドさせ
ロール状の酢飯を巻いて行く。
「ありがとうございます。いただきます。」
笹原の方にぺこりと軽く会釈してからパクリと巻き寿司を
いや、いくらを口に運ぶ荻上。

46いくらハンター3(4/4) :2006/04/21(金) 01:38:07 ID:???
『………?』
嬉しそうに見守る笹原の視線を感じて、平静を装う荻上だったが
内心は、打ち寄せる波が高くなってきていた。
『いくらの味はどこ?あの粒々の感触はどこ!?
 ………くっ!酢飯の味しかしないっすよ、笹原サン!』
思わず笹原を恨みそうになる荻上だったが、愛しい人の姿が
目の端に留まって思い直す。
『いや、笹原さんは悪くない…。半端な物売りやがって!7−トゥエルブめ!!』
にこやかに食べ終わると、すぐにもう1品もぺろりと平らげ、
会話もそこそこに机に向かう荻上だった。
その様子に不審がる笹原だったが、原稿の邪魔はすまいと
横に積んであったハレガンを読み始めるのだった。
荻上は鉛筆を片手にネームを書こうと唸っていた。
『大事な人がすぐ近くに居るのに、満たされないこの気持ち……。
 なんと人間とは業が深いものか。む!?これだ!』
何かテーマを思いついたようで、荻上の鉛筆が紙の上を走り始める。
『それにしても、いくら……求めれば求めるほど逃げていく……。
 そんなに求めなくても食べれそうな物なのに、何故に―――。』
偶然に翻弄され、我が身の不運を嘆く荻上の夜は更けて行った。


47マロン名無しさん :2006/04/21(金) 01:39:01 ID:???
以上です。コンビニでいくら手巻き寿司見かけて書きました。
…見かけるたびに書いてるわけじゃないですよ?

48マロン名無しさん :2006/04/21(金) 02:02:15 ID:???
>いくらハンター3
乙です!!荻上さん、いくら求めて今日も行く!
なかなか手に入らない、この苦悩はそう、恋にも似て…。
このシリーズ大好きです。また続編思いついたら是非!かいてくださいねーー。

49マロン名無しさん :2006/04/21(金) 03:32:51 ID:???
>いくらハンター
いくらはいいね。荻が好きなものの中で最高の物だ。
いくらをたくさん食べさせてあげたいけど、
賞味期限表記詐称とかあるから気をつけないとね!
相変わらず食べれない荻上さんカワイソス。
面白かったですw

50マロン名無しさん :2006/04/21(金) 08:49:26 ID:???
>いくらハンター3
原作では単に好きな寿司ネタという程度の話題が、ここでは悲劇のいくら中毒患者になってしまう。
この妄想膨らみ具合こそが、SSスレの醍醐味w


51マロン名無しさん :2006/04/21(金) 13:57:06 ID:???
ども、ご無沙汰しています。
今までクッチー絡みのスレを山ほど書いてきたバカです。
長々と書き続けてた長編が、ようやく完成しました。
一気に投下したかったのですが、とんでもない長い時間スレを占領することになるので、分けて投下することにしました。
実は今から仕事なので、時間の許す限り投下します。
全部で60レスぐらいの予定です。

52はぐれクッチー純情派 その1 :2006/04/21(金) 14:01:53 ID:???
タイトルの元ネタになったドラマ風の、タイトル欄に入り切らないサブタイトル

容疑者は荻上さん?
それぞれの15年戦争、今決着の時!
朽木刑事、北に南に日本列島縦断ループ! 

本作は、次のような前提条件で進行します。
@舞台は笹荻成就から10年後、つまりリアルタイムで言うと9年後の世界です。
A世界観は、以前書いた「11人いる!」に基づいています。(部室が屋上にある等)
B東北地方でのシーンが多いですが、東北弁は自信無いので基本言語は標準語です。
Cなお原作との関連性については、5月号現在までの状況を前提にしてますので、もし先に6月号のネタバレが届いていて、そこで5月号の時点で考えられなかったような事態(斑目と咲ちゃんが結ばれたとか)が起こっていたとしても、当局は一切関知しません。





53はぐれクッチー純情派 その2 :2006/04/21(金) 14:03:51 ID:???
軽井沢にほど近いハイウェイを、一台のジープが走っている。
オープンカーではなく、金属の屋根や窓ガラスのある市販モデルだ。
やや黒っぽい灰緑色に塗られた車体は、陸自や米軍の車両に似ていて紛らわしい。
東北地方のX県のナンバーが着いていることからも分かるように、寒冷地仕様だ。
クリスマスも終わり冬休みに入っているにも関わらず、ハイウェイは空いていた。
例年ならこの辺りは、平日でもスキー客の行き来で混み合っている。
だが今年は地球温暖化のせいか、この時期になっても雪が降らないから、この空き方も無理は無かった。
やがてジープはパーキングエリアに入る。
ジープから長身痩躯の男が降りてきた。
黒のスーツに黒のソフト帽にグレイのコートという、半世紀前のギャングのようなその男の格好は、ジープの運転手としては違和感があった。
コートだけが少し毛色が違うのは、ロシア軍払い下げの将校用のコートだからだ。
大学時代から体脂肪率の殆ど変わらない、痩せ型ゆえに寒さが体幹にまですぐに浸透するその男にとって、シベリアの寒さに耐えられるという触れ込みのそのコートは有難かった。
男はコーヒーを飲みながら景色を眺めた。
紅葉が落ち、雪が無い山々の景色は無残だった。
だが男の脳内では過去に見た景色が再現されているらしく、懐かしそうに景色を眺める。
「あれから10年か…」
男はクッチーこと朽木学だった。
彼は合宿で彼の地に訪れた10年前、それがきっかけで結ばれたひと組の男女に思いを馳せていた。
そして沈痛な面持ちになった。
これからの自分の行動は、もしかしたら2人の幸せを壊すことになるかもしれない。
だがすぐさまその思考を打ち消した。
そうじゃない、俺はむしろ2人の幸せを守る為に行くんだ。
そう思うことで自らを奮い立たせ、再びジープを発進させた。
「2年ぶりの東京か…」
ジープは東京方面に向かっていた。




54はぐれクッチー純情派 その3 :2006/04/21(金) 14:05:26 ID:???
彼が何をしに東京に向かっているのか?
それを説明する前に、少し長くなるが彼が卒業してからの8年間を振り返ろう。
クッチーは卒業後、警察官になった。
当初は普通の会社に就職する積りだった。
(もっとも働きながらジュニア小説を書いて、それがものになったら辞めるつもりだが)
だが彼は就職に関しては運が悪かった。
行く先々の面接担当者が年配者ばかりで、しかもオタクに偏見を持った人ばかりだった。
つまり現視研に所属していた経歴は大きなマイナス材料になった。
ある会社の面接の時など、あからさまに犯罪者予備軍呼ばわりされ、キレて乱闘沙汰になってしまったぐらいだ。
すっかり就職活動に行き詰まり、とりあえず派遣かバイトで食って行こうと考えていた矢先、転機が訪れた。
ある日ひったくり事件の現場に遭遇したのだ。
犯人はクッチーの方に逃げてきた。
クッチーはその前に立ちはだかった。
犯人はナイフを出して切りつけてきた。
とっさに避けたものの上着の袖が切れ、同時にクッチーもキレた。
手刀でナイフを持った腕を叩き折り、顔面に正拳を叩き込み、倒れたところで足を振り上げて顔面を踏み潰す。
さらに完全に気絶したひったくりに馬乗りになって、顔面に正拳を連打し続ける。
警官が駆け付けるのがあと1分遅かったら、犯人は死んでいたところだった。
多少過剰防衛気味ながら、クッチーは犯人逮捕のお手柄で表彰された。
表彰状を渡した警察署の署長は彼のことを気に入り、警官になることを勧めた。
彼の勧誘はかなり熱心で、その後もたびたび電話があり、ある時などわざわざ菓子折りを持ってクッチーの部屋を訪ねたりもした。
警察というところは慢性的に人手不足なので、時折この署長のように見込みのある若者に対しては熱心に勧誘する人がいるようだ。
「『こち亀』の両さんみたいに、交番でゆるりとオタライフというのも悪くないかも…」
就職に行き詰まり弱気になっていたこともあり、クッチーは警官の採用試験を受け、見事に合格した。






55はぐれクッチー純情派 その4 :2006/04/21(金) 14:07:58 ID:???
これで働きながら小説が書けるとひと安心したクッチーだったが、現実は彼の思うように行かなかった。
交番勤務の警官は忙しい。
ここ数年、日本の治安はどんどん悪くなっていて、小さな事件はしょっちゅう起きている。
それに加えて、予想した以上にいろいろな理由で警官を呼ぶ人が多い。
何しろ「蝉がうるさい」ってな理由で110番する人がいるぐらいだ。
だから交番に居る時間が1日に1時間も無い日も珍しくない。
「いい加減これでは小説が書けないにょー」と閉口するクッチー。
だがそんな思いとは裏腹に、根は真面目で正義感が強く、その一方でキレやすいクッチーは、現場では勇猛果敢に突撃した。
それに加えて、どうも彼には犯人を引き寄せる何かがあるらしく、指名手配中の犯人を逮捕したり、現行犯で犯人を逮捕したり、自分でも信じられないほどの活躍ぶりを見せた。
まあそのたびに犯人をボコボコにしてしまい病院送りにしていたが、マスコミの論調は一部の左翼系新聞を除いて好意的で、ある雑誌などは特集を組んだりした。
凶悪な事件が続発する昨今、時代は犯罪に厳しい警官を求めていたのだ。
このクッチー人気に本庁が乗り、彼は刑事に抜擢された。
2年ほど警視庁管内のある警察署に配属され、その間にも次々と犯人を逮捕した。
そこですぐに本庁の捜査一課に配属され、そこでも活躍した。

だが一方で、それを面白くないと思う者もいた。
以前から本庁にいた刑事たちだ。
彼らは概ね出世志向とエリート意識が強いので、ぽっと出のクッチーに異常な敵意を抱いていた。
クッチーに逮捕された犯人の多くは、警察病院の病室で筆談で取り調べに応じる。
彼の逮捕とは、拳足を犯人に叩き込み、ダウンしたところを顔か腹を踏み潰し、マウントパンチを連打することと殆どイコールだからだ。
毎回毎回、歯や顎を破壊されて喋れない容疑者の取調べに、いい加減刑事たちもキレかけていた。
そして事件は起きた。




56はぐれクッチー純情派 その5 :2006/04/21(金) 14:10:12 ID:???
ある時、クッチーは捜査方針を巡ってベテラン刑事たちと口論になった。
先にキレたベテラン刑事が殴った。よせばいいのに、何発も殴った。
それが惨劇の始まりとなった。
待機中の機動隊員たちにクッチーが取り押さえられた時には、捜査一課の全刑事の6割が病院送りになった。
このことが問題になってクッチーは刑事以前に警官をクビになりかけた。
「まあ警備員でもやりながら、のんびり小説書くかにょー」
だがまたもや事態は思い通りには行かなかった。
今は東北地方のX県のY署で署長をやっている、かつてのクッチーの上司が彼の資質を惜しんで本庁に掛け合い、自分の署で引き取ることを条件にクッチーの処分撤回を勝ち得た。
こうしてクッチーはY署の防犯係に勤務することになった。

クッチーにはこの半月ほど追い続けている事件があった。
Y署管内で3件の路上強盗事件が連続して起こった。
事件は3件とも、夜の9時頃に人通りの無い道で発生した。
(その為目撃証言は殆ど得られていない)
被害者はいずれも30歳の主婦で、パートの帰りだった。
犯行の手口はいずれも、物陰からいきなり催涙スプレーを被害者にかけ、鉄パイプのような鈍器で滅多打ちにしてから財布を奪うという荒っぽいものだった。
被害者は最初の2人は全身の打撲や骨折だけで済んだが、3件目の被害者だけは頭を殴られて意識不明の重体だった。


57はぐれクッチー純情派 その6 :2006/04/21(金) 14:13:01 ID:???
そして3件目の事件の後の、Y署での捜査会議。
係長「そういうわけで、引き続き物盗りの線で捜査を続行する」
何事も無難にまとめようとする、交番勤務からの叩き上げの係長らしい結論だった。
確かに3件の事件は、いずれも財布を奪われている。
そう結論付けることに無理は無い。
だがクッチーは食い下がった。
朽木「ほんとにただの物盗りですかね?」
係長「出たね、クッチーの引っかかりが。で、今回は何が引っかかるの?」
係長はクッチーが赴任してきた当初は「朽木君」と呼んでいたが、ある時舌を噛んでしまい、その後「呼びにくいからクッチーでいい?」と断った上でこう呼ぶようになった。
朽木「3件の強盗致傷事件の被害者が、いずれもパート帰りの30歳の主婦。偶然にしては続き過ぎませんか?」
係長「何が言いたいの?」
朽木「被害金額は1件目から順に8千円、千5百円、7百円。犯行を重ねるに連れて犯人の収穫はむしろ減っています。もし金目当ての物盗りなら、3件目ともなれば手慣れてくることもあって、もっと金持ってそうな人を狙うと思うんです」
年配の刑事が同意する。
(以下「年配」または「年配刑事」と呼称する)
年配「確かに3人とも、パート先に行って帰ってくるだけだから、割とラフな格好だったな。もし金目当てなら、ちと的外れな選択だな」
係長「たまたま被害者しか通らなかったんだろ。どの現場も、あの時間は1時間に5人も通らないし」
朽木「そこなんですよ、もう1つ引っかかってるのは」
係長「どこ?」
朽木「物盗り目的の犯行なら、田舎とは言えもっと人通りの多い場所は他にあります。何故犯人はあんな人通りの少ないとこで待ってたんでしょう?」
クッチーより5つほど若い、若手の刑事もクッチーの推理に乗った。
(以下「若手」または「若手刑事」と呼称する)
若手「それはつまり、たまたまではなく被害者を最初から狙ってたと?」
朽木「その可能性も捨て切れないよ」





58はぐれクッチー純情派 その7 :2006/04/21(金) 14:15:07 ID:???
係長「うーん…クッチー、他に被害者3人に何か共通点はあるかい?今のところ分かってる共通点だけじゃ弱いよ」
朽木「うーむ…」
そこで電話が鳴る。
係長「(電話に出て)はい防犯係…ちょっと待って下さい。クッチー、電話だ」
クッチーの席の内線電話に切り替える。
朽木「はいお電話代わりました、朽木です…あっ、ご主人。どうですか奥さんの具合は?…何ですって!」
クッチーの方を注目する一同。
朽木「…分かりました。わざわざありがとうございました(電話を切る)」
係長「誰から?」
朽木「第一の事件の被害者の旦那さんです」
係長「それで何だったの?」
朽木「三つの事件の被害者は全員隣のZ町のZ中学の同級生で、しかも全員文芸部だったらしいんです」
どよめく一同。
係長「でも何でまた今ごろ?」
朽木「第二の事件までは、マスコミの扱いも小さかった上に結婚して姓が変ってたので、まさか同級生とは思わなかったらしいんです」
若手「でも3人目の被害者は重体だった為にマスコミも大きく扱い、顔写真も公表された」
朽木「そう。その報道で第三の事件の被害者が同級生であることに気付き、通院してる病院に入院していた第二の事件の被害者に会いに行ってみたら、そっちも同級生だったって訳だ。係長、こりゃ調べてみる必要ありますよ!」
係長「よし、被害者の身辺の調査は君に任せる。(若手に)君は彼に付いて行け。後の者は
現場周辺で聞き込み続行、以上、解散!」







59はぐれクッチー純情派 その8 :2006/04/21(金) 14:17:26 ID:???
クッチーの愛車でZ町に向かうクッチーと若手の刑事。
若手「でもいいんすか?」
朽木「ん?」
若手「自分もZ町出身でZ中卒なんすけど、あの町って今凄くさびれてて、農家やってる人と都会に出た人以外はみんなY町で働いてるんすよ。そんでそのままY町に引っ越しちゃう人も多いから、今のY町の人口の3割ぐらいはZ町出身者っす」
朽木「つまり3人が同じ中学出身なのも偶然だと?でも3人とも元文芸部員というのは、どう説明する?」
若手「うーん、そう言えば…」
朽木「まあ違っていたら、それはそれでいい。だが疑わしい要因があるのなら、それを調べるのが俺たちの仕事だ」
若手「でもそれってムダじゃありません?」
朽木「真実に辿り着く為に、ある程度のムダを土台に積み上げるのも仕事の内だよ」
若手「朽木先輩って、思ったよりも思慮深い方なんすね」
朽木「犯人を力づくで捕まえて、殴る蹴るして吐かせる。そんな感じだったのかな?俺の印象って?」
若手「いえ、そんな…」
朽木「いいよ、分かってるから。何しろ俺は、元本庁の凶悪凶暴狂犬刑事なんだから」
若手「…」
朽木「俺がそうなるのは、最終的な局面だけさ。何しろ俺の逮捕は『取り返しの付かない事態』と紙一重だからね」

Z中学の校長室。
60代ぐらいの僧侶のように綺麗に頭の禿げ上がった教頭先生が出迎えてくれた。
校長は県の教育委員会に出てて不在だという。
教頭「ここも今では1学年1組で、来年か再来年には隣のY町の学校に統合されて廃校になるでしょうな。まあ私も定年までもう少しありますが、ここが廃校になったら引退でしょうな」
「そんな話を聞きに来たんじゃ無いっす」と言いたげな若手刑事を止めるクッチー。
年寄りには先ず喋りたいだけ喋らせる、それがこちらの必要な情報を引き出すのに必要な手続きと、クッチーは考えていた。




60はぐれクッチー純情派 その9 :2006/04/21(金) 14:18:58 ID:???
教頭「実は私、15年ほど前にもここで教師やっとったんですが、いろいろあって転勤になったんですわ。それが教頭になって戻って、ここの死に水取る役目を負うことになるとは、何とも因果な話ですわ」
クッチーの眼が光る。
朽木「15年前にもこちらにいらしたのですか?」
教頭「まあ正確には、20年前ぐらいから5年ほどですが…」
朽木「実は今日伺ったのは、先ほども電話で言いました通り、およそ15年前―正確には14年前ですか―にこちらを卒業した3人の女性についてお伺いする為なんです」
被害者の写真を教頭に渡すクッチー。
朽木「見覚えはありますか?」
教頭「この太いのは藤本だな…あとの2人は…名前がちと出てこんがみんな文芸部だな…」
若手「やっぱり…」
本棚から卒業アルバムを取り出し、2人に開いてみせる教頭。
教頭「(アルバムの写真の一枚を指差し)これが文芸部の集合写真ですわ。もっとも、この年に全員卒業して廃部になりましたがのう」
昔ながらのセーラー服を着た女子5人の集合写真。
その内の3人は、確かに被害者の女性だ。
藤本と呼ばれた太めの少女は、あまり外見が変らない。
あとの2人は髪型と化粧のせいで、ひと目では分かりにくいが、確かに被害者たちだ。
残る女子2人を見るクッチー。
1人は眼が大きく、なかなかの美形だ。
にこやかな表情だが、その眼は笑っていない。
どこか酷薄なものを感じさせる。
もう1人は小柄で丸顔で、ツインテールの髪と丸い眼鏡が印象的な大人しそうな少女だ。
朽木『この子、どっかで見たような…』
写真の下に書かれた名前を見て、心の中で驚愕する。
朽木『荻上千佳…荻チン?』
クッチーの視線の先に気付いた教頭。
教頭「その子が何か?」
朽木「いえ…別に…」




61はぐれクッチー純情派 その10 :2006/04/21(金) 14:20:20 ID:???
教頭「無事なのは荻上と中島だけか、何の因果なのか…」
急に暗い顔になる教頭。
教頭「実は私が転勤することになったきっかけを作ったのが、その子たちなんですわ…」教頭は荻上さんのトラウマエピソードを話し始めた。
それはかつて「傷つけた人々へ」で読み、荻上さん本人からも聞いた内容と同じだった。
違うところと言えば、その事件の責任を取って、現在は教頭をやってる当時の担任の先生が転勤になったことだ。
教頭「まあ表向きは単なる転勤ということになってるが、単なる転勤なら他県までは行きませんからなあ。やはり事情が事情ですから、誰か責任を取れということなんでしょう」
ふと朽木たちの視線に気付いたのか、教頭は笑顔を作って続けた。
教頭「あ、でも、もちろん彼女たちを恨んだりはしてないですよ。気付いてやれなかった私にも責任はありますし、全てはちょっとした悪戯から始まった、不幸な行き違いなんですから…」
そこでノックの音がした。
教頭「どうぞ」
入ってきたのはジャージに坊主頭の、一見生徒のように見える若い教師だった。
彼こそはかつて荻上さんと巻田の縁結びを務めた、あの坊主だった。
(以下、坊主と呼称する)
坊主「失礼します。教頭、校長からお電話です」
教頭「分かった、すぐ行く。(クッチーたちに)ちょうどよかった、紹介しましょう。彼はここの体育教師なんですが、ここの卒業生でその文芸部の連中と同じクラスで、例の一件の当事者でもあります」
朽木「てことは、まさか攻め役の…」
顔付きが厳しくなる坊主。
教頭「そんなわけで、あとは彼に聞いてて下さい」
校長室を出る教頭。






62はぐれクッチー純情派 その11 :2006/04/21(金) 14:22:12 ID:???
やや気まずい3人。
坊主「刑事さん…でしたね?」
朽木「ども、Y署の防犯係の者です…」
テーブルの上の被害者3人の写真を見る坊主。
坊主「こいつらが、例の強盗事件に?」
若手「ええ」
坊主「…いい気味だ」
若手「えっ?」
朽木「あなたは15年前、文芸部の同人誌の攻め役モデルにされたことを、まだ恨んでるのですか?」
若手「攻め役?」
坊主「俺のことはいい。ただこいつらが巻田を登校拒否に追い込んだことは許せない」
朽木「巻田さんも彼女たちを今でも恨んでるでしょうか?」
坊主「それは分かりません。何しろあいつ、転校してしばらくして引っ越しましたからね。もうずっと会ってないし、どこでどうしてるのやら…」
不意に壁を殴る坊主。
ビクッと反応する若手。
坊主「それなのに荻上のやつ、あのことを漫画のネタにしやがって。自殺未遂までやらかしたくせに、まだ反省してないのかよ」
朽木「それは違うと思いますよ」
坊主「何だと?」
朽木「多分荻上さんは、漫画にすることで巻田さんに謝りたかったんじゃないかな?少なくとも自分に悪気が無かったことを知らせることで、巻田さんが許すかどうかは別にして、
少しでも救われると思ったんじゃないかな?」
いきなりクッチーの胸ぐらを掴む坊主。
坊主「事情を知らないあんたに何が分かるんだ!?」
若手「こっ、こらっ!公務執行妨害で…」
言いかけた若手を手で制するクッチー。
朽木「分かるよ。私も荻上さんと同じオタクだからね」






63はぐれクッチー純情派 その12 :2006/04/21(金) 14:24:15 ID:???
坊主「あんたが?」
長身痩躯の体をスーツに包み、細面の馬面ながら目付きの鋭い目の前の男に、思わず疑問を抱く坊主。
朽木「あなたも読んだんでしょ?『傷つけた人々へ』は。私はあの作品のファンでね、だから断言出来るんです。彼女はあの作品を通じて彼に謝りたかったんだと」

それから数十分後、クッチーは荻上さんと中島、それに巻田の中学生の時点での連絡先を確認し、アルバムから写真のコピーを何枚か取った。
念の為に教頭と坊主のアリバイを聞き出してからZ中学を後にした。
荻上さんの現住所は、以前に結婚の報告の葉書きをもらったので後で帰宅してから捜すことにして、巻田と中島の家に向かう。
だが両方とも近所に連絡先も告げず、夜逃げ同然に引っ越していた。
巻田は例の事件の後、すぐに引っ越したらしい。
中島の方は、10年ほど前に父親の経営する会社が倒産したらしい。
あとこれは噂だが、中島は歌舞伎町の風俗で働いているらしい。
近所の聞き込みで分かったことはそれだけだった。
帰りに役所に寄って、巻田や中島の転居先を調べた。
だが役所は5年ほど前にデータベースをコンピューターウィルスにやられ、彼らの転居データは分からなかった。

その夜のY署での捜査会議。
係長「しかしねークッチー、わたしゃヤオイってのはよく分からんのだけど、15年前の事件だろ?それが動機になり得るかなあ?」
朽木「それはまだ何とも。ただいじめの被害者の気持ちは被害者にしか分からないし、関係者が3人も今回の事件の被害者である以上、一応洗い直す必要があると思います」
係長「うーむ…」








64はぐれクッチー純情派 その13 :2006/04/21(金) 14:26:02 ID:???
係長が何を渋っているか悟ったクッチー、助け舟を出した。
朽木「係長、忙しいとこすいませんけど、有休もらえませんか?」
要は係長、捜査費用の心配をしてるのだ。
行方不明の巻田や中島の捜索で、どこまで捜査の範囲が広がるか分からない。
だからクッチーは言下に、交通費は自腹で捜査すると宣言したのだ。
若手「先輩?」
年配「おいおい朽木、この忙しいのに…」
クッチーの意図を悟った係長、皆を制して答えた。
係長「分かったよ、クッチー。お土産頼むよ(近付いて耳元で小声で)土産代ぐらいは出すよ」
それは「後で交通費ぐらいは出すよ」という意味だった。
朽木「(敬礼)ありがとうございます」

前置きが長くなったが、こうしてクッチーは愛車で単身東京に向かった。
巻田と中島の行方の捜索は、若手の刑事に頼んでおいた。
ちなみに彼が軽井沢周辺を走っていたのは、最近の激務のせいで運転中に1時間ばかり脳が停止し、反射神経だけで運転を続けた結果であった。
本来彼の住むX県から東京へ行くには、軽井沢の近くを通るのは明らかに遠回りだった。

どうにか東京に着いたクッチーは、先ずは椎応大学に向かうことにした。
笹原と荻上の結婚式の招待状には、新しい住所と共に新しい電話番号も書かれていた。
どうやら結婚に伴って、携帯は家族割引のあるところに加入し直したらしい。
だが忙しさにかまけて自分の携帯に登録し直すのを忘れてて、いざ見ようとしたら引越しのドサクサで何処かに紛れ込んでしまった。
まあそんなことは、電話で大学に問い合わせても分かるから、本来ならわざわざ直接行く必要はない。
その分はハッキリ言って、8年ぶりに大学に行ってみたいというクッチーの私的な感情からだった。




65はぐれクッチー純情派 その14 :2006/04/21(金) 14:27:50 ID:???
久しぶりの大学は閑散としていた。
まあ冬休みだからだろうが、それにしても人の気配が少ない。
サークル棟の外観は変ってなかった。
もともと古くボロい建物だったから、8年ぐらいでは変らない。
ただ中に入ると旧現視研部室同様、板を打ち付けて閉鎖されている部室が増えていた。
それに廊下の突き当たりの行き止まりに、エレベーターがあるのには驚いた。
車椅子のイラストのマークがあることから、バリアフリーということなのだろう。
エレベーターはどうやら4階までのようだ。
どのみち現視研の部室は屋上だから、その先は階段を登らねばならない。
クッチーは階段を登り始めた。
彼は普段、なるべく階段を使うようにしていた。
不規則で多忙な生活ゆえに、体力トレーニングをサボりがちなことに対する気休めだった。

屋上のプレハブの部室は、さすがに年月のせいで錆や傷や汚れは増えたが健在だった。
窓から明かりが見えるから、誰かいるようだ。
8年ぶりにその扉を開け、例の挨拶をした。
朽木「こにょにょちわー」
そしてクッチーは、8年ぶりに派手にずっこけた。
8年前と同じように、斑目が平然と食事をしていたからだ。
朽木「まっ、まっ、斑目しゃん?」
狼狽するクッチーと対照的に、当然のような顔で落ち着いている斑目。
斑目「やあ朽木君、久しぶりだね」
朽木「まっ、まだいらしたんですかにょー?」
斑目「そりゃいるよ。だって俺、ここの学生課の事務員だもん」
朽木「じむいん?すっ、水道屋はどしたんすか?」
斑目「3年前に潰れた。そん時にたまたまここの事務に空きがあったんで潜り込んだ」





66はぐれクッチー純情派 その15 :2006/04/21(金) 14:29:43 ID:???
朽木「そ、その作業着は何ゆえ?」
斑目は相変わらず「(有)桜管工事工業」のロゴが入った作業着を着ていた。
斑目「ああこれ?けっこう気に入ってたんで記念にもらったんだよ。それに俺、この大学の営繕やメンテも兼任してるから」
朽木「営繕にメンテ?用務員っすか?」
斑目「水道屋でいろいろ覚えたからな。あの会社、末期の頃は水道関係の仕事だけじゃやってけないから、いろいろ手を広げてたんだよ。そんで資格たくさん取った。まあ大学もそれが気に入ったんだろうな」
朽木『この人、とうとう本格的に大学に居着いちゃったにょー…』

しばし久々にオタ談義をする斑目とクッチー。
だがここ数年、仕事が忙しくて新作の大半をスルーしているクッチーに対し、「あんたそんなもんまで見てるのかよ!」とツッコミたくなるぐらい、斑目はここ10年ほどの作品を次々話題に出してくる。
クッチーが話に付いて行ける所まで時代を遡ったその時、部室に女子学生が入って来た。
「(クッチーに、一瞬誰この人?な顔しつつも愛想よく)こんちわー(斑目に)あなたー、ここにいたのー?」
朽木「あなた?斑目さん、こっ、この方は?」
斑目「あー、うちのカミさん」
朽木「カミさん?!」
斑目「うん、そんで今年ただ1人の新入生」
改めて女子学生(以下斑嫁と称する)を見るクッチー。
小柄で少し太めで決して美人ではないが、童顔の丸顔は可愛らしい。
かつての荻上さんのように化粧気が無く、ほっぺの赤みが目立つ。
難点は少々お腹が出過ぎていることぐらいか。
斑目「(斑嫁に)ああ、彼は俺の2個下の朽木君」
斑嫁「どーも、斑目の妻です。始めまして」
朽木「ども、始めまして。『1年生と言えば18歳か19歳ぐらいだな。斑目先輩って確か今年33歳だったよな。犯罪だにょーそれ…』」






67はぐれクッチー純情派 その16 :2006/04/21(金) 14:31:16 ID:???
斑目「朽木君って、今警視庁だっけ?」
朽木「いやーいろいろやらかしまして、東北に飛ばされましたにょー」
斑目「それはお気の毒様。とすると、今日はどうしたの?里帰り?」
捜査のことをここでバラす訳には行かず、クッチーはごまかした。
朽木「まっ、まあそんなとこですにょー。他の皆さんはお元気ですかな?」

斑目はクッチーにみんなの近況を教えてくれた。
咲ちゃんは店がそれなりに繁盛していた。
高坂は独立してゲーム会社を立ち上げた。
2人とも忙しいせいか、付き合いは続いているものの結婚はまだだ。
田中は秋葉原のコスプレ専門店で働いていたが、最近独立して自分の店を出した。
大野さん(厳密には結婚したので田中さんだが)は卒業後OLをやってたが、子供ができたのを機に退職し、今では田中の店を手伝っている。
(もちろんコスプレで)
久我山は九州の支店に転勤、支店長としてだから一応栄転だ。
向こうで見合いして結婚したそうだ。
そして問題の笹原と荻上さんだが、結婚し出産した後、荻上さんは漫画家稼業を再開、笹原は派遣の身分ながらマガヅンの実質的な副編集長らしい。
ちなみに恵子はあちこちでフリーターをしていたらしいが、ここ数年は知らないとのことだった。
(この話の流れで、クッチーはごく自然な形でOB名簿をもらった)

朽木「ところで今会員はどれぐらいいるのですか?」
斑目「うちのカミさん入れて5人、かろうじて団体戦に出れる人数だ」
斑嫁「何の試合に出るのよ?」
斑目「もっとも今の会長ともう1人の3年生は来年就職だから、残るのは2年生2人だけだ」
朽木「あの、奥さんは?」
斑嫁「来年から休学しますんで」
朽木「そりゃまたどうして?」







68はぐれクッチー純情派 その17 :2006/04/21(金) 14:32:57 ID:???
斑嫁「(赤面し)産休です」
朽木「あー産休ねえ…(大声で)39セットでサンキューベラマッチャ!」
久々に意味不明なボケを放つクッチー。
朽木「と、ということは、そのお腹は…まっ、斑目さん…」
斑目「まあ、来年の6月頃には俺も親父だ」
朽木『6月頃ということは妊娠4ヶ月…ということは、仕込んだのは8月頃…ひと夏の経験?あの斑目さんが?』

斑嫁「まあそんな訳で、来年は新人入らないと真剣にヤバイです、現視研」
朽木「確か今年は奥さんだけでしたな、新入生」
斑目「うちはまだいい方さ。よそのサークルはここ2年ばかし新人ゼロのとこが多くてね」
朽木「それはまた何故…?」
斑嫁「ここ3年ほど連続で、うちの大学定員割れなんです」
斑目「いわゆる少子化というやつの影響さ」
朽木「そう言えば、封鎖された部室がたくさんありましたなあ」
斑目「まあうちも何時まで続くかは分からんよ。うち以前に大学そのものが何時までもつか分からんからな」
やや空気が辛気臭くなったことに気付いた斑目、強引に話題を変えた。
斑目「(斑嫁に)あっそういやあいつら、今日もやってるのか?」
斑嫁「ええ、会長の家で合宿中」
朽木「合宿?」
斑目「合宿って言うか、いわゆるカンヅメだよ。今度の冬コミ、あいつらサークル参加当選したんだけど、絵描き2人が久我山以上に仕事遅くてさ、原稿まだ出来てねえんだよ」






69はぐれクッチー純情派 その18 :2006/04/21(金) 14:34:10 ID:???
朽木「あの、冬コミは何時ですかな?」
斑目「(壁のカレンダーを見て)えーと、4日後だな」
朽木「4日後でまだなんすか?(冷や汗)」
斑嫁「だから印刷屋さんは無理です」
斑目「もっとも予算の都合で最初からコピー本の積もりだったから、そっちの方は問題無いけどな」
朽木「そういう問題では…」
斑嫁「まあ最近のプリンターは性能いいから、絵そのものは悪くない仕上がりになると思いますよ。もちろん装丁とか紙質は落ちますけど」
11年前、部室の外で聞いた怒鳴り合いを思い出しつつクッチーは呟いた。
朽木「人は同じ過ちを繰り返す、か…」
斑目「朽木君、オタさぼってたようなこと言ってた割には腕上げたじゃない」

クッチーは部室を後にした。
次に来る時には廃校になってるかもしれない、椎応大学のキャンパスを見つめる。
斑目に会い、みんなの近況を知ると、改めて今回の捜査に対して気が重くなる。
沈鬱な表情でキャンパスを見つめ続けていると、背後から声がかかった。
「朽木君?」
声の主は、かつての児童文学研究会の会長(以下児会長)だった。
朽木「お師匠様?」
児会長「お久しぶり」
朽木「何時アメリカから戻られたのです?」
児会長はクッチーの卒業後、アメリカに留学していた。
児会長「去年よ。今はここで助教授をやってるわ」
朽木「さすがお師匠様、その若さで助教授ですか」
児会長「もう若くないわよ。朽木君はまだ警視庁に?」
朽木「いやーいろいろやらかして、東北に飛ばされちゃいました」
児会長「相変わらずね。小説は書いてるの?」
朽木「忙しくてなかなか作品が上がりません。まあ定年後の楽しみですな」






70はぐれクッチー純情派 その19 :2006/04/21(金) 14:35:42 ID:???
児会長はクッチーの中の重い影のようなものに気付いた。
児会長「何かあったの?」
彼女の優しい笑顔を見ている内に、クッチーはつい今回の事件について話してしまった。
それでも話し終わった後、「捜査中ですので、くれぐれも内密に」と釘を刺すことは忘れなかった。
児会長「まあ部外者の私がああしろこうしろとは軽々しく言えないけど」
朽木「申し訳ありません。変な話に巻き込んでしまいまして」
児会長「私に言えることは、やらないで後悔するぐらいなら、やって後悔しなさい。これぐらいかな」
朽木「お師匠様…」
児会長「こういう時こそ、あなたの考える前に行動するウザオタパワーの出番じゃないかしら?非日常的なハレの場とはちょっと違うけど、いつも通りにやってていい展開ではないと思うわ」
朽木「そうか!お師匠様に教わった『明日の為にその1、ウザオタパワーはハレの場で一気に爆発させるべし!』」
児会長「私は丹下段平じゃないんだけど、まあそういうことね」
朽木「お師匠様のおかげで朽木学、目が覚めました!ありがとうございました!任務に戻ります!」
敬礼して立ち去るクッチー。
児会長は皇族の人のような優雅な仕草で手を振りつつ、それを見送った。

夜の新宿、歌舞伎町。
クッチーはこの町の裏事情に詳しい情報屋や、馴染みの風俗(刑事としてか客としてかは、ここでは触れない)の店員や店長に聞き込みを行なった。
何人か中島らしき女性に見覚えがあるとの証言を得たが、結局のところ今現在の居所は分からなかった。
「あんまし良かないけど、あそこで訊いてみるか…」
クッチーは「花形興業」という看板が掲げられたビルに入った。
暴力団・花形組の事務所だ。






71はぐれクッチー純情派 その20 :2006/04/21(金) 14:37:28 ID:???
朽木「ちとお邪魔するよ」
組員A「何だてめえ!」
組員B「(組員Aに)よせっ!(クッチーに)ご用件は?」
朽木「社長はいるかい?」
そこへ出てくる幹部の城崎(きざき)。
城崎「朽木の旦那じゃないですか。今日はどうしたんです?」
組員B「社長との面会をご希望です」
城崎「社長は不在ですので、私が伺いましょう」

事務所に通されるクッチー。
朽木「社長はまたどっかで喧嘩でもやってるのかい?」
2メートル近い巨漢で、クッチーとほぼ同年輩の若き組長は、極道世界では素手ゴロ(素手の喧嘩)日本一と言われていた。
城崎「(苦笑)まあそんなとこです」
朽木「あんまし派手にやるなよ」
城崎「その辺はぬかりありません。で、ご用は?」
朽木「実はこの女を捜して欲しい」
写真を取り出すクッチー。中学時代の中島の写真のコピーだ。
朽木「裏に名前その他は書いてあるが、変名を使ってる可能性が高い。あとそれは15年前の写真だから、今はもうちょっと老けてると思う」
城崎「それをまた何故うちに?」
朽木「10年ぐらい前に、歌舞伎町の風俗に身を沈めたことまでは分かってるのだが、その先が分からない。ここならその道にもコネがあると思ってね」
城崎「うちに頼むってことは…」
朽木「正規の捜査からはちと外れるから、本庁には依頼出来ない。俺今X県警だから」
城崎「そんな東北の片田舎から何でまた?…いや、すいません」
朽木「俺の個人的な事情もちと入ってるんでね、ひとつ頼むよ。礼はするから」
片手拝みするクッチー。
城崎「分かりました、旦那には借りもあるし」
朽木「あとついでに、もうひとつ教えて欲しいんだけど…」



72マロン名無しさん :2006/04/21(金) 14:40:50 ID:???
残念ながら出勤の時間となりました。
「はぐれクッチー純情派」
続きは仕事から帰ってから投下します。
再開の予定は、深夜の2時か3時頃の予定です。
それじゃ行ってきます。

73マロン名無しさん :2006/04/21(金) 15:14:18 ID:???
相変わらずぶっ飛んでますねー!!
だがそこがイイ!!
続きwktkでまたさせていただきます!

74筆茶屋はんじょーき :2006/04/21(金) 21:08:32 ID:???
えーと、前スレで「お江戸でげんしけん」を書いた者です。
一応時代劇風に、一話にまとめてみました。
原作からのキャラ変更があるので、嫌いな人は避けてください。

75筆茶屋はんじょーき :2006/04/21(金) 21:09:23 ID:???
 時は泰平の江戸時代
 所は将軍様のお膝元たる江戸市中
 一軒の茶屋を舞台に、物語は紡がれます…

荻上屋、通称”筆茶屋”では、看板娘の千佳が、こまねずみのように動き回っている。
もともと主人の道楽で始めたこの店は、開業初日から閑古鳥が鳴くようなありさまだった。
しばらくして、千佳と名乗る娘が切り盛りするようになっても、周囲の反応は冷ややかだった。
無口で無愛想。挨拶にもろくにできないような娘。
それが当時の彼女の評価だった。
しかし時間が経つにつれ、それが誤解だと周囲も気がついた。
確かに無口で無愛想ではあったが、それが彼女の極端な内気さによるものだと、内面はよく気が付く優しい娘だとしれた時、彼女とその店は、そこに欠かせない物になったのだった。
そのせいか、この店は妙に常連の多い店でもあった。
一番の常連は、この店の用心棒を自負する、笹原であった。
空腹で行き倒れていた所を救われた彼は、その恩に報いるべく、連日通いつめていた。
そうなれば、千佳の側でも無視するわけにはいかず、結局、団子と茶の報酬で、笹原の行為に報いることになったのだった。

76筆茶屋はんじょーき :2006/04/21(金) 21:10:08 ID:???


”筆茶屋はんじょーき”


その日も”筆茶屋”は賑わっていた。
看板娘の千佳が、あちこち駆け回る。
そんな中、笹原はのんきに茶を啜っていた。
今日は一人ではなく、同じ長屋の住人である斑目が傍にいた。
「しかしよ、笹原。毎日毎日数本の団子と茶で、このように退屈を強いられるというのは、すこし安すぎはしないかね。お前ならもっといい仕事があるだろうに」
斑目が笹原の奢りの団子を口にしつつ、笹原に話し掛けた。
「そうでもないですよ」
笹原は苦笑する。
実の所、笹原自身にも、なぜこの仕事を続けているのかわからない。
ただ、彼女の力になりたい、そう思ったのだ。
笹原がその理由を知るのは、ずいぶんと先のことになる。

笹原と斑目の二人は、共に無言で茶を啜る。
ゆったりとくつろいだ雰囲気。
ろくに茶も飲めない貧乏浪人には、それが極上の甘露に思われた。
とはいえ、いつまでものんびりもしていられないのが、斑目の現実。
長屋の自分の部屋には、納期の迫った内職が待っている。
少々憂鬱になりながらも、
「ごちそうさん、また来るわ」
斑目はそう言い残して立ち上がり、長屋に向けて歩き出した。
「今度は奢りませんよ?」
笹原の軽口に笑って手を上げる。
やり取りに気を取られた所為か、斑目は向こうから歩いてきた、無頼な格好をした男と肩が触れた。
「失礼」
そう言って斑目は歩き出そうとする。
しかし相手は、斑目の肩を掴むと、顔面にこぶしを叩き込んだ。

77筆茶屋はんじょーき :2006/04/21(金) 21:11:00 ID:???
斑目はもんどりうって倒れこむ。
「おう、人にぶつかっておいて、詫びの仕方もしらんのか?」
男が凄む。
「いや、だから失礼と…」
「それで済むわけがねーだろうが!」
大声で怒鳴りつける。
「おい、どうした」「なんかあったのか?」
その声を聞きつけたらしい、同じように無頼な格好をした男が集まってくる。
「ああ、人にぶつかっておいて詫びの一つもしない奴を、こらしめてんだ」
「ふん…確かに、逆さに振っても金の音もしねえ奴に見えるな」
「やっちまえよ」
男たちは、今だ状況について行けずに固まっている斑目の、胸倉を掴んで引きずり起こす。

笹原はようやく騒ぎに気付くと、慌てて立ち上がり、駆けつけようとして、
「やめんか!!」
凛とした女性の声に固まった。
それは笹原だけではなかった。
見渡せば、男たちも野次馬も、斑目まで固まっていた。
女が一人、男たちへ近づく。
「天下の往来で喧嘩か?まったく、見苦しい。どこか他でやれ」
女は自分よりも背の高い男たちを、真っ向から睨みつけて命令した。
「お嬢ちゃん。余計な事に口を挟まない方がいいぜ」
男の一人が、にやにやと笑いながら女に手を伸ばす。
女がその手を掴んだ瞬間、男は空中に弧を描き、背中から地面に叩きつけられた。
地面でのたうち回る。
「この女!!」
もう一人が殴り掛かる。
女はそのこぶしを難なく避け、足を払う。男がひざをつく。次の瞬間には首筋に手刀を食らって気絶した。
「そなたはどうする?」
女が問うと、残った男はいまいましげに顔をゆがめ、
「おぼえてやがれ!」
と、芸の無い捨て台詞を残して逃げ出した。

78筆茶屋はんじょーき :2006/04/21(金) 21:12:39 ID:???
やんやの喝采の中、女はへたり込んでいた斑目を見下ろす。
「大事無いか?」
真剣そうな声に、斑目はただうなずく事しか出来なかった。
女の傍に、若い優男が近づく。
「咲ちゃん、危ない事はやめてよ。心配したよ」
「それなのに手を貸してはくれないのだな」
優男の笑顔での言葉に、咲と呼ばれた女はすねたように答えた。
「だって手を出したら、咲ちゃんは怒るし…あれくらいなら平気でしょ?」
「その物言いは気に入らん」
そのような会話を続ける二人を、斑目はぼんやりと見上げていた。
正確には咲だけを。
胸がうるさいほどに高鳴る。顔が赤くなる。呼吸すら忘れてしまう。
ふと咲が斑目を見た。斑目の様子に不審を感じたのか、心配そうに顔を近づける。
「本当に大事無いのだろうな?お主」
斑目はがくがくと首を縦に振る。

79筆茶屋はんじょーき :2006/04/21(金) 21:13:37 ID:???
出番を無くしてしまった笹原も、二人を見つめていた。
正確には優男だけを。
何気ない動作一つ一つが、その男の強さを感じさせた。
自分の強さを確かめたい衝動が、笹原に沸き起こる。
吸い寄せられるように近づく。
優男と目が合う。
足を止める。
優男が無造作に近づく。一歩、また一歩。
そして笹原の間合いぎりぎりで足を止める。
睨みつける笹原に、優男は、無邪気な、一点のかげりも無い笑顔で、笑いかけた。
ごく一瞬の忘我。
気が付いた時には、すでに優男の足が間合いを割っていた。
呆然とする笹原に、優男は軽く一礼すると、背中を向けて咲の下へ歩いていった。
「何をしていたのだ?高坂」
「別に?」
二人のやり取りの声が遠い。
それほどに笹原は、自身のうかつさに憤慨していた。
同時に深く恥じ入る。
(気を逸らされた。もし実戦なら、俺は死んでいた。…くそ、なにが御宅流の目録だ。俺は、まだまだ、弱い…)

80筆茶屋はんじょーき :2006/04/21(金) 21:14:22 ID:???
二人が去り、野次馬たちが散ってしまっても、笹原と斑目はいまだ固まっていた。
「あの…大丈夫ですか?」
荻上の声に笹原は我に返る。
「あ、ああ、大丈夫。ごめんね、心配掛けて…ほら、斑目さん」
言いながら、斑目を引き起す。
「別に心配なんてしてません」
荻上はぶっきらぼうに返すと、斑目の着物についた土ぼこりを払う。
「可憐だ…」
どこか遠くを見つめながら、斑目はぼそりと呟いた。

81筆茶屋はんじょーき :2006/04/21(金) 21:15:15 ID:???
以上です。

82マロン名無しさん :2006/04/21(金) 23:49:37 ID:???
ぐっじょ…続くんだよね?続き読めるんだよね?w

83マロン名無しさん :2006/04/22(土) 00:14:42 ID:???
いくらハンター3書いた者です。
感想ありがとうゴザイマス!

>>48
あと2作は元ネタのストック有りますので、そのうち書きますよー

>>49
ホントにそろそろ、思う存分、食べさせてあげたいですよね!(←食べさせてない張本人)

>>50
最初は普通に、好きなだけで、頭がカレーモードとかラーメンモードに入った
ぐらいの状態のつもりだったのが、今回真性中毒者に突入しましたorz


>>はぐれクッチー純情派 1〜20
最近、SSすれに何かが足りないと思っていたら「クッチー分」でしたよ!
待ってました!!続編楽しみです

>>筆茶屋はんじょーき
ああっ!斑目が不憫でもう…www
是非、続編をお願いします

84マロン名無しさん :2006/04/22(土) 01:10:24 ID:???
>はぐれクッチー純情派
おおう、クッチー話!!久々にクッチーの勇士が見れました。
「11人いる!」の方ですか!いい仕事してますねえ…。
かっこいいですね。ロシア風コート着こんだクッチー。

…さて。斑目!斑目!!女子大生とできちゃった結婚の33歳斑目イエーーーッ!
以前「斑目を10年後に幸せにする」とカキコされていた言葉、確かに!
ひと夏の恋!?キャーーー!…い、いかん取り乱したっ…ゴホゴホ。
とにかくはぐれクッチー純情派、続き楽しみにしてます。

>筆茶屋はんじょーき
本格的になってきましたねw時代劇w
笹原と高坂の相対するシーンが好きです。バ○ボンドとか好きなんで。いいわー
斑目!台詞だけは五ェ衛門(爆)!!

85マロン名無しさん :2006/04/22(土) 01:16:12 ID:???
はぐれクッチーの続きを寝ないで待っている私ですが・・・

>いくらハンター
私もいくら好きなんで今日拝読して・・・子象寿司でいくら丼を買ってきて食べました。
続き楽しみにしてます。

>筆茶屋
咲姫とこーさかの関係は・・・許嫁か何かですか?
続き楽しみにしてます。

86マロン名無しさん :2006/04/22(土) 03:19:30 ID:???
ただいま帰りました。
昼間「はぐれクッチー純情派」を送ったバカです。
続きを投下しようと思います。
二時間近くスレ占領することになると思いますので、投下やレスのある方はお先にどうぞ。
無ければ5分ほど後に約40レス一気に投下します。

87はぐれクッチー純情派 その21 :2006/04/22(土) 03:27:36 ID:???
夜の池袋。
路地裏を歩く、人相の悪い男。
背後に人の気配を感じて振り返る。
だが次の瞬間、鳩尾を殴られて気絶する。
殴ったのはクッチーだ。
気絶した男の懐をさぐる。
拳銃が出てきた。
旧ソ連製のトカレフだ。
朽木「ありがたい。中国製はここ一番で当てにならんからな」

殴られた男はチャイニーズマフィアのメンバーだ。
城崎から聞いたのだ。
もっとも、拳銃を所持していたのを見破ったのはクッチーのヤマカンだが。
彼は明日荻上さんに会いに行く。
荻上さんは容疑者であると同時に、次に狙われる可能性もあった。
大概の相手は1対1なら何とか出来る自信はあるが、今は1人きりなのであらゆる可能性を考えて置かねばならない。
だから飛び道具も用意しておきたかった。
だが建前上、有休中の彼が正規の手続きで拳銃を所持することは出来ない。
そこでこういう非常手段を取ったのだ。
あとは男を捕まえない代わりにしばらく借りておき、後で所轄署に落し物として届けておけばいい。
もっともこれから何日かは「ついうっかり」届けるのを忘れてる予定だが。

気絶した男は、ショルダーホルスターを着けていた。
クッチーは男の上着を脱がせてホルスターを外し、上着を着せ直す。
次に自分の上着を脱ぎ、ホルスターのベルトを調整しつつ着ける。







88はぐれクッチー純情派 その22 :2006/04/22(土) 03:31:47 ID:???
男の懐をさぐると、予備の弾丸や弾倉もあった。
それらを自分のポケットに仕舞うと、クッチーはトカレフから弾倉を抜き、スライドを引いて装填されていた弾丸を弾き出す。
弾き出した弾を拾い、さらに弾倉からも弾を抜く。
ポケットからスイスアーミーナイフを出し、その千手観音のような付属の道具の中からヤスリを出し、それらの弾の先端を雑に削り、薬莢も少しだけざっと削った。
(ちなみに彼のナイフは、意図的に少し刃こぼれさせてあった。「研ぎに出す為に持っていた」と言い訳する為だ。銃刀法によれば、厳密にはこの手のナイフは正当な理由無しに持ち歩くことは出来ない)
こうしておけば弾はダムダム弾のように命中した途端に潰れ、貫通しにくくなる。
トカレフの弾はきわめて弾速が速く、そのくせ口径が小さいので貫通しやすい。
貫通による二次被害を防ぐ為の措置だった。
ただ、これを意図的にやったとなると問題になる。
ダムダム弾は本来銃創を広げて殺傷力を高める為のものだからだ。
(まあそれ以前に、ヤクザから拳銃奪って使ってる時点で問題だが)
そこで「たまたま弾丸の保存が悪くて傷だらけになり、それが偶然ダムダム弾になった」と言い訳出来るように、わざと雑に仕上げたのだ。
(注意、実際にやると装填不良や銃身破裂になりかねないので、良い子はマネしないように)
弾倉に削った弾丸を装填すると、トカレフ本体に叩き込んでホルスターに仕舞う。
わざと薬室には装填しない。
本来トカレフのように撃鉄を露出した自動拳銃は、スライドを引いて薬室に弾を装填し、その後撃鉄を抑えつつ引き金を引いてゆっくりと倒し、安全装置をかけて持ち歩く。
これなら抜き撃ちの際、親指で安全装置を外し撃鉄を起こして発射出来る。
だがトカレフには安全装置が無い。
撃鉄を半分だけ起こして固定するハーフコック機構だけでは心もとない。
それに警官は自動拳銃を所持する際、暴発事故防止の為に通常薬室には装填しない。
生真面目な男クッチーは、こんな場合にも関わらず警官の拳銃取扱細則を厳守していた。





89はぐれクッチー純情派 その23 :2006/04/22(土) 03:33:58 ID:???
ジープの車内で一夜を明かしたクッチー、午前中はあちこちへの聞き込みや連絡に費やし、午後になってから笹原宅に向かった。
笹原のマンションは、神田に近い都心部にあった。
神田には出版社が集中している。
通勤の便利さで選んだらしい。
夫婦共稼ぎで、しかも嫁はんは売れっ子漫画家である、笹原夫妻ならではの選択だ。
インターホンのボタンを押すと、明らかに荻上さんと違う女性の声。
「どなた?」
朽木「ご無沙汰しています、朽木です」
「朽木?あんたクッチーなの?」
朽木「はいっクッチーですにょー、ってあなたは一体?」
相手はそれに答えず、ドアが開いた。
出て来たのは恵子だった。
朽木「恵子さん?」
10代の時の不摂生が祟ったのか、恵子は30前にしては老け込みが目立った。
肌が荒れ気味で髪にサラサラ感が無い。
ただ顔付きや体付きにあまり変化は無かった。
恵子「おお、久しぶり。元気?」
朽木「まあおかげ様で、って何であなたがここに?」
恵子「家事手伝い兼アシスタントよ」
朽木「あしすたんと?」
恵子「まあベタとホワイト塗ったり、トーン貼ったりするだけだけどね」
「おばちゃん、誰?」
奥から子供の声が聞こえた。男の子のようだ。
恵子「おばちゃん言うな!あたしゃまだ29だ!」
声の主が出てきた。小学校低学年ぐらいの男の子だ。
ぼさぼさの髪や大きめの鼻は笹原似だが、大きな目は荻上さん似だ。







90はぐれクッチー純情派 その24 :2006/04/22(土) 03:37:14 ID:???
恵子「ほら麦男、お客さんに挨拶!」
麦男「分かったよ、恵子お姉ちゃん(クッチーに)こんにちわ」
朽木「(ニッコリ笑い)こにょにょちわー『麦男?』麦男君は何年生なの?」
麦男「1年生」
朽木「そう1年生なんだ『てことは7歳ぐらいか。荻チン卒業前にもう作ってたんだな』」
奥からもう1人、3歳ぐらいの幼女がトテトテと走り出た。
赤いオーバーオールのその幼女は、筆頭の髪も含めてまるで縮小コピーのように荻上さんに似ていた。
ただ大きな目が少し垂れ気味なところが、笹原の血を思わせた。
幼女はクッチーを見ると、怯えたように恵子の後ろに隠れた。
でも好奇心はあるらしく、顔を少し出してクッチーを見る。
恵子「(幼女に)こら千尋、ご挨拶しなさい!」
朽木『千尋?あんたら子供に漫画キャラの名前を…』
恵子の態度で知り合いと認識したのか、クッチーに近付く千尋。
千尋「…こんにちわ」
彼女の目線に合わせるべく、その場でしゃがむクッチー。
朽木「こにょにょちわー。千尋ちゃんはいくつ?」
千尋「(指3本を突き出しつつ)みっつ」
朽木「そーえらいねー」
頭を撫でる代わりに、千尋の筆をシビビビするクッチー。
再び奥から声がする。
「恵子さん、誰か来てるの?」
言い終わらぬ内に、声の主荻上さんが出てきた。
(注、厳密には笹原千佳なのだが、本編では便宜上荻上さんと呼称する)
そしてクッチーは部室に来た時同様、派手なズッコケを披露した。
荻上さんは丸くなっていた。
顔はこけしのように真ん丸になり、体もデブとは言わぬまでもぽっちゃり気味になっていて、学生時代の少女のような線の細さは面影も無かった。
ただ病的な感じの無い健康的なぽっちゃりさの上、けっこう巨乳になっていた。
筆頭は相変わらずだが、眼鏡をかけていた。





91はぐれクッチー純情派 その25 :2006/04/22(土) 03:40:11 ID:???
荻上「(明るくにこやかに)あら朽木先輩、お久しぶりです」
朽木「おっ、荻チン…あっ失礼、今は笹原夫人でしたな。ご無沙汰してますにょー…」
荻上「いいですよ荻チンで。ペンネームは荻上千佳のまんまですから」
荻上さんは本格的に漫画家デビューしてから、ペンネームを本名の荻上千佳に改めた。
そして笹原と結婚後も、ペンネームはそのままで漫画家を続けていた。
恵子「もう千佳姉さん太ったから、クッチー驚いてるじゃん」
荻上「座業は太るんです。それに子供2人も産んだら誰だって太りますよ」
朽木「まあまあ2人とも。荻チンも太ったってほどじゃないし、僕チンも結婚式以来会ってないから意表を付かれただけだから…」
またまた奥から声がする。
「誰か来てるの?」
今度の声は聞き覚えの無い男性の声だ。
荻上「あっあなた、朽木先輩がいらしてるのよ」
朽木『あなたってことは笹原さん?こんな声だっけ?』
声はクッチーの記憶にある笹原の声より、野太く低かった。
笹原「えっ朽木君?懐かしいなあ」
やがて笹原が出て来た。
笹原「やあ朽木君、久しぶり」
そしてクッチーは再び派手なズッコケを演じた。
笹原は太っていた。
顔付きも丸くなっていたが、体型は完全に肥満体になっていた。
久我山やハラグーロほどではないが、高柳や田中は軽く凌駕していた。
朽木「さささ笹原しゃん…」
笹原「(朽木の驚きの意味を悟り)あっやっぱり太り過ぎかな?」
朽木「いっいえ、失礼しました。おっお久しぶりですにょー」






92はぐれクッチー純情派 その26 :2006/04/22(土) 03:42:30 ID:???
恵子「もう2人とも太り過ぎ!」
笹原「しょーがないだろ。だって千佳の手料理おいしいんだもん…」
荻上「寛士さんの作ってくれる料理もおいしいし…」
赤面する笹荻。
クッチーは急に部屋の温度が30度ばかり上がった気がした。
朽木『確か結婚から7年経ってるはずなのに、何なのこの熱々ぶりは?もしかしてここ数年続いている地球温暖化の原因って、この2人なのかも…』
クッチーがX県警に異動になったのは、2年前の冬のことだった。
その為彼は、都合3回東北の冬を体験している。
だが彼が来てからのX県では、東京より少し積雪が多い程度ぐらいしか雪が降らなかった。
地元の人の話では、ここ数年の雪の少なさは異常だという。
まあそれでも極端に寒さに弱いクッチーにとっては酷寒だったが、暖冬続きの異常気象でも地球温暖化は有り難かった。
クッチーは心の中で笹荻に手を合わせて感謝した。
恵子「はいはいご馳走様、この幸せ太りバカップル!」
笹原「ハハッ。今日はどうしたの?」
朽木「いやいや近くまで来たもので、ちとご挨拶をと…」
笹原「そう。そうだ朽木君、昼食はもう済んだ?」
朽木「いえまだですが…」
笹原「よかったらうちで食べていきなよ。カレー作ったんだけど、ちょっと作り過ぎちゃって…」
よく見ると笹原は赤いエプロンを着けていた。
朽木「笹原さんが作ったのでありますか?」
笹原「うん、休みの時は俺が担当なんだ」








93はぐれクッチー純情派 その27 :2006/04/22(土) 03:45:03 ID:???
結局クッチーは笹原家で昼食をご馳走になった。
荻上「こらっ、麦男!ちゃんと人参も食べなさい!」
麦男「はーい」
ミルクでも混ぜて甘口にしたのか、白っぽいカレーを食べてる千尋、服にこぼす。
恵子「(ナプキンで拭いてやりながら)もー、ダメよ千尋!」
そんなやりとりを優しい眼差しで見つめる笹原。
そんな和やかな幸せ家族の食事風景に付き合う内、クッチーの中では今回の事件について、少なくともこの一家の中に犯人はいないと確信した。
合理的な根拠は無く、刑事としてのカンだけが根拠だった。
だがそうなると今度は、いかにこの一家の幸せを守るかが仕事の本筋になる。
表面上はいつものウザオタ口調で軽口叩きつつも、心の中では改めて使命の重さを実感し、闘志を燃やしていた。

食事が終わり、トイレを借りたクッチーが台所に戻ると、笹原の姿は無かった。
恵子は千尋と麦男の相手をし、荻上さんは食器を洗っている。
朽木「あの笹原さんは?」
荻上「多分屋上ですよ」
朽木「屋上?」
荻上「あの人、結婚してから煙草吸うようになったんです。でも家の中では絶対吸わないって言って、いつも屋上に行って吸うんです」
朽木「ベランダで吸えばいいのに…」
荻上「それだとホタル族丸出しでみっともないって言うんです。それに屋上からの方が景色がいいんですって」
これはチャンスかもと密かに考えるクッチー、玄関に向かう。
荻上「あら、お帰りですか?」
朽木「いやいや、ちょっと笹原さんと女性の前では出来ないような話をしようと思いましてにょー。荻チン、僕チンと笹原さんでワープしちゃダメだにょー」
荻上「しません!(小声で)朽木先輩も攻めっぽいから、攻め同士で成立しません」
朽木「何か言ったかにょ?」
荻上「(赤面)何でもねっす!」





94はぐれクッチー純情派 その28 :2006/04/22(土) 03:47:06 ID:???
屋上には、煙草をくわえた笹原が待っていた。
先ほどまでの笑顔は消え、マジ顔になっている。
笹原「(煙草を捨て)やっぱり来たね」
朽木「食事中、時々その顔してましたから、薄々気付かれたかなと思ってはいたんですが、やっぱり…」
笹原「今日は仕事で来たんだね?」
朽木「さすが笹原さんだ、やっぱり気付いてたんですね。分かりました。ここからは元現視研の会員の朽木としてではなく、X県警Y署防犯係の刑事の朽木としてお話しします」
笹原「X県警?」
朽木「Y署のあるY町は、奥さんの実家のあるZ町の隣町です」
笹原「なるほどね、今の勤務先をしつこく訊いてもハッキリとは答えないわけだ」
クッチーは食事中、みんなから今の勤務先を訊かれたが、「凄い田舎に飛ばされたんで、恥ずかしいから勘弁して下さい」と言い逃れていた。
朽木「お話しする前に断っておきますが、今の私は公式には有給休暇中の身です。したがってああ言っておきながら、私の法的な身分は一私人に過ぎません」
どういう意味?と言いたげな目を向ける笹原。
朽木「だから今の私には、刑事として笹原さんに何かを強制する権限はありません。ですから答えたくないことは答えなくてけっこうです」
そう断った上でクッチーはこれまでの事件の経緯を話した。

笹原「つまり朽木君は千佳を疑っているのかい?」
朽木「先ほどお話したように、現段階では何も確証はありません。ただ、あの中学の時の事件の関係者が3人続けてやられてる以上、可能性の1つとして考えざるを得ないわけです。私の尊敬する刑事が、昔こんなことを言ってました」
笹原「?」
朽木「俺は偶然を2度までは許すことにしてるんだ。だが3度目があったらそれは偶然じゃない、何らかの必然がある」
笹原「『まあそう考えるのが自然だな』…ってそれ、パドワイザーの松田刑事じゃない!」






95はぐれクッチー純情派 その29 :2006/04/22(土) 03:49:06 ID:???
朽木「まあそれはさておき、私が心配してるのは、むしろ奥さんの方がターゲットにされる可能性なんです」
笹原「千佳が?どうして?」
朽木「中学の時の事件の最大の加害者と被害者、即ち中島と巻田が行方不明だからですよ」
笹原「あの2人が?」
人の気配に気付いて振り返るクッチー。
背後には荻上さんがいた。
その眼には不安と怯えの色があった。
朽木「どこから聞いてたんですか?」
荻上「朽木先輩がX県警のY署だってとこからです。あの…」
朽木「(荻上さんの言葉を遮って)安心して下さい、奥さん。すぐそこの警察署の署長は私の昔の上司でね、特別にこの辺りの巡回を厚めにするように頼んであります」
笹原「そうなの?」
朽木「あの2人の写真を渡して、もしこの近くで見かけたら即職質をかけて、保護名目で身柄を拘束するように頼んであります。関係者が3人やられてる以上、2人は容疑者であると同時に次の被害者になる可能性もありますから」
荻上「そうですか…」
朽木「ただ外出はなるべく控えて下さい。子供たちは絶対1人にしないようにし、どうしても外出する時は誰かに付いて来てもらって下さい。あと念の為、全員にこれを持たせて下さい」
クッチーは懐から数個のペンダントと、トランシーバーのような機械を2つ出した。
荻上「それは?」
朽木「発信機です。トランシーバーみたいなのはその受信機ですから、お2人が持っていて下さい。使い方は今から説明します」






96はぐれクッチー純情派 その30 :2006/04/22(土) 03:51:23 ID:???
ひと通り発信機の説明が終わったところで、クッチーの携帯が鳴った。
城崎からだった。
城崎「あっ旦那、分かりましたよ中島の居所」
朽木「えらく早いね」
城崎「中島は社長の愛人の1人だったんです。それで社長に尋ねたら一発で分かりました」
朽木「で、どこに居るの?」
城崎「ススキノです」
朽木「ススキノって…北海道の?」
城崎「そこで『ブラックキャット』って名前のSMクラブを経営しています」

クッチーは笹原宅を辞すると、その近所の警察署に寄った。
本来なら自分が可能な限り荻上さんたちの警護をする積もりだったが、自らススキノまで捜査に行くので、その分笹原宅周辺の警備を強化してもらいに署長に頼みに来たのだ。
そしてついでに、彼の愛車のジープを預かってもらえるように頼んだ。
署長は車が足りない時にジープをパトカー代わりに使うことを条件に承諾した。
そしてクッチーは機上の人となり、北海道へと向かった。

その日の夜、クッチーはススキノに到着した。
ススキノは本土ではソープ街のイメージが強いが、飲み屋やホテルなども並ぶ繁華街だ。
その一角の雑居ビルの最上階に、SMクラブ「ブラックキャット」はあった。
ちなみに他のテナントはバーや居酒屋だ。
「ブラックキャット」も扉に会員制という看板が掲げられている以外は、外からはバーか何かに見え、SMという文字は見当たらない。
だいぶ一般化したとは言え、やはり堂々とSMと掲げられた店には入りづらい。
そういう客の心理を配慮した措置と思われる。






97はぐれクッチー純情派 その31 :2006/04/22(土) 03:53:51 ID:???
クッチーが店内に入ると、半裸で巨乳の若い女性が出迎えた。
受付嬢兼SM嬢だそうだ。
クッチーはピーを半起させつつも警察手帳を出し、店長の中島の所在を尋ねた。
受付嬢は彼を奥の部屋に通し、店長はすぐに来るので待つように告げた。
等身大の十字架や木馬などが並ぶ、本格的なプレイルームだ。
異様な空気に妙な緊張をしつつ待つクッチー。
やがて扉が開き、ビザールな女王様ファッションの中島が現れた。
中島「ごめんなさい、もうじきプレイなのよ。手短にお願いして下さる?」
今年で30になるはずの中島は、気味が悪いほど若々しかった。
朽木『これが風俗に身を沈めて苦労してきた女なのか?』
目の前の中島は、まだ20代半ばぐらいにしか見えなかった。
中島「まあ馴染みのお客さんだから、もし話が長引いた時にはその分サービスで延長してあげるけどね」
朽木「お忙しいところ大変申し訳ありません」
クッチーは中島に事件の概要を説明する。
先ほどまでの水商売用の顔が消え、暗い眼でクッチーを見つめる中島。
中島「つまりあたしを疑ってる訳ね?」
朽木「あなただけではありません。中学の時のあの事件に関わった全員をただ今捜査中です」
中島「まあ疑われても仕方ないか。だってあたし、荻上を殺しかけたひどい女だもんね」
自嘲気味の笑いを浮かべる中島。
先ほどまでの若々しさは営業用のものだったらしく、素の彼女に戻ると急に老け込んで見えた。
かつて「傷つけた人々へ」で読んだ中島は、漫画的な演出として分かりやすい悪役として描かれていた。
だが目の前にいる彼女は、疲れた三十女に過ぎなかった。






98はぐれクッチー純情派 その32 :2006/04/22(土) 03:56:26 ID:???
クッチーはそんな彼女を見て、彼女が犯人ではないと直感した。
根拠はやはり長年の経験に基づいたカンだけだが。
彼の関心は、むしろ彼女がこれまでどう生きてきたかに移っていた。
それが今回の事件に関係あるかは分からない。
ただ、思わぬ形で荻上さんの15年前の事件に関わってしまった者の責任として、事件に関わった全ての人々の15年間と向き合わなければならない、そう考えたのだ。

形式的にアリバイを訊き、それが終わるとクッチーは切り出した。
朽木「あなたは15年前、何故荻上さんにあんなことをしたんです?」
中島「別に深い考えなんて無かった。あたしらのグループで1番晩熟で大人しそうな荻上が彼氏作ったのが生意気だと思い、少しこらしめてやろうと思った。ただそれだけ…」
中島の目からつーと涙がこぼれる。
中島「バチが当たったんだろうね。あたしも、みんなも…」
朽木「中島さん、ちょうどいい機会ですから、よかったら中学を出てからの15年間のことを話して頂けませんか?」
中島「?」
朽木「実は私、荻上さんとは同じ大学の同じサークルだったんです」
中島「荻上と?」
朽木「だから私は彼女の15年間を知っている。私がそれを話し、あなたはあなたの15年間を話す。そしてそれは私が後で責任を持って荻上さんに伝える」
中島「…」
朽木「上手く言えないけど、私はそうした方がいいと思う。それで全てがご破算になる訳じゃないが、昔のことにけじめを付けるいい機会じゃないかな」
沈痛な面持ちで沈黙する中島。






99はぐれクッチー純情派 その33 :2006/04/22(土) 03:58:27 ID:???
その時クッチーは、ドアの向こうに人の気配を感じた。
朽木「誰だ?」
ドアが開き、身長2メートル近い大男が入ってきた。
白のスーツに身を包み、鰐皮の靴を履いていた。
傷だらけの顔と、知的な感じの細い銀縁の眼鏡がアンバランスだ。
花形興業こと花形組の若き組長、花形薫だ。
朽木「花形?!」
花形「ご無沙汰してます、朽木の旦那。その件については、俺から話しましょう」
中島「あんた…」
花形「女の口からは言いにくいことだ。それに愛人の契約は解いたとは言え、俺はお前の後見人みたいなもんだからな」

花形がクッチーに話したのは、次のような中島の波乱に満ちた15年間だった。
中島は地元の高校を卒業後東京の女子大に進学、上京して1人暮らしを始めた。
中学卒業後、荻上さんと別れ別れになった中島は、心の奥底に罪悪感を沈めて表面上は明るく過ごしていたが、根深い空虚感を持ち続けた。
夏コミで荻上さんを見かけた時、一見皮肉っぽいクールさを見せていたが、本当はヤオイ道を続けていることが泣きたいほど嬉しかった。
出来ることなら謝りたかった。
だがそれは許されない。
荻上さんに恨まれ続けること、それが彼女に出来る唯一の謝罪だった。
その直後、彼女に悲劇が訪れる。
中島の父親の経営していた会社が倒産したのだ。
父は暴力団絡みの会社から融資を受けていて、多額の借金があった。
心労で父が倒れ、続いて母も倒れた。
債鬼は中島に返済を迫った。






100はぐれクッチー純情派 その34 :2006/04/22(土) 04:00:42 ID:???
中島は彼らに強要されて何本かのAVに出た。
成人向けのスレではないので詳しい内容は省くが、どれも過激な内容だった。
これらのヒットにより、思ったよりも早く借金は完済出来た。
だがさらなる不幸が彼女を襲った。
彼女が出演したAVの未修正のオリジナルテープが流出したのだ。
しかもネットを通じて全国規模で流通した。
中島は借金を返済したら、もちろんAV女優をキッパリ引退し、両親と故郷で静かに暮らす積りだった。
だがこうなってはもはや後戻りは出来ない。
両親に仕送りしつつAVに出続け、その仕事が無くなると風俗に流れた。
(AVの世界では、デビュー当時にハードなことをやり過ぎると、早く飽きられる為か人気が長続きしない場合が多い)
歌舞伎町のイメクラから始まって店を転々と変えていき、遂には吉原でソープ嬢になり、鶯谷で立ちんぼになるところまで落ちぶれた。
だがある日、五反田のSMクラブのスカウトマンが客になってから運が向いてきた。
「あんたの出てたAVだとM系の役が多かったみたいだけど、あんたはSの女王様の方が絶対似合うって!」
そう言われて勧誘され、SMクラブで働き始めた。
これが当たった。
口コミで徐々に客数は増えていき、中島はナンバーワンの女王様になった。
そして熱心な常連客の中に花形がいた。






101はぐれクッチー純情派 その35 :2006/04/22(土) 04:03:03 ID:???
素手ゴロ日本一と言われる花形が冥府マゾ道に目覚めたのには、次のような経緯があった。
ある日花形は、友人の格闘家と些細なことから喧嘩になった。
その際、一緒にいた友人の彼女がキレて、花形を蹴飛ばした。
花形はこれまで数多くの格闘家とも戦ってきた。
常識外れの打たれ強さを誇る花形は、ヘビー級のボクサーや空手家に殴られてもビクともしない。
そんな彼が女性に殴る蹴るされても効く訳無いし、そもそも強面巨漢ヤクザ相手にそんなことする女性などいない。
初めて女性に蹴られた彼はダメージの代わりに、かつて感じたことの無い快感を覚えた。
女性に殴られることの気持ちよさを知った花形は、狂ったようにSMクラブに通い、気に入った女王様を店から身受けして、次々に愛人にしていった。
そんな女王様の中に中島もいた。

花形は中島をいたく気に入った。
高額の手当てを出し、マンションを買い与え、半年ぐらいは毎日のように通った。
そして単なる性欲のみだった中島への気持ちが、いつの間にか恋愛感情に近いところまで発展した。
中島の将来を案じた花形は、彼女の自立を助けようと決意した。
そして手切れ金代わりに、彼女のやりたいことを援助することを約束した。
当初思った以上にSMに馴染んだ中島は、この道で食べていくことを決意した。
そしてもう故郷には帰れないから、故郷に似た寒い土地で自分の店を持ちたいと、花形に相談した。
花形は北海道にある花形組の友好団体に頼み、ここススキノでSMクラブを開店できるように手配した。








102はぐれクッチー純情派 その36 :2006/04/22(土) 04:05:01 ID:???
中島の15年間を聞き終わったクッチーは、今度は荻上さんについて話し始めた。
(ちなみに中島は、荻上さんが漫画家として活躍していることだけは知っていた)
高校での孤独な3年間。
大学で現視研に入り、1人前の女オタとして無事に立ち直ったこと。
現視研の先輩と結ばれ、今では2人の子供と共に幸せに暮らしていること。
そして15年前の事件について、彼女が中島たちを責めたことは無く、ずっと自分自身を責め続けてきたこと。
クッチーの話が終わると、再び中島は涙を流したが、その顔は笑顔だった。

朽木「最後に訊きたいんですが中島さん、あなたは今幸せですか?」
中島「(一瞬の沈黙の後、きっぱりと)いろいろあったけど、今は幸せです。…あたし、自分の中の嗜虐的な欲望に、ずっと罪悪感と劣等感持って生きてきた。そのせいで荻上を傷つけてしまったし、そんな自分が嫌だった」
チラリと花形を見る。
中島「でも世の中には、あたしみたいな人間を必要としてくれる人がいることを、SMは教えてくれた。あたしがいじめ、侮辱し、辱めることで喜んでくれる人がいる限り、この仕事に誇りを持ってやっていけると思います」
朽木「(優しい眼で中島を見つめ)分かりました。(花形に)彼女を頼むよ」
花形「旦那?」
朽木「好きなんだろ、彼女のこと?ただ強面のヤクザの親分やってる手前、女王様と表立って結ばれる訳には行かない。だから影ながら援助しようと思った。そんなとこだろ?」
赤面する花形と中島。
朽木「いいんじゃないか、素手ゴロ日本一と女王様のカップル。まあお前さんにも事情があるだろうし、俺がどうこう言える立場じゃない。だけど好きならば道はあると思うよ」
花形「分かりました、旦那」
朽木「あっ、そう言えば中島さん、お客さん待たしてたんだったね。すんません時間取らせちゃって」
中島「あ、それは構いません。だってお客さんって…」
花形を見つめる中島。
朽木「あんただったのかよ!?」





103はぐれクッチー純情派 その37 :2006/04/22(土) 04:07:40 ID:???
中島の店を後にしたクッチーの携帯が鳴った。
若手の刑事からだ。
朽木「はい携帯朽木」
若手「あっ先輩、巻田の行方が分かりました」
朽木「そうか!で、何処にいるんだ!」
若手「那覇っす」
朽木「(しばし沈黙)那覇って、沖縄の?」
若手「他にどっかありましたっけ」
朽木「それで巻田は、そんなとこで何やってるんだ?」
若手「神心館の沖縄支部長っす」
朽木「神心館?あの大蛇象山(おろちしょうざん)館長がやってる、フルコンタクト空手のか?」
若手「ちょっと説明っぽい質問ですが、その通りっす」
朽木「どこでそんな情報仕入れたの?」
若手「実は全くの偶然なんす」
若手の刑事の話によると、次の通りだった。
交通課に勤務する同期の警官と、今回の事件のことが雑談で話題に出た。
その同期の警官は神心館の黒帯だった。
その彼が巻田という名前を覚えていたのだ。
巻田は5年前の神心館主宰の全日本選手権で、ベスト4まで勝ち進んだ。
全日本クラスのフルコン空手の選手としては小柄で細身の男だったので、印象に残っていたのだ。
朽木「彼は空手をやってたのか…」
かつて荻上さんの漫画の中で「巻田君総受け化計画」(もちろん名前は仮名になっていたが)を見たクッチーにとっては、ちょっと想像しにくい組み合わせだった。
それが空手、それもフルコンタクト空手の総本山神心館、しかもその全日本のベスト4。
ベスト4と言えば、もう日本王者とさほどの実力差は無い。
アマチュアスポーツとしての空手では、実質上の日本最強候補だ。





104はぐれクッチー純情派 その38 :2006/04/22(土) 04:10:03 ID:???
若手の刑事から巻田の住所を聞き、中島の件を伝えるとクッチーは携帯を切った。
財布の中を見つめる。
「今度は沖縄か…帰りの飛行機代あるかのう…」
本来なら電話で問い合わせるか、沖縄県警に任せるべきなのかもしれない。
だがこの段階でクッチーは、巻田も今回の事件とは無関係な予感がしてきた。
そうなると他県の県警の手を煩わせる訳には行かない。
それにクッチーは、巻田の15年間にも興味をそそられた。
それを知る為には、やはり直接会ってみるしかない。
「こうなったら、乗り掛かった洞爺丸(とうやまる)だ」
かつて台風で沈んだ青函連絡船の名前を口にしつつ、クッチーは空港に向かった。
だが結局最終便には間に合わず、漫画喫茶で一夜を明かした。
そろそろ軍資金が怪しくなってきたのでホテルは使わなかったのだ。
そして朝一番で沖縄に向かった。

沖縄では12月でもさすがにコートは要らなかった。
そこで空港に近い駐在所に預けた。
スーツの上も預けたかったが、懐にトカレフを入れてるのでそうも行かなかった。
南国の警官は気さくで、警察手帳を見せて正直に事情を話したら快諾してくれた。
ついでに巻田のいる神心館沖縄支部道場への道を訊き、徒歩で向かった。

道場は那覇の郊外にあった。
道場の周囲を囲む塀は意外と広かった。
門が開いていたので、その中に入り込むクッチー。
道場本体は、プレハブで出来た小さな公民館のような建物だった。
建物内はあまり広くなさそうだが、その代わりに庭は広かった。
その庭のあちこちに、巻き藁や古タイヤを括りつけた木の杭や竹ざおを数十本束ねたものなどが立てられている。
おそらく晴れた日には外で稽古しているのだろう。





105はぐれクッチー純情派 その39 :2006/04/22(土) 04:12:17 ID:???
道場から人が出てきた。
子供たちだ。
道場の方に向かって口々に挨拶するのが聞こえた。
「巻田先生さようなら!」
それに反応して入り口を見るクッチー。
空手衣を着た青年が、子供たちをにこやかに見送っていた。
巻田だ。
中学時代の写真を見たし、「傷つけた人々へ」で描かれた巻田君(もちろん作品中では仮名だが)そっくりだったのですぐに分かった。
眼鏡をかけた知的で温和そうな顔立ちと細い体は、とても神心館の有段者には見えなかった。
クッチーの第一印象は「斑目さんを笹原さんぐらいに縮めて美形成分を3割り増しにした感じ」だった。
だが顔だけは一見一般部の新人さんみたいな巻田だが、空手衣姿はサマになっていた。
しかも黒帯には5本の金の筋がある。
つまり5段だ。
『確か彼って俺より1つ下だったから、今年で30だな。その若さで5段とは…』
ちなみにクッチーは新興の他流派の2段なので、それだけに巻田の5段には驚愕した。
(流派によって多少事情は異なるが、5段以上の段位は長年流派に貢献したことに与えられる名誉職の意味合いが強い。5段は実力で若くして修得できるギリギリの上限に近い)
だがその一方で、巻田がほんとに強いのかという疑問も浮かんだ。
クッチーは身長180センチで体重85キロ。
フルコンの選手としては、やや体重が足りないが理想的な体だ。
一方巻田は身長推定170センチ。
体重は…おそらく70キロもないだろう、65キロぐらいか。
身長で10センチ、体重に至っては20キロも下だ。
重量級同士の20キロ差ならまだしも、軽い方が中量級に近いとなると、これだけの体格差があれば軽い方はまず勝てない。
クッチーの中で猛烈な勢いで好奇心が膨らみ始めた。
刑事として、空手家として、男として、オタクとして、この男とやってみたい。





106はぐれクッチー純情派 その40 :2006/04/22(土) 04:13:48 ID:???
「どちら様で?」
少し警戒心を見せつつも、あくまでもにこやかに穏やかに対応する巻田。
朽木「いやー勝手に入ってしまって申し訳ありません。空手の道場があったものでついつい見たくなってしまいまして…(警察手帳を出して)わたくし、こういう者です」
手帳を開きつつも、所属の欄の「X県警」の文字を巧みに指で隠して見せるクッチー。
巻田「ああ警察の方ですか、ご苦労様です。今日は何か?」
朽木「いやーその…本題に入る前に、ちょっと私の我がままを聞いて頂きたいのですが…」
巻田「と言いますと?」
朽木「私と組手をやって頂けませんか?」
巻田「あなたと?」
微かに眼が光った。
言下に「それは道場破りと受け取ってよろしいのですか?」と言っているように見えた。
朽木「あ、私こう見えても他流派ですが2段ですから、素人ではありませんので気遣いは無用ですよ」
巻田「フルコンの、ですか?」
伝統派(寸止め)の2段では、殆どフルコンの黒帯には太刀打ち出来ない。
朽木「拳狼会っていうマイナーな新興流派です。防具付のフルコンが主ですが、神心館式の防具無しのフルコンの稽古もやってます」
巻田「…とりあえず中へどうぞ」
どうやらクッチーに悪意は無いことを悟ったらしい。
それに巻田の方もクッチーに興味を持ったようだ。

道場の中でクッチーは、先ず神心館への仮入会の手続きをした。
これでこの後道場で行なわれることは全て稽古中のこととなるので、思い切り戦える。
(逆に言えば、稽古中の事故ということで思い切り潰される危険と背中合わせだ)
次に仮入会用に数着用意されてる空手衣と空いているロッカーを借り、空手衣に着替えた。
トカレフをどうするか迷ったが、結局スーツと共にロッカーに収めた。
念の為に撃針を外して内ポケットに隠した。
もしも巻田が今回の事件に関係があり、巻田に拳銃を奪われたとしてもこれですぐには使えない。






107はぐれクッチー純情派 その41 :2006/04/22(土) 04:16:43 ID:???
道場でクッチーと巻田は向き合った。
2人は両手にオープンフィンガーグラブを着けていた。
クッチーの希望で顔面有りのルールでやることにしたので、巻田が用意したのだ。
総合格闘技用の指が自由に動かせるグラブ、床に敷かれた畳、それらからクッチーは相手に組み技系のスキルがある可能性を考慮した。
そして2人の組手が始まった。

2人の構えは対照的だった。
クッチーは両足を肩幅に広げて左足を一歩前に出して腰を少し落とす、いわゆる左自然体のスタンスだ。
体重はほぼ左右均等にかけ、踵と膝を小刻みに上下させている。
両手は拳を握り、こめかみの高さにガードを上げている。
素人目にはボクシングかキックの構えに見えるだろう。
普通空手やキックのように蹴りのある格闘技のスタンスは、フットワークを犠牲にしてでも後ろ足に体重をかける場合が多い。
前足を上げて相手の蹴りをブロックしたり、前蹴りで相手の動きを止めたりカウンターを決める為だ。
ボクシングは逆に前の足を軸にして体を捻ってパンチを打つので、前足に体重をかける。
クッチーのスタンスはフットワークを重視したものだ。
未知の相手との戦いの為、あらゆる動きに対応しやすいスタンスにしたのだ。
一方巻田は両足を前後に二歩分ぐらい大きく広げ、上体が横を向きかける半身に近いスタンスだ。
体重はどちらかと言えば前に出した左足にかかっていそうだが、両足共踵を床に付けたベタ足だ。
両手は開いて腰の高さに構えている。
フルコンと言うより伝統派の空手、または柔術や合気道など古武道の構えに近い。





108はぐれクッチー純情派 その42 :2006/04/22(土) 04:18:53 ID:???
こちらから挑んだ手前、間合いに入るなりクッチーは仕掛けた。
先ず前に出した左足でのロー(下段廻し蹴り)、その蹴り足を前に降ろしざまに左ジャブ(正拳順突き)右ストレート(正拳逆突き)のワンツー、右手を引くと同時に右ハイ(上段廻し蹴り)、ハイから回転をつないで左の上段後ろ廻し蹴り、基本的なコンビネーションだ。

(注釈)上段=首から上、中段=首から股まで、下段=股から下、順突き=構えの際に前に出した方の手での突き、逆突き=構えの際に後ろになった方の手での突き

それらの攻撃を巻田は全てかわした。
上体を左右や後ろに振り、左右や後ろにステップする。
まだ手足でのブロックは用いない。
つまりクッチーはまだ巻田に触れることが出来ていないのだ。
今度は右自然体の構えから同様のコンビネーションを仕掛ける。
違うところは手足の左右と、逆突きからの廻し蹴りをハイからローに切り替えたことぐらいだ。
やはり綺麗にかわされる。
さらに同様のコンビネーションを3度繰り返したが、やはり全て綺麗にかわされる。

一旦下がるクッチー、心の中では巻田のディフェンスに舌を巻いていた。
まさかここまで上手いとは思わなかった。
自分とてマイナーな新興流派とは言え、2段の腕前だ。
警官同士の稽古での組手では大抵勝ってるし、今でも瓦や板を割れる程度の破壊力とスピードはある。
だから今の攻撃で倒せないまでも、何発かは入るだろうし、防御にしてもブロックされると思っていた。
だが巻田は上体の振りとステップでかわしてしまう。
動きはボクシングに近いが、間合いやタイミングは古武道的だ。
体でリズムを取らずにいきなり最小限に動き、しかも跳ねずにすり足で移動する。





109はぐれクッチー純情派 その43 :2006/04/22(土) 04:20:33 ID:???
フルコン主体の流派や選手は、メインの攻撃技であるローキックや中段への正拳突きをかわすのは困難な上、筋肉を付ければある程度受けても耐えられる為、どうしてもどっしり構えて受け止めるような体勢になりがちな傾向にある。
その結果、顔面への手技の攻撃に対して、上体の動きは硬くなりがちである。
それをここまでかわせるとは。
しかも数センチとか数ミリとかのレベルの精密な見切りだ。
だから巻田は最小限にしか動いておらず、2人の間合いは開始からあまり変わらない。
日々の稽古で顔面有りの組手を数多くこなしていることが伺える。
これだけのことをクッチーは、1秒にも満たない時間で考えた。
いや、感じ取ったと言うべきか。
『だがそれならそれで、やり方はある』
幸い巻田はクッチーに興味を持ったらしく、今は次に何を仕掛けてくるかという好奇心の方が勝っているようで、まだ向こうからは仕掛けてこない。
ならばその余裕に付け込むまでだ。
クッチーは自分が勝てるとは思っていないが、勝つ積もりで戦っていた。
それは相手への礼儀であり、そうしないと巻田の本質が分からないと思ったのだ。

クッチーは再び距離を詰めた。
前に出した左足でのローが届くかどうかギリギリの間合い。
軽く左足を上げかけた瞬間、右足で強く踏み切って先ほどまでのフットワークの歩幅の3倍近い距離を一気に詰めた。
そして間合いに入ると同時に左ジャブを放った。
一気に踏み込んで正拳1発決め、そこで審判が止めて判定、こんな流れの多い伝統派の空手でよく見られる動きだ。
しかもクッチーの今回の突きは、空手の基本的な正拳突きのように拳を捻り込まず、構えから拳を立てたまま打ち込む縦拳だ。
これだとインパクトの際の拳の捻りこみが無い代わりに、モーションが小さい分速い、脇が締まりやすい、手首のスナップが効かせやすいなどの長所がある。
日本拳法や少林寺拳法で見られる技だが、最近ではフルコン系でも極真会館の一部支部道場や正道会館などが、従来の正拳と縦拳を併用している。





110はぐれクッチー純情派 その44 :2006/04/22(土) 04:22:29 ID:???
普通蹴り技のある格闘技は、最も遠くに技が届く蹴り技から始める。
手技はその後で接近してからだ。
先程までわざとセオリー通り型通りの技を散々見せて置いたのは、相手の目と反射神経を慣らしてから一気に切り替えて意表を突く狙いもあってのことだった。
なまじ精密機械のような見切りが出来る相手だからこそ、コンマ1秒のズレが高度なフェィントとなり得る。
だがそれでも巻田はかろうじて首を振ってかわした。
クッチーは左ジャブに続いて右ストレートを放つ。
だがそれはただのワンツーでは無かった。
普通のワンツーは、1歩踏み込んで同じ場所でワンツーと続けて打つ。
今回のクッチーのワンツーはツーでさらに半歩前にステップしながら打った。
これにより通常の右より近い距離で拳が当たる。
接近すればそれだけかわしにくいし、前に踏み込む力とインパクトの瞬間に肘を伸ばして拳を押し込む力とを一致させれば、通常の右よりも重いパンチになる。
これも日本拳法の技だ。
しかもその右は実は正拳ではなく掌底(手の平の手首に近い肉厚な部分)だった。
普通顔面への掌底突きは顎をかち上げるように打つ場合が多いが、クッチーは人中(鼻と唇の間の中心の溝状の部分。人体の最大の急所の1つ)の辺りを狙った。
彼が右の突きを掌底で行なったのは、手の平と指でほんの僅かな時間(コンマ1秒足らずだ)巻田の視界をふさぐ為だった。
彼が右を放つ瞬間に既に右足が跳ね上がり、手の平が巻田の顔の直前に来た時には右膝が正面に突き出されていた。
もし巻田がこの状態でその場で右ストレートをかわせば、接近戦の間合いになる。
それを狙っての膝蹴りだ。
さらに左手はジャブの後、フックまたは肘打ちを打つ体勢になっていた。
接近戦になれば膝のヒットの有無に関係なく、間合いに応じて選択し打ち込む気だ。
巻田は接近戦を避けた。
右ストレートの軌道に合わせるように、大きくバックステップする。
傍目には、クッチーの右で巻田が押されてスルスルと後退するように見える動きだ。
伸び切ったクッチーの右掌の3センチほど手前で止まる。




111はぐれクッチー純情派 その45 :2006/04/22(土) 04:24:30 ID:???
『ならば!』
クッチーは右腕を伸ばしたまま、さらに腰を巻田の方へ突き出すようにしつつ脚を傾けて膝を伸ばし、膝が伸び切る瞬間に正面を向いていた左足の爪先を180度回す。
つまり右膝蹴りから右ミドルキック(中段廻し蹴り)に移行したのだ。
その結果、先程までの廻し蹴りのように外側から廻し込んでくる蹴り方ではない、蹴り足の膝が先行して目標を追い直線に近い角度で蹴る蹴り方に変わった。
前者は空手の基本通りの蹴り方、そして後者はムエタイに近い蹴り方だ。
普通廻し蹴りの際は、蹴り足と同じ方の腕を後方に振って腰の捻りを加速させる。
今回はその捻りが不足しているが、その代わりに右上半身の分も蹴りに体重が乗るから威力は十分だ。
それに軸足を返す際、クッチーは踵を上げつつ大きく前に跳ぶように軸足で踏み切り、その結果軸足は蹴り足が伸びた瞬間10センチぐらい前進した。
上段への蹴りが技の大半を占める、テコンドウの蹴りによく見られる動きだ。
これで巻田は逃げられない。
左右に逃げれば脛が、後ろに逃げれば足の甲が、前に踏み込めば膝が当たる。
脛がベストだが、20キロ近く重い自分の体重の大半を預けるのだから、少々ポイントを外しても当たりさえすれば向こうは無事では済まない。
腕でブロックしたら腕を折るまでだ。
膝でのブロックは間に合わない。
巻田は逃げもブロックもしなかった。
逃げられなかったのかは分からないが、その場で動きを止めた。
『まさか中段の蹴りだから体で受ける気か?おい、俺が狙ってるのは左の脇腹の肋骨だぞ!その細い体ではそんなとこに筋肉はあるまい…』
細かく解析するとこんな感じのコンマ1秒にも満たない思考と共に、クッチーの右脛は巻田の左脇腹に命中した。
『よっしゃクリーンヒット!』
…のはずだった。
だがクッチーの右足は、まるで壁に当たったボールのように勢い良く跳ね返ってきた。





112はぐれクッチー純情派 その46 :2006/04/22(土) 04:28:22 ID:???
『???』
だがクッチーの切り替えは早い。
元の位置に戻ろうとする蹴り足を、戻る勢いを利用してそのまま無理矢理軸足と腰を大きく捻って体を右回転させ、それに乗せて右足を振り回して右中段後ろ廻し蹴りを放つ。
当てずっぽう気味の狙いだったが、見事に右踵が巻田の右脇腹に命中した。
だがやはり右足は勢い良く跳ね返された。
蹴り足が戻るまで待ってたら、相手に背を向けた状態で反撃される。
そう考えたクッチーはとっさに軸足で跳ぶようにして後方に転び、そのまま転がって巻田から離れて立ち上がり、再び構えて巻田を見る。
全くダメージは感じられなかった。

クッチーは構えながら超高速で頭脳を回転させた。
『何だ今の感触は?』
彼の足が感じた感触は、何かゴムのようなもので包まれた硬い板を蹴ったような、あまり馴染みの無い感触だった。
『まさか道衣の下に防具?』
いや、そんな様子は無い。
クッチーとて空手有段者だ。
道衣の上から見ても、何も下には身に付けてないことぐらい分かる。
『まてよ…この感触どこかで…そうだ!』
彼が思い出したのは、まだ本庁に居た頃にSAT(警視庁の特殊部隊)の格闘訓練に駆り出された時のことだった。
クッチーたち非SATの警官は空手用の防具を着用し、SAT隊員は火器等の装備類を外したこと以外は本番と同様の戦闘服を着用した。
その時に隊員の胴体を何度か殴ったり蹴ったりした時の感触、それが今回の感触に似ていたのだ。





113はぐれクッチー純情派 その47 :2006/04/22(土) 04:32:50 ID:???
『あの時連中の着てた防弾ベストって、確か対小銃用に強化樹脂製の防弾プレートの入ってるタイプのやつだったな』
従来の防弾チョッキは、何枚ものケブラー繊維を重ね合わせ、命中した弾丸に繊維が絡み付くことで体内への浸入を防ぐものだった。
だがこのタイプだと、弾速の速いトカレフやマグナム拳銃、ライフルなどの弾は防げない。
そこで最近の防弾ベストは、強化樹脂や金属等の防弾プレートを内蔵して物理的に防ぐものが主流になりつつある。
『だけど防弾ベストなんて、テコンドウの胴並みに分厚いからな。どう考えても道衣の下には着れないし…』
ほんの数秒ほどでここまで考えた時、クッチーは目の前の巻田を改めて注目した。
いつの間にか構えが変わっていた。
両手は正拳を握って、水月の高さで少し肘を曲げて前に出していた。
そして両足は肩幅ぐらいに開いて爪先を内側に向け、それに伴って膝も内側を向き内股気味になっていた。
腰を少し落とし、左足が右足の半歩ほど前に出ていた。
空手の基本稽古の際によく用いられる、三戦(さんちん)立ちだ。
クッチーはしばし組手中ということも忘れて見とれた。
惚れ惚れするような綺麗な三戦立ちだ。
水月の辺りに気が集中するのが見えるようだ。
そんな巻田を見ていて、クッチーは不意にあることを思い出した。
『ひょっとして巻田さんって…』





114はぐれクッチー純情派 その48 :2006/04/22(土) 04:34:41 ID:???
巻田「どうします?まだ続けますか?」
しばらく動きを止めて何やら考え込んでいた目の前のひょろ長い男に、巻田は声をかけた。
朽木「申し訳ありませんが、もう1回だけ付き合ってもらえませんか?ちょっと試したいことがあるんです」
実はクッチーは先程の右足での連続攻撃の後、顔には出さないが左足首に激痛を感じた。
無理な動きで軸足として酷使した為だ。
アドレナリンが分泌しているからしばらくは持つが、あとせいぜい2〜3分といったところだろう。
巻田「分かりました。でも決して無理はなさらないで下さい」
それは丁寧だが、不気味な脅し文句だった。
これ以上続けるなら自分も攻撃する。
そうなったら何が起きても責任は負えない。
そう言っているようにクッチーには聞こえた。
正直怖くなってきた。
だが真実を知りたいという好奇心が恐怖に勝った。

クッチーは再び攻撃を開始した。
もう難しくは考えない。
体力が続く限り全力で攻撃を続け、当たったら接近戦に持ち込んで「ある攻撃」を試してみる、作戦と言えばそれだけだ。
今度は攻撃のバリエーションは桁外れに増えた。
オーソドックスな突き蹴りの連打と、その合間を縫うように繰り出す変則的な攻撃を狂ったように繰り返す。
段々巻田が手足でブロックしたり弾いたりする頻度が増えてきた。
チャンスだ。
何度目かのワンツーから、ロング気味の大振りの左掌底フックを放つ。
巻田の頭が沈んでそれをかわす。







115はぐれクッチー純情派 その49 :2006/04/22(土) 04:36:41 ID:???
『ここだ!』
クッチーはフックを振り切らずに右斜め前方の空間にピタリと止め、そのまま反転しつつ左手を手刀に変えて巻田の左の首筋に振り下ろす。
狙いは頚動脈だ。
レスラーのように鍛え抜いた太い首ならともかく、格闘家とは思えぬ巻田の細長い首なら、直撃すれば先ず間違いなく失神する。
手応えは十二分にあった。
だが巻田の細長い首は、そこには無かった。
巻田の横顎のすぐ下は肩だった。
手刀は横顎と肩の間の角の部分に食い込んだ形で止まった。
クッチーは驚きつつも思考の片隅で「やはり…」と思った。
だが攻撃の手は休めなかった。
もう1つだけ試したい技がある。
左手で道衣の衿を掴むと、左に大きくサイドステップした。
ようやく巻田が体勢を崩し、体が前に泳いだ。
その隙を突いてクッチーは大きく体を右に傾け、右の掌底で
アッパーを放った。
標的は巻田の股間だった。
だが目的の物はそこには無かった。
意外に大きい逸物の根元には、あるべき睾丸は2つとも無かった。
またまた驚きつつも、クッチーは思考の片隅で「やはり…」と思った。






116はぐれクッチー純情派 その50 :2006/04/22(土) 04:38:28 ID:???
「もうこの辺で終わりでいいですか?」
そう言いたげに巻田の眼が微かに笑ったように、クッチーには見えた。
よく見るとクッチーの水月に、巻田の右掌が押し当てられていた。
それに気付いた瞬間、クッチーの腹で何かが爆発した。
「ゲホッ!」
うめきながら3メートルばかり後方に吹き飛ばされるクッチー。
腹の激痛と吐きそうな苦痛を堪えながら、かろうじてダウンせずに体勢を整えると、もう巻田は間合いを詰めていた。
今度は巻田の右足が、するするとクッチーの水月に吸い込まれる。
見た目さほど速くも重くも見えない前蹴り。
だが水月に当たったのは通常使われる中足(爪先立ちになった時に床に着く、足の裏の部分)ではなく、5本の足の指の先だった。
普通なら突き指するところだが、巻田の足先は刃物のようにクッチーの水月に食い込んだ。
「ガハッ!!」
大量の胃液を吐きながら、クッチーは暗黒の中に落ちていった。

クッチーが意識を取り戻した時、パンツ1丁で布団に寝かせられていた。
そして枕元には巻田が正座していた。
巻田「気が付かれましたか」
温和な笑みが戻っていた。
朽木「ここは?(周囲を見渡す)」
巻田「道場ですよ」
朽木「(裸であることに気付き)おお?あの、道衣は?」
「総受け化計画」を見ているだけに、一瞬「まさか本格的にその手の趣味が…」という思考が脳裏を掠める。
巻田「私が脱がせて洗濯しました。その…吐瀉物はなるべく早く洗わないと残っちゃうから…」





117はぐれクッチー純情派 その51 :2006/04/22(土) 04:42:15 ID:???
はっとして起き上がり、自分が倒れた辺りを見るクッチー。
わずかに吐瀉物の跡が残っていた。
朽木「まさか掃除も先生が?」
巻田「今日で年明けまで道場休みですから、私しか居ないもので…」
朽木「いやーいろいろとご面倒をお掛けしました。(深々と頭を下げ)痛てて!」
思わず激痛で腹を押さえるクッチー。
よく見ると腹巻きのように包帯が巻かれていた。
巻田「腹筋しっかり鍛錬されてたんですね。皮膚と筋肉が傷付いただけで済みましたよ」
朽木「先生が手当てを?」
巻田「気絶されてる間に医者に診てもらいました。骨と内臓はとりあえず大丈夫みたいだけど、念の為に大きい病院で精密検査を受けるようにとのことでした」
朽木「いやー何から何までご迷惑を…(深々と頭を下げ)痛てて!」
「懲りない人だなあ」という感じで微笑む巻田。
釣られて微笑むクッチー。
巻田「ところで用件がまだでしたね?」

クッチーはスーツに着替えた。
道場にこれ以上長居する訳には行かないし、ここからが本来の仕事だと気持ちを切り替える為でもあった。
実は彼の中では巻田への疑いは晴れていたのだが、職業柄トカレフの撃針を元に戻してから身に付けた。
そして巻田に自分がX県警のY署防犯係の刑事であること、署の管轄内でかつての文芸部員が襲われたこと、そしてそれを追う為に荻上さんや中島に会ってきたことなどを話した。
巻田「つまり私は、その事件の最有力容疑者だってことですか?」
朽木「そこまでは言いません。ただ文芸部員が3人続けてやられてる以上、15年前の事件の関係者全員に当たってみる必要はある、そう思って話を聞いて回ってる状況です」






118はぐれクッチー純情派 その52 :2006/04/22(土) 04:48:35 ID:???
巻田「それにしても刑事さんも無茶な人だ。もし私が本当に犯人だったらどうする積もりだったんです?下手すれば組手中の事故に見せかけて殺されてたかもしれないんですよ」
朽木「まあそうならない為にあなたの戦力を見る狙いもあったんですが、どうも私は目的と手段を取り違える性質で、いつの間にかあなたの強さを試すというより倒すことが目的になっちゃって、つい無茶なことをいろいろやってしまいました」
巻田「本気で道場破りする積もりだったんですか?」
朽木「まさか。でも挑戦する以上は勝ちを狙いに行くのは、挑戦者の礼儀だと思いまして」
巻田「まあそれは分かりますが…」
朽木「まあアリバイは後で一応伺いますが、よろしかったらその前にあなたのこの15年間について話して下さいませんか?」
巻田「中学の時の、あの事件からのことですか?」
巻田の顔に少し翳りが見えた。
朽木「私はね、今回の事件は何かの縁だと思うんです」
巻田「縁…ですか」
朽木「15年前のあの事件に関わった人たちは、みんなそれぞれに心に傷を抱えて生きてきました」
巻田「みんなが?」
朽木「もちろん1番傷ついたのは被害者であるあなたでしょう。でもね、加害者だった彼女たちも、みんなそれぞれ傷ついてたんです。あなたから見れば甘ったれた自己満足かもしれませんが。例えば荻上さんですが…」
巻田「事情は分かってますよ。『傷つけた人々へ』は読みましたから」
朽木「(嬉しそうに)そうですか。あの、まだ荻上さんのことを怒ってますか?」
巻田「(笑い)もう気にしてませんよ。むしろ荻上さんに感謝したいぐらいです」
朽木「感謝?」
巻田「そりゃあの当時は彼女に対して、怒りや憎しみや失望や悲しみといった、あらゆるネガティブな感情を抱きました」
朽木「お察しします」
巻田「でもね刑事さん、そのおかげで私は空手と出会い、強くなれた。生涯を1つのことに賭けて生きていくという、あの事件があるまでの私なら考えられなかった、充実した日々を今は過ごしています」







119はぐれクッチー純情派 その53 :2006/04/22(土) 04:52:19 ID:???
一息ついて巻田は続けた。
巻田「もちろん彼女たちのしたことは褒められたことじゃありません。でも今の私なら15年前の彼女たちを笑って許せそうな気がします」
晴れやかな笑顔の巻田。
そこにはもう暗い過去の影は見えなかった。
朽木「言い遅れましたが実は私、椎応大学で荻上さんと同じサークルだったんです」
巻田「(意外そうに)そうなんですか?」
朽木「帰ったら彼女にその言葉と一緒に、あなたの15年間を聞かせて上げたいのです。お願いします(頭を下げるがすぐに頭を上げて腹を押さえ)痛てて!」
巻田「(苦笑して)…分かりました。お話ししましょう」

巻田は15年前の事件の直後、すぐに転校した。
だがその直後に荻上さんの自殺未遂騒ぎがあり、その噂は転校先の中学にも伝わったので、
巻田は登校拒否症になった。
一方家の近所でも、荻上さんが自殺未遂した為に何となく巻田の方が悪いような空気が広がり始め、住み辛くなった。
仕方なく巻田家は他県に引っ越した。
だが1度付いた登校拒否癖はなかなか治らず、巻田はおよそ3ヶ月の間、自室に引きこもって暮らした。
それを聞きつけた親戚の叔父さんが、巻田をスパルタ教育で立ち直らせることを決意した。
叔父さんは神心館の支部道場の師範代だった。
彼は巻田を道場に引っ張って来て、マンツーマンで空手を叩き込んだ。
「いつまでウジウジメソメソしてるんだ!そんなんだからオカマの漫画のネタにされるんだ!強く逞しくなって、漫画描いたオタク女を見返したれ!」
叔父さんはそう言って発破をかけた。

巻田「最初は叔父さんに無理矢理やらされて仕方なくだったけど、その内本当に荻上さんを見返してやるって思うようになり、この道に進みました」








120はぐれクッチー純情派 その54 :2006/04/22(土) 04:54:02 ID:???
その後巻田は空手道場と並行してフリースクールに通い始め、大検の資格を取って東京の大学に進学した。
空手の方でもその間に初段を獲得していた。
この頃には巻田も、空手そのものの魅力に取り付かれていた。
ただ空手一筋で生きていくほどの自身も実力も無かったから、普通の就職も視野に入れて進学したのだ。
そして神心館の本部道場に通い詰めた。
そこでメキメキ実力を付けて2段に昇段したが、ある時期に成長が頭打ちになった。
巻田が武道的な空手(実戦のあらゆる状況を想定)にこだわるのに対し、道場ではスポーツ的な空手(ルールの範疇以外の状況は想定外)が主流になっていたことが原因だった。
古風な武道青年に成長した巻田を気に入った大蛇館長は、友人で東京在住の琉球空手の先生を紹介した。
そこで巻田は一旦ウェイトトレーニングで付いた筋肉を落とし、沖縄式の空手用の筋肉を付け直した。

巻田「毎日のように三戦立ちで正しい呼吸を繰り返し、体中を先生が木の棒で打つ。これを繰り返し続けることで、ウェトレとは違う、空手用の生ゴムのような筋肉が付くんです」

さらに巻田は手足の指先を徹底的に鍛錬した。
砂や砂利の入った箱に突き立てたり、竹ざおをたくさん束ねた束を突いたりし、何度が爪を失いつつも貫手(広げた掌の指先の部分)や足先の蹴りで畳を貫通できるまでになった。

巻田「空手で1番強力な武器は、鍛え抜いた指先なんです。何しろ当たる面積が狭いので、打撃の力がそれだけ一点に集中しますから」






121はぐれクッチー純情派 その55 :2006/04/22(土) 04:59:35 ID:???
巻田はその後、神心館主催の関東大会に出場して上位入賞し、全日本大会にも出場する。
その大会で彼はベスト4まで勝ち進んだ。
彼の得意技は、接近して至近距離から放つ正拳突きと、足先での前蹴りだった。
三戦での鍛錬により、彼はごく小さな動きで正拳に全エネルギーを集中させることが可能な筋肉と呼吸を身に付けた。
それによって彼のショートレンジでの突きは、時には触れた状態からでも爆発的な威力を発揮する、中国拳法でいう発剄(短剄とか寸剄とも言う)に似た技と化した。
貫手は鋭過ぎて(鍛え抜いた腹筋でも貫通して内臓に達する危険がある)試合では使えないので、貫手ほど鋭くは無いが力は強い足先蹴りを多用した。
鍛え抜いた足先は、刃物同様に人体のあらゆる場所を急所と化する凶器だ。
皮肉なことに巻田の足先は鍛え方がまだ不十分な為、単に力が一点に集中する強力な蹴りとして試合で使いやすかった。
準決勝では身長195センチ体重110キロの巨漢が相手だった為、それらの技が決定打にならずに敗退、しかも廻し蹴りで腕を折られて3位決定戦は棄権したので4位だった。
その大会の出場者の中で最軽量の巻田の好成績に対し、大蛇館長は「褒美をやるから好きなものを言ってみろ」と言った。
それに対して巻田は「沖縄支部で指導員をしつつ琉球空手を学びたい」と返事した。
館長は快諾した。

巻田は大学を卒業後、沖縄に渡った。
当時の支部長はかなり高齢だっが初期の大会の優勝経験が有り、しかも琉球空手でも高段者だった。
(この支部長は後に病に倒れ、後任に巻田を推薦する)
支部長自身の指導と、彼の人脈で紹介された古くからの琉球空手道場での鍛錬により、巻田はさらに空手家として成長した。







122はぐれクッチー純情派 その56 :2006/04/22(土) 05:01:40 ID:???
その成果の1つがコツカケの会得だった。
コツカケとは琉球空手特有の技と言うより肉体操作術のことで、簡単に言うと筋肉を自分の意思で操作して急所を隠してしまう技術である。
先ず首を猪のように縮め、肩と頭を一体化してしまい頚動脈を隠す、肋骨同士をくっつけて隙間を無くし、1枚の板のようにして内臓を保護する、そして睾丸を恥骨のところにある隙間から体内に収納する、これらのことを筋肉を操作して行なうのだ。

朽木「脇腹を蹴った感触でもしやと思ったんですが、まさかあなたの若さでコツカケが出来る方がいるとは思いませんでしたよ」
巻田「まあ古い空手の技ですからね、でも不可能ではないです。ちゃんと鍛錬すれば」

巻田の話が終わると、クッチーは中島の時と同じように荻上さんや中島の近況を話した。
巻田はそれを穏やかな顔で聞いていた。
最後にクッチーは型通りに巻田のアリバイを確認し、ここでの仕事を終えた。
巻田「今日は有意義な1日でした。彼女が幸せに暮らしていることも分かったし、刑事さんのようなユニークな空手をやる方と組手が出来たし」
朽木「『ゆにーく?それ褒めてるのかな?』いやームチャクチャなことばっかりやって申し訳ないです」
巻田「いやほんとに楽しかったですよ。ここ2年ばかり、手の内が全部見えるうちの門下生か、逆に手の内が全然見えない雲上人みたいな先生方かの両極端な相手としか組手やってなかったですから」
朽木「楽しんで頂けましたか…」
巻田「ここに来た当時は、街中で喧嘩を売られることも、他流派の若い衆が野試合挑んでくることもしょっちゅうだったんですが。あの頃以来ですよ、金的狙われたのなんて」
朽木「ははは…(汗)『ひょっとして俺、とんでもなくおっかない相手に喧嘩売っちゃってたのかも…』」








123はぐれクッチー純情派 その57 :2006/04/22(土) 05:02:55 ID:???
巻田「どうです刑事さん。今度うちで従来の全日本大会と別に、顔面有りの大会を開催するんですが参加してみてはどうです?刑事さんならいい線行くと思いますよ」
朽木「いやーもう31ですから」
巻田「私は30ですけど出ようかと思ってるんです」
朽木「『あんたみたいなバケモンと一緒にすんなよ』いやそれに仕事が忙しいし。けっこうやりがいあって好きなんです、今の仕事」
巻田「残念だなあ。それじゃあもし気が変わったら連絡下さい。支部長推薦枠は残して置きますから。あと出稽古したくなったら、また沖縄に寄って下さい。私が特訓してあげますから」
朽木「私は日向小次郎ですか…」

結局事件についての収穫は無いまま、クッチーは巻田の道場を後にした。
タクシー代がもったいないので徒歩で移動する。
やがて歩き疲れ、さとうきび畑の前で腰を下ろす。
畑を見つめながら、事件について考えていた。
荻上さんの中学の時の事件に関係した者たちは、荻上さんを含めて全員シロだった。
人としては信頼しつつも、クッチーは刑事として一応全員のアリバイを確認した。
ほぼ全員、完全なアリバイがあった。
何しろ犯行現場と彼らの生活範囲との距離が離れ過ぎているので、犯行時刻ちょうどじゃなくても前後3時間以内ぐらいにアリバイがあれば成立する。
途方に暮れつつも、クッチーはホッとしていた。
もし関係者の中に犯人がいれば、再び荻上さんが傷つくことになるからだ。
だが一方で、これで捜査は振り出しに戻ったことになる。
「あの事件に表立って関わっていない、別ルートのつながりがあるのかもしれないな…」
クッチーは係長に連絡し、当初挙がっていた容疑者は全員シロだったことを告げ、被害者全員の中学の時の人脈を洗い直すように伝えた。
電話が終わると、仕事の疲れと先ほどの道場での死闘のダメージから、そのまま意識を失
ってさとうきび畑に転がっていき、まだ日が高いのに熟睡し始めた。







124はぐれクッチー純情派 その58 :2006/04/22(土) 05:04:29 ID:???
翌朝、クッチーはさとうきび畑で目を覚ました。
習慣で携帯を見る。
電池が切れていた。
コンビニで携帯用の簡易バッテリーを買って充電し、署に電話した。
若手刑事が出た。
若手「先輩!どこで何してたんすか?昨日の夜、何回も電話したんすよ!」
朽木「昨日の夜?」
若手「まあ正確には、明けて今日の深夜から明け方近くですが」
朽木「何かあったの?」
若手「先輩、驚かないで聞いて下さい。犯人を確保しました」
朽木「…あの、ごめん、よく聞こえなかったんで、もう1回言ってくれる?」
若手「ですから、連続強盗致傷事件の犯人を、確保しました!」
朽木「(大声で)何ですと!そそそ、それはどういうことだにょー!早く説明するだ
にょー!」
若手「落ち着いて下さい、先輩!喋り方変だし!今説明します!」
意外と生真面目な男クッチーは、警官になって以来今日まで、仕事の場では読者にはお馴染みのウザオタ口調は一切使わなかった。
(オタクであることは公言していた)
それが初めて崩壊した瞬間だった。

事件の真相はこうだった。
犯人は近所に住む50歳の無職の男だった。
彼は15年前にリストラされて以来、職を転々としていた。
3年前から派遣社員として工場で働いていたが、1ヶ月前に解雇された。
女性の新人がたくさん採用されたからだった。
工場の管理職が女性の方が使いやすいと判断したのか、単にハーレム気分を味わいたいだけなのか、そこまでは定かでない。
その後、50歳という年齢のハンデもあって、なかなか次の仕事が見つからなかった。






125はぐれクッチー純情派 その59 :2006/04/22(土) 05:06:26 ID:???
そんなある日、彼は偶然ファミレスやスーパーで楽しそうに働く今回の事件の被害者たちを見た。
大の男が簡単に仕事に就けないのに、お気楽な主婦がパート仕事に簡単に就ける。
彼はそんな世の中に矛盾と憤りを感じ、彼女たちこそが自分の仕事を奪ったものの象徴として映った。
朽木「それで腹いせに殴っちゃったわけ?」
若手「そうっす。ムシャクシャしてやったと自供してました」
朽木「財布盗んだのは?」
若手「生活費の足しにする為だったそうっす。最初の犯行の時、3日ぐらい何も食べてなかったらしいっすから」
朽木「じゃあ3人が元文芸部員なのは?」
若手「全くの偶然です」
その場に崩れ落ちるクッチー。
朽木「現実は…小説よりも奇なり…か…(不意に立ち直り)で、なんで捕まったの?」
若手「4件目をやろうとして狙った相手が、たまたま婦警だったんす」
朽木「また偶然かよ!」

婦警は事件について知っていたので、物陰から手が出た瞬間に体勢を整え、催涙ガスを避けた。
市販されてる催涙スプレーの多くは、ほんの数回ぐらいしか使えない。
焦った犯人は乱射してガス切れし、しかも周囲をガスだらけにしてしまって自分が浴びてしまう破目になり、婦警は難なく逮捕した。
(催涙ガスは意外に拡散するし少量で効くので、完全に風上に立って使う場合以外、使った本人が誤って吸ってしまう場合がけっこうある。筆者も自前の催涙ガスの試射でこれをやらかしたことがある)





126はぐれクッチー純情派 その60 :2006/04/22(土) 05:07:53 ID:???
若手「あと被害者の方たちからの伝言なんですが、あとで荻上さんと中島さんの連絡先を教えてくれとのことっす」
朽木「と言うと?」
若手「実は俺、被害者の方たちに会って、先輩が15年前の事件を追ってることを話したんす。そしたらみなさんで集まって話し合われたそうっす」
捜査中の内容をどこまで喋ってしまったのか気になったが、一応解決したこともあってクッチーはそのことは流して聞き続けた。
若手「あの3人、こう言ってました。中学の時の事件のことで、自分たちは罪が無いと思いたい一心から、2人のことを避けて疎遠になっていたことを謝りたい、そして上手く時間が合えば1度みんなで会いたいって」
朽木「3人ってことは…あの重体だった被害者は?」
若手「あ、言い忘れてましたけど、先輩が東京に向かった日に意識回復されました」
朽木「(微笑み)それはよかった。分かった、連絡先はあとで俺から電話するよ」
若手「あっ、ちょっと待って下さい…すいません、今Z中学の先生が来られたんで代わります」
坊主「…先日は失礼しました。刑事さん、巻田には会えたんですか?」
朽木「お会いしました。元気でしたよ」
クッチーは巻田の近況について、坊主に話した。
ちなみに喧嘩まがいの組手をやったことは内緒だ。
安心した坊主は、もう1つの用件を切り出した。
坊主「あとすみません刑事さん、巻田と中島と荻上の連絡先を教えてくれませんか?」
朽木「それは構いませんが、何をなさるのですか?」
坊主「実はうちの中学、来年の春で廃校になるのが決まったんです」
朽木「…そうですか、それは何とも…」
坊主「それでOB・OGの有志が集まって、ちょっとしたイベントをやるんですが、その後二次会代わりに、うちのクラスの同窓会をやることになったんです」
朽木「もしや3人にも…」
坊主「呼ぼうと思ってます、俺。幹事として」





127はぐれクッチー純情派 その61 :2006/04/22(土) 05:09:55 ID:???
朽木「先生、あなた…」
坊主「刑事さんにああ言われて、何か気になってもう1回読んでみたんです、荻上の漫画」
朽木「『傷つけた人々へ』ですか?」
坊主「ああ言われて先入観入ってるせいかもしれないけれど、刑事さんのおっしゃる通りだと思いました。あなたのおかげで、ずっとみんなを許せなかった自分から抜け出せそうな気がします。ありがとうございました」
朽木「(喜んで)そうですか。分かって頂けて何よりです」
坊主「あっすいません、若い刑事さんが代わってくれとのことなので、これで失礼します」
朽木「あ、はい。すんませんバタバタして」
若手「あっあと、係長からも伝言です。年末年始にでかい事件が起きなければ、あとでもう1回東京に出てくるのも手間だろうから、そのまま正月休みに入ってくれとのことです」
朽木「それは有り難いお心遣いで…」
若手「あともう1つ、土産代はそっち持ちでお願いとのことです」
つまり今回の捜査について、交通費は出ないということだ。
朽木「やっぱり…しょぼぼーん」

結局クッチーの日本列島を南北に行き来しての大捜査は、徒労に終わった。
だがクッチーの心は晴れやかだった。
捜査の形でとは言え、現視研のみんな(ついでに元児文研会長)の近況を知り、15年前の荻トラウマについても各々それぞれのやり方で乗り越えたことを確認出来たことは有意義だったと思う。
(殴られた3人は気の毒だが)
再びクッチーは機上の人となった。
東京に1度戻り、愛車を回収しなければならない。
そして笹荻に今回のことを話し、それぞれの15年戦争が終わったことを告げ、安心させてあげよう。
それに明日は冬コミだ。
今のアニメは忙しくてあまり見てないので分からんが、8年ぶりに参加しよう。

追記、クッチーがトカレフを拾得物として届けるのを忘れてたことに気付いたのは、年が明けてX県に戻ってからのことだった。



128はぐれクッチー純情派 後書き :2006/04/22(土) 05:15:47 ID:???
以上です。

絶望した!
ストーリーはともかく、げんしけんキャラが全然違うキャラになってしまったことに絶望した!
「げんしけん」がいつの間にか「餓狼伝」になってしまったことに絶望した!
SS道とは死ぬことと見つけたり…

失礼しました。

129マロン名無しさん :2006/04/22(土) 07:28:04 ID:???
ふー…やっと読みました!

>はぐれクッチー
仕事を挟んでの投下お疲れであります!
まさか巻田vsクッチーの組み手が読めるとは思わなかった。
そして斑目や中嶋の姿に唖然(イイ意味での裏切られ感)。
「俺は今、何のスレを読んでいるんだろう」って思わされるほどの勢いのある話でした。純情派ちゃうやん武闘派やん(w
刑事が活躍する武闘派SSで、空白の時間を過ごしてきた人たちの間を取り持つハートウォーミングな展開ってスゲー。

>いくらハンター
やっぱりイクラが食べたくなってきた。
>『いくらの味はどこ?あの粒々の感触はどこ!?………くっ!酢飯の味しかしないっすよ、笹原サン!』
気持ち分かるぜ!
青森の下北半島行ったとき、取材先の民家の何気ない昼ご飯がイクラご飯とイカそうめんだった。丼に乗ったイクラを掘ってもごはんがなかなか出てこないくらいの…。
それ以来、生半可なイクラではもう満足できない。
きっと東北ッ子の荻上もそのうち、「うまいイクラいねが〜」とうつろな目をして街を彷徨うにちがいない(w

>筆茶屋繁盛記
斑目内職かよ…きっと傘張り浪人ですね…。
咲との格差があまりにもありすぎて、話の展開次第では原作以上の切なさを感じられるかもしれないと思いました。続きお願いしますう。

130マロン名無しさん :2006/04/22(土) 08:45:49 ID:???
>はぐれクッチー
一気に読ませる筆力スゴイですにょー><
いや面白かった。つかすげー情報量。あんた何者?って感じw
おみそれしました。

131マロン名無しさん :2006/04/22(土) 10:38:12 ID:???
SSまとめサイトに、漫画やアニメのパロ項目があったので、「こういうのもイイかな」と思って書きました。
前編12レスです。よろしくお願いします。

132131 :2006/04/22(土) 10:47:10 ID:???
すみません、諸事情で呼び出しを受けましたので、また夕方以降に投下しにきます。ごめんなさい。

133マロン名無しさん :2006/04/22(土) 13:25:25 ID:???
>はぐれクッチー
もうね、馬鹿じゃないかと(ほめ言葉
作者のクッチーに対する愛情というかそういうものをいつも感じます。
餓狼伝上等!
こんな未来もありだよな〜。

あと、>>131さん、期待してますよ。

134マロン名無しさん :2006/04/22(土) 19:12:03 ID:???
>はぐれクッチー純情派
ぷふぅ〜…ようやく読めました。「餓狼伝」好きの人は格闘書かせたらすごいですね。
わからん部分とかも多々ありましたが、クッチーVS巻田、読んでて燃えました!
それにしても。荻上さん、中島、巻田の15年後を読めたことが何より収穫ですな。
事件話じゃなく「トラウマ克服」がメインだったとは。何より中島の掘り下げ方に感服しました。

…うう〜、自分も昨日荻上さんと中島の話書いたのですが、投下しようかな…
>>131 さんを待ったほうがいいのかな…

135131移動中 :2006/04/22(土) 19:35:56 ID:???
134さんお先にどうぞ。ご迷惑かけてすみません。

136まえがき :2006/04/22(土) 20:08:13 ID:???
>>135
134です。ではお先にいきますね。

「決別」
(5月号の直前の話。荻上さんの話。)

137決別1 :2006/04/22(土) 20:08:55 ID:???

今日は冬コミ。
荻上は自分の目当てのサークルをひたすら回っていた。
笹原さんとは一緒に来たが、別行動をとっている。
恥ずかしいから、というわけではない。笹原さんも自分の買い物があるので、そのほうが都合がいいからだ。
あとで合流しよう、ということになっている。

目当ての801本を購入し、鞄につめこんだ。
(ふーーーー…だいたい良さげな本は買えたべか…)
満足し、柱の近くで一息つく。
ふと、自分の横に誰かが立った。
近かったのでふとそちらの方を向く。

そこにいたのは中島だった。

荻「!」
驚いて中島を見た。
中「久しぶり、夏コミ以来だねー」
中島は荻上に、笑顔で話しかけた。


138決別2 :2006/04/22(土) 20:09:34 ID:???
中「今日は参加してないんだ?」
荻「…落ちたからね」
中「あ、そーなんだ。残念だね。」
荻「うん、まあね…」
お互い、普通に話していたが、荻上さんはしらじらしいと感じていた。

中「…あんなことがあったのに…まだ続けてるなんてね…。意外だったよ。」
中島は皮肉っぽい笑みを浮かべていた。
中「もう…あのことは忘れられたのかな?『なかったこと』にできたのかな、荻上の中でさ」
荻「まさか」
荻上は短くそういうと、中島の方に目をやった。

荻「私は一生、私を許さない。」
荻上はきっぱりとそう言った。

荻「あれからずっと、あのことについて悩んだ。
ずっと眠れない夜を過ごした。何度も悪夢を見た。
悪夢の中で、私は巻田くんを屋上から突き落とすんだ。笑いながら。」

中島は少しだけ目を見開いた。
口元は笑っていたが、少し青ざめ、額には汗をかいていた。


139決別3 :2006/04/22(土) 20:10:08 ID:???
中「…え、でもあのとき、飛び降りたの…荻上じゃん」
荻「私はあのとき、自分を殺したいと思った。人を傷つけたことが、傷つけるような絵を描く自分が許せなかったから。
…でも死ねなかった。だから覚悟した。自分はもう一生誰とも付き合わないって。その資格がないって。」
中「………付き合ってるじゃん。あの人、彼氏なんでしょ?」
荻「大学に入ってから、自分の周りが変わった…。あるサークルに、人を拒絶して遠ざけてた自分を受け入れてくれる場所があった。あの人もそこにいた。」
荻上はそう言って、一度息をついた。

荻「…大学に入って、親のもとを離れて、一度自分を見つめなおそうと思った。
中学、高校と、親は私を腫れ物を扱うように接した…。
すごく気にかけてくれたし、世話を焼いてくれたけど、親は、私が中学生であんな過激な絵を描いていたこと、そんでその絵が、同級生を転校に追い込んだことをどう受け止めていいか分からなかったんだと思う。
…だから、今まで責められることもなく、怒られることもなく、『なかったこと』にされてきた。
辛かった。だから家を出た。わざと東京の大学を選んだ。家を出る口実のために。
東京では誰も、こんな自分を知らない。自分の醜い過去を知らない。ここでやり直すために。」

荻「…でも、初めはダメだった。私は人に接するのが下手なまんまで、変にプライドだけ高くて、イタい言動ばかりしてた。
最初に入ったサークルでも、人と衝突して、すぐ抜けるハメになった。
…でも、次に入ったサークルでは、受け入れてもらえた。
…個性的な人ばっかだったから…。どこ行っても浮いてた自分が、浮かなかった。私がそこになじむまで、待っててくれた。手助けしてくれる人がいた。…『彼氏』もそうだった。」


140決別4 :2006/04/22(土) 20:10:44 ID:???
中「フーーーン………でも、彼氏は知ってるの?あの過去のこと…」
荻「もう話した。」
中「…え?話したんだ………」
荻「そんで、私は『彼氏』に、彼氏とサークルの人で801妄想した絵を見せた。」
中「………マジで?そんで引かれなかったの?」
荻「あの人は受け入れてくれた。…そこまで認めてくれたら、もう、自分が意地張ってるのがバカみたいだって思った。
自分のことが、自分でも嫌いだったのに、好きだって言ってくれる人がいる。大切に思ってくれる人がいる。
…だから、私は自分をもっと大切にしようと思った。自分を少しでも好きになろうと思った。
そうでないとあの人に申し訳ないから…。」
中「………………」
荻上は淡々と、少し辛そうにしながら喋った。
こんなにたくさんのことを話す荻上を、中島は初めて見た。中学のときも、荻上は基本的に無口だったから。

荻「あの事件のことだけど」
荻上は話を戻した。
荻「最近冷静にあの事件を見つめられるようになって…色々考えた。そんで、結論が出たことがある。」
中「………どんな?」
荻「自分の罪と、もう一つのこと。」
中「………。」
中島は荻上の言葉の続きを待った。


141決別5 :2006/04/22(土) 20:11:26 ID:???
荻「私の罪は、『巻田君をネタにしてああいうイラストを描いた』こと。
巻田君に対して悪気があったわけじゃないけど、そのイラストが巻田君を傷つけた、不快な思いをさせたことには変わりない。」

そうしてひと呼吸置き、荻上は再び喋りだした。
荻「でも、『そのイラストを巻田君に見せた』のは、私じゃない。…そして、”それを見せた人”には悪意があったと思う。」

中島は荻上の顔を見ていた。荻上は中島のほうを見ずに、ただまっすぐに前方を見ていた。
荻「だから、その罪は別に分けて考えることにした。
その罪は、”それを見せた人”に負ってもらおうと思う。私の考えることじゃない。」
荻上はそう言ってから、中島のほうを見た。強い意志をこめた瞳で、しっかりと相手を見つめた。

荻「私は、あのことを忘れるんじゃなく、背負っていこうと思った。
もちろんそれで過去が消えるわけでも、あの事件が解決するわけでもない。でも…それでも、そう決意した。
…私の大事な人が、そう決意する手助けをしてくれた。
私には今、大事な人がいる。その人のためにも、私は私らしくいようと思う。
…巻田君のことも、抱えて生きてく。」


荻「…それだけ。もう話は終わり。」
荻上はそう言って、口を閉じた。
中島はだまったまま、荻上を見ていた。荻上には、中島の顔が無表情に見えた。何を考えているかわからなかった。


142決別6 :2006/04/22(土) 20:11:58 ID:???
「中島ーーー!」
キャスケットをかぶった中島の連れが、中島を呼んだ。
「もー、急にどっか行っちゃって、探したよーー。…あれ?」
その友達が、荻上に気づいた。
「あ、この人、前に夏コミ…」
中「いくよ。」
中島はそう言って、荻上を背にして歩きだした。友達もあわててついていく。
少し歩いて、振り返る。
中「…じゃね、荻上。まー、これからも頑張ってね」
荻「………」
荻上は答えず、ただ頷いた。
中島は口元だけ笑みを浮かべて、友達とそのまま歩き去った。


………………………


中島は出口に向かっていた。
「…あれ、もー帰るの?まだ行きたいサークル回ってないよ?」
中「具合悪くなったから帰る。」
「え?大丈夫?」
中「大丈夫じゃないから帰るんだよ!」
中島は声を荒げた。友達は驚いて中島を見た。


143決別7 :2006/04/22(土) 20:13:12 ID:???
(荻上…)
中島はショックを受けていた。

実は中島も、あの事件はトラウマになっていたのだった。

何故自分はあんなことをしたのか。
思い出したくないのに、抑えようとすればするほど、あの忌まわしい事件が頭をもたげる。
忘れようとすればするほど、あの記憶が牙をむいて襲いかかってくる。

嫉妬していたのだ。巻田に。荻上を盗られたと思ったから。
あのとき、中学生の自分は、同性の子と喋っているひとときが一番好きだった。
中学に入ってから、男子を遠い存在に感じたのだ。
小学生のときはそんなに思わなかったのだが、中学生になってから、男子が急激に背が伸び、見るからに体型が変わり、喋り方も変わっていくのが、なんだか怖かった。…いや、怖いというのは違うかもしれない。気持ち悪かったのだ。
違和感があった。…でも、今思えば、逆に憧れる気持ちもあったのかも知れない。

荻上は親友だと思っていた。あの日まで。
部の仲間とツルみながら、荻上と話をするときが一番楽しかった。
荻上がクラスの男子を脳内カップリングして、少し過激な発言をするのが面白かった。
男子に違和感を感じながらも、頭の中で妄想することで、憧れる。荻上もそうなんだと思っていた。自分と同じなんだと。


144決別8 :2006/04/22(土) 20:13:53 ID:???
なのに。
荻上は巻田と付き合っていた、こっそりと。私に何も言わずに。

(私とは親友じゃなかったの?)
(私とは「同じ」じゃなかったの?)
今思えば理不尽なことだが、「裏切られた」「許せない」と思ったのだった。

…いや、今でも思う。裏切られた、許せない、と。



だからあんなことしたのだ。


正直、巻田の奴があんな程度で転校するとは思っていなかった。
弱いと思った。だから私は、巻田には今でも「悪い」と思っていない。正直言って。

自分にとって「忌まわしい」のは、巻田が不登校になり、転校することで、荻上がひどく傷ついたことだった。
…首謀者は自分だが、部のみんなも「あの本」を作った仲間なので、あれから自分達で「あの本」について話し合うことはなかった。あの話は暗黙の了解でタブーになっていた。仲間とは「同じ罪の意識」で、同類でいられたのだ。


145決別9 :2006/04/22(土) 20:14:38 ID:???
だがそのために荻上が一人、矢面に立つことになってしまった。
クラスの人間から、「ホモ上」と呼ばれたり、陰口をたたかれることになった。
自分は自分なりに荻上をかばったが、それがかえって荻上を苦しめたようだ。そして事態はさらに悪化してゆく。

…荻上はきっとあの時、いや今でも、私を恨んでいるだろう。

あの日、荻上が飛び降りる直前、荻上と目が合った。
荻上はひどくおびえた目で私を見た。私はその荻上の目におびえた。

最後、荻上がフェンスから手を離すときも、動けなかった。その場に立ち尽くしていた。
死んだ、と思った。目の前が真っ暗になった。


荻上が奇跡的に助かり、心の底から嬉しかった。だからみんなでお見舞いに行った。
荻上はベッドの上で、うつろな目で私を見た。

心が凍りついた。
病院から帰ってきて、ようやく自分がとんでもないことをした、ということに思いが至った。取り返しのつかないことをしたと。

それから、毎晩夢を見た。自分が荻上を突き落とす夢。


146決別10 :2006/04/22(土) 20:15:23 ID:???
今さら自分の行為を言うことはできなかった。怖くて言えなかった。そしてあれから誰にも追求されなかった。
だから、巻田が悪いんだと思うようにした。巻田が弱いのがいけなかったんだと。
そして、荻上が悪いんだと思うようにした。荻上が私に隠していたのが悪いんだと。

でも、そう思ってもずっと悪夢は続いた。今でもなお。
何故かわかった。今日ようやくわかった。


荻上が言った言葉を思い出す。
『私は一生、私を許さない』
『巻田君のことも、抱えて生きてく』
自分にはその覚悟がなかったのだ。

『イラストを巻田君に見せたその罪は、”それを見せた人”に負ってもらおうと思う。私の考えることじゃない。』

荻上に”切り離された”と思った。
今まで、恨まれながらも、過去を共有している、ある意味同じ痛みを分かちあってる仲間だと思っていたのに。

それがショックでたまらなかったのだ。


147決別11 :2006/04/22(土) 20:16:03 ID:???
息苦しい。肋骨のあたりがきりきりと痛み出す。
…ストレスがたまると、私はよくそうなる。

駅のベンチでうずくまってしまった私をみて、友達はオロオロした。
中「…大丈夫、いつもの神経痛だから…」
私はそう言った。この友達とは『痛み』を共有できない。


………………………

荻上は疲れていた。
中島に言いたいことを言ってすっきりしたものの、やはり苦しかった。
中島に言ったからって、過去が消えるわけじゃない。
自分の罪が消えるわけじゃない。

(でも…)

笹「荻上さん!」
ふと声のする方を見ると、笹原さんが手を振っていた。
あの、すごくほっとするような、いつもの柔らかい笑顔で。
とたんに心が軽くなるのを感じる。


148決別12 :2006/04/22(土) 20:16:49 ID:???
笹「…探したよ。さっきから携帯かけてるのに荻上さん出ないから」
荻「えっ!?…あ!!」
荻上さんは慌てて鞄から携帯を出した。
荻「すいません、マナーモードにしたまんまでした」
斑「あーそりゃ気づかんわ」
斑目先輩がひょいっと顔を出す。笹原さんと行動していたらしい。
荻「あ、どうも…すいませんでした」
斑「いやいや。何とか会えたし、いいんじゃねーの?」
笹「そうそう、荻上さんが行きそうなサークルをしらみつぶしに探して…」
荻「…ホントにすいませんでした」

荻上は謝りながら、心が温まるのを感じた。
こうして自分を探してくれる人がいる。話をする人がいる。
去年の冬コミとは雲泥の差だ。

…去年は「行きません」とつっぱねて、イライラしながら一人で行動して、笹原さんたちを見つけても声をかけられず寂しくなって…………。
大野先輩にぶつかって自分の趣味の本をぶちまけて逃げた。

………あのときとはもう、違う。


149決別13 :2006/04/22(土) 20:17:24 ID:???
(わたすは変われたんかなぁ………)


きっと、変われたと思う。
荻上は笹原さんの横顔を見た。
この人のおかげで、変わることができたのだ。
大事にしようと思った。この場所も、この人も。………自分自身も。


そのとき、向こうから大野先輩とアンジェラとスーが歩いてくるのが見えた。
こっちに気がつき、大野先輩は手を振ってきた。

                       END


150あとがき :2006/04/22(土) 20:18:54 ID:???
すっとこさんの所の「中荻」を読んで、影響を受けて、自分の中で色々考えたことを吐き出したつもりです。
荻上さんが本当の意味で救われるには、自分で自分を冷静に見つめなおし、その上で過去を背負う覚悟をすることが必要ではないかと思ったのです。もう自分のしたことは消せないから。
あと、中島を「どこにでもいる普通の女の子」という感じで書きたかった。自分の「中島像」はこんな感じです。
原作の「中島」は、荻上さんの(中島を怖いと思う)視点で書かれているとおもったので、あえて「中島から見たあの事件」というのも書きたかった。
きっと「これ、しっくりこない」と思う人もいることでしょう。イチ意見として読み流してください。
以上です。読んでいただきありがとうございました。


151マロン名無しさん :2006/04/22(土) 21:37:06 ID:???
>決別
いいお話でした。乙!
笹荻BADの時にどなたかが書かれていた、“ひとそれぞれの中島像”の一環ですね〜。
自分は中島初登場時の“目”に嫌悪を感じていたので、中島自身も傷を負っていたお話はとても新鮮でした。

自分は131なんですが、自分のが恥ずかしくなっちまいましたよ〜。

152131 :2006/04/22(土) 22:47:55 ID:???
えーと、ようやくSSを投下させていただきます。
お昼前の投下宣言直後に、職場から電話がかかり、急いで出かけてしまいました。
本当にごめんなさい。

これはジャンルとしてはアニパロだと思います。いろいろガッカリさせちゃうところも多いと思いますが、どうか許してください。

約14レスの前編を投下させていただきますので、よろしくお願いします。


153(オープニング)(1/14) :2006/04/22(土) 22:55:25 ID:???

深夜の東京。有明のビッグサイト…。屋根からロープを吊るし、フロシキを背に抱えた男2人がスルスルと降りてくる…。
一人はやせていて、覇気のなさそうな顔に丸メガネが光っている。もう一人は後ろ髪を束ねていて、必死にロープにしがみついている。
けたたましいサイレンが鳴り響き、2人はピッタリの呼吸で足並みを揃えて全力疾走。瞬く間に逃走していった。

早朝の東京。レインボーブリッジ。東京湾港の方から昇る朝日がまぶしい。
骨董品と言っていいスバル360に2人の男が乗り、レインボーブリッジを渡っていた。助手席に座っている髪を束ねた男は、“戦利品”が詰まった風呂敷を広げた。
「……どれも発行部数の少ないレア品だぜ。作者にゃ悪いが大漁だ。そらマダラメ、同人誌のシャワーだ、ほれ!」
「ウワー、熱い熱い!」

ハンドルを握りながら笑う彼は、「お宝」と化している年代物やレア物の同人誌やイラスト原稿を狙う自称義賊・マダラメ三世である。今回は相棒のタナカとともに、ビッグサイトで行われていた展示会から、貴重な同人誌を多数拝借したばかりであった。

「熱い熱い!、ある意味イタイイタイ!」とはしゃいでいたマダラメだったが、目の前にこぼれた同人誌の1ページに目を留めて顔色を変え、車速を落としはじめた。
タ「どうしたマダラメ」
マ「棄てっちまおう…」
驚くタナカに、視線を前に向けたまま答えるマダラメ。
マ「ニセモノだよ。人気同人作家やプロの作風そっくりの本を出して売る。これはおそらく……ゴート本だよ」
タ「幻のニセ同人というアレか」
マ「年代物にまで出回って来たとはな。タナカ〜、次の仕事は決まったぜ。前祝いに、いっちょパアっとやっか!」
スバル360のドアやサンルーフから、大量の同人誌や萌え絵の原稿がばらまかれ、レインボーブリッジから風に乗って空へ、そして海へと舞い上がって行く……。


【マダラメ三世 キモハラグロの城】

♪…幸せを尋ねて 私は行きたい
  「イバラの道」も「最後の砦」も1人で抱えて生きたい
  キモオタのイタい心を 誰が抱いてあげるの
  誰が妄想を叶えてくれる
  悶々と萌え盛る 私のロリ愛
  春日部さんには 知られたくない
  部室で私を包んで…♪

154マダラメ三世(2/14) :2006/04/22(土) 22:58:41 ID:???

はるばるヨーロッパまでやってきたマダラメとタナカ。スバル360は国境の検問を易々と抜け、中世の城郭都市の面影を残す門をくぐった。
マダラメがハンドルを握り、隣でタナカが縫い物をしている。彼にとってのパートナーであるオオノの変装やコスプレに使う衣装だ。
揺れる車内だが、タナカは器用に針に糸を通しながら、マダラメに問いかけた。

タ「キモハラグロ公国とは聞かない名だな」
マ「人口801万人の国連加盟国だ。だが、実はゴート本の根拠地と噂されているんだ……」

オタクの裏事情を話し始めると長いマダラメだが、今日は口数が少ない。
「ふー…」とため息をつくと、車窓から過ぎて行く風景に目を移す。
どこまでも広がる高原と明るい陽射し、雲の影がゆっくりと移動している景観美に気持ちが自然と和んでくる。
マ「平和だねぇ…」

マダラメが呟いた矢先、後方からけたたましい爆音を響かせて、2台の車が追い抜いて行った。
前を行く車には、白いドレスを着て、筆のような髪型をした少女が、追いかける後ろのトラックにはサングラスとコートの男達が乗り込んでいた。

タ「どっちに付く?」
マ「女ぁ!」

マダラメがハンドル下のレバーを引くと、スバルのバックハッチが跳ね上がり、露出した特製エンジンのファンが急回転する。
マダラメのスバルは、「掲載誌のよしみで」という訳の分からない理由で、日本の猫実工業大学自動車部に依頼した改造車である。
彼らの車は、猛スピードで前の2台を追った。


155マダラメ三世(3/14) :2006/04/22(土) 23:01:19 ID:???

3台の車は峠道を爆走する。
既に少女の車は崖の壁にぶつけられて半壊したまま走っていた。
スバル360が“追っ手”のトラックの後方に追い付いた時、タナカが愛銃44マグナムを手にして、ルーフから身を乗り出した。
タイヤを狙い撃ちする……しかし、タイヤにはダメージが与えられなかった。

タ「ただの車じゃねーぞ」
マ「ヤロー、まくるぞ!」

マダラメのスバルは、先にヘアピンカーブがあるにも関わらずスピードを落とさない。
減速したトラックをインから瞬時に抜くと、ガコッ!という音をたてて、カーブ内側の溝にタイヤを滑り込ませ、減速しないままヘアピンを曲がり切った。
ゴワァァッン!
マ「見たか“溝落とし”! 伊達にイニD読んでるわけじゃねーぞ!」

助手席で揺られながら、タナカがマグナムの弾倉を装填し直す。
タ「今度のはひと味違うからな!」
スバル360がサングラス男の車の前に飛び出ると、タナカが正面から銃撃。鉄甲弾がフェンダーごとタイヤを破壊し、男達の車はクラッシュした。
タ「ヤッターッ!」

156マダラメ三世(4/14) :2006/04/22(土) 23:03:56 ID:???

少女が乗った車は崖の路側帯に止まった。
マダラメは近くに車を停めて、車を降り、「おーい、大丈夫か?」と声を掛けた。
しかし、マダラメはすぐに青ざめた。車を降りていた少女が、ガードレールをまたいで崖の淵に立っていたのだ。

「これ以上近付いたら…死にます!」

純白のウェディングドレスを身にまとった少女は、筆を思わせるような妙な髪形をしていたが、強い意志を感じさせる瞳でマダラメをキッと睨みすえている。

大汗をかきながら押しとどめようとするマダラメ。
「痛いだけだよ〜。なんでそんなことするかな〜」と尋ねると、少女は一言、「あてつけ」と答える。
「いやいやいや。おじさんたちは敵じゃないからさ〜」と下手に出るマダラメ。
「敵じゃ…ない?」少女が少し警戒心を緩め、マダラメは彼女に触れることのできる場所まで近付くことができた。

マダラメの後ろに立っていたタナカが、半壊した少女の車の座席に目を移した。
「あ、同人誌が落ちてる。しかも801だぞマダラメ!」

自分の所持品を見られた少女は顔面を蒼白にし、目は大きく見開かれプルプル震え出した。
マダラメが「やべえタナカ黙れ!」と、相棒に叫んだとき、少女は崖っぷちからダイブした。

「!!!!ッ」
思わず少女に抱きつく様に飛び込んで一緒に落ちて行くマダラメ。
腰のベルトに隠しているワイヤーを投げ……た瞬間、マダラメは後頭部を岩場にクリティカルヒットした。

崖はそれほど高くはなかったようだ……。

157マダラメ三世(5/14) :2006/04/22(土) 23:06:32 ID:???

「……う、うん……」
少女は、マダラメがクッションになり、「暗黒流れ星」の要領で落ちたために無傷だった。
「……もし……」

頭から血をドクドク流して気絶しているマダラメを見て、(やべエ)と思った少女だったが、川の向こうから汽船に乗って新たな追っ手が近付いてくるのに気付き、その場から駆け出して行った。
立ち去る際、彼女はドレスの懐に隠していたメガネを、マダラメの足下に落としてしまった……。

「大丈夫かマダラメ〜」と、タナカが半ば呆れながら崖の上から降りてきた。

マ「う〜ん、俺のロリキャラは?」
タ「何言ってんだ……」
マダラメとタナカは、汽船に乗った男達が少女を連れ去って行くのをただ見守るしかなかった。

マ「ちくしょ〜……ん?」
マダラメの足下には、度の強そうなレンズの分厚いメガネが落ちていた。銀ブチの高価そうなメガネだ。
タ「あの娘のメガネか?」
メガネを拾い上げたマダラメは、「……まてよどっかで……」と、ふと何かに気付いて真顔になった。


158マダラメ三世(6/14) :2006/04/22(土) 23:12:41 ID:???

マダラメ達は、城下町から離れた廃墟にやってきた。
豪奢であったであろう屋敷が、石畳や壁を残して崩れ、朽ちている。タナカをそっちのけで、何かを確認するかのように廃墟を歩きまわるマダラメ。
屋敷跡の裏手は、庭があり、その先へ歩くと大きな湖に出る。
湖の中ほどに、巨大な城郭が見えた。

マダラメはそれを睨みながら、「あれがキモハラグロ伯爵の城だよ」とタナカに告げて、また屋敷跡の方へと歩き出した。
「おいマダラメ、こんな所になにがあるってんだよ」と問い掛けたタナカは、朽ちた屋敷のそばで、足下の石炭を踏んだ。
「火事か…」

「あんたたちはここで何をしてるんだ!?」

掃除用具を抱えた青年が、2人を呼び止めた。いかにも素朴な、取り柄のなさそうな顔をしている。
マ「いやあ、ここって大公殿下の屋敷じゃなかったっけか?」
青年「今でもそうだよ……火事で大公夫妻はお亡くなりになった。だけど、伯爵がいるから困らないそうだ……」

その青年は、悲しい表情を見せた後、「見たら早く帰ってくださいよ……」と言い放って去って行った。


159マダラメ三世(7/14) :2006/04/22(土) 23:14:52 ID:???

キモハラグロ公国の城下町。
通りは観光客でごった返している。街の一角の宿屋兼パブで食事をするマダラメとタナカ。店内もお祭り騒ぎのように多くの客で賑わいを見せていた。
マダラメは川岸で拾った銀のメガネを飽かず眺めている。

「お客さん熱心ね〜何を見てるの?」

マダラメが顔を上げると、髪を赤く染め、ちょっと化粧の濃いウェイトレスの女の子が立っていた。
彼らのテーブルにスパゲティをドンと置くと、マダラメの手元に顔を近付ける。マダラメは思わず赤くなる。
カウンターの方から、「ケーコちゃんこっちも頼むよ」と声が掛かるが、女の子は振り向きもせず、「ちょっと待ってよ!」と返事をした。

ケーコ「……これ、オギウエ様のメガネと同じよ」
マ「オギウ…エ?」
「そうよ、あの写真の方」と、ケーコが指した壁には、セピア色の肖像写真が掛けられていた。マダラメが手にしているのと同じメガネをかけている少女の姿。

ケ「大公様のお嬢様よ。火事の後、最近まで“衆道”院に入っていらしたの。きっと奇麗におなりよね〜。お客さんたちも伯爵様とオギウエ様の結婚式を見にきたんじゃないの?」
マ「結婚式。そーかあ…それで客がいっぱいいると思った〜」
マダラメが自分の後方に目を向ける。こちらをチラチラ覗いていた男が目をそらした。

ケ「でもオギウエ様かわいそう。伯爵って有名なキモオタなのよ!」
マダラメはおどけて、「あらそう、俺みたい〜!」とまでは言うが、(今晩どお?)とは聞かないし聞けない。基本的にはヘタレである。

ケーコは、もう一度マダラメとメガネを見つめた後、踵を返してカウンターの方へと帰って行った。その顔色が険しいものになっていたことに、マダラメは気付かなかった。
タナカがスパゲティを平らげながら問いただす。
「お前、廃墟のことと言い……あの筆頭の娘のこと、知ってたな?」
「あれ〜、言わなかったっけか?」

160マダラメ三世(8/14) :2006/04/22(土) 23:17:16 ID:???

パブの上階の部屋に泊まったマダラメとタナカ。マダラメは手製のバーナーを使って何かを鋳造していた。部屋のベッドにはタナカが寝転がっている。
マ「パブのあの客、伯爵のスパイだな」
タ「メガネをねらってくるか……な?」
マダラメが手早く工作機器を片付ける。部屋の周囲に何者かの気配がするのだ。

部屋に飾ってあった戦斧を構え、ドアが開くのをまちかまえる2人。しかし来客はいきなり天窓を破って天井から落ちてきた。侵入者は黒尽くめで、鉄製の鋭い爪を備えている。
反射的に銃を発射するタナカ。しかし相手は生きていた。
弾丸は頭に命中したが、顔を覆うマスクの下に、鋼鉄製の兜が覗き、致命傷を与えていないことが分かった。
「こいつらマグナムが効かねえぞ!」

呆気にとられるうちに、ドアから大勢の黒尽くめの男達が入ってきた。
「うわあ〜、コスプレさんのおなりだあ。…タナカ!」
マダラメは一声叫んで閃光弾を投げた。黒尽くめが怯んだ隙に、2人は窓から隣家の屋根に飛び移り、さらに駐車場に停めてあるスバル360へと飛び下りる。

しかし、すでにスバル360はエンジン部分が破壊されていた。

タ「やばいぞマダラメ。ここまで手を回してやがったとは…」
マ「普通ここで車に乗り込んでテーマ曲が流れる中、脱出じゃなかったか?あわわわ!」
もうすぐ追っ手が飛び込んでくることだろう。逆境に弱いマダラメは、想定外の出来事に動揺した。

その時、2人の姿をヘッドライトの光が照らし出した。
若い女の声で、「あんたたち、早く乗ってッ!」と指図され、マダラメとタナカは光の方へと駆け出した。


161マダラメ三世(9/14) :2006/04/22(土) 23:23:22 ID:???

飛び込むように乗り込んだワゴン車の後部座席で、ようやく一息ついたマダラメは、声の主がパブのウェイトレス(ケーコ)であることに気が付いた。
ケーコはマダラメに、「あんたの持ってたメガネ、アイツ本人がかけてたところを見た事あるんだ」と語りかけた。
マ「あ、あいつ?」
ケ「オギウエ様とか呼んでるけど、あれは一応大公のムスメだから。みんなオカシイよね〜、あの髪型変だって言ってやればいいのに…」

一人でしゃべり出したケーコに、運転席の男が、「ケーコ!うるせー」と叱る。
ケーコはハッとして、「あ、そうそう、メガネのことをアニキに話したんだよ」と言う。
後部座席から前へと身を乗り出したマダラメは、運転席の男を見て、「あんたは確か…」と呟いた。そこにいたのは、大公の居城跡を守っていた使用人の青年だった。

ケーコは、「うちのアニキのササハラ・カンジだよ。ほらサル、何か言いなよ」と乱暴に紹介する。
ササハラは、「うるせー!こんな面倒なことは嫌なんだ。……だけど、オギウエさんを助けられるかもって言うから来たんだぞ」と怒る。

ササハラ青年は、運転席でまっすぐ前を向いたまま語りはじめた。
彼は、大公家の使用人として働きながら、オギウエの成長を見守ってきた。
マダラメが感じたという、強い意志を感じさせる瞳も、彼女の内面を隠すベールでしかないという。かたくなな言動の奥に、少し触れただけでも崩れそうな脆い心が包まれているのだと、ササハラは語る。

人の機微には鈍感なマダラメだが、ササハラの言葉に、(ただの使用人として、主筋の心配をしているわけじゃあなさそうだ…)と気付いた。
ケーコも無関心そうに窓の外を眺めているが、ドアガラスに映し出された瞳は、兄の心を案じるように不安げに虚空をさまよっていた。

マ「分かったよ、ササハラ…だっけ。オギウエさんを取り戻そう。俺もそうしようと思ってたんだ」
サ「でも…どうやって?」
マ「もう布石は打ってあるさ。ササハラ、大公さんの屋敷跡へ走ってくれ!」

162マダラメ三世(10/14) :2006/04/22(土) 23:25:25 ID:???

城下町を見下ろす様に、キモハラグロ伯爵の治める城がそびえ立っている。
城は天然の堀ともいうべき湖に四方を囲まれている。城と陸地を結ぶのは、城下町に連なる城門橋と、遠く湖の向こう、大公邸跡地まで連なるローマ時代の遺構の水道橋しかない。

天守にあたる塔とは別に、独立してそびえている北の塔。そこにオギウエは監禁されていた。いまオギウエは、薬を嗅がされて眠っている。
彼女の牢ともいうべき部屋から、ずっしりとした恰幅のいい男性が出てきた。
金ブチの丸メガネをかけ、その奥に細く光る目。彼こそ大公家亡き後、公国の実権を握っているキモハラグロ伯爵である。

伯爵が北の塔のロビーから、エレベータに乗る間、その入口で召し使いの女性が頭を下げて見送っていた。伯爵が去ると、召し使いは顔をあげる。
彼女は周囲の気配を気にしながら、ロビーを出た。カーテン裏から秘密の通路をくぐって移動する。
この城に召し使いとして採用されて数か月のうちに、彼女は中世以来のこの城の仕掛けや秘密路を暴いて、自分の移動に用いていた。

彼女の名はサキ。キモハラグロ伯爵を探りにきた女スパイである。

やがてサキは、伯爵のオフィスを覗くことのできる小部屋までやってきた。伯爵自身がこの部屋の存在を知っているのか、サキには分からない。


163マダラメ三世(11/14) :2006/04/22(土) 23:29:42 ID:???

キモハラグロは、オフィスのデスクで熱心にマンガ原稿らしきものに見入っていたが、フンと鼻息を荒くして、その原稿を放り投げた。

伯爵「だめだめ〜こんなの。吉○観音のキャラの柔らかい線が再現されていないぞ!」
執事が青ざめ、「しかし、工期が短い中ではこれが限界です」と答える。
伯爵「オギウエが描くようになれば、もっと楽になる。それまでは工期も遅らせてはならん!」

そこに、マダラメ達を襲った黒尽くめの暗殺者の一人が、音もなく現れた。
伯爵「ナカジーか……、失態だったようだね」
暗殺者がマスクを脱ぐと、それは美しくも冷たい表情の女性だった。
彼女は納得のいかない様子だったが、「申し訳ありません」と頭を下げた。
キモハラグロは、ナカジーの背中に張り付いた紙切れに気付いた。

紙を手にしたナカジーに、伯爵は、「読んでみろ」と促す。
「え〜、キモイオタの伯爵殿、花嫁はいただきます。近日参上、マダラメ三世……」
覗き穴から部屋の様子を伺っていたサキは眉をひそめた。
(マダラメが……?)

伯爵は、動揺することなく細い目をさらに細めて笑った。
「良かったなナカジー、獲物が向こうからやってくるぞ」
ナカジーは険しい顔で、「伯爵様、婚礼が終わったら……」と意見する。
伯爵は(またその話か…)と呆れた表情で、「分かっている。私はオギウエが管理下にあって絵を描いてくれればそれでいいんだから。あとはお前の自由にすればいい」と答えた。

(何だか事情は複雑そうね…)サキは、自分の持ち場へと帰るべく、静かに小部屋から出て行った。


164マダラメ三世(12/14) :2006/04/22(土) 23:32:22 ID:???

翌朝、霧のけぶる農道を、ワラを積んだ馬車がゆっくりと移動している。荷台には、ワラの上に座った日本人の女性の姿があった。
馬車は、大公邸の跡地に止まる。

邸宅跡地の裏庭、伯爵の城に連なる古代ローマから遺された水道橋の入口がある。
タナカは、ここにキャンプを張っていた。そこに、馬車で移動してきた和服の女性が現れた。日本刀を手にしたオオノだ。
タナカの表情がパッと明るくなる。
「オオノさん早かったね」
「ええ、仕事ですか?」

タナカは足取りも軽やかに、キモハラグロの城を見渡すことのできる高台へと向かった。
水道橋の大公邸側の岸には、巨大な時計台がそびえている。時計は今は動いていないようだ。
時計塔のそばで城を監視していたササハラが「あ、タナカさんですよ」と、双眼鏡を覗き込んでいるマダラメに話しかけた。
タナカが、「オオノさんが着いたぞ」と伝えると、マダラメも「こっちもお着きだぞ」と、双眼鏡をタナカに渡す。
双眼鏡で城の橋を見たタナカは驚愕した。母国で見慣れたモノが城内に向かって走っていた。
タ「ありゃ日本のパトカーだ!」
マ「キタガワだよ」

城内に停車したパトカーと機動隊トラック。
中からぞろぞろと日本に警官たちが降りてきた。屈強な男達がブーツでドカドカと駆ける中、一人だけヒールで脚線の美しい足首が混ざっている。
タイトスカートにトレンチコート。インターポールのマダラメ専任捜査官、北川警部がメガネを光らせた。

マダラメは、北川警部らの車が城門をくぐった際、「さてと、役者が揃ったな」と呟いた。


165マダラメ三世(13/14) :2006/04/22(土) 23:33:36 ID:???

「インターポールはこんなことで人の朝食を騒がすのかね…」
キモハラグロ伯爵はスクランブルエッグを食べながらため息をつく。
ピク、と口元をひくつかせた北川警部は、「伯爵、マダラメをあなどってはいけません!」と反論する。

北「ところで伯爵。マダラメはなぜ花嫁をねらっているのでしょう?奴は二次元が専門のはずですが…」
伯爵「それを調べるのも君たちの仕事じゃないのかね?」
のらりくらりとしたキモハラグロに、北川は少々腹立たしくなり、「いやぶっちゃけ私はあのロリコン捕まえることができれば理由はどうでもいいんですがね!」といきり立った。

「それは オ ナ ニ ー だよ。捜査の裏付けによる立件の否定かい?」
伯爵の一言に思わず周囲が凍り付く。北川は真っ赤だ。
「あ……女性でしたね、失礼」と語る伯爵は、続けて、「しかし、こんな大勢で押し掛けておいて、マダラメが捕まらなかったら悲しいよぉ〜。日本に帰るとき空港で荷物を出すのに行列するんだ、アレは悲しい!これがまた進まねえんだアハハ」と笑った。
伯爵は食事を終えると、チリチリンと呼び鈴を鳴らした。
「この国にも警察はあってね。もっとも優雅に衛士と呼んでいるがね…」

伯爵の部屋を後にした北川警部は、城の庭園へと足を運んだ。
背中に無線機を背負った機動隊員の一人、朽木巡査長が駆け寄る。
「警部、この庭、対人レーダーの反応がありますニョ。素人にしては警備が厳重すぎますヨ」
北川は、「…いけすかん城だな…」と呟いた。
長時間の乗車で足もムレている。痛みと痒さにいら立ちを感じ始めていた。

166マダラメ三世(14/14) :2006/04/22(土) 23:37:10 ID:???

その夜、ローマ水道橋の入口前で、マダラメが黒いウェットスーツを身にまとい、小型酸素ボンベをチェックしていた。
水道橋の水路を潜って城に潜入しようというのだ。

そこにササハラとタナカが歩み寄ってきた。
「ササハラお前、その格好…」マダラメはササハラがウェットスーツを着ているのを見て驚いた。
タナカが、「実はオオノさんに事情を話したら、彼女が盛り上がっちゃって…。“ササハラさんにはオギウエさんを絶対幸せにしてもらいます!ササハラさんも城へ行きなさい!”とか言い出して…」と説明した。

ササハラにとっては、オオノに勧められなくても城へ行く覚悟はしていた。
大公家の使用人として、昔からそば近くでオギウエを見てきたのだ。今回の結婚が彼女にとって幸せなはずがないとは思っていた。
ササハラは、(俺に足りないのは覚悟だ)と、何度も心の中で繰り返し、「俺も連れて行ってください」とマダラメに直訴した。
マダラメは、「わかったよ」と苦笑いした。

やがて2人は水に腰まで浸かり、ローマ水道の入口へと歩み始めた。

(つづく)

167マダラメ三世 :2006/04/22(土) 23:38:40 ID:???
更新遅くてすみません。
配役にご不満も多々あるかと思いますが、ご勘弁ください。

168マロン名無しさん :2006/04/22(土) 23:49:01 ID:???
>マダラメ三世
斑目!斑目!!配役に不満、自分はアリマセン!特にルパ(ry
カリオスト○いいですねえ。北川さんが銭○なのが噴いたw

あーラストはやっぱあの台詞言うのかなーーーwあ、でもこの流れだといわないのかなーー?
とにかく後編楽しみにしてます。

169マロン名無しさん :2006/04/22(土) 23:59:09 ID:???
>マダラメ三世
良い!!!
続きが楽しみだな〜! 高坂に出番はあるのか?
こういうの好きです。
パロディーはなごむなあ〜。

170マロン名無しさん :2006/04/23(日) 00:02:29 ID:???
>マダラメ三世
いいすねー、いいすねー。
北川さんフイタww「あのロリコン」発言が特にww
続き期待して待つ!

171マロン名無しさん :2006/04/23(日) 16:10:03 ID:???
>決別
荻上は自分的には強すぎな気もするけど、中島像は自分の持つものとほぼ一致した。
GJです。

>マダラメ三世
一人だけヒールで脚線の美しい足首が混ざっている。 タイトスカートにトレンチコート。インターポールのマダラメ専任捜査官、北川警部がメガネを光らせた。

ここが自分の萌えどころです。
続編に超期待!

172マロン名無しさん :2006/04/23(日) 18:41:33 ID:???
「マダラメ三世」書きなぐった馬鹿者です。読んでいただいてありがとうございました。

>>168
>斑目!斑目!!
このパロ思い付いたのも、久々にカリ城を見てて、主題歌の一節「♪いばらの道も…♪」を聞いた途端に(斑目じゃん!)とワープを始めたのがきっかけでして。

>あーラストはやっぱあの台詞言うのかなーーーw
只今苦悶中……。

>>169
>高坂に出番はあるのか?
只今苦悶中……(またかい!)。マジで高坂は難しい。
もう後半は「カリ城」から脱線していくと思いますよ(w

>>170
>北川さんフイタww「あのロリコン」発言が特にww
「銭●に値する人物=取り締まる人」として彼女に白羽の矢。
すると不思議不思議。インターポールの気弱な上司は自治委員長に、機動隊員は木村君に(クッチーも見せ場重視で機動隊にぶち込みました)と当てはまってしまいましたとさ。
北川警部は一人歩きしそう…。

>>171
>一人だけヒールで脚線の美しい足首が混ざっている。
映像的な元ネタがあります。Jキャメロンの「アビス」です。
足下のアップで海兵隊員のゴツイブーツが次々にヘリから降りてきて、最後にヒロインの美しい足首がスラリと舞い降りる……たまらんですハイ。

後編はなるべく早くと思ってますが、アフタヌーンの事が気掛かりで何ぶんアレなものですから…。
長々と失礼しました。

173筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:10:24 ID:???
続編希望の声があったので、続きを書いてみました。
一応、げんしけんメンバーの大半を登場させています。
残りの面子は追々…

あと、人物設定に前スレ>513を参考にさせてもらいました。感謝。

174筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:11:11 ID:???
荻上屋、通称”筆茶屋”は、主人が道楽で創めた所為もあって、無駄に大きく、凝ったつくりをしている。
とはいえ、現在切り盛りしているのは千佳一人しかいないため、その大半は使われていない。
そんな部屋のうちの一つ、小さ目の座敷を借りて、笹原たちは集まっていた。
一応、斑目の仕官支援という名目だが、実際には斑目の「理想の主君に出会えた!」という話の真贋を確かめる事が目的だった。
要は、斑目の話を信じていたのは、当人以外誰もいなかったのだ。

175筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:11:43 ID:???


”筆茶屋はんじょーき”



176筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:12:28 ID:???
「ごめん、千佳さん。無理に部屋を開けさせて…」
笹原が頭を下げる。
「まったく、迷惑な話です」
千佳はそっぽをむいて答える。
「本当にごめん」
「気にしなくていいんですよ、笹原さん。千佳さんは照れているだけなんですから」
さらに深深と頭を下げる笹原に、加奈子が声をかけた。
「誰が照れているんですか!」
「千佳さんが」
「なんでわたしが!」
「え〜、わたしがそれを言ってもいいんですか〜?」
食って掛かる千佳を軽くあしらいながら、加奈子はちらちらと視線を笹原に向ける。
笹原はまったく訳がわからず、ぽかんとしている。
加奈子の視線を追って、笹原にたどり着いた千佳は、顔を真っ赤に染めると
「…店に戻ります」
そう言いおいて、部屋を飛び出した。
「どうしたんだろ、千佳さん」
「笹原さん」
加奈子は真剣な顔つきで、笹原に詰め寄った。
「もう少し女心を勉強しなさい」

177筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:13:14 ID:???
一方斑目は、呉服商”田中屋”総一郎の持ち込んだ酒で相当にできあがっていた。
「だから、彼女こそが、俺の、真の主君たりうる人なんだ!!」
「何度も言うが、そんな人がいるわけないだろうが。『美しくて、強くて、優しくて、気品に満ち…』だっけ?」
「ど、どこかの舞台の役者じゃあるまいし」
叫ぶ斑目に、総一郎と、”久我山寺”の生臭坊主、光紀が突っ込む。
「いるんだよ!なあ、笹原!」
「え、まあ、一応それらしき人とは会いましたけど…」
突然話を振られた笹原はあいまいに答える。
「どうだ!いるんだよ!いいか、彼女はなあ…」
再び、かの女性のすばらしさを説き始めた斑目を放っておいて、総一郎と光紀は笹原に向き直った。
「で、本当なのか?」
「本当ですよ。そこそこに”できる”ようでしたし、俺には良くわからないけど、美人だったかと…」
笹原は答えながら、隣にいた高坂と呼ばれた男と、彼にしてやられた事を思い出す。
次は負けない、という思いはある。しかし、どうやって勝つか、が、ちっとも見えてこないのも事実だった。
「おい笹原。どうした?」
総一郎の声に我に返る。
笹原はあいまいに笑ってごまかした。

178筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:14:15 ID:???
「実際にいるとして」「いるんだよ!」「…いるとして、どこの誰なんでしょうね?」
加奈子は噛み付いてきた斑目に、ほんの一瞬だけ眉をしかめると、後はひたすら笑顔のまま、斑目を無視した。
そんな加奈子の態度に、さすがは売れっ子芸者と、総一郎と光紀は感心した。
「とりあえずわかっているのは、男が高坂、女が咲という名前と、男がかなり、女がそこそこ」「かなり、だ!」「…使えることぐらいですか」
どうやら笹原も無視を決め込むつもりらしい。
「俺がそこにいれば、着物とかでわかることもあったんだが…何か気付かなかったか?」
「こ、この二人にそれを期待するほうが無理」
総一と光紀の言葉に笹原は苦笑する。まったくの事実だったからだ。
「彼女が何を着ていたか、だって!?もちろん最高のものを着ていたに決まっているだろうが!」
「…とにかく、偶然でも、もう一度会って探ってみない事には、どうしようもないな…」
総一郎の結論に、斑目を除いた全員が深くため息をつく。
それは真実への道のりの遠さと、斑目の態度に向けられたものだった。
どちらの成分がより多かったか、は言うまでもない。

179筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:15:06 ID:???
「そんなに知りたい?」
不意に聞こえた声に、全員が飛び上がる。
声の方を向けば、いつの間にか、笹原や斑目と同じ長屋の住人で、年齢、出自、本名不詳の通称”初代”が座っていた。
「”初代”!脅かさないでくださいよ!」
「ああ、ごめんごめん」
笹原の声に、”初代”は笑いながら謝った。
笹原にとって、高坂が目標ならば、”初代”は雲の上の人だった。
気配が無いのだ。
始めのうちは躍起になって気配を掴もうとしていたが、そのうち諦めてしまった。
今はもう、一種の化け物だと思うことにしている。
「大体、何でここにいるんですか?」
「たまたまだよ」
「はい?」
「『たまたま』この店に立ち寄ったら、『たまたま』聞き覚えのある声が聞こえて、『たまたま』僕の知っている話題が出てたので顔を出した、それだけだよ」
笹原と”初代”の会話を聞いて、そこにいる全員が
(嘘だ!!!)
と思ったが、口に出す者はいなかった。

180筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:15:54 ID:???
「それより、本当に知ってるんですか?」
加奈子が代表して質問する。
「うん。僕の知っている二人だとすれば、男の方は直参旗本三千石の嫡男、高坂真琴」
「「「「「え?」」」」」
「女の方は遠州花山藩一万ニ千石、春日部家のご息女、咲姫だろうね」
「「「「「ええーーー!!!」」」」」
叫ぶ。慌てる。まさかここまで話が大きくなるとは、誰も思っていなかった。
「ちょ、ちょっと待って下さい。なんでそんな二人が供も付けずに出歩いてるんですか?」
「お忍び、だろうね」
「そんな事が許される立場じゃないでしょうが!」
「お家の事情、と言う奴ではないかな」
加奈子と笹原が"初代”に食って掛かる。そんな二人に”初代”は淡々と答える。
一方、総一郎と光紀は斑目の肩を叩きながら言った。
「悪い、俺はこの件から降りる」
「な、なに、また別の出会いもあるさ」
しかし斑目にはそんな言葉など耳に入らない。
(彼女は本物のお姫様だった。ならば不肖斑目、身命を捧げて尽くす所存!)
などと考えながら、感動に打ち震えていた。

181筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:16:42 ID:???
「実はね」
不思議と響く”初代"の声に、場の喧騒が瞬時に静まる。
”初代”に視線が集まる。
「表に来ているよ」
”初代”を除く全員が部屋を飛び出す。
”初代”の姿はいつの間にか消えていた。

噂の二人は、店の軒先に出された腰掛に座り、茶を飲みながら、何かを話していた。
「何を話しているんだ?」
「ここじゃ聞こえないな」
「近づいてみましょうか」
「き、気付かれないかな」
物陰から二人を見つめ、ひそひそと話す斑目たち。
(とっくに気付かれているんだけどなあ)
笹原は軽く呆れながら、皆に提案した。
「それじゃあ近づいてみましょうか?怒られたら謝ればいいし」
「いや、相手は…」
「そうだな。墓穴に入らずんばなんとやら、とかいうしな」
及び腰の総一郎に対し、斑目は間違った知識を堂堂と披露すると、率先して歩き出した。
「…冗談ですよね」
「…本気だったりして」
「…よ、よりによって、え、縁起の悪い…」
「…斑目さん…」
残された四人は軽くため息をつくと、結局好奇心に負けて、斑目の後を追った。

182筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:17:31 ID:???
「不味い茶だ」
「咲ちゃん」
一口、茶を飲んでの咲の感想に、高坂は咎めるような声を出す。
傍で働いていた千佳の動きが止まる。
「…だが不味くない。この団子もそうだ。美味くないのに美味い。不思議だ」
咲は真剣に考え込む。
高坂はくすりと笑うと、咲に話し掛ける。
「これらには、作った人の思いが込められているからだよ」
「たわけたことを言うな。ならば他の物には込められていない、とでも言うのか?」
「そうだったね、ごめん」
「そうだ」
言い終えて咲は再び茶を飲む。高坂も少し遅れて飲む。
千佳は再び動き出す。

183筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:18:19 ID:???
「そもそも、何故この茶屋に寄る気になったのだ?私はあまりここに良い思い出がないのだが」
咲は高坂を向いて尋ねた。
「なんとなく、だよ…そういえばあの人はどうしてるんだろう」
高坂は前を見たまま答える。
咲はほんのわずかに寂しそうな表情をして、前に向き直る。
「絡まれていたあの男か?情けない男だ。自分ひとりすら守れんとは」
咲の言葉に、後ろで聞いていた斑目がうなだれる。
「でも守るものの為に、命を捨てて戦う男だっているよ?」
高坂の言葉に、背を伸ばす。
「それで命を捨ててしまって、以後、誰が残されたものを守るのだ?たわけた事を…何を笑っている」
「いや、咲ちゃんはいつでも正しいな、と思って」
高坂に笑いかけられ、咲は頬を染めてそっぽを向いた。
「とにかく、私にはそのような者など必要ない。では行くぞ」
咲は立ち上がる。
高坂も銭を置いて立ち上がる。
「あと、後ろで聞き耳を立てていた者ども。聞きたいことがあれば正面から尋ねてこい」
咲は言い置いて歩き出す。
慌てる斑目たちに、高坂が振り向く。
その中で、一人落ち着いていた笹原は、高坂に軽く頭を下げた。
高坂は少し驚いたような表情を浮かべ、そして笑って、咲の後を追いかけた。

184筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:19:15 ID:???
「なあ笹原…」
斑目は遠くを見つめながら話す。
「なんですか?」
笹原は斑目を見ながら問い返す。
「剣を教えてくれるか?」
「いいですよ」
笹原は笑って請け負った。

そんな二人を荻上は見つめていた。
かすかに頬が赤い。
「ダメですよ、千佳さん。見つめているだけじゃ想いは伝わらないんですよ?」
加奈子が千佳を後ろから抱きしめて言う。
「好きなら好き、と、はっきり言わないと」
”好き”という言葉を聞いた途端に、千佳の全身が硬直する。
不思議に思った加奈子が覗き込むと、千佳は顔を真っ青にしていた。
しだいに体が震えだす。
「わたし…また…わたしは…」
「千佳さん?」
「わたしは、人を好きにはならない…わたしは、好きになってはいけない…わたしには、そんな資格は、ない…」
「千佳さん!?」
次の瞬間、千佳はものすごい力で加奈子を振りほどくと、店の奥へと駆け出していった。

185筆茶屋はんじょーき2 :2006/04/23(日) 19:20:52 ID:???
以上です。

186マロン名無しさん :2006/04/23(日) 20:54:21 ID:???
>筆茶屋はんじょーき2
続編!続編!!
咲姫がいいなー威厳にあふれてて。「不味いけど不味くない!」この台詞なんかカッコいい。
笹原、この話では特にカッコいくなってますね。
…斑目が笹原に「剣を教えてくれ」と言ったところが特に…これからどーなるんだろう?
斑目がちょこっとでも活躍したらいいなあ。続き楽しみにしてます。


187マロン名無しさん :2006/04/23(日) 21:34:59 ID:???
ども、「はぐれクッチー純情派」を書いたバカです。
数々の感想、ありがとうございました。
>>73
ぶっとび過ぎて、何のSSだか分からん話になってしまいました。
すいません。
>>83
クッチー分過剰に入れ過ぎて、鍋の底が抜けてしまいました。
すいません。
>>84
クッチーの服装は、5巻の26話(斑目が服買う話)の扉絵からイメージしました。
ただ彼の体型だと寒さに弱そうなので、ロシア軍仕様のコートにしました。
あと斑目には、外見ロリだけど世話好きでしっかり者の嫁はんが似合うと思い、こういう設定にしました。
ちなみに斑嫁、実は俺が昔好きだった女の子がモデルです。
私情をSSに挟んじゃってすいません。
>>85
遅くなってすいません。
間に合いましたでしょうか?

188マロン名無しさん :2006/04/23(日) 21:37:59 ID:???
>>187の続きです。
>>129
>純情派ちゃうやん武闘派やん
「はみ出しクッチー情熱系」の方がよかったかも…すいません。
当初、巻田は他の空手家かヤクザとでも戦わせようかと思ったんですが、思い切ってクッチーにやらせちゃいました。
コツカケを使えるという設定の元ネタは、本スレに前からよくあった、巻田が中学の事件以来その道に目覚めたという妄想レスです。
ならば金玉なければ「えっ?」となるんじゃないかと思い、そこから空手家巻田の設定が始まりました。
>>130
書く方は一気には行きませんでした。
書き始めたのは笹荻成就の頃ですから、2ヶ月ぐらいかかっちゃいました。
遅くなってすいません。
ちなみに情報源は「餓狼伝」(主に小説の方)、月刊空手道、コンバットマガジン、一連の大藪春彦の小説、月刊フルコンタクトカラテ等です。
>>133
バカよバカ、クッチーバカです、すいません。
>>134
ちとマニアックな方向に走り過ぎましたね。
すいません。
燃えていただいて光栄です。



189マロン名無しさん :2006/04/24(月) 00:05:15 ID:???
>筆茶屋2

♪お江戸の空に春を呼ぶ 花も恥じらう筆茶屋団子〜
ご存知荻上千佳さんが 想いを隠してべらんめえ
ちょいと千佳さんツンデレよ〜♪

(元ネタ分かる人いるだろうか?「遠山の金さん」または「ホモ太郎侍」です)

斑目、これはキツいなあ…。敵わないよなあ…。どの時代でも報われない空気充満だわ。
その一方で、笹原と高坂の関わり合いが気になるね。


190マロン名無しさん :2006/04/24(月) 01:38:05 ID:???
1日家をあけただけでものすごい投稿量…3日ばかりで200レス近く伸びるとは!
「うわぁ いっぺーだぁ」(byナカジ)

>>はぐれクッチー純情派21〜60
トラウマ解消と格闘!予想外の超大作…傑作でしたね!
僕は過去の解決は、「直接的なものは不要」論者なのですが
こういう衝動がSSの元なんだと熱意というか「キャラへの愛」を感じました。
僕は組み技畑なので打撃系描写は出来ませんが、読む分には全てのネタが
理解できましたので、非常に楽しめました。
あとは、太った笹荻夫妻が良かったですw

>>決別
これはまた……
中島の内心の洞察あたり、非常に納得しました。良かったです。

>>マダラメ三世
絶妙なキャスティングですね!続きが気になります。
お待ちしております〜


191 ◆9rae7Hwib2 :2006/04/24(月) 20:17:54 ID:???
かなり間が開いてしまいましたが、降臨→東北の反逆児の続編です。
他作品パロ満載なので注意です。

192偽らざる者(1/8) :2006/04/24(月) 20:19:00 ID:???
「…これから…どうなるんだろう。」
ここは椎応大学の屋上、彼女の――春日部咲の最もお気に入りの場所である。
(変わったよね…いつからだろう。『世界』が、『常識』が…こんなにも頼りなくなったのは。)
少し前から。今までの『世界』や『常識』は崩壊の一途をたどっていた。
続発する事件、暴走するかつての友。そして何より、漫画やゲームの中だけの話だったはずの超常的な力。
現実が夢に、妄想に、浸食されているのではないかという不安。そう、ほかでもない自分自身も――
春日部咲もまた、以前の日常からは考えられない非現実的な装いを身に纏っていた。
腰に下げた大剣、体を守る白銀の鎧、青いリボンで束ねられた美しい髪。
(私だって…いつのまにやらこんなんなっちゃうし…)
最後に以前の――退屈だが、穏やかな世界を体感したのはいつだったか。
記憶を辿り、咲は思い出を反芻する。傾き始めた太陽が、晴れの日の薄雲に陰り――

193偽らざる者(2/8) :2006/04/24(月) 20:19:59 ID:???
「はじめまして。春日部、さん…いや、『雷神』とお呼びした方がいいかな?」
「!!」
そこにいたのは黒衣の死神のような何か。全てを…ルージュまで黒で統一した奇妙な出で立ち。
傲岸さとそれを取り繕う華麗なる礼節と容姿、ある意味咲と似た天性のカリスマ。
そして何より――その瞳の裏に宿る根源的な優越感――他者への蔑視。
「…あんた――中島だね」
死神は肯定とも否定ともつかぬ左右非対称の笑みを浮かべ――
「…今は中島でねえ。オギーポップだ。」
「オギーポップ…?」
「世界の危機が迫っている…君の協力が欲しい」
「世界の――危機?」
中島――いや、オギーポップは黙ってサークル棟を指し示す。そこには――
朽木に絡まれる荻上の姿。それだけなら別にどうと言う事もないが――何か様子がおかしい。
「荻上!?」
「時間がねえ、一緒に来てくれねえか?」
「な…何だかわかんないけど…荻上が危ないんだな?」
オギーポップは薄く笑うと、返事をせず一方的に駆け出した。
「あーもう、説明ぐらいしてくれ!」

194偽らざる者(3/8) :2006/04/24(月) 20:20:33 ID:???
「ふっふふ、見つけましたよ荻上さん!」
「朽木さん?」
荻上は朽木が苦手である。いや、嫌悪と言った方が近いだろうか。
できればあまりお近づきになりたくない人種なのだが…。
「積年のうらみ思い知るがいい!」
「う…恨みって何ですか!」
「ふっふっふ、ワタクシ朽木にセプターとしての才能が眠っていた事には気付かなかったようですね!」
朽木は彼なりの『処世術』を捨て、一方的にまくしたてる。今や荻上への意趣返ししか頭に無いようだ。
力を得て気が大きくなったのだろうか。迷惑な話だ。

「沼/Swamp・水蓮の花びら/Lotus Petalをプレイ!黒2マナで暗黒の儀式/Dark Ritual!
朽ちゆくインプ/Putrid Impを召喚、朽ちゆくインプ/Putrid Impの能力により
荒廃の下僕/Minion of the Wastesを墓地に送る!黒檀の魔除け/Ebony Charmで1点ドレイン、
浅すぎる墓穴/Shallow Graveにより荒廃の下僕/Minion of the Wastesを場に出す!
19/19荒廃の下僕/Minion of the Wastes!ここに召!喚!」

「さあ!完成したカルドセプトの力を見せてやる!泣いたり笑ったりできなくしてやる!」

「カルドセプトじゃないじゃないですか!!!!」

荻上の突っ込み1つで、全てが凍りついた。

「え?これをもとにカルドセプトが作られたんじゃないんですか?」
「…『参考文献』ではありますけど、元ネタとは間違っても言えないですよ…本気で勘違いしてたんですか?」
「じゃ、じゃあワタクシのしたことは…」
朽木は何かを伺うように自らの召喚した怪物に近寄り、おずおずと…か細い声で切り出す…
「…あの、おとなしく帰っていただけると助かるのですが…」

195偽らざる者(4/8) :2006/04/24(月) 20:21:26 ID:???
「…こっちだ!」
オギーポップはまるであらかじめ分かっていたかのように咲を導く。
(…オギーポップ…何か…斑目たちがそんな名前のキャラのこと話してたような…何だっけ…)
咲は走りながらも、何とか状況を把握しようと頭を働かせる。
「…何か?」
「いや…別に」
その問いに結論が出る前に、2人は荻上たちの元にたどりつき――
「な…なんじゃこりゃあ!!」
「咲さん!?それにナカ…ジマ…」
そこにいたのは――荻上と朽木、そして屋上に届こうかというほど巨大化した怪物。
…朽木はどうにか帰ってもらおうとしているようだが、話しかけるたびに返って怒りを買い、
状況はあっという間に悪化。ついに怪物は朽木――荻上のいる方向へ逃げた朽木に向かって、
手に持つ巨大な短剣を振り下ろす――
「…荻上!」
瞬間、咲の持つ大剣が陽光を受け燦然と輝く!――約束された勝利の剣――!
「天の願いを胸に刻んで心頭滅却!聖光爆裂破!」
「今だ!」
咲の聖剣技が炸裂した刹那。オギーポップの放つ無数の鋼糸が怪物を切り刻んだ。

196偽らざる者(5/8) :2006/04/24(月) 20:21:57 ID:???
オギーポップは振り返らない。後ろの――荻上を、畏れるように。
「…中島…」
「…今はオギーポップだ。中島とは…意思を共有していない。」
「さて……」
オギーポップは朽木の髪を掻き分け、額を日の光のもとに晒す――
「…これだ」
謎の…生物のようなものが朽木に憑り付いていた。
「肉の芽…他人を支配するための…小型洗脳装置のようなものだ。」
「…朽木を?何の為に?まさか荻上を狙ってってわけでもないだろうし…」
「さあ…僕には判らないけど。…一応、これ友達…なんだよね?」
「ええ…うざいしエロいしキモイオタクですけど、一応…げんしけんの仲間です。」
「そう?…それじゃ、これを取ってあげたほうがいいかな。」
「…取ってもうざいしエロいしキモイのは変わらないですけど。その方がいいと思います。」
「ま、うざいしエロいしキモイとはいえ、仲間を襲ったりはしないだろうしね」
「そうだな。さっさとうざいしエロいしキモイだけの無害な朽木に戻してやろう。」
オギーポップから伸びた鋼糸が正確に肉の芽を固定し、引き抜き、痕をふさぐ――

197偽らざる者(6/8) :2006/04/24(月) 20:22:46 ID:???
「さあ!これでワタクシ肉の芽が抜けてにくめないクッチーになったわけですが!」
「…最低のギャグセンスだね。彼、いつもこうなの?」
「ええ。…いつもはこんなもんじゃないですよ。」
「…こんな『もん』じゃないの?」
「ええ。『もんじゃない』…です。」
「クッチーウゼー。」
「ノォーー!その言葉一つ一つがワタクシを責め苛む!イイ!すごくイイ!!」
「…なあ、殴っていいか?」
「…殴って治るならとっくにそうしてますよ」
「…それもそうか。」
「ンッン〜!素直になれない女心!わかります、わかりますとも!」
「さあ!遠慮なくデレモード突入して良いのですよ!?クッチーの胸に飛び込んでおいで〜!!」
その言葉に反応したのか?オギーポップは無造作に朽木に近寄り…
「オオ〜!どなたかは存じませんがその素晴らしい容姿!クッチーは素直クールも守備範囲で…」
胸倉を掴み、まるで歩道を走れと命じた悪のカリスマのような圧倒的な威圧感で宣下する…
「…僕は君のジョークに価値を見出すほど落ちぶれてはいない…それより話してもらいたいことがあるんだけど。」
「な、なにを言って…」
「朽木君。」
オギーポップはただ朽木を見つめ、しばらくして――わずかな笑みを浮かべた。
…全てが凍りつくような、天性の氷の微笑――
「は、はいい!!恥ずかしながら朽木全面的に協力します!!なんなりとご命令を!!」
「…何か喜んでない?」
「…あまりその辺りに踏み込みたくないんですが…」
「じゃ、話してもらおうかな。君に『力』をくれた人のことなんだけど…」
「ええ!ええ!クッチー全て見せちゃいます!何ならこの体もォォ!!」
「それはいらない」

198偽らざる者(7/8) :2006/04/24(月) 20:23:35 ID:???
朽木の口から出てきた人物は、やはりというか納得と言うか…
「…また原口か…」
「懲りない人ですね…」
「…ワタクシが再会した時には、『優秀なるオタク人種』がどうとか…演説を行ってまして…」
「…は?」
「優秀なるオタク人種…ですか?」
「まるでどこかの独裁者のコスプレのような服を着て…」
「…そういう…何ていうか徒党を組むタイプだったか?あいつ。」
「マー、ワタクシはその思想よりオマケの香港19××(純正品)に惹かれまして、つい…」
「…で、あんなものを埋め込まれて何も憶えてはいない、と。」
「はい、その通りで何とも、まあ面目次第もない所なのではありますが…」
オギーポップはしばらく何かを考えるような仕草を見せたが、
皆の注目に気付くとそれを放棄して場の空気を変えた。
「まあ…もう少し調べないとなんとも言えねえ…かな。朽木君、片付けは任せたよ」
「イエス、サー!」
朽木は嬉々として(今度はちゃんとカルドセプトのクリーチャーを)召喚し、
後始末を始める。八つ裂きの怪物にたかるグレムリン、そして輝く夕日――何かを感じさせる風景ではあった。
その光景を惜しみつつ…か、オギーポップは名残惜しそうにどこかに向けて…歩き出した。
「…中島…いや、オギーポップ。…どこに?」
「…僕はどこにでもいるし、どこにもいない。世界の危機さ迫ってる時――その時には必ず現れる。」
「僕はハアまんず自動的(ずどうてぎ)だがら〜。」
「そ、そうなんだ…」
オギーポップはゆっくり歩を進め、夕日の差す街の中に消えた―――

199偽らざる者(8/8) :2006/04/24(月) 20:24:06 ID:???
次回予告
「…斑目…さん?」
「…言うな…いや!言いたい事は分かるが!これは体質と言うか能力であって!」
椎応大学に謎の魔法少女を見た!
「キバヤ…いや小野寺さん、これは…!!」
「イケ…いや笹原、俺達はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない…」
伝説の特捜班が、今、動き出す…!?
次回「斑目さん、マジカルシャワーはきついです」
このままでは人類は滅亡する!!

200 ◆9rae7Hwib2 :2006/04/24(月) 20:24:57 ID:???
今回はここまで。

201マロン名無しさん :2006/04/24(月) 22:33:29 ID:???
なつかし!
よもや続きを書かれているとは思いませんでした!
またよろしくお願いします〜。

202マロン名無しさん :2006/04/24(月) 23:32:26 ID:???
>>偽らざる者
すごい復活劇ですね。
当時、僕はまだ書かずに読むだけで、感想レスすら書き込んでなかったような…。
今後とも宜しくです!

そして、まとめサイトの有り難さをしみじみ感じました。

203マロン名無しさん :2006/04/24(月) 23:58:07 ID:672oeaMJ
>>153-166
すげー!笑った!!つうかもう読んでいて顔がニヤけるw
配役、イイですね。特に女性陣。5人とも実に美味しい。
なんでしょうこの爽快感は。同時並行している本編の展開
(あくまでも笹高咲の卒業、という意味で)
と絡んで・・・・・何というか・・・・

連中の卒業パーティーの出し物のような?

おわらんでくれ〜〜〜(本編)
そして
早く続きを〜〜(SS)

いやホントこのスレはレベル高いよね。
「筆茶屋」も「801小隊」も「レィディオゥ(ケロロ風味で)〜」も
中荻も笹恵も斑恵も
あ――も――

楽しすぎてわけわかんね――

204サマー・エンド-終-〜まえがき :2006/04/25(火) 00:05:56 ID:???
ふひー。とうとうアフタ発売日になっちまった…。
漸く書けました。

最終話+エピローグです。

最終話で27スレ分、エピローグが8スレ分あります。
長文すいません。

それでは、0:10ごろから投下したいと思います。
宜しくお願いします。

205サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:10:18 ID:???
ブルー・ベルベットのような青空が窓を彩る。
7月の晴天が、梅雨の終わりを告げていた。青いセロハンが空を覆う。
太陽が窓に貼られた美少女を真っ黒い影の中に隠している。
ブラウン管のテレビの頭を、ビデオデッキの背中をこんがりと焼いていた。
彼女たちはその刺すような日差しを避けて、部屋の奥に固まっている。
照り返しの光が部室の影を水の底からの軽視のように揺らめかせていた。

真っ白い腕をノースリーブから覗かせる荻上が向日葵のような笑顔を見せている。
「え〜? このカプですかぁ? やっぱ大野先輩とは趣味が合わないすね。」
長い黒髪を暑苦しそうにたくし上げて、大野はその豊満な胸を張った。
「別にいいですよ。初めから荻上さんはそう言うと思ってましたから。」
恵子は机に重ねた両手の上に顎を乗せて、広げられた801同人誌をぼーっと眺めている。
「元ネタが全然わかんねぇな…。」
窓から迷い込んだ風が、僅かに開けてあるドアの隙間を風が通り抜けていく。
彼女たちの頬を涼やかな感触が撫でていた。
「あ、私そろそろ帰りますね。」
本棚に置かれたアニメ絵の文字盤も麗しい時計を見上げて荻上は立ち上がる。
まだ2時を少し回ったところだった。大野が怪訝そうに荻上を見やる。
「今日ってもう講義ないって言ってませんでした?」
荻上は自分の同人誌をまとめながら、ニヘヘとはにかんでいる。
「いえ……、まあ……、ちょっと………。」
大野はバッグの中から取り出したマスクを手早く蒸着…、じゃなくて装着していた。
「ちょっとってなんでしょう…?」
両目をキュピ〜〜ンと光らせて、ハアハアの吐息の熱をマスクに篭らせる大野。
じりじりと荻上ににじり寄った。


206サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:10:55 ID:???
荻上は、”ドジこいたーーー!”とでも言いたげな表情で顔を背ける。
「あはは…、いやぁ……、ちょっと今日のは煮込むのに時間がかかるんで………。」
「煮込む…。お料理デスカ……。」
もはや止まりようも無い大野はその身長差を大いに活用して荻上にプレッシャーをかけた。
「どんなの作るんですか…? オギウエさん…。」
荻上は目をグルグルさせて、気温と関係なく流れる冷や汗を拭った。
「サ、サムゲタンですけど……。そのぅ…、夏のスタミナ回復に良いらしいので…。」
「笹原さんに! 作るんですね…?」
「………はぃ。」
「オーケー! どうぞどうぞ。もう行って大丈夫ですよ!」
すっかりゲロした荻上にがっつり満足した大野は軽やかにマスクを外して、その下の満面の笑みを披露した。
じっとりと冷や汗をかいた荻上は、すっかり肩を落として疲労のため息を漏らしていた。
「では…、失礼します…。」
「はいは〜〜〜い。ス・タ・ミ・ナ、つけて頑張って下さいね〜〜〜!」
オデコに青筋を立てて荻上が部室を出て行った。
大野はそれを見送ると、ふんふ〜〜んと鼻歌まじりに同人誌を鑑賞し始める。キャラを脳内で笹荻に変換して。
机に突っ伏してままの恵子がぽつりと呟いた。
「あんまりからかってやるなよ〜〜。」
「だって面白いんですもん!!」
「まあ…、それの気持ちはわかるけどさ…。」
恵子の目は、窓の向こうの真っ青に晴れ渡ったそれを見つめていた。
「なんつーかさ…………、幸せすぎて、見てられないんだよね…。」


207サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:11:39 ID:???
夕焼けの太陽が校舎の向こうへ消えて、部室はひっそりとその暗さを増す。
笹原は時計を見ながら遅くなった日没を感じた。
橙色から赤へ、赤から紫へ。少しずつだが空は確実にその有りようを変えている。
開けっ放しの窓から注ぐ夜気に、笹原は身を浸していた。
くるりと窓を背にする。
一人きりの部室。初めて感じる、こんなにも広い部室。
そこでの慌しくもぬるい毎日は、目を閉じる必要もなく笹原の脳裏に容易く甦ってくる。
オタクとして覚悟を決めた自分。同人誌を買うにも照れていたころ。
クダラナイ話を何時間でも続けていた毎日。
数々の事件、事故、イベント。
予期せず会長として過ごした一年間。コミフェスへのサークル参加。
荻上との出会い。
笹原は部室を目に焼き付ける。そのかけがえのない日々と一緒に。
もう二度と手に入らない全てを、笹原は胸の奥に閉じ込めた。

ドアの向こうから足音が聞こえる。カツカツという軽妙なリズム。
程なくしてそれは立ち止まると、一拍を置いて部室のドアは開いた。
「うわっ!」
大野が大声を上げて仰け反った。無理もない。薄暗い部屋にぽつんと人影があったのだから。
「なんだ…。笹原さんでしたか。脅かさないで下さい…。」
大野は深呼吸をして蛍光灯のスイッチを入れた。部室が一瞬で明るくなり、窓の外は一瞬で暗くなったように感じた。
「ごめんね。もう結構暗くなってたんだね。大野さんは戸締り?」
「そうですよ。」
笹原は窓の方に向き直ると、ガラス窓を閉めた。アルミサッシが滑るトゥルトゥルという音が心地良く響いた。
「今日はお休みだったんですか?」
私服の笹原を指して大野が言った。
「そー代休。編集者って不規則になりがちだから、休める時に休んどけってさ。」


208サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:12:48 ID:???
「それならこんなとこ居ないで、荻上さんと遊びに行ってくれば良かったのに。」
笹原はまた愛想笑いをする。でも今日ばかりは、上手くできなかった。
「今日、これから会うよ…。」
「ですよねー!」
大野の満面の笑みに、ぎこちない愛想笑いは消し飛ばされそうになった。
「今日は楽しみにしてて下さい。荻上さん張り切ってましたから!」
笹原は無言で頷いた。口元に皮肉な笑みを滲ませて。熱の残るテレビの額に手を置きながら、また部室を見渡す。
ここに来れるのも、これで最後かもしれないと思った。
「何だかそーしてると、まだ大学生みたいですよねぇ。」
私服の笹原に、大野が感慨深げにそう漏らした。
目を細めて、笹原たちが卒業する前の懐かしい毎日を思い出しているのだろう。
それに笹原は、小さく首を振る。
「もうあの頃とは違うよ。」
「あら、そんなに成長してます? たった三ヶ月ばかしで。」
大野の意地悪な表情に笹原は苦笑いを見せた。
電気を消して、二人は部室を後にした。

交差点の真ん中で、笹原は足を止めた。
「それじゃ、俺はこっちだから。」
「はいはい。荻上さんに宜しく。」
ニヤニヤ笑顔を湛えた大野が手を振る。笹原は肩越しに大野に視線を投げた。
「大野さん…。」
「はい?」
笹原の唇が、言葉を探しあぐねて宙を噛んでいた。
「荻上さんのこと、頼むね…。」
笹原の目、大野の満面の笑みが飛び込んだ。
「大丈夫ですよ。荻上さんの会長ぶりも板についてきましたから!」
笹原は小さく笑って、そして大野に背を向けた。


209サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:13:24 ID:???
パーキングビルの向こうの空が、太陽の残光に薄く染まっている。
咲は大きな旅行カバンに衣類を詰める手を止めて、その光景に見入っていた。
初めから、あのビルは邪魔だったなと思いながら。
咲はガラス戸を開けて、ベランダに出てみる。少し遠くの通りの騒音が聞こえた。
まだ陽のある内のその景色は新鮮だった。時折、缶ビールを片手に見ていた夜の表情とは違う。
残光に照らされた街は、ある種の生命感を感じさせた。
たぶん、ほとんどの人が、昨日とさして変わらない今日を過ごしたのだろうと、咲は思った。
自分は違う。今日、この部屋から出て行くのに。
持って行くのは、衣類と手で運べる程度の物だけ。できれば自分の匂いするものは全て運び出して
しまいたかったが、時間もないし、大きい物を運ぶには男手がいる。笹原だけでは無理だろう。
現視研の仲間に頼めるはずがなかった。

夏の初めの黄昏。生温かい風。
それを感じていると、まるで今日もいつもと変わらない一日であるような気がする。
このまま高坂の帰りを待って、そして待ちぼうけて眠る。そんな一日。
(もう違うんだよな…。)
もうそんな日は来ないんだよな、と。咲は呟いた。
空は夜に変わる。宵の明星が、空にぽつんと瞬く。
咲は部屋に戻って、カーテンを閉めた。
「咲ちゃん。」
不意に声がした。驚いて身を固くする咲。恐る恐る声のした玄関口を覗き込む。
Tシャツとジーンズ姿の高坂がそこに立っていた。
額に大粒の汗をかいて、Tシャツを熱気で湿らせていた。
「咲ちゃん。」
酸素を求める体に抗って声を発する。乱れて呼吸を繰り返す口元に、いつもの微笑みはなかった。
それは咲にとって、知らない高坂だった。


210サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:14:00 ID:???
咲は顔を伏せて座る。崩れ落ちそうになる表情を見られないように。軽口を叩く。
「なんだ。今日、暇だったの。」
そんなわけないのは分かってる。会いに来たに決まってる。
「明日にしとけばよかったな〜。あはは。」
カバンに荷物を詰める咲の手は震えていた。唇に、白い歯が食い込んでいた。
「違うよ。仕事ぬけてきた。」
スニーカーを脱ぎ捨てて、高坂は部屋に上がる。
ドカドカと荒い足音。それをかき消すほどの声で高坂は言う。
「咲ちゃんに会いに来た。」
咲を見下ろして、高坂は立ち止まる。高坂の体が放つ熱が、咲の肌に爪を立てていた。
旅行カバンの上には、慌てて押し込んだ衣類がぐちゃぐちゃに散らばっていた。
咲はそれを力尽くで押し潰してカバンを閉じる。
「私もう行く。」
高坂の顔は見ない。立ち上がって、横を抜けて、出て行く。そう決めて…。
咲は両足に力を込めた。
「じゃあね。」
ドアだけを見つめて、歩き出す。でも、高坂がそれを許さなかった。
目の前に立ち塞がる。息を乱して、Tシャツの首回りに汗を滲ませて。
咲の目は、いつの間にか高坂の目を見ていた。
いつもの笑みも余裕もない、ただ必死なだけの瞳だった。
「行かせないから。」
高坂の両手が咲の肩を掴む。強く。指が咲の柔らかい肌にめり込む。
痛みに咲は顔を歪めた。
「痛いよ…。」
それでも高坂の手は力を緩めるどころが、尚も強く咲を拘束した。
たとえ咲を傷つけても、高坂は咲を放そうとしなかった。。


211サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:14:33 ID:???
「笹原のところになんか行かせない。あんな男のところになんか。」
「高坂…。」
高坂が悪態をつくのを咲は初めて聞いた。あの原口にだってそんなことを言わなかったのに。
今、高坂の歯は怒りにきつく噛み合わされてる。
そして瞳からは涙が溢れていた。
「荻上さんがいるくせに…。咲ちゃんが好きだなんて…。いい加減なヤツなんだよ、アイツは!」
高坂の顔を、咲は見つめ続けることができなかった。
「僕だって荻上さんとのこと…、応援してたのに…、嬉しかったのに…。」

そうだったんだ…。高坂が失くしたのは、私だけじゃない。
笹原も、一番の友達も失くしたんだ…。

高坂が現視研以外の友達を一緒にいるところを、咲は知らない。
その中でも笹原は同い年で、大学でできた初めての友達で、頻繁に家にも来ていて…。
一緒にゲームして…。買い物もして…。趣味で盛り上がって…。
コミフェスでも売り子をやって…。会長だった笹原を支えて…。

「アイツはそういうの全部ムチャクチャにして…。それで咲ちゃんまで………、僕から…。」
高坂の声は、もう言葉になるのを止めて…。
ただ、ただ感情を乗せて、悲しく、痛く、鳴り響いた。
高坂の手は、咲の肩を滑り落ちて。そして高坂は床に崩れ落ちた。
自分の涙で濡れた、その上に。
「咲ちゃん…、行かないでよ! 僕と一緒にいてよ!」
その叫びはいつまでも響いていた。嗚咽が、いつまでも響いていた。
その時、咲は。


212サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:15:07 ID:???
漫画に落としていた視線を、また台所へと向ける。コトコトと呟くお鍋。
堪らずコンロの前まで行って火加減を確認する。青い弱火が踊っている。
そうしてソファに戻って漫画を手に取る。
さっきからその動作を何度となく繰り返していた。
ソワソワでいる荻上を、コンコンとドアが読んだ。
ビクンとなって慌てて魚眼レンズを覗く。待ち人来る、だ。
とりあえず、一旦鏡の前でいろいろチェックしてから(ついでにかわゆいエプロンをしてから)荻上はドアを開けた。
「どうぞ。」
「うん…。」
笹原は小さく呟いて部屋に入った。
荻上は照れ臭そう頬を染める。
「すいません。ちょっと手が離せなくて。」
「いいよ…。」
エヘヘと小さく笑いながら荻上はさり気なくポーズをとってみる。
ちょい内股気味で、心なしか小首を傾げたりもして、真新しいエプロンを強調してみる。
フリフリのレースのエプロン、というのは流石に狙いすぎであるので回避したが、
人参を加えた桃色のネコのアップリケが荻上の胸元で笹原を見つめていた。
(どうですか…、とか訊いちゃおうかな…。)
口をモゴモゴさせる荻上。
しかし笹原はそれには目もくれずに足早にソファの部屋に行ってしまった。
(ちぇ…。)
荻上は心の中で呟いて、ちょっと舌を出した。そして直後に自分のしたあまりに乙女チックな
行為に赤面した。
(ちぇってなんだよぉ〜。それはブリッコ過ぎべ…。うわー、なんか恥ずかしー!!)
自嘲とこんなことさえできる喜びに緩む口元を、荻上は両手で押さえる。
熱くなったホッペは鍋から立ち昇る湯気のせいにすればいい。
頬が鎮火するのを待って荻上は部屋を覗き込んだ。


213サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:16:27 ID:???
「何か飲みますか?」
笹原はテーブルの上に置いてあった単行本をペラペラと捲っていた。
「別にいらないかな…。」
「え〜! じゃあ、私だけ先に呑んじゃいますよ〜!」
スリッパをパタパタ鳴らして荻上は冷蔵庫に駆け寄るとお気に入り銘柄の缶ビールを取り出した。
片目を瞑りながらプシュっと開ける。おちょぼ口で一口呑んで、磨りガラス越しに笹原の方を眺める。
顔が自然と柔らかくなった。
仲直りして以来、笹原が過剰に気を遣うことがなくなっていたのが嬉しいのだ。
優しくし過ぎないでください、という約束をしたものの、それで笹原の行動はなかなか改まらなかったのだが。
(今のはすごく自然だったなあ。)
また二人の距離がちょっとだけ縮まった気がして、荻上は微笑んだ。
断られて嬉しいってのも何か変だなあ、と思いつつも。
荻上は鍋の火をチェックする。
「笹原さん、お腹へってます? でももうちょっと我慢して下さいね! あと少ししたらお肉も解れて…。」
「荻上さん。」
「はい?」
「ちょっといいかな…。」
荻上は笑顔で部屋を覗き込んだ。その瞬間、ぞくりと背中に悪寒が走った。
「ちょっと座ってくれるかな…。」
笹原の顔は、張り詰めていて、すごく悲しそうな目をしていた。
喧嘩をした時でさえ、そんな顔はしなかったのに。
(何だろ………。なんだか、すごく…いやな感じが………。)
それは昔どこかで感じた気持ちに似ていた。


214サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:17:10 ID:???
初めに、大野は己の目は疑ってみた。が、目はそうそう嘘はつかない。
(やはりこれは現実。)
前を歩いている後ろ姿の二人は、やはりよく知るあの二人である。
(どうしましょう…。スルーがベターなんでしょうけど…、いっそイジッてしまいたい衝動にも駆られる…。)
などと煩悶しているうちに、いつの間にか信号に引っかかった二人に追いついてしまっていた。
「お〜、大野さんじゃん。」
「あれ、こんばんわ。いつの間にそこに。」
恵子と斑目は驚いた様子も無く挨拶した。
「あぁ…。どうもこんばんわ…。」
(むむ? 何だろ、この予想外のリアクションは…。全く動揺なしとは…。)
もしや私だけ知らなかったのでは、と逆に大野の方が焦ってしまった。
チラリと斑目の表情を窺うが、こういう場合に真っ先に顔に出そうな斑目が完全な素。
恵子も同じく素の表情である。深読みしたものかどうか…。
「あの〜〜〜…。」
(訊いちゃうか…。)
自分が詮索されたやや嫌な記憶が甦るが。
(もう辛抱たまらん、ですしねぇ〜…。)
苦悩で頭から湯気が出そうになる。よしっ、訊く。と根性決めた瞬間、斑目が言った。
「ウチらこれからメシ行くとこなんだけど、大野さんもどう?」
「え?」
「あ、忙しかった? 田中と約束とか?」
「そーなの?」
残念そうな恵子。大野はますます焦った。
(何ですかこの展開…。)
「いや…、別にこれといってアレではないですけど…。」
「じゃー行こーよー。三人のが面白いじゃん。」
「え、え。でも…。」


215サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:17:57 ID:???
チラリと斑目の方を見る。やはり素だ。
『社交辞令を真に受けんなよ』の顔もしてないし、
『ちくしょーこんなとこで大野さんに会うなんてなー…今日は捨てだな』の顔もしてない。
「やっぱ何かあんの?」
フツーに誘ってくる。大野は思った。というか突っ込んだ。
(そっか…、これが世に言う『男と女の友情』ですか………。逆に気持ち悪っ!)
「あぁ…、じゃー行きますか…。」
「おー、やった!」
嬉しそうな恵子に引っ張られて二人の間に入る。なんだかな〜。
困り笑顔の大野であった。

他愛もない世間話に花を咲かせて、三人は歩いていく。
「そう言えば、今日部室で笹原さんに会いましたよ。」
「へ〜、そーなん? なにアイツ休みだったの?」
「代休なんですって。」
「なら部室なんて来ないで荻上さんと遊び行きゃいいのにな。」
「私もそれ言いっちゃいましたよ。」
三人で並んで、他愛もない世間話に花を咲かせて、いるばずだった。
「………アニキ、何か言ってた?」
大野は思わず恵子に視線を向けた。さっきまでとあまりに声のトーンが違っていたからだが、
目に映った恵子の表情もついさっきと全然違っている。
大野は一瞬息を飲んだ。
「あ〜…、別に大した話はしてないですけど…。」
「そう…。」
少し恵子の顔が和らぐ。大野の口も少し滑らかに動けるようになった。
「荻上さんのことも言ってましたよ。『頼むね』って。」
恵子の足がピタリと止まった。


216サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:18:31 ID:???
「ん? どうしたん?」
恵子は青い顔をしていた。
そして慌しい手つきで携帯を取り出すとどこかへ電話をかける。
「くそっ! 出ない!」
「ちょっとどうしたんですか!?」
大野も斑目も困惑して表情で恵子を囲んでいる。
恵子はまたどこかへコールしている。
「出て、出て、出てよ…。」
小さく呟きながら小刻みに足踏みをしている。
だが、その願いも届かない。
「ダメ! オギーもつながんない!」
左手の人差し指を唇で噛んだ。
「え? 荻上さんに電話してたの?」
斑目の質問に恵子は答えない。斑目は苦笑いを大野に向けた。
大野も同じ顔を斑目に向けていた。
「いま私ヘンなこと言いました?」
「え……、いや、言ってないんじゃないカナァ…?」
顔を見合わせる二人。
恵子はその前に立つと両手をパンと合掌した。
「ごめん! アタシこれからアニキんとこ行くから! 今日はパス!」
「え? え? 何で?」
「ごめん! ちょー急用なのっ!」
言うや否や恵子は踵を返して歩き出した。
慌てて大野と斑目は後を追う。
「ちょっと待ってよ! あいつらに何かあったの!?」
斑目の呼びかけにも取り付く島もない。
「ごめん。後で話すから!」
「笹原さんなら荻上さんちだと思いますよ!」
大野の一言でやっと恵子は振り返った。


217サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:19:06 ID:???
「マジで?」
「ええ…。荻上さん、手料理を振舞うみたいなこと言ってたし…。」
「どこ!? オギーんちって!」
恵子は大野の手をきつく掴んだ。


部屋には音楽が流れている。
『ハレガン』の初期のOPテーマが、点滅する携帯のランプに合わせて鳴っていた。
荻上はハッとして、机の前に駆け寄った。
「すいません。ちょっと待って下さい…。」
荻上の両手は縋るように携帯を握っていた。
「ごめん。切ってくれるかな…?」
笹原の声が冷たく響く。
「大事な話なんだ…。」
荻上はソファの笹原を見下ろす。少し俯いて、目の前の彼女が座るべき場所をじっと見つめていた。
笹原の頬がぐっと盛り上がり、歯を食いしばっているのが分かった。
彼女は仕方なく席に着く。胸の前で握り締めた携帯は、やがて鳴くのを止めた。
「な…、何ですか? 大事な話って?」
嫌な予感がして溜まらない。だから余計に明るく笑いかける。
そうしていないと、また逃げ出してしまいそうだった。
笹原は俯いたまま、黙っている。
両手を膝の間で合わせて、ロウで固めたみたいに動かない。
笹原が自分の目を見ようとしないのが、ただ怖かった。
「あのさ…。」
「何ですか?」


218サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:19:45 ID:???
笹原の声は震えていた。自分の声も…。

もう、上手く笑顔も作れない…。
だって…、笹原さんが笹原さんじゃないみたいで…。
怖い顔で…。私を見てくれなくて…。つらそうで…。
何で…、そんな顔をしているんですか…、笹原さん…。

「俺…。」

お願い…。言わないで…。言わないで…。
また、いつもみたいに困った顔で…、私のことを…。

「俺…、他に好きな人がいる…。」




「その人と…、付き合ってる。一ヶ月ぐらい前から…。」


「真剣に付き合ってる…。」




「だから…、俺と別れてほしい…。」


「……………………ごめん。」


219サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:20:40 ID:???
笹原は、目にかかる前髪の隙間から、荻上を見た。言い終えたから、見れた。
それでも、顔を直視する勇気は出なかった。
忙しなく行き来させる視線が、荻上の顔を何度も通り過ぎていく。
荻上は何も言わないで、テーブルの上の一点を凝視していた。まるで釘で打ちつけたみたいに、
そこだけをぴくりともしないで、見ていた。

かける言葉が無かった。
いっそ、このまま部屋を飛び出してしまいたい。でも、それじゃあまりにも勝手すぎると、笹原は思った。
言いたいことだけ言って、彼女を放って逃げるなんて…。
でも、それ以上に酷いことを、自分はしているんだ…。
本当にどうしようもなく残酷なことを…。
「荻上さん………。」
少しだけ笹原は顔を上げる。
笹原は息を飲んだ。
荻上は、涙を流したまま、ひまわりのような笑顔を笹原に向けていた。
「笹原さん、お腹へってますか? もうご飯にしますね。」
彼女は立ち上がって台所に歩いていく。その声は涙に震えていた。
「今日のは私も初めて作ったんですけど、意外と上手くできたんですよ。」
涙がぽたぽたと、床を濡らす。
「わあ〜、鶏肉が簡単に解れますねぇ〜。我ながらおいしそうだぁ。」
菜の花の色の鍋掴みを嵌めた荻上が、ちょっと大き目のお椀を大事そうに両手で持っている。
零さないように、転ばないように、ゆっくりと歩いている。
笹原は、目を伏せていた。


220サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:21:57 ID:???
お椀が置かれる音がして、顔に湯気の温もりと湿りを感じて。
笹原は言った。
「ごめん、荻上さん…。」
荻上の震えた笑い声が鼓膜を打つ。
「ダメですよ…。ごめんは言っちゃいけないんです…。仲直りしたとき…、そう約束して…。」
言葉は崩れて、言葉になれずに掠れて消えた。
涙がぽたぽたと、お椀の中の波紋に変わった。
「あ…、すいません…。こっちは…私が……食べますから…。笹原さんは私の……。」
「ごめん…。」
笹原にはそう言うことしかできなかった。
「謝らないで下さい…。」
荻上は鍋掴みで頬に滴った雫を拭く。
「笹原さんは…、私のこと守りたいって言ってぐれで…、好きだって…。」
拭いても拭いても、涙は零れ落ちる。
笹原は奥歯を噛み締める。
「冗談なんですよね? 嘘なんですよね?」
荻上は笹原を見る。ぐちゃぐちゃに歪んだ瞳で。
「これからも…、これからも私と居てくれるんですよね…? ずっとずっと…、一緒なんですよね?」


笹原は、言った。

「………ごめん。もう………、無理なんだ…。」


221サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:22:37 ID:???
笹原は自分の表情を押し殺す。歯を食いしばって。顔中を硬直させて。
必死に、心に残る荻上を思う気持ちを殺した。
「サキが好きなんだ…今は…。荻上さんよりも…。」
その言葉を聞いた瞬間に、荻上から表情が消えた。
体中に張り詰めていた行き場の無い力が、いっぺんに切れていた。
「サキ………? サキって…、………え?」
荻上の目が言っていた。
そんなわけない…。そんなはずない…。
笹原が嘘だと言ってくれるのを、願っていた。何度も何度も。笹原に願っていた。
笹原はじっと心を殺していた。
「うん………、今は春日部さんと付き合ってる…。」



「嘘ですよ…。」
「…………嘘じゃない。」
「だって春日部先輩には、高坂さんが…。」
「高坂君には、もう言ったんだ…。サキとのこと…。」
荻上は表情の消えてしまったまま、笹原を見ていた。

サキ、と笹原さんは春日部先輩のこと読んだ。

「私のこと………、名前で呼んだことなんか一度もないのに………。」


222サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:23:12 ID:???
もう、頭の中には何もなかった。
何も浮かばなかったし、何も考えられなかった。
ほんのちょっとまで幸せでいっぱいだったはずなのに。それが今は全部なくなってしまって。
それが自分で。
笹原さんが言っていることが分からなくて。
春日部先輩が、笹原さんを私から奪って。
私はひどい人間で。
ひどいことした人間で。
それでもやおいを辞められなくて。
でも、笹原さんは私を好きだって言ってくれて。
皆も応援してくれて。
春日部先輩も応援してくれて。
笹原さんは私を受け入れてくれて。
私が書いたやおいのイラストを見ても私が好きだって言ってくれて。
私も笹原さんが好きで。
ずっと一緒に居たくて。
でも笹原さんは、もう私とは一緒に居たくなくて。

ただ耳鳴りのように、嘘だ、嘘だ、って声がしていた。


気が付いたら、また走り出していた。悲鳴を体の中に押し込めて。
机の上に膝を乗せていた。
トレス台も、ペンも、インクも、床に散らばった。
書きかけの原稿。飲みかけのジュースも床に散らばった。
鉛筆削りから、削りカスが零れて。
電気スタンドが机と家具の隙間に不恰好に挟まって、痛々しく鳴いた。


223サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:23:55 ID:???
窓の外は真っ暗。ガラスに映った自分の顔は、歪んでよく見えなかった。
そして一瞬で消えた。
生温かい外の空気。
身を乗り出す。
アルミサッシが脛に食い込んだ。

不意に、体が止まった。
前に飛び出そうとしても、それ以上進めない。
何かに掴まれて、体が前に行ってくれない。飛び出せない。
荻上の頬を涙が伝った。

嬉しい。誰かが自分を引き止めてくれた。
自分をしっかりと掴まえてくれた。
笹原が自分を掴まえてくれた。
そう思った。


振り返ったとき、笹原は部屋の向こうにいた。
自分に手も触れられない場所で、ただ自分を見ていて…。
エプロンの裾が、机の角に引っかかっていた。
それだけだった。

何も言わずに笹原が出て行く。
荻上は、机の上でそれを見ていた。
目に光はもうなかった。


224サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:24:38 ID:???
重力に身を任せて、坂道をとぼとぼと下る。
住宅地には不必要なほど広い道幅に、規則的に点る街灯。
使い古した灯りが、はるか向こうまで続いていた。
夏服の学生のグループが車通りの少ない道いっぱいに広がって歩いている。
その後ろで、ベルを鳴らすでもなく、疎ましそうな顔をした主婦が自転車をこいでいた。
自転車のハンドルの間には子供用シートがあって、子供がまんまるの頭に白い赤い縁取りの帽子を被っていた。

笹原はその道を歩いた。
顔は伏せていた。大の男が泣きながら歩いているのは、変だろう。
学生なんかに見られて、コソコソ話で笑われるのは御免だった。
やっぱりな、と笹原は思った。
やっぱり、最低の気分だった。
荻上はもっとだろう。
悪いのは自分のクセに、一番傷ついたのは彼女だ。
俺が傷つけた。
そのことばかり考えていた。

ふと、道端に立ち止まっている人影が目に入った。街灯の下に、大きな旅行カバンがあった。
膝丈のスカートから覗いた足は、寂しそうにぴったりと揃っていて、淡いピンクのペディキュアが
見慣れたミュールに包まれていた。
「カンジ。」
笹原は顔を上げた。涙で濡れた頬が、薄暗い灯りを映して光った。
「へへ…。タクシー乗って来ちゃったよ…。」
微笑む咲は、綺麗だった。でも、目は少し赤くて、手にハンカチを握っていた。
笹原は咲に微笑んだ。さり気なく涙を拭いて。
荻上のことで、咲を不安にさせたくなかった。
「荷物とって来たの…?」
「うん………。」


225サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:25:14 ID:???
「………そっか。」
「うん………。」
笹原はどう言っていいか分からなくて、結局、そのまま言ってしまった。
「全部話してきた…。サキとのことも…全部…。」
「………うん。」
咲は目を伏せて、小さく呟く。
「荻上…、何か言ってた?」
笹原はできるだけ淡々と言った。
「………泣いてた。」
「だよね…。」
咲は視線を落として、弱弱しい自嘲を漏らした。それは仄かな灯りの中で、瞬く間に消えていった。
アスファルトに黒い点が落ちた。一つ、また一つと。
咲は顔を上げる。
「はは…。かっこ悪いな…。」
笹原は涙を零しながら笑った。精一杯の困った笑顔で、咲に微笑む。
不器用に涙を拭いても、後から後から涙は溢れてアスファルトに滲む。
咲は一瞬、顔を泣き出しそうに歪めて、笹原を抱きしめた。
ぎゅっと、笹原を包み込んだ。
「大丈夫…。私も一緒だから…。」
自分の頬を、笹原の頬に重ねる。涙で咲の頬も濡れた。
「今日…、部屋に高坂が来たんだ…。」
「…………。」
「高坂…、一緒に居てって泣いたんだよ…、私の前で…。今まで一度も泣いたことなんかなかったのに…。」


226サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:25:46 ID:???



その時、咲は。
何も言わなかった。
咲は旅行カバンを手に取る。キャスターがゆるゆると床の上を転がっていった。
高坂の横を、何も言わずに通り過ぎていった。
「じゃあね…。」
バタンとドアが閉まった。
ドアの隙間から零れた灯りが、高坂の影を貫いていた。



咲の涙が、笹原の頬を流れる。声の振動が、心の奥まで揺らした。
笹原はゆっくりと咲の腰に手を回した。
「大丈夫だよ、カンジ…。私も一緒だから…。」
それは自分に言い聞かせているのだろう。応えるように、笹原は強く咲を抱きしめる。
ずっと一緒にいると、応えるように。


227サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:26:55 ID:???
「アニキッ!!」
悲鳴のような叫びがこだまして、二人は弾かれたように声の方向に視線を走らせる。
掠れたセンターライン。
恵子が立っていた。ゼェゼェと息を乱して大粒の汗に肌を光らせて、
薄手のキャミソールの裾が、太腿にぴったりと張り付いていた。
蒼褪めた顔に、目は見開かれていて、唇はわなわなと震えている。
その後ろからフラフラになって付いて来る斑目と大野の影が見えた。
「なあ………、ナニしてんだよぉ………。」
恵子はゆっくりと二人に近づく。
笹原と咲は、目を逸らした。
「なあ………、アニキッ!!」
恵子の両手が、兄の両肩を掴む。
失望と絶望と、一縷の願いを込めた瞳が、笹原を責めていた。
「どうなんだよッ!!」
「ちょっと恵子ちゃん! どうしたの!」
追いついた斑目が取り乱した恵子を笹原から引き離そうとする。
恵子はただ笹原の顔を睨んで、それを拒んだ。
笹原が呟く。
「いいんす…。斑目さん…。」
「は? 何がだよ?」
そのとき、斑目は笹原が泣いているのに気づいた。
そして、笹原の影に佇んだ咲に気づいた。
咲は片手で口を抑え、目からは涙が溢れていた。
「あれ………? なんで…? 春日部さん…?」
咲は何も言わない。ただ手で嗚咽が漏れるのを堪えている。
斑目の手から、力が抜けていった。
「ちょっと…、なんだよコレ…。」
斑目は笑いながら笹原を見た。


228サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:27:31 ID:???
笹原と春日部さんが一緒に居て、二人とも泣いているなんて、悪い冗談としか思えない。
いや、もう頭が混乱して、どうしたらいいのか、斑目には分からなかった。
「おい笹原…。どうなってんだよ…?」
引きつった笑みを笹原に投げかける。
笹原は目を逸らしたまま、言った。
「荻上さんと別れました…。」
「は?」
笹原は搾り出すように言葉を続ける。
「付き合ってるんです…、俺たち…。」
斑目は、ゆっくりと咲に視線を移した。咲は笹原の肩にしがみ付いていた。
一瞬、咲が上目遣いに斑目を見た。
その目は涙で潤んで、可愛らしくて、全てを物語っていた。
「冗談だろ…。」


「なあ…、笹原…。」


笹原は無言で応えていた。
斑目の両手が、笹原の胸倉を掴む。
「ふざけんなテメーーーーーーー!!!!!!!!!」
壁に笹原の背中を打ち付ける。
それでも笹原は小さい呻きを漏らしただけで、何の抵抗もしようとしなかった。
全てが本当のことだった。
「おまっ! 何やってんだよっ!!! 荻上さんと付き合ってんじゃねーのかよっ!!!」
今まで生きてきて一度も出したことのない声を笹原にぶつける。
振るったことのない力を笹原にぶつける。
「何だよソレっ!! あんだけ俺らの気ィ揉ませといて! 勝手に別れたとか言ってんなよっ!!」


229サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:28:37 ID:???
斑目は睨みつけながら、怒りに奮える自分の醜さに失望していた。
荻上が可哀想なんじゃない。ただの醜い嫉妬なんだ。
自分では手に入らなかった幸せを手にしながら、それを捨てて、
自分では手に入れられなかった春日部さんを…。
情けなくて涙が出た。
見苦しい、最低の感情を笹原にぶつけている。
それが分かっているのに、どうしようもできなかった。
「やめてよ! 斑目!」
咲が斑目の腕に取り縋る。
咲が自分の腕に触れている。ずっと好きだった人の手が。
笹原を守るために。
「うっせー!!!」
咲の手を払いのける斑目。
困惑した咲の表情に、斑目は唇を噛んだ。
「なんでだよ…、春日部さん…。」
「斑目…。」
「春日部さん…、そんな女じゃないだろ? 人の彼氏奪うような…、そんな女じゃねーだろーがよ…。」
哀願するよな目で、斑目は咲を見つめていた。
「もっと…、ずっとずっと、すげーカッコいい…、すげーいい女だろーがよ…。」
斑目の悲鳴のような声は、静まり返った道路を照らす街灯のように、淡く寂しく響いた。
咲は、目を伏せていた。
「ちがうよ…。」



230サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:29:17 ID:???
「私、こんななんだよ…。立派でもない…。カッコよくもない…。バカで…、弱いんだよ……。」
斑目は、ぐちゃぐちゃになりそうな表情を必死で繋ぎ合わせた。

「こんな最低な女なんだよ………。」
「そんなわけねーよ! そんなの…、俺の知ってる春日部さんじゃないよ!」
「斑目…、私のことなんて何も知らないでしょ…。」


乾いた音が、咲の頬を打った。


斑目は驚いて呆然としている。
恵子の掌が、咲の頬を打っていた。
「ふざけんなよ………。何にも知らないで………。」
恵子の泣き腫らした目が、鋭く咲を睨んでいた。
「斑目さんも、アタシも、どんな気持ちでいたか…、何にも知らないくせに………。」
呆然として、咲も、笹原も、立ち竦んでいた。
「アタシ…、憧れてたんだよ…。ねーさんのこと…。ずっと…、ねーさんみたいになりたいって…、ずっと思ってたんだよ…。」
恵子はバッグから財布を取り出すと、中にあった紙幣を握り締めて、
咲の投げつけた。
「バイトなんかもう辞める! ねーさんみたいになんか、もうなりたくない!」」
恵子は顔を両手で覆い隠した。でも、もうそんなことで感情を抑え付けるのは、無理だった。
「ふざけんな…。ふざけんなぁ………。ふざけんなよぉぉ……。」
身を切るような声で、恵子は泣いた。
笹原も、咲も、何もできずに、それをただ突っ立って、ただそれを見ていた。
それしかできなかった。


231サマー・エンド-終- :2006/04/25(火) 00:30:12 ID:???
恵子の肩を大野が優しく抱き寄せる。腕一杯に泣きじゃくる恵子を包み込んだ。
「行こ…。………ね?」
大野の腕の間で、恵子は小さく頷いた。大野はゆっくりと恵子の背中を擦る。
母親のように、恵子の嗚咽をなだめていた。

恵子を抱きしめたまま、大野は荻上の家の方向へ歩き出した。
「行きましょ、斑目さん。」
「ああ……。」
斑目は俯いたまま笹原と咲を一瞥して、大野たちの後に続いた。
背中に影を落として、革靴はずりずりとアスファルトに削られていた。
「笹原さん、咲さん。」
そして大野が、前を向いたまま二人に言った。
「もう部室には来ないで下さい。できれば大学にも。」
それはきっぱりとした口調だった。
それは決別の言葉だった。
「私は二度とお二人には会いたくないです。」
やがて大野たちは夜の向こうに消えていった。

誰もいなくなった道の片隅で、二人は街灯に照らされていた。
明かりの中に閉じ込められたように。
たった二人だけでそこに居た。お互いの手を決して離さぬように握り合って。



終わり

エピローグへ


232サマー・エンド-エピローグ- :2006/04/25(火) 00:31:32 ID:???
四年後―――――――
(脳内で『ラブストーリーは突然に…』を流して下さい。)

コミフェスのコスプレ広場は今年の夏も活況を呈している。
カメラを手にした全国津々浦々から集ったオタクたちが、彼女たちを取り囲んでいた。
彼女たちの今回のコスは某吸血鬼漫画のキャラたちである。
旧姓大野こと田中加奈子は吸血鬼化してしまった執事。
アンジェラは本物の吸血鬼として覚醒した婦警(片手はくるくるの真っ黒な着ぐるみ)。
スーは本編の外伝に登場した幼女の伯爵。地球温暖化の進んだ夏には辛そう衣装なのに、顔色一つ変えていない。
そしてもう一人、シスターのコスをした女の子が恥ずかしそうに加奈子の足にしがみついていた。
「へぇ…。田中さんとこってもう子供いたんだね。」
人ごみの一番外側に、バックパックとキャップ姿の笹原が居た。
「いくつなんだろ? 3つくらいかな?」
「そーだね。大野が卒業した翌年に結婚したはずだから、そのくらいだろうね。」
咲は長く伸びた髪をアップにまとめていた。
咲はつま先立ちに、加奈子の足の隙間から見え隠れするチビッコに目を凝らした。
まだ掛け慣れないメガネを持ち上げる。
女の子はチラっと顔を覗かせては、カメラのフラッシュに怯えている。
思わず笑みが零れた。
田中から『結婚しました』という葉書が届いた時は嬉しかった。
純白の衣装を纏った二人の写真。その上に田中のメッセージが添えられていた。
『式に呼べなくてスマン。大野さんはまだ怒ってる。これも送ったとバレたらマズイので、
 お祝いとか気にするなよ。お前らも早く幸せになれ。』
そして最後に誇らしげに。
『ウエディングドレスは俺の手作りだ!』
と、あった。
それで少しだけ救われた。


233サマー・エンド-エピローグ- :2006/04/25(火) 00:32:14 ID:???
「行こっか。」
「うん。」
二人は会場の中へ歩き出した。笹原の指がカタログのあるページに挟まっている。
『ゆ』のページ。
サークルカットは『ハレガン』の大佐のキメ顔だった。

懐かしい筆頭が人ごみの向こうに見えた。
緊張に耐えかねて、笹原がこぼす。
「うわ………、帰りてぇ………。」
「同感………。」
それでも着実にそこに近づいていく。今日はそのためにここに来た。
あれ以来、一度も行かなかった夏の同義語のイベントに。
「荻上さん………。」
彼女は昔のままの姿でそこにいた。
Tシャツの上に一枚シャツを羽織ったファッション。そしてトレードマークの髪型。
そしてちょっと不機嫌そうな顔。
これは本当に不機嫌なのかもしれないと思った、でも。
「わ! ほんとに来ましたね。」
二人に気づいた荻上は、照れ臭そうに笑ってくれた。
それは嘘かもしれないけど、二人に優しい嘘だから、
やっぱり荻上は笹原と咲が仲間だった、あの頃のままだった。
「どうも…………、こんちわ………。」
「荻上…、久しぶり………。」
笹原も咲も、躊躇いながら、ぎこちなく笑っていた。
荻上の目が、二人をじろりと見つめる。
笹原の帽子の隙間から覗いた茶色い髪を荻上は目ざとく見つけた。
「髪、染めたんすね…。」
隠すために帽子を被ったわけじゃなかったけれど、何となくそれは見られたくなかった。


234サマー・エンド-エピローグ- :2006/04/25(火) 00:32:52 ID:???
「まあ……、何となくね…。」
笹原はどうにか間を持たせたくて、目の前の本を手に取る。
「これ荻上さんが描いたの?」
「そうですよ…。新刊です。」
「………………見ていいかな?」
荻上は少しだけ顔をしかめる。
「別にいいですよ。呪われますけど…。」
二人は苦笑いで動揺を誤魔化した。冗談なのか、本気なのか。
そんな二人を見て、荻上は意地悪そうに笑う。
笹原と咲はほっとため息をついた。
そして本の中身を見て、息を飲んだ。
「荻上………、ほんとにコレ書いたの……?」
「さらに腕を上げたね………。」
「まあ…、アシスタントで随分鍛えられましたからね………。」
「いや、画力だけじゃなくて………、うわ! このページの大佐………。」
「リアルハードコアだね………。」
本を閉じて、呼吸を整える二人。頬はほんのりと赤い。
「いや〜………。」
なんと言ったものか…。
「大佐って受けだったんだね…。」
言った側から後悔した。
荻上は気にも止めてない風に淡々としている。
「まー…、ちょっとしたチャレンジです。」
「そうなんだ…。」
咲は軽く眩暈を覚えていた。
「今はアシスタントしてんだね…。」
「ええ。田中さん言ってなかったんですか?」
笹原たちが聞いていた荻上の近況は、大学を中退したということだけ。
その後の荻上について、田中は話すのを避けているようだった。


235サマー・エンド-エピローグ- :2006/04/25(火) 00:33:31 ID:???
今思えば、編集者である笹原に気を使ったということなのだろう。
「もともと大学は田舎を出る口実でしたから。やりたいことできるなら、卒業とかどーでもよかったんです。」
そう言った荻上の表情は、強く、凛としていた。
笹原は小さく鼻をすすった。
(やべ………、泣きそうだ………。)
目を瞬かせる笹原。
あれから荻上はしっかりと、自分を失わずにいてくれたことが、嬉しかった。
ずっとそれが気がかりで、申し訳なくて、自分たちが幸せになることにも罪悪感を感じていた。
悪いのは自分たちだと、そう思うことで逃れようとしたこともあった。
でも、そんなのただの偽善でしかない。ただの恋愛の終わりだと、割り切った。
そのつもりでいた。だがそれでも、心のしこりは消えなかった。
笹原を見上げて、荻上は言った。
「笹原さん………。」
急に荻上が神妙な声を発した。
笹原と咲に緊張が走る。
「昔の女が、いつまでも自分のこと思ってる…。なんて考えてたんですか?」
荻上はそう言って笑った。目は眩しいくらいに輝いている。
笹原の体からスッと力が抜けた。
「はは……、ビバップだね……。」
咲が怪訝そうに尋ねる。
「ビバップ?」
「いや………、一昔前のアニメネタ………。」
咲は、もう慣れたよ、といった体で笑った。
それを見て、荻上も微笑んでいた。
「春日部先輩もメガネ似合ってますよ。」
「はは……あんがと。急に目に来ちゃってね…。」
「コンタクトじゃないのは笹原さんの趣味ですね。」
「いや………、まあね…………。」


236サマー・エンド-エピローグ- :2006/04/25(火) 00:34:17 ID:???
笹原は自然と出た苦笑いに安堵していた。正直、こんな自然に話せるとは思っていなかった。
自分たちがしたことを考えると、罵声を浴びせて追い払われても文句は言えないだろう。
それなのに、何事もなかったように迎えてくれた。
申し訳ない気持ちで、胸が詰まった。
「って言うかもう春日部じゃなかったですね。」
荻上の言葉に、二人はドキっとした。それを言うために、今日はここに来ていたから。
あの時の犯した罪に対する、けじめとして。
笹原は、上手く動いてくれない口を拭うように触った。
無意識に、咲の手を握っていた。
「まあ…、田中さんから聞いたと思うけど…。籍入れたんだ、俺たち。」
二人は荻上に視線を落とす。
荻上は、一際輝いた笑顔を二人に見せていた。
「おめでとうございます。すいませんね、式に顔出せなくて。」
「まあ…、実際来てくれたの恵子と斑目さんぐらいだったからね。それも身内のよしみだし…。」
「皆さん義理堅いですねぇ。もう昔の話だって言ってんのに。」
「あの二人の披露宴には出てあげてよ。俺たちは式だけ出てすぐ帰るから。」
「だ〜か〜ら〜、やめて下さいって。」
二人は微笑んでいた。
ああ、この人は本当に強くなったんだと、二人は思った。
それは自分たちのしたことのせいかもしれないと思うと、胸が痛いけど。
その罪は一生消えないけれど。
身勝手であることは分かっているけど。
ただ荻上が笑っていてくれたことで、救われていた。

「そうだ! 指輪、見せて下さいよ。」
華やいだ荻上の声に、二人は照れながら左手を揃える。
プラチナのシンプルなリングが、薬指に光っていた。
「いいなあ…。」
小さく荻上は呟いて、二人は微笑んだ。


237サマー・エンド-エピローグ- :2006/04/25(火) 00:35:01 ID:???
ふと、笹原は荻上の隣に座っている男性が目に入った。色白の、少し頼りなそうな風貌の。
笹原も咲も知らない人だった。
「もしかして彼氏?」
咲が思わず聞いた。笹原はあちゃーと思ったが、荻上は満面の笑みで応える。
「そうですよ!」
これには当の男性の方が驚いていた。
「そっか…。」
全く、男というのは本当にどうしようもないな。
ちょっとショックだった自分に、笹原は自嘲を漏らした。。
「言えた義理じゃないけど…。お幸せに…。あ、そうだそうだ。本のお金…。」
「いいですって。あげます。」
それじゃ、と言って二人は軽く会釈する。
荻上は小さく手を振った。

とそのとき、笹原と咲の前に夏には有り得ないロシア風の帽子とロングコートの人物が立ちはだかった。
スーだ!
「あ…、ども…。」
ビビる笹原をよそに、スーは拳を握り、自身の耳元でそれを構えた。
「AAAAAAAAAA――――――――。」
呻き声を上げて、金髪を靡かせて笹原に歩み寄るスー。
(はっ……、これは!)
「ぬんっ!」
見事なボディーブローが笹原の臓腑を貫いた。
「がッ、はア。」
悶絶する笹原を、咲が支える。
「!?」
荻上もイキナリの攻撃にドキマギしている。


238サマー・エンド-エピローグ- :2006/04/25(火) 00:35:37 ID:???
スーは笹原の眼前に立ち、掛けてもいないメガネを直す仕草をした。
「行ケ、サッサト行ケ。夏コミノ『シンカン』ダ。モッテ失セロ。俺ガ貴様ラヘノ殺意ヲオサエラレテイルウチニダーーー!!」
スーは見えないバヨネットで十字を作り、キメた!
「うう………、アンデルセンだね…。」
「は? 童話がどうしたの? アンデルセン童話も本当はこんなにバイオレンスなの?」
「いや………、そうじゃなくて………。ま、いいや………。」
よろよろと立ち去る笹原を、スーは鼻息をふーーーんとして見送った。

「スー!! 何やってんの!」
荻上の怒声にブー垂れるスー。しかし表情はやり切った顔をしている。
荻上は恥ずかしそうに、席に着いた。
「アレくらいとーぜんですよ!」
「ひっ!」
突如背後に出現した大野に荻上は悲鳴を上げた。
大野は疲れて寝てしまったあの子をあやしている。
「荻上さん、優しすぎますよ。あんなゴミ野郎は刺してやればいいんです!」
「見てたんですか! つーか子供抱いたままそーいうこと言わないで下さい!」
「私が知らないとでも思ったんですか? ウチの旦那はとっくの昔に自白済みです。」
荻上はポリポリとわざとらしく頬を掻いた。
結婚してからの加奈子は裏と表が逆になっていたのを失念していた。
「ヌカった…。」
落ち込む荻上を見て、加奈子は大きなため息を漏らした。
「漫画以上に…、嘘が上手くなりましたね、荻上さん。」
「…………。」
「何が彼氏ですか。実の弟つかまえて。」
隣で弟君が、バツが悪そうに小さくなっている。
「俺も焦ったよ。ねーちゃんがイギナリ彼氏とか言い出すんだもんよ。」
「うるさいなーー! おめーはだまっでろ!」
口を尖らせる荻上に、加奈子はさらに大きなため息を浴びせた。


239サマー・エンド-エピローグ- :2006/04/25(火) 00:36:13 ID:???
そして、真剣な目をして荻上に言った。
「ほんとに良かったんですか…、何も言わないで…。」
「いいんです!」
「良くないでしょう? 大学辞めて、子供まで産んだのに!」
大野の言葉に、荻上は顔を真っ赤にしてうぅーーと唸った。
「一人で産んで育てて。あのクズはそんなの何にも知らないんですよ。父親のくせに!」
「いいんですよ。」
「お金ぐらいフンダくってやればいいじゃないですか! 何なら私が…。」
「いいんですよ…。もう昔の話なんですから…。」
荻上は立ち上がって、寝息を立てる子供の頭を優しく撫ぜた。
「私、幸せなんですよ? この子と二人で…、今すっごくすっごく幸せなんです。
 この子が歩いたり、喋ったり、遊んだり、泣いたり、笑ったり、それ全部独り占めできるんですから。」
大野の胸から、荻上は子供を抱き上げて、全身にその心地良い重みを受け止める。
「こうしてるだけで、本当に幸せな気持ちになれるんです。頑張ろうって思えるんです。」
照れ臭そうに笑う荻上に、加奈子は瞳を潤ませた。
「嘘ばっかり…。一(ハジメ)なんて、未練タラタラの名前付けたくせに…。」
「今は違うんですよ!」
反論する荻上の口を塞ぐように、加奈子は全身で荻上を抱きしめた。
「子守ぐらいなら、いつでも言ってくださいね。」
「ありがとうございます。でも…、コスプレはやめて貰えませんか?
 特に女性キャラは…。ハジメも男の子ですから…。」
「………すいません。それは却下で…。」
大野の胸に、荻上が微笑んだ感触がした。
「しょうがないなあ………、ほんとに………。」
荻上はそう言って、筆のように結った髪を解いた。
そのときに、夏に始まった恋が終わった。


終幕


240サマー・エンド〜あとがき :2006/04/25(火) 00:43:54 ID:???
はあ〜〜〜〜。
終わった・・・。ほっ・・・。

何とかアフタ発売前にと頑張ったんですが、ギリギリで間に合いました・・・。

あ〜〜〜、ようやっと鬱展開から解放されたあ〜。
もう鬱には懲りました。もう二度とこの道は歩むまい。

エピローグはちょっと昼ドラみたいになっちゃってアレなんですけど、
こうしないとサマー・エンドってつけた意味が分かんなくなってしまうので、
どうかご勘弁願いたい・・・。

実はこの後、偶然出会った笹原とハジメ君が遊ぶ姿見た荻上が…
という第二部を当初は目論んでいたのですが。
もうそんな気力ありませんでした。

やっぱりラブいのが良いですね・・・。ラブいの書きたい!

長々と駄文と愚痴に付き合っていただいてありがとうございました。
読んでいただいた全ての方に感謝いたします。

241マロン名無しさん :2006/04/25(火) 01:02:19 ID:???
>サマーエンド
おお、完結したのですね 乙! 感想レスは書いてませんが、シリーズは
ずっと読んでました。シリーズ物が並行して何作も投下されているので、
(それぞれ重厚な世界観作っているので混乱するから)まとめに収録されて
から読んでました。ラストだけちらっと見てしまいました。そこに至る過程を
後日ゆっくり鑑賞させていただきますw

>まとめの中の方 
そんなわけでとっても助かってます 

242マロン名無しさん :2006/04/25(火) 01:03:11 ID:???
>サマー・エンド

お疲れ様です。
感情的な高坂と本編クライマックスの恵子登場以降は
なんというか読んでて心が締め付けられるような切ない展開。
完全に引き込まれました。

エピローグに高坂がいない(出てこない)のが気がかりで…
彼は幸福な日々を送っているのでしょうか…

243マロン名無しさん :2006/04/25(火) 01:27:47 ID:???
>偽らざる者
オギーポップ!のナカジ!…いいビジュアルだなあ…黒いルージュが…
次回予告が気になります。斑目!
>サマーエンド
おおお…乙です。
高坂が引き止めるシーンいいですね。
最後が日常的にまとまってるのも…
エピローグに斑目が出てこないのが気がかり(ry 悲しいヨ…斑目の叫びが…

244マロン名無しさん :2006/04/25(火) 01:32:24 ID:???
>>サマー・エンド
なんかもう、絶望する空気感とかマザマザと蘇りまくりました。
それでわなわなと震えながら読んでました。
長編、乙でした!そして、読み終えて、これもアリだなと思いました。GJ!

245マロン名無しさん :2006/04/25(火) 01:34:32 ID:???
おつかれさまです。
…今はこれしか言えません…orz

246マロン名無しさん :2006/04/25(火) 02:26:52 ID:???
>サマーエンド
むはー、読んでてキツイわー。
しかしまあ、一つの作品として、あり。乙でした。
ノリ的には連ドラちっく。まさにラブストーリーは突然にとか
部屋においでよ思い出したのです。
でもね、こういう人はね、
きっと逆にラブラブ書いたら書いたで反動で物凄く甘々になるんだ。
ラブラブ・・・期待していいですね?w

247マロン名無しさん :2006/04/25(火) 11:52:03 ID:???
>サマーエンド
絶望…しようと思ったんだが、中盤までは。
最後まで読んだら練炭どうしていいか分からなくなって、また叩き割っちゃいました。
後始末が大変だ。

〆切ギリギリの入稿、お疲れ様でした。

248マロン名無しさん :2006/04/25(火) 20:04:13 ID:???
>サマーエンド
鬱な話でしたが、最後のエピローグには救われる思いがしました。感情、情景の描写がとても素晴らしかったですハイ。

子供!子供ォ!
リアル妹が子持ちで別れた身としては、この話の笹原には一切の同情を感じない。荻上には悪いが、きゃつは万死に値する。

でも、そーいう時の女(母)は確かに強いし明るいし、たくましい。夏の終わり、あのエピローグは荻上が一つ成長した証を見せてくれたと思いたい。
皆の助けを受けてがんがってほしいなと。

そして、斑目の感情の爆発は、読んでいて胸が締め付けられるようだった。笹原に向けた叫びと裏腹に、醜い自分の嫉妬を責める姿は、何度も読み返しました。

乙です!

249マロン名無しさん :2006/04/25(火) 20:28:28 ID:???
>>サマーエンド

確かに欝展開できつかったけど
(特にオギーに別れを切り出したとこは辛過ぎて
一気に読めなかった)、面白かったです。

乙。

でも、もうちょっと笹原と春日部さんのラブい話は読んでみたいかも

250サマー・エンド〜あとがき2 :2006/04/25(火) 22:38:17 ID:???
ふぅ〜…皆様の絶望が何よりのほうびですなあ
どうも感想ありがとうございます。
辛い鬱展開も皆様の感想を励みに頑張れました(泣)!

>>241
ありがとうございます。
漸く完結できました。長かった、ていうか長すぎですね。
書き始めたのはスレ5の頃だったような…。
もっとちゃっちゃと書かんといかんです。

>>242
ありがとうございます。
高坂君は、前の回だけでは、まだ書き切れてなかったので、
こっちにも御登場願いました。お陰で更にツライ目に合わせて…。すまん。
高坂君のその後は…。たぶん元気なんじゃないですかね…。すまん。

>>243
ありがとうございます。
高坂の描写は結構迷いました。彼は本当に難しいです。
原作のキャラでなく、好きなように書いてしまおうと、腹くくって書きました。
斑目さんは、一応恵子と結婚する予定。笹原が言ってる「あの二人の披露宴…」
というのは、斑目さんたちのことなんですよ。分かりにくいか…。

>>244
ありがとうございます。
アリですか! そう言っていただけると苦悶した甲斐があります。
しかし、人を呪わば穴二つ。その意味が今回分かりました。ストレスが凄かった…。
やっぱり笹荻はいいですよ…。
この二人を別れさせるのは本当に辛かった…。
笹原はともかく、荻上さんに申し訳なかったです…。

251サマー・エンド〜あとがき3 :2006/04/25(火) 22:39:44 ID:???
>>245
ありがとうございます。
もうそれだけで十分です。読んでいただいて感謝!

>>246
ありがとうがざいます。
いきなり数年後に飛ぶといえば『東京ラブストーリー』、ってもう古いか…。
ラブラブ苦手だから、鬱に逃げたんですけど、逃げる道を間違えました。
王道は大事です。

>>247
ありがとうございます。
絶望先生に会えなくてちょっと残念だ…。
〆切に間に合って良かったです。今月号読んでたら、また書けなくなっただろうし。
いつも感想ありがとうございました。

>>248
ありがとうございます。
子供はちょっと爆弾でしたかね…。エピローグ付けようかどうかかなり迷いました。
でも、荻上さんが一人じゃ寂しいしなあ。なんか子供抱いてる画が浮かんじゃった
んですよね…。目が大きくて、絵が上手くて、ちょっと顔が下膨れのハジメ君。
もっと彼を書きたかったです。

>>249
ありがとうございます。
いやあ、嬉しいです。こういうのは特に嬉しいなあ。自分の書いた物に感情移入して読んでくれるなんて、感激です!
笹咲をあんまりラブくすると、私が罪悪感で死んでしまうので無理でした。
でも、笹咲を書くのなんて最後かもしれないから、ラブラブさせとけば良かった気もする。

改めて、感想ありがとうございました。


252マロン名無しさん :2006/04/25(火) 23:13:42 ID:???
ちょいと小物を投下。
4レスです。

253BLUE MONDAY :2006/04/25(火) 23:14:25 ID:???
「じゃ、行って来るね。」

そういって、あなたは出かけて行く。
今日は月曜日。
昨日二人で過ごした時間も、まるで夢のように感じられる日。
しょうがないことは分かってる。
でも、気分が落ち込んでしまうのは仕方が無いんだ。
まだ、片思いだった頃。
そばにいるだけでどきどきしていたあの頃。
それに比べれば、なんて贅沢なんだろうとは思う。
それでも・・・仕方無いんだ。

ピロリロッリロー、ピロリロッリロー・・・

メールだ。

パカッ ピッピッ

『ごめんね。』

・・・分かってたんだなあ・・・。私の気持ち。
また迷惑かけてる。
いつも、あの人の言葉は私を強くしてくれる。
返事をしよう。謝って、私は大丈夫ですって。

254BLUE MONDAY :2006/04/25(火) 23:15:16 ID:???
「じゃ、行ってくるよ。」

そういってあの人は出て行く。
今日は月曜日。
今日から一週間ほど会えない。
分かってはいたけど、納得できるものでもないんです。
・・・あの人が頑張ってる姿は、私に強い気持ちを与えてくれますけど。
長い時間会わない事が多くなってきた。
彼が大学生だった頃には無かったこと。
それだけ、会っている時間を大切にしようとは思っているんですど・・・。
納得できないのは、仕方が無いことなんです。

ガサガサ・・・・。

「素敵・・・。」

今日あわせてみようと思っていた服をみる。
みれば見るほど、あの人の腕と、愛情を感じる。
・・・そうか、悩む必要なんてなかったんですね。
こんなにも愛されているのに、私はいつもそう考えて。
今度会えたときには・・・ウフフ・・・。

255BLUE MONDAY :2006/04/25(火) 23:16:02 ID:???
「じゃ、行ってくるね」

そういってあんたは出て行く。
今日は月曜日。
また会社で缶詰だって。
学生を縛り付ける会社って・・・どうなのよ?
それでも、楽しそうに仕事に向かう姿見ちゃうと・・・。
許せちゃうんだよな・・・。
また何ヶ月も会えないんだろうな。
私も忙しいから、問題ないって言えばないんだけどね・・・。
それでも、やっぱり寂しい時は寂しいよ。仕方無いんだ。

パカッ。ピッ・・・。

いつものようにノートパソコンの電源を入れる。

「あれ?」

そこには、いつもと違うデスクトップ。
日付と・・・なんだろうこれ。メッセージボックス?あ。

『ずいぶん会えないけど、毎日メッセージが出るようにしたから。』

・・・かなわないなあ。こんなもの仕込んでるんだもん。
自分の好きなこと、一生懸命やんな。頑張ってね。

256BLUE MONDAY :2006/04/25(火) 23:16:49 ID:???
「いってきまーすよっと。」

そういって俺は出て行く。
今日は月曜日。
日曜日に一人、自分の世界に浸っていた俺を現実に引き戻す日。
昼。会社から、いつもの部室へと。
何のために行ってるかなんて、言うまでも無い。
荻上さんに・・・、大野さん。

「おっ?」

珍しく春日部さんがいるじゃないか。ラッキ。
それにしても・・・。三人とも顔が明るいなあ。
笹原は一週間ぐらい泊り込み研修だって聞いたし、
田中もなにかのイベントに一週間ぐらい遠出って言ってたし、
高坂は高坂でまた缶詰だって言ってたっけ?
当分会えないってのにねえ・・・。強い方々だわ。

「女は強し?ってか?ははっ。」


257マロン名無しさん :2006/04/25(火) 23:41:12 ID:???
斑目… (ノд‐。)スンッスンッ

258マロン名無しさん :2006/04/25(火) 23:45:27 ID:???
>サマーエンド
付き合ってた二つのカップルが別れて片方ずつが付き合う
これって周りから見たらそこまで重大なことじゃないんだよね。
それがここまでの人間劇になってしまうほどげんしけんのメンバーはつながりが強かったってことだよねぇ。
すごく(いろいろな意味で)楽しめて読めました。

>BLUE MONDAY
なんとなくオチが読めたが・・・斑目(泣)

259マロン名無しさん :2006/04/25(火) 23:49:55 ID:???
お、おれ仕事中なんだよね…

2606月号補完 :2006/04/26(水) 00:16:47 ID:???
一応、公式発売日から一日たったし、そろそろいいよね?
ということで、6月号に勝手に台詞つけてみました。
ただし、コマごとに登場するキャラ全員に何がしか言わせて(思わせて)いるので、
ちょっとウザく感じるかもしれません。

2616月号補完 :2006/04/26(水) 00:17:55 ID:???
斑「よう」
笹「あ、斑目さん。こんちわ」
斑「撮影会、これから?」

笹「そうなんですよ。なんか大野さんが張り切っちゃってすごいですよ」
斑「へえ…」

斑「でも、まだ信じられんなあ。『あの』春日部さんの撮影会なんて」

満面の笑みの大野。うなだれる咲

タイトル ”げんしけん”

大「それじゃあ、撮影会は三人だけで行いますので」
笹「はいはい」
斑「あー、そうなんだ」
朽「ブー。はんたーい。ボクチンにも撮らせろー」
荻(咲先輩大丈夫かな…)

荻「じゃあ、行きますか」
笹「そうだね」
斑「ほれ行くぞ」
朽「なんでダメなんですか、ボクチンだってカメラには結構自信があるですよ!」
大「それでは皆さん!撮影後にお会いしましょ〜」
田「ハハ…」

2626月号補完 :2006/04/26(水) 00:19:04 ID:???
荻(あ、鍵かけた)
朽「今回の為に用意したのに…」
斑「どれくらい時間かかるもんかね」
笹「量がすごいですからね。結構かかるんじゃないですか?」

斑「あー、朽木君。諦めてこっち来なさい」
朽(くそー、何とか中を見れないものか…)

朽「大体ですね、自分は『おかしい』と思うのですよ!」

朽「そもそもコスプレというものは、見られる事を前提にやるものであって、一部の人間しか見られない、というのはコスプレの本道から外れていて、特に撮影の意思のあるものを排除するなど言語道断の振る舞いであり…」
笹「あー」
斑「やれやれ」
荻「やっぱりこの人おかしいです」

田「じゃあ撮るよー」

大「咲さん、もっと自然に笑ってください」
咲「無茶いうな」

2636月号補完 :2006/04/26(水) 00:19:58 ID:???

斑(やっぱり見たかったな)

斑(ま、仕方がないか)

朽「ムム!」
笹(あ、終わったのかな)
荻(ようやく終わったんだ)

咲(お〜わ〜っ〜た〜)

大「皆さんお待たせしました〜。撮影会、無事終了で〜す♪」
咲「うぁ〜」

大「咲さん、本ッ当にかわいかったですよ〜」
咲「うう、オギー…助けて…」
荻「だ、大丈夫ですか?」
笹(本当に嫌だったんだなあ)
朽「そ、そうだったのデスカ!?」

大「ですから、もっともっといろんなコスプレに挑戦しましょうよ」
咲「いや、もういいよ、十分。これで最後」
荻(そんな大変だったんだ)

2646月号補完 :2006/04/26(水) 00:21:17 ID:???
大「本当に…これで最後なんですか?」

咲(大野…)

大「本当に…これで…」
咲「二度と会えなくなるって訳じゃないんだから、泣くな」
大「…会いに来てくれますか?」
咲「うん」

荻(…ちょっとうらやましいかも)
笹(やっぱり、仲いいんだなあ、この二人)
朽(ムム、このシーンは撮っておくべきか?)

夜景

荻「まったく、大野先輩のコスプレ好きには呆れます」
笹「確かにすごいよね」

荻「しかも自分の趣味に他人を巻き込んで…」

笹「…ねえ、荻上さん。どっちがいいと思う?」
荻「え?」

荻(人の話をさえぎってそんなこと聞くの?でも、人の悪口を聞きたくなかったのかも…)

荻「…強いて言えば右のほうが似合うと…」
笹「こっち?」

笹「どう?荻上さん」
荻「…いい、と思います」
笹「聞こえないよ〜」
荻「何度も言わせないでください!」

2656月号補完 :2006/04/26(水) 00:23:41 ID:???

斑(コスプレかあ…)

斑(見たかったな…)

咲の写真

朽「ですから、写真だけでも見せていただけないか、と頼んでいるのであります!」

咲「絶対やだ」

朽「我々はぁ、断固としてぇ、写真のぉ、公開をぉ、求めるものでぇ、ありますぅ!」
咲「あー、うるせー」
荻(こいつ本当におかしい)
斑(俺も見たい、とは言えんよなあ)
笹(気持ちはわかるけどね…)

咲「とにかく、あれを見せるくらいなら、裸の写真のほうがまし!」
荻・笹・斑(裸デスカ)
朽「な、なんと!ではそちらを見せて…」
咲「絶対見せねー!」

朽「オオゥ、そんなひどい…見せてくれてもいいじゃないですかぁ」
咲「嫌だって言ってるだろうが!人の話聞け!」
荻・笹・斑(やれやれ)

2666月号補完 :2006/04/26(水) 00:24:30 ID:???
斑(まいった。今回は本当に見れそうにないな)

大「『にいさんにいさん、いいネタありまっせ〜』」

斑「…何やってんの?大野さん」
大「…えーと」

大「ああもう、まったくノリが悪いんですから!」
斑「いや、それは…」

斑「『…で、ブツは何よ』」
大「…何を今更」

大「実はですね、ここに咲さんのコスプレ写真があるのですが…データ付きで!」

斑(!)

2676月号補完 :2006/04/26(水) 00:25:27 ID:???
斑「いや、ちょっとまった。それは拙いって。春日部さんは見せたくないって言ってるし、大体本人に知られたら何て言われるか」
大「大丈夫ですって。ばれなきゃいいんです」

大「…本当は見たいでしょ?」
斑「いや、それは、まあ、その…」

大「コスプレした咲さんは、本当にかわいくて、きれいでした」

大「わたしはレイヤーとして、このような素晴らしいコスプレを死蔵してしまうのは、重大な損失だと思うのです!」

大「ですから、斑目さん。あなたにも彼女の素晴らしさを共有…」
咲「…へえ、そうかよ」

斑「!」
大「!」

2686月号補完 :2006/04/26(水) 00:26:13 ID:???
咲「大野。そいつをよこせ」
大「いえ、別に何でもありませんよ?咲さんには関係ない、つまらないものですから」

こぼれる写真

咲のコスプレ写真s

固まる三人

大(やっちゃった)
咲(やられた)
斑(ええと、これは、何と言うか、すごいな)

咲「見るなー!!」
斑「おっと」
大「ああ、咲さん!」

咲(見た?)

斑(見た)

咲(見られた。誰にも見られたくなかったのに。見せないって約束したのに!約束したのに!!)

2696月号補完 :2006/04/26(水) 00:27:55 ID:???
咲「何さらすんじゃあ、このぼけーーー!!!」
大「ああっ」

笹「だめだって」
荻「だめです」
朽「そんな、ワタクシはまだ見ていないのに…」
斑(どーするよ、俺…)
咲「さっさと集める!」
大「はいっ!」

斑(どーするよ、見ちゃったよ)

久(え〜と、次に回るのは…)

田(ここをこうして…)

高(ふう、まずはこれでいいかな)

斑(絶対に忘れるもんか)

2706月号補完 :2006/04/26(水) 00:28:46 ID:???
咲「絶対に処分するからな!写真も、データも!」

大「はい、わかりました」(データ、コピーしておこう♪)

朽「俺にも見せろぉぉぉぉ〜〜!」

笹「だめだってば」
荻「だめですよ」

ははっ

卒業式会場

2716月号補完 :2006/04/26(水) 00:32:16 ID:???
以上です。
所々に「らしく」無い箇所がありそうですが…

あと、p182、2コマ目。p185、1コマ目の台詞は、本スレを参考にしています。

272マロン名無しさん :2006/04/26(水) 00:45:08 ID:???
サマーエンド 乙!
マジで荻上への愛を感じました。
で、
「昔の女が、いつまでも自分のこと思ってる…。なんて考えてたんですか?」

「行ケ、サッサト行ケ。夏コミノ『シンカン』ダ。モッテ失セロ。俺ガ貴様ラヘノ殺意ヲオサエラレテイルウチニダーーー!!」
のモトネタを教えてください^^;
申し訳ないです・・・

273マロン名無しさん :2006/04/26(水) 00:50:39 ID:???
>6月号補完
う、おーーー!先にやられちゃった!
うむ!だいたい自分のイメージとあっております。
>咲(見た!?)
>斑(見た)

の所に噴いたw

…昨日の夜中に自分も書きあげたので投下してもいいでしょうか。

274まえがき :2006/04/26(水) 01:45:40 ID:???
えー二番煎じですが自分も「補完」書いたので投下してしまいます。
クッチーの台詞や大野さんの台詞、人によって読み方が違うと思いますが…。

2756月号補完・2  1 :2006/04/26(水) 01:47:44 ID:???
P1.
斑「よう笹原」
笹「あ、斑目さん」
会議室に顔を出した斑目は、椅子を運んでいた笹原に話かけた。
ちょうど会社の昼休みの時間だった。
会議室の中では朽木もマメに手伝っている。最近朽木は、大野さんのコス衣装を運ぶのを手伝ったり、何かと働いてくれている。
斑「おお、やってるなー」
笹「朝から設営で、みんな借り出されてます(苦笑)」
斑「…で?春日部さんは来てんの?」
笹「ええ、今回はちゃんと逃げずに来たみたいですよ。ようやく観念したみたいで」
斑「へー…」
(春日部さんも丸くなったもんだ…)
この前(春日部さんと部室で2人になったとき)も思ったが…。

大野さんは満面の笑みで笑っている。
春日部さんは完全に肩を落としている。

P2.

  長いような短いような、部室とともに過ごした4年。
    漫画とアニメとゲームの日々も、夢のように煌めいて−−−。


       「第49話  いつでも夢を」〜SS補完〜


2766月号補完・2  2 :2006/04/26(水) 01:48:47 ID:???
P3.
大「私と咲さんと田中さんだけです!!」
大野さんは満面の笑みのまま、指を三本立ててそう宣言した。
大「他の人は立ち入り禁止です、咲さんがその条件でなら、とコスプレを許可してくれましたから!」
笹「あーー、そうなんだ…」
斑「そりゃ残念」
朽「ブーーーー!!!断固反対!!!」
朽木君は納得いかない!と主張した。

荻「…行きましょうか」
荻上さんはそう言って部屋から出て行く。
笹原と斑目もそれに続いた。朽木はまだ頑張っていたが、斑目が朽木の腕を引いて出て行った。
大「じゃあ、みなさん手伝っていただいてありがとうございましたーーー!」
大野さんはそう言って手をふる。
田「いや、すまんね、みんな…」
田中がフォローする。
春日部さんは相変わらず肩を落としていた。


2776月号補完・2  3 :2006/04/26(水) 01:49:42 ID:???
P4.
ガチャリ。荻上さんが扉を閉めた。
朽木君はまだ納得いかない様子でカメラをかまえている。
斑「けっこう時間かかりそうかね」
笹「そうですね、なにしろ15箱もありましたから…」

斑「朽木君、そんなとこ張り付いてないで。もう諦めたら?」
未練たらたらで扉に張り付いて聞き耳を立てる朽木君を、斑目は諌めた。

朽「諦められマセン!!!」
朽木は力の限り叫んだ。

朽「何のために重いダンボール箱運んだと思ってるんデスカ!何のために設営手伝ったと思ってるんデスカ!!
全てはこの時の為!コスプレ姿をこのデジカメに焼き付ける為!!!」
大野先輩にダマサレターーー!と騒ぐ朽木。
笹「はは…」
斑「まあ気持ちはわかるケドね」
(俺も本当はスゲー見たいしな…)
荻「朽木先輩、往生際が悪いです!」
荻上さんはあきれた声を出す。


2786月号補完・2  4 :2006/04/26(水) 01:50:32 ID:???
P5.
田「んじゃ、いくよーーー」
田中が写真を撮り始める。


カシャッ、カシャッ。

シャッターを切る音にまじり、、かすかに外から「にょ〜〜〜!」と騒ぐ声が聞こえた。

P6.
(あーあ…)
斑目は構内の中庭から会議室を見上げた。

(見れなくて残念だなーーー…。ま、仕方ない、か…。こうなることは予想ついてたしなー…)
がっかりしたが、春日部さんらしいなと思って笑う。

斑目はそのまま大学をあとにした。もうすぐ昼休みも終わる。


2796月号補完・2  5 :2006/04/26(水) 01:51:15 ID:???
P7.
ギイィ………

ゆっくりと扉があき、中から恨めしそうな目がのぞく。

大「お疲れ様でしたーーー!終わりましたよ!!」
ツヤツヤになって赤い笑顔の大野さんとは対象的に、げっそりと疲れきって青い顔の春日部さん。


2806月号補完・2  6 :2006/04/26(水) 01:52:10 ID:???
P8.
大「もう咲さんが!あんなコスやこんなコス!!とっても素敵でしたよ咲さん!!」
咲「お、荻上〜〜〜…」
荻上さんの手をとり、すがる咲。疲れて一人じゃ立てね〜という感じだ。
荻上さんはスキンシップに慣れてないせいか、赤くなる。
荻「………」
笹「お疲れさまー」
朽「な、何ですとーーー!?『あんなコスやこんなコス』!!!???」

大「咲さん、今日は無理を聞いていただいてありがとうございました!!」
咲「いや、ねえ…約束だったし………」
げっそりしながらも大野さんのほうを見上げて笑う春日部さん。

大「本当に…ワガママを聞いていただいて………」
喋りながら、大野さんの目に涙が盛り上がる。

咲「……………」
それを見て少しびっくりする春日部さん。

P9.
大野さんは春日部さんに抱きついた。
春日部さんも抱きしめ返す。

大「〜〜〜〜〜〜っ、うう………っ」
その様子をみんな照れながら見ていた。
朽木でさえ、何か言いたそうにしながらも、茶々を入れずにそれを黙って見守っていた。


2816月号補完・2  7 :2006/04/26(水) 01:52:49 ID:???
P10.
その夜。

荻上さんは笹原の家に泊まりにきていた。
荻「私もやらされそうになったんですよ、コスプレ!」
笹「はは。やったらよかったのに。」

荻「やりません!…それにあれは、『大野先輩と春日部先輩の約束』ですから!」
だから、荻上さんは遠慮したのだった。

笹「ところでさ、どっちのネクタイのが合うと思う?」
笹原が両手にそれぞれネクタイを持ち、荻上さんに聞く。

荻「………………」
(ネクタイ…)
つい801ワープしそうになる荻上さん。
(強攻めの笹原さんが斑目さんに………)

それを振り切って言う。
荻「さ、…笹原さんならどっちも似合うと思いますケド…」

笹「え?声が小さくて聞こえなかったよ、もう一回〜♪」
荻「もう言いません!!」


2826月号補完・2  8 :2006/04/26(水) 01:59:47 ID:???
P11.
同じ頃。
斑「………………」

家で『最後の砦』を眺める斑目。
春日部さんが初めてコスプレしたときの写真。


(…『会長』だからじゃない。春日部さんだから………)


P12.
朽「どーしてデスカーーーーーーーー!!!!!」

咲「絶っっっ………対、駄目っ!」

部室で朽木と春日部さんが言い争っている。
荻上さんは絵を描き、笹原はゲーム雑誌を読んでいる。
斑目は今日も昼休みに来て、弁当を食べ終わりお茶を飲んでいる。


2836月号補完・2  8 :2006/04/26(水) 02:00:21 ID:???
P13.
咲「あんたになんか渡したら、きっとろくでもないことに『使う』んでしょーーが!!」
朽「うにょっ!!!???」
斑「…ハハ」
笹「………」
(おいおい…)

朽「にょ〜〜〜!!それは誤解ですにょ!!ワタクシは純粋にコスプレに興味があるんですにょ!!ヒドイです〜〜〜…」
咲「信用できるか!!」
そんな2人のやりとりを黙って見守るあとのメンバー。

斑「………」
こんな日々もあと少しか…、と思いながら部室を出る斑目。

P14.
ふと向こうの角にあやしいサングラスとマスクの人影が…。
…黒大野さんだった。斑目を手招きしている。

斑「………(汗)」
大「……………」

斑「…な、何やってんの?大野さん…」
大野さんはマスクをはずして言う。
大「…ぶはー!ちょーっとこっちへ来てください!!」

2人で廊下の隅に移動する。大野さんはやけにコソコソしている。


2846月号補完・2  9 :2006/04/26(水) 02:01:30 ID:???
P15.
大「………咲さんのコスプレ写真、見たくないですか!?」

斑「!!!!!?????」

斑「え!?何…」
大「この封筒に全部入ってます!あの日の咲さんの姿が、全部!!!
どーですか!?見たくないですか!?」
斑「いやいやいや!!ちょっとそれはマズイでしょーーー!!そんな…本人の許可もなく…」

大「なんなら差し上げますよーー!」
斑「いやいや、いいって!春日部さんに悪いって!!」

大「…本当にいいんですか?斑目さんだから、渡すんですよ?」
大野さんは声を潜め真剣な目で、意味深なことを言う。

大「いいんですか!?後悔しますよ!?」

P16.

咲「…何を後悔するって?」


大・斑「!!!!!!!!!!!!!!」


2856月号補完・2  10 :2006/04/26(水) 02:02:24 ID:???
P17.
咲「ったく、勝手に…それをこっちに渡しなさい」
大「ええ、えーとえーと、その………」
大野さんは慌てて封筒を後ろに隠す。

その時。
後ろに回した封筒が手からすべり落ち…
「!?」

バサバサッ!!!
大量の写真と、CD−Rが廊下にぶちまけられた。


…スクール水着を着てヘルメットをかぶった会長春日部さんの写真と、目があった。


P18.

「……………!!!!!!!!!!!」

大野さん、春日部さん、斑目。
あまりのことに声が出ない。


2866月号補完・2  11 :2006/04/26(水) 02:03:22 ID:???
P19.
一瞬後。
咲・大「わあああーーーーーーーーー!!!」
慌てて写真を拾いにかかる二人。

(……見た!?)

見上げた春日部さんと目が合う。
目をそらす暇もなかった。

咲「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っつ!!!」
春日部さんは思わず涙ぐんだ。

P20.
咲「っこの…バカタレがーーーーーーー!!!!!」
急にキレて大野さんの頭をはたく。

朽「にょーーーーーーー!!コスプレ写真!!!」
朽木がかけよろうとするが笹原と荻上さんに服をつかまれる。
笹「まーまーここは、ね?」
荻「行っちゃ駄目です」

(………………………………………………(汗))
もう顔を上にそむけていたが、今見た写真が目に焼きついて離れない。


2876月号補完・2  12 :2006/04/26(水) 02:04:08 ID:???
P21.
その頃。
久我山は車で商品の納品先をまわっている所だった。

田中は専門学校で被服の実習中だった。

高坂はゲーム会社でプログラムを組んでいた。



(…何か……)
この状況が急に可笑しくなって、思わず笑いがこみあげる。


P22.
春日部さんは「大野のアホ!!」と毒づきながら、恥ずかしさに顔を真っ赤にして、ばらまかれた写真を必死に拾う。

大野さんは「す、すいませんでした…」と言いながらも笑ってしまう。

朽木は変わらず「ボクチンを行かせてくだサーーイ!!この目で一目!!」と騒いでいるし、

笹原と荻上さんは笑いながらも、朽木をつかんでいる手を離さないでいた。


2886月号補完・2  13 :2006/04/26(水) 02:04:48 ID:???
P23.


『ははっ』




今日は空がとても青く透き通っていた。



P24.
…そして、卒業式の日がやってくる。

次号、表紙&巻頭カラーにて「げんしけん」卒業式!!
 そっか、卒業しても、みんな一緒だ。

                           END

次回予告
『次回、感涙の最終回!!絶対運命黙示録−−−。』


289マロン名無しさん :2006/04/26(水) 02:07:35 ID:???
>>272
前の方は知らんが、後の方はヘルシン4巻のアンデルセン神父だな。
ちなみにエピローグでのコスは大野がウォルター(若返りバージョン)でアンジェラがセラス
スーが外伝版ロリアーカード。子供はシスターだから由美江かな。
スーはアーカードの格好のままアンデルセンやったんだな。

290マロン名無しさん :2006/04/26(水) 02:08:13 ID:???
しまった・・・
×ヘルシン
○ヘルシング

291あとがき :2006/04/26(水) 02:11:57 ID:???
えースレ汚し失礼しました。
「8」が二回あるけど、文のほうは投下ミスしてないので(汗)
ていうか台詞以外にも色々書いてしまいすいませんでした。

台詞考えるの楽しくて仕方なかったです。原作最高です。
斑目の救われ方に泣けた。斑目が大野さんに写真を見せようとしていたとき、拒否した姿に泣けた。男だ!と思った。
…でも最後、結果的に見ちゃって、春日部さんがちょっと泣いちゃったのにも泣けた。すごく可愛かった。
…もちろんスク水コスで、顔真っ赤にしてる咲ちゃんも!!!

292マロン名無しさん :2006/04/26(水) 02:25:13 ID:???
>>291
逆だ!!「斑目が大野さんに」じゃなくて「大野さんが斑目に」でした。失礼しました。

293マロン名無しさん :2006/04/26(水) 10:22:03 ID:???
そういやSSアンソロの企画ってどうなってんの?
ここのメンツが揃えばいい本ができるとwktkなんだけど。

294マロン名無しさん :2006/04/26(水) 11:01:59 ID:???
せっかく原作もフィナーレを迎えるわけだし、いっちょやってみようと思います>アンソロ

ただし仕事の原稿(雇われ仕事)が片付いた上で参戦表明するつもり。まとめの人、待っててね。


295まとめ中の人 :2006/04/26(水) 13:31:07 ID:???
>>294
本当ですか!ありがたいです。

>>ALL
現在、アンソロ、人が少なくて困っています。
もちろん、少なくても作りますが、たくさんの人と作りたくて企画したので、
もしよければ参加をお願いしたく・・・。
参加方法もいたって簡単です。ここに投下する気分で出来ると思います。

この企画を、いいものにしたいのです。
げんしけんが好きで、このスレが好きでたまらなかったから。

これ以上はスレ汚しになるのでやめておきます。
最後に、どうか、よろしくお願いします。

ttp://saaaaaaax.web.fc2.com/gssansoro/top.htm

296マロン名無しさん :2006/04/26(水) 14:20:47 ID:???
>これ以上はスレ汚しになるのでやめておきます

連載終了という時宜に合った意義ある企画にもなりそうだから、次スレのテンプレに含んだらどうでしょ。

297サマー・エンド〜あとがき4 :2006/04/26(水) 21:38:29 ID:???
>>258
ありがとうございます。
確かにそうかも。別れてから付き合えば丸く収まったかもしれないです。
斑目さんはどっちにしろ可哀想ですが。

>>272
スーの方は、>>289さんので間違いないです。チビッコには准尉のコスさせたかったけど、ナチだからなあ…と回避。
刀が無いから由美子かな。
「昔の女が…」というのは、『カウボーイ・ビバップ』のガニメデ慕情のフェイの台詞からです。
ビデオみて書かなかったから、うろ覚え…。正確には、
フェイ「昔の女が今でも自分のこと考えているなんて大間違い よ」
スパイク「女がみんな自分と同じだと思ったら大間違いだぜ」
という遣り取りでした。荻上さんがどっちのなのかは…。ご想像にお任せということで…。

>まとめ中の人
漸くこっちが終わったので、自分も参加させていただきたいと思っております。
ネタ出しとページ見積もりが終わり次第、申し込みます。
もう少しお待ちにいただきたく…。今月中には何とかしたい…。

298マロン名無しさん :2006/04/27(木) 22:05:10 ID:???
>まとめ中の人
まとめサイトにも書き込んだが一応こっちにも。
当方最近筆が遅く、〆切間に合う自信無し。
(何しろ最近の作品は2ヵ月で1本のペース、その代わり長いけど)
旧作でよかったら勝手に使って下さい、てのは無しですか?

299マロン名無しさん :2006/04/27(木) 22:11:41 ID:???
>>298追記
あるいは旧作の書き直しとか?

300マロン名無しさん :2006/04/27(木) 22:13:10 ID:???
>>298
まとめ中の人ではないのですが、旧作を使うよりは短編の新作のほうが良いのではないでしょうか。
アンソロ限定で読めるのが面白いかと…いえ、どうだろ。「改編」とか、「補完」とかなら…
うーむ。本になることに意義があるともいえるし…イチ意見として流してください…

301まとめ中の人 :2006/04/27(木) 23:08:27 ID:???
>>298
先ほどコメント確認いたしました。
一応締め切りは6/15ということにしていますので、
十分間に合うのではないかと思うのです。
その上で、完成しないかもしれないというのが不安というのであれば、
そのときの予備として旧作を準備しておくのならいいのではないかと思っています。
それに伴うページ数変更などは私のほうで何とかしますので、
どうか新作を作る方向で参加を考えてはいただけないでしょうか?
詳しくはメールで相談したいと思いますので、どうかメールを送ってください。

他の方、連絡板のように使ってしまってすいませんでした。

302マロン名無しさん :2006/04/27(木) 23:20:01 ID:???
ええと、募集要綱見ると、28文字x60行で1p。最大6p。

60レスの「はぐれクッチー」だと約40p、35レスの「サマーエンド終」が約23p
4レスの「BLUE MONDAY」で2p弱。だいたいレス数x0.6くらいかな。
計算間違ってたらゴメン。(挿絵を入れるとさらに減る)
つーわけでアンソロは、10レス(程度)以下の作品が収録対象って感じっすね。

お前様がたなら珠玉の短編集ができる!欲しい!頼む!w

303マロン名無しさん :2006/04/27(木) 23:26:41 ID:???
>>302
その計算が正しいなら、まだやれるはず!
ガンガレ、>>298

ってか漏れも参加しようかな。
取り合えず今書いてるもの終わらせてきます。

304マロン名無しさん :2006/04/27(木) 23:56:09 ID:???
>>302
僕はアンソロ原稿、もう書いたんですが、挿絵1P、本文5Pで、
軽い内容だったんですけどけっこう短く感じて、うまく収めるのに
ちょっと四苦八苦しました。
なので仕事量的にはけっこう、気軽に参加出来ると思いますよ!迷ってる方は是非!
お祭りのようなアンソロを読みたいです。

305笹荻BAD 3-0-0 :2006/04/28(金) 00:02:14 ID:???
笹荻BAD 3弾目行きたいと思います。

3ルート中、グッドエンドは無いとかどこぞに
書いてたような気がしますがあまりにもあまりなものばっかりだったので
1ルートに絞って、まんまバッドエンド(3-1-X)と
グッドエンドルート(3-2-X)で書いて見ました。

文が被ってる所があったりするのはそんな理由なのでご容赦頂ければ幸いです。

306笹荻BAD 3-1-1 :2006/04/28(金) 00:03:15 ID:???
手を繋いだまま屋上へ続く階段を上る。

荻上の手は痛いくらいに笹原の手を強く握り締め、その手は汗ばんで震えている。
手だけではない。体中汗をかき、息は荒く、顔は青く、今にも倒れそうだ。

「大丈夫?やっぱりここに残る?」
その様子を見た笹原は心配そうに顔を覗き込みながら言ったが、
荻上は小さく「大丈夫です」と答えるだけだった。

後、少し、後少しで終わる。
明日からはまた平和な日々に戻るんだ。

だからこれ以上このことで、笹原に迷惑をかけたく無い。

「行きましょ。」

307笹荻BAD 3-1-2 :2006/04/28(金) 00:04:34 ID:???
青ざめた顔のまま荻上はそう言って笹原の手を引く。
そんな荻上の様子に、酷く危ういものを感じながらも留める理由が無い笹原は
荻上に引かれるまま屋上に向かった。




階段を上がりきり、屋上に出る。

外周に沿って段差があるだけで、柵や仕切りは無い。
いくつかの貯水タンクがある他は何も無い、ただ広いだけの屋上。
落ちかけた日がその屋上を赤く染めている。

高さがあるからか随分と風が強い。

中島はその階段と正反対の端の角。
先ほどまで居た部屋の丁度上にあたる場所の段差にうなだれたように座っている。
距離があるし逆光になっている為、表情は伺えない。


「行こう…。」
今度は笹原が荻上を促す。荻上は笹原の手を強く握り返す。

二人はゆっくりと歩を進める。その間、中島は微動だにしなかった。

笹原はいっそのこと死んでてくれてれば楽なのにと思う。
正直、もう一度あの表情と面と向かう勇気は無い。
それ程、あの時の中島を恐ろしいと思った。


後5mと言う所で笹原と荻上どちらも歩が止まる。


308笹荻BAD 3-1-3 :2006/04/28(金) 00:05:32 ID:???
笹原はもう一度荻上の手を強く握り直す。それが合図だった。

2人同時に歩き始めた時、中島がピクリと動いた。

ぞっとする笹原。目を逸らさずにいられたのは荻上がいたからか。
だが、顔を上げてこちらを向いたその表情はあの時の恐ろしいものでは無かった。

「オギ…。」

笹原と荻上の手が強く握られているのを見た中島の顔が悲しそうに笑う。
「そう…あんたも結局、私から去っていくのね…。」

その表情も、声色も、本当に悲しそうで、今にも泣き出しそう。

荻上はまるで高校までの自分がそこにいるように感じた。
自分から周りを傷つけ、それでも傷ついた相手が去ってしまうことが悲しい。


荻上は何も言う事ができなかった。
彼女を見捨てることは、かつての自分を見捨てることのような気がした。
それでも、ここで生きることはできない。



笹原に身を寄せる。それが彼女が示せる精一杯の答えだった。


309笹荻BAD 3-1-4 :2006/04/28(金) 00:06:20 ID:???
それを見て、中島の顔がすっと暗くなる。
笹原の体がこわばる。荻上も何かを感じたのか笹原の腕にすがる。

「そう…いいわよ。どこへだって行けば。」
俯いてそう呟くと、中島は外周の段差、巻田が最後に身を投げたと言う場所に立つ。
「だけど覚えておくことね。」

風が一際強く吹く。
赤い夕日を背にし、髪を振り乱し、あの時のように常軌を逸した表情を浮かべた中島。
「あんたはあんたの罪から逃れられないし、私の呪縛からも逃れられない。」
そのままゆっくりと後ろに倒れていく中島。


「っ待て!」
「ナカジ…!!」
その意図を察した荻上が動き、中島の表情に体が固まっていた笹原が一瞬遅れる。
それでも十分に間に合う距離だった。




「じゃあね…。」
重力に引かれて落ちていく中島。

310笹荻BAD 3-1-5 :2006/04/28(金) 00:07:16 ID:???
彼女を止めなければ、ただそれだけの気持ちで走り出した私の視界に
あるはずの無いものが映り、私の体が意思に反して動きを止める。

中学の時の巻田と、死に向かったやつれ果てた巻田、
中学の時の自分と、高校の時の自分。

皆一様に、恨み、憎み、蔑む視線でこちらを見ている。

その口が言葉を紡ぎだす。
『自分だけ幸せになってるなんて。』

「っ!!!!!!!!!」
心臓が壊れたかと思う程の激痛。
膝から力が抜け、崩れ落ちる所を笹原に受け止められる。


その肩越しに見た中島が、同じ視線でこちらを見ながら落ちて行った。

最後に
「人殺し。」
と一言、言い残して。


ガシャンと何かが壊れる音がした。

311笹荻BAD 3-1-6 :2006/04/28(金) 00:09:07 ID:???
「今日は暖かいね。」
「あ。そう言えば斑目さん、ようやく結婚するらしいよ。」
「これでようやく、当時のメンバー全員家庭持ちだ。」
「田中さんちは子沢山で大変らしいよ。頑張るよね、あの人。」


知る人ぞ知る穴場の大きな桜の木の下。
満開を過ぎ花が散り始める、最も美しくもの悲しい時期。

彼女は静かに車椅子に座っていた。



あの時の中島の言葉は正に呪いだった。

最初は少しの違和感と疲労感。
あれだけのことがあったのだから、仕方が無い。
ゆっくり休めば直る、誰もがそう楽観していた。

312笹荻BAD 3-1-7 :2006/04/28(金) 00:10:07 ID:???
気付いた時は既に手遅れだった。誰もそうなるまで気付けなかった、
それ程、緩慢にそれでも確実に、彼女の心は壊れていった。

幻聴にうなされ、幻覚に襲われ、
悪夢と現実の境すら失い、ただ磨耗していくだけの日々…。

いっそのこと狂ってしまいたい、そう泣きながらも何度も何度も繰り返し、
だが決して彼女自身の罪の意識がそれを許さなかった。


その果てに彼女がたどり着いた静寂。



例えそれが、生きるものが全て死に絶えた砂漠のそれであっても。



せめてその静寂の日々が続けばと願う。


...END

313笹荻BAD 3-2-1 :2006/04/28(金) 00:11:08 ID:???
手を繋いだまま屋上へ続く階段を上る。

荻上の手は痛いくらいに笹原の手を強く握り締め、汗ばんで震えている。
手だけではない。体中汗をかき、息は荒く、顔は青く、今にも倒れそうだ。

踊り場を2つ過ぎ、最後の階段に差し掛かる時、
荻上が急に立ち止まったことから、つないだ手が解け、笹原が振り返る。

「荻上さん?大丈夫?」
いつも通りの呼び方に戻っている笹原が、心配そうに問う。

荻上は首を振ると、すぅと小さく息を吸い、笹原の顔を正面から見据える。


笹原を急かし、こうして中島を追っているものの、彼女と向かい合うのが怖かった。
彼女の言葉はいつも自分の胸を鋭く深くえぐる。
面と向かった時、投げかけられるであろう言葉を考えるだけでも足が震える。


だからもう一度聞きたかった。
そうすれば、きっと、中島のどんな言葉にも耐えられる。


314笹荻BAD 3-2-2 :2006/04/28(金) 00:11:43 ID:???
「もう一回、言って下さい。」
「え?」
突然の発言にきょとんとする笹原。

今度は笹原に大きく聞こえるくらい、大きく息を吸い込み溜めること3秒。
「私のこと、受け入れてくれるってもう一回言って下さい!」
勢いに任せて言った後、荻上の顔が真っ赤になる。

笹原の顔も真っ赤で、にやけてるんだか引きつってるんだか分からない表情だ。
「え?え?もう一回…?」
視線が泳ぎ、額に汗が浮かび、言葉も末尾も震えている。

名前の呼び方と言い、この様子と言い、やはりあの言葉は笹原にとっては
相当勇気を振り絞ってのものだったのだろう。

あ〜、う〜と喚き、唸る笹原。
その様子が可愛いくて、ついいたずらしたくなる。
「言ってくれないと私このまま実家に帰らせて頂きマス!」
ふんっ!と鼻を鳴らして、不機嫌そうな顔でそっぽを向く。

「うわっ…脅しだ…。」
笹原の顔色は真っ赤で、表情はもはや、完全に引きつっているだけだ。
うつむいて頭を掻き、ため息をついて、額に手を当てて唸る。
そうして暫く悶えた後、意を決したのか顔を上げる。

真剣な眼差しで、荻上としっかりと目を合わせる。
その目に荻上はどきりとしたが、その後にはさらにとんでもない爆弾が控えていた。

「千佳のことが好きだから、ここにいるし、守りたい。何があっても受け入れる。」



315笹荻BAD 3-2-3 :2006/04/28(金) 00:13:13 ID:???
やられた。


予想以上だった。


(ああ!!もう!!なんで!!この人は!!)


はじめて笹原の口から「好きだ」と聞いた時の
言葉に被せたそれは荻上が想像していた以上の衝撃で、
荻上の頭を揺さぶる。

足元がおぼつかない。体中が熱い。視界がぐるぐる回り、
頭がくらくらして、それでいて心地がいい。
良い酒に酔ったような感覚だ。


絶望・失望で立てなくなることは過去にもあったが、
幸せで倒れそうになるなんて初めてだ。


あの時、嬉しかったのに素直になれずに逃げ出した。
それでもあの時、笹原は追いかけて来てくれた。

そして今だってここに居てくれる。


その笹原の思いに応えられるよう、荻上も顔を逸らさずにはっきりと答える。
「はい。ちゃんと側にいて守ってください。」

316笹荻BAD 3-2-4 :2006/04/28(金) 00:14:36 ID:???
階段を上がりきり、屋上に出る。

外周に沿って段差があるだけで、柵や仕切りは無い。
いくつかの貯水タンクがある他は何も無い、ただ広いだけの屋上。
落ちかけた日がその屋上を赤く染めている。

高さがあるからか随分と風が強い。

中島はその階段と正反対の端の角。
先ほどまで居た部屋の丁度上にあたる場所の段差にうなだれたように座っている。
距離があるし逆光になっている為、表情は伺えない。


「行こう…。」
今度は笹原が荻上を促す。荻上は笹原の手を強く握り返す。

二人はゆっくりと歩を進める。その間、中島は微動だにしなかった。

笹原はいっそのこと死んでてくれてれば楽なのにと思う。
正直、もう一度あの表情と面と向かう勇気は無い。
それ程、あの時の中島を恐ろしいと思った。


後5mと言う所で笹原と荻上どちらも歩が止まる。



317笹荻BAD 3-2-5 :2006/04/28(金) 00:15:26 ID:???
笹原はもう一度荻上の手を強く握り直す。それが合図だった。

2人同時に歩き始めた時、中島がピクリと動いた。

ぞっとする笹原。目を逸らさずにいられたのは荻上がいたからか。
だが、顔を上げてこちらを向いたその表情はあの時の恐ろしいものでは無かった。

「オギ…。」

笹原と荻上の手が強く握られているのを見た中島の顔が悲しそうに笑う。
「そう…あんたも結局、私から去っていくのね…。」

その表情も、声色も、本当に悲しそうで、今にも泣き出しそう。

荻上はまるで高校までの自分がそこにいるように感じた。
自分から周りを傷つけ、それでも傷ついた相手が去ってしまうことが悲しい。


揺らぎそうな気持ちをしっかりと持ち直し、笹原の手を離して一歩前に出る。
「私は、私の場所に帰る。ここには戻らない。」
中島を見据え、自分自身の決意、笹原への誓いを込めて、
はっきりとした口調で告げる。


318笹荻BAD 3-2-6 :2006/04/28(金) 00:16:12 ID:???
その言葉を聞き、中島の顔がすっと暗くなる。

笹原の体がこわばる。荻上も何かを感じたのか体を硬くして身構える。

「そう…いいわよ。どこへだって行けば。」
俯いてそう呟くと、中島は外周の段差、巻田が最後に身を投げたと言う場所に立つ。
「だけど覚えておくことね。」

風が一際強く吹く。
赤い夕日を背にし、髪を振り乱し、あの時のように常軌を逸した表情を浮かべた中島。
「あんたはあんたの罪から逃れられないし、私の呪縛からも逃れられない。」
そのままゆっくりと後ろに倒れていく中島。


「っ待て!」
「ナカジ…!!」
その意図を察した荻上が動き、中島の表情に体が固まっていた笹原が一瞬遅れる。
それでも十分に間に合う距離だった。

「じゃあね…。」
重力に引かれて落ちていく中島。

319笹荻BAD 3-2-7 :2006/04/28(金) 00:17:52 ID:???
彼女を止めなければ、ただそれだけの気持ちで走り出した私の視界に
あるはずの無いものが映り、私の体が意思に反して動きを止める。

中学の時の巻田と、死に向かったやつれ果てた巻田、
中学の時の自分と、高校の時の自分。

皆一様に、恨み、憎み、蔑む視線でこちらを見ている。

その口が言葉を紡ぎだす。
『自分だけ幸せになってるなんて。』

胸が痛み、視界が歪む。体から力が抜けていく。

「人殺し。」
そんな私を嘲笑うかのように、落下していく中島の言葉が胸に突き刺さる。

320笹荻BAD 3-2-8 :2006/04/28(金) 00:18:24 ID:???
そうだ。私は人を殺した。巻田を殺し、彼の両親を殺した。
そのことを知らず、過去から目を背けて、自分だけが幸せになっていた。


だけど、私はもう、私自身の不幸を望むことはできない。

幸せに生きたい。
友人に囲まれ、大切な人と過ごし、自分の好きなことを好きと肯定したい。
それが例え身勝手だとしても。

「ごめんね。でも私は私の生きる場所に帰る。」
精一杯の謝罪を込めて、決意の言葉をもう一度口にする。

それで、彼らは消えた。

体に力が戻り、中島だけが視界に残る。


321笹荻BAD 3-2-9 :2006/04/28(金) 00:19:30 ID:???
伸ばした荻上の右手は中島の右手首をしっかりと掴み、
その荻上の体を後ろから笹原が倒れこみながら抱きかかる。

人一人が落下する衝撃を受け止めた荻上の右腕がみしみしと嫌な音を立て、
荻上は痛みに呻き声を上げる。

中島は呆然とした様子で荻上を見上げる。
何が起きたか分からない、そんな顔だった。

状況を悟った中島が力無く笑う。
「はは、はは。あんた馬鹿じゃないの!?」
荻上は答えない。
ただ厳しい表情で中島をにらみつけているだけ。

「憎くないの!?散々あれだけ弄んでやって!!傷つけてやって!!
今だって『ここ』から飛び降りながら人殺しって罵ってやれば
あんたは一生傷つくって分かっていてやったのに!!
一生苦しみ続ければいいって思ってやってやったのに!!」

まくし立てるように、泣き叫ぶように中島が言う。


322笹荻BAD 3-2-10 :2006/04/28(金) 00:20:20 ID:???
「憎いっ!!憎くない訳が無い!!」
荻上の声も悲鳴だった。

罪で縛り上げられ、何度も心の古傷をえぐられ、悶え苦しみんだ。
毎日行われた行為は心にも体にも深い傷を残した。

それはただひたすら続く絶望の時間だった。

癒される時間すら与えられず、痛みが日常となって、
いつしかイタイと言う感覚すら忘れていた。


笹原と再会し、その暖かさに触れて、やっと取り戻した痛みの感覚。
それは今この瞬間も耐え難いほどの痛みを訴えてくる。

私はこの先生きていく限り、この罪から逃れられず、痛みを忘れることもできない。
彼女の言う通り、それらを背負って一生苦しんでいくのだろう。

それでも…

323笹荻BAD 3-2-11 :2006/04/28(金) 00:22:03 ID:???
「憎くったって…死んでいい訳が無いじゃない…。」
死に損なって、自暴自棄になって、周りを傷つけ、孤立していた私にも居場所ができた。

「私は罪を負ってでも生きる。同じ罪を共有しているって言うんなら…」
だから、きっと彼女にだって生きてさえいれば居場所は見つかる。

「ナカジも…生きて…」
そう信じている。

強く目を閉じた荻上から大粒の涙がこぼれ、中島の顔に落ちる。


憎めなかった。

あれだけのことをされて、追い詰められて自ら死を選び
その死の間際にですら自分を傷つけようとした人間でも恨むことができなかった。


「オギ…」
呼びかけれられて見た中島の顔は憑き物が落ちたように優しい顔立ちになっていた。

324笹荻BAD 3-2-12 :2006/04/28(金) 00:22:34 ID:???
「私には無理。私はあんた程強くない。
私はいろんな人間を傷付け過ぎたし、それ以外の生き方を知らないし、
でも…もう、それも疲れた。」
「ナカ…ジ?」
ゆっくりと目を閉じて中島が言う。その目じりには涙が浮かぶ。

「嬉しかったよ。同じだって言ってくれて。あんな酷いことした私の為に泣いてくれて。」
それは本当に嬉しそうな、花のような笑顔。

「駄目…。」
彼女の言葉が、別れの言葉であることを理解した荻上が首を横に振る。

「ごめんね。最後の最後まで本当に嫌な奴で。」

そう言って、中島が、荻上の手を振り払った。



「ありがとう。」


最後にそう、一言言い残して。


325笹荻BAD 3-2-13 :2006/04/28(金) 00:24:00 ID:???
女子大生が同級生を一ヶ月に渡り、監禁、性的虐待、その果ての投身自殺。
それが引き金となった有力者の失脚劇。

あまりにもスキャンダラスなその事件は、全国的な話題となった。

幸い、被害者の名前は報道では公表されることは無く、
荻上の失踪を知るものは身内と言える人間だけで、
そこに接点を見出せるものはいなかった。


それだけは救いと言えたのかもしれない。


雨の音が聞こえる。
梅雨らしいどんよりとした雲は気持ちまで暗くさせるようだ。


326笹荻BAD 3-2-13 :2006/04/28(金) 00:24:46 ID:???
毎日にようの放映されるあの事件をソファーに座りながら荻上が見ている。
その唇はかみしめられ、震えながら、目だけは画面を注視していた。

彼女は決して目を逸らさない。

それが辛い。

まだ彼女の口からあの一ヶ月の間に行われたことを直接聞いたことは無い。
だけど、直接聞かなくても、断片的に知ったことをかき集めただけでも、
毎日のように報道される内容がでたらめであることは十分に分かった。

「もう良い。もうこれ以上…。」
もうこれ以上傷つかなくても良い。傷つかないで欲しい。

その言葉に荻上は首を横に振った。
「これは私が受け止めないといけないことなんです。」

「違う。」
その言葉に納得がいかなかった。

あの時中島は罪を背負っていくのが怖くて死を選んだ。

何故、荻上だけがこんなに苦しむ。
荻上だって逃げてしまえばいい。
荻上だけがこんなに苦しむ必要は無いはずだ。

苛立ちとやりきれなさで声が荒立つ。

327笹荻BAD 3-2-14 :2006/04/28(金) 00:25:28 ID:???
「逃げたっていつかは追いかけて来るんです、過去は。
だから今度は、ちゃんとここで整理してそれから進みたいんです。」
その様子を見ながら、少し困ったように荻上が答える。


前に進む為に。
その言葉を聞いて何も言えなくなる。


沈黙を破ったのは荻上だった。
「ひとつだけ良いですか?私の中で整理がついたら、あの一月のことを全て笹原さんに話します。
話したらきっと笹原さんを傷つけると思います。軽蔑されるかもしれません。
でも全て話すって約束します。だから…今はただ、側にいて見守っていて欲しいんです。」
しっかりとこちらの顔を見て彼女が言った。

「大丈夫です。本当に…耐えられない位に辛くなったらすぐに頼りますから。」
少し間をおいて、そう付け加えると照れくさそうに笑った。

「不器用者…。」
不満そうに言ってその頬を指でなでる。

本当に不器用だと思う。
疲れて、やつれて、元々小さな体はますます小さくなってしまったようだ。

それでもその目にはしっかりと光が宿っていた。
自分から辛い時は頼ると言ってくれた。

328笹荻BAD 3-2-15 :2006/04/28(金) 00:26:29 ID:???
だから大丈夫。
そう自分に言い聞かせる。

心配であることには代わりは無いけど、
その日が来るまで彼女を信じて待っていようと思う。




329笹荻BAD 3-2-16 :2006/04/28(金) 00:27:31 ID:???
夏も盛り、ギラギラと差し込む太陽は部室の温度を際限なく上げ、
セミの大合唱が暑さに花を添える。

そんなある日、俺こと、斑目晴信は非常にあせっていた。

現視研一の問題児、朽木と、名前は知らないがその朽木に匹敵する目に余る言動に
朽木2号の称号を持つ(正確には俺が呼んでいる)1年生が熱く論争していたからだ。


いや、それ自体は良い。好きな作品に関して熱く論ずるのはオタクの性。

そうした熱意が市場を底上げし、創作者を助け、更なる良い作品を生む…かどうかは
正直、最近疑問に思えてくることもあるが、好きなものを語りたいという気持ちを否定はしない。

だが、その内容が大変頂けない。

「だから陵辱ネタのエロ同人はリリンの生み出した文化の極みだにょ!!!」
「認めん!!認めんぞ!!肉欲におぼれて愛を忘れた同人作家の作品など、この俺がいる限り認めはせんぞぉ!!」

平たく言えば、愛の無い『実用性の高い』同人誌と、愛のある『実用性の無い』同人誌、どちらが優れているか。
実用性最重視の朽木に対して、愛の無い作品など認めないという朽木2世。

この手の話題は往々にして、ループを繰り返すうちに論点がずれて有耶無耶になることが多いのだが、
折り悪く今日は、たまたま論点の歯車がばっちりとかみ合ってしまったようで、
ヒートアップすれど収集に向かう気配が全く無い。


330笹荻BAD 3-2-17 :2006/04/28(金) 00:28:55 ID:???
(まずい…非常にまずい。)


嫌な予感に心臓がバクバクする。

おりしも今話題になっている同人誌は少し昔のゲームを題材としたもので
そのヒロインをちょっと頭が歪んだ主人公が、監禁・調教していくと言う大長編の同人だった。

(あ〜、その同人、俺も買ってたんだよなぁ…随分お世話になったっけ。
何巻まで買ったんだっけ?後半はもう別キャラになっちゃってたなぁ。
完結したんだっけ?あれ?ってそんなこと冷静に思い出してる場合ですか、俺は。)

一人ボケ一人突っ込み。

何の打開策も打ち出せないまま、
この上なく、最悪のタイミングで最悪のお方が登場。

「こんちわ〜。」

本日の私、斑目の最大の頭痛の種、荻上 千佳殿のご登場。


331笹荻BAD 3-2-18 :2006/04/28(金) 00:30:09 ID:???
荻上さんにすら気付かず、ヒートアップしっぱなしの実用の1号、愛の2号。
もはや言葉では通じないとお互いに悟ったのか「きしゃー」とか「うがー」とか
妙なポーズを取りながら威嚇しあっている。


「どうしたんですか?あれ」
思いっきり怪しいものを見る目で、思いっきり嫌そうな声で聞いてくる荻上さん。

「いや〜、はは…。」
笑って誤魔化すところだな。ここは。うん。

俺が会長席に座っていることから、荻上さんは向かって右前の席に座る。

その段になってようやく、1号機が荻上さんの存在に気付いたようで、
あきらかに逝っちゃってる視線を荻上さんに向ける。
「むむ、オギチン!!丁度良い所に!!」
嫌な予感がして、俺はみがま…

「拉致監禁調教経験済み801同人作家のオギチンの意見を聞きたいにょ!!
陵辱エロ同人に愛は必要かにょ!?実用性があれば良いんじゃないかにょ!?」

える間も無かった。

332笹荻BAD 3-2-19 :2006/04/28(金) 00:31:05 ID:???
最高に最低。完璧に最低。全てが最低。

デリカシーのデの書き出しの1本目の横棒すらなく、
何のフォローの余地すらない発言につま先まで血の気が引く。


荻上さんの顔は真っ赤で、その拳はぶるぶる震えている。
俺はその後の顛末に恐怖し、目を合わせることができない。

(ああ、やっべぇ。こんなことだったら殴ってでも止めさせるべきだった。
いくらなんでもそこまで言っちまうか、GP−01!!
どうする?止められるか?飛び降りそうになる荻上さんを俺一人で抑えられるか?
いやそもそも変な所触っちゃったらどうするんだ!?あ〜誰かどうにかしてくれぇ!!)


ズッ!ドムッ!!!!

重い地鳴りと、とてつもなく重厚で鈍い音。

(ああ、だめだ!!窓を開いてもう飛び降りようとしているズッ!ドムッ!!
って窓を開けて荻上さんが…)

「…ってズッ!ドム!?」


あまりにパニックになったせいか軽く飛びかけていた俺の頭は
その音でこちらの世界に戻ってくる。


333笹荻BAD 3-2-20 :2006/04/28(金) 00:33:00 ID:???
戻ってきた俺の目に映ったのは…

「に゛ょ゛!?」

と体をくの字にして30cm程地面から浮いている朽木。
その腹部には、荻上の左の一の腕の半分くらいがめり込んでいる。
荻上の踏み込まれた左足は、打ちっぱなしのコンクリートの
部室の床を踏み砕かんばかり。


そのまま数秒時間が止まり…


閃光一閃、かつてのこの身に受けた春日部さんの本気のグーパンチを思わせる
豪快で、しなやかで、それでいて苛烈にて強烈な右ストレートが朽木の顔面の中央を打ち抜く。

緩急をつけた実に美しい連携。
ふわりと広がるスカートと太陽の光を反射し輝くネックレスが
その勇姿に華を添える。

何故かその様を見て胸がときめく俺。

いや、嘘だ、嘘だ、嘘だ!!嘘だぁああ!!
毎日振り切ろうと四苦八苦しているのに、更にそんな泥沼フラグをもう立てるんじゃない。

頭の中の選択肢を必死にかき消した俺は再度状況を確認する。


334笹荻BAD 3-2-21 :2006/04/28(金) 00:34:02 ID:???
まさに「ぶッ飛ぶ」勢いで殴り飛ばされた朽木は2号を巻き込みロッカーにたたきつけられていた。
年代物のロッカーはあっけなくひしゃげ、上においてあった
使わないコスプレ用の小道具、剣や杖やら100tハンマーが振動で
凶器の雨となって降り注ぎ、友情の1号2号は、俺が俺の中で立ち掛けた妙なフラグを
処理している数秒のうちに、物言わぬ肉塊と化していた。

「はぁ、はぁ、はぁ。」
死体2つと固まって息もできない俺。
静寂の部室に、ただ荻上さんの荒い息がこだまする。

握り締めたこぶしを突き上げ、高々と宣言する。
「愛の無い監禁調教801なんかありません!!!!!!!!!!」
「突っ込みどころはそこかぁあああああああ!!!!!!!!」

いすから滑り落ちながら俺は叫んでいた。


335笹荻BAD 3-2-22 :2006/04/28(金) 00:35:47 ID:???
「こんちわ。って、うわ、どうしたのこれ?」
5分遅れて笹原が到着し、凶器で剣山のようになり息も絶え絶えの2人を見て感想を漏らす。
そののんきな様子に頭にきた斑目は笹原のネクタイを思いっきり引っ張る。
「お!!せ!!ぇ!!よ!!」
「ぐぇ、苦しい!!ネクタイ引っ張らないでくださいよ!!」
「お陰で飯の味も分からなかったじゃないか!?」
「な、なんのことですか!?痛い、痛い!!」
引っ張るだけじゃ飽き足らないのか、頭を脇で抱え込み髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「なんだこの頭は。いちっぱしに整髪剤なんざ使いやがって!!
いつのまにこんなすれた子に育ってしまったんだ!?お兄さんは悲しいぞ!!」
「うわ!?やめ?そんなの斑目さんも同じじゃないですか!?」


本人達はじゃれあってるだけのつもりだが、荻上の目にはそうは映らない。
「あ、意外と笹原さんが受けってのも良いかも…。」

336笹荻BAD 3-2-23 :2006/04/28(金) 00:37:39 ID:???
眼鏡をはずすと一変し、強気に変わる斑目さん。
その眼鏡を掛けられると途端に流され受けになる笹原さん…。

「フフフフ」と笑いながら、妙な方向にワープし始めた荻上を見て、二人の動きが止まる。

「どこか行ってないか?あれ?」
「…サァ・・・ドコニイッテルンデショウネ?」
斑目の脇に抱えられたまま、笹原は引きつった顔で片言にそう答えるしかない。
荻上が笹原と斑目でワープしていることはすぐに分かったが、
それを斑目に言う訳には行かない。

第一・・・



何か今日のワープは方向性が違う気がした。


337笹荻BAD 3-2-24 :2006/04/28(金) 00:38:46 ID:???

「こんちわ〜。」
そうこうしているうちに大野が部室に顔を出す。
その手には…中味を問うまでもない大きなカバン。

「荻上さ〜〜ん?どこ行っちゃってるんです、これ?」
「さぁ、それはむしろこちらが聞きたいくらいで…。」
笹原は苦笑いしながら答える。

かなりディープな方向に飛んでいってしまっているらしく、
荻上の目は妖しい輝きすら灯り始めている。

「その方が都合は良いですねぇ…脱がしてしまえば勝ちですから。」
良いですねぇ…の後、途端に黒モードに切り替わる大野。

「あ、はは。俺達は撤退しますか?」
その様子に冷や汗を掻きながら笹原。
「そうだな。死体2つは片付けるとして。」
そそくさと退散の準備を始める男2人。

「あれ良いんですか?過程も楽しめば良いのに〜。」
大野はわざとらしく笹原に向けてそう言う。

「いや、良いです。『戻って』きた時、俺が止めようとしてなかったってばれると後が怖いんで。」
そう言い残して、斑目と共に部室の外に出る。

338笹荻BAD 3-2-25 :2006/04/28(金) 00:41:09 ID:???
ガサガサ、ゴソゴソ、ジー、バサ…
「さすが、脱がされ慣れてますねぇ。」

部室の中から聞こえる音と声にどぎまぎしながら耳を傾ける笹原と斑目。
「なぁ、笹原…俺思うんだけどさ。」
「はい?」
「部室から出たって『止めようとしてなかった』ことには変わらないんじゃないのか?」
「…俺ごときで止められると思いますか?あの大野さんを?」
「…カップリングさせられるのがオチだな。」
「…でしょ。」


「…って?え?え?何で私脱いでるんですか!?…!!大野先輩何やってるんですかぁああああ!?」
「やだなぁ。荻上さん、あんなにノリノリでコスプレしますって言ったくせに〜。」
サークル棟全体に響き渡る荻上の怒声と大野の楽しそうな声。

「言ってません!!言ってません!!笹原さん!!どうせ外にいるんでしょ!?何で止めてくれないんです!?」
「笹原さんなら後は任せた!!って言って行っちゃいましたよ。」
眉間にしわを寄せうなだれる笹原の肩に、斑目ぽんと手を置く。

「さぁ往生なさい。どうせもう!!上も下も素っ裸!!!!!!逃げ場なんて無いんです!!!」
「そう言うことを大声で言わないでください!!」
吹き出す笹原、ずっこける斑目。

339笹荻BAD 3-2-26 :2006/04/28(金) 00:42:18 ID:???
“上も下も素っ裸”と言う所をやけに大きく強調する大野と、既に声が半泣きの荻上。
「なんか萌えるシチュエーションだなぁ。」
「そ…そうっすね。」

大野の楽しそうな声と、荻上の半泣きの怒声、通路前でその様子を想像し激萌え中の男2人。
そして相変わらず死にッぱなしの2人。

「ふふふ。観念しましたか?
大丈夫!笹原さんの衣装もしっかり用意してます。
今日は逃げられましたがコミフェスの時はカップリングで着てもらいます!」

しわが寄った顔に手を押し当て、ずるずると座り込んでいく笹原。
「…奴は常にわれわれの想像の少し斜め上を行く…。」
昔の漫画のセリフで笹原を慰める斑目。


「笹原さんの!!!馬鹿ぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
どうやら、堕ちたらしい荻上の最後の断末魔がサークル棟にこだまする。

340笹荻BAD 3-2-27 :2006/04/28(金) 00:43:35 ID:???
「笹原君、斑目先輩、久しぶりです。」
「なに?この騒ぎ?また大野とオギーが何かやってるの?」
「や、高坂君に春日部さん…。」
高坂と春日部の到着に座り込んだまま笹原が顔を上げる。

「まぁ、色々と…。」
胸の高鳴りと、少しの嫉妬、安心感。
複雑な思いを隠したまま、斑目が春日部にそう答える。

「コレハイッタイナンノサワギダーーー!!」
階下まで響き渡る荻上と大野の声にただならぬものを感じたらしい
スーが息を切らしながら階段を駆け上がって来た。

「あ、ちょっと」
「ま…。」

部室のドアを開け放つスー。
止めようとして振り向いた斑目と笹原、事情が飲み込めず吊られて振り向いた
春日部と高坂の視界には…

完全にフリーズしている荻上と、視線を泳がす大野。

大野が着付けをしていたらしいが、見方によっては逆に脱がしているように見える。



気まずい沈黙。

341笹荻BAD 3-2-27 :2006/04/28(金) 00:44:43 ID:???
「シャッターチャーンス!」
「コレガデンセツノユリプレイカーーーーー!!」

いつの間にか復活を遂げていた朽木のデジカメがシャッターを切り、
スーが分かっているのか分かっていないのか、とんでもない発言をする。

それがきっかけで、止まっていた時が動き出す。



「離してください!!もう私お嫁に行けません!!」
「ここは三階だから!!お嫁になら俺が貰うから!!それに半裸だから!!」
窓から飛び降りようとする荻上を必死で引き止める笹原。

「お前には死すら生ぬるい!!!!!」
「にょ!?んひょ!?ああん!!にょほ〜!!」
怒りの形相で朽木をタコ殴りにしている春日部と何故か嬉しそうに身もだえする朽木。


「お嫁に貰うからって笹原さんったら、だいた〜ん♪」
「コノニクキュウノプニプニヲオソレルノナラカカッテコイ!!」
当の原因は無責任そんなことを言っており、
スーはゲームのキャラのセリフを絶叫している


「そのつながりベタ過ぎ…。」
斑目はそのセリフに冷静に突っ込みを入れる。

342笹荻BAD 3-2-28 :2006/04/28(金) 00:46:14 ID:???

「うわっ!?なんじゃこりゃ?」
「い…いったい何の騒ぎ?」
最後に田中と久我山が到着する。

「お〜久しぶり。久我山、痩せたんじゃねぇ?田中は逆に太ってるよなぁ。」
「く、苦労してんだよ。ま…斑目は全然変わってないね。」
「いろいろあんだよ。それより、お前本当に変わらんなぁ。ちゃんと働いてるのか?」
久々の再開、第一声に容赦ない言葉を浴びせ合う3人。

「ふざけんな!俺だって色々あるんだよ!」
「げ…現役より在室率高いOBだって、ゆ、有名だぞ。」
「そうだな。お前、実はもうクビになってるんじゃないのか?
それがばれるのが怖くて昼の時間だけ…」
「好き勝手言ってんな、田中!!」

そこでやいやいと口論を始める3人。




343笹荻BAD 3-2-28 :2006/04/28(金) 00:49:19 ID:???
元々、今日こうやって集まったのは世話になった礼がしたいと
笹原と荻上が提案したものだった。

しかし当の2人は混乱の極みにあり、春日部は怒声を上げながら朽木にヤキを入れている。
大野とスーはキャーキャー言いながら笹原と荻上を煽っているし、
斑目、田中、久我山に至ってはすでに最近の熱いアニメについて語り始めている。


もはや誰も何故今日ここに、こうやって
この面々が集まっているかすら覚えてはいないだろう。


「あはは〜。変わらないな〜。」
高坂はその滅茶苦茶ぶりを見ながら、上機嫌に笑っている。



それはそれは賑やかな、いつものげんしけんの風景。

...fin

344マロン名無しさん :2006/04/28(金) 00:55:49 ID:???
>笹荻BADEND
キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!
BADのみで終わらすかと思ったらしっかりGOOD(っていうかtrue?)つくってるじゃないですか!!
BADはBADで一つの物語として面白かったですし。
GOODはGOODで面白くて楽しくてよかったです。
なんかテキストアドベンチャーゲームみたいだったなあ。狙ってますよね?w
乙でした!


345笹荻BAD 3-2-終 :2006/04/28(金) 01:02:11 ID:???
以上です。
本編終了するまでに書き終えれて良かった。


サマー・エンド>
素敵な話に思いっきり欝入りました。

荻上、高坂だけでなく他のメンバーからの信頼や友情を捨ててでもと言う
咲と笹原、受け止めて成長したオギーも大野やスーの本気の怒りも
皆素敵でかっこよかったです。

そして欝でした。笹原〜…。

346マロン名無しさん :2006/04/28(金) 01:52:38 ID:???
>>笹荻BAD3-1
このラスト…か、カミーユですかっ!?
意外とスッキリと読めました。欝ですがorz

>>笹荻BAD3-2
まさかドタバタハッピーエンドとは!!

長編、乙でした!!

347筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:40:04 ID:???
調子にのっての第三弾です。
なんか書いていくうちに、どんどん暗くなっていく…

348筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:41:07 ID:???
千佳は台所に駆け込んだ。心を静めようと水を飲む。
突然吐き気に襲われる。吐く。吐いて吐いて、胃が空になっても吐きつづける。
(これは罰だ)
千佳はそう思った。
過去の行いを、その結果を、その罪を忘れ、人を好きになり、かつてと同じ事をしている自分への罰。
ふと視界に包丁が映る。
手に取り、刃先を見つめる。
そして首筋に当てる。冷やりとした感触。
(楽になりたい)
その一心で力を込め、る寸前で包丁を放り投げた。
死ぬわけにはいかない。
あの日、凍死する寸前だったわたしを救ってくれた義父の為に、義父を失ってなおわたしを愛してくれる義母の為に。
なにより、あの人の母は言ったのだ。
死んだあの人の分も生きろ、と。
罪を背負ったまま生きて、苦しんで、苦しみ抜いて死ね、と。

349筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:41:43 ID:???


”筆茶屋はんじょーき”



350筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:42:27 ID:???
「千佳さん、大丈夫?」
笹原の声に、千佳はびくリと体を震わせる。
「どこか具合でも…」
「来ないで!」
笹原は歩み寄ろうとした足を止める。
「大丈夫ですから…すぐに行きますから…来ないでください」
「…そう?」
少し悲しげに言うと、笹原は踵を返す。
遠ざかる足音を聞きながら千佳は、振り返って引き止めたくなる気持ちを、必死に抑えていた。

千佳はしばらくして店に戻ってきた。
少々顔色が悪いものの、普段と変わらぬように見えた。
しかし、笹原と加奈子は気付いた。
千佳が決して笹原の方を見ようとしなかったことに。

351筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:43:12 ID:???
夕刻になり、店を閉める。
以前、あまりの無為ゆえに、何か手伝わせてくれと頼み込んだ結果、この時には笹原も手を貸すのが常になっていた。
常であれば、「ご苦労さまでした」「また明日」で終わるのだが、今日は違った。
「…笹原さん。長い間ありがとうございました」
そう言って、千佳は少なくない金を笹原に握らせた。
「あの、これは?」
訳のわからぬ笹原が尋ねる。
「本当にありがとうございました。でも、明日からは来なくていいです。むしろ来ないで下さい」
千佳はうつむいたままそう言うと、笹原に背中を見せた。
「ちょっと待って!どういうことだよ!」
笹原の声に答えず、千佳は店に入ると表戸を閉めた。
「どういうことだよ…」
笹原は金を握り締めたまま呟いた。

352筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:43:59 ID:???
千佳は表戸を閉めると、その場にへたり込んだ。
涙が頬を伝う。
(これでいいんだ)
(わたしの所為で、笹原さんを不幸にしてはいけない)
(会わなければ、きっと忘れられる)
(わたしも、笹原さんも)
「笹原さん…」
千佳はそう呟くと、顔を覆って泣いた。
かすかな嗚咽が、誰もいない店の中に響く。

353筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:44:47 ID:???
あれから数日。
笹原は何もする気にもならず、長屋の自分の部屋に寝ていた。
実の所、今すぐにでも千佳の顔を見に行きたい気持ちではある。
しかし、『来ないで下さい』と言われた以上、それを違えるのも気が引けた。
「ちーす、アニキ〜。生きてるか〜」
間延びした声を響かせて、笹原の妹の恵子が訪ねてきた。
「あいかわらず小汚い部屋だな。そのうち虫が湧くんじゃねーの?」
「うるさいな」
相変わらずの毒舌ぶりに、笹原は面倒臭そうに返す。

余談であるが、笹原の部屋は恵子が言うほど汚くはない。汚さで言えば、斑目の部屋の方がよほど上だ。
もっとも男の一人暮らし、ということを考えれば、推して知るべしなのだが。

354筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:45:37 ID:???
閑話休題。

「何の用だ?」
「金貸して」
恵子の答えに、笹原は露骨に顔をしかめた。
「…また男に貢ぐのか」
「うるさいな。玉の輿に乗るには、それなりに金がかかるんだよ!」
「それで何度騙された?いいかげん現実を見ろ!」
「うるせえ、サル!説教なんてたくさんだ!」
互いににらみ合う。やがて笹原はため息をつくと、無言で文机を指し示した。
そこにはあの時、千佳にもらった金が、手をつけずに置いてあった。
「なんだ、あるんなら最初から出せよ…え?どっから盗んだのさ、こんな大金」
「人聞きの悪い事を言うな。荻上屋の千佳さんにもらったんだ」
笹原の答えを聞いて、恵子はにんまりと笑う。
「そういえば、加奈子から聞いたけど、その『荻上屋の千佳さん』と最近仲いいんだって?」
「アニキもやるねえ。女に貢がせるなんて」
「そんな訳があるか!」
「じゃあどういう訳よ」
憤慨する笹原に、恵子は興味しんしんといった体で聞き返した。

355筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:46:23 ID:???
仕方無しに、笹原はその日の出来事をかいつまんで説明した。
話を聞くうちに、恵子の表情がだんだん険しくなっていく。
「という訳なんだが…」
「ああ、そう。気になってる女が突然具合が悪くなっても、『大丈夫』って言ったから放り出して、『来るな』って言われたから、こんな所で悶々として、渡された大金の意味も、『わからない』で済ますんだ」
「サル並みの馬鹿だと思ってたけど、あんたサル以下だよ」
「おい、恵子」
「好きなんだろ?だったら気にならないのかよ!心配じゃないのかよ!」
「言われたから?嘘だね。アンタは知りたくないだけだ。知って傷つくのが怖いだけだ。怖くて逃げてるだけだ!」
「恵子!」
「うるせえ、馬鹿!サル!さっさと死んじまえ!!」
言い捨てて恵子は表へ飛び出していった。
金には一つも手を付けずに。

356筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:47:07 ID:???
「おっと」
笹原の部屋に向かっていた斑目は、飛び出してきた恵子とぶつかりそうになり、慌てて脇へ飛びのいた。
恵子は見向きもせずに駆け抜けていく。
斑目には、なぜか彼女が泣いていたように思えた。
「笹原、ちょっといいか?」
「…いいですよ」
斑目が声をかけるまで、笹原は煎餅布団に座って、不機嫌に黙り込んでいた。
「さっき恵子くんと会ったけど、何かあったのか?」
「いえ、別に」
「そうか。ところでだ、この間言った『剣を教えて欲しい』という奴だが…」
「どうかしましたか?」
「只だよな?」
沈黙が流れる。笹原は軽く噴出すと、
「わかりました。ほかならぬ斑目さんの頼みです。只にしましょう」
そう言って立ち上がった。

357筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:47:55 ID:???
木刀二本を手に、猫の額ほどの庭に出る。
片方を斑目に渡す。
「それじゃあやりますか」
言って構える。
「おい、いきなり手合わせかよ!」
「大丈夫、加減はします。それに腕前が判らなければ教えようがないでしょう?」
斑目はしぶしぶと木刀を構えた。
そして、さんざんに打ちのめされた。
「いたた…加減すると言ったじゃないか」
「してますよ。怪我してないでしょう?」
「痣にはなったがな。それで、俺はどうなんだ?」
「そうですね…とりあえず、素振りから始めましょうか」
「わかった。何回やればいいんだ?」
「とりあえず一刻ほど」
「時間で数えるのかよ!」
「付き合いますよ」
斑目の突っ込みをさらりと流して、笹原は木刀を構えた。

358筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:48:41 ID:???
一刻後、息も絶え絶えに突っ伏す斑目の隣で、笹原は平然と汗をぬぐっていた。
「…なあ、笹原」
ようやく声が出せる位に回復した斑目が問い掛ける。
「何か、『これさえ憶えておけば大丈夫!』というような必殺技とかないか?…身がもたん」
笹原のこめかみに青筋が立つ。
「斑目さん」
普段と異なる調子の声に、斑目は笹原を見上げる。
笹原は笑っていた。
そして、その背後に、ものすごい、怒りの気配を背負っていた。
斑目が詫びようとした瞬間、
「そんなものがあったら俺のほうが教えて欲しいですよ!!」
笹原は叫んだ。

359筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:49:27 ID:???
千佳は普段、荻上屋に寝泊りしている。
それはとある事情があってのことだが、その日、千佳は数日振りに荻上家の屋敷を訪れた。
「千佳さま」
用人の高柳が引き止める。
「覚悟のほうはお決まりでしょうか?」
「何度も申し上げておりますが、今や荻上家の跡取は千佳さましかいらっしゃらないのです」
「千佳さまには是非とも婿を迎えて子をなし、家を保っていただかなければならぬのです」
「先代が亡くなって早ニ年、もうこれ以上のわがままは…」
「千佳さま、奥方様がお呼びです」
女中の声に、高柳はしぶしぶ話を打ち切った。
千佳は安堵と罪悪感を覚えながら、義母の部屋へと向かった。

360筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:50:14 ID:???
「ごめんなさいね、千佳。また高柳に何か言われたでしょう?」
義母は床についたまま千佳に話し掛ける。
「いいえ。高柳さんの言う事は間違ってませんから」
千佳は答えながら義母を見る。
義父を亡くしてから、めっきり衰弱してしまった義母は、もはや自力で体を起こす事すらできない。
「まったくあの人は…いくら貴方がかわいいからといって、後先も考えずに養子縁組なんかしてしまって…」
「本当にごめんなさいね」
「いいえ。わたしは義父に拾って頂かなかったら、こうして生きていません。感謝しています。心から…」
千佳は思い出す。
実家から与えられたわずかな路銀を騙し取られ、女衒に売り飛ばされそうになったことを。
なんとか逃げ出したものの、身一つのみで飢えと寒さに震えていた時のことを。
飢えと寒さで朦朧とした意識の中、自分を抱きかかえてくれた義父のことを。
そしてその後、数日に渡って寝込んでいた自分が目を覚ましたときの、義父と義母の笑顔を。

361筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:51:07 ID:???
千佳は、自分が幸せだと思った。
そしてそれが苦しかった。
自分にそんな資格があるのか、という思いが沸き起こる。
義父も義母も、千佳の過去を問いはしなかった。
(それに甘えていたのかもしれない)
千佳は激しく後悔した。
(わたしは何も変わっていなかった)
(だから、そのうちきっとこの人たちを傷つける)
(やっぱりわたしはあの時に…)
「千佳」
義母の声に、千佳は沈んでいく思考を止められた。
「自分を責めるのはやめなさい」
「貴方の過去に何があったのかは知りません」
「でも、貴方が自分を責めて、不幸になっても、誰も幸せになれません」
「幸せになりなさい、千佳」
「それだけで十分です」

そしてこの言葉が義母の遺言となった。

362筆茶屋はんじょーき3 :2006/04/28(金) 21:54:08 ID:???
以上です。
一応、あと二話くらいで笹荻を〆て、さらに二話ぐらいで高咲、斑を〆たい、
と思っていますが…どうなることか。

363マロン名無しさん :2006/04/28(金) 23:24:33 ID:???
>笹荻BAD
なんて展開だ!
中島の落ちる瞬間、いやその前の行動次第で、まさにバッドエンドになったり、あんなに幸福なエンディングになったりと、スゴく面白かったです。

鬱展開は嫌いなんだけど、中島の「呪い」と、「静寂」を得た荻上の描写はイイですね。好きなエンディングでした。
願わくば「カミーユ」のように、誰かのために、そのとらわれた精神が再び解放されんことを…。

>筆茶屋3
重い話になってきましたね。
ヤナ側用人かよ。「荻上の世話を焼く」という点ではピッタリ(w
斑目のヘタレ具合もらしくてイイです。

364マロン名無しさん :2006/04/28(金) 23:32:30 ID:???
>筆茶屋はんじょーき
うおっ! タイトルに反してシリアスじゃのう!!
もっとほのぼのして欲しかったのに…。
でも、これはハッピーエンドのために反動をつけてるはず!! 続きに期待してます!

当初から笹原がタカリになってるようで、ちょっと心配だなぁ・・・。
店で茶〜飲んでるだけで用心棒て…。それ現代ではヤ○ザって言うんじゃ…。
定職に就け、笹原! それで荻上を幸せにできるのか!?

365マロン名無しさん :2006/04/28(金) 23:53:38 ID:???
「マダラメ三世/キモハラグロの城」の中編です。
やっぱり元ネタが元ネタなので、長くなりましたスミマセン。

11レス投下します。たぶん。

366マダラメ三世-2(1/11) :2006/04/28(金) 23:55:51 ID:???

「何で帰還しなけりゃいけないんですか!」

キモハラグロ城内の質素な控室で、北川警部の怒号が響き渡る。
彼女はインターポール本部に電話を掛けて怒り狂っていた。本部通達の帰還命令が腑に落ちないのだ。
「ナニ?……伯爵が気に入らないから“チェンジ”だぁ?……私はホステスじゃないんですよ!」
後ろで機動隊員の朽木と木村が顔を見合わせる。
(こんなホステス、俺らもチェンジしたいよな……)
ガッ!と、電話を叩き付けるように切った北川に、思わず直立状態になる朽木と木村。北川は、「伯爵に話をつけてやる!」と、一人で駆け出して行った。

……だがその後、北川警部は行方が分からなくなり、機動隊員は城を出て撤退することとなる……。


オギウエの召使いとして潜入しているサキは、城内でスパイ活動を続けていた。
伯爵のオフィスへの抜け道を歩き、資料庫らしき場所で書類を物色していたが、彼女の背後に人影が忍び寄る……。
「動くな!」と、人影の手がサキの肩を掴もうとした。

ガスッ!
振り向きざまのサキのグーパンチは、見事に背後の男を捉えた。
そこには、吹き出る鼻血を抑え、メガネをかけ直しながら、「ごふっ…こ、こ〜んばんは春日部さん」とあいさつするマダラメがいた。
よほど効いたのか、ヨロケそうな体はササハラに支えられていた。


367マダラメ三世-2(2/11) :2006/04/28(金) 23:57:45 ID:???
「あっマダラメ? うわゴメン……って、もうこんな所まで来ちゃったの?」
手を合わせるサキに、マダラメは愛想笑いで返し、「春日部さんこそ、こんな所にいるなんてね。……こ、コーサカは元気?」とたずねる。
「私らの事よりも、花嫁の居所が知りたいんでしょ?」

マダラメは、(そんなことはないんだけどな…)と思いつつ、「あらら、知ってたの?」とおどけて見せた。

マダラメとササハラは、サキから北の塔への侵入路や、「オギウエルーム」からの脱出路を教えてもらい、塔へと向かった。
ササハラ「なんか、“原典”と話が違いませんか?」
マダラメ「そこは流せ。俺に城壁と屋根を登らせたいのか?」


北の塔の部屋の中で、オギウエは明かりもつけずにうなだれていた。ただ一人で、(私にはこんな暗がりがお似合いなんだ)と思いを巡らせていた。
何度か抵抗し逃げようともしたが、それもかなわなかった。今の境遇は“好きになった人”を傷付けたことへの報いなのだと、自分を責め続けていた。

ふと、緩やかな風が頬に当たっている事に気付いた。誰かが部屋に入ってきている……?
「誰?」
「オタクです。こんばんは、花嫁さん」
暗がりの中からマダラメが現れ、「忘れ物ですよ」とオギウエに銀ブチのメガネを手渡した。驚くオギウエ。
「あ、ところで…さっきからちょいと気になってるんだけど」
マダラメは部屋の隅にある小さな机を指差す。トレス台に描きかけの漫画原稿が置いてあり、机の下の段ボールには製本された同人誌が……。
「今描いてるの、それ801っすか?」
「あ(やべ、見られた)」
製本された同人誌は、どうやらオギウエの作品らしい。
「あの、見ても……」
「ダメです!」と即座に拒否するオギウエは、「こッ、こんな所にまでわざわざメガネを返しに来たんですかッ!?」と話題を強引に切り変えた。

「あーあー、そうそう!……どうかこのオタクに盗まれてやってはくれませんか?」と、マダラメは本来の目的を伝える。
しかし、「はぁ…?」と生返事で無表情のオギウエ。
マダラメは、汗をしたたらせ、(あれ、あれれ? 俺なんか段取り間違えたか〜?)と動揺した。

368マダラメ三世-2(3/11) :2006/04/28(金) 23:59:27 ID:???
「あ〜〜〜何ということだろう!」
焦ったマダラメは両手を大きく広げ、小芝居を打ちはじめた。
「その女の子は、悪いキモオタの力は信じるのに、いいオタクの力を信じようとはしなかった。その子が信じてくれたなら、オタクはサーバーを飛ばすことだって、ジョッキの青汁を飲み干すことだってできるのにぃ……」

「信じなくてもデキマス」

ピシャリと言われて立つ瀬がないマダラメだったが、おもむろに、「…う、うううう…!」と苦しみ出した。
最後の手段だ。
意味不明のオタクを冷徹につっぱねていたオギウエも、思わず心配そうに見守る。
マダラメはゆっくりと、オギウエの目の前に拳を突き出し、ポンッ と小さなピンクのバラを出してみせた。
彼女に手渡すと、そこからパラパラパラと赤い糸につながる万国旗を取り出して行く。だが、糸がやけに長い。マダラメはいつまでも糸と旗をくり出してオギウエから離れて行く。

「あ、あの…どこまで?」
オギウエが尋ねた時、マダラメは部屋の柱の一つまで後ずさっていた。柱の向こうから誰かの手が伸びて、マダラメはその手に糸を渡した。
月が再び雲間から現れ、月明かりが部屋の中を照らす。柱の陰に隠れていた男が照らし出される。
オギウエの瞳は大きく見開かれ、驚きの声をあげようとした口を両手で覆った。
そこには、苦笑するササハラの姿があった。

「…今はこれが精いっぱい…」と、マダラメ。
オギウエが立ち上がり、ササハラの元へ駆け出そうとした瞬間。部屋の明かりが灯され、窓にシャッターがおろされた。


369マダラメ三世-2(4/11) :2006/04/29(土) 00:02:33 ID:???

城下町でマダラメを襲った「影」の群れが現れ、オギウエを引き離し、ササハラとマダラメを取り囲んだ。部屋の中央で背中合わせに影に対峙する2人。
「ど、どうしますマダラメさん……」
「………」

「いや〜、わざわざメガネを届けてくれて悪いねマダラメ〜」と、笑みを浮かべて、影の間からキモハラグロが現れる。
「早速だが君には消えてもらおう」
「やめて!、その人を傷つけてはいけません!」オギウエが叫ぶ。
「大丈夫だよお嬢さん、オタクの力を信じなきゃ」とマダラメ。
「ササハラさんっ!」
(あ、そっちね……)と赤面するマダラメ。瞬間、足下の床が開き、マダラメとササハラは深い穴の中に落ちてしまった。

両手で顔を覆うオギウエ。影どもが退き、キモハラグロが近付いてくる。
「ツンのフリをして、もう男を引き込んだか。わが妻にふさわしい」
「ひとでなし! あなたは人間じゃないわ」
「そうとも。ま、僕は自分では手はくださないけどね。でも君もそうさ。自分の描いた801絵で許嫁を傷つけてしまったじゃないか。
それを知らんとは言わさんぞ。お前は重度の腐女子だ。その体には俺と同じキモいオタクの血が流れている。結婚したら好きなだけ同人誌を描かせてやるからな…」

耳を塞ぐオギウエ。伯爵がオギウエの手首を掴み、その手に握られたメガネを手元に引き寄せる。
「ごらん、我が家に伝わる金ブチのメガネと、この君の銀ブチのメガネが1つに重なるときこそ、秘められた財宝が蘇るのだ」


370マダラメ三世-2(5/11) :2006/04/29(土) 00:05:02 ID:???
その時、銀のメガネから、落とし穴に落ちたはずのマダラメの声が聞こえてきた。

『あ、聞いちゃった聞いちゃった〜お宝目当ての結婚式。ニセ同人作りの伯爵の、言うことやること全てウソ!』

直後、『僕にも言わせてくださいよ!』と、ササハラの声が割って入った。
『ゴホンッ……お、女の子はとっても優しい素敵な子……』ササハラの声だ。オギウエがメガネに、「ササハラさん! オタクさん!」と話しかける。

『はーい元気ですよー。女の子が信じてくれたからねー、空だって飛べるさぁ』
「くそっ…そのメガネか。よこせ!」
オギウエからメガネを奪い取ったキモハラグロ。メガネからは続けてマダラメの声が聞こえてくる。
『やい伯爵よく聞け。本物のメガネは俺が預かってる。その子に指1本触れてみろ、大事なメガネはぁこうだ!』
ポンッと、ニセのメガネが景気よくはじけた。


頭上には吊るされた死体が、足下に骸骨が散乱している地下。その一角で、マダラメとササハラが座り込んでいた。
本物の銀ブチメガネをもっているからには、追っ手がくるだろう。マダラメは、その時が脱出のチャンスだと考えていた。

誰も居ないはずの空洞の向こうから誰かが近付いてくる。
警戒したマダラメだったが、それは伯爵に抗議しに行って、まんまと落とされていた北川警部だった。
彼女は視界にマダラメが映ると、ササハラには目もくれずに駆け寄ってきた。
「マダラメ〜! 出口はどこ? 何処から入ってきたのアンタ!?」
「ごめん北川さん、俺らもさ、落っことされてきたんだ」
がっくりとうなだれ、その場に座り込む北川。
「その様子じゃだいぶ歩き回ったんだな。足の方は大丈……」
「うるさい!」と、マダラメの言葉をかき消した北川は、足を悩ますアレの話題をごまかすように話を切り出した。
「…そ、それにしてもどうなってるのここ?」
「北川さん、そこの壁、ちょっくら見てみな…」
北川は骸骨をおそるおそる足でどけてから、壁に掘られた文字を凝視した。


371マダラメ三世-2(6/11) :2006/04/29(土) 00:08:29 ID:???
『帝國陸軍漫画研究調査部 高柳少佐ここに眠る』

「うわ〜、ナンマンダブナンマンダブ〜」
思わず手を合わせる北川。
「ただの城じゃぁないと思っていたけど、これほどまでにして守る秘密とは…。あなたの狙いもそれなの?」
「それをやってんのは春日部さん。ホトケさんになんなきゃいいけどね……。まあ、ジタバタしても始まらないさ。ひと休みひと休み…」


しばらくして、地下室の水路を、メガネを取り戻しに「影」が泳いできた。
影が地下室の一角で眠っているマダラメとササハラを見つけて近づいてきた時、物陰から北川警部が飛び出してきた。
「ゴラァ!このキモオタの手下がァ!」
ビビる影を3人がかりで叩きのめし、逃げる相手を追ったマダラメが、水路の出口を見つけた。
マダラメと北川、ササハラは地下室を脱出し、棺桶が並ぶ部屋の隠し扉から出てきた。

そこで彼らは、まるで印刷所のような部屋を見つけた。
人の気配がないことを確認して、3人は部屋を探索する。そこには大量の同人誌が製本され、梱包されていた。驚く北川警部とササハラ。
マダラメは梱包を破って、各年代の同人誌を見つけては2人に向かって投げ入れた。
「CCさくら…、キャポ翼…、ラム…、うおー、メルモちゃんまであるぜ!」

同人誌を山のように抱え、わなわな震える北川は、「…これがこの城の秘密なの?」と叫ぶ。
マダラメが答えた。
「そうさ。かつて本物以上と称えられたゴート本の心臓部がここだ。動乱の影に必ずうごめいていた謎の萌え絵。
ヨーロッパに日本の春画のニセモノを広め、某凶悪犯がオタクであるとの過熱報道の誤解を生み、“キャポテン翼”の画風をコピーして801同人ブームの引き金にもなった。
オタ史の裏舞台、同人界のブラックホール……ゴート本。その震源地を探ろうとしたものは、一人として帰ってはこなかった」


372マダラメ三世-2(7/11) :2006/04/29(土) 00:11:11 ID:???
「うーむ…、噂には聞いていたが、まさか独立国家が営んでいたとは…」
「北川さんどうする? 見ちまった以上後戻りはできねえぜ」
「わかってるわ。こういうクズのために貴重な紙資源が浪費されるのか、私には許せない!」
目を血走らせる北川警部。

マダラメがニヤリと笑い、「じゃあ、ここから逃げ出すまで、一時休戦にすっか?」と提案した。
「いいでしょう。でも脱出した後には必ずアンタを逮捕するからな!」
「上等だ。ほんじゃまぁー、握手と」
北川警部は思わず握手をしてしまう。
ハッとして思わず手を引っ込め、「フ、フンだ! 馴れ合いはしないんだからね!」とソッポを向いた。
その姿を見たササハラが苦笑いする。
「……北川警部、ツンデレの要素アリじゃないスか?」
北川「!!」


北の塔の部屋。トレス台にひじをかけ、窓の外をボンヤリと見て佇むオギウエがいた。
(地下室があるって聞いたけど、ササハラさん、あのオタクさんと2人っきりで地下にいるのね……寂しさを紛らわすためにお互いの……キヤーーーッ!)
思わず「笹×斑」でワープをして、ハッと我に帰る。
(いかんいかん! ほだなこったから……でも……)
おもむろに鉛筆を握り、シャッシャとノートにササハラの顔を描き始める。

ササハラは、彼女が大公家に居た時から、とても優しく、フランクに接してくれる使用人だった。そう…許嫁だった他国の貴族の息子マキタが、彼女の「絵」のせいで行方をくらませて以来、ササハラはオギウエの心の傷をやわらげてくれる存在だった。
ま、それでも妄想のネタであることに変わりはないが。
強気攻めのササハラの似顔絵を描き終わった。
「うっわー、無理あるー……じゃ次は流され受けの……」

そこでふと、人の気配を感じたオギウエ。
すぐ隣に、ニヤついた表情で見下ろすサキが居たのに気付き、顔面が蒼白になった。


373マダラメ三世-2(8/11) :2006/04/29(土) 00:13:30 ID:???
「なーんにも見てないよ、私」ニヤニヤしたまま、聞かれてもないことを否定するサキ。しかし、コホンと咳をしてから、「ごめんねオギウエさん。潮時が来たんでお別れを言いにきたの」と告げた。
「は?」
「本当はワタシ、この城の秘密を探りにきた女スパイなの。もうチョットいるつもりだったけど、マダラメが来たでしょ。メチャクチャになっちゃうからもう帰るの」
「あのオタクの人を知ってるの?」
「うんざりするほどね。時には味方、時には敵……。コスプレを見られた時もあったかな……」
サキのような綺麗な女性の口から「コスプレ」という単語を聞き、驚くオギウエ。

「コスプレしたの?」
「まさか。させられたの!」

サキは超不機嫌そうに答えた。どうやら彼女にとってコスプレはトラウマらしい。
「マダラメ一味は根っからのオタクよ。まあアンタも中身は変わらないかもしれないけど、気をつけてね」
「わっ、私はそんな…」

オギウエが反論しようとした時、場内にサイレンが鳴り響き、オギウエの部屋の落とし穴の隙間から煙が漏れはじめた。
「マダラメね、始まったわ!」


ニセ同人誌の山に火を放ったマダラメたちは、消火に来た衛士たちを押しのける様にして逃走した。抜け道を駆け上がると、なんと大仏像の裏に出てきた。
「仏堂だ。どういう趣味してんだあのハラグロ?」
3人はさらに、庭へと出て階段を駆け上がり、城のヘリポートに止まっているオートジャイロを奪取。マダラメ、ササハラ、北川の3人が無理矢理乗り込んで飛び立った。

オギウエが囚われている北の塔にたどり着くと、マダラメは操縦をササハラに任せてオートジャイロから飛び下りた。
塔の屋根に降り立ったマダラメは、天井の扉を明けて、サキとオギウエに声を掛けた。2人をロープで引き上げると、ササハラの慣れない操縦で右往左往するオートジャイロを誘導する……。

瞬間、マダラメは背後から銃撃を受けた。弾が背中から胸へと貫通する。同時に狙撃を受けて爆煙をあげるオートジャイロ。
前のめりに倒れ、屋根の上を滑り落ちるマダラメを、サキが体を投げ出して止めた。

「!」
血が屋根をつたって流れ落ちてくる。サキは、(やだ、冗談やめてよマダラメ!)と、思わず顔をしかめる。

374マダラメ三世-2(9/11) :2006/04/29(土) 00:16:18 ID:???

ライフルを構えたナカジーとキモハラグロ伯爵が塔の物見に立っていた。
「サキ、お前には後でたっぷり聞くことがある。ナカジー、マダラメにトドメを刺せ」

オギウエが2人の前に立ちふさがる。
「“ナカジマ”やめて、撃ってはダメ!」
躊躇するナカジー。伯爵が鼻で笑い、目を細める。
「見上げた心掛けだオギウエ。メガネを取り戻してここへ来い。大人しく僕の妻になればマダラメの命は助けよう」
オギウエは、マダラメの懐から銀ブチのメガネを取り出し、キモハラグロの方へと歩き出した。

「撃ちます?」ナカジーがささやく。
「メガネが来るまで待て」
そこへササハラの操縦するオートジャイロが煙をあげながら現れ、ガラガラと屋根を破壊しながら降りてきた。慌てるナカジーの銃撃を避け、サキが倒れたマダラメを抱きかかえてオートジャイロに飛び乗る。
4人も人を乗せたオートジャイロは大きく揺らぐが、炎と煙を煙幕にして飛び去って行った。
捕らえられたオギウエは、涙を浮かべながらそれを見送るしかなかった。


城の動きを監視していたタナカとオオノが不時着したオートジャイロからマダラメとササハラを救出した。
サキはその場からすぐに去り、北川警部もまた、状況を説明すべくインターポールのパリ本部へと向かった。

そしてマダラメは、ササハラ兄妹と“ある少女”が暮らす家で手当てを受けて眠っていた。

マダラメが眠る部屋のドアが開き、食物を持ってササハラがやってきた。
「どうですか、具合は?」
「熱は下がったみたいだ…ササハラのお陰だよ」と、タナカが頭を下げた。
「礼ならあの少女に言ってください。誰にも懐かぬ堅物が、マダラメさんから離れようとしない。そうでなければ皆さんをここまで匿ったりはしなかったですよ…」


375マダラメ三世-2(10/11) :2006/04/29(土) 00:18:25 ID:???
ベッドで死んだ様に寝るマダラメのそばに、目つきの悪い金髪の少女が片時も離れずに座っていた。マダラメはやがて、少女の刺すような視線に気づいて目を覚ました。

「よう…、スージー」

「気がつきやがった!」「マダラメさん、傷はどう?」
タナカとオオノが声をかける。
マダラメは、2人に目を向け、「タナカ、オオノさん、卒業式以来だなぁ」と呟く。
「何言ってるんだよ」「傷による一時的な記憶の混乱ね」
再びマダラメは少女に目を向け、「スー、今日はあの筆頭の子と一緒じゃないのかい?」と語りかけた。
ササハラが、「どうしてその女の子を知ってるんです? スーというあだ名は、僕とケーコのほかはもう、オギウエさんしか知らないはずだ」と問い掛けた。

「オギウエ? そうかぁ…お前の友達はオギウエっていうのか…オギ…」
記憶が蘇ってきたマダラメは、目を大きく見開いてベッドから飛び起きた。
「タナカァ! 今日は何日だ、あれから何日経った!?」
「み、み、3日だよ」
「じゃあ結婚式は明日じゃねーか。こうしちゃあ……イデエ!」
うずくまって傷の痛みに耐えるマダラメは、絞り出すような声で呻いた。
「同人だ〜、同人誌もってこい!」

一同「はぁ?」 

「“成分”が足りねえ〜。ツルぺタでもメガネでも何でもいい、ジャンッジャン持って来い!」
呆れるタナカとオオノだが、ササハラは意を決して立ち上がった。
「俺が何とかしましょう。……俺のは、ツルペタは少ないですが…」
タナカは思わず、「持ってんのかい!」と突っ込んだ。


376マダラメ三世-2(11/12)←ごめん :2006/04/29(土) 00:20:47 ID:???

マダラメは、ササハラが用意した同人誌の山をガツガツとむさぼるように読みふけっていたが、急に動きが止まった。

タナカ「どうした。ティッシュか?」
オオノ(……あ、何か嫌な空気……)
マダラメは倒れる様にベッドに潜り込み、鼻息が荒いまま眠りについた。
タナカ「…読んだから寝るって…」

タナカとオオノは、ササハラからオギウエの話を聞いていた。
「オギウエさんはもともと絵の好きな子だったのですが、当時の許嫁が行方不明になったときから、頑なに自分の本心を隠すようになったと聞いています……」
「許嫁の行方不明ですか。その後大公夫妻も死んでるし、解せないですね」とオオノ。
「キモハラグロが関わっているのかもしれません。それでオギウエさんはスーを危険な目に遭わせないように僕にあずけて…」
ササハラが視線をスージーに移す。彼女はずっとマダラメのベッドのそばを離れない。
タナカが、「そうか…この子は、マダラメの体にオギウエさんの匂いを嗅ぎつけたってわけか…」と呟いた。

ササハラ「なんでマダラメさんはスーのことを知っていたんだろう…」
タナカ「さあな…何しろロリコンだからな」

「そんなんじゃねえよ」と、眠っていたはずのマダラメが、ポツリと口を開いた。
「もう何年も昔だ。俺は1人で売り出そうと躍起になっているA-Boyだった。バカやってイキがった挙句の果てに、俺はゴート本に手を出した。“ジリオス”のアップルちゃん本でイイのがあったからな……」

……キモハラグロ城に侵入したマダラメはすぐに見つかり、逃亡途中に背中に矢を受け、湖へと転落した。何とか泳ぎ切り、大公邸の庭へと逃げ込んだが、庭木の陰で力なく横たわった。
気が付くと、スーが倒れたマダラメを見つめていた。そこに、メガネをかけた幼いオギウエがやってきた。
オギウエはマダラメを見つけ、驚いて逃げて行く。
「どうやら年貢の納め時がきやがった…」
しかし、マダラメの目の前に、水の入ったコップが差し出された。オギウエだ。
「震える手で水を飲ませてくれたその子の顔に、あのメガネの銀ブチが光っていた…。恥ずかしい話さ。メガネ見るまで、すっかり忘れちまってた…」


377マロン名無しさん :2006/04/29(土) 00:22:43 ID:???
>笹荻BAD END
面白かったです。
BADのほうはあくまでシリアス、荻上さんが「心が壊れた」シーン、悲しかったけど、
話としては上手い、と思いました。
GOODの展開は大好きです!皆がわいわいしてるのが、とても「げんしけん」らしくていい!!

>筆茶屋はんじょーき
続編乙です!笹ヤンかっこよく描かれてますなあー。荻上さん、いわくありげな感じですね。いいですね。今後どうなるか楽しみです。
うーむ…斑目もうちょっとカッコよくならないかなあ…斑目は社交性があると思うので、情報屋(趣味は春本集め)とか…
…ま、イチ意見ということで。

378マダラメ三世-2(12/12) :2006/04/29(土) 00:25:04 ID:???

回想していたマダラメの横で、スーが立ち上がった。
屋根に近い小窓を睨む。そこから、口紅のキスマークがついた新聞の切抜きがヒラヒラと舞い落ちてきた。

タナカが手にして、「春日部さんだ……。なになに…“明朝結婚式のため、高野山から久我山大僧正が来る”ってさ」と、切り抜きを読み上げた。
「あ…、た、タナカ…俺にも読ませて…」マダラメが必死に手を伸ばす。
「お前は安静にしてろよ」と、タナカは切り抜きを丸め、暖炉に投げ入れた。

(あーーーーーーーっ! そりゃないぜタナカ!)
心の中で悲鳴をあげたマダラメ。「サキのキスマーク入り」の切り抜きをゲットし損なったのであった。


パリのインターポール本部でキモハラグロの悪行を訴えた北川警部だったが、各国代表の反応は鈍かった。
「これは高度に政治的な問題なんだよ」と言われたものの、北川は納得いかない。思わず(エロ絵の本を掴まされてんじゃねーのか?)と疑った。

出動はなくなり、マダラメ担当の任務も解かれることになった北川警部は、オフィスで飲んだくれて、眠りこけていた。

ジリリリリリリリリリリ……!

古びたダイヤル電話が鳴り響く。北川は目を閉じたまま受話器を取る「私もう降りるわよ……、サキ!?」
思わず目を覚ます北川。
「え? マダラメが結婚式を襲うの?」

「そうよ警部。マダラメが相手なら、天下御免で出撃できるでしょ」
電話を掛けたのはサキだった。彼女は、北川にある提案をして同意を得ると、携帯電話を切った。
「準備OKね、コーサカ」と、隣でハンドルを握る優男に笑顔を見せた。

オギウエの望まれぬ結婚式に向けて、マダラメ一味が、サキが、北川警部と機動隊が、行動を開始しようとしていた。

<つづく>

379マダラメ三世-2 :2006/04/29(土) 00:28:08 ID:???
以上です。
すみません結局12レスでした。
原典でお馴染みの活劇部分などは、お馴染み過ぎるし、余計に長くなっちゃうのでアッサリと書いちゃいました。ムラのある中身で申し訳ないです。
終局は、ほぼ書き上げているので、2〜3日したら最終回を投下させていただきます。

ほんと長いばかりでスミマセン。

380マロン名無しさん :2006/04/29(土) 00:30:48 ID:???
>>筆屋
おおう〜。なんかマジな話でいいな〜。
これからの展開が楽しみでござる。

>>マダラメ三世
おなじみのシーンをうまくパロディにしてて面白いです。
さて、終局に向けてどうパロディにするのか楽しみですねえ。

381マロン名無しさん :2006/04/29(土) 00:33:38 ID:???
>マダラメ三世
良い! 良いパロディーです!!
いやー、ドキドキして読みましたよ!
「今はこれが精一杯」はズキューーンときたなコレ!!

げんしけんのキャラと原典を、高次元で融合させている!!
素晴らしい!! 面白い!!
終局に期待大だ!

注目は最後の北川警部のセリフですね。

382マロン名無しさん :2006/04/29(土) 02:06:07 ID:???
>マダラメ三世
まず、すいません!投下の邪魔しました>>377
失礼なことを…ほんますいませんでした。

さて。面白いです!!マダラメ三世のへタレぶりに何度も噴きました。
特に「それ801っすか?」からオギウエさんにバラを出すシーン、星条旗がながーく伸びて「今の俺にはこれが…」なとこがw
自分としては屋根を飛び越えるシーン、やってみて欲しかった気もwいや、あれできちゃったらマダラメじゃないっすね。

最後の場面も、めちゃ楽しみですw続編期待してますw

383マロン名無しさん :2006/04/29(土) 04:27:23 ID:???
>>筆茶屋はんじょーき3
いきなりシリアス展開。これは反動ですね。次回に期待!
とか言ってたら、39話「私がオタクと」以来延々と引っ張られたみたいに
筆茶屋でも欝展開で引っ張られたり…しないですよね!?
笹原の身の振り方どうなるんだろう。
筆茶屋の入り婿しつつどっかの藩邸に剣術指南とか?
道場持っちゃうと池波正太郎の剣客商売っぽくなってしまうし。
ともかく続編期待です!

>>マダラメ三世2
斑目はどこの世界でも斑目www
主役のはずなのに美味しいところを全部持ってかれてます。
だがそれがいい!面白かったです。




384マロン名無しさん :2006/04/29(土) 15:18:50 ID:???
あの、何かSSスレ凄く加速してません?
感想が追っつきません!
これはもしや、最終回間際の駆け込み投下…

絶望した!
本来喜ばしい現象に対してまで、最終回の影を見てしまう自分のネガティブさに絶望した!

385マロン名無しさん :2006/04/29(土) 17:58:48 ID:???
>絶望先生
まだ絶望するのは早いですよ!単行本8巻が出るまではみなさん書かれるはずです。
きっと!連載終わっても。
その後の荻上さんの話、笹原の話…もっともっとこれからSSスレで読めるはず。
だからそ−いうこと言わないの。SSスレが死んだらどうする!!


386マダラメ三世御礼 :2006/04/29(土) 22:26:35 ID:???
>>190 >>203
遅くなりましたが、1回目へのご感想ありがとうございます。
>絶妙なキャスティングですね
>連中の卒業パーティーの出し物のような?

そうですね〜。役柄を当てはめて、みんな楽しんで演じる感じでもありますね。でも、2回目から出てきたスー、役柄として「犬」なんですが(w


で、2回目の感想を寄せていただいてありがとうございました。

>>380
>おなじみのシーンをうまくパロディにしてて面白いです。
ありがたいお言葉。パロディにしていく過程はとても楽しいです。
げんしけんのメンツは「普通の人たち」だけに、他所の作品世界に当てはめるの楽な気がします。「801小隊」読んでてもしっくりくるし。

>>381
>「今はこれが精一杯」はズキューーンときたなコレ
オギウエとササハラの間の「赤い糸」をつなぐ役割であって、主役としての「精一杯」じゃないことが切ないかも。

>>382
いえいえ、もともとこちらの投下がトロい上にレス数勘定違いをしていることもあって、かえって申し訳ないです。

屋根の飛び越え、自分も大好きなんですが、アレをやる斑目って想像つきません。たぶん壁上る前に帰っちゃうと思う……。

>>383
>斑目はどこの世界でも斑目www
>主役のはずなのに美味しいところを全部持ってかれてます。
それが奴の生きざま。だから愛おしい(w

どうもありがとうございました。

387マロン名無しさん :2006/04/29(土) 23:28:08 ID:???
>サマーエンド
えぇ、今頃読みました。遅いのは判っています。
判ってますがそれでも突き動かされたのですっ!!!

>「私、幸せなんですよ? この子と二人で…、今すっごくすっごく幸せなんです。
> この子が歩いたり、喋ったり、遊んだり、泣いたり、笑ったり、それ全部独り占めできるんですから。
このシーンを想い、一枚描かせていただきましたので投下させてください。
ttp://bbs2.oebit.jp/ogilove/data/IMG_000053.png
拙い絵で申し訳ないです。

エピローグで凛として、ちゃんと生きているオギーが書かれていて救われました。
もちろん本編も良かったですよ!!
お疲れ様です。良い作品をありがとうございました。

他のSSも読みたくなってきたので、今から読んできますorz



388マロン名無しさん :2006/04/29(土) 23:50:14 ID:???
>>387
うおっつ・・・。思い出してしまった・・・。
衝撃的で、少々読んだあと震えてしまったあのSS・・・。
しかしながら、可能性のひとつとして面白かった。
・・・心に残るんだよなあ・・・。

389現聴研第7話(1/3) :2006/04/30(日) 01:24:29 ID:???
斑目「えー緊急夏フェス対策、曲目全然決まってねぇよ会議を始めます〜。」
今日は居並ぶメンバーを前に、斑目が会長席に座る。現聴研に珍しく
緊迫した雰囲気だ。全員揃って…いや、クッチーは逃げている。
斑目「え〜〜〜(汗)、ここに至る経緯は置いといて!これからどうするか
     話し合いましょう!で、今から選曲して何曲出来るの?」
笹原「あと2週間じゃ、やりたい曲というよりバンド譜が存在する曲を選んだり、
     俺がデータ作成済みで荻上さんも弾ける曲を選ぶしか無いですよね。
     ただ、バンドで出るのに今から現聴研の人に頼むの厳しいですよ。」
斑目「……という事ですが、どうですか久我山さん?」
久我山「………て、ていうか、言いだしっぺが楽器未経験って無理あるよね。」
斑目「だからそれは置いといてね!」
部室にさらに気まずい雰囲気が流れる。
笹原「だから、就活で忙しい久我山さんの選曲優先で、って言ってたじゃないですか?
     荻上さんなんて久我山さんが選びそうだからって、UNDER-13の曲の
     ギターもう10曲コピーして来たんですよ?たぶん1週間掛ってないですよ!」
ヒートアップしていく笹原。隣で荻上は気まずく目を伏せている。
笹原「で、選曲絞れないからって、無理って言ったのに、俺に選ばせましたよね?
     好きに選べっていうから、宇佐実森と鈴木翔子から4曲で音源作ったら
     案の定全ボツで、なんて言ったか覚えてますか!?
     『ベース音聴き漏らし有るし、パーカスおかしいし。あとUNDER-17は外せないよね』
     って、それだったら自分で最初に指定しとけって話ですよ!」
激昂して机をバンバン叩く笹原に、荻上はビクッとする。

390現聴研第7話(2/4) :2006/04/30(日) 01:25:13 ID:???
久我山「あー、そ、それは俺が悪かった……。で でもさ、俺が言いたいのは
     も もっと根本的な所で、ふ 二人の温度差みたいなもんだけど。」
笹原「なんですかそれ。もともとやりたくなかったって事ですか?」
久我山「い、いや『だんだんやる気が失せてきた』」
笹原「………それは俺のせいナンデスカ?」
久我山「お、俺も忙しいし、結局、笹原がやりたいってだけなら、バンドじゃなくって、
     ぜ ぜ、全部の音を一人で打ち込んだら良いんじゃないの?」
笹原「何言ってんですか!現聴研としてマイナーな曲をバンドで大勢に
     聴かせたいんじゃないですか!」
久我山「バンドでや、やりたいって言っても、さ 笹原は舞台で演奏しないのにな。
     …自分の趣味とか会長としての実績に、げ、現聴研を利用したいんじゃないの?」
笹原「……そんなに言うんだったら、もう久我山さん、やらないならやらないって
     スッパリ今、言ってください。」
やばい雰囲気を察して斑目が割り込む。
斑目「まーまーまー!ここは建設的にね!現聴研として、奏るのかやらないのか、
     やるならどんな形式で何の曲をやるか、どーよ?」
久我山「バ、バンドじゃなくって笹原だけで出るんなら良いんじゃないの。」
笹原「それじゃ現聴研で出す意味無いですよね、辞めましょうか。」
笹原も久我山も憮然とした様子で、現聴研に沈黙が続く。
荻上が、意を決して口を開いた。緊張の面持ちで笹原たちを見る。
荻上「あ、あの―――。私が何でも頑張って伴奏しますから、シンプルな構成になっても
     奏りたい曲で、頑張ってやりましょうよ。」
しかし笹原はスッパリと断ってしまう。

391現聴研第7話(3/4) :2006/04/30(日) 01:26:05 ID:???
笹原「いや、それじゃ現聴研でやる意味ないから!それに荻上さんだけに
     負担がかかるのはおかしいよ。荻上さん一人で抱えなくていいから。」
荻上「………そーですか―――。」
荻上は、目に力を失って、座るのだった。
笹原「こうなったら、久我山さんは出演されないっていうことですけど、ドラム
     サンプリングしてでも加わったら良いんじゃないスか?
     これからスタジオで録音しに行きましょうか。」
久我山「ふーん…結局、人を利用するのな。な なんか笹原ってハラグーロみたいだよね。」
笹原「………それは言いすぎでしょう?」
久我山「そ そうでもないんじゃない?」
さっきから、久我山と笹原しか喋っていない。現聴研の面々は俯いている。
笹原「久我山さん、今やらなかったら楽器やってる意味無いんじゃないですか?
     というより、通しで人前でやったこと無いというか、やれないんですよね。」
久我山「笹原だってやれないのに、人にそんな事言えた柄かよ!」
笹原「楽器出来なくても機械でやってるでしょう!久我山さんこそ楽器やってる意味無――。」
荻上「グスッ。」
ふと見ると、荻上が大粒の涙をその大きな目から、溢れさせていた。
グスッ、グスッ………。
荻上の涙をすする音が、部室に響く。
激昂していた笹原と久我山も、気まずくなって黙ってしまった。
やがて春日部が立ち上がって、荻上にハンカチを渡しながら笹原に話しかけた。
春日部「笹原、その楽譜と音源リスト見せてみ。」
笹原「あ、うん…。」
と、笹原から楽譜と音源リストを受け取った春日部は、ぺらぺらと楽譜をめくる。
春日部「じゃあ笹原と久我山とそれに荻上、あと大野がキーボードとコーサカがベース!
     何でも良いからすぐ出来る曲、今、4つ選びなさい!」

392現聴研第7話(4/4) :2006/04/30(日) 01:27:32 ID:???
笹原「え……?あと2週間しか無いのに……出来る曲って言っても―――。」
春日部「ずっと聴いてたんだから知らない曲じゃないでしょ!
     これから2週間、スタジオ毎日通って、空き時間は自主練しなさい。
     2週間それ『だけ』一緒にやってりゃ上手く合わせられないわけないよ。
     責任取れって言ってんだよ!!」
あっけに取られる現聴研の面々だった。話が感情的にこじれていただけで、
そうすれば良かった道をパッと示された体だった。
春日部「じゃあ選曲会議、だらだらするんじゃないよ。30分以内ね。見張ってるから!」
パンパンと手拍子をして、動きの止まっていた場を急き立てる。
そうして春日部は荻上に耳打ちするのだった。
春日部「ステージでやりたかったんでしょ。いざとなったら一人で弾き語りでもやっちゃえ。」
荻上「いえ、別に自分がやりたかっただけじゃ―――。」


それから2週間、スタジオで、ドラムを叩き、部室で、熱心に雑誌を叩く久我山や、
ギターを弾く荻上、ベースを笑顔でこなす高坂、キーボード前で指をワキワキしてほぐす
大野の姿や、スタジオの隅でマイクを持つ斑目の姿などが見られた。
そして夜遅くまで笹原の部屋に集まり、ヘッドフォンを回しながら、ああでもない
こうでもないと議論が続く続いて、2週間が過ぎた。
そしてスタジオで―――。
笹原「じゃ、今から4曲通しで仕上げ行きまーす。」
その合図に合わせて久我山がスティックを打ち鳴らして拍子を取り始めた。
淀みなく、たとえ間違えても全体でノンストップで4曲一気にやり終える。
一部失敗のあった事での苦笑混じりながら、充実した笑顔が皆の顔に浮かぶ。
明日はいよいよ夏の野外音楽フェスティバル本番だ。
その頃、田中も自室のミシン台前で舞台衣装を仕上げ、充実したいい笑顔を浮かべていた。


393マロン名無しさん :2006/04/30(日) 01:29:48 ID:???
以上です。
荻上さんの「グスッ、グスッ」を書きたいだけだったんですが、しんどかったです。
次回はいよいよライブ本番。何の曲にするかまだ決めてません(爆)。
知ってる曲ならリクエスト受け付けます〜(知識は狭いです、すみません(汗))。

394マロン名無しさん :2006/04/30(日) 03:13:20 ID:???
笹荻BAD END感想ありがとうございました。

指摘頂いた通り、テキストアドベンチャー、
平たく言えば一時流行ったストーリー重視のエロゲーwを意識してました。

3-1ルートも意外と受け入れて頂けたようで幸いでした。
特にZを意識した訳ではないのですが、
この手の話が好きなので色々混じってると思います。

3-2ルートはオギーがちゃんと「日常に」戻ってきたと言う意味もこめて
メンバーによるどたばたのエンドにはするつもりでしたが、
自分で読み返して原作終了間際の寂しさもあいまって
こうあって欲しいメンバー卒業後の現視研が入ってたような気がします。


ともあれ、長レス欝話に長々お付き合い、
ご感想頂きありがとうございました。

395マロン名無しさん :2006/04/30(日) 12:54:23 ID:???
>現聴研第7話
乙です!すごく自然な流れで、面白かったです。次はいよいよ夏フェスですね。
…斑目やっぱ歌うんだ…楽しみで仕方ないっ!!
久我山が本番で何とか頑張ってる姿も楽しみです。
もちろん荻上さんの晴れ舞台も!!!

396マロン名無しさん :2006/04/30(日) 18:14:27 ID:???
>現聴研
>………て、ていうか、言いだしっぺが楽器未経験って無理あるよね。
たしかにコレは気まずいかも。
初ライブ編として毎回楽しみにしてますが、いよいよ演奏本番!楽しみにしてます。
マイナーな曲のリクエストっつうか自分の好みですが、MOON CHILDはマイナーすぎるかなあ。あのバンドの「微熱」「ひぐらしと少年」は良いよ。機会があったら聞いてみてください。

397マロン名無しさん :2006/04/30(日) 22:08:20 ID:???
>>395
ありがとうございます、次回頑張ります。
どんな風になるのか…マイナーながら知られてる曲のが良いかとか思ったり
そのうち、しばらく考えてから書きます。

>>396
楽しみにしてもらって有りがたいです。
残念です…MOON CHILD聴いてませんorz


39837 :2006/05/01(月) 04:51:38 ID:???
今回も読んでいただいた方に感謝です
>>38
夏休みの宿題はまとめるタイプですw大当たりです。
まだ、絶望するには早いですよ!
>>39
スペックは〜この次に各話で描写しようかと思っているのでもう少し待ってください!
っていうか絵になったら悶えそうです!
DQとFF論はまんま私の私見です。
>>40
クライマックスまでは・・・。一応後5話の予定です。その後の話も書こうかななどと・・・。
次の時はもうラブラブっすよ!もう目も当てられないほど!
>>41
アニメにしたい〜。私にその能力があれば・・・。しかし無いのでしょうがありませんw
ダレカ アニメ タノム(マテ
原作でも曜湖さんは於木野さんが出てきてからが本当に魅力的。
この二人の掛け合いが楽しすぎますw

399398 :2006/05/01(月) 04:52:43 ID:???
ということで、今回は番外編です、両方とも。
やっぱり25レスほどで投下します。

400第801小隊第0話『before・・・』1 :2006/05/01(月) 04:54:46 ID:???
before meeting you

アキバコロニー。
宇宙に出来た三番目のコロニーであり、宇宙交通の要所である。
様々な人、文化が行き交うその巨大なコロニーでは、内部で様々な集落を生んだ。
皇国の独立宣言に伴い、地球圏への足がかりとなるこのコロニーにもその影響は及んだ。
コロニーの自治政府内部でもどちらに与するかで意見が割れ、内部抗争の発端となった。
チカ=オギウエはそんな不穏な空気の中、日々を過ごしていた。
「うあー、寝坊しちったー。」
いいながらオギウエはハイスクールへの道を駆ける。
あせりながらパンをくわえているその姿はお世辞にもおしとやかとはいえない。
時期は卒業。迎える彼女は、今後に対するそこはかとない不安を抱えてはいた。
しかし、学校での日々と仲間たちはその不安を拭ってくれていた。
「お、おはよー・・・。」
何とか間に合って教室へとついたオギウエを迎えたのはいつもの仲間。
「遅いよ、何やってんの。」
そういいながら笑う真向かいに座る少女に、オギウエはむくれる。
「・・・だってさ、軍人さんのデータ手に入ったから面白くて・・・。」
「それで遅くまで?・・・ありえないね。
 あんた、そんなものばっか読んでるから色気がないとか言われるんだよ。」
「うるさいな、ナカジマは。」
オギウエは軍人に対し物凄い興味を持つ少女であった。
その興味はなぜ起きたかというと、11歳の時九死に一生を軍人に助けられたことがあったからだ。
それがどこの人であったかは今わかることもないのだが、憧れは募る。
今では、軍人の追っかけに近いことをしていた。
「でも、それも戦争の飛び火がこっちに来たらそれ所じゃないよね。」
「うん・・・。なまじ詳しいから、不安になっちゃってさ・・・。」
「いやだね、戦争なんて。」
「あー・・・。卒業したらどうなるんだろ。」
今の抗争でどちらが勝利するかによって状況は変わる。
皇国は学徒動員を掲げており、そちら側についたら大学など進学どころではなくなりそうなのである。
かといって連盟についたとしても、その安全が保障されるわけではない。

401第801小隊第0話『before・・・』2 :2006/05/01(月) 04:55:46 ID:???
「なるようになるしかないけどね・・・。うちの親父なんかは皇国の仕官だからさ。」
「あ、そうか。じゃあ、皇国側に付かないといけないんだね。」
「そういうことになるね。まあ、私がどうこう言うことでもないし。
 親父は親父でいろいろ悩んでるみたいだしね。」
「ふーん。」
そういって教室を眺めるオギウエ。その不安はどの生徒にも感じられた。
他の仲間も、口々に不安を述べる。
「愚痴るくらいしか、できることもないけどね。」
そういって皆で苦笑い。
「マキター、あれ、マジで皇国軍が欲しいって?」
その言葉を聞いて、少し気になったオギウエはその方向を見る。
「まあね。びっくりしたよ。僕みたいな学生が作ったものをよもやねえ・・・。」
マキタ、と呼ばれた青年と、坊主頭の青年が会話している。
「何の話してるのかね?」
「さあ?マキタのびっくりどっきりメカの話じゃない?」
ナカジマと他の仲間が会話している。
マキタは科学に精通し、その相棒である彼と共に様々なものを作っているというのは学内では有名な話だ。
「皇国軍に採用なんて、すごい話なんじゃないの?」
「かもねー。」
そういってまた違う話題に移る皆。オギウエはその後も視線を戻さずにマキタの方を見ていた。
マキタの視線がこちらを向く。視線が合う。微笑まれてしまった。
「────!!」
びっくりして視線をはずすオギウエ。
「どうかした?」
ナカジマに聞かれて、首を全開で振る。
「な、なんでもないよ。」
不思議なことにオギウエはマキタと視線がよく合う事が多かった。
だから驚いたわけなのだが。またか、と。
その最中である。

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!


402第801小隊第0話『before・・・』3 :2006/05/01(月) 04:59:03 ID:???
警報が鳴って、すでに二時間が経った。
どうやらこの付近で軍事衝突が起こったらしい。
学校の指示の元、オギウエたちはまとまって避難していた。
向かっているのは宇宙港。
「船に乗るってことは・・・。疎開かあ・・・。」
誰かがそうぼやいた。
このコロニーが要所であるだけにこうなるかもしれないというのは誰しもが覚悟していたことだ。
避難船に乗り、皆は一応落ち着いて席に座っていた。
「みんな・・・大丈夫かな・・・。」
オギウエは家族のことを考えてそう呟く。
「あ・・・そうだ。」
携帯を取り出し、連絡が取れないかを確認する。
船が出港する。振動が響く。

プルル、プルル、プルル・・・。

『あ、チカ?大丈夫なの?』
「お母さんこそ大丈夫だった?」
宇宙でもつながる通信装置を使っているため、すでに船は宇宙にありつつも繋がった。
『うん。いまね、船に向かってるわ。他の皆もそうしてるって。』
「そう・・・。よかった。」
『あんたはもう宇宙?それなら・・・。』

ドグワアアアアアアン!!

携帯の向こうから大きな衝撃音が聞こえた。
「お母さん!?お母さん!?」
『・・・わ、分からないけど、大きな爆発があったみたい・・・。』
少し不安になる。なにか、いやな予感が・・・。
『大丈夫よ、もうすぐ船につくんだか』

ツーツーツー

403第801小隊第0話『before・・・』4 :2006/05/01(月) 05:04:21 ID:???
通信が途絶えた。呆然とするオギウエ、そして周りからどよめきが起こる。
その方向を向くと・・・。
「・・・コロニーが・・・。」
コロニーは燃えていた。大きな炎と、光を撒き散らしながら。
一瞬、その光が収まったかと思った。
すると、そのすぐ後に、大きな光が宇宙空間に広がった。
目が眩むほどの大きな光。皆が一瞬コロニーの姿を見失った。
そして、皆の目が元に戻り、そのコロニーがあったはずの方向を見ると。
そこにあるはずの大きな機械の塊がなくなっていた。
「・・・え?」
誰がもらしたかもわからないその言葉。
誰もが呆然とした。誰もがなにが起こったのかわからなかった。
その日、一つのコロニーが消滅した。

落ち込み、誰もが言葉を発しなかった。
沈痛な空気が立ち込める中、船は皇国軍の基地へと到着する。
「諸君らには非常に悲しいお知らせだが・・・。」
そう、船の乗員であるハイスクールの生徒に向けて話す皇国軍士官。
「アキバコロニーは午前10時未明、連盟の兵器によって消滅した。」
その言葉に、分かってはいたのだろうが彼らの感情があふれ出す。
泣き喚く生徒、大声で叫ぶ生徒。大きく地面をけり、落ち込むようにしゃがむ生徒。
「生き残った船はこれとあと一船のみ。おそらく諸君らの家族は・・・。」
そういって沈痛な面持ちの仕官。
「諸君らは当面、我々が保護する。当面の生活は保障しよう。
 その上で問いたい。この非道な行いを許せるものはいるか?
 ・・・いやしないだろう。それならばその手助けを我々はしようかとも思う。
 我が軍で共に戦おうという志のものがいれば名乗り出て欲しい。」
その言葉に、共鳴し、叫ぶ生徒たち。
その姿に口の端をニヤリとゆがめる仕官。
それを眺めていたオギウエは、なんとも言い知れぬ寒気が走り抜けた。
そして同時に、いままで感じたことのない強い昂ぶり・・・もまた感じていた。

404第801小隊第0話『before・・・』5 :2006/05/01(月) 05:05:27 ID:???
「・・・皆、やるの?」
そういったオギウエは仲間たちが皆軍隊へ参加する意向であることに驚いていた。
「そりゃそうさ!家族は連盟に殺されたんだよ!?黙って大人しくしてろっていうの?」
口々にそういう仲間やクラスメート達。
「・・・オギウエもやろう。」
ナカジマの言葉に、怖さを感じつつも、自分も許せないことは同じだった。
憎い。
自分の中にこんなにも強い憎悪というものが生まれるのだろうか。
気付けば、あの最後の母親の声が頭の中でリフレインしていた。
「分かった・・・。」
オギウエは大きく頷いた。

彼女らはその後、まとまって軍事訓練を受けることになった。
目的が目的であるため、彼女らは非常に優秀に育っていった。
時に互いに励ましあい、時に互いを鼓舞しながら。
憎しみを互いに語り合うことで、彼女らにはさらに強い繋がりも生まれていた。
そして、半年の歳月が流れた────。

「ナカジマ、どうしてるかな?」
訓練の大半が終了し、仲間と今後どこに配属されるかを話していた荻上たち。
ナカジマは、三ヶ月が経った頃に、一人違う訓練を受けることになった。
親が軍の仕官であるため、その後継としての訓練を受けているらしい。
「分からないけど、いつかまた会えるでしょ。じゃね!」
そういって仲間たちは別れる。
一人、訓練施設を歩いていると。
「・・・君がオギウエさんだね?」
「・・・はあ、そうですけど。」
初老の男性に声をかけられたオギウエはキョトンとした。
「会わせたい方がいるのだが、来て頂けるかね?」
「・・・はあ。」
その男性に連れられて、ある部屋へと進む。
そして、その部屋の中で出会ったのは、懐かしい顔であった。

405第801小隊第0話『before・・・』6 :2006/05/01(月) 05:06:48 ID:???
「・・・久しぶりだね。」
「ナカジマ・・・!!」
その中には、仕官、いわゆる少尉以上の軍服を着たナカジマが立っていた。
「ふふ。オギウエ、あんたは私の部隊の所属することになったから。皆もね。」
「え・・・!?本当!」
「皆でね、連盟のやつらを倒そう。」
「・・・うん!」
再会の喜びに加え、今後の自分が息のあった仲間たちと共に過ごせることが嬉しかった。
「私の配属先は、地球。最前線だよ。」

やってきた地上は物凄い環境であった。荒野である。
コロニーや訓練施設とは違い、空気は洗浄されておらず、周囲も砂や埃が舞う環境である。
地球とはこんな酷い所なのか・・・とスペースノイドである彼女らを苦しめた。
しかし、そのあたりは訓練を受けてきた軍人である。
目的成就のために日々、懸命に働いていた。

「オギウエさん・・・?」
基地に来て一週間、声に呼び止められて振り返ると、そこにはマキタ。
「ま、マキタ君・・・。訓練で見かけなかったからてっきり・・・。」
戦わずして逃げたのだと思っていた。
「はは。僕はね、科学者として登用されたから。学校で作ってたシステムの転用でね。」
「そうなんだ。じゃあ、ここで研究を続けてるってこと?」
「もう少しで完成する。そうしたら、皆の助けになるんじゃないかなあ・・・。」
「・・・楽しみにしてるね。じゃ。」
「ああ。それじゃ。」
そういって離れる二人。
少しだけ、嬉しかった。また会えたことが、嬉しかった。
「マキタ君・・・。いたんだなあ・・・。」
そう呟くと、自然と顔が綻んだ。この半年、消え去っていた感情。温かい何か。
自然とオギウエの歩調は軽やかになっていた。

406第801小隊第0話『before・・・』7 :2006/05/01(月) 05:07:40 ID:???
「・・・というわけで、この兵器は使用者を限定します。その選別を・・・。」
基地に兵が集められ、マキタが前で言葉を紡いでいた。
どうやらその兵器は周囲に精神障害をもたらす兵器であるとのこと。
使用者には、それに対する耐性がついてなければならないこと。
「・・・。」
ついに完成した兵器に、オギウエは期待する。
これで勝てる。敵を討てる。
その威力の説明を聞き、自然と高揚感も高まる。
その高揚感に多少の違和感を感じつつも、それはすぐに立ち消えた。
そして、その適正試験が行われた。
次々と仲間が脱落していく中、オギウエは残っていた。
生まれ持ってミノフスキー粒子からの干渉性が低かったらしい。
そして、そのパイロットへと、選ばれたのである。
決意を固めるため、髪を後ろで縛るのではなく・・・。頭頂で縛り付けた。

「・・・オギウエ、これから先、あの兵器を使うための耐性強化を行う。
 そのために、色々と不都合が出ることもあるらしいが・・・。それでもいいのか?」
ナカジマはあえていつもの口調でなく上司として話しているのが分かった。
「・・・かまいません。私が一番よいのならば、望むところです。」
オギウエははっきりとした強い口調で言う。
その姿を見たナカジマはオギウエに近づき、抱きつく。
「・・・・・・ごめん。」
「何で謝るのさ。」
「私、オギウエのためなら何でもするよ。」
「なーにいってるの。私の望みは連盟を討つ事。それだけだよ。」
「・・・・・・わかった。絶対に叶えてみせるから。」
そういったあと、二人は笑った。

実験が始まった。マキタの指導の下、ミノフスキー粒子への耐性強化の実験である。
神経を強化するために様々な刺激を与えていく実験だ。
あらゆる実験に、オギウエは耐えた。まるで、死をも恐れないかのように。

407第801小隊第0話『before・・・』8 :2006/05/01(月) 05:19:24 ID:???
「くっ・・・・・・、ううっ!!」
電流が迸る。苦悶の表情を浮かべつつも、必死に耐えるオギウエ。
「・・・。」
それを苦い表情で、ガラス越しに見つめるマキタ。
「・・・ここまでにしよう。」
そういって装置を切る。
「はぁ、はぁ、まだ!まだ大丈夫だから!」
「だめだよ。これ以上は命に関わる。」
「でも!」
「・・・だめだよ。」
そう呟いて、マキタは席を離れ、オギウエに近づく。
「これをつけておけば少しは楽になるから・・・。」
そういって、青い、透き通ったペンダントを渡された。
そのプレゼントに、少し嬉しさがこみ上げるが、すぐに立ち消えた。
感情が、何かおかしくなっていることに気付いた。しかし、それも感情の昂ぶりの中で立ち消えた。

「やめろっていうの?」
マキタと二人で食事をしていたとき、マキタがオギウエに実験をやめるよう言った。
「ああ・・・。これ以上は体が・・・。」
「大丈夫だって言ってるでしょう!?」
「でも・・・。・・・君には人殺しはしてほしくないんだ・・・。」
「いまさらなにを・・・!!」
そういって激怒したオギウエは席を立ち去っていった。
「・・・してほしくないんだ・・・。」
マキタはその姿を後ろから見つめるしかなかった。

徐々に、感情が昂ぶっていくのが分かる。
抑えられないほど攻撃的になっていくのが分かる。
嫌なのに。自分がそうなっていくのが嫌なのに。
それでも、心に憎しみが消えないんだ。

私の心は、どうなってしまうんだろう?

408第801小隊第0話『before・・・』9 :2006/05/01(月) 05:30:52 ID:???
「やっぱり・・・君が適格者だったとはね・・・。」
MAから出てきたオギウエを待っていたマキタはそう呟いた。
冷たい目をしたオギウエ。マキタは、実験が成功したことが分かった。
兵器の運用しても、オギウエの体調に変化は見られなかったのである。
自嘲めいた笑いをして、首を振る。
「こんなこと・・・。」
「・・・マキタ君。MAのこと、お願いするね・・・。」
それだけを言い、外へと出て行った。
「・・・だめだ。やっぱりこんな事。やめに・・・。しなきゃ・・・。」
そういって何かを決意した表情でマキタも外へと出て行った。
その姿を、ナカジマが見ていたことを二人とも気付かなかった。

「・・・この機体は破棄するよ。これ以上戦争を大きくしたくない・・・。
 あいつも、納得してくれたしね。」
二週間がたった頃、研究室にてそうオギウエに伝えるマキタ。
MAの起動準備が出来たと聞いて来たオギウエに、マキタはそう告げた。
「あいつも、ここまで一緒にやってきたけど、同じ意見だった。」
苦笑いすると、オギウエを見つめた。
「だから、オギウエさんももういいんだ。」
「・・・マキタ君。そこまで・・・。でも・・・。」
「・・・これで仕上げだ・・・。この二週間で・・・。準備は出来た・・・。」
そういうとマキタは指を目の前に出すと、左右に振る。
視線が左右に振れ、意識が飛ぶ。
「・・・『いってらっしゃい、チカ』。」
そのまま、ぼうっとしているオギウエを、マキタは座らせる。
意識が遠のいたのか、眠りに落ちてしまう。
「マキタ博士。少しきてもらおうか・・・。」
その声にマキタが振り向くと、そこにはナカジマと、何人かの兵士がいた。
「・・・わかった。オギウエさんは疲れているみたいだからそのまま寝かせてあげてくれ。」
「ああ。わかった。」
そういったナカジマは、オギウエの顔を慈しむように見た。

409第801小隊第0話『before・・・』10 :2006/05/01(月) 05:32:08 ID:???
司令室にて後ろ手に縛られたマキタは、ナカジマを睨む。
少しの間。
「・・・僕をどうするつもりだ・・・?」
口を開いたのはマキタだった。
「死んでもらう。お前の行動は全て調べさせてもらった。
 これは立派な反逆罪だ。」
ナカジマと対峙していたマキタに、銃口が向けられる。
「何で・・・。そこまでして戦争がしたんだ・・・。」
「オギウエの望みだからだ。お前には解らないかもしれないが。」
「違う!そんなこと望んじゃいない!」
叫ぶマキタに対し、ナカジマは意に介せずニヤリと笑う。
「なんとでも言え。お前は邪魔だ。あの子を惑わせる。」
「くっ・・・。」
「相棒とあの世で仲良くな。」
その言葉に顔の血の気が引くマキタ。
「まさか・・・。あいつも・・・。」
「ああ。問い詰めたら戦争なんてするもんじゃないとか言い出す始末・・・。
 軍人としては失格だな。」
「ナカジマ・・・。どうしちゃったんだ・・・。お前そんなやつじゃなかっただろ・・・。」
「・・・私は私だ。何も変わっちゃいない。」
「・・・もういいさ。殺せ。」
「言われるまでもなく。あの兵器は十分に活用させてもらうよ。」
そういわれて引き金を引くナカジマ。しかし、マキタはその瞬間に笑顔を見せた。

ドンッ・・・。

「ぐっ・・・。」
膝から堕ちる。
あんなもの作った罰だったのかな・・・。
それでも・・・彼女だけは・・・。
あのMAに仕掛けた仕組みがうまくいけば・・・。
そう考えながら、マキタの意識は遠のいていった。

410第801小隊第0話『before・・・』11 :2006/05/01(月) 05:35:02 ID:???
銃声が聞こえたような気がして、オギウエは目を覚ました。
・・・自分がなぜここにいるのかがわからなくなっていた。
私は何をしていたんだっけ?
ボーっとする頭の中で、自分のするべきことを思い出そうとしていた。
ん・・・。何だったっけ・・・。
思い出せるのは、私が軍隊に入って・・・。
憎くて憎くてたまらなかったんだ。
でも、怖かった。
憎しみに心が満たされるのが怖かったんだ。
あの時感じた悪寒は、きっとそのことを感じてた。
それでも私は・・・。
・・・だからかな・・・。いつからか・・・。
死にたい。
そう思うようになっていた。
心が、憎しみに埋め尽くされる前に。

「どうされました、お嬢様。」
通路を歩きながら、司令室へと向っている二人。
初老の男性が、ナカジマに向かって語りかける。
「お嬢様はやめろといってるだろう?じい。」
「ふふっ、あなたもその呼び方を変えるのではなかったのですかな?」
「・・・っ!まあ、いい・・・。」
少し恥ずかしそうに顔を不意と横に向けるナカジマ。
「博士の・・・。最後の顔だ。・・・まさか!」
ナカジマがはっとして駆け出す。
丁度目の前に来ていた司令室に入り、ナカジマは叫ぶ。
「MAは!?大丈夫か?」
「?順調に調整中です・・・。このあと試験に入ろうかと思っていますが・・・。」
「そうか・・・。取り越し苦労か・・・。」
ナカジマは、ふう、と息を吐く。
「・・・私は寝る。少々疲れた。オギウエには細心の注意を。」
「了解。」

411第801小隊第0話『before・・・』12 :2006/05/01(月) 05:36:26 ID:???
オギウエは整備場にいた。
眼前に見えるのはあの兵器の搭載された不思議な形のMA。
丸く、上部に太いアンテナ、左右に細いアンテナがある。
皇国ならではのモノアイも、非常に大きなものを使用してある。
ここに、なぜか足が自然と向かっていた。
まるで、何かに誘われるように・・・。
その最中、先ほどたどり着いた自分の結論に納得していた。
思えば実験でも無理をしていた。皆は頑張りすぎって言ってたけど・・・。
あれは・・・。きっと死んでも構わないと思ってただけなんだ。
「おい!何をやってる!」
「・・・試験だ・・・。」
口が自然と言葉を紡ぐ。それに納得したように整備士は引き下がった。
乗り込んだMAの起動を始める。
『だれだ?勝手に起動させているのは!!?』
通信が入るが答える気が起きない。
何かに操られるように・・・。オギウエは操作パネルに触れる。
なぜか、操作法を知っている。
起動する。そのまま、機体は出発する。
整備室の扉を壊しながら、MAは飛び出す。
『パイロット!!止まれ!まだ実験は始まってないぞ!!』
もはや、その声に、何も感じられない。
『その先は連盟の領土だぞ!くそっ!』
どんどん、加速していく。
頭の中が真っ白になっていく。
どんどん・・・。どんどん・・・。
ボンッ!
大きな音がしたかと思うと、機体が揺らぐ。
「!?」
そのまま、機体は地上へと落下していく。
「・・・よかった。ようやく、私死ねる。」

412第801小隊第0話『before・・・』13 :2006/05/01(月) 05:37:30 ID:???
「え?皇国のMAですか?」
ここは第801番地区防衛基地、通称第801小隊の基地である。
夕方、当直をしていたマダラメとササハラ、クチキに入ってきた情報。
「うん。周囲の住民が伝えてくれてね。」
大隊長がやってきて伝えてきた。
「はあ・・・。」
「・・・あの地域って誰か住んでましたっけ?」
「そこは流せ。・・・じゃあ、いくか。第801小隊、出撃!」
マダラメが大きな声でそういうと、三人は立ち上がった。
ササハラは、久々の大事件に、緊張感と共に不思議な高揚感を感じた。
何かが起こりそうな・・・。
そんな予感。

これは、ササハラとオギウエが出会う前の物語である。

413幕間〜曜湖さんと於木野さん :2006/05/01(月) 05:55:03 ID:???
9月23日・現視研部室
「ぐすっ・・・。」
「・・・悲しいお話ですね。」
「・・・でも、この後、第一話に続くわけですし・・・。」
「ですね・・・。早く完結しないかな・・・。・・・あ、なつかしい〜。」
「どうかしました?」
「今年の放送データまとめてたら、フォルダに古いラジオのデータが残ってて。」
「え、何時のですか。」
「二年前・・・。の八月ですね。」
「じゃあ、笹原さんが二年の時の?」
「ええ、そうですよ〜。斑目さんと笹原さんがパーソナリティのです。」
「・・・えっと・・・。」
「聞きたいですよね?」
「・・・ハイ。」
「最近素直でいいですね〜。」
「・・・早く流してくださいよ!」
「恥ずかしがらなくてもいいのに〜。」

414ラジヲのお時間・番外編1 :2006/05/01(月) 05:55:41 ID:???
〜BGM・『マムシ72歳のげんしけんラジヲ!』テーマソング〜

〜FO〜

「オッス!いつ誰が聞いてるか分からないげんしけんのネットラジオを聞いてくれてる奴等オッス!
 今日もワシ、マムシ72歳と!」
「ベンジャミン武世でお送りします。」
「いや〜、夏コミもまた楽しかったのう!」
「ですね〜、今年も暑かったですが〜。」
「そうじゃな。冬コミで折った部分がズキズキ傷んだもんじゃ。」
「・・・まじっすか?」
「・・・・・・ウッソ〜。」
「だろうと思いました。」
「やーん、最近ベンちゃんつめたーい。」
「気持ち悪い言葉つかわんで下さい。」

〜BGM・完全にFO〜

「というわけで、今年の夏コミも大盛況じゃったな!」
「そうですね、去年より増えてたんじゃないっすか?」
「かもしれんのう・・・。」
「まあ、三日目は多少増えても人だらけには変わらないですしね。」
「まあな〜。」
「今回は、大手はあまり買えなかったすね。」
「まあ、オフセならすぐ同人ショップで売られるしのう。」
「コピー本は、すぐ無くなっちゃいますし。」
「じゃのう。それでも並んでしまうのは人のSAGAか・・・。」
「まさにそうっすね・・・。」
「今回はそれでもなかなかいい本が別口で買えたからよし!」
「まじっすか。ああ、あの蓮子本。」
「そうじゃ!作家さんのHPがあったんで、今後の動向も気にしとる!」
「そういう出会いがたまらないんすよね〜。」

415ラジヲのお時間・番外編2 :2006/05/01(月) 05:58:50 ID:???
「というわけで、お便り紹介じゃ!頼むぞ、ベンジャミン。」
「はいはい・・・。って最近紹介俺ばっかじゃないっすか?」
「いいじゃないか。こういうのはサブパーソナリティがやるもんじゃろ?」
「まあ、そうっすけど。」
「はようせい!」
「はいはい。えーと、RN『三代目引き篭もり』さんから頂きました。」
「なんつーRNじゃい。」
「まあまあ。
 『オッス!マムシさん、ベンジャミンさん。
  夏コミはやっぱり盛況でしたね!今回もくじアンはいい本揃ってましたし。
  他にも色々な漫画やゲームの本が出てるあの会場ですけど、
  美少女がたくさん出てくる漫画、もしくはゲームの走りって何ですかね?
  俺、最近そういうのにはまって昔のものって疎いんですよね・・・。
  マムシさんなりのでいいんで、その辺の変遷とかお教えいただけないでしょうか。』」
「ほうほう、いわゆる、ハーレムものの走りってことじゃな。」
「そういうことじゃないっすかね・・・。」
「まかせろい!中学からその道を全力疾走だったワシに任せい!」
「・・・いくら何でも早すぎです。」
「馬鹿言え。最近の若者は小学生からそういうのに手を染めとるそうじゃぞ。」
「まじっすか。」
「おうよ。ジャプンやマガヅン、ウェンズデーでそういう作品が一時期増えたからな。」
「小学生といえばロコロコじゃないんですか?」
「だから、二分化されちょるんよ。」
「んー、ロコロコ見るような子に育って欲しいっすね・・・。」
「いやあ、ロコロコはロコロコで茨の道ぞ?」
「あー、カードっすか?」
「おうよ。なんでもカードにしちまうあの関係者はある意味すごいわい。」
「コマミ・・・恐るべし・・・。」
「まあ、それはおいとくぞい。」
「しかしながら、最初ってなんでしょうね?」

416ラジヲのお時間・番外編3 :2006/05/01(月) 06:00:26 ID:???
「走り、というか原点に戻ればやっぱり『どきメモ』じゃい。」
「ですよね。元をさらにたどればPC98とかにも手は伸びそうですけど・・・。」
「でもな、大きな流れ、という意味じゃやはりこれじゃよ。
 PCEで出たとは思えん情報量といい、今でも楽しめる作品じゃ。」
「これは俺はPS版でやりましたね。」
「なにぃ!この外道が!ちゃんとPCE版をやれい!」
「や、ちょっと待ってくださいよ、あんなプレミアのついてそうなもの・・・。」
「部室にあるわい!」
「まじっすかー!知らんかった・・・。」
「まあ・・・。SFC版が以外にいけるという噂もあるがな・・・。」
「SS版も突拍子もない新機能つけて笑えましたけどね。」
「あの告白モードじゃろ?あれは・・・シオリたんにいじめられたいやつ用じゃわい。」
「M専用って事っすか。」
「そういうことじゃい。まあ、それはおいといて。」
「当時としては鮮烈なゲームでしたよね。女の子を落とすゲームって・・・。」
「じゃな。そういう意味で、ゲーム世界で擬似恋愛をすることが出来るようになったんじゃ。」

〜『女々しい野郎どもの詩』・CI〜

「音楽じゃわい!『どきメモ』から〜、『女々しい野郎どもの詩』。」

〜『女々しい野郎どもの詩』・CO〜

「ってなんでまたこの曲すか。」
「や〜、この曲が流れている時の悲しみというかのう・・・。 
 わざと嫌われている時に告白して振られる時のボイスコンプリしてるときとかに
 聴き過ぎて鬱になったもんじゃわい・・・。」
「SS版もやりこんだんっすね〜。」
「まあな!ワシはユミじゃよ〜、ユミ。」
「ああ、妹キャラっすね・・・。あれ?でも・・・。」
「なんか文句あるんかい!?」

417ラジヲのお時間・番外編4 :2006/05/01(月) 06:01:18 ID:???
「前ボソッと「アサヒナさんもいいかもな」って言ってませんでした?」
「・・・!!いってねーよ!!」
「あ、そうっすか?・・・って言うか今素じゃなかったすか?」
「う、うるさいわい!!・・・そういうお前は誰よ?」
「うーん、1はこれといって・・・。しいて言えばコシキさんか・・・レイ?」
「コシキさんはベタとしてもレイって・・・。またマニアックな・・・。」
「あの隠し事をしながら主人公に絡んでくるところがいいんじゃないっすか〜。」
「むう。まさに『ツンデレ』か。」
「ははっ、かもしれませんねえ。」
「大空寺アユが生み出した言葉は過去にも適用可、か・・・。」
「君のぞ、面白かったっすね〜。」
「まあ、泣きゲーに関してはまた後でな。
 しかし、こうやって振り返るとすでに様々な属性が揃っていたのう。」
「ですねえ〜。まあ、俺としては2の方が好きだったりするんすよ。」
「マジか?まあ・・・。あっちはあっちで面白いが・・・。」
「2なら断然ヤエさんですけどね。」
「またベタな〜。なに?おまえ隠し事とか影のあるのに弱いんか?」
「え?・・・そうなのかな・・・。今まで考えたこともなかったな・・・。」
「・・・ま、いったんCMじゃ。」

〜ジングル・『マムシ72歳のげんしけんラジヲ!』〜

〜CM〜
「彼女の故郷」
「彼女が見せてくれたのは」
「美しい舞だった」
「巫女神楽」
「DVD発売決定!」
「『笹荻の帰省』も、好評発売中!」

〜ジングル・『マムシ72歳のげんしけんラジヲ!』〜

418ラジヲのお時間・番外編5 :2006/05/01(月) 06:19:07 ID:???
「巫女はいいのう〜、巫女は。」
「そうっすね〜、巫女さんはかわいいっすよね。」
「そうじゃのう・・・。何でこうもそそるかのう・・・。」
「うーん、やっぱり汚しちゃいけないものを汚すって言うか・・・。
 そういうシチュエーションには快感はありますよね・・・。」
「やってはいけない事ほどやりたくなる・・・犯罪者一歩手前の発言じゃのう。」
「制服も、ナース服も、結局そうだからじゃないっすか?」
「まあのう。人の心理っちゅうもんはそういうもんかもしれん。」
「いまだに学園ものは人気ありますしねえ。」
「そうじゃなあ。エロゲをはじめとして学園アドベンチャーはいまだによく出とる。」
「走りはやっぱりどきメモとして・・・。」
「そこが難しいところなんじゃが、あれはシミュレーションに該当するんじゃよ。」
「え?ステータスがあるからですか?」
「うむ。アドベンチャーとしては!やはり「東鳩」なんじゃないかのう!」
「ですね〜。「see zunk」とか、「kid's art」とか、マイナーですもんね、一般的には。」
「中身が暗いというか・・・。
 まあ、『オトギリソウ』参考にしとるから仕方ないっちゃあ仕方ないがのう。」
「とまあ、このゲームですけど、何が良かったっすかねえ。」
「そりゃあ、お前!『まるち』にきまっとろうがああああああああああ!!」
「・・・やっぱり。」
「・・・なんじゃ、その冷めた表情は!!」
「マムシさんの『まるち』話飽きたっす。」
「・・・やっぱり最近のベンちゃん冷たいのう・・・。」
「まあ、俺としては、やっぱり『委員長』ですかね。」
「むう!コーヒーか!コーヒーがいいんか!」
「や、まあそれだけじゃないんすけどね・・・。巨乳だし・・。」
「馬鹿もん!委員長キャラにそれは重要じゃないじゃろう!」
「でも、『東鳩』の『委員長』といえば今も代名詞といえる存在だし・・・。」
「それは認める!だがの!『委員長』属性は巨乳である必要性はないわい!!!」
「といいますと?」

419ラジヲのお時間・番外編6 :2006/05/01(月) 06:19:53 ID:???
「委員長に必要なのは!眼鏡!三つ編み!そして厳しい!
 そして肝心なのは!仲良くなると素直になっていくことじゃあああああああ!!
 わかるかね!?普段は厳しく振舞い、気丈にしていても寂しさは募る!!
 本来は寂しがりやながらも意地が邪魔して本音を出せん!
 仲良くなっていくにつれ、その心うちを打ち明けるそのときこそが!
 至福なんじゃろうに!!わかるかね!!!?」
「・・・はあ。確かに・・・。その通りっすね・・・。」
「うーん、そう考えるとやっぱり君は『ツンデレ』萌えだね?ベンジャミン君?」
「・・・否定できなくなってる自分が嫌なんすけど・・・。」
「よし、このラジオが終わりしだいツンデレ探求の旅へと赴こうぞ!」
「なんかいや〜な語感の旅っすね。」
「もちろん、場所は聖地アキバじゃよ〜!」
「もちろんなんすか!」

〜『Access』・CI〜

「では音楽じゃ!アニメ『東鳩』EDより、『Access』!!」

〜『Access』・FO〜

「アニメ版はどうでしたかね、この作品。」
「むう、悪くはないと思うぞ?
 だがの、やっぱりこういうゲームの良さは好きなキャラを落とすことではないか?」
「そうですね〜。」
「結局『ヒロ』は『アカリ』とくっついちゃう訳じゃろう?
 原作ファンとしてはやっぱり、まるちとくっついてくれ〜となるわけじゃわい。」
「いや、それは一部でしょう!」
「まあ、まあ。他のキャラでも一緒じゃよ。
 だからの、アニメは別作品としてみるのが吉じゃろうなあ・・・。」
「ゲームをそのままトレースしたものではない、と。」
「じゃの。それならまあ、面白かった、と言えるかもしれん。」
「大概のファンはそうやって見てそうですけどね〜。」

420ラジヲのお時間・番外編7 :2006/05/01(月) 06:20:42 ID:???
「まあ、そんなところでエロゲーのさわやか路線が確立されたわけじゃい。」
「なるほど。そこまではちょっと暗めだったり、使用感あふれるものが多かったと。」
「まあ、さっき挙げた2作品はそのあたりを打破しつつあったがの。
 『東鳩』がそれをさらに明るく、一般化したのは確かじゃろうて。」
「たしかに、PS版でも問題ないっすからねえ・・・。」
「うむ。エロゲにおけるエロ絵の必要性は泣きゲーでもよく言われるが、
 そこはそことして楽しんでおけばいいんじゃないかと思うんじゃよ〜。」
「ですね。」
「で、その流れはついに少年誌に飛び火するわけじゃわい。
 現在あふれるハーレム物漫画の原点と言えばこれじゃろうて!
 『らぶヒナ』!」
「この作家さんの前作『あいトマ』のなかで、ギャルゲーを参考にしたと言ってますからね。」
「そう!この男、同人誌もやってて、我々の心内をよく分かっておるのじゃろう!
 この漫画の良かったところは!はい、ベンジャミン君!」
「うーん。主人公が情けないやつだったから?」
「正解!馬鹿で、ドジで、間抜けで・・・と誠意があるくらいしか特徴のない男が、
 一つ屋根の下でたくさんの女の子に囲まれる!なんて羨ましい!!」
「ですね・・・しかも全員が全員主人公に惚れると言う・・・。」
「そう!これの連載が始まったのがワシが高1の頃か・・・。
 我々が思春期を迎えていた時期にこんな漫画を読みゃ、そりゃ走るわい!」
「なににっすか!」
「エロゲ、ギャルゲにじゃよ!ワシはそれ以前からやっとったが・・・。」
「ちょっと待ってください!未成年!!」
「・・・ワシ、72歳じゃからのう・・・。」
「今高1って・・・。」
「・・・66歳で高1だったんじゃよ〜。」
「苦しいいいわけっすね・・・。」
「まあ、いいではないか!」
「良くないっす。」
「一旦CMじゃよ〜。」

〜ジングル・『マムシ72歳のげんしけんラジヲ!』〜

421ラジヲのお時間・番外編8 :2006/05/01(月) 06:21:40 ID:???
「心温まる話」
「悲しい物語」
「激しい恋物語」
「様々な物語の原型は」
「昔話の中に」
「げんしけん童話名作劇場」
「シリーズ再販決定!」
「9・25発売」

〜ジングル・『マムシ72歳のげんしけんラジヲ!』〜

「童話っちゅうのは意外と侮れんよな。」
「ですね。まじで?って思うぐらいシュールなのもあるし。」
「そうじゃの。大概の物語の原型は大昔に作られちまっとるもんじゃ。」
「パクリだなんだ騒ぐのってそう考えると馬鹿馬鹿しいっすね〜。」
「そう大きな心を皆持てる様になるといいのう。」
「さて、二回目のCMが終わりましたよ。」
「おう!そうか!まっておったぞい!
 『ガンガルのセリフを大声で言ってみよう』のコーナー!!!」

〜『翔べ!ガンガル』・CI〜

〜『翔べ!ガンガル』・FO〜

「毎回毎回馬鹿みたいに叫んどるこのコーナーじゃが!
 皆は引いておらんかのう!!?」
「大丈夫じゃないっすか?あんまり多くの人が聞いてるわけじゃないですし。」
「そういうさびしい事を言うなよ〜。」
「素に戻ってますよ・・・。」
「おおっと!まあ、なんじゃの。
 前回は『シャア』の『当たらなければどうと言うことはない!』だったわけじゃが・・・。」
「結構ノリノリでしたね。」

422ラジヲのお時間・番外編9 :2006/05/01(月) 06:22:17 ID:???
「今回は、じゃ。ちょっと趣向を凝らしてトミノ以外で攻めようかと思っての!」
「え、珍しいじゃないっすか。」
「まあの。1stばっかりやってても新鮮味ないしのう。」
「丸くなりましたね・・・。マムシさん。」
「そうか?」
「前は『トミノ以外のガンガルはガンガルじゃねえ!!』って言いまくってたじゃないですか。」
「あー・・・。ワシも若かったのう・・・。」
「まあ確かにトミノ監督以外にも良作は多いんですよね。」
「そうじゃのう。0080と0083は傑作じゃよ。」
「俺としてはXを・・・。」
「だが断る。宇宙世紀以外は認めんぞ!」
「全く・・・。またそうやってこだわるんだから・・・。」
「うるさいわい!!で、今回じゃが!!」
「はいはい。第08小隊から。『俺はアイナと添い遂げる!』ですね。」
「08は、リアルな戦闘描写が売りのOVA作品じゃったの。」
「早い話がロミジュリっすよね。ベタっちゃあベタ・・・。」
「だがそこがいい。」
「確かに。人間関係が明白で分かりやすかったとは思いますよ。俺も好きです。」
「最初は宇宙の描写もあるが、最終的に地上のみで話が終わるところ、
 細かい軍隊描写、こだわりが感じられたのう。」
「ちゃんとお色気も入ってますしね。」
「温泉な。よもやビームサーベルで作るとはおもわなんだ。」
「最初、二人きりで地上に降り立った時から、二人の関係が徐々に縮まるのが良かったすね。」
「うむ。陸戦型もまた格好よかった。ガンガルより洗練されとるからのう。」
「ですね。ジムスナイパー、ガンタンクUといい、面白いデザインが多かったですね。」
「製作者のガンガルへの愛情が感じられる作品じゃわい!」
「今回のは、その主人公が思い人の育ての親のような男と対決している時の台詞です。」
「ノリスはかっこいいのう〜。」
「ですね〜。ジオンの軍人の中じゃ一番かもしれません。」
「なぬ!?シャアは!!?」
「・・・ぶっちゃけ俺あんまり好きじゃなかったり・・・。」
「なんじゃとおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

423ラジヲのお時間・番外編10 :2006/05/01(月) 06:40:40 ID:???
「うーん、なんか情けなくないっすか?あいつ。」
「むう・・・。そこがいいと言うのに・・・。ブツブツ・・・。」
「格好いいと思うところもあるんですけどね。」
「まあええわい。じゃやるぞい!」
「お願いします。」
「『俺はアイナと添い遂げる!』」
「・・・かなり似てないっすか?!」
「そうか・・・?確かにヒヤマの声に似てるとは言われたことはあるがのう・・・。」
「格好よかったすよ。」
「よっし!このコーナーはまた次回!」

〜『サクラサク』・CI〜

「音楽〜。アニメ『らぶヒナ』OP、『サクラサク』。」

〜『サクラサク』・FO〜

「とま、先ほどの話題に戻るわけじゃが。」
「らぶヒナは〜・・・。ちょっと嫌な思い出があるんすけどね〜。」
「ホウ・・・。このマムシにいってみい?」
「いや、恥ずかしいんでいいです。」
「そうか?まあ、ええわい。やっぱりスゥじゃ、スゥ!」
「好きそうっすね〜。ロリツルペタっすか?」
「まあのう!そういう点じゃしのむも捨てがたいが・・・。」
「しのむちゃんはかわいいですよね〜。女の子のかわいさを集めたような感じ。」
「もちろん、なる、キツネ、モトコ・・・出てくるキャラ全てが魅力的というのものう。」
「すごいですよね。萌え要素の集合体というか・・・。」
「作者本人がよく分かってるのう、ツボってもんを。」
「あのあたりのゲーム・漫画をよく研究してるというか・・・。」
「うむ。それまでもよく言われるハーレム物の原型はあったといえる。
 しかし、主人公をこうも身近な存在にすることで読者の共感も得たという・・・。」
「まあ、途中ケータロが妙にかっこよくなり始めてから・・・アレ?みたいな・・・。」

424ラジヲのお時間・番外編11 :2006/05/01(月) 06:42:29 ID:???
「まあのう・・・。共感は出来なくなっていったのう・・・。」
「ある程度主役がかっこよくないとお話になりませんけど・・・。」
「成長、を描いたといっても、修行シーンは無しだからのう・・・。
 違和感ありまくりじゃわい。嫌いな展開ではなかったがの。」
「そして、そのあと似た様な作品は山のように出ましたけど・・・。」
「趣向を凝らしている作品は多いがの。二番煎じ感は否めないが、楽しめるもんじゃ。」
「逆にその流れがPCにも波及したような感はありますね。」
「確かに、ドタバタコメディ物が増えたような気はしないでもないのう。」
「大きな原動力ではありましたよね、あれが少年誌に掲載されていたのは。」
「あれでこの冥府魔道の道に堕ちたものは多かったじゃろうて・・・。
 あ、そうか!ベンちゃんはこれでこの道か!」
「うるさいですよ!!」
「とまあ、ギャルゲー、ハーレム物漫画がブームの中で、
 PCゲーに新たなる潮流が生まれたんじゃ。」
「泣きゲーっすね。鍵、葉っぱ系。」
「うむ。鍵・葉っぱではないが、ワシは何度カナに泣かされたことか・・・。」
「俺としてはやっぱり・・・。『三つ目の願い』っすかね・・・。」
「まったくまたか!影のあるのがそんなにいいんか!」
「いや、あれはまた違いません?」
「むう。とにかく、エロゲなのに泣く、という不思議な状況になった訳じゃな。」
「まあ、エロ絵無しのPS2版でも問題ないっすからね・・・。」
「今ではジャンルが細分化され、これ!という潮流はなくなってしもうた。
 大切なのは何を求めて買うか、ということじゃ。それは今度の議題にしようかの。」

〜BGM・FI〜

「そろそろ時間じゃ!!『三代目引きこもり』、少しは分かったか?
 今後は自分で自分だけの『嫁』を探して頑張るのじゃ!
 メインパーソナリティはマムシ72歳と!!」
「かなり痛い発言っすね・・・。ベンジャミン武世でした。」

〜BGM・CO〜

425オマケの曜湖さんと於木野さん :2006/05/01(月) 06:43:17 ID:???
「・・・懐かしいですねえ〜。」
「・・・。」
「・・・ワープしてます?」
「はっ!」
「いつものことながら・・・。流石ですねえ・・・。」
「いや、まあ・・・。やっぱり武世×マムシかな・・・。」
「今改めて聞くとそうかも。ベンジャミンさん結構突っ込み厳しいですね。」
「ですね。これが本性かもしれません。」
「ベンジャミンさんの趣味は〜・・・。分かりやすいというか・・・。
 世話焼きなあの人らしいですね〜。」
「はい?」
「よかったですね、ど真ん中ストライク!」
「え!?・・・でも巨乳じゃないし・・・。」
「・・・・・・まあ、そこはいいじゃないですか・・・。」
「いいっすよね・・・。大きい人は・・・。」
「大きい人は大きいなりの苦労があるんです!!」
「・・・スイマセンデシタ。」
「よろしい。」


426後書き :2006/05/01(月) 06:44:39 ID:???
色々やりながら投下してました。
いまだに連投規制の発生条件が分からない・・・。

疲れた〜。

427マロン名無しさん :2006/05/01(月) 07:01:24 ID:???
朝方までお疲れさまでした!
朝の支度をしながら読ませていただきました!
面白いっす〜。ストーリーも分析も読ませますね。
次回も楽しみにしてます。

428マロン名無しさん :2006/05/01(月) 23:04:51 ID:???
>>801小隊第0話
巻田死亡確認ですね。コロニー消失は衝撃的でした。
過去話、乙でした!クライマックス前にひと段落でしょうか。

>>ラジヲ番外
マムシとベンジャミン、もっと聞きたいですねw
放送が続くならまたお願いします。
あ、過去の特選ネタ総集編みたいなのでも構いませんので!
しかしまさか、ときめも論になるとはッ!


429マダラメ三世 :2006/05/02(火) 00:56:51 ID:???
>801小隊&ラジヲ
マムシ72歳バージョンをフルで聞けるとは幸せ〜。また今回も801小隊からのつなぎ方が面白かったです。
まさか現パーソナリティの2人を狂言まわしに持ってくるとは。
801は過去話ですね〜 各モビルスーツの描写お待ちしてます!


さて、投下しようと思うのですが、容量大丈夫かな?
たぶん14スレで、「マダラメ三世/キモハラグロの城」完結です。
スレ汚しすみません、一つよろしく。


430マダラメ三世3(1/14) :2006/05/02(火) 00:59:08 ID:???

キモハラグロ伯爵と大公家の娘オギウエの結婚式の日がやってきた。
しかし、久我山大僧正を乗せた車は、結婚式を一目見ようと押し掛けた車列に巻き込まれ身動きが取れないでいた。

「ほ ほかの道は、な ないのかな。遅れてしまうぞ」
焦る久我山。運転手の沢崎は車体を半分芝生に入れながら、大渋滞の脇を通り抜ける。
「公国政府の方に連絡を入れましたが、ヘリが迎えにくるには時間が掛かるとかで……あぁっ!」
前方に、ビーチパラソルをさしてくつろいでいる女性の姿が見えて思わず急停車する。

「どいてくれ、通れないじゃないか!」
思わず怒鳴る沢崎は、立ち上がったブロンド女性の姿に息を飲む。上は腰履きのジーンズをルーズにはいて、上はビキニブラ一枚。
『この先は崖崩れよ。復旧にはどうしたって時間が掛かるわ。のんびり待った方が楽よ』と、ボストンから観光でやってきたアンジェラは脳天気に語った。

「そ そんな……」
途方にくれる久我山のもとに、民族衣装を着た女性が2人近付いてきた。スージーを連れたオオノだ。
オオノが、「なんねぬしどんな大僧正様じゃなかね。どうかこん女の子に祝福ばくださらんな?」と語り掛ける。
「し 祝福って、キ キリスト教と間違えてるんだな。でもまあ、い 祈ってあげるよ……ナンマンダブナンマンダブ」
うやうやしく頭を下げるオオノと、「?」と小首をかしげるスー。運転席の沢崎が話し掛ける。
「土地の者かい? ほかに道はないのかね?」
「山道ばってん城に通じる道があるとよ」と語るオオノは、さっそく案内すると誘った。

その横でスーは、車の前に立っていたグラマラスなアンジェラをやぶにらみする。アンジェラがニッコリと微笑むと、スーは口に手を当てて「ク〜クック…」と笑う。
何かを察したアンジェラが、スーの前にしゃがみ込んで、「ケロケロケロ…」と問いかけると、スーは、「クルクルクル…」と返して、「……キョウメイ×2」と呟いた。

スーがオオノの服の裾を引っ張って何やら話しかける。オオノは、ちょっと嫌な予感がした。

431マダラメ三世3(2/14) :2006/05/02(火) 01:01:01 ID:???

キモハラグロ城の城門が開き、大僧正を乗せた車が入城してきた。
物見櫓から監視するナカジーも、車から降りてきた久我山大僧正の姿を見て思わず合掌する。
大僧正に続いて、僧侶と尼僧が降り立った。運転手はアンジェラに変わっていた。シャツの胸元を大きく開いて、周囲の衛士に「Hi」と愛想良く手を振っている。

続いてテレビクルーを乗せた衛星中継車が入城した。運転手はコーサカ。隣にサキが乗っている。
「大きな城だねー。サキちゃんも今夜は恥ずかしがらずにコスプレするんだよ」
「私のはコスプレじゃなくってテレビクルーの変装なの!」


夜を迎え、城内の各所にロウソクの明かりが灯され、荘厳な雰囲気を醸し出す。
金のメガネをあしらった兜と、典礼の衣装に身をまとったキモハラグロ伯爵が、黒装束の「影」を従えてオギウエの控え室を訪れた。
扉が開かれると、真っ白なドレスにティアラをかぶったオギウエの姿があった。

彼女の瞳は、マキタを失い自暴自棄になったころから、光を映さないような悲しく沈んだ色になっている。
しかし今夜の瞳は、いつも以上に黒く沈み、覗き込む者を引き込んでしまう「闇」のようだ。
尋常な者の瞳ではなかった。

「来い、オギウエ」
オギウエは抵抗することなく、無言で伯爵に付き従う。
黒装束に囲まれながら、大仏殿へと進む2人。大仏殿には、各国の代表者が礼服を着込んで出席している。
久我山大僧正が、大仏の前で経文を読み終え、「いにしえの一族、キモハラグロの正当な後継者である証をここへ……」と呼び掛けた。
伯爵とオギウエの前に、金ブチ、銀ブチのメガネが持ち込まれた。

「いにしえの習わしに従い、メガネを交換して結婚の誓いとなす。キモハラグロ公国大公息女オギウエよ。この婚姻に異議なき時は沈黙をもって応えよ」
オギウエは黙ったままだ。


432マダラメ三世3(3/14) :2006/05/02(火) 01:03:08 ID:???
沈黙を破って、「異議あり!」と、大音響でマダラメの声が響いた。

「この婚礼は欲望と汚れに満ちている!」

参列者の眼前の大仏が、音を立てて胴体から切り落とされた。地響きを立てて崩れ落ちる大仏像。うろたえる参列者。

チリーン……チリーン……

辺りが暗くなり、大仏像の影から、ヨレヨレのスーツ姿のタナカと、和装のオオノが現れた。包帯でぐるぐる巻きになったマダラメを輿に乗せている。

「地下牢の亡者を代表して参上した……花嫁をいただきたい……オギウエ、迎えに来たよ」

報道席では、コーサカがテレビカメラを向けてマダラメ一味をクローズアップ。
そこにサキが、「大変なことになりました! マダラメです! マダラメが現れました」と叫ぶ。

「マダラメが出たぞ、出動ォ!」
車内のテレビを見ていた北川警部が号令し、パトカーと機動隊トラックが茂みの中から現れ、城への突入を開始した。

「オギウエ……かわいそうに……薬を飲まされたね」輿の上のマダラメが語り掛ける。
直後、キモハラグロの指図で、「影」の無数の剣がマダラメをメッタ突きにしてしまう。どよめく場内。

「!」惨状を見たオギウエの瞳に正気の色が戻る。
「オタクさんっ!」
駆け寄ろうとするが久我山大僧正に引き止められた。
勝ち誇り高笑いするキモハラグロ伯爵は、タナカとオオノを一瞥して、「愚かなりマダラメ。そいつらを片付けろ!」と、影に命じる。

「……泣くんじゃないオギウエ」
オギウエの耳元でマダラメの声が聞こえる。ハッとするオギウエ。


433マダラメ三世3(4/14) :2006/05/02(火) 01:05:51 ID:???
串刺しで晒されたマダラメがいきなり破裂すると、大量の紙片が場内に舞い散った。参会者が手にすると、それは18禁モノの萌え絵だ。マダラメの笑い声が響く。

「気に入ってくれっかなァ伯爵。俺のプレゼントだ。お前さんの作ったニセ同人の絵だよ。メガネの代金に受け取ってくれぇ!」

「奴を探せ! この中にいるはずだ!」
いきり立つ伯爵の背後で、金銀のメガネが盗まれた。その手の主は久我山大僧正。久我山が自ら“化けの皮”を剥ぐと、そこにはマダラメの顔があった。
伯爵「おのれぇ、ふざけたマネをしおって!」
マダラメ「やかないやかないロリコン伯爵ぅ!」

伯爵、タナカ、オオノがハモって「ロリコンはお前だろ」と突っ込む。

「そこは流せよ。とにかくヤケドすっぞお!」
マダラメが久我山ボディの袈裟を広げると、ロケット花火が一斉に発射された。
それを合図に戦闘の口火を切るマダラメ一味。タナカが対戦車ライフルで影の鎧ごと吹き飛ばす。
オオノは「くじアン」の如月香澄の刀に由来した銘刀「残雪」を振りかざして応戦した。
マダラメはオギウエを小わきに抱いたまま、ロープで天井へと飛び、城外へ脱出を図った。


パニックに陥る場内。逃げまどう参列者を押しのけるようにして、北川警部と機動隊が突入してきた。
「マダラメは仏壇の下だ〜!」と指揮する北川。その姿をサキがノリノリで実況する。
「さあ突入してきたのは北川警部率いる機動隊。仏壇に向かって猛進しています。あ、キモハラグロ衛士隊が来ました!」

「後方確保!正義は我にあり!」北川の号令に応じて機動隊が衛士隊とぶつかり合う。

機動隊と衛士隊の乱戦から抜け出した北川警部は、報道席のサキに合図を送る。コーサカのカメラが俯瞰で北川を捉えた。その指は仏壇の下から露になった階段を指し示している。

「あ、階段です。地下に通じる穴があります。ここにマダラメがいるのでしょうか? カメラもそこへ行ってみましょう!」

「ああああ、き 北川君何をやってるんだぁ」
インターポール本部でテレビ中継を見ていた日本の“委員長”は顔面蒼白だ。ほかの委員も慌てふためいている。
「命令無視だ呼び戻せ!」「これは衛生中継だよ。もう遅い」

434マダラメ三世3(5/14) :2006/05/02(火) 01:09:29 ID:???

地下へ通じる階段を下り切った北川とサキ。ニセ同人誌の印刷工場が、サキのカメラのフレームに捉えられた。
北川警部がそれを見渡す様なゼスチャーをして、いかにも芝居臭く話し始める。

「な、何だここは、まるでミナミ印刷ではないか!(棒読み」

北川(もうヤダ!何よミナミ印刷って、ハズカシイ!)
サキ(黙って打ち合わせ通りにやんなさいよ!)
どうやら段取りはサキが組んだらしい。

「あ、そこにあるのは……ありゃ〜日本の同人誌。これはニセ同人だあ(棒読み」
北川警部は両手いっぱいにニセ同人誌を抱えて、サキの構えるカメラの前に立った。表情が読み取れないほど真っ赤になっていた北川だが、最後の力(?)を振り絞って叫んだ。

「見て見て〜、色んな年代のニセ同人が……。マダラメを追っててとんでもないものを見つけてしまったぁ。ど お し よ う (棒読み」


もみ合う機動隊と衛士隊。その中央で、朽木と衛士長がにらみ合いを続けていた。
「仏像の下の階段見せろってんだよ」
「はあ? 関係ねーだろお前には。何の権利があんだ?」
「権利がどうこうって話じゃなくてね。仏像の下見せてください(はあと」
「うわバカだコイツ。会話成立しねーよ消えろ」
「おや逆ギレですか。あーそうですか」

朽木の頭の中で、カキンとロックの外れる音がした。(き……キレた…、ボクチンの頭の中で何かがキレた……決定的な何かが……)
ゴン! 朽木と衛士長は、ヘルメットと兜を擦り合わせるようにして睨み合う。
「逆ギレ勝負なら負けたことねーよ!」「はあ? んだソレ!」

ギリギリギリと頭を突き合わせていた衛士長が、スッと頭を引いた。直後、頭突きが振り下ろされる。
危うく横へと避けた朽木。衛士長の頭(兜付き)は、朽木の後ろで敵を必死に抑えていた木村の後頭部にヒットした。
目を剥いて倒れる木村。衛士長が朽木の姿を見失い慌てた隙に、朽木は腰のスタンガンを鎧の脇に刺すようにして突き付けた。
「ガガガガガガッ!」衛士長は泡を吹いて崩れ落ちた。
朽木は、「“鎧通し”の要領だ。日本の武士ニャめんなよ!」と叫ぶと、再び乱戦の輪に加わった。

435マダラメ三世3(6/14) :2006/05/02(火) 01:12:33 ID:???

マダラメ一味はオギウエを連れて、城側からローマ水道橋へ渡る手前の小さな風車塔へと逃げ込み、てっぺんの物見櫓に陣取る。
マダラメが水道橋に逃げる用意をしながら、「ひとまず城外へ脱出だ。頼むぜ、タナカ、オオノさん」と声を掛けた。

オギウエが2人に駆け寄る。
「皆さん、どうかお気を付けて……、無事に戻ってきてくださいね。ご恩は一生忘れません」
オオノは(いやーん、可憐!)と、思わず自分の趣味の世界に走りはじめた。
「無事に戻ったら、コスプレをして下さいますか?」
「なっ!?」
オギウエは、マダラメ一味のせいでコスプレさせられたというサキの言葉を思い出した。
「嫌だぁ、そっだらこと!」
高貴な姫君に似つかわしくない東北弁が口をついて出てくる。
「……じゃあテキトーに気をつけて。タナカ様も…」
2人が(テキトーかよ)と脱力する中、オギウエはティアラを脱いで走り去った。

ロープをつたって降りようとするマダラメの手元に、チュン!と、追っ手の弾丸が着弾した。
「タナカ!左舷弾幕薄いぞ、何やってんの!」
マダラメはお約束を叫びながら、オギウエを背負って水道橋へと降りて行った。

「…タナカ様、だと…」「…ドレス…似合ってましたね」
タナカは頬を染めながら、「…オ、オオノさんのは俺が…作るからさ」と照れくさそうに呟く。オオノは真っ赤になった。
「ち、違いますよタナカさん! オギウエさんのコスプレを激しく妄想しちゃいまして……」
ガガガッ! ダダダダッ! チチュン!
風車塔への銃撃が激しくなってきた。無駄話はさせてくれないらしい。タナカはオギウエの脱いだティアラを頭にかぶって叫んだ。
「おっぱじめようぜ!」

タナカの援護射撃に続いて、オオノが塔の下に群がる「影」のまっただ中に飛び下りた。瞬間、剣閃が闇を切り裂き、影どもの鎧を断ち切った。
月夜に照らされて、刀刃と黒い瞳が光る。オギウエに萌えた分だけ余計に気合いが入っているオオノ。

「今宵の斬雪剣は一味違います!」


436マダラメ三世3(7/14) :2006/05/02(火) 01:14:34 ID:???
オオノを取り囲んでいた影が思わず後ずさる。
しかし、1人だけ動じずにオオノと対峙している影がいた。半分切り取られたマスクを棄て、素顔を月明かりにさらしたナカジーは、冷たい瞳でオオノを睨み返した。

「オギウエは私のもんだ。あいつを奪い取る奴は、あんたでもマダラメでも……伯爵でも殺す」
「マキタとかいう人を追い落としたのも、あなたですね?」
「あいつはオギウエを受け止めるには器の小さい男だ!」

叫ぶなり飛びかかったナカジーのカギ爪を紙一重でかわして、オオノが残雪を振り下ろす。
もう一方の爪で残雪を受け止めるナカジー。
「!」
「オギッペは、誰にもわださねぇ!」


水道橋の上を渡り、息を切らしながら走ったマダラメとオギウエは、時計塔までやってきた。
「つ……つ、つらいかい?」
「いいえ!」
マダラメの方が息も絶え絶えだ。

「時計塔を越えたら合図を送る。ササハラが迎えに来るから」
「はい!」

時計塔を登ろうとしたマダラメは、はるか上の文字盤に刻まれた巨大なメガネのレリーフを見てふと気付いた。
懐に持っていた金ブチと銀ブチのメガネを取り出す。2つのメガネのフレームを正面から向かい合わせてみた。
「つなぎ目に文字が彫ってあるな。光と影を……う〜ん、擦り減っててよく読めないなあ……」

「……光と影を結び時つぐる、デカきメガネの陽に向かいし眼に我を収めよ……。昔から私の家に伝わってる言葉です。お役にたちますか」
「たつよね……じゃなかった…、立ぁちます立ちます謎ァ解けたぜ!」


437マダラメ三世3(8/14) :2006/05/02(火) 01:16:01 ID:???
その時、湖から2人を追ってきたキモハラグロ伯爵の蒸気船が迫ってきた。船から銃撃を始める。
「行こう!」マダラメとオギウエは、時計塔の横をつたって、時計塔の機関部へと逃げ込んだ。
船から降りた伯爵と、銃を持った水夫が数名追ってきた。マダラメは、時計内の巨大な歯車を必死で取り外して落とし、水夫の足を止めた。

だが、時計塔内部を熟知したキモハラグロ伯爵が迫ってくる。鉄パイプでサーベルに応戦するマダラメ。
マダラメは意外にも伯爵のサーベルをかわして、パイプでその兜と叩き落とす。
「こちとら何度も春日部さんのパンチ喰らってんだ。ナマクラのサーベルなんか効くかい!」


伯爵はニヤリと笑うと、懐に手を入れ、中から一冊の同人誌を取り出した。
マダラメ……いや、“マムシ72歳”お気に入りの「くじアン」本だ。

「一言いっておくぞマダラメ。この同人誌は贋作ではない、本物だ」
そう言うと伯爵は同人誌を歯車の下へと放り込んだ。
「あーーーーーーーーーッ!」
マダラメの目は思わず同人誌を追う。簡単に背中を見せたマダラメを、キモハラグロが軽く蹴った。
「あれ、あれれ、あれぇ〜!」と、同人誌を追うように転落していくマダラメ。

「オタクさん!」
オギウエの叫びに振り向いたのはキモハラグロだった。
時計塔内を上へ上へと逃げていくオギウエだが、上に行くほど逃げ場はない。やがて時計の文字盤まで出てきてしまった。
メガネの奥の細い目をさらに細めながら、オギウエを針の先端まで追うキモハラグロ。オギウエにもう逃げ場はない。

「イヘヘヘヘヘヘ……どこまでいくのかなオ〜ギウ〜エ!」

足下はおぼつかない針の上だ。オギウエはキモハラグロを睨み据える。
「さあさあどうした。お前はニセ同人の原画師にしたかったがな……もういい、死ねオギウエ」

438マダラメ三世3(9/14) :2006/05/02(火) 01:17:29 ID:???
「待て伯爵。取り引きだ!」

マダラメが現れた。手にはしっかりと「くじアン」本が。根性で拾ってきたのだ。
「メガネの謎を教えてやろう。お宝はどうしようとお前の勝手にするがいい。しかしその娘はあきらめろ。自由にしてやれ……見ろ、あの文字盤のメガネを」

時計の12時の部分に大きなメガネのレリーフがある。

「あれが“陽に向かいし時つぐるメガネ”だ。両方の目に二つのメガネをはめる穴がある。このメガネはくれてやる。しかしその娘を殺せば湖に捨てて……お前を殺す!」

針の軸に2つのメガネを置き、長い針の先端へと歩いていくマダラメ。その反対側、短い針の上に伯爵とオギウエが立っている。
伯爵は、「ようし、分かった!」と言うや、手甲の指の先端をロケットにして発射。バランスを崩したマダラメは壁に取り付くのが精いっぱいだった。

「マダラメ、切り札は最後まで取っておくものだ!」
メガネを奪ったキモハラグロは、「確かに本物だ……メガネは受け取ったぞ、謎解きの代金を受け取ってくれ」と、もう片方の手甲を突き出した。
「危ない!」と、オギウエがキモハラグロの腕を掴んでダイブを敢行した!
「オワ、離せ!」剣を支えにして何とか踏んばるキモハラグロは、オギウエの筆頭をブーツで踏み付けて蹴り落とす。

マダラメはとっさに、(加速装置ッ!)と脳内でオタネタを叫び、壁をダッシュで駆け降りる。落下するオギウエに追い付くと、彼女を抱きとめたまま湖に落ちた。


439マダラメ三世3(10/14) :2006/05/02(火) 01:20:04 ID:???

キモハラグロは文字盤を上り、足場を伝ってメガネのレリーフまでたどり着いた。
レリーフのくぼみに金ブチと銀ブチのメガネをはめ込むると、レリーフが内部へ引き込まれ、続いて時計の歯車が動き始める。

レリーフのくぼみをつかんでぶら下がるキモハラグロ伯爵は、両側からやってきた2つの巨大な針に挟まれた。
(やっぱり周りを使って人や金を動かしてた方が良かったカモ)
後悔先に立たず。時計の針は“12時”になった。

ゴォォォン…ゴォォォン…ゴォォォン…!

時計台の鐘が数百年ぶりに鳴り響いた。
つかみ合いの喧嘩状態になっていた機動隊と衛士隊も、
背中合わせに影と対峙していたサキと北川も、
乱戦をハンディカムで撮り続けていたコーサカも、
皆の騒ぎを見てはしゃいでいたアンジェラも、
物見櫓でライフルの弾を装填していたタナカも、
刀とカギ爪をかち合わせていたオオノとナカジーも、
争いを止め、時計台の方へと視線を移した。

鐘が何度目かに、まるで断末魔のような大きな音を打ち鳴らすと、時計塔はゆっくりと崩れ落ちた。
続いて、水門から水が溢れ出してきた。

オオノと対峙していたナカジーは、時計塔の方を向いてひざまづく。
「これで全ての秘密が露見してしまったら、キモハラグロ公国も終わりだ。私がオギウエに注いだことの全ても……終わりだ」
うなだれて、「斬れ……」と声を絞り出す。もはや力なくうずくまった彼女は、“ナカジマ”に戻っていた。

オオノは残雪を鞘に納めた。
「無益な殺生はしないわ……」


440マダラメ三世3(11/14) :2006/05/02(火) 01:23:50 ID:???

城内を水浸しにした湖水は、やがてみるみるうちに引いていった。

気を失っていたオギウエは、まばゆい光に包まれて目を覚ます。
「気がついたかい」マダラメが声を掛ける。朝が訪れていた。
2人は、湖を見渡せる高台から、湖水が引いてしまった後の景色を見渡した。
湖底だった場所には、ローマの街が遺されていた。

街の遺跡に降りてみたマダラメとオギウエ。
「隠された財宝か……」と、マダラメがため息。隣を歩くオギウエは、「湖の底に、ローマの街が眠っていたなんて……」と感嘆する。

マダラメが、ふとその街並を見渡して気付いた。中央にひときわ広い建物がある。
「これはまるで……“トライヤヌスの大浴場”だ」
「大浴場?」
「そうだ。皇帝トライヤヌスがすべてのローマ人が楽しめる浴場を建設した。それに良く似ている」
なぜそんなものがあるのか、理解できないオギウエだが、(オタクは余計なことには詳しいらしい)とは思った。

「そこで風呂に入るだけじゃない。男達はおしゃべりをしたり、マッサージを受けたり、庭で全裸でくんずほぐれつのレスリングを楽しんだり……何か思い浮かばないか?」

思い浮かぶも何も、すでにオギウエの頭の中では801ハーレムの妄想が展開していた。そこにはマダラメが居てササハラが居てタナカが居て大僧正もいて……。

「……さん、オギウエさん!」「あっ、……スミマセン」

ワープからいきなり引き戻されたオギウエ。
「まあ、ローマ人がトライヤヌスを模して大浴場を作り、この地を追われる時に水門を築いて沈めたのを、あんたのご先祖さまが密かに受け継いだんだな。
ご先祖さまも801ネタを護りたかったのかも……まさに腐女子の宝ってわけさ。俺のポケットには大きすぎらぁ」

441マダラメ三世3(12/14) :2006/05/02(火) 01:25:19 ID:???

丘の上に登るマダラメとオギウエ。
空を見上げると、飛行機から無数のパラシュートが、城に向かって降りてくるのが見えた。
インターポールが重い腰を上げたのだ。

「……行ってしまうの?」
「恐〜いおじさん達がいっぱい来たからね」
「私も連れてって」
「はあ?」
「……同人ドロはまだ出来ないけど、きっと覚えます。わたし、わたし、マキタくんやナカジマ……たくさんの人を不幸にして、このままここに居られない……」

マダラメは苦笑いしながらオギウエの肩に触れ、軽くため息をついた。
「馬鹿なこと言うんじゃないよ。また同人界の闇の中に戻りたいのか。やっとコミフェスに本を出せるんじゃないか」
ハッとするオギウエ。
「お前さんのオタ人生は、これから始まるんだぜ。俺みたいに(←マゾラメと呼ばれるほど自分の気持ちを隠して)薄汚れちゃいけないんだよ」

その時、丘の向こうから、「オギー!」と呼ぶ声がした。
スーが走ってくる。その後ろにササハラとケーコの姿も見えた。
「ササハラさん!」
思わず駆け出したオギウエは、スーに抱きつかれて再会を喜び合う。
続いて、ササハラの方を見つめると、迷わずその胸に飛び込んだ。衒うことなく抱きしめるササハラ。
ケーコはそれを見つめ、腕を組んで二度三度と頷いた。

オギウエの様子に、(それでいいんだよ)とマダラメは優しく微笑み、丘の下の農道へ向かって駆け出す。そこにタナカの運転するボロボロのスバル360が走り込んできた。エンジン音に気が付いたオギウエが振り向く。
マダラメは、「またな〜!」と手を振り、車に乗り込もうとするが、それを押しのけるように後部座席のオオノが顔を出した。
「今度来た時にはコスプレ撮影会しましょうね。たくさん用意してきますから!」

「はよカエレ!」思わず罵倒するオギウエだった。


442マダラメ三世3(13/14) :2006/05/02(火) 01:26:26 ID:???
スバル360はどこまでも続く高原の道を走り去り、次第に小さくなっていく。それを見守るオギウエの後ろから、誰かが走り込んできた。
北川警部だ。
「くそー! 一足遅かったか。マダラメめ、まんまと盗みおって」
「いいえ」オギウエは首を振り、「あの方は何も盗らなかったわ。私のために戦って下さったんです」とかばった。

「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました…………あなたの“同人誌”です」

「は?」

なりゆきを見ていたササハラが何かに気付く。
「あ、オギウエさん背中……」
ドレスの背中には1枚の紙が貼ってあった。ケーコがそれを剥がして読む。
「どれどれ、えーと……北の塔の段ボール箱から、“あなたのとなりに”1冊いただきますた。マダラメ三世……だって」

「えぇーーーーーーッ!?」

ワナワナと震えるオギウエ。北川はポンポンとその肩を叩くと、「では、失礼します!」と、敬礼して駆け出した。
農道に停まったパトカーに乗り込み、「マダラメを追え、地の果てまで追うんだ!」と叫ぶ。パトカーに続いて走り出したトラックの荷台からは、朽木や木村をはじめとする機動隊員たちが手を振っていた。
ケーコは無邪気に手を振り返し、投げキッスまでサービスする。その隣でオギウエは機動隊員たちの姿を凝視した。
何とクチキたちまでが、オギウエの同人誌を手にして、またはソレを振りかざしているではないか!

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サークル「雪見庵」初発行誌
「あなたのとなりに」
発行部数50 盗難数38
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走り去る彼らを見送る3人。「何と手癖の悪い連中だろう」と、ササハラが腕を組んで苦笑いした。
一方のオギウエは頬を引きつらせながら無理矢理笑顔を作った。

「わたし、ずっと昔からあの丸メガネを知っていたような気がするの。マダラメ、きっと……きっとまた会えるわ(←それまで憶えてろよ!)」

443マダラメ三世3(14/14) :2006/05/02(火) 01:34:34 ID:???

スバル360の車内で、ボーッと黄昏れるマダラメ。
「いいツンデレだったなあ……」とタナカが声を掛ける。彼はオギウエ用の衣装を作る気満々のようだ。
マダラメがため息をついて口を開いた。

「……ところで、後部座席のこのひと、どこまで付いてくるのよ?」

後部座席、オオノの隣にはアンジェラがニコニコしながら座っていた。マダラメが自分のことを話題にしていると気付くと、後ろからマダラメの体に手を回して微笑んだ。
「わ、何すんだオイ!」
真っ赤なマダラメ。オオノが笑いながら、「アンジェラ、メガネフェチですから、マダラメさんのご活躍にハァハァモノだったそうですよ」と通訳する。

スバルの隣に並走する影が見え、コーサカの運転するオープンカーが現れた。助手席のサキがマダラメに声を掛ける。
「あら、お楽しみ中?」
「違う! 違うよ春日部さqあwせdrftgyふじこlp…!」
「?……それより見てよマダラメ。私の獲物!」

マダラメがオープンカーの後部に目を移すと、今にも印刷可能な下版された原稿や製本された同人誌が……。
「あ、それニセ同人の原盤じゃないの! うわうわ、お友達になりたいわ〜」

サキはニコリと微笑む。「だぁめ。こんな物は 叩 き 割 っ て 直接破棄するのよ(はあと」
隣のコーサカが、「もったいないなあ」と、ちっとも惜しくないような笑顔で呟く。
「じゃあね〜」
サキはウインクし、彼女を乗せた車は加速して走り去った。

「ちょwww おまwww!! タナカ、春日部さんを追え、地の果てまで追うんだ!」

走り去るサキ。車内で叫ぶマダラメ。抱きつくアンジェラ。後ろからは北川警部率いるパトカーと機動隊トラックが追い付いた。
彼らは追いつ追われつ、彼方へと走り去っていった。

<完>

444マダラメ三世3(おわり) :2006/05/02(火) 01:35:38 ID:???
♪…幸せをたずねて 私は行きたい
  「イバラの道」も「最後の砦」も
  1人で抱えて生きたい
  キモオタのイタい心を 誰が抱いてあげるの
  誰が妄想を叶えてくれる
  悶々と萌え盛る 私のロリ愛
  春日部さんには 知られたくない
  部室で私を包んで…♪


以上、お粗末さまでした。

445マロン名無しさん :2006/05/02(火) 01:37:55 ID:???
や〜、面白かったです。マダラメ三世
実は盗んだものは予想してた通りだったんですが、その後の展開が神がかってますねw

次は『くたばれノストラダムス』でw

446マロン名無しさん :2006/05/02(火) 02:03:30 ID:???
>801小隊、ラジヲ番外編
くは〜面白かったです!まずはオギウエ過去話。すごく深い設定付けしてありますね。完成度高いな〜
マダラメやタナカの過去話も、これから出てくるのでしょうか〜??確か辛い過去があったような。
あと、…ラジヲ。もう萌え死にそうに(ry
え〜武世が実は昔から於木野さんタイプだったとか、昔のエロゲーやギャルゲーの分析とかも興味深かったですが、
ワシ的にはもうマムシだけです。(オイ
いやいや!本当に面白かったです。ごちそうさまですたw

>マダラメ三世
もう脳内で、マダラメがル○ンの声であらゆる台詞を…くは〜くは〜〜〜!
ていうかあの服は似合うだろう。体型が似てるし。
全てのキャラが生き生きしてましたね!大野さんやクッチーの見せ場、大好きでっす。うまいなあ〜。
…特に咲ちゃんと北川さんが!「どおしよう!」キター!!「あなたの”同人誌”です!」爆笑ww
>「お前さんのオタ人生は、これから始まるんだぜ。俺みたいに(←マゾラメと呼ばれるほど自分の気持ちを隠して)薄汚れちゃいけないんだよ」
…この台詞に全米が泣いた。せつね〜…
最後までドタバタで面白かった!GJ!!

447マロン名無しさん :2006/05/02(火) 03:46:22 ID:???
>マダラメ三世
悪乗りしすぎや!ってくらいごった煮の美味しいスラップスティックありがとう!
オオノの九州弁に萌えたw

448マロン名無しさん :2006/05/02(火) 06:15:31 ID:???
3本立ては疲れるのだ…
(まああとの1本は違う人の作品だが)

>801小隊&ラジヲのお時間
またもまとめて提出しましたね、夏休みの宿題。
しかし細部まで作り込んでるな、801小隊。
多分キャラ設定表とか年表とか箱書きとか作りながら書いてるんだろうな、と推察される細かさに脱帽。
(もしいきなり書いてるんなら、それはそれで凄いが)
あとラジヲの笹斑、これ原作単行本にそのまま転用出来そう。
斑目、やっぱり声似てるんだな、ヒヤマに。
てことは、スーツで宇宙戦艦に乗り込んでるオッサンのまねも出来そうだな…

まあそれはさておき、ちなみに「三代目引きこもり」さん、もしあなたにM男属性があるのなら、元祖ハーレム漫画は「女だらけ」か「ゴミムシくん」だと思う。
(多分彼の生まれる前の作品だが)

>マダラメ三世
実は俺、「カリ城」は何回か見たけど細かいとこはうろ覚えです。
それでもかなり原作のイメージが随所に再現されてることだけは分かった。
この作品書く為に、この作者の人何回「カリ城」見直したことだろう?
あるいはシナリオを持っているのか?
どっちでもなく、記憶を頼りにいきなり書いてたとしたら神。
どっちかだとしても大天使。

お二方、お疲れ様でした。

449マロン名無しさん :2006/05/02(火) 19:33:35 ID:???
前々から脳内ではやらかしてたカップリングと言うかクロスオーバーなんすけど、
本スレ見てるとちょっぴり需要がある組み合わせみたいだったんで、SSスレ初投下いっきま〜す!

450GENSIKEN VS LABUyan  (1) :2006/05/02(火) 19:35:21 ID:???
某月某日。
講談社に多数存在する会議室の一つ。
俺はそこで、一人の男と相対していた。

頭は1000円カット屋で刈ったようなザンギリ頭。
刈ったまま整髪料などまるで使った形跡は見られず、ボーボーのボサボサである。
そして特徴的な丸メガネ……良く見ると、レンズに傷が多数つき、曇ったようになっている。
レンズの端のほうは油染みたようになっており、異様な年季を感じさせる。
トドメは全身をうっすらと覆う「異臭」だ。
数日に一度しか風呂に入っていないのだろう、激臭とはでは行かないまでも
ザリガニが腐ったような感じの薄汚い匂いが10M近くはなれたココまで届いている。
おまけに、それに加えて加齢臭まで混ざっている。もう、彼も若くは無いのだ。


……しかしながら、首から下のその体はどうだ。
ジャスコで3枚3900円で売ってそーな安モンのトレーナーに包まれた肉体は、
筋肉で溢れてはちきれんばかりであり、服の上からでも筋肉の様子が見て取れるほどである。
ソコまでして鍛え上げられたその肉体は一種異様でさえあった。

451GENSIKEN VS LABUyan  (2) :2006/05/02(火) 19:36:57 ID:???
そう、彼の名は、大森カズフサ。
講談社アフタヌーンで連載中の「ラブやん」の主人公である。
親愛なるアフタヌーン読者の諸君なら、彼のことはもちろん存じているだろうが、
ココはげんしけんスレ。単行本派など、ご存じない方のために彼―――カズフサ氏について説明しよう。

彼の持つ属性は、ロリ・オタ・プー! 今やニッポンのどこにでもいる典型的なニートである!
欲望をストレートに満たそうとした結果、警察のご厄介になることも度々であり、まさにダメ人間!
そんなこんなで活躍してきた彼もいよいよ29歳と8ヶ月! 大台の見えてきてしまった彼の未来はどっちだ?!

ところでこの「ラブやん」と言うマンガ、内容的には「N●Kへようこそ」など足元にも及ばない
No.1ニートまんがとして出版界に君臨しているのだが、人気の割にはどうにも単行本の売れ行きが芳しくない。
原因は、扱ってるネタが余りにも「アレ」なんで全メディアから黙殺されてしまっているからと言うことらしい。
……まー、オナホールの話題で一話丸々使っちゃうようなマンガだから、それも当然ッちゃ当然なのだが。

452GENSIKEN VS LABUyan  (3) :2006/05/02(火) 19:38:23 ID:???
―――そこで、2004年下半期にやったように、書店への販促テコ入れとして
『げんしけん&ラブやん合同ポスター』ってのを、また作ろうって話になったらしい。
ラブやんだけのPOPでは書店はシカトこくかもしれないが、 
人 気 作 品 である俺達「げんしけん」と一緒の販促品なら、
そうそう無視も出来ないだろうって思ったんだろう。社のエラい人とかが。

そして俺も今日はその用事ではるばる音羽の講談社までやってきたと言うわけだ。
今日やるのは、撮影と……カズフサ氏との対談トークだっけ?
しょーじき「オタ系」ってだけのくくりで、あんな 変 態 漫 画 と、
一緒にされちゃ困るんだが、これも仕事だ仕方ない。

しっかし、流石は講談社。会議室一つが広い広い。今日この部屋使うのは撮影会場もかねているからだろうが。
この部屋に案内してくれた編集者さんは「大森さんってちょっとアブない人だから気を付けてね?」と、
言い残して去ってしまったが、それこそそんな 『アブない人』と二人きりにしてどうする気なんだか。
オタ同士親交を深めろってか? そんなのはゴメンこうむる。
とは言え、用事が終わらなきゃ、帰るものも帰れない。
ちゃちゃっと終わらして、今日もアキバめぐりと行こうじゃないか。

453GENSIKEN VS LABUyan  (4) :2006/05/02(火) 19:40:09 ID:???
さて、部屋に入ってから、カズフサ氏をしげしげと眺めていたが、こうしていてもラチがあかない。
ま、とりあえず、挨拶かな?
カズフサ氏はニヤニヤウハウハしながら手元の漫画誌に夢中になっており、こっちが近づくのにも気づかない―――ってぇ! 
読んでるの『コミックL○』かよ!!(*注1)
スゲェ、想像以上だ。俺もエロゲ雑誌くらいなら人前でも余裕で読めるが、アレは読めねぇ。

すると、こっちの『ヒイた』雰囲気を察したのか、
ふと、カズフサ氏がこちらに目線を向けると「…あ、ども」と、挨拶してきた。
…で、挨拶してくれたのは良いんだが、その後が良ろしくない。
「えーと、今来るって事はげんしけんのヒト? 誰だっけ? 漫画にいたっけ君?」等と言い出しやがった。

しっつれーな!! 3巻から既に登場しとるわい!! 
なんだ? 向こうはこっちから誰が来るのか聞いてないのか?! 編集部の連絡ミスかよ、おい! 
ともあれ、名を聞かれて応えにゃ、男がすたる! 自己紹介してやろうじゃないか、最高にフレンドリイに!

「ハーイ、カズフサさん! はじめましてですにょー! 英語で言うとナーイストゥゥゥーミィィィィチュゥゥゥゥ!!
 ワタクシ、朽木学と申します! コンゴトモヨロシクぅ☆ ですが、マナブともクチキとも呼ばないで!!
 どうかワタクシ推奨の二つ名であるところの『クッチー』と、お呼び下さいませませませ!!」

―――決まった! ここまで気合の入った自己紹介を決めたのは現視研に出戻ったとき以来じゃなかろーか。

454GENSIKEN VS LABUyan  (4) :2006/05/02(火) 19:42:07 ID:???
……ん? しかし、カズフサ氏、なんかヒイてるな? どっかマズったか?
「あー、うんうん朽木クンね。知ってる知ってる思い出した」と、言う表情もどっか硬い。
しかし、ココで弱みを見せちゃいけない。どっちが売れている漫画なんだか彼に教育してやらねば!
「朽木クンではなくてクッチーですクッチー。『クッ・チ・ィ』って言ってください、サン、ハイ、リピートアフターミィ!!」

「まーなんだ朽木クン」
ガン無視かよ。
立場の違いがわかってんのか?
本気でガン無視したままカズフサ氏は続ける、「スーたんや荻上たんと撮影会と聞いたんだが、彼女らはいつ来るんだね君ィ?」

………………は?
「えーと、その、スージー? 多分アメリカだと思いますがにょ?」
なんだ? どーゆー話になってる? 

「フムゥ。ハリウッダー(*注2)な魅力を持つオレ様のカリスマを持ってしても、
 スーたんをニッポンに召喚することは適わなかったヨォだな。編集部も『呼べたら呼びます』としか言ってなかったしな」
なんだ?! 脳内設定か? 脳内設定なのか?! 

455GENSIKEN VS LABUyan  (6) :2006/05/02(火) 19:43:56 ID:???
しかし、混乱する俺を無視してカズフサ氏はガンガンしゃべくる。
「…で? 荻上たんは? 彼女、年齢的にはもうオバサンでアウトだけど、外見的には少女子だからインだしネ!」
なんだよ、インとかアウトって。
……って、イカン! 向こうのペースに押されてる! いい加減、彼に、どっちが強い立場なのか教育してやらねば!!
「オギチンはアレです。春イベントのための腐女子本を描いてるはずですにょ。
 忙しくってこんな所に顔出してる暇はないと思うアルね!」

「え? なら、オレ的げんしけん最萌えメガネッ娘の北川さんは?!」
「人妻です。今頃、元・いいんちょさんにブッといお注射されちゃってるかも知れないナリねぇ〜」

「じゃっ、じゃあ、ギリギリに妥協して、咲たんは?!」
「服のショップとかゆーのを設立するのに忙しいはずですにゃ。まあ3次元の服飾事情には詳しくないのですがにょ」

「いいよモウ。こないだ話して楽しかった斑目クンでガマンするよモウ」
「斑目先輩は有限会社 桜管工事工業でお仕事ですナ。本日は平日でアリマすし」

「ならエロフィギュア談義で盛り上がれそうな、田中クンは?!」
「本日は専門がっこーです。服飾系は課題が多くて大学の3倍は忙しいとおっしゃっておりましたナ」

「コーサカクンは?! 修正前のエロ原画こっそり持ってきてもらおうと頼みこむつもりなんダガネ!」
「ずーーーーっとエロゲ会社で泊り込みでしょうにゃ。ココ数ヶ月、まともに姿を見かけておりませんぞ」

「……じゃあ、嫌だけど『主人公対談』ってことで、笹原君を」
「さっき会ったでしょう? 笹原先輩はカズフサさんをこちらに連れてきた編集者さんナリよ。
 先輩は派遣の漫画編集として講談社でお仕事中でアリマスゆえ。あの後、別の漫画のお仕事のはずですな」


456GENSIKEN VS LABUyan  (7) :2006/05/02(火) 19:46:07 ID:???
「ならば、オレは誰とおしゃべりしたり、写真を撮ったりして楽しく過ごせばいいというのカネ?!!」
「ワタクシです! 貴方の目の前にいるこの朽木学ことクッチーが本日の貴方のお相手でアリマス!!」
…………つ、疲れる。何だこのヒト。しかしやっとココまで話を持ってこれたわ。

……しかし、カズフサ氏の反応は俺の想像のさらに斜め上を行く。
「じゃあ何か?! 仮にも一国一漫画をあずかるラブやん主人公のこのオレがだ、
 貴様のヨォな不人気キャラと同列に扱われてポスターになるってか?!」

完全に向こうのペースだが、そうまで言われて黙ってられるか、乗ってやる!!
ああ、逆ギレ勝負なら負けたことねーよ!!!
「いい加減にしてくださいにょ、カズフサさん! 
 プーの貴方と違って、皆さんには修めるべき学業や、果たすべき勤めがあるのでアリマスよ!!
 本日げんしけんサイドで手が空いているのは、このワタクシ朽木と、大野会長くらいのものですナ。
 ワタクシだって暇では無いのでアリマすぞ!! 
 集めた二次エロ画像を属性ごとにフォルダに分類したり、積みエロゲーを崩したり、
 ネトゲでキャラを育てたりなど、時間はいくらあっても足りないのです! 
 プーの貴方の時間の使い方と一緒にしないでいただきたい!!」

「うわっ、うわ〜〜ん! 不人気がいじめてくるよドラブや〜〜ん!!」
一気にまくし立てると、それだけでカズフサ氏、マジ泣き。良い大人がある意味スゲェ。

457GENSIKEN VS LABUyan  (8) :2006/05/02(火) 19:49:47 ID:???
……ったく、コイツは。今日ちょっと話しただけでも、ラブやんさんの苦労が忍ばれるわ。
「さっきから聞いていれば、不人気不人気と失敬な! 
 よろしいですか?! 『不人気』と呼ばれるたびに、真紅たんはその小さな胸を痛めてるんですにょ!
 ワタクシも生きた人間! 同様に傷つくのでアリマすぞ!」

すると、メガネをクイッとかけ直したカズフサ氏は
「別に不人気なんて、どーでもイイよ。だってオレ、銀様派だモン。ボクもうお家かえゆー」

―――お? 
言い方はムカつく言い方だが、ひょっとしたら俺との接点になりうるか?
「……あ。実はその、ワタクシもメインで好きなのは銀様でアリマして」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(*注1)『コミックL○』:茜新社が発行する「ちっちゃい女の子が大好きなおっきいオトモダチ」向け漫画雑誌。一部伏字にしました。
(*注1)ハリウッダー:カズフサ語。「ハリウッド俳優的な」とかそんな感じの意味らしい。


すんません。急用が出来たものでいったん投下はココまでで。中途半端ですみません。
続きは必ず後日に。

458マロン名無しさん :2006/05/02(火) 20:15:42 ID:???
伏字になってねぇー!

459マロン名無しさん :2006/05/02(火) 21:42:04 ID:???
アフタヌーン史上最低の決戦だなぁw

460マロン名無しさん :2006/05/02(火) 22:31:13 ID:???
不人気ワロタwww
やー、真紅たんはいいと思うけどなあ・・・。
ってそれは関係ないな!
さて、どちらに軍配が上がる・・・どっちでもどうしようもない結末になりそうだなあ・・・。

461マロン名無しさん :2006/05/02(火) 23:42:47 ID:???
クッチーさえ押されちゃうカズフサの(ある意味)強さに噴いた!!
…クッチーが普通に見える…朽木君も最近丸くなったからなぁ…。
喧嘩になったらどっちが勝つのやら…どーでもいいけど、そういうのほど気になりますね。

462マロン名無しさん :2006/05/03(水) 02:30:04 ID:???
劣勢だなクッチー…
世の中下には下が居るものだ。
次回ではクッチーの逆襲に期待したい。

それにしても作者の人、変な時間に急用だな。
24時間スクランブルの有り得る仕事なのかな?
警官とか、消防士とか、空自のパイロットとか、タクシードライバーとか…

463マロン名無しさん :2006/05/03(水) 02:48:22 ID:???
>>462
宇宙防衛軍とか・・・。

464マロン名無しさん :2006/05/03(水) 13:04:44 ID:???
>空自のパイロット

詰所で待機中2CHやってて、スクランブルかって飛び出すネラーカッコヨス

465マロン名無しさん :2006/05/04(木) 00:15:16 ID:???
盛り上がりの無い笹荻の日常短編を投下します。3レスです。

466ヨモギ(1/3) :2006/05/04(木) 00:19:57 ID:???
仕事を始めてすぐの、春の休日のとこ。
笹原が家で午後になっても昼寝をしていると、呼び鈴が鳴った。
しかし起きない笹原。鍵が開く音がして、荻上が入ってきた。
「笹原さん、お疲れですね………。」
布団の中の笹原をみて呟く。
その時、笹原が薄く目を開けた。
「あ…ごめん、荻上さん。おはよう。」
「―――!すみません、起こしちゃいましたね。」
布団から起き上がって、笹原は伸びをした。
「いや〜、寝すぎても疲れるからね。………ありがとう。」
まだ少し寝ぼけ気味の笹原は、はっと思い出した。
「そういえば、おやつ買ってきてあるから一服しよう。」
「じゃあ今、お茶淹れますね。」
台所に荻上が向かうと、草餅の4個入りパックが放置されていた。
勝手知ったる笹原宅。やがて笹原のデスクの隅に、熱い緑茶の
湯呑み2つと、草餅のパックが置かれていた。
「ふぅ…お茶ありがとう。草餅って、春の味だねぇ。」
「そうですね、子供の頃、母が手作りしてくれてましたよ。」
そう言いながら、草餅をぱくぱくと食べる荻上。
「それはもっと、田舎っぽいというか、ヨモギの味が強かったですけどねぇ。」
「やー、これスーパーの特売品だから…。」
お茶をすすりながら、笹原は苦笑いだ。
「そうだ、天気も良いし、ヨモギ取りに行きましょうか。」
「え?今から?…っていうかヨモギって生えてるところ有ったっけ?」
「大丈夫ですよ、雑草が生えてるような所なら。」



467ヨモギ(2/3) :2006/05/04(木) 00:20:52 ID:???
大きな河の河川敷にやってきた荻上と笹原。
犬の散歩をしている人や、家族連れでやってきて走り回る子供も居る。
「いい天気だねぇ。」
「黄砂で遠くが霞んでて、なんか幻想的ですね。」
そんな会話をしながら、土手を降りて草地を歩く二人。
「あの辺の、整地されてないあたりが良いですね。」
指差して、綺麗に草が刈られてない辺りへやってきた。
「これ、ヨモギです。裏が白いんですよ。」
「なるほどねぇ。匂いも特徴的だよね。」
「あと、大きいのは固いので、若いのだけ取るんですよ。」
草むらの横の土手の、草丈の低い所のあちこちに、濃い深緑のヨモギが見える。
「ちょっと季節が遅かったですかねぇ。」
「そうなの?まだ春まっさかりだけど。」
そう言う笹原の視線の先には、草丈の高い草むらの中の黄色い小さな花を
転々と巡るモンキチョウが舞っている。
「土筆が終わっちゃってますから、そう思ったんですよ。」
「あー、あれ、大変だけど嵩が減るらしいねぇ。」
「そうなんですけどね(苦笑)。」
二人並んで、コンビニ袋にヨモギを入れる。
「笹原さん、それ大きいですよ。」
「あー、ごめん。」
「でもまぁ、かき揚げにでもしましょうか。」
草むらの向こうの灌木のあたりからは、ウグイスの声が聞える。
「子供の頃に山菜取りしたぐらいで、俺はヨモギを取って食べた事は無いんだよね。」
「私も大きくなってからは全然でしたよ。懐かしい感じでした。」
そんな調子で小一時間、二人はヨモギを摘み終えた。



468ヨモギ(3/3) :2006/05/04(木) 00:22:07 ID:???
笹原が荻上の部屋に座っていると、台所の方から電話をする声が
聞えてくる。普段聞くことが無いほどの東北弁だ。
「餡から作るのは、無理だっぺやー。」
「え?や!ちげぇって!そんなんじゃないさァ!」
やがて荻上が部屋に戻ってきた。
「実家に電話するの久しぶりでしたけど、母に作り方聞きましたよ。」
「盛り上がってたね(笑)。」
「いえ、そんなの作るの珍しいって吃驚されて……。」
と、赤面する荻上だった。
その日の夜は、ヨモギ入りのかき揚げと、食後に草の香り高いヨモギ餅。
翌日は春日部さんのお店をデートがてら二人で訪ね、お婆ちゃんっ子だった
春日部さんに、ヨモギ餅の手土産は絶賛されたのだった。
「いい奥さんになれるよ、というよりいいお母さんになれるねっ!」
褒め言葉なのかどうか微妙な台詞を受けて、笑顔も微妙な荻上であった。


469マロン名無しさん :2006/05/04(木) 00:22:52 ID:???
以上です〜。最近皆さん長いので、たまには短編でさくっと。
内容無くてスミマセン。

470マロン名無しさん :2006/05/04(木) 00:34:50 ID:???
>>ヨモギ
この、二人の和やかな空気いいですなぁ。
荻上さんがリードする展開も個人的にグッときます。
ぜひまた短篇書いてください。

471マロン名無しさん :2006/05/04(木) 00:36:56 ID:???
>ヨモギ
日常はいい…癒される…!笹原と荻上さんが仲良くしてる風景って、こっちも嬉しくなっちゃいますね。
よもぎもち食べたくなってきちゃいました。

472マロン名無しさん :2006/05/04(木) 01:02:16 ID:???
>ヨモギ
う〜ん、いい感じだぁ。
こんなふうに過ごしてるんだろうなあ・・・。
だからここ数日暑いん(ry

473マロン名無しさん :2006/05/04(木) 02:29:42 ID:???
短編、触発されて書いてみました。
ここまで笹荻ラブラブモードを書いたのは初めてかもしれません。
キャラもかなり違うきゃも・・・。
それはともかく5レスで投下っす。

474らびゅーらびゅー(1/5) :2006/05/04(木) 02:30:57 ID:???
秋も深くなり、徐々に寒さも厳しくなってくる10月。
大分厚着の人も目立ちだし、寒さが目に見えて分かってくる季節である。
しかし、ここは全くそれも関係ないほど暖かい。午後の光のせいだけではない気がする。
場所は小さめのカフェ。ミントティーの香りが漂うオシャレな場所だ。
「面白かったですね・・・。」
そういいながら映画のパンフをうっとりするように眺める頭を後ろに縛った女の子。
荻上千佳さんである。
「だね。でもやっぱり端折り過ぎかな・・・。もっと色々描いて欲しかったけど・・・。」
今日は二人で映画を見に来て、その帰りに、カフェに寄ったのだ。
「ですね。フォウは・・・あれでよかったんですかね?
 私としては結構好きなキャラだからもっとスポットを当てて欲しかったような・・・。」
「うーん、まあ、そのあたりは分からないけど・・・。
 原作を見てない人なら問題ないんじゃないかな?」
「原作ファンがどう思うか、って所ですね。」
「うん。そのあたりは斑目さんにでも聞かないと分からないよ。」
「あはは・・・。そうですね〜。」
場違いのようにも思えるオタ話に花を咲かせながら、荻上さんは口をあけて笑う。
フォウは陰のあるキャラだからそんな笑い方はしないだろうけど・・・。
うん、やっぱりこの方がいいな。
「それじゃ、出ようか。」
「え・・・?」
不安そうな顔をする。・・・ああ、そういうことか。
「帰るにはまだ時間があるから、ちょっと色々見て回ろうよ。」
「あ・・・。そうですね!」
顔がぱぁっと明るくなる。最近の彼女は良く笑う。
その顔もまた、いいなと思うんだ。

475らびゅーらびゅー(2/5) :2006/05/04(木) 02:31:51 ID:???
町を歩く。荻上さんが、横にいる。
彼女の歩幅は少し小さいから、それに合わせるように少し遅く。
「あの・・・。」
「え?」
手をもじもじさせながら荻上さんは少し顔を赤らめている。
あ・・・。でも、ちょっと恥ずかしいなあ・・・。
手を繋ぐなんて・・・。
そうやって俺がためらっていると、荻上さんは少しむくれた顔をした。
「・・・手を繋ぎたくないんですか。」
「や、そういうわけじゃないんだけど・・・。」
「だって・・・私たちは・・・。」
言わんとしている事は分かる。分かるよ、荻上さん。
「そういうことをしなくなるのは、
 関係が壊れるきっかけにもなるって言われてるんですよ!」
そういいながら少し怒った調子で言葉を紡ぐ。
ああ・・・。やばい。スイッチ入っちゃった・・・。

かれこれ、十分間、事の重大さを説かれた。

「・・・というわけです!分かりましたか!」
「・・・ハイ。ハンセイシマス。」
そういいながら、俺は笑って荻上さんに向かって手を伸ばした。
表情をあっという間に変えて、荻上さんは手をとる。
なんか、最近表情が良く変わるなあ。いい傾向だよね。
すごく、一生懸命生きてる気がする。
手を繋いで道を歩く。周囲の寒さに対して、手の暖かさが心地よかった。

476らびゅーらびゅー(3/5) :2006/05/04(木) 02:33:29 ID:???
道すがら、ちょっとしたカジュアルショップがあった。
荻上さんはその方向を少し眺めている。
「入る?」
「え!・・・いいっすか?」
「何言ってんの。そういうもんでしょ。」
言いながら、手を引いて店のほうへ向かう。
店内は完全に女性向けの作り。まあ、正直、興味はあまりない。
っていうかあったら怖いよね。
荻上さんが一生懸命ウインドウショッピングをしている間、
ぼんやり考え事をしてみた。
明日からの研修、何すんだろうなあ・・・。
最初はミスをすることが仕事とはいえ、プレッシャーはある。
好きなこと、興味のあることを仕事に出来たのは良かったけど、
自分に対しての自信と言うか・・・。そういうものが足りてない気がする。
と、ここまで考えたところで、目の前に荻上さんがいた。
・・・すごく深刻そうな顔をしてるけど、なんかあったのかな?
「・・・どうかした?」
「・・・笹原さんこそ、何かあったんですか?すごく深刻そうな顔してましたけど・・・。」
プッ。少し噴出してしまった。
「何で笑うんですか!」
「いや、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ。
 荻上さんがこの世の終わりみたいな顔してるからさ・・・。」
「だって・・・。笹原さんが・・・。」
「ごめんごめん。」
そういいながら、彼女を再び買い物に促す。
本当に、愛されてるんだなあ。なんて、恥ずかしくて口には出せないけど。
荻上さんと付き合うようになって本当に良かったと思う。

477らびゅーらびゅー(4/5) :2006/05/04(木) 02:34:28 ID:???
帰りはすでに日も落ちかけ、夕闇が迫っていた。
「夕方、ビルの合間に出来る情景が好きなんですよね・・・。」
そういって、荻上さんは電車の窓から見えるビル郡を見つめる。
作家さんならではなのかな。感受性が高いというか、見る目が違う。
一緒にいると、新しい視線が見えて来るんだ。
いままで、感じたことのない感覚で、とても楽しい。
これが付き合うって事なんだろうか?教えて、春日部さん!(笑)
とか言ったら、多分、ぶん殴られるかもな〜。
『新しいけど、楽しくなんかないわ!わたしゃ!』とかいって。
そう思いながらぼうっと窓を見る荻上さんを見て少し笑った。

俺が最初に付き合った人だけど、この恋は、一生物になるのかな?
正直、この未来がどこに繋がってどうなるかは分からないけど・・・。
今は。この先も一緒にいてくれたらなって思う。
俺の憂鬱を吹き飛ばしてくれる唯一の人だから。

478らびゅーらびゅー(5/5) :2006/05/04(木) 02:40:25 ID:???
夜になって、帰り道を共に歩く。
三日月が綺麗に浮かぶ日が落ちたばかりの時間。
「今日の月は・・・。なんか目みたいに見えますね・・・。」
なんと。また面白いことを言うなあ。
「何の目かな?」
ちょっとからかうつもりで聞いてみた。
「うーん・・・。神様の目とか・・・。」
「何の神様?」
「恋の神様とか!」
ぶっ。また噴出してしまった。
「何で笑うんですか〜。」
今まで見たこともないような変な顔をして、荻上さんは俺を見る。
「いやいや・・・。そんなことも言うんだね・・・。」
少し恥ずかしそうに顔を赤らめる荻上さん。
「い、いいじゃないですか!聞いたのは笹原さんですよ・・・。」
「いや、ごめん、ごめん。」
謝ってばかり。でも、楽しいからいいんだ。
「・・・笹原さん。」
そういって、少し真面目な表情をして俺を見つめる。
これは・・・。キスの合図ですか?でも・・・。少し・・・。
「やー、今日は楽しかったねえ。」
話をしてはぐらかしてみようとする俺を見て、荻上さんは。
「・・・ハイ・・・。」
何か大きなショックを受けたように打ちひしがれる。
あー、しまった!少しからかおうと思っただけなのに!!
ばっと荻上さんの体に近づき、顔と顔を寄せる。
恋の神様(荻上さん曰く)の見てる下、キスをする。
本当に、愛されてるなあ、俺は。それ以上に、大切にしなきゃ。
そう思った、秋のある日。月は神々しく輝いていた。

479後書 :2006/05/04(木) 02:43:12 ID:???
え〜、笹原の前だと素直な荻上さんを書こうとして
全然違うキャラになっていることを反省します。

元ネタは荻上さんも大好きなアニメの主題歌を歌っていた某バンドの
『ラビューラビュー』です。
この歌に出てくるカップルを無理やり笹荻にしたため、
破綻が起こっていることに反省の意をあらわ(ry

480マロン名無しさん :2006/05/04(木) 05:28:10 ID:???
笹荻全開のこの2本、この歳になると読んでて恥ずかしい…

481マロン名無しさん :2006/05/04(木) 22:56:53 ID:???
>らびゅーらびゅー
んんん!いいですね!甘甘ですね!2人のときはデレになる、ツンデレ荻上さん。

笹荻、成立直後はきっとこんなとろけ〜るような会話してたんじゃないかな〜と考えましたよ!
荻上さんが素直でかわいいっすね。これもまたアリだな!

482マロン名無しさん :2006/05/05(金) 01:20:05 ID:???
さて今晩は。
「GENSIKEN VS LABUyan」の中の人です。
実は残り投下量が25kほどあるんですよね。

そしてこのスレの現在容量は465k。
全部書き込んじゃうと明らかに危険水域まで行っちゃいますので、
本日は投下量を控えて、残りは次スレが立った時にでも落とさせていただきます。

図らずも、前・中・後編形式になってしまいましたが、ご容赦のほどを。

投下するまでに時間があったもので色々いじくって、ちょいとリライトしました。
内容にかぶりが出ますが(8)の再投入から行うことをお許しください。

>>458 ヤダなぁ、ちゃんと伏せましたよ。

>>459 うわーんどラブやーん!! 
「アフタヌーン史上最低の決戦」はサブタイとして最後に付けるつもりだったのに!

>>460 ごめんね。ローゼン知らないくせに偉そうな事書いてごめんね。

>>461 ボケが二人だと物語が回らないので、原作本編のクッチーより若干『普通補正』をかけています。

>>462 ヒント1:職場で書いてた。 ヒント2:閉店時間が8時。

483GENSIKEN VS LABUyan (8) :2006/05/05(金) 01:21:59 ID:???
……ったく、コイツは。今日ちょっと話しただけでも、ラブやんさんの苦労が忍ばれるわ。
「さっきから聞いていれば、不人気不人気と失敬な! 
 よろしいですか?! 『不人気』と呼ばれるたびに、真紅たんはその小さな胸を痛めてるんですにょ!(*注3)
 ワタクシも生きた人間! 同様に傷つくのでアリマすぞ!」

すると、メガネをクイッとかけ直したカズフサ氏は
「別に不人気なんて、どーでもイイよ。だってオレ、銀様派だモン。ボクもうお家かえゆー」(*注3)

―――お? 
言い方はムカつく言い方だが、ひょっとしたら俺との接点になりうるか?
それに『ボクもうお家かえゆー』されてしまっては俺の用事まで果たせない。
スンゲー嫌だが、ココはカズフサ氏を引き止めねばなるまい。
「……あ。実はその、ワタクシもメインで好きなのは銀様でアリマして」
こう言うと予想通りというかなんと言うか、メガネをギラリと光らせながらカズフサ氏が食いついてきた。
「ホホゥ。初めて意見が合いそうだねキミィ。やはり、ローゼンは水銀燈たんにかぎるヨネ!」

484GENSIKEN VS LABUyan (9) :2006/05/05(金) 01:23:12 ID:???
フィッシュオーン! そうだよ、そう。やっぱオタなら同属性について語りゃ話は通じるんだよ。

「全くでアリマスな。他のドール達とは一味違う、あの気品! たまらんものがアリマすにゃー!」
さァ、乗って来い、カズフサ氏。こっちのエサは甘ぁいぞ!!
「ああ水銀燈たんの事を思うだけで、オレの暴れん棒も暴発寸前……
 ……理性を抑えるだなんてムリのムリムリさ……いっそブチ込んでやりてぇ!!」
あァ? 無理だろそれは。だって銀様は設定では……
「あのー、カズフサさん? 銀様は胴体無い筈でアリマすが……どちらにブチ込まれるので?」
「ウッソ、マッジ?! だってこないだネットで落とした同人だと陵辱シーンあったんダガネ!
 じゃあ、アレか、ウチに昔いたメイドロボのコレットみたいな感じか?!」
同人設定かよ! しかもDLしたことを悪びれず言うなよ!! あと、コレットとか嫌なもん思い出させんな。
……そういや、こないだのオナホールの回で、ラブやんさんに、わざわざビデオとテレビ借りて使ってたな。
つーことは、カズフサ氏は普段はアニメや映画見ないし、アニオタじゃないってことか。……正直、意外だ。
なら、銀様の胴体が無いのはアニメのみ設定だし、知らないのも仕方ないか。

などと、つらつら考えていると、属性話でテンション上がってきたカズフサ氏がしゃべりかけてくる。
「ンン〜〜? 何を考え込むことがあるんダネ、朽木クン? ちなみにオレは本編単行本6巻分も全部ネットで拾ったヨ。
 タダで手に入るものをワザワザ買うのはバカのやることダヨネ、HAHAHAHA!」
こ、こ、こ、こ、こ、こ、コイツ……ダメダメ人間だぁ〜〜〜〜ッ!!!
アフタの連載で見た感じ『カズフサの部屋、オタルームの割には随分小奇麗に片付いてんなぁ』とか思ってたが、
全部が全部『DLで済ましちゃう派』だったのか! そりゃ、あんまり部屋にオタアイテム無いはずだわ!!

485GENSIKEN VS LABUyan (10) :2006/05/05(金) 01:25:28 ID:???
いっそ、怒鳴りつけてやろうかとも思ったが、忍耐力と自制心にかけた29歳児に辛く当たると、
スネちゃって話にならないのは、さっき解った。
ここは現視研で社会的に揉まれ、大きく成長したこの朽木の度量の見せどころ!!
コイツにニッポンが生み出したリリンの文化の極みANIMEの素晴らしさを叩き込んでやらねば!
まずはジャブ代わりに挨拶だ!
「あーいやいや。特に何を考えていたという訳ではございませんにょ?
 ただ、カズフサさんはローゼンのアニメの方はご覧になって無いのかなー……などと思いましてにゃ」

するとカズフサ氏、プイスとむくれながらこんな事を言いやがる。
「だってアニメは容量デカイんだモン。アニメ一話を落とす時間があったら同人10冊落として
 日課に励むのが正しい男の在りざまだと思わないカネ、ハニバニ?」
もうヤダ。コイツと話すんの。何がハニバニだ。

しかし、ココで沈黙することは敗北を意味する。なんとしてでも一矢報いねば!!
「いややはり、ローゼンの真の魅力はアニメにアリマすぞ!! カズフサさんも是非とも見るべきですにょ!
 なかでも銀様は漫画原作者よりもむしろアニメスタッフに愛されておりますゆえ、アニメ版の美しさは三倍界王拳!(当社比)
 そして何より動いて喋る銀様の可愛さは華麗さは凶悪ナリ!! それも田中理恵女史の熱演あってのこそですがにょ!!」


486GENSIKEN VS LABUyan (11) :2006/05/05(金) 01:27:04 ID:???

「……いや、その。オレあんまアニメとか見ないから声優の話とかされても……」と、最後の方はなにやらブツブツ言うカズフサ氏。
ハ! りえりえくらい知ってろよ、この雑魚がァ!! 

しかし、行ける。この話題の路線なら行ける。カズフサ氏と相対して以来、こっちが押してる空気を初めて感じているっ!
ならばこのまま叩き込むのみっ! 愛だ! 俺の銀様に対する愛を語ってやらねば!!

「アニメはオリジナルストーリーが多いんですがにょ。銀様のツンデレッぷりはまた格別でアリマすぞ!!
 悪ぶりながらも、めぐを気遣い、めぐを守るために戦う姿にはただ、ナミダナミダの物語!
 ……しかしながらそのおココロは、がらんどうの体にも似て、寂しく、そして孤独に弱い!
 そんな銀様だからこそ! ワタクシがそばで支えてやらないと! ワタクシが守って差し上げないと!!」

おお、最高だぜ俺……輝いてるぜ俺……
俺が銀様を思うこの心は、必ずやカズフサ氏にも伝わったはず!!

―――しかし、運命があざ笑うかのような展開が俺を待ち受けていた。
この後カズフサ氏は信じがたい一言を口にしたのだ。

487GENSIKEN VS LABUyan (12) :2006/05/05(金) 01:28:22 ID:???


             ≦
           ≦      __[[l _[[l_[[l
    お 本 二  ≦     └; 〈  └; n│ __  ,.、
   ら 気 次  ≦        /∧〉  〈/〈/  フ ∠ ヽ>/>
    れ. に. 元  ≦      、−- 、ノレ'⌒Z   ̄ ̄  lニ/  />
   る な. キ  ≦     , -`       ̄`ヽ、          </ />
   !!!  っ  ヤ  ≦    〃   ,_i_l,、ハl、i_,、 `ヽ        ◇  </
       て. ラ  ≦   l' nVl_V _`Y´'_'_ハlハ ,〉       ◇
          に  ≦   ll lkj'j ヽ. ̄ 人  ̄丿ハj /
           ≦    |.lu( ゝu ̄    ̄ 〉' ′ 7
洲            派    | l,ハ `l ゚    u,イ    ゝ
  洲州州州州派        lノ ヽ. l   門 リ  ∧/
                 ノ>- 、ヽ、 凵 /
                /´    `丶7´
              /         \
                /   ヽ         ヽ




488GENSIKEN VS LABUyan (13) :2006/05/05(金) 01:30:27 ID:???
―――――――――え? 

あれ?  このヒト今なんて言った? 
「ニジゲンキャラニホンキニナッテオラレル」って? 
うん。
そおだね。
本気だよ。
愛してるよ銀様。

いやいやいやいや、今問題にするべきは俺が銀様を愛してるとかどうとか言う話じゃなくて……カズフサの野郎の発言内容だ。
「二次元キャラに本気になっておられる」と、奴は言った。そして言いつつドン引きしてる。

つまり。
カズフサは。
二次元キャラを愛せないという事か?
まさか。
そんなバカな。
こんな極まった変態が?
ありえない。物理的にありえない。
じゃあ俺ってカズフサ以下?

さまざまな思いが浮かんでは消え、浮かんでは消え、そして俺の脳髄は一つの結論を導き出した。

裏切りだ!
裏切りだ! 裏切りだ! 裏切りだ! 裏切りだ! 裏切りだ!
いや、そもそも仲間ですらなかった!!
二次キャラを愛せない変態などただの変態、オタクではない!
奴を『オタク』と認識したのがそもそもの間違いだった!
敵だ!
こいつは敵だ!!
自分の欲望のみを追求し、オタ社会に益する事の無いコイツを敵として認識せねばならないッ!

489GENSIKEN VS LABUyan (14) :2006/05/05(金) 01:32:00 ID:???

いまや俺の意識は冴えに冴え、カズフサの毛穴の数までハッキリ見て取れる。
他人から見れば、俺の瞳孔は猫科動物のごとく拡大しているに違いない。
「―――二次元キャラに本気になれぬと申したか」
そんな気持ちからか、おもわず、時代がかった口調でカズフサに問い掛けてしまう。

「なんだソリャ、チュパ衛門の真似か……へぶっ!!」(*注4)
何か言いかけたカズフサのアゴに虎拳を一発。ちなみに虎拳とは手首を用いた当て技の事を虎眼流に置いてそう称する。
本気でぶん殴ったせいか、なんかカズフサの首がエラい曲ってる気がするが、
相手はギャグマンガキャラ、この程度の事で死にはしまい。

「い、いきなり何をするんだねキミィ! いくらチュパ衛門ごっこだからって……アロっ!!」
曲った方向とは逆方向で更に虎拳を一発。うむ。コレで真っ直ぐになった。

「あ、あ、あ、アノー、朽木……サン? セッシャがなにか悪いことしたと言うのですカネ?」
29歳児とは言え所詮は子供同然。やはり子供は叩くに限る。コレでやっと話が通じる状態になった。
「悪いこと……で、アリマスか? まー、アナタの様な方は存在そのものが『悪』だと言えるんですが……
 良く良く考えてみれば、アナタは今現在、悪いことをした訳ではありませんにゃ。
 ワタクシが勝手に暴走して、ワタクシが勝手に自爆しただけでアリマス。
 端から見れば『楽しく談笑していた2人の男のうち一人が、突然キレてぶん殴った』ようにしか見えないでしょうナ」

490GENSIKEN VS LABUyan (15) :2006/05/05(金) 01:35:49 ID:???
「ソウダヨ! オレは借りてきた子羊のように大人しい青年なのに、何の言いがかりで……ゴブァッ!!」
こっちが少しでも非を認めたが否や、鬼の首を取ったかのよーに食って掛かってくるカズフサ。
そこにパチキ(頭突き)一発かます俺。いつぞやのコス泥棒の時と違って打ち負けはしない。
何しろこーゆー時の為に鍛えておいた。しかし、こっちの頭も痛ぇ……

「何の言いがかりでもありませんな。カッとなってやりました。別に後悔などしておりませんが。
 ああ、そうですな、先に殴ったワタクシが悪うございますな……
 ……だからなんだ! それがどうした! 逆ギレ勝負なら負けたことねえよ!!」
ぶつけた額を押さえつつ。マジ切れして叫ぶ俺。うわーきまらねー。カッコわるぅ。

「スンマセン。なんかわからへんけどホンマスンマセン」
そして、コメツキバッタのごとくペコペコしながら謝りだすカズフサ。
はっきしゆって100パー俺が悪いんだが、雰囲気に飲まれて向こうが謝ってんなら押すべきだろう!

「あー、はいはい。二次キャラに本気になって悪うございましたにゃー
 こちとら真性二次元コンプレックスでアリマスゆえ……
 ……ですが! アナタのよーなオタクのフリした真性ロリコンが
 リアルワールドで事件を犯した時に、ワタシラ善良ないちオタクが
 どれだけ迷惑で肩身の狭い思いをしてんだかわかってんですかにょ?!!
 ワタクシ達二次オタは、現実社会に迷惑かかるよーなことはしていないというのにッ!!」

ついつい前々から思ってた事を一気に吐き出してしまう俺。
いやまー、カズフサ一人が悪いわけじゃないが、二次オタみんなの総意ではあるだろう、多分。

491GENSIKEN VS LABUyan (16) :2006/05/05(金) 01:38:14 ID:???
「イヤデスネ? ソノデスネ? その件に関してましてはこっちもお互い様と言うか、
 あんたら極まっちゃった二次オタがアキバ特集とかでテレビに映るたびに、
 ママンと一緒に食べているご飯がおいしくなくなると言うか何と言うか、
 オタクまで行かないちょっとした漫画好きエロゲ好きにとってはいい迷惑なんダガネ……げぼおっ!」

うっさいわ。分かってるわそんな事。今のは単にムカついたから殴った。

「偉そうなクチは、実際に偉くなってから叩いて欲しいもんですにゃ……この無職がァ!!
 悔しかったらげんしけんと同じくラブやんもアニメ化してみろってんですにょ!
 そんでワタクシみたく大御所声優つけてもらってみろや!! あァ!(声の出演:石田彰)」

―――そのとき。カズフサの体がピクリと震えた。そして血涙を流しつつ、一気にカズフサが吠え立てる!!
「クフゥ……黙って聞いておれば言いたい放題だなコゾウ。
 アニメ化がそんなに偉いんけ?! 偉いんけ?! 
 ゆっておくがな、ラブやんはアフタ本誌アンケートではかなり上位なんだぞ!!
 だのになんで、本誌人気では圧勝してる筈の『夢使い』が先にアニメ化しちゃうんダヨォッ!!」

しまった! 『アニメ化してみろ』はNGワードだったか!
これでカズフサにも俺と同じく『怒り』の感情がインストゥールされてしまった……
そしてこうなっては五分と五分……いや、体格の分だけ俺のほうがはるかに不利だ!!
だからって気圧されてたまるか!! ココから先はむしろ精神力の削りあい、押してナンボの勝負だ!!

「バカ言ってんじゃありませんにょ!! エビとかオナホールとか言ってる漫画をアニメ化できるわけないでしょーが!!」

「コゾウ……貴様、闇の勢力の殺し屋か!! 言葉の暴力でオレを葬り去ろうとしてもそうはイカンぞ!!
 田丸漫画キャラの真骨頂は筋肉にあり! 見よ! カズフサ武装化現象(かずふさ・あーむど・ふぇのめのん)!!
 バルバルバルバルバルバルバルゥ!!」
どこかで聞いたようなセリフをカズフサが吐くと、それに伴い奴の筋肉が一気に膨れ上がり
奴の体を包む安物のトレーナーが筋力の内圧に負けて破れて吹き飛んでいく!! 
クソ、流石はギャグマンガキャラ! こーゆーところがハンパねぇ!!

492マロン名無しさん :2006/05/05(金) 01:42:15 ID:???
(*注3)「銀様」「真紅たん」:人気アニメ/漫画『ローゼンメイデン』の主要登場人物。生きた人形。
               ちなみにコレを書いた中の人は作内カズフサと同じくらいの知識しかないので、
               内容に誤りがあるならガンガンつっこんでください。

(*注4)「チュパ衛門」:残酷無残時代劇漫画『シグルイ』の登場人物「山崎九郎右衛門」の通称。
             特技は一人フェラチオ。「ちゅぱっちゅぱっ」と言うその擬音からこの通称が名づけられた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
たしか、スレが落ちるボーダーが480kだったと思うので、一旦ココで切ります。
次スレがあったら、そちらでお会いしましょう。次回、決戦です。

493マロン名無しさん :2006/05/05(金) 01:55:12 ID:???
読みながら笑ってましたw続きが気になるので次スレを立ててきます!

494マロン名無しさん :2006/05/05(金) 01:56:56 ID:???
立てました
げんしけんSSスレ8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1146761741/

495マロン名無しさん :2006/05/05(金) 05:11:34 ID:???
>>494
乙です。

>げんしけんVSラブやん
クッチーの逆襲キター!
敵はあーむど・ふぇのめのんで来たか。
クッチーもSSスレ補正かけて餓狼伝化して迎え撃て!

それにしても作者の人、8時閉店ですか。
デパートか電気屋の人かな?

496マロン名無しさん :2006/05/05(金) 11:30:38 ID:???
>げんしけんVSラブやん
やっぱこのコンボ面白いですね。昔あった「マダやん」と同じ人が書いてるのかな?
あれもおもろかったw爆笑した。
次回決戦!決戦!!クッチーとカズフサの「史上最低の戦い」期待してますよ〜


497マロン名無しさん :2006/05/05(金) 19:41:41 ID:naviTAMv
>>366-378
>>430-444
待ってました!!遅まきながらの書き込みですがこのスレが消えないうちに、と。
コーサカ出てくるかしら?というのは杞憂でしたね。マダラメカッコよかったのに
ここでもいちゃつけないとわw
まあ原作でもくっつかないのはお約束でしたが。
笹原ここでもイイトコ取りかよ!
個人的に最も絵で見たいのはキタガワ警部です。あとナカジーの戦闘モードコス。
いよいよSSも8スレですかぁ・・・
連載終了後も楽しみですよココと絵板は。
ホント、愛に溢れているよなぁ皆様方。

498マロン名無しさん :2006/05/05(金) 20:24:22 ID:???
工エエェェ(´д`)ェェエエ工工
もっもう新スレ?! まだ半月しかたってないよー 
日に日に消費ペース加速してませんかw 喜ばしいのですが
私の読むペースを上回っておりますw あやや、新スレもブックマークせんと。


499言葉にできない :2006/05/05(金) 22:28:59 ID:???
ええと、それじゃあ埋めを兼ねて一つ。
咲たちの卒業後の斑目のお話。

元ネタはオフコースの同名の曲ですが…

500言葉にできない :2006/05/05(金) 22:29:57 ID:???
かなわぬ恋だと知っていた。
それでも望んでいた。
いつか彼女が自分を振り向いてくれる事を。

多分、俺は出会った時には既に、恋に落ちていたのだろう。
『どこに惚れた』なんていう話が、いかに見当違いなのかが今になってわかる。
俺の好みとは全く違う、現実(リアル)な女性。
多分、だからこそ俺は彼女に強く惹かれたのかもしれない。

数年に渡る彼女との付き合いは、実に楽しかった。
当初、彼女は俺とは、まったく違う価値観を持っていた。
水と油と言っていいだろう。
それでも、様々な出来事を通じて、俺は、彼女は変わっていった。
言うな。
言わなくてもわかってる。
彼女は、彼の、高坂の為に、変わっていった。
…そして俺は、彼女の為に、自分を変えようとした。

501言葉にできない :2006/05/05(金) 22:30:44 ID:???
彼女がオタクを理解しようとしたように、俺は彼女を知りたかった。
彼女の望む男になりたかった。
彼女の隣に…いや、彼女の『恋人』になりたかった。

俺は彼女を愛していた。
彼以上に。
きっとそうだった、と信じている。

彼女が卒業して、彼女に会えなくなって、伝える事すらできなかった俺の恋は終わった。
今でも思う。もしあの時、自分の思いを伝えていたら。
彼女は、拒んだだろうか。受け入れてくれただろうか。
わかってる。
こんなことは”今更”でしかない事を。

季節が過ぎ、今俺は彼女ではない彼女と付き合っている。
俺は彼女が好きだ。
一人きりで生きていくことに、耐えられなかったから。それがきっかけだったとしても。
それでいて、俺は、彼女と彼女を比べている。
彼女の姿を。声を。心を。
それに気付く度に、俺は哀しくなる。
自分が情けなくて。

502言葉にできない :2006/05/05(金) 22:31:31 ID:???
いつからだろう。
俺は嘘をつく事が上手くなった。
周りに嘘をつき、自分に嘘をつく。
今も彼女に、大して興味もない、いわゆる”話題作”について熱く語っている。
彼女が笑うたびに、俺は傷つく。
全てをぶちまけたくなる衝動を、必死に堪える。
彼女に嫌われたくなくて。
いや、それも嘘だ。
彼女に嫌われて、一人きりになることが嫌いなだけ。ただそれだけ。

昔を思い出す。
笹原と『ツルペタ』や、『ロリ』や、『幼馴染』などで熱く語り合った日々を。
俺は人生最後の日まで、俺を貫けると思っていた。
だが今の俺は、自分の都合の為に自分を変える、当時最も嫌っていた生き方をしている。
それがくやしい。
ただ、くやしい。

503言葉にできない :2006/05/05(金) 22:32:33 ID:???
春日部咲さん。
俺は貴方と出会って、変わってしまいました。
そしてそんな自分を、未だに好きになれません。
それでも思います。
『貴方に会えてよかった』と。
『貴方に会えてうれしかった』と。

この想いが彼女に届く事は無いだろう。
想うだけで、言葉にできなかったのだから。
それでも俺は想い続ける。
言葉にできなかった、この想いを。

504言葉にできない :2006/05/05(金) 22:33:43 ID:???
おまけ

「なあ、斑目。あんた無理してない?」
「え?いや、別に…」
「そう?実は他に好きな人がいるんじゃない?」
「…」
「図星か」
「…ゴメン。どうしても忘れられないんだ…」
「忘れなくていい」
「え?」
「あたしは今の斑目が好きなんだ。”他の人を忘れられない”斑目がね」
「…いいのか?」
「だからって自分に都合のいい想像すんなよ?あたしが言いたいのは、『忘れられないなら、忘れさせてやる』ということだからな」
「…あ〜…」
「んな情けない顔するな。いいか、絶対に、忘れてしまうほど、幸せにしてやる…あたしが。約束する」
「だから覚悟しろよ、斑目晴信!」

505マロン名無しさん :2006/05/05(金) 22:36:00 ID:???
うぁぁ〜
マダラメがんばれ!
ちょうがんばれ!!

506言葉にできない :2006/05/05(金) 22:37:22 ID:???
以上でやんす。

一応おまけの元ネタはFateと、めぞん一刻ですが…

507マロン名無しさん :2006/05/05(金) 22:50:51 ID:???
斑目の今の彼女に萌えた。

508ヨモギ :2006/05/06(土) 00:06:40 ID:???
>>470-472
感想…反応、ありがとうございます!
笹荻は今後も書いていきますので、宜しくお願いします。
>>480
この歳になると…僕も31歳なんですがorz
微糖ぐらいのつもりだったんですけど、甘かったですかねぇ

509マロン名無しさん :2006/05/06(土) 00:13:30 ID:???
>>らびゅーらびゅー
あまーーーい!!スピードワゴンのネタより甘いです!
ご、ごちそうさまでした。

>>GENSIKEN vs LABUyan中篇
なかなかラブやんも細かく読まれてますね!なるほど…
納得の出来です。続編また是非どうぞ
クッチーがんがれ!

>>言葉に出来ない
斑目話はやっぱり良いですね。どなたの作品も沁みてきます。
しかし現在の彼女が恵子っぽいのが萌えるんですがw


510マロン名無しさん :2006/05/06(土) 04:44:45 ID:???
>>言葉に出来ない
くうう…斑目…大人になっちまって…
でもこういうのもありですね。うん。彼女が器の大きい人でよかった。
…斑目がまだ、あの人のことを忘れないでいることが、嬉しいと思ってしまった。忘れられないからツライのだと分かっているけど。

511マロン名無しさん :2006/05/06(土) 17:45:33 ID:???
>言葉に出来ない
斑目にとっても、大人になるって脱オタすることなのでしょうか?
彼には両立して欲しいものです、大人になることもオタクであり続けることも。

斑目の隣にいるのが、ちょっといい女になった恵子だったら少し嬉しいです。

512マロン名無しさん :2006/05/09(火) 06:02:53 ID:???
自分も斑目にはオタクでいつづけて欲しいなー。
ある意味斑目もオタクであることから「逃げらんね」人だと思うので。

513426 :2006/05/10(水) 01:17:40 ID:???
今回も読んでくださった方に感謝。
>>427
いや〜疲れました。誰か投下のコツ教えてくださいorz
>>428
まあ、色々とどんでん返しはあるかもですよ?(何
マムシver.は、今回のラジヲを書いてて一本浮かんだんですが、いつになるやら・・・。
>>429
マムシは書いてて楽しいですね〜。ああいうノリって大切だと思います。
描写、頑張って書いてみました。
>>446
マダラメたちの過去は今後の展開に関わってきます。お楽しみに!とか言ってみます。
マムシさん、喜んでいただけましたか?よかったです〜。
>>448
行き当たりばったりで書いてます。前を読み返してとりあえず辻褄だけ合わせるように・・・。
設定資料は頭の中に。今度書き上げよう・・・。
ラジヲは基本的に単行本のオマケノリで書いているので、そういっていただけると嬉しいです〜。
や〜、でもゴミムシ君はきつくないっすか?w

というわけで新スレに新作投下しています。よろしくお願いします〜。

514マロン名無しさん :2006/05/10(水) 01:23:40 ID:???
>>480>>481>>509
ありがとうございました!
キャラ壊して見ないと完全に甘いのはかけません。
ちょっと新しいことが出来てよかったです。

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