*笹原きょうだい 【投稿日 2006/03/19】 **[[カテゴリー-その他>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/52.html]] それはまだ二人が幼かった頃の出来事。 朝食の後片付けをすませて玄関に向かう笹原に、後ろから恵子が忍び寄る。 「お兄ちゃん」 「何だ」 猫なで声に嫌な予感を感じてぶっきらぼうに返す。 「自転車乗せて?」 「いやだ」 即答。取り付く島もない態度に恵子は頬を膨らませる。 「えー、いいじゃない」 「自分のに乗れよ」 「学校に置いてきちゃった」 一言文句を言ってやろうと振り返ると、全然反省も後悔もしていないような満面の笑み。 大げさにため息をつくと、笹原は無言で登校の準備をする。 じー。視線を感じるが、無視する。 じじー。さすがに鬱陶しくなるが、まだ無視する。 じじじー。笹原の動きが止まる。 「わかったよ!後ろに乗れ!」 「ありがと、お兄ちゃん!」 恵子の勝ち。 二人を乗せた自転車が道を駈ける。 日差しは暖かくても、風はまだ少し冷たい。 「アハハ、気持ちいー!」 後ろに乗った恵子がはしゃぐ。 「黙って乗ってろ!」 少し息を荒くした笹原が後ろを向いて文句を言う。 「えー、もう疲れたのー?毎日テレビやマンガやゲームばっかやってるからだよー。少しは鍛えたらー?」 「…」 図星を指されて沈黙する笹原。 「それ行けー!もっと速く、もっともっと!」 「無茶言うな!!」 笹原は怒鳴り返しながらも足に力を込める。 自転車は加速して二人を運ぶ。 「ありがとー、お兄ちゃん!じゃあねー!」 息を切らせ言葉も無い笹原を尻目に、恵子は足取りも軽く教室へ向かう。 とりあえず息を整え、ふと気が付くと自分に集まるたくさんの好奇の視線。 笹原は全速力で逃げ出した。 (二度と、絶対に、金輪際こんなことしない!冗談じゃない!) 固く心に誓いながら。 …このささやかな出来事は、ちょっとした波紋を呼び、校則に「自転車での送迎禁止」という項目を付け加える事になったとさ。 それはまだ二人が幼かった日々の出来事。