国会質疑 > 児童ポルノ法 > 1999-10

国会での審議の中継

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衆議院・法務委員会(1999/05/14)/日野市朗議員(民主党所属)

○日野委員 ではもう一度、さらに伺いますが、いわゆる援助交際の場合、買われる側は常に被害者であるという発想に立っているわけですね。いかがですか。

○円参議院議員 今回の法律は十八歳未満の児童を対象としております。十八歳未満の児童を対償をもって性交等をするという行為は、私は、大人はすべきことではない、そういう発想がこの法案の前提にあると思います。

○日野委員 よくわからないのですが、そうすると、性行為そのもの、これは悪なんですかな。いや、金を払えば悪になる、こういうわけでしょう。ただし、児童全体が、十八歳以下であれば、当然それは被害者であるという前提に立っているわけですね、この法律は。
 ただ、私、考えてみまして、現在いわゆる援助交際と言われるもの、これは、買われる側も結構豊かな人たちが多いと思うのですよ。これは日本における場合を言っています。それからかなり成熟化しています。それから動機も多種多様であると私は思う。決して貧困であるとか特別の、一般的に考えてそうせざるを得ないような理由、これが必ずしも存在していない場合が多い、こういうことだと私は日本における援助交際の態様を見ているわけですが、これは間違っているでしょうか。

○円参議院議員 援助交際についてはさまざまな意見があることは承知しております。ただ、いわゆる援助交際について悪とか善とかの発想に立っているわけではなくて、性的な虐待や性的搾取が子供たちの人権侵害になるということを、その子供たち自身も今の世の中でわかっていない部分もあると思います。
 今の社会は、私は今まで、国会議員になる前に二万人ほどの家庭の相談を受けてまいりましたが、そうしたケースの中には、本当に日本のカップルは性的な話し合いもできなければ、豊かな性的関係を持てない方々が多くて、その中から、自分よりも劣った、おとなしい、何も自己主張をしない子供たちをお金で買うというようなケースが多々ございました。そうした、今回の児童に対する性的搾取や性的虐待、それを対償をもってするという中には、どうも性差別的な発想や、また人種差別的な発想、そして性欲を誇示することが男らしいというような社会通念等まであるような感じもいたします。
 そういった社会の中では、何をもって豊かというふうに言うか、ちょっと私は、お金があり、物が買えることが豊かだというふうには、そこだけでは言えないかと思いますけれども、子供たちの人権というものを考えるときに、性的な人権、自己主張、そういったものがしっかりできるようになるには、ただ体の肉体的な発達があってもできない子供たちも大変多いところから、今回の法案はそうした大人の側こそ範を示すべきであるということもありまして、十八歳未満の子供たちに対してはこういった法案をつくったわけでございまして、いわゆる援助交際もその中に、法に関する限りは入るものと考えております。

○日野委員 売春という一つの性文化現象といいますか、こういったものはだれも褒めたことはないのですね。しかし、これを全くなくすこともできない。
 そして、これは私もちょっと前に読んだ本をもう一回引っ張り出して見てみたのですが、これはまじめな本でございますが、一橋大学の阿部謹也さんという教授をなさっている方がお書きになった本で、その中で、これはフランスのその分野のかなりの権威でありますが、ジャック・ロシオという方の引用をしている。いわゆる中世のキリスト教の戒律が非常に厳しく維持された当時における「西洋中世の男と女」という本を書いておられて、その中で言っておられるのです。
 これはもちろん大人の売春の例ですが、売春婦の全体の大体一五%というのは自己の意思に基づいて売春婦になっている。しかも、売春婦のうち約二〇%というのは裕福な家庭の女性だというふうな、こういうことも言っているわけですね。そして、ヨーロッパでは十五世紀にペストが大流行いたしまして、人口が三分の一に減ります。ここで、人口をふやさなくちゃいかぬということで、非生殖的なといいますか、非生産的な性行為というのは禁ずるわけですね。
 それで、そういうことになると、当然売春という方向に、男性たち、主として男性でしょう、ずっと女性を買うというような形で自分たちの性欲の処理をするということで、各都市には売春宿が置かれ、その伝統は今でも飾り窓の女などという形でずっと残るわけですが、そういう形でキリスト教の非常に強い伝統で、戒律でおさめようとしても売春というのはなくならなかった。
 私は、今度は十八歳未満の相手方、子供と性行為をするということを罰するわけですが、それを罰するのは、子供たちは性的に未熟である、それから考え方も未熟であるということはわかりますけれども、しかしこれほど重い、三年以下、そして百万円以下の罰金かな、こういう重い刑で処罰をするだけの規範的な妥当性があるのだろうかということを考えざるを得ないんですね。いかがでしょう。
○大森参議院議員 元郵政大臣の御質問ですので緊張してお答えしたいと思うのですが、実はちょっと正直に申しまして、私の理解力がないためか、よくわからないのですが、要するに、児童買春をした法定刑が軽過ぎるのではないかということではないですか。
 先ほど規範的なとおっしゃいましたけれども、この法案につきましては、要するに、十八歳未満の児童を、対償を供与することによって、あるいはその約束をして、性交とか性交類似行為とかをする行為は違法性が非常に強い、刑罰をもって処罰に値するという考え方を私は持っております。
 そして、児童の権利というときに、それはさまざまいろいろな児童がいると思います。貧困な児童もいればあるいは裕福な児童もいれば、まじめな児童もいれば遊びほうけているような児童もいると思いますが、ただ、私が見まして、児童の権利ということを考えたときに、私たちは個々の児童によってその権利を差別するつもりはございません。そして、貧困な児童に対する行為と、そして、裕福なのほほんと暮らしている児童に対する行為と、あるいは何というんですか、大人を手玉にとるような児童、もしかしたらいるかもしれません、それに対しての評価というものはこの法定刑の範囲内で、その違法性の程度とかあるいは情状とか、この中で考慮されることであると考えております。
 こんなものでよろしいですか。

○日野委員 まあ結構でございましょう。
 では、ちょっと今度は役所の方に伺います。
 これは、この法案の主なねらいと言ったら語弊がありますか、大きなねらいはやはり、日本の男性が外国に出ていって買春をする、これを抑えたいというところにあるのでありますね。私も全くそれについては同感するところでありまして、あんなものは国辱物ですよね。外国に行って子供の春を買う、これは国辱物だ。ですから、これは、この法律ができたら機能的にそういった行為は取り締まられなければならないと思う。
 それをやるために、外務省は一体どういう準備をなさいますか。それから、警察庁はどのような準備をなさいますか。法務省はどのような準備をなさいますか。これはいいという方法をちゃんと見つけていただきたいものだと思っているんですが、今のところどんなふうにお考えになっておられるか、ひとつお願いします。

○内藤説明員 海外において邦人が違法行為を行うことを取り締まるということは、外務省が出先に持っております大使館、総領事館といった在外公館はできないわけでございます。それは、海外においてはその国の法律をその国の治安当局が実施するということでございます。
 したがいまして、私どもとしては、このような行為は個人の行為ですから、その個人がみずからを律していただくように持っていくといいますか、結局は御本人の意識の持ち方が変わっていただきたいということですから、そのための啓発活動というのがまず考えられます。
 現に、実は平成八年に国際会議がございまして、児童の商業的性的搾取に関する世界会議というのがございまして、そのフォローアップの一環として、海外での旅行者、さらには国内でもそうでございますが、意識を高めるということで広報用ポスターをつくっております。それを海外では領事の窓口に張って、一人一人の日本人の啓発に資するということを行っております。

○小林(奉)政府委員 この法案の背景としまして、いわゆる外国での児童買春が大変批判を招いている、こういう実態が一つあると考えております。そういった観点から、私どもといたしましては、国外犯というものがこの法律で規定されたということで、その実効ある取り締まりをすることが必要だと思っています。そのためには、まずもって必要なのが外国の取り締まり機関との連携でございます。主権の問題がございますので、この連携をその範囲内において最大限効果があるようにやっていくことが重要だと考えております。
 そういった観点から、私どもといたしましては、警察庁の職員を外国に派遣いたしまして、それぞれの捜査機関との協議、あるいはこの法律の趣旨をよく徹底して、そういった関連の情報を収集するとともに、正規の手続にのっとった国外犯の取り締まりをする、こういうことをやってまいりたいと思います。
 また、国内的にはそういった意味で、警察庁にそういったことを所掌する部署をこの四月に設けたところでございますので、そういった方法でもって私どもはやってまいりたいと考えております。

○松尾政府委員 法務省といたしましても、第一に、捜査機関が関係国の捜査機関と緊密な連絡協調体制をとりまして、いろいろな捜査に資することを行っていくことになるかと思いますが、そうした際にも、今捜査共助法というものがございます。国際間の捜査協力がこういう分野でも非常に重要性を増してくると思いますので、担当の検察官等十分な研修を施しまして適切に対応してまいりたいと思っております。

○日野委員 午前中、運輸省が、こういった買春ツアーのようなものをやるような会社なんかは旅行業者としての免許を取り消せみたいな質問が出たのに対して、どうもあいまいな答えだったな、そんなふうに私思っているのです。
 実は、私も韓国の方々といろいろ話をする機会があるんですが、あのキーセン観光と言われたもの、あれがいかに韓国の民族の誇りを傷つけたか、それから買春ツアーなどというものがいかに日本人の名誉を傷つけ、現地の人たちの心情を傷つけたか、これはまさに大変なものであります。我々が想像しているよりもはるかに、そういったことを行った人たちの罪は重いと私は考えておりますので、この法律ができて、そしてその取り締まりに当たる当局の皆さんも、そこいらのことは十分に考えて、きちんとした対応をしてもらいたいというふうに思います。
 そのことを強く希望しまして、終わります。ありがとうございました。


衆議院・法務委員会(1999/05/14)/坂上富男議員(民主党所属)

○杉浦委員長 次に、坂上富男君。

○坂上委員 提案者の先生方、本当に大変な御努力をいただきまして、とにかくここまでこぎつけていただいて、御苦労さまでございました。また、二日間にわたります御答弁、これまた親切丁寧に、かつうんちくのある御答弁をいただいておりまして、大変勉強させてもらっております。
 したがいまして、もう相当問題がダブるようにもなりますので、私の質問は簡単明瞭でございますので、御答弁も、説明は要りません、イエスかノーかだけでお答えいただければ結構でございます。
 また、大臣、わざわざ私の質問のためにお出かけをいただきました。この問題、極めて私は重要だと思っておりますものですから、担当大臣とされましては、本当に皆様方の声をぜひ聞いていただきまして、この法律が成立をした場合の運用に当たりましては、きちっと運用していただきますこともお願いをしなければならぬ、こう思いまして、来ていただいたわけでございます。
 それから、この法律は、やはり刑罰の適用に関することでございまするから、国民の人権にも影響をするところが大きいのでございます。したがいまして、こういう法律の中の解釈なりがあいまいでありますと捜査当局に濫用されるおそれがありますものですから、私たちはきちっとこの解釈を厳格にして、余すところなく、先生方の御答弁をもとにいたしまして、この法律の運用がなされるということにしなければならぬと私は思っておるわけでございます。
 そこで、もう一つ、私はこの審議をやっておりまして、私たちの責任の重さを痛感していたわけでございます。と申し上げますのは、福岡先生ちょっといませんが、福岡先生の質問、大変重要な質問をなさいました。そして、この審議の状態がインターネットを通じまして日本じゅうに、聞いておられる方がたくさんあるわけでございます。そこで、もう早速福岡先生の質問に反応が出てまいりまして、まことにまた大事な指摘でございまして、福岡さんからお話がありまして、私は、通告してありませんけれども、先生方からも御理解もいただきたいと思って、これを質問させてもらいます。
 インターネットを聞いておられまして、福岡事務所に電話が入ったそうです。そして、文書がまたすぐ来たそうでございます。この方は、こういう法律の推進のために努力をなさった活動家の方でございます。そして、こう書いてあります。「福岡様が御質問の中で非常に重要な点を挙げていらっしゃいました。」私もそう思っていました。さすがだなと思いました。
 「それは、買春の相手方となった子供が虞犯少年などとして不利益な扱いを受けることがないのかという点です。私たちは、買春の相手方やポルノの被写体とされた子供が、虞犯少年として、また売春防止法違反などで不利益な扱いを受けることを非常に懸念しています。そのようなことが一般的に広がるのであれば、この法律を何のためにつくったのかが疑われることになるでしょう。」
 いろいろ書いてあるんです。そして、最後の方に、「先ほどの審議では、発議者の回答は、虞犯少年として扱われることもあるというものでした。」それはまあ確かにこれだけが条件ではないとおっしゃってはおりますが。「これは別の発議者の、子供は被害者であり、この法律は買春者を処罰するものであるとの答弁とも矛盾しています。この法律が子供の不利益処分を規定していないものである。」ちょっとここが欠落しています。それから、「他の法律ともあわせた全体的な体系として、どのような結果を期待するのか、つまり子供買春、子供ポルノの問題をなくすためにどう取り組むのかという姿勢であります。ぜひこの点について、午後の審議で再度確認し、子供の不利益な扱いをしないような確認をとられるようお願いを申し上げます。」
 こういう質問でございまして、本当に、私たちの審議が大変責任のあることを私は痛感をいたしまして、もっともっと勉強しなければならぬなということを私自身が実は思っておるわけでございます。
 そこで、率直でございますが、相手方となった子供たちがいわゆる虞犯少年としての扱いを受けることはない、こういうことを僕は捜査当局の方からひとつ御答弁いただきたい、こう思っていますが、どうでしょう。
    〔委員長退席、橘委員長代理着席〕

○松尾政府委員 なかなか難しい御質問だと思います。
 先ほど発議者側からも、また警察庁あるいは私からもこれに触れた答弁をさせていただきましたけれども、売春防止法等既存の法律と今回の法案とは、それぞれ目的において重なる部分もありますし、また、違う部分もございます。したがいまして、ただいま先生の御質問にあります、今回の買春の相手となった児童でございますが、これが絶対的に虞犯の対象にならないというふうに言明できるかという御質問だと思います。
 それは、端的に申し上げますと、極めて限られたケースあるいは例外的なケースだと思いますが、先ほどの日野先生の御質問の中にもございました。例えば、買春の相手となった少女といたしましょうか、が、それなりに社会的に見ましても問題がある、少年法の観点から見ましても、やはり健全育成という点からそれなりの指導をその周辺なり何らかのそれに関与した者がする必要があるなというようなケースも、それは例外かもしれません、あると思います。そうしますと、やはり少年法に言ういわゆる虞犯ということで考え得る場合も、それは排除し切れないだろうと思います。
 ただ、最後にちょっと申し上げておきたいのは、今回の法案の趣旨を体しますと、やはり、そういった児童を買う行為そのものの違法性、これに着目して今回処罰規定を拡充するといいますか、置くわけでございますので、そういった観点からは、買春の相手となる児童についてのさまざまな影響を社会的に減らしていこうということだろうと思います。
 この法案のそういった目的に照らしますと、今回いろいろな御議論は、従来の、既存のそういう法令の運用、特に少年法に言う虞犯という概念がございますが、そうしたことを捜査当局として考えるに当たっても、十分に、あるいは十二分にといいましょうか、配慮する必要があるということはおっしゃるとおりだと思いますし、また、そういうものを運用する当局といたしましても、そうした御趣旨を十分に尊重しながら運用していきたい、このように思っております。

○坂上委員 立法の趣旨を捜査当局は間違いなく承って、施行するに当たって、運用するに当たってそれを厳守する、こういう答弁でございます。
 しかし、この御連絡をいただいた方が御心配なさるように、買春の防止をするために徹底的な摘発が行われた場合、やはりその相手方となった児童たちがばんばんと出てくるわけでございます。そうしますと、こういう虞犯少年になるおそれのある場合もないわけではない。こういうことになってまいりますと、このことによってこれらの児童たちがふえてくるということをやはり御心配なさっているんだろうと私は思っておるわけであります。
 でありますから、これのみをもって虞犯少年の取り扱いをしないようにということの意味なんだろうと思いますし、それに対して、捜査当局としてはそれなりの御答弁なんだろうと思います。思いますが、そういうような意味で私はこの文書をいただき、御要請をいただいたんだと思いますので、今後の運用に当たりましては、ひとつ厳重に対応していただきたい、こう思っております。
 裁判所、来ていますか。
 裁判所はこの場合どうしますか。例えば、第十二条「捜査及び公判における配慮等」。この児童たちが被害者になる、買春した人が起訴される、調書を否認される、証人喚問する、こういうような場合、この子供たちが結局証人として出廷をすることになるわけでございます。私は、多分傍聴禁止の措置はとるだろうとは思うのですが、こういう配慮はどうするのですか。ここにこう書いてありますが、具体的にはどういう配慮をなさいますか。

○白木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。
 今、委員の方から傍聴禁止という問題もあると仰せになりましたが、むしろそれ以前に、そういう年少者であるとかあるいは性的犯罪の被害者等につきましては、できる限り裁判所外で期日外の尋問という形で、公の目に触れないような形で尋問が行われるのが普通でございます。

○坂上委員 そうすると、裁判所、今言ったようなことがもう最大限の配慮ということになるのですか。

○白木最高裁判所長官代理者 現行法制のもとでは、今申し上げたようなことが普通に行われ、一番有効な手段であるというふうに考えております。

○坂上委員 なかなかこの法律の運用というのは、児童の保護という観点から見ると、また一面非常に難しい問題もあるのですね。捜査当局は、極秘裏に捜査ということは可能ですからいいのでございますが、公開の席上を原則とする裁判では、やはり今言ったような配慮なんかはもう最大限なされていないと、児童たちが証言すること自体もなかなか容易なことでもございませんで、この辺もひとつ特段の御配慮をしていただかないと、私は、皆様方がせっかくつくっていただいたこの法律の趣旨が変になることも大変恐れているわけでございます。
 そこで、裁判所、少年法三十七条で、児童福祉法等のいわゆる成人が犯した事件については家庭裁判所を専属管轄としておりますが、この趣旨は、このことについて少年法の規定があって、少年法の規定の中に専属管轄の規定があるわけでございますが、この立法の趣旨でございますが、立法趣旨の答弁責任者は法務省だそうでございますが、法務省、これは何で少年法の中にあって家庭裁判所にこういう児童福祉法の成人刑事事件などは起訴されるようになっているのか、この辺、ひとつ御答弁をお願いし、裁判所はこれについてどういう留意をしながら裁判をなさっているのか、これもちょっとお聞きをしたいのでございます。
    〔橘委員長代理退席、委員長着席〕

○松尾政府委員 少年法三十七条の置かれた趣旨でございますけれども、少年法三十七条は、少年の非行の背景といいますか、その背後には成人の無理解とかあるいは不当な取り扱いが多いという、これは社会実態だろうと思いますが、そうした非行少年の原因となるような一定の成人の犯罪につきましては、やはり少年の非行を専門に扱っている家庭裁判所で同じように審理することが適当であろう、こういうことで、家庭裁判所の専属管轄として成人の刑事事件も入れているということだろうと思います。

○安倍最高裁判所長官代理者 家庭裁判所における審理の実情について御説明を申し上げたいと思います。
 この少年の福祉を害する成人の刑事事件の手続は、地裁と同様に、刑事訴訟法の手続に従って行われるわけでございます。この審理に当たりましては、今委員から御指摘もありましたように、被害児童の情操やプライバシーを必要以上に害しないように配慮すべきことは当然だと考えられておりまして、地裁における審理と同様に、例えば、今御指摘がございましたような被害児童を証人として尋問する場合には、裁判所外における証人尋問でございますとか、さらには公開停止とか、被告人の退廷でございますとか、あるいは傍聴人の退廷でございますとか、こういった方策を事犯に応じてとりながら配慮をされているものと承知しているところでございます。
 以上でございます。

○坂上委員 なかなか苦しい答弁なんだろうと思うのでございますが、「注釈少年法」、これをちょっと勉強させてもらいました。また、お話によりますと、少年法の国会審議の中でこの問題については全く議論にならなかったそうでございます。
 そこで、学者の解説を読んでみますと、こう言っているのですね。「成人の刑事事件」ですが、「本章は、少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講じるという法の目的」少年法の目的ですが、「を受けて設けられたものである。」
 でありますから、やはり少年の福祉を害する犯罪行為に対しまして、法の目的を達成するために家庭裁判所を専属管轄にする、こういうものだ、こう言っているのですね。確かに、今、刑事局長が言ったように、
 非行の背後には成人の無理解や不当な取扱が多く、そのような成人の行為が犯罪となる場合の刑事事件は、少年事件を専門に扱い少年に理解のある家庭裁判所が取扱うのが適当であること、このような事件は、少年事件の捜査・調査等の過程で発覚することが多く、証拠関係も共通する場合が多いことから、この種の事件は家庭裁判所が取扱うのが便宜と考えられ、少年の福祉を害する成人の刑事裁判は家庭裁判所の管轄とされた。
こう書いてあるのですね。まあ、大体答弁。
 しかし、話を聞いている限りにおいては、では一体、地方裁判所の刑事裁判とどれだけ違いがあるかというと、何も違いないのじゃないでしょうか。率直に言って、私はそう思っています。
 そこで、提案者にお聞きをしますが、この法案が家庭裁判所を専属管轄にしなかったのはどういう意味でございますか。

○大森参議院議員 しなかった理由というか、お答えになりますかどうか、裁判所法で、地方裁判所の裁判権を規定したものがございます。そして、原則として、「罰金以下の刑に当たる罪以外の罪に係る訴訟の第一審」とありまして、例外として、家庭裁判所の裁判権というものも、裁判所法三十一条の三というふうにしております。
 それで、いずれに管轄を持つか、もちろんこの法律の中で管轄を規定することもできるわけでございますけれども、特に、原則地方裁判所とすることに例外を認める積極的な理由は見つけなかったというのが理由になると思います。

○坂上委員 私は、提案者に申し上げたいのですが、やはりこういうのは、児童保護がこの法律の目的、児童福祉法もやはり児童の福祉、保護のため、それから学校教育法もそうなんですね。だから、これを専属管轄として家庭裁判所、しかし、家庭裁判所になぜしたのか。実務上の扱いがどれだけ違うのかというと、大した違いがないのですよ。
 だけれども、立法の趣旨としては、やはり児童の福祉を害するような行為については専門は家庭裁判所であるから、それからまた、この少年法の趣旨からいって家庭裁判所の管轄がベターである、こういう判断のもとでなったんだ。これは、さっきの裁判所あるいは法務省の答弁でございます。せっかく先生方がそれだけ御配慮いただいてこれだけの法案ができたのでございますから、何で家庭裁判所の方を専属管轄になさらなかったのだろうか。
 ただし、こういうことがあるのです。先生方の気持ちの中に、ここにも書いてあるのですが、
 少年を放任し又は原因を与えて少年を非行に陥れた成人を罰するアメリカの原因供与罪にならったものといわれているが、それを中途半端に採用したために、実効性の乏しいものになったうえ、職権主義的・非要式的な審問主義の家庭裁判所の手続の中に、当事者主義的・対審的手続の成人刑事事件を取入れたこと、少年一般の福祉を守るという理念から、少年保護事件と直接の結びつきのない成人の刑事事件を、少年保護事件を取扱う家庭裁判所で処理することにしたこと、保護者を対象とする処分が認められていないこと、などの制度的な問題点があるうえ、併合罪の併合の利益が害される場合があるなど立法的に解決すべき問題点が多いと指摘されている。
こういうことでございます。こういうような解説があるのですね。
 だから、端的に言いますと、今は地方裁判所でやろうと家庭裁判所でやろうと、いわゆる公開主義によるところの、刑事訴訟法によるところの裁判でございますから、何らの少年法の趣旨というものがこの裁判の中に生かされていない、全く中途半端だということがここの中に書かれているわけであります。
 したがいまして、ちょっときのう、おとといあたりの質問取りの中にも若干そんな感じを私は抱いていたのですが、先生方の中ではどういうふうな、いわゆる児童福祉というような観点から、これは、児童は被害者であり、相手は加害者であるという概念であるわけでございますのが、できるならば、私は、どうも立法の趣旨から見るならば、家庭裁判所が専属管轄にしてもいいんじゃなかろうか。
 ただ、実際は余り区別がないようでございまして、率直な話、先生方は、区別がないから、どうしようもないから地裁にしたのだ、こうなるのか、あるいは、家庭裁判所に出しても家庭裁判所はそれだけの効果を余り発揮していないのだ、こうなるのか、率直な御答弁をいただきたいのです。

○堂本参議院議員 今先生がおっしゃいましたこと、ごもっともでございまして、最初に自社さ案でつくっておりましたときに、児童福祉法の三十四条、これは淫行について決めたところですが、これは今先生がおっしゃったように、福祉の視点から淫行に関しての処罰ということで、その段階で、児童福祉法から三十四条を削除した場合には家庭裁判所を管轄にするということの議論を随分といたしました。
 しかし、三十四条を削除して、なおかつ刑法だけでやるということになりますと、今度、児童の福祉の点やなんかに関して、刑法では十分にできない、リハビリその他の点はできないということで、削除をやめた段階から、福祉が前提ではなくて、今回の場合はあくまでも刑法の領域にとどめる、そして、もっと児童福祉については、再度児童福祉法の改正をしなければならないという判断から、こういうような形になったわけでございます。

○坂上委員 お聞きをいたしておきます。御検討を私は求めておきたいと思います。
 その次に、第八条は未遂罪を罰しておりますが、その他のものについて未遂罪を罰しないのはどういう理由ですか。

○大森参議院議員 児童買春罪につきましては、この構成要件に規定します行為が、性交、性交類似行為だけでなく、性器等への接触等も含み、非常にその行為の範囲が広くなっております。これに未遂規定を設けますとかえって構成要件が不明確になるということで、未遂規定を置いておりません。
 それから、周旋、勧誘等につきましては、周旋目的の勧誘というものは、言ってみれば周旋の未遂的な形態である。この点をとらえまして、あえて未遂を処罰するというのではなく、独立に犯罪として構成いたしました。
 それから、児童ポルノ頒布等の罪につきましては、これは製造、所持、運搬、輸出入といった流通のすべての過程をカバーしているので、あえてここの行為につきましては未遂罪というものを想定いたしませんでした。

○坂上委員 刑法のわいせつ関係のところについては未遂は処罰をしておりますが、本件の場合の、特に児童買春の場合などは、例えば、児童に金をやった、児童がその金を親に見つけられた、どうしたんだ、あした相手の人に会うことになっている、とんでもない、行っちゃならぬ、こういうことになって、この行為が未遂に終わる場合があるんです。
 私は、こういうようなことは、やはり未遂罪を処罰することによって防止ができるんじゃなかろうか、こう思っておるわけでございまして、何か、あいまいになるとかなんとかおっしゃいますが、ちょっと私は、御見解が違うんじゃなかろうか、こう思っております。私はこれも、児童買春などは少なくとも未遂の対象にすべきものなんじゃなかろうか、こう思っておりますが、どうでしょうか。

○大森参議院議員 確かに、先生のおっしゃるようなお考えは理解できます。
 例えば、対償とか物を出したときに既に実行の着手を認めるということがありますけれども、ただ刑法上も、未遂罪というものはすべてについて認められておりませんで、重大な法益侵害の場合に未遂罪が設けられております。
 それで、ここの場合でも、要するに、未遂罪を処罰するかどうかということは一つの私たちの判断ということでございまして、お答えになるかどうかわかりませんが、私どもの勉強会の結果、未遂罪はまだ処罰するに及ばない、こういうふうに判断したということでございます。

○坂上委員 どうでしょうか、こういう被害者を未然に防ぐというのが目的なんじゃないでしょうか。そうだとすれば、私は、やはり未遂罪というものは大変重要な条文になるんじゃなかろうか、こう思っております。刑法における強制わいせつ罪等は、わいせつ文書頒布は別ですが、全部未遂の処罰をしているのですね。
 そんなような観点からいって、この未遂罪を黙っておるというのは、どうもちょっと片手落ちという感じが私はしているのですが、いかがでしょうか。簡単でいいですよ。

○大森参議院議員 簡単と言われても、繰り返しお尋ねになるからきちっとお答えしなければいけないかなと思うのですが、ここは結局、未遂罪という修正された構成要件というものを設けるかどうか、これは、一つの政策判断と言っていいのか、価値判断の問題であると思います。
 それで、未遂罪の構成要件、実行の着手、このところから犯罪の成立を認める未遂罪、構成要件的結果を惹起する現実的危険性をはらんだ行為をもって実行に着手して、そしてまた法益侵害がすべてに至らない場合までも、これは処罰すべきであるというのが未遂罪でございますけれども、今回の児童買春につきましては、さまざまな態様があるということ、そしてまた、十三歳以下の児童に対しまして行った場合には刑法の方の適用がございます。それで、この児童買春の罪につきましては、さまざまな態様があるということから、刑罰の方も三年以下の懲役それから罰金がありますけれども、このような評価をさせていただいております。
 だから、未遂罪を処罰するかどうか、そうした場合に、実行着手行為を特に設けるかどうかということを検討した結果、この罪については、私たち発議者については未遂罪を設けなかったという、こういう答弁になります。

○坂上委員 お聞きをいたしておきます。これもぜひひとつ御検討賜りたいと思っております。
 それから、場所提供罪、この規定を設けなかったのはどういうわけでしょうか。これは、やはり場所の提供がなければ、なかなかこういう犯罪というのは起こらないことも多いと思うんですが、この点、いかがですか。

○円参議院議員 今回は、現在の社会実態に着目いたしまして、児童買春を処罰することを基本とし、さらに児童買春を助長する典型的な行為類型である児童買春周旋及び児童買春周旋目的勧誘をとりあえず処罰することとしたものでございます。
 本法に、先生のおっしゃるように、場所提供罪を設ける必要があるか否かは、この法律の施行状況を見て決せられるものと考えております。

○坂上委員 ぜひひとつ御検討を賜りたいと思っております。
 それから、もう一遍、私、確認させてもらいますが、芸術、学術、医学、こういう目的のために児童ポルノがつくられた場合、これはもう、こういう芸術、学術、医学という目的によって違法性は阻却しない、こういうふうに聞いていいんでしょうか。

○大森参議院議員 今の御質問につきましては、午前中にもそのような質問がございまして、お答えしておりますので、結論だけ申しますれば、そのようにお考えいただいて結構ですということです。

○坂上委員 ちょっとまた後でそれに関連して質問させてもらいます。
 総務庁、おられますか。
 地方公共団体の条例は、ほとんどその自治体青少年健全育成条例などという名称で、児童との性交等の処罰規定をつくっておられるようでございますが、全国的にこういう問題は今まで条例上どんなになっておったのか。それから、児童ポルノ的な問題についてどんな対応になっておったのか。簡単でいいんですが、概括的に御答弁ください。

○久山説明員 お答え申し上げます。
 都道府県の青少年健全育成条例におきますいわゆる淫行処罰規定につきましては、各都道府県によりましてその規制の内容や罰則の軽重に多少の差違はありますけれども、長野県を除きます四十六都道府県で規定されておるというところでございます。

○坂上委員 その条例に基づいて児童との性交禁止処罰を受けた件数というのは、統計上どんなになっていますか。何か統計があったらちょっと。

○小林(奉)政府委員 平成十年中の、いわゆる青少年保護育成条例違反の行為であります青少年に対するみだらな性行為等、こういった行為を行った事件で検挙した人員は二千五百八十三人でございます。

○坂上委員 私も、二千以上もあるというのに大変びっくりいたしております。
 そこで、この条例は大体有償でなくて、みだらという条件がついて性交の処罰をしておるようでございます。そういたしますと、この法案の中の附則の第二条で、条例と抵触する場合は、この法律施行と同時に、条例の部分が効力を失う、こういうふうにありますが、私は新潟県の出身でございまして、新潟県青少年健全育成条例、私はときどきこの事件の弁護もしたことがあるんでございますが、今の法律が成立されますと、この条例の中で効力を失う条文、何条の目的とか、何条の責務とか、何条の自主活動とか、その条文と項目だけざっと挙げていただけますか、新潟県条例の場合。

○林(芳)参議院議員 お答え申し上げます。
 今先生が御指摘のございました新潟県の青少年健全育成条例でございますが、先生の御指摘のように、附則第二条第一項にその関係が規定されておりまして、その育成条例については、第二十条第一項で、「青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。」ということが書いております。第二十一条で、「みだらな性行為又はわいせつな行為」が青少年に対してなされることを知って周旋してはならないと規定しておるところでございまして、我々といたしましては、これらの規定により、児童買春や児童買春周旋をこの条例によっては処罰できなくなる、そのかわりに、我々の今度のこの法案が成立いたしましたら、この法律によって処罰をされることになるということでございます。

○坂上委員 ちょっと私が勘違いしているのでしょうか。大変重大なことでございまして、条例では、みだらな行為、わいせつの行為をしてはならない、このことによって処罰をしているんですね。これは有償無償を問わないんです。でありますから、先生方が提案しているのは有償なんですね。有償なんですから、今度はこのためにこれが抵触して効力がなくなったということは、これは大変なことなんです。どうでしょうか。

○林(芳)参議院議員 失礼いたしました。
 こちらの規定には、附則二条一項には、児童買春、児童ポルノに係る行為等、この法律で規制する行為を処罰する旨を定めている条例の規定の当該行為に係る部分については、この法律の施行と同時に、その効力を失うということでございますから、この法律には有償の部分を規定しておりますので、有償の部分についてのみこちらの法律が規定されまして、無償の部分については条例の効力が残るということでございます。

○坂上委員 当然なことだと思います。
 そこで、これは当たり前のことなんですが、私はここだけでなくして、新潟県条例が、この法律が適用になることによってどこが効力を失うようになるのか、具体的に条文だけ御指摘いただきたい、こう、きのうから要請をして、これは一々答弁するとなかなか大変だから文書でいただきたいといって質問事項の中にも書いて出してあるんでございますが、どうでしょうかね。先生方、今わかりませんか。ここは無効だよ、ここは無効だよというようなのをお聞きをいたしたい。これは重要な問題でございますから、私はあらかじめ文書でいただきたい、こういって出してあるんでございますが、どうですか。

○林(芳)参議院議員 お答えを申し上げさせていただきたいと思います。
 地方自治の方でそれぞれ条例を決めておられますので、具体的にここの条例のここがこれとやるというのは、我々の方で一義的にここが全部なくなると言うのはなかなか難しいところでございまして、それは、この法律の解釈に従って、それぞれのことにおきましてなされるというふうに解釈をしておるところでございます。

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最終更新:2008年12月05日 06:14
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