国会質疑 > 児童ポルノ法 > 1999-09

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衆議院・法務委員会(1999/05/14)/佐々木秀典議員(民主党所属)

○杉浦委員長 次に、佐々木秀典君。

○佐々木(秀)委員 民主党の佐々木です。お昼の時間までおつき合いをいただきたいと思います。
 子供たちを性的な被害から守ろうという国際運動として、ECPATキャンペーンという運動があると聞いております。日本でも、この趣旨に賛同する方々が少なからずいて、そして、この方々の運動などがこの法案をつくるきっかけにもなっているというように聞いておりますけれども、この国際運動の概要、それから、この種の世界各国の取り組みの代表的な事例などについて御説明をいただけるとありがたいと思います。

○清水(澄)参議院議員 ECPATキャンペーンといいますのは、特に一九九一年、タイで、アジア観光における子供買春根絶キャンペーンという運動が始まりました。そして、特にアジアにおけるセックスツーリズムの実態を、ツーリズムで入ってくるのはほとんど先進国のヨーロッパなりオーストラリアなりアメリカなり日本なんですね、そういう国々に対してその実態を訴えるという中で、各国の政府に対してそれぞれの国の法改正などを具体的に働きかけていくという大きな運動を起こしてきております。
 そして、子供買春、子供ポルノ、性的目的での子供の取引根絶キャンペーン運動というのを国際的なNGO運動として取り組んでおりまして、三十カ国以上にそういう団体が広がって、そこが主としてそれぞれの国の政府に対してその実態を知らせ、そして、今私どもがやっているように、その国のこれまでの性風俗維持とかそういう概念ではない、子供の人権をどう保護していくのか、子供の人権を守るという大きな運動を展開しておるわけです。
 そして、現在、そのECPATが取り組んでいますテーマの一つとしては、インターネット上の児童ポルノの問題に力を入れておりますし、特に、大人だけじゃなくて若者の参加を重視した取り組みをしております。
 このECPATというのは非常に大きな力を持っておりまして、これが実は、一九九六年にストックホルムで開かれました児童の商業的性的搾取に反対する世界会議、これを、ユニセフとか国連機関、国連子どもの権利委員会、それからスウェーデン政府がそれを受けまして、そしてその国際会議が開かれ、そこに国連の各機関が来ましたし、日本からも何人か参加いたしました、私もその一人でした。そして、多数のNGOと対等な形でその会議が開かれて、これは本当に国際的に、千二百人もの国連の会議のような大きな会議でございました。
 そして、このストックホルム会議で、今日問題になっている児童買春、児童ポルノ、性的目的での児童の売買を根絶する、そういう宣言を行いまして、そのために、国際協力、それから被害児童の権利保護、ケア、リハビリとか、子供自身をそこに参加させていく、そういう具体的な取り組みを、行動計画を各国でつくろう、二〇〇〇年までに国内行動計画をつくろうということを決定をして、そしてそれが、各国取り組んでおって、今二十カ国以上国内行動計画ができております。
 そのことが各国の中で、例えばEUなども早速、閣僚会議、ヨーロッパ審議会が開かれまして、さらにEUでは、人身売買、子供の性的搾取を撲滅する共同行動計画というものを採択しております。各地でそういう行動が広がっている中で、日本が行動計画もないではないかという、またここでそういう問題提起がされているわけです。
 ですから、ヨーロッパ等では、イタリアでも昨年ですし、スウェーデンでも昨年、子供の人権の立場に立ったポルノの禁止の問題とか、そういう新しい法律制定への大きな流れをつくり出している。
 そして、さらに国際機関では、そこだけではございませんで、これはもともと八九年に国連で採択された子どもの権利条約、これに基づくものですから、この条約の三十四条にはきちんと、児童買春、児童ポルノを根絶しようということを各国で、国内の法律改正とか国際連帯でやろうということを決めていまして、国連では人権委員会がこの問題に対する特別報告者を任命してずっと作業が続いており、そして、ことしがちょうど子どもの権利条約採択十年目に当たりますので、ことしまでにそのことをみんなで努力している。そして、ユニセフとかILO、ユネスコなど国連機関もECPATのNGOと一緒になって各地においてこの運動に取り組んでいる、これが実態でございます。

○佐々木(秀)委員 お昼になりましたので、これで一応中断をいたします。
 午後からまたお願いいたします。

○杉浦委員長 午後一時二十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。
    午後零時一分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時二十一分開議

○杉浦委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 この際、お諮りいたします。
 本日、最高裁判所白木刑事局長、安倍家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ございませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○杉浦委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――

○杉浦委員長 質疑を続行いたします。佐々木秀典君。

○佐々木(秀)委員 それでは、引き続き質問させていただきます。
 先ほど提案者からECPATキャンペーンの国際的な運動の概要、それから、各国のこの種問題に対する取り組みの状況を伺わせていただきまして、ありがとうございました。
 お聞きをするところによりますと、このECPATキャンペーンでは、子供の売買、先ほども福岡委員の御質問の中で子供の人身売買のことが問題になっておった。この子供の人身売買の禁止ということが独立の目的に掲げられているように伺っておりますが、今度のこの法律案では、第八条でこの人身売買の禁止をされている。しかし、これは買春目的の人身売買に限定しているように思われるわけですね。もっとも、ポルノ製造の目的ということもあるわけですけれども、しかし、あのECPATキャンペーンでは、こういう目的だけではなしに、いわゆる労働に従事させる目的、あるいは里子の目的とか、それから、日本でも臓器移植法案が通ったわけですけれども、子供の臓器の売買目的なんというのも、これは東南アジアでは実際にあるようですね。悲惨な話をたくさん私どもとしても聞くわけですけれども、これを、今度のこの法案では、いわゆる性的な問題に絡めた売買だけに限っているんだけれども、これは広げる必要がないのか。
 もちろん、この法律案は、児童買春、児童ポルノに係る行為、いわゆる性的な虐待の禁止ということに主眼があるのはわかるんだけれども、要するに、それは一つの典型であって、児童そのものの人権を大事にするという精神がもっと徹底されなければならないということを考えると、この児童の人身売買ということについては、さらに目的を広げてもいいのではないかなというような思いもしているんですけれども、この辺についてのお考えはいかがでしょうか。

○大森参議院議員 労働目的、里子目的とか臓器売買目的なども入れるべきではないかという御質問でございますが、それぞれの法律をつくります場合にはその目的というものがございます。それについて規定するのはその目的の範囲内という限定がございまして、保護の必要性がないという意味ではございませんけれども、今回のこの法案につきましては、この目的、第一条に書いておりますように、「児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資することを目的とする。」こういう法案となっております。
 児童の売買につきましては、さまざまな態様が確かにあり得るわけでございますが、本法では、このような目的から、当該児童を児童買春の相手方とさせ、または当該児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する目的での売買を処罰することとしたものであります。

○佐々木(秀)委員 つまり、私がお尋ねをしたような事柄については、別の法律ないしは別の措置によって保護の措置を考えるべきである、こういうお考えだということでよろしいですね。
 それから、私が予定した質問は大分先ほど同僚委員からの御質問があり、それと重複している部分もありますので、もうお答えいただいたところについては割愛をさせていただきたいと思いますが、ただ、先ほども年齢についてのお話がありました。例えば、本法では児童については十八歳未満にしているわけですけれども、しかし、先ほども御指摘がありましたけれども、もう十五歳、十六歳などというと、例えば身体的には大人と変わりない、大人よりも立派な体をしている女性もたくさんいるわけです。諸外国の例で言うと、ドイツでは十四歳、フランスでは十五歳、ベルギーでは十六歳となっていると聞いております。それからまた、先ほども御指摘がありましたけれども、我が国では女性の婚姻適齢が十六歳になっているなどということもある。
 それで、これは先ほど福岡委員からも御指摘があったところですけれども、いわゆる第九条の、児童の年齢についての情を知っているかどうかということについてです。児童を使用する者が、児童の年齢を知らないことを理由にして、第五条から第八条までの規定による処罰を免れることはできない、ただし、過失がないときはこの限りではない、こうなっているわけです。今のような子供たちの身体の発育状況などからいうと、これは情を知るという、九条関係でいうと、使う場合に、一々戸籍抄本あるいは戸籍謄本などを出せというところまでは、恐らくどんな企業でも余りやってないんだろうと思うんです。まともな企業でもですよ。
 そうすると、そうでなくて、特に風俗だとか何かで使うような場合に、それを聞かない、それで本人の年齢を聞いて、本人の年齢についての偽りの申告、それを受けたという場合に、それをさらに突っ込んで確かめないままにというようなことが過失に当たるのかどうか、これは先ほどの御指摘にもあったけれども、なかなか難しいんじゃないかと思うんですね。
 それと、その外国の事例での年齢の問題などと比べると、これは経過の中でもいろいろ私どもも議論に参加したところだったんですが、十八歳という年齢はちょっと高過ぎるんじゃないかという意見がかなりあったんです。しかし、これで、十八歳で決めたということについて、簡単で結構ですから、そこを決断されたという事情について。

○円参議院議員 先ほど福岡委員にもお答えしたんですけれども、一定の年齢に満たない者に対し特別の保護を与えることを定めた児童の権利に関する条約というものがございます。その対象となる児童は十八歳に満たない者とすることをこの条約では原則としておりまして、また我が国におきましては、児童が健やかに成長するように各般の制度を整備するとともに、児童に淫行させる行為等、児童買春に関連する行為をも処罰の対象とする法律に児童福祉法がございますが、同法の対象となる児童も十八歳に満たない者でございます。そして、これは女性の婚姻による例外を認めておりません。これらの条約や法律の目的とこの法律の目的から考えて、対象とするものの範囲も同一にすべきものと私どもは考えまして、十八歳未満の者をこの法律による児童としたわけでございます。先生がおっしゃるような議論はさまざまございましたけれども、そういうわけでございます。

○佐々木(秀)委員 一応そのように伺っておきます。
 それから、先ほど来他の委員からも御指摘がありましたように、これが刑法との関係で、特に児童に対する性的な犯罪、処罰も重くなっているというようなこと、あるいは犯罪類型としても構成要件的にぴたっといくのかどうかなというようなことから、これが濫用されるおそれはないんだろうかというようなことがありますね。
 例えば、児童ポルノの販売目的の所持だとか製造だとか運搬、これが禁止をされ、違反をすると処罰をされるということになるわけですが、そういうことが、例えば憲法二十一条二項の検閲の禁止に触れないか。つまり、原稿の作成だとか印刷段階だとかあるいは映画だとかビデオの撮影段階がこの販売目的の所持、製造、運搬禁止ということに触れないとは限らないのではないか。そうすると、今言ったような後者の段階でも強制捜査の機会が生じるのではないかというようなおそれが指摘をされたりするわけですね。そういうことから、第三条では「国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」こう書いてあるわけですね。
 そこで、これはむしろ法務省にお聞きをした方がいいのかと思いますけれども、私が今挙げたような例のほかに、ここで心配されている国民の権利の不当な侵害のおそれというのはどんなような事例が考えられるのか、そして、それに対する歯どめとして、この法律で賄えるのかどうか。先ほど、第九条関係では、過失の立証責任は捜査官の方にあるだろう、検察側にあるだろうというお話もあったんだけれども、私が述べたようなことからして、果たして立証可能なのかどうか、そんなことも含めて刑事局長にお尋ねをしたいと思います。

○松尾政府委員 まず、憲法の問題といいますか、重要な問題である検閲になるのかどうかという、ここのところからお答えしたいと思います。
 最高裁の判例で、昭和五十九年十二月十二日に、検閲についての判例がございます。その判決での文言でございますが、検閲というのは何かということでございます。これは「行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す」、これが検閲だ、こう判示しているわけでございます。
 この法案の第七条では、確かに頒布等の目的で児童ポルノの製造、所持、運搬等をした者について処罰するという規定になっております。これは「対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査」するというものでないことは、この法案の文言からも明らかでございます。判決に言う検閲の概念には該当しないということがまず言えるかと思います。
 それから二番目に、この法案が成立した際の運用等で、例えばその濫用のおそれとか、あるいは概念の混同等が生じて混乱することがないのかという御趣旨かと思いますが、例えば、本法案では、既存の刑法あるいは児童福祉法その他の用いている文言と同じ文言がございます。同じ文言は、当然のことでございますが、従来の解釈あるいは判例によってその内容が逐次明らかにされてきている部分につきましては、その判例の流れといいますかそういうことが実務に定着しておりますので、その趣旨を体して、あるいはその趣旨を尊重しながら運用するということに当然なろうかと思います。
 ただ、この法案では、若干のところにつきまして従来よりも処罰範囲を広げたことがございます。この法文上の文言あるいはその趣旨につきましては発議者の方から何回かにわたっていろいろな観点からの御説明がございました。我々捜査当局といたしましては、国会におけるそうした法文についての御論議、あるいは参議院も通じてでございますが、委員会でいろいろ交わされましたことについて、その趣旨にのっとりまして慎重に適用してまいりたいと思っているところでございます。

○佐々木(秀)委員 確かに、ほかの法律などで概念がもう確定しているものについてはそういう問題はないんだろうと思うんですけれども、例えば買春という言葉も、恐らく法律用語としては今度初めて使われることになるんだろうと思うんですね。そうすると、例えば、刑法百七十四条のわいせつ行為それから刑法百七十七条で言う姦淫行為、これと、本法の四条で言う、これは対償の相手は児童に限るわけですけれども、買春という行為、これとは、概念として全く違う概念なのか。共通する部分もあると思うんだけれども、こういう言葉が初めて法律上用いられることによる取り締まり側の不安感とかそういうことはないのか、この辺はどうですか。

○松尾政府委員 結論といたしましては、そうした不安感は全くございません。
 念のため申し上げますと、刑法第百七十七条には姦淫という言葉が出てまいります。これは性交と同意義でございます。それから、同じ刑法の百七十六条にはわいせつな行為という概念が出てまいります。これは本法案の児童買春の定義における性交等よりも広い概念でございます。
 一つ例を挙げますと、東京高裁の昭和三十二年一月二十二日の判例でございますが、例えば無理やりキスをする行為もわいせつに当たる場合があるというふうになっております。今回の法案ではそれはもう対象外ということになっておりますので、こういった例から見ても、刑法のわいせつな行為というのは今回の買春の意義からはかなり広いというふうに理解されます。
 また、その具体的内容については、個々の事例ごとに判断をしていくことで、運用上のおそれ、あるいはその心配等は全くございません。

○佐々木(秀)委員 時間が参りましたので一応これで他の委員に引き継ぎたいと思いますけれども、私も、児童の権利は保護されなければならない、性的な虐待などという忌まわしい犠牲になることを何とかして抑えたいものだと思います。
 この法律がそのために大きな力を発揮することを期待はするのですけれども、しかし同時に、各委員からもさまざまな御指摘があるように、やはり新しい概念を用いてこれを法律にするというようなこともあって、これが濫用されるおそれがなきにしもあらず。かえって目的と違ったような使われ方をするということになると、これは提案者としても大変残念なことになるわけですから、これは運用に全きを期していただかなければならないわけですね、慎重でなければならないと思うのですね。
 特に、表現の自由などに深くかかわってくる問題がありますから、これは警察にはきょうはお尋ねしませんでしたけれども、十分にその点は運用の上で留意していかなければならないし、場合によったら、やはりこれを見直していくということも必要になってくるのじゃないだろうかと思います。
 そのことを希望として申し添えて、私の質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。

衆議院・法務委員会(1999/05/14)/日野市朗議員(民主党所属)

○杉浦委員長 次に、日野市朗君。

○日野委員 日野市朗でございます。よろしくお願いします。
 本当に皆さん御苦労さまだと思います。それに、きのう、きょうの委員会でもいろいろ勉強会の話なんかも出ておりまして、随分長い間いろいろ御研さん賜ったというふうに仄聞をしているところでございまして、このようにおまとめをいただいたということ、本当に御苦労さまだったと思います。
 ただ、私は勉強会にも参加いたしませんで、非常に客観的にこの法案を拝見させていただきまして、やはり問題点というものはあるなというのが率直な私の思いでございます。
 それで、私の方から、幾つか非常に主観的に私が感じております問題点について、きょうはそれを提起して、御解明をいただければ、そう思っております。
 まず第一番目に、買春という言葉をお使いになった、そして売春という概念がございます。私は、この買春という言葉が日本語としていいかどうかは別として、そこのところは細かく言いますまい、私は余り好意を持っていないのですがね。この買春と売春という概念との間に、これは、売春といい買春といっても、やはり売春という一つの概念の中でいろいろ論じられている事柄であろうというふうに思うわけでございます。
 売春というのは、これはもう昔から世の中の一つの恥ずかしい部分、恥部でありましたと同時に、それをなくすことはできないという非常に重苦しい一つの文化現象であったわけであります。
 それで、私、現在の日本における売春というものについての一つの法的な規制といいますか、それから、売春という行為が行われる、それに対する一つの形づけ、枠組みづくりといいますか、そういったものを与えているのはやはり売春防止法だと思うのでございますよ。それで、この売春防止法というのは、私はこれは基本法と考えてもいいのではないか。今度の児童買春法、今問題になっているこの法案、これは一つの新しい別個のものを売春という一つの法律のシステムといいますか、その規制の態様の中に持ち込んだということであって、これは、私の感じとしては、今までの売春防止法が決めていた世界の枠をまた一つ拡大したのかなというような感じがするわけであります。
 それで、そこらの関係を、売春防止法というのは基本法と考えて、そして本法案は特別法をつくろうとしているのかどうかということについて一つお伺いをしたいと思います。
 なぜこんなことを聞くかといいますと、売春防止法というものの中にいろいろある概念と同じような概念でこの買春というものをとらえていいのかどうか、そこらに私は疑問を感ずるものですから、一つその点をお伺いします。

○円参議院議員 今の先生の御質問に直接お答えする前に、買春についてちょっとお話しさせていただきたいと思っております。
 先生が今、買春という言葉は余りなじみがないのではないか、また、御自身は余り賛成できない言葉であるというふうにおっしゃったように承りましたけれども、私ども、これは今まで、バイシュンといいますときは、漢字では売る春と書きます。今回、買う春という書き方をしておりまして、これもまたバイシュンとも読めるわけで、どう読むかということもあるかと思いますが、私どもは児童カイシュンと読むこととしております。
 なぜあえてカイシュンと読むことにしたかと申しますと、児童の売買春は、仲介する者が弱い児童を強制的に売買することが組織的に行われているなど、大人の優位な立場を利用して行われている点で、性を売る側の是非を問われがちな売春とは違い、買う側の是非を問う問題だと考えたからでございます。そのため、バイシュンと読みますと弱い児童自身を犯罪者あるいは逸脱者として扱う懸念があります。むしろ、子供が性的な対象物として売られ、買われることの問題性が現在問われているのだと思いまして、そこで、買う側の大人の責任を明確にするために買春と表現したものでございます。
 ぜひとも、今回、参議院、衆議院でこうしてこの児童買春罪についての議論を進めておりますことが人々に広く知られ、カイシュンということの意義、そういう読み方をするその意味合い等をわかってもらい、性的搾取、性的虐待は本当に子供たちの権利を侵害するものであるということが広く伝われば本当にうれしいと思っております。
 さて、それで、先生が直接お尋ねの売春防止法と本法との関係でございます。これは基本法と特別法との関係かというお尋ねでございますけれども、売春防止法は、その第一条におきまして、その規定は、「売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによつて、売春の防止を図ることを目的とする。」というふうに書かれております。もう先生御承知のことでございます。
 これに対し、この法案は、「児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資すること」を目的としております。
 そして、この法案では、金銭等の対償を供与し、また、その供与の約束をして児童に対し性交等をする児童買春は、児童買春の相手方となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず、このような行為が社会に広がるときには、児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに、身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであり、また、児童買春については国際的な対応が強く求められるところから、かかる行為を規制、処罰することとし、かつ、日本国民においては国内外を問わず罰則の適用を認めることとしたものでございます。
 このように、売春防止法とこの法案とは、基本的な趣旨、目的を異にするものでありまして、一般法と特別法との関係にはございません。

○日野委員 よくそこのところは理解をしているのですが、やはり同じ売春という一つの性的な出来事、そういったものを対象にしていることは、これは間違いないだろうと私は思っております。
 そこで、売春防止法と児童買春法、そこに規定されている犯罪同士の関係というのはどういうふうになるかということを、私、確認をしておく必要があると思う。
 つまり、売春防止法が処罰している犯罪、これは売春防止法に幾つかございます。その売春防止法が規制をしている、処罰をすることとしている犯罪と児童買春法の犯罪というのは違います。明らかに違っているわけです。それでは、児童買春法ができたからといって、売春防止法の適用関係、それからその運用、これは全く変わらないというふうに見てもよろしいのでしょうか。もっと具体的に言いましょう。つまり、十八歳未満の女性たちが売春防止法に該当するような行為をとった場合、それは売春防止法の適用がありますか。

○吉川(春)参議院議員 この売防法の適用問題について、私個人としては売防法を適用しない選択を考えておりまして、勉強会の中でもその意見を申しましたけれども、結局、売防法の適用をしないということにはなりませんでした。今先生がおっしゃいますように、基本的には売防法の適用がされる、形の上ではそういうふうになっていると思います。同時に、売春してもされても、児童はやはり被害者であるという立場を考えるときに、この売防法の適用にあっては非常に慎重な運用が望まれるのではないか、そのように私は考えておりますが、形の上では先生のおっしゃるとおりでございます。

○大森参議院議員 このことは勉強会でも議論がございました。十八歳未満の女の子といたしましょう、それが売春の相手方となった場合、両方の法律に該当するような事態があるのではないかということでございますね。
 売春防止法の場合には、第一条の目的というものがございまして、「この法律は、売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによつて、売春の防止を図ることを目的とする。」こうございます。要するに、性道徳に反する罪とか性風俗に対する罪と考えられておりまして、この中に規定してありますように、「売春を助長する行為等を処罰する」、このように規定がございます。
 これは、よく誤解されることなのですけれども、売春の方で、男性の方が処罰されない、女性だけと言われるのですが、対償を得てですけれども、性行為そのものの場面については、男性も処罰されませんし、女性も処罰されません。反面、ここでは助長する行為として挙げられております勧誘等ですけれども、この構成要件に該当しましたならば、女性であれ男性であれ、この構成要件に該当するということで、処罰の対象となっております。
 それから、児童買春につきましては、その目的、保護法益等、既に述べてありますので繰り返しませんけれども、まず、法の目的というのが違っているということでございます。そして、十八歳未満の女子に対しましても、その行為が売春防止法に規定する構成要件に該当する場合、勧誘等の行為をあえてしたような場合ですけれども、これを処罰しないという積極的な理由づけがまだ十分ではない、こういう結論ですので、特に売春防止法について、このような行為をした場合まで処罰しないという理由はないと思います。
 確認して申し上げますけれども、性行為そのものの場面では、売春防止法でも、女性の方が処罰されるようなことにはなっておりません。

○日野委員 私も、本法、つまり児童買春法ができたからといって、売春防止法の適用を手控えるということにはならないのだろうと思わざるを得ないわけですね。そしてまた、一方では、買春をする男の側、これは逆の場合もありますが、大部分は男が女をということでしょうからそういうことでお話をしますが、これは確かに買う方も悪い。しかし、買われる方に対する道徳的非難というもの、これを全くしないというわけにもいかないというふうに実は私は思っております。そこで、やはり売春防止法の適用ということはきちんとやって、売春防止法の守るべき法益というものはきちんと守らなければならないのではあるまいか、こう思っております。
 この点に関して、法務省と警察庁、どういうふうにお考えになりますか。児童買春法ができて売春防止法の適用というものがどういうふうに、変わるのか変わらないのか、いかがでしょうか。

○松尾政府委員 両者の関係については、ただいま発議者から答弁したとおりだろうと思います。
 売春防止法の適用の問題で、たまたま売春の勧誘行為をした者が児童に当たるあるいは少年に当たるという場合には、従来の運用でありましても、少年法自体が十九歳、二十歳未満の者については健全育成を旨としてということをうたってありますので、そうした趣旨も十分に配慮しながら、捜査あるいは運用に当たってきたところでございます。そのことは、この法案が仮に成立いたしました後の運用においてもやはり尊重すべきでありますし、またそうした趣旨も十分考慮しながら運用すべきものと考えております。

○小林(奉)政府委員 運用方針につきましては、ただいま発議者の説明がございました。また、法務省の刑事局長からの説明がございましたが、そのとおりでございます。さらに、加えて申し上げるならば、本法律案におきましては保護のための措置という概念が入っておりますので、そういった面も視野に入れながら、この法律の適用を図っていくことが必要じゃないか、こういうように考えておる次第でございます。

○日野委員 わかりました。ただ、売春防止法と児童買春法の間で、ちょっと嫌みなところが残るのですよ。つまり、児童買春法は、十八歳未満の子供に対して買春行為を行えばこれは罪になる。しかし、売春防止法ではこれは罪にならないのですね。つまり、十八歳未満の者に対する買春行為をした、これは犯罪です。ところが、その相手方、これはその相手方をしたということで、犯罪行為の相手方になっているわけですから、当然捜査の対象になるわけですね。当然捜査の対象になってきます。裁判でも、証人として出ていくというようなことも必要になってくるわけです。
 そうすると、少年法上、先ほど実は福岡先生の方からも質問がありましたが、虞犯少年というようなレッテルを張られる可能性が出てくる。これは嫌みなところですね、この両方の間で。ここについて、先ほど大森先生の方からちょっと説明がありましたけれども、私はここのところで、十八歳未満の子供たちに対してこれは虞犯少年というレッテルを張ってしまうようなことが起こりやしないか。少なくとも、そういう児童買春罪、四条の罪において相手方になっているわけですから、必ずこれは捜査機関、特に警察、検察のリストには載るわけですね。こういうのは非行であるとか虞犯少年ということで、不利益な取り扱いになるようなことがあるのかないのか、私はここを非常に危惧するところなのですが、いかがでございましょうか。

○大森参議院議員 十八歳未満の児童が買春の相手方となった場合、捜査の対象となるということでございますけれども、これは、この法案上は被害者という立場になりますので、被害者として事情を伺うことになります。仮に証人とかになる場合でも、被害者としての証言ということになります。
 それから、虞犯少年というレッテルを張るおそれがあるのではないかということでございますけれども、この法案というものは、児童の性的搾取、性的虐待、これから守ることを目的としておりますので、この法案によりまして虞犯少年としてのレッテルを張るおそれがあるということは我々が予定していないことであります。もし虞犯少年あるとするならば、この法案の問題ではなくて、あくまでその相手方となった児童の日常の行為等によって個別的に判断されることでありまして、この法律ができたからといって、虞犯少年というレッテルを張るおそれがあるということにはならないと思います。
 ただ、もちろん児童というのは非常に可塑性に富むといいますか、デリケートな存在でございますから、事情聴取等につきましては、捜査、公判の職務担当者は十分な注意をするということで、注意喚起は明文の規定でしております。

○日野委員 私は、捜査の対象となる、これは、被害者として捜査の対象になるんだからということは余り理由にならないと実は思うのです。捜査の対象であることはこれは間違いないわけで、そこのところはよろしいでしょう。
 では、警察の方に特に伺いますが、被害者であろうと何であろうと構いません、十八歳未満の子供がこういう事件で、児童買春をやった被疑者の相手になったという事実、これはやはり警察としては記録に残るのでしょうな。いかがですか。

○小林(奉)政府委員 記録に残るかどうかということでございますが、どういった意味で記録に残るかなというのがちょっとわかりにくいのですけれども、いずれにいたしましても、私どもは、こういった事件につきましては、少年の特性ということとこういった児童買春の被害者となったという面と、いろいろな面がございますので、その部面を具体的なケースごとに応じて適切にやってまいりたい、こういうふうに考えております。

○日野委員 余りよくわからなかったですが、ここのところは非常に気を使った取り扱いをやっていただかなければならない部分だろう、このように私は思っております。
 それでは、今度は、問題をいわゆる援助交際というものに絞って少し論議をしてみたいと思います。
 いわゆる援助交際というのは、結局は、十八歳未満の子供に対して対価ですか、対償を支払って、そして性的な行動をすること、性交等をすることということでありますから、これは本法案の第四条に該当することは明らかでございますね。いかがですか。一応確認のために伺います。

○円参議院議員 お答えいたします。
 いわゆる援助交際が、対償すなわち児童に対して性交等をすることに対する反対給付としての経済的利益を児童に供与し、またはその供与の約束をして当該児童に対し性交等をするものであると認められる限り、いわゆる援助交際において児童と性交等をした者は児童買春罪に該当すると考えております。

○日野委員 この議論をするのに、誤解をされると困りますからお話ししておきますが、私は、特にこの法律が問題としている児童に対する性交等、特に東南アジアにおける日本人の買春行為などというものは、本当にああいうものは断固として禁圧すべきもの、こう思っています。それと同時に、それと同列で、援助交際というものを同一の法文で禁圧するということが適当かどうかということについては、実は疑問を持っているわけなんです。
 そこで幾つか伺いますが、いわゆる売春行為であるとか性交等の行為、こういうことをする場合というのはこれはいろいろ考えられるわけですね。何が一体その動機づけになっているか。一番多いのはやはり貧困でございましょう。特にアジアにおける貧困。そして、それに乗じてそのような行為をするということはまことに人間として恥ずべきことだというふうに私は思います。それを厳重に禁圧すべきこと、これは私は全く同感なんです。
 ただ、日本のいわゆる援助交際と言われるものとは同列に論ずることはできないのではないかというふうに私は一方で思うのですが、率直な感想、いかがでございましょう。

○円参議院議員 先生にちょっとお尋ねしたいのですが、先生は、貧困による売春ならばいい、または援助交際はいけないとか、そういうふうな価値観でお考えの御質問なのでしょうか。

○日野委員 私が誤解ないようにと言ったのは、貧困等によって売春をしている人がいるわけだ。そういう人を金で買うなどということはまことに恥ずべきことだ、これは禁圧すべきだ、こう言っているわけです。私はそれを肯定しているわけではありません。
 しかし一方で、いわゆる援助交際と言われるものはまた別でしょうということを私申し上げているわけで、なぜなら、そこには貧困という動機は余りない。むしろ、よりぜいたくをしようとか、そういう動機づけの方が多いというふうに、日本のような豊かな社会では、そう考えた方がいいのではないかと思うから、同じ条文でこれを処罰しようというのは少し違和感があるということを申し上げたい。

○円参議院議員 やはり今の先生のお話から推測させていただきますと、貧困というような事情がある場合と貧困がない場合とでは同じ行為でも随分違うので処罰を考えた方がいいのではないかというふうに解釈ができたのですけれども、確かに、法律をつくって処罰するということだけでは、東南アジア等で行われております貧困からくる売春というようなものを撲滅することはとても難しい問題で、法律だけでは力が足りないところもあるかと思います。
 しかしながら、今回の法律は、買う側、買春のところに重点を置いておりまして、子供たちの性的搾取、性的虐待をすることが子供たちの人権を侵害するというところに重点が置かれておりまして、その子供たちの保護を考えておりますので、たとえどういう動機や原因がありましても、買う側の人、これは別に男だけではありません、女性だってそうです、男女全く差別ございません。買う側の大人の方を処罰するということでございますので、私は先生のおっしゃるような貧困からくる売春と援助交際と違うのではないかという意見には賛成しかねますし、そういうような論点から、今回の法案ができたものと思っております。

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最終更新:2008年12月05日 06:13
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