司法制度・訴訟 > 刑法・刑事政策

刑法における「犯罪論」

「犯罪」論の概要

「犯罪」は、以下の3条件を満たした行為だとされています。
①構成要件に該当する(刑法に書かれている犯罪の定型・パターンに該当)
→形式的評価
②違法な行為(法益侵害がある)
→実質的評価
③有責の行為(行為者に故意や過失がある)

刑法における構成要件について

構成要件というのは、犯罪のカタログで、刑法に書かれている犯罪の定型・パターンです。
構成要件は、人々に「このようなパターンの行為は原則として違法です」と予告する機能をもっており、構成要件概念は罪刑法定主義の基本となっています(構成要件の罪刑法定主義機能)。

構成要件には、以下の3種類があります。
①客観的構成要件要素
→法益侵害・法益侵害の危険の発生など
②主観的構成要件要素
→目的犯における目的・故意・過失など
③規範的構成要件要素
→わいせつ罪の「わいせつ」のように、裁判所の判断が必要なもの

刑法における違法性の実質論(結果無価値論と行為無価値論)

違法性の実質については、2説があります。
①法益侵害説:法益の侵害(の危険)
→法益侵害と法益侵害の可能性に注目。刑法の役割を法益保護に置き、あくまでも法益に違反する行為のみを刑法の対象と考える。法益の侵害は客観視しやすい内容であり、違法性論を安定させ、罪刑法定主義につながる。
②社会倫理違反説:社会倫理・道徳違反
→社会倫理違反・社会益道徳違反を問題にする。法益侵害以外の行為者の意図・動機などを評価することができるが、倫理や道徳の客観化が困難なため、裁判官の主観が入ってくるという問題点がある(違法性と倫理違反との混同)。
2 法益保護主義
 法益保護主義とは、法益の擁護が刑法の任務であり、犯罪は法益に対する加害行為(法益を侵害する行為、法益保護の危険を生じさせる行為)に限定されるべきだとする考え方であり、現在の学説における通説ないし定説になっている。
 これに対して、かつては、社会倫理の維持を刑法の任務として強調する考え方が有力に主張されていた。こうした立場からは、社会の倫理に反する行為であって、その維持の必要性という観点から見て看過しえない行為が犯罪とされることになる。しかし、個人主義に立脚する現在のわが国の法制度下においては(憲法13条参照)、多様な価値観が許容される事が必要であり、「他人に迷惑をかけない限り」行動する自由が保障されなくてはならず、「他人に対して迷惑のかからない行為」に対して国家が積極的かつ強制的に介入し、一定の価値観とそれに従った行動を国民に対して強要することは慎まなければならないのである。こうした観点から、刑法の基本的な政策原理として、法益保護主義が採用される必要があることになる。しかし、後述するように、判例ないし学説における、社会倫理の維持への関心ないし執着には根強いものがあり、それは違法論を初めとして、さまざまな解釈論の場面に顔を出す事になる。(山口厚「刑法総論」p.4)

 刑法の任務は法益の保護である。したがって、刑法はその目的に反する事態を、過度の介入の抑制という自由主義的原則を考慮しつつ、禁止の対象とするものである。こうした理解からは、違法性の実質は、法益侵害・危険という「結果無価値」の惹起と解される事になる(これを法益侵害説ないし結果無価値論という。現在、学説では、後者の名称がより一般的には用いられている)。このような意味で、違法性の実質については結果無価値論の立場から理解されるべきである。この立場からは、構成要件該当事実に対応した行為者の主観面であるに過ぎない故意・過失は、違法要素ではなく、また、主観的違法要素は例外的に肯定されるにすぎないのである。
 これに対して、刑法の任務を社会倫理の保護に求める立場からは、行為の反倫理性(このような、法益侵害・危険に解消しえない行為の反倫理性を「行為無価値」という)が違法性の実質と解される事になる(これを行為無価値論という)。ここでは、行為者の主観面は、故意・過失を含め、行為の反倫理性に影響を及ぼす事情として、広く違法要素となる。そして、この立場を徹底する場合には、結果無価値は、独立の意義を有するのではなく、行為無価値を評価するための一資料にすぎないと解されることになる(行為無価値一元論)。
 わが国の学説においては、刑法の任務を法益保護とする理解に立ちながらも、処罰の限定のためには、行為無価値を考慮することが必要だとする見解が有力に主張されている。法益保護という目的と、それを達成する手段とは別であり、後者の見地から行為無価値を考慮する事は(保護目的との合理的関連性がある限りにおいて)可能であり、必要であるとの指摘もされている。このような意味で、わが国の行為無価値論は、結果無価値に加えて行為無価値を要求するという処罰の限定性を強調しているのである(折衷的行為無価値論)(山口厚「刑法総論」p.93)
上記が教科書的な理解になりますが、弁護士の方に学会及び実務状況を聞いた所、以下のような回答をいただきました。
①現在の刑法学界では、結果無価値論(法益侵害説)のほうが有力で、学界の主流は明らかに結果無価値論(法益侵害説)。但し、行為無価値の先生も学者も名前を挙げれば意外といる(団藤,大塚,大谷,川端,井田,佐久間,伊東(研)) 。
②実務は行為無価値論(二元論)といわれているが、実際には実務(判例)は「行為無価値論が正しい」と考えてそこから演繹して結論を導いているわけではなく、常に具体的妥当性との均衡をにらみながら理論的裏付けを探って結論を出すという過程を経ている(そのため、「判例は行為無価値である」というような言い方は誤解を招くといわれるようです)。実務的な価値判断としては二元論というべきなのだと思うし、実務は行為無価値であると言っても大過はないが、そういうものだと理解すべき。

刑法における保護法益

「保護法益」について

法益 
法によって保護される社会生活上の利益。権利より広い概念であり、何々権という権利として一般に認められるには至らないものであってもよい。
刑法上、違法性は法益侵害を中核とするとされる。
刑法の主な役割は、刑罰により法益を不法な侵害から保護することにあるので、個々の罪において、刑法が保護しようとする法益(保護法益)が何かを明らかにすることがその刑罰法規の解釈の重要な指針となる。
また保護法益の性質によって、個々の犯罪の体系的分類がなされる。
刑法各則の規定は、おおむね、国家的法益に対する罪、社会的法益に対する罪、個人的法益に対する罪の順に、体系的に整序されている(「法律学小事典」より引用) 。
なお、個人的法益と社会的法益は、全く別個のものではなくて、個人的法益でもあり社会的法益でもあるという場合もありえます。
2つの円の内重なり合う部分があって、その重なり合う部分を個人的法益として扱うのか社会的法益として扱うのかは、その時どきの法律・判例・運用などで変わります。

また、人権と個人的法益の関係でいえば、「人権≒個人的法益」になると思います。
憲法上の人権ではなくても、刑法上、個人的法益として保護されるものもありそうですし、刑法上処罰規定がないからといって、憲法上の人権を侵害していないことにはならないと思います。

参考サイト

「結果無価値論」と「行為無価値論」の保護法益との関係

結果無価値論というのは、「法益侵害という結果を起こしたことが悪い」という考え方なので、個人的法益のみならず、国家的法益、社会的法益にも、刑罰法規を設けることはできます。
(例)列車を転覆させてはいけませんよー。通貨を偽造してはいけませんよー。←社会的法益の侵害という結果は発生している。

行為無価値論というのは「やってはいけませんと言われていることをやったのが悪い」ので、刑法等で「やってはいけない」とされていることをやったのが悪い、という考え方です。
学説でいう行為無価値論者は、行為無価値+結果無価値も考慮する、という感じなので、二元論であると言われています。
でも、実務は行為無価値か結果無価値か、というのとはあまり関係なく、事件ごとに「この辺りが落とし所」と考えてやっているようです。

参考サイト

刑法や刑事政策に関するQ&A

刑法分野における「実務」とはどういう意味なのでしょうか?

刑法分野の場合、基本的に判例で出た判断が実務を回すときの基準になります。
そのため、法曹が「実務」というときは「判例」を指していることが多く、実務=判例というのが基本的な理解になります。

経済犯罪の場合、罰金刑が高く設定されていますがこれは何故なのでしょうか?

独占禁止法・不正競争防止法・租税法などに違反した経済犯罪の場合、「損害額を賠償すればいい」ということになると、脱法行為をする人が後を絶たなくなるので、「脱法行為をするくらいなら、きちんと法律を守った方が得だ」という考えになるように、罰金などを高額に設定する必要があります。

税金で言うならば、「脱税しても元々払うべき額の税金を納めればいい」という事になると、皆脱税します。
そのため、追徴課税などはかなり高額の罰金が設定されており、「脱税して後からごっそり持っていかれるくらいなら、おとなしく払うものは払ってしまった方がいい」という発想になるように制度設計がされています。

なお、独占禁止法の場合は、そうはいっても、企業はなかなか尻尾を出さないので、司法取引的なやり方も取り入れて、「一番に名乗り出た企業には、課徴金減額しますよ」みたいな事もやっていて、刑法典における経済犯(詐欺や強盗など)とは少し違った考え方で理論構成されているようです。

「当番弁護士制度」というのは何故できたのでしょうか?

当番弁護士制度 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%93%E7%95%AA%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E5%88%B6%E5%BA%A6
当番弁護士制度とは、刑事事件で逮捕された者(被疑者)が、起訴される前の段階であっても、弁護士を通じた弁護権の行使を円滑に行うことができるようになることを目的に、日本弁護士連合会(日弁連)により提唱・設置された制度である。逮捕された人が警察を通じて、または家族や知人などが所管の弁護士会へ依頼することによって当番弁護士による初回の接見を無料で行うことができ、防御の手段等のアドバイス、法律相談、弁護の依頼を行なうことができる。
導入の背景としては、刑事手続きにおいて捜査機関(警察・検察)側と比較して、被疑者側は自分の周りを自分を有罪にしようとしている人達に囲まれるため、被疑者の味方となる弁護士側も裁判で不利になるという事情から、弁護人の弁護活動をもっと良くするためにはどうしたらいいかと考えて、作られた制度だそうです。

参考サイト

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年08月02日 12:58
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。