国籍法改正 > DNA鑑定導入

2008/12/17の時点での検討

法改正の趣旨として「非嫡出子の救済」というものがあり、DNA鑑定を強制すると強制認知による非嫡出子の救済が難しくなるという問題があります。
この問題はDNA鑑定を前提とした制度設計をした場合は解消されますが、そうなった場合は民法の家族法や日本の家族制度にまで影響を及ぼす可能性もあり、外国人母の非嫡出子の国籍取得のケースにのみ導入すると、再度憲法14条違反に問われる可能性もあります。
それ以外のDNA鑑定の導入が難しい理由は、法務当局の国会答弁「「DNA鑑定の導入」に関して参考になるブログ記事」を参考にして下さい。

2008/12/28の時点での検討

離婚後300日以内に出生した子供の戸籍問題|衆議院議員早川忠孝の一念発起・日々新たなり(2008/12/12)
http://ameblo.jp/gusya-h/entry-10181390243.html
上記の記事のコメント欄での議論・検討で、整理をすれば法務省が指摘している問題点の多くはクリアできるので、将来的には任意選択としての導入くらいならば可能かもしれない、という事で検討しています。但し、法律的な検討も必要となり、こちらはなかなか難しい事になりそうです。

国籍法だけでなく民法も変える必要があるのか?

この論点は2段階に分かれていて、認知の段階でDNA鑑定を導入するか、国籍取得届の段階でDNA鑑定を導入するかです。
認知の段階でDNA鑑定を導入した場合、法務当局の国会答弁では民法を含む親子法制全般に影響を与えるようです。
そのため、親子法制全般に影響を与えずにDNA鑑定を導入する場合は、認知の段階ではなく国籍取得の段階で導入する必要があります。

国際私法の窓際にて 私法上の「認知」と「国籍取得届」(2008/12/14)
http://conflict-of-laws.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-8d8e.html
 国籍法新3条1項で問題になる典型的な場面は,この「男性」が日本国民で,「子」が外国の国民である場合で,この場合の準拠法の選択肢としては,日本法だけでなく,「子」の本国法も出てきます。
 ということは,仮に日本民法を改正して認知にDNA鑑定を要件とするように変更しても,「子」の本国法で意思主義が採られていれば,このような場合には意味がないことになります。むしろ,従来の日本の家族法制度に変更が加えられる弊害の方が大きいかもしれません。
 DNA鑑定を要件とするのであれば,法律上の非嫡出親子関係の成立に向けた私法上の「認知」ではなく,<国籍法新3条1項における日本国籍の取得という公法的効果の発生を目的とする国籍取得届という公法行為>のところに入れる必要があります。
千葉大学の森田教授(国際私法)のコメントは上記のようになっています。

また、最高裁の違憲判決を厳格に解釈した場合は、日本の家族制度に影響を与えないまま国籍取得の要件としてDNA鑑定を設けると、再度憲法違反をいわれる可能性があるという見解を、保守派の稲田議員が表明しています。
【正論】衆議院議員弁護士・稲田朋美 「国籍付与」は国会の重い課題(2008/11/27)http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/081127/plc0811270311005-n1.htm
 これに対し、国籍付与の前提としての認知にDNA鑑定を行うことは「血統主義」をとる我が国では当然であり、民法の親子関係に直接影響を与えるものではないと主張する人もいる。
 しかし仮にDNA鑑定を要件とすれば、今までなら父の認知後、父母が婚姻をして準正により当然に国籍を付与した場合にも鑑定を要件としなければ平仄(ひょうそく)が合わない。なぜなら最高裁は「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かは、子にとっては自らの意思や努力では変えることのできない身分行為」である。これによって区別することは憲法14条の差別としたのだから、認知しただけの非嫡出子にDNA鑑定を要件とするのなら、父母が結婚した嫡出子にも鑑定を要件としなければ再度憲法違反をいわれる恐れが大きいからだ。
こういった「DNA鑑定の法制化」による、民法772条問題、代理母問題等の家族法との関連に関しては、以下の記事が詳しく解説しています。

Because It's There 婚外子国籍確認訴訟(2):国籍取得のためにDNA鑑定を義務づける規定は妥当なのか?~DNA鑑定自体を取り入れることは大歓迎ですが、本当にいいのですか?(2008/11/29)
http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/blog-entry-1594.html#more

DNA鑑定を制度化すると、強制認知による非嫡出子の救済が出来なくなるのか?

この論点に関しては、偽装認知の摘発にかかるリソースと子供の救済という事で議論されましたが、以下のような結論になりました。
(質問)
「偽装認知によって不正に得た国籍は消されます」とありますが、それに対して果たしてどれだけのリソース(手間)がかかるのでしょうか?
運用にて容易に偽装認知が認められる虞があるのが現状で、それに対し安易に偽装認知を無効にできない。減少傾向とはいえ現時点で15万人近く外国人不法残留者がいます。その責を負う法務省が『われわれの運用は合法的で合目的的だ、安心しろ』と言われても国民感情として納得しづらいのではないでしょうか?
組織的偽装結婚・偽装認知の摘発にかかるリソース・手間は大きいと思います。
しかしその一方で本当に日本人父の血を引く外国人母の子で,父に日本人妻子がいるため外国人母と結婚できない場合は,子は救済しなければなりません。

いままで無責任な日本人父に対し,子が裁判で認知を求めた場合,父がDNA鑑定を拒否すれば,裁判所は親子関係を認めていました。
本当に心当たりがないならDNA鑑定拒否しないはず,拒否するのは怪しい,扶養義務を追いたくないから本当は自分の子なのにDNA鑑定拒否しているのではということになっていました。
しかし国籍取得の要件にDNA鑑定を入れると,父がDNA鑑定を拒否した場合,子は救済されません。
子を救済するなら,新たに民事・家事事件でも強制的に身柄を拘束してDNA鑑定する制度を作らなければなりません。
そのリソース・手間とどっちが重いかです。私にはどっちが重いかわかりません。

(質問者からの返信)
私ももちろん無責任な親のせいで不利益な立場に置かれている方々には必要な手だてを迅速に打つべきだと思います。
しかし、今はグローバル化まっさかりの時代です。その結果として、10年前と比較しても驚くほど国と国の垣根も低くなっています。YOKOSO!JAPANで短期ビザ免除時代です。ですから、偽装認知で出入国のつじつまを合わせようとする時も加速度的に容易になります。
他にもまだ聞けば『なるほど!』と言う懸念材料や抜け道はごまんとありますが、どうもその辺を政治家の先生方が理解なさっているのかが非常に心配です。
これは人権擁護法案賛成派の方々にも当てはまる警鐘です。日本は武力を持たない国ですから、これを社会問題だけとしてではなく安全保障の問題としても熟慮する必要があります。ぜひ民意をうまくくみ取っていただきたいものです。長々と失礼致しました。

(質問)
「父がDNA鑑定を拒否すれば,裁判所は親子関係を認めていました。国籍取得の要件にDNA鑑定を入れると,父がDNA鑑定を拒否した場合,子は救済されません」とありますが、ここに疑問があります。

意思主義であるところの認知によって発生する『親子関係』と、生物的な『血縁関係』は、元々別個のものではないのでしょうか?
この仮定では、DNA鑑定は国籍取得の要件であって、認知の要件では無いのですから、従来どおり、DNA鑑定を拒否する父に親子関係を認めてしまえば良い話だと思います。(と同時に、親子関係と養育の義務を発生させてしまえば、ここに登場する父がDNA鑑定を拒む理由も無くなります。)
この時の子供の状況は、『日本人である父と親子関係にあるが、血縁関係が立証されていないので国籍取得は未だできない』となりますが、この状況は”子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない”父の行動によって国籍を得られない状態ですから、これは法の下の平等に反することになります。
なので、このようなケースにおいては、聞き取り調査や過去の写真など、『厳格な審査』なるものによって可能な限りの救済が施されるべきと考えます。が、父の身柄を強制的に拘束して~というのは、ちと飛躍しすぎかと思います。
(但し、父がDNA鑑定に応じないことで子に著しい不利益が生じている状況は、虐待にあたるという解釈に基づき、父を拘束する事は可能かも?)
あるべき運用形態について、私の現時点での結論を一言で現すと、『基本はDNA親子鑑定を用いるべき。例外は聞き取り調査等によりできるだけ救済を図るべき』です。
DNA鑑定を基本としたい理由は、別エントリで書きましたが、『DNA鑑定は聞き取り調査等と比較して安価で、簡単で、信頼性が高い』と思われるからです。また、費用の切り分けがしやすいので、DNA鑑定分の費用を申請者負担にすることも可能と思います。
但し、これはあくまで運用形態の話。このような運用形態を実現するために、法文はどうなっているべきかというのは、また別の話しかと思います。こちらは私にはさっぱりです。
おっしゃるとおりだと思います。
民事・家事事件でも強制的に身柄拘束してDNA鑑定する手続を創設しないと救済されないという説は,撤回します。

医学的観点から見て、DNA鑑定は人権侵害なのか?

この論点に関しては、一般的なイメージとは違い、「人権侵害には当たらない」という結論になるようです。
参議院議員 森田高ブログ  国籍法に関する考え方:まとめ(2008/12/04)
http://moritatakashi.sblo.jp/article/23833624.html
ユネスコが2003年にまとめた「ヒト遺伝情報に関する国際宣言」を是非読んで頂きたいと思います。様々な用途に関しての濫用に警笛を鳴らすと共に、親子鑑定に関しては明確に例外である事が書かれています。だから欧州11カ国は平等や人権を侵害するという観点ではなく、DNA鑑定を現実の手段として利用しているのだと思うわけです。
以下、ユネスコ世界宣言について、該当箇所を抜粋します。
(中略)
(c)この宣言の規定は、刑事犯に関する調査、検出及び犯罪訴追手続き並びに、国際人権に矛盾のない国内法を条件とした親子鑑定を除き、ヒトの遺伝データ、ヒトのタンパク質データ及び生物学的試料の収集、処理、使用、及び保管に適用される。
………という事で、遺伝情報の利用に関しても用途によって様々な捉え方がある事が当然であり、これが国際的なコンセンサスである訳です。
医師である森田高議員(国民新党所属)は、上記のように国際的なコンセンサスとして「DNA親子鑑定は人権侵害ではない」と言及しています。
また、DNA親子鑑定に関しては、「最高の個人情報」という一般のイメージとは違うようです。
一般的に用いられているSTR法は、遺伝子の中のいくつかの特定領域(16箇所の領域を採用している所が多い)にある数塩基~10塩基未満の短いDNAの繰り返し単位「反復数」を比較するといったやり方で、塩基配列を解読するものではありません。
このSTR情報から何が分かるのかというと、親子関係と個人の特定が100%に近い精度で行える(100%ではない)ということだけで、身体的特徴や掛かりやすい病気の種類などは、これだけでは分かりません(個人の特定だけなら、一卵性双生児でも判別可能な指紋の方が判別しやすいようです)。

民法772条問題の際、日本医師会は「DNAは最高の個人情報であり、濫りにこれを使うべきではない」と主張したそうですが、そういった事実と異なる認識が広く流布している原因について、医師の森田高議員は以下のように言及しています。
参議院議員 森田高ブログ  国籍法改正案に関する考え方について(2008/12/03)
http://moritatakashi.sblo.jp/article/23773282.html
我が国では、多くの医科学者がユネスコ宣言を周知しているとは思いますが、しかし個別分野における具体的な取扱に関する議論は決して「前向き」に行われてきたとは言い難い状況だろうと思います。つまり我が国では、この10数年来の間「遺伝子診断・DNA鑑定=差別問題でタブー」で議論自体が社会悪とも見なされ、蓋をされてきたという事実が厳然として、今回の法案審議にも『負の影響』をもたらしていると思うわけです。

法学的観点から見て、DNA鑑定は人権侵害なのか?

2008/11/27の参議院・法務委員会(会議録)
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/96.html#id_66220b7c
○参考人(遠山信一郎君) DNA鑑定の義務付けが人権侵害かと問われれば、まごうことなく人権侵害だと思います。問題は、その人権侵害を正当化する合理的な理由が例えば憲法的な価値とかということで見出すことができるかというふうに思っております。
 繰り返しになりますが、本当にこれ究極的な個人情報なものですから、よほどの正当な理由がない限りはやはりこの人権は、個人情報の人権は守らなくてはいけないというのが私の考えでございます。
2008/11/27の参議院・法務委員会で民主党の松岡徹議員が質問しましたが、法律の専門家の遠山弁護士(日弁連・家事法制委員会副委員長)によると、「人権侵害に当たる」という結論になるようです。
端的にいえば、捜査機関が性犯罪などの捜査の際に参照することで、(検挙率を上げることにもなるかもしれませんが) 刑事手続における適正手続(憲法31条、35条)の逸脱になる可能性があります。
この点は詳細な検討が必要になるので、詳しくは関連項目の所を参照して下さい。

関連項目

DNA鑑定が人権侵害なので、それを合理化する立法事実がないと「合理的な理由のない差別」に当たるのか?

2008/11/27の参議院・法務委員会(会議録)
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/96.html#id_66220b7c
○参考人(遠山信一郎君) DNA鑑定の義務付けが人権侵害かと問われれば、まごうことなく人権侵害だと思います。問題は、その人権侵害を正当化する合理的な理由が例えば憲法的な価値とかということで見出すことができるかというふうに思っております。
 繰り返しになりますが、本当にこれ究極的な個人情報なものですから、よほどの正当な理由がない限りはやはりこの人権は、個人情報の人権は守らなくてはいけないというのが私の考えでございます。
上記の遠山弁護士(日弁連・家事法制委員会副委員長)の発言は、①DNA鑑定は人権侵害である②人権侵害を合理化する立法事実がないとDNA鑑定の制度化は難しい、という構成になっています。
「立法事実」については、こちらこちらに詳しく説明されていますが、この場合は「DNA鑑定という人権制約を正当化する社会的事実」の事を指します。
立法事実の存在に関する証明責任は国側にあります。この場合に必要となってくるのは、①人権権制約の目的は正当か?②人権制約の手段は相当か?③目的と手段との間に牽引性が認められるか?の3点になり、その点が曖昧なままだと「合理的な理由のない差別」と判断され、違憲訴訟の際に当該規定が憲法違反に問われて国が敗訴する可能性が高くなります。

そのため、「合理的な理由のない差別」に該当せずに、外国人母の場合の子供の国籍取得の場合にのみDNA鑑定を導入するには①偽装認知が増えて社会問題になる②DNA鑑定が人権侵害に当たらない事を証明する、のどちらかが必要となります。

関連項目

DNA鑑定の難しさとして法務省が挙げている「検体のすり替え」を防止するため、国の指定業者を利用する事はできないのか?

2008/11/27の参議院・法務委員会(会議録)
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/97.html#id_61642b6b
○参考人(遠山信一郎君) 実は私も自分でDNA鑑定したことがなく、先生方もしたことが余りないかとは思うんですね。実際の訴訟空間であれば法的バックアップの中でかなり正確性を持ってくるんですが、どの業者がどのくらいの精度でどれぐらいの料金でどのようなことを実際に行っているかということ自体は全く分からないわけですね。
 そうすると、その正確性をじゃ届出の役所がどうやって対応するんだろうか。例えば、一番簡単なアイデアというのは、国が指定業者をつくって、なおかつ費用も国が持って、それでやってしまうというのであれば、アイデアとしては出てくるんだけれども、とてもそういうことは国民的理解も得られないんじゃないかというふうないろんな選択肢がある中で設計がすごく厄介である、なおかつ、それに苦労するほど価値のある管理方法かという問題がそもそも論であるということで、かなり厄介な問題かなという印象を持っているということでございます。
2008/11/27の参議院・法務委員会で仁比聡平議員(日本共産党)が質問しましたが、DNA鑑定において国が指定業者を作るやり方は、遠山弁護士(日弁連・家事法制委員会副委員長)から問題を指摘されています。
「人権」というものは、「国家からの自由」という「自由権」に関わるものが本来的なものです。表現規制への賛成論を述べる時には考慮されない事もありますが、自由権に関わる議論になると厳格性を要求され、「国家機関が関与する」という要素に関しては慎重な検討を要求されるのが通常です。
そういった意味で、法務省の「検体のすり替え」への懸念というのは、国家機関の関与は問題視される可能性が高いので民間機関を利用せざるを得ず、民間機関で採取されたものをそこまで信頼できないという整理なのではないかと思います。

関連項目

DNA鑑定を行うと経済的に恵まれない方に負担がかかり、そういった方の国籍取得のチャンスを奪うのか?

2008/11/27の参議院・法務委員会(会議録)
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/103.html#id_be344df6
○近藤正道君 これはDNA鑑定について関連してお尋ねいたしますけれども、認知裁判などでは外国人母の婚外子の場合にDNA鑑定を求められることが多いんですが、費用が非常に掛かるという問題点が実務的に時々議論になっております。もしDNA鑑定が求められるような場合であったとしても、法律扶助などの支援によって費用負担の軽減が図れないかと、こういう話が時々実務で出ているんですが、いかがでしょうか。
○政府参考人(深山卓也君) 日本司法支援センター、法テラスの民事法律扶助についてのお尋ねですけれども、御案内のとおり、資力の乏しい国民だけではなくて、在留資格を有する外国人の方にも民事法律扶助事業を法テラスでは行っております。
 お尋ねの認知の裁判につきましても、国民又は在留資格を有する外国人からの援助の申込みがあった場合にはこの扶助事業の対象と当然なりまして、資力要件がありますけれども、御指摘のDNA鑑定費用についても現に立替えをしております。相当数の実績もございます。
 また、民事法律扶助制度は原則として立替えの制度ではございますけれども、生活保護を受けている方やそれに準ずるような生計が苦しくて収入の道がないという方の場合には、立替金の全部又は一部の免除の制度もございます。
2008/11/27の参議院・法務委員会で近藤正道議員(社民党)が質問しましたが、日本司法支援センター(法テラス)では、DNA鑑定費用の立替えや経済的な支援を行っているようです。この制度の拡大によって、この論点は解決されると思います。

「DNA鑑定義務づけ」に関する法律的な検討

立法事実の確認

立法事実論について具体的に分かりやすく教えて下さい。 - Yahoo!知恵袋
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q108867940
立法事実とは、人権制約規定を正当化する社会的事実を意味します。
憲法訴訟において、人権制約規定の合憲性が問題になった場合、立法事実の存否が検証されるわけです。
具体的には、人権制約の目的は正当か、人権制約の手段は相当か、目的と手段との間に牽引性が認めらるか、などについて、それを支える立法事実が検証されます。
立法事実の存在に関する証明責任は、規制を正当化する国側にあります。国側がそれを証明できなかった場合には、当該人権制約規定は違憲であると判断されます。
上記の説明について、学問的なものではなく、法律家の視点で見ても妥当なものかを弁護士の方に質問した所、「教科書の回答としては正解。ただし、 ある事実が立法事実足りうるかの判断は判断権者(立法者、裁判官)の裁量によるものが大きい 」という趣旨の回答をいただきました。
参考として付言すると、現時点での「偽装認知」問題の立件件数は5年間で4件のみです(偽装結婚は173件)。

民法772条問題の際はDNA鑑定を利用しているが、これと行政で義務付ける事はレベルが違うのか?

家裁実務では、私人である当事者の間で起こった紛争(トラブル、という程度の意味)を解決するために、DNA鑑定が使われます。
これに対して、法制度として行政が使用することには、国家権力による国民のプライバシー侵害の可能性が出てきます。

民事裁判でDNA鑑定を使う場合というのは、子供の側から父親に対して「私はあなたの子どもだから認知しろ」という認知請求訴訟を起こします。
裁判所としては、DNA鑑定をすれば、父子かどうかが明らかになるので、鑑定結果の提出を求めます。
この場合、鑑定結果を出す義務があるのは、子供の側です。
子供の側が鑑定結果を出して、父子間の血縁関係があると証明されれば、子供の認知請求を認容します。

刑事裁判・行政裁判の場合、まず刑事裁判で話をします。
刑事裁判でというより、刑事手続の中で捜査機関(国家権力)がDNA鑑定をできるのは、「犯罪が起こった」「誰が真犯人であるかを突き止めるためには、DNA鑑定による証明が有効」という場合だけです。
DNA鑑定を実施するにしても、鑑定される側のプライバシー侵害になりますので、「その人のDNA鑑定をする必要がある」場合でなければなりません。
実際には、裁判所に「この人のDNA鑑定をしたいので、令状を発付してください」という令状請求をして、令状を見せて、鑑定を実施することになります。
民法772条問題の解決のための人事訴訟においてDNA鑑定が導入されているといっても、裁判所が血縁関係の有無の証明を命じることは許されておらず、あくまでも、当事者の同意がある場合に判決なり審判の一資料として用いられているに過ぎません。

DNA鑑定の結果の提出を行政で義務付けるのが問題だというのは、刑事裁判のところでも言及したのと同じ問題、つまり鑑定される側のプライバシー侵害になる、というのが、法学的に見ると問題になります。
法律家(特に弁護士)が心配するのは、認知の際のDNA鑑定の結果を、他の目的に流用するのではないか、という点だと思います。
検察・警察は国家機関がデータを持ってるなら、参照したいと考える傾向にあります。そのため、せっかく鑑定をするのだから、 性犯罪などの犯罪捜査の際に、認知の際のDNA鑑定の結果を参照する可能性はあります。
こういった問題点を抱えているので、やるならば、偽装認知が社会問題化するか、日本国民までも含めて一律でという事のどちらかになると思います。

外国人母の非嫡出子の場合のみDNA鑑定を導入すると、違憲訴訟で負ける可能性が高いのか?

結論からいってしまえば、違憲と判断される可能性はかなり高いと思います。
理由としては、以下の5点が挙げられます。
今現在は偽装認知の立件件数は5年間で4件と、人権制約を合理化する立法事実がない
②諸外国の立法例としても、外国人母の非嫡出子の国籍取得の場合にDNA鑑定を義務化したものは無い
③日本の家族法(民法)の場合、生物学上の親子関係までは求めておらず、そういった法体系の中で外国人母の非嫡出子の場合にのみDNA鑑定を義務化した場合は、法体系としての整合性が取れなくなる
④創設的・授権的規定(国籍取得の際、外国人母の非嫡出子の場合だけ純正要件を必要とする)と制限的規定(DNA鑑定の義務化)では、違憲性を審査する際の基準が違う
⑤従来は憲法14条1項後段の「人種、信条、性別、社会的身分または門地」は例外的規定であり特に意味はないとされてきたが、国籍法違憲判決では社会的身分である事を理由に「慎重に審査する必要がある」と言及されていて判例変更された可能性が高く、その射程はDNA鑑定の義務付け(社会的身分による差別)にまで及ぶ可能性も高い
退去強制令書発付処分取消等請求事件(最高裁公式サイト)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=36415&hanreiKbn=01
国籍確認請求事件(最高裁公式サイト)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=36416&hanreiKbn=01
「日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。」
「また,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわれ,我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも,児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。」
「日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間においては,日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難い」
最終更新:2009年03月21日 17:28
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