国会質疑 > 国籍法 > 16

国会での審議の中継


仁比聡平議員/日本共産党所属(参議院法務委員会(2008/11/27))

仁比聡平 - Wikipedia
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

日本共産党が国籍法改正案に賛成な理由

 我が党は今回の改正案に賛成でございます。
 今回の改正案は、日本人の父から生まれた子でありながら、これまで日本国籍を取得できずに、いじめや差別を受けて、あるいは基本的人権の保障などを受ける上で重大な不利益を被っているという、そういった実態に対して、最高裁大法廷の違憲判決を受け、現行法から婚姻要件を外して法の下の平等を保障しようとするもの、そういった意味で、部分的な救済ではありますが、一歩前進であるというふうに受け止めてございます。
 あわせて、国際人権規約B規約、あるいは子どもの権利条約における子供の差別禁止規定や、子どもの権利条約には子供の国籍を取得する権利も規定をされておるわけでございますし、女子差別撤廃条約、そういった国際人権法の趣旨に基本的にかなう方向、そういったものとして前向きに受け止めております。
 その趣旨は、前回、最高裁判決を法務省あるいは大臣としてどのように受け止めていただいているのかということを中心に質問させていただいたところでございますので、今日は、まず偽装認知、いわゆる偽装認知防止のための対応策と今回の改正案で削除するという御提案があっている婚姻要件、この関係がどうなっているのかというところからまず伺いたいと思うんですね。

偽装認知防止策について

 局長、よく質問聞いていただきたいんですが、まず最高裁判決との関係からお尋ねしたいと思います。前回の質問の最後にこの点少し局長とやり取りをさせていただいたんですが、会議録も見まして、つまり、局長の前回の御答弁は、婚姻要件を削除した上で、偽装認知の問題は別問題なんだからそれは考えなさいというふうに最高裁は言っているのではないか、そういう御答弁をされていると思うんですが、そういった理解でよろしいですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 最高裁の判決があそこのくだりでどういう表現をしていたか今ちょっとよく覚えていないんですが、偽装認知の問題というのは婚姻要件を外すかどうかと直接関係がないというか、そういう表現であったのではないかと思いますが、ちょっと言っていただければ。

○仁比聡平君 その部分の最高裁判決を改めて紹介をしておきますけれども、「仮装認知がされるおそれがあるから、このような仮装行為による国籍取得を防止する必要があるということも、本件区別が設けられた理由の一つであると解される。しかし、そのようなおそれがあるとしても、父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが、仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有するものとは」言い難いというふうに判決理由は述べているわけです。そのとおりですね。

○政府参考人(倉吉敬君) そのとおりでございます。

○仁比聡平君 つまり、現行法の婚姻要件、これが偽装認知防止の要請との関係で必ずしも合理的関連性を有するものとは言い難いというふうに最高裁は多数意見で判断をしているわけです。
 今日、他の先生の御質問に対する答弁で、この婚姻要件がどのような役割を果たしているのかという議論がありまして、これが削除されることによって抽象的には偽装がやりやすくなっていくという趣旨の答弁をされたと思うんですね。この抽象的にはというのは、つまり、これまでは認知とそれから婚姻の届出、ここの二つの局長の表現で言えばハードルがあったと、これが一つになるという意味だろうと思うんですけれども、抽象的にはそういうことになるかもしれませんが、具体的にそういった偽装のおそれが高まるといった立法事実、そういうのはあるでしょうか。

○政府参考人(倉吉敬君) 具体的には、例えば外国で、これは制度も事情も違うんで完全に並べることはできないんですが、そういうことが起こったというふうな話はございます、先ほどのドイツの例なんかがそうなるのかなと思いますが。
 今、日本で具体的にそれがあるのかというと、まだやってないわけですから分からないということにはなりますけれども、先ほどの婚姻プラス認知ということが認知だけでよくなったという、ハードルが一つ減ったというだけではありませんで、婚姻を偽装しようとすると、やっぱり婚姻の実態を偽装しないといけないんですね、入管当局などが摘発するケースというのはよくそれが多いんですが。だから、ある程度男性と女性が一緒に暮らす外形をつくるとか、そういうこともしないと婚姻の実態がないということで偽装婚姻だとやられる。認知の場合には、認知という意思表示だけでそれでできてしまうという、そこも、もう比較の問題でありますけれども、やりやすくなると。そういう意味ではそういう偽装認知が起こるという懸念はあるという意味で申し上げました。

偽装認知の懸念についての「立法事実」について

○仁比聡平君 私も懸念があることそのものを否定しようというつもりはないんです。私も、偽装認知や、あるいはよく指摘をされているようなブローカーあるいはまがいのそういった違法というのは、これは正すべきだと思っております。ただ、そういった懸念がどれほど具体的な事実によって、いわゆる立法事実によってこの婚姻要件と結び付けられているのかということを今お尋ねしているつもりなんですね。
 二つおっしゃいました。一つは、ドイツの問題では、これ局長も前提にされましたけれども、制度がそもそも我が国とは違うわけですね。その下で、今日午前中お話を伺いました中央大学の奥田教授は、このドイツの法改正、これを日本でそのまま当てはめるというようなものではないはずだという趣旨の陳述であったと思うんです。それはどうですか。

○政府参考人(倉吉敬君) それは制度の実情が違うわけですから、私も先ほど、ドイツのようなあの制度を取り入れるべきかと言われれば、それは日本では違うということは先ほど答弁したとおりでございます。

○仁比聡平君 入管の在留管理との関係でのお話がもう一つの点なんですけれども、先ほどのお話でいいますとね。在留資格との関係という御答弁だったんでしょう。違いますか。

○政府参考人(倉吉敬君) 先ほど申し上げたのは、婚姻までも偽装しようとすれば、ただ届出だけでは終わらないので婚姻の実態まで偽装しなければならなくなると、それが入管の摘発事例なんかからはうかがわれるということを申し上げました。

○仁比聡平君 ですから、入管の摘発事例との関係で、婚姻の実態があるかどうかがそういう意味では問題になり得るのであって、届けの段階では、区役所に婚姻届を出すときに一緒に暮らしているかどうかを区役所の窓口、確かめないじゃありませんか。違いますか。

○政府参考人(倉吉敬君) それはもちろんそのとおりでございます。

○仁比聡平君 過去の偽装認知と言われる件数が三件だというのは先ほどから御答弁があっているとおりなんですが、違いますか。でしょう。ですから、そういった中でどういった偽装が婚姻要件と結び付いているかということは、これは具体的なケースや事実としてはなお明らかではないと私は思うんですよね。
 こういった中で、今日もこの婚姻要件の削除が人身売買奨励法であるという批判がなされましたけれど、私はその批判には根拠があるとは思えないんですが、大臣、いかがですか。

○国務大臣(森英介君) ちょっと十分理解できてないのであれですけれども、私は直接関係ないというふうには思いますけれども、直接的にはですね。

○仁比聡平君 つまり、婚姻要件が現行法に存在することが偽装を防止するために極めて重要な役割を果たしているということが具体的なケースにおいて明らかであるというのであれば、これを削除するという今回の改正案が、この偽装との関係で改正案そのものが議論されるというのもあり得ることかと思うんですけれども、そういった事実はないのではないかと私は思うんですよ。懸念はもちろんありますよ。そこをよく、提案を受けて審議をしている私どもは、冷静にといいますか、この国籍法の改正そのもの、それ自体が法律としてどういう意味を持っているのかということをよく受け止めなければならないのではないかと思っております。
 制度の悪用、あるいはましてブローカーは許されないというのはもう申し上げたとおりで、これは私の弁護士活動の中で、国籍ではありませんけれど、戸籍制度を悪用、濫用して、養子縁組をもう考えられない十数回も繰り返して、姓あるいは本籍、これをごまかし偽って悪用するというこのケース、事案に取り組んだことがございます。実態は戸籍の売買だったのではないかという、そういうケースが現実にあるわけですね。これが組織的に行われている、これを食い物にしている、そういうやからがおるというのは、これは厳格に取り組まなければならない問題だと思うんです。
 そこで、法務省が、今日も出ていますけれども、国籍取得届に対してどのような対応をこれからされようとしているのか。これ通達の規定ぶりというのは検討中というお話ですから、そこはもう結構ですので、考え方として、もう一回まとまった形で局長に御紹介いただきたいと思うんですが。

○政府参考人(倉吉敬君) 偽装認知ということがしかも組織的に行われるということになれば、これは大きな問題でございます。現実にそれがどれぐらいの確率で起こるのかと言われると、そこはこれからのことであるので分かりませんが、少なくとも懸念はあると。すると、それに対しては十分な対処をしておかなければいけないと思っております。
 そこで、法務局の窓口に届出人が、普通は母親が来ることが多いと思いますが、法定代理人として、その人に対していろんな事情を聴く。それから、母国で取ったいろんな書類であるとか、それから父親の戸籍であるとか、そういったものを客観的な書類を出していただいて、そして、その父親と知り合った経緯、いつどのような交際をしたのか、子供が生まれるまでの経緯はどうか、それから、今父親は同居して一緒に暮らしているのか、そうでないとすればその事情は何なのかとか、そういったことをるるお尋ねをいたしまして、それと客観的な書類との間に矛盾はないか等々を検討をして、少なくとも偽装認知だけは防ぐということを対処していきたいと思っております。
 これは、これまでの通達でも、疑義があるときはきちっと関係人から事情を聴いて、そして書類を集めて云々ということはあるわけでございまして、基本的にはこれまでの基本通達の線をより慎重に進めていこうというものでございます。

○仁比聡平君 これまでの御答弁でいいますと、その中で犯罪性を認識するということがあれば捜査機関との連携をするということかと思うんですが、いかがですか。

○政府参考人(倉吉敬君) そのとおりでございます。捜査機関だけではなくて、入管等の情報交換等も含めて関係機関と連携してやってまいりたいと思っております。

○仁比聡平君 そうした法務局での取組は、これちょっと理屈っぽいですが、法律に基づく行政行為、その中での言わば法の適用に当たっての事実認定の問題だというふうに私は理解したんですが、そのとおりでしょうか。

○政府参考人(倉吉敬君) そのとおりでございます。その国籍取得届をするに当たっての国籍取得の、国籍法三条一項の要件がきちっとあるかということを審査するということでございます。

○仁比聡平君 その審査に当たって、もちろん今回問題になっています偽装認知を防止するという、この角度はお持ちになるのが当然だと思うんですが、元々国籍取得という重要な法的地位にかかわる事実認定なわけですね。この事実認定において、真実の認知が保護されると。真実の認知が排除されることは本末転倒だと私は思います。
 日本の家事あるいは人事の裁判でも、あるいは審判や調停でも、子の福祉を最優先に、あるいは子の最善の利益を最優先にというこういった考え方で、手続の土俵が、みんながそこを向いて、関係者がそこを向いて設定されて運用されていると思うんですが、いかがでしょうか。

○政府参考人(倉吉敬君) 真実父子関係があり、真実日本国籍が欲しいということで届出をしている人、そういう人たちの権利や利益が損なわれないようにする、あるいはそういう人たちにつらい思いをさせると、そういうことがないようにするというのはもちろん大事なことだと思っております。

DNA鑑定義務づけと日本の法制度

○仁比聡平君 そこで、DNA鑑定を義務付けるか否かという問題がございまして、これも今日いろんな形で局長から御答弁があっているんですが、改めてDNA鑑定を義務付けることは非常に難しい問題だといった御答弁をこれまでしておられると思うんです。その理由を少しまとめてもう一度御答弁いただきたいと思うんですが、今日、大臣からも科学は万能ではないという御発言もありましたし、あるいは今日午前中の参考人からも、実務として厄介な問題を抱えることになるなり、あるいはそもそも必要ないというような御意見もあったところなんですが、局長、いかがですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 先ほど来申し上げているとおりでありまして、一つは、日本の親子法制といいますか家族法制に好ましくない影響を与えるのではないかということがございます。
 それからさらに、基本的に認知が問題でございますので、本来DNAを取るとすれば、最初の市区町村の認知の窓口のときではないかということが当然問題になってくると思うんです。そうすると、外国人を認知するという場合にだけDNAを要求するというようなことになりかねない、それは外国人に対する新たな差別を生むのではないかと、こういうこともございます。
 それから、DNAについては、一定の負担と、それからもちろんDNAを機関のところに行って受けるための手間が掛かります。そういう負担を一部の人だけに掛けさせるということでいいのかという問題もあろうかと思いますし、それから法務局においても、検体が同一性がきちんと確保できているのかとか、検体のすり替えがないのかとか、そうしたことについてきちんと担保できるだけの能力というのは、それはなかなか難しい問題もあるといったような事情でございます。

○仁比聡平君 衆議院の答弁を拝見をいたしますと、今おっしゃられた点に加えて、現代の科学水準に合わせたきちんとした鑑定ができているのか、あるいはだれだれが鑑定したとなってはいるがそれが偽造ではないか、そういったことが窓口では判断できないという問題があるということ、あるいは鑑定に相当の費用が掛かるというお話がありますが、それらも理由ですか。そういったことも局の理由ですか。

○政府参考人(倉吉敬君) それも理由でございます。

○仁比聡平君 この国籍取得届が要件を満たすかのこの事実認定において、Aという証拠がなければ、要件がある、要件事実が存在するということを認定しないという、ちょっと専門的な用語で言うと法定証拠主義と言うのだろうと思うんですけれども、つまり、この件に照らしますと、DNA鑑定がなければ要件があるとは絶対に認めないというようなルールは、行政が行う事実認定においても、あるいは裁判における事実認定においても、我が国の事実認定の在り方にはなじまないし、これまでそういったルールはないのだと思いますが、いかがでしょう。

○政府参考人(倉吉敬君) 少なくとも、特定の事実をこの証拠だけで認定しなければならないと、そのような制度はないのではないかと思います。

○仁比聡平君 加えて、不誠実な父親ということを考えたときに、検体の入手がその子供あるいはその法定代理人である母にとっては不可能であると。実際に日本人の父との間に生まれた子であるんだけれども、間違いないんだけれども、だけれども今その日本人父から検体を入手するということは不可能だという、そういう場合は十分あり得ることだと思うんですよね。あるいは、先ほど写真というお話がありまして、これは今後の具体化のお話でしょうからこだわるわけじゃないんですが、これ、あれば別ですけれども、ないものを出せと言われてもこれは不可能を強いるということになるかと思うんですよ。
 民事局としてもあるいは大臣としても、そういった国籍取得の届出を行う子供、法定代理人に対して不可能を強制しようという、そういうおつもりはないと思いますけれども、いかがです。

○政府参考人(倉吉敬君) もちろん、先ほど来提出してもらう書類というものをきちっと決めていこうというようなことも考えておりますけれども、これは、その書類が提出できないときは提出できない事情を書いた、理由を書いた紙を出してくれというようなことにしていかないといけないと思っております。

○仁比聡平君 そういった意味では、国際人権法の言葉で言いますと、国籍を取得する権利あるいは国籍の重要性ですね、これをしっかり保障する、受け止めるということと、それから偽装を防止するということと、これ大変大事な取組が現場で行われるということになると思いますし、これが人権侵害的な形で運用されるということになれば、これはまた裁判だったりというようなことになりかねない。そんなことは、こうした最高裁判決も受けてせっかくの法改正をしようというわけですから、そんなことがないように頑張らなきゃいけないと思うんですが、大臣、御感想ありましたらいかがですか。

○国務大臣(森英介君) 極めてごもっともな御指摘だと思います。先ほど来申し上げていますように、やはりしゃくし定規じゃなくて、やはり事例に応じて、しかし総合的にまた厳正にという、非常に難しい何といいましょうか作業が要求されると思いますけれども、そういったことをしっかり運用面をきちんとできるように十分に研究し、また実施に当たりたいというふうに思います。

胎児認知の問題について

○仁比聡平君 最後に局長にお尋ねしたいと思うんですが、今日も、例えば胎児認知の問題をめぐって、現行法、つまり今回改正対象になる以外の部分の条項について、現行法以上に要件を付することもあり得るのではないか、どうなのかといった議論もあったんですけれども、これは国籍の重要性やあるいは国籍を取得する権利という国際的な人権法との関係でいいますと、現行法以上に要件を厳しくしていくという方向は、その国籍を取得する権利との間で抵触を起こすのではないかという問題がこれは起こり得ると私は思うんですけれども、それはいかがでしょう。

○政府参考人(倉吉敬君) 先ほど答弁申し上げました住所要件とか、そういった問題のことでございますね、そうですね。

○仁比聡平君 あるいは、胎児認知も届出を要するか。

○政府参考人(倉吉敬君) 胎児認知も届出を要するとか。それは国籍の本質に反するかどうかということをやると問題でございますけれども、少なくとも新しい差別と申しますか区別というか、新しい要件を付加することによってこれまで以上に負担を増すということになるのであれば、それが説明できるだけの、まさに最高裁がいろいろ言っています、嫡出子と非嫡出子との間でこういう区別を設けることが立法目的に照らして合理的な関連性があるのかということが絶えず問われるということにはなろうかと思います。

○仁比聡平君 終わります。

近藤正道議員/社民党所属(参議院法務委員会(2008/11/27))

近藤正道 - Wikipedia
○近藤正道君 社民党・護憲連合の近藤正道でございます。
 今日は朝の十時からの質疑でありまして、いささかくたびれておりますが、あと二十五分、最後のお付き合いをいただきたいというふうに思います。

社民党が改正案に賛成な理由

 私も、おととい申し上げましたけれども、六月の最高裁判決、ついに出たというふうに思っておりまして、この判決に従って速やかに法改正を行うべきであると、こういう立場でありますので、今回の法案については賛成をしたいと、こういうふうに思っております。そういう立場で今日も質問をさせていただきたいと思っております。
 両親の法律上の婚姻があるかないか、こういう多様化する家庭、家族関係によって何の責任もない子供の福祉が害されるようなことがあってはならない、これが六月の最高裁大法廷判決の精神であり、今回の法案の精神、趣旨ではないかと、こういうふうに思っております。

偽装認知防止だけに議論が集中していないか?

 その上で、偽装認知、今日も本当に何度も出ております偽装認知のような違法行為が許されない、これはもう言うまでもないことでございます。今ほども御紹介がありましたように、六月の最高裁判決はこの偽装認知についてこういうふうに言っています。仮装認知のおそれがあるとしても、父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることは、ちょっと略しますけれども、必ずしも合理的関連性を有するものではないと、こういうふうに明確に述べております。つまり、今回の改正内容と偽装認知とは直接関係はないということなんだろうというふうに思っています。
 このこと、偽装認知については、公正証書原本不実記載とか、あるいは今回の法案の中で新たな罰則もありますし、あるいはこれが全体として人身売買という形で行われるということであれば、この国の刑法には、第三十三章で略取、誘拐及び人身売買の罪、こういう規定がびっしり規定されております。だから、そういう人身売買的な意図を持ってやるということであれば、先ほどの言わば公正証書原本不実記載などというそういうことよりも、むしろ人身売買の罪という形でそれは厳正に対処をされるわけですよね。
 ですから、私は、今回のこの法案が人身売買を誘発するという、ちょっと聞いて驚いたんですけれども、そんなことにはならないだろうと。よりきめ細かく、こういうことができないような、そして、かつ、故なく国籍を取得できない、そういう法の谷間に落とされている子供たちをやっぱり救済する、そういう大きな、人権保障にとってやっぱり大きな一歩をしるすそういう法案ではないかと、私自身はそういうふうに思っております。
 大臣にお聞きしたいんですが、法案の審議が偽装認知の問題に非常に私は偏っているのではないかというふうに思っておりまして、外国人母の子供の戸籍取得が国民から疑いの目で見られるような、そういう状態を招くようなことがあってはならないというふうに思っております。立法府あるいは政府には冷静な良識的な対応をお願いしたいというふうに思っております。大臣は人権行政の最高責任者でもあります。このことについて、大臣、どのように受け止められておられるのか、所見を伺いたいというふうに思います。

○国務大臣(森英介君) 今委員が言及されました最高裁の判決は、ちょっと裏返して言うと、要するに、偽装認知が起こりやすくなるからといって婚姻要件を付さなきゃいけないというものじゃないということだと思うんですね。というふうに私は理解するんですけれども、その結果として、今お話があったとおり、偽装認知の問題がクローズアップされて、かなり委員会での議論がそれにウエートが割かれているというのは事実だと思います。
 確かに、そういう問題は最高裁の判決でそこまで触れられておりませんので、むしろ事務当局においてそれはきちんとそういったことを防止するような方策を講じなきゃいけないんだと思いますけれども、そういう意味で、先ほどから民事局長などから御答弁申し上げているとおり、様々な手法をもってそういう偽装認知を防ぐことには努力をしたいと思います。
 さはさりながら、確かにおっしゃるように、本当に純粋に日本国籍を得たいという極めて真っ当な思いでもって国籍を取得しようとする方の方がはるかに多いわけでございますので、それはやっぱりそういった女性並びに子供が間違ってもそういう偽装認知の一味ではないかというふうなことが、疑いが持たれないように、そこのところはきちんと配慮して個別のケースに臨まなければならないと思います。
 いずれにしても、この改正法の趣旨を踏まえまして法務当局にはしっかりと対応するように督励をいたしたいと思います。

偽装認知防止が行き過ぎて差別を生まないか?

○近藤正道君 偽装認知を防止するために、届出人本人、法定代理人が付くわけでありますが、この届出人本人が法務局に出頭して国籍取得届を提出する際にいろいろ事情を聴かれる、父親の戸籍謄本、あるいは父親の出頭、あるいは両親と子供が一緒に写った写真などの添付を求める、そういう方針であるというふうに、法務省がそういう方針を持っているという、そういう読売新聞の記事、私も見まして、先ほど議論になりました。
 局長は、これはまだ確定したものではないんだと、これから今まさにこれを議論しているところであると、こういうふうに答弁をされました。しかし、答弁の端々から、読売新聞が報じたということは全くこれはガセネタということじゃなくて、ああいう方向で議論がされているということはどうも間違いないと私は思っているんです。
 問題は、偽装認知を防止する、それは分かるんだけれども、それが行き過ぎて、過度になって、新たな、何というかな、ハードルといいましょうかバリア、これをつくることになってはやっぱりいけない。今日午前中の二人の参考人も、偽装認知の防止ということのために新たな不合理な制約を設けることがあってはならないと、こういうことをお二人ともおっしゃっておられました。
 そこでちょっとお聞きしたいんですが、そもそも一般の認知届の市町村への提出は、本人の出頭は求められておりません。郵送でも可能であるのに、国籍取得届の提出は本人の出頭を国籍法の施行規則で定めております。これについては、今日午前中、参考人で出られました奥田先生は、行政手続法三十七条に抵触するんではないかと、行政手続法が原則なのに何で国籍取得のときにこんなにたくさんの過重な要件を課するんだと。つまり、父親の戸籍謄本だ、あるいは父親を連れてこいとか、あるいは写真等を求める、こういうものは憲法十四条が許容する合理的な区別の枠の中に収まっているのか、もしかするとこれ、はみ出しているんではないか、行政手続法三十七条の原則に少し抵触するんではないかと、こういう懸念を持っているわけでございます。
 倉吉局長は、DNA鑑定については、外国国籍の子供を認知する場合にのみDNA鑑定を義務付けるとすれば、それは外国人に対する不当な差別になるおそれがあると、こういうふうに答弁をされておりますが、これは結構なんですが、偽装認知は許されないけれども、そのためにいろんな小難しい要件を求めて、ああでもないこうでもないという形で様々に、ないものも求めるということがもしあるとすれば、これは別の意味で、確かに婚姻要件はなくなったとしても、別の意味でこういう外国人母に対して、あるいは子に対して様々な制約を課することになりはしないか。
 とりわけ写真のことについては、さっきも議論があったけれども、多くのケースは、生まれるとすぐ言わば父親が姿くらますケースが多いわけですよ。そうすると一緒に写った写真なんていうのはないことだってたくさんあると思うんですよね。そのときに、いや、写真がなきゃ困るとかということをやられるとやっぱり困ると。それはやっぱり、さっき大臣もおっしゃったように、しゃくし定規にやるんではなくて、まさにケース・バイ・ケース、そして本当にやっぱり温かい心で子供たちをこれ救済をすると。こういう気持ちでやっぱり本当にきめ細かく、愛のある通知、通達をやっぱり出していただかないと困るというふうに思うんですよ。
 ちょっと抽象的な、情緒的な言い方で恐縮でございますけれども、改めてこの省令、通達、これが新たな言わば障害、あるいは新たな差別を生み出さない、本当の意味で合理的な制約の範囲内に収まるというものであってほしいという立場で質問をいたしますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(倉吉敬君) まず、届出についての出頭主義の関係でございます。これは確かに奥田参考人とは我々当局が見解を異にするということになるわけですけれども、国籍取得届というのは、事実上の効果として、それによって国籍を得られるという重大な効果を発生するものでございます。国籍というのはまさに日本の国の構成員を決める、そういう大事な手続ですので、そこはやっぱり慎重にやるべきだということが一つ言える。
 それから、出てきていただいて本人を確認しなければいけないということがあります。これは法定代理人が出てくれば、お母さんですけれども、この人に間違いないと。それは国籍ということですから、そういうことで国際的にもおかしなことになっては困るわけですから、そのために出頭主義を取っている。その結果、いろんなことを審査しなければならない、その要件について事情を伺うということをしているわけでございまして、それは間違ったことではないと思っております。
 それで、先ほど来問題になっている偽装認知の問題でございますが、これはやっぱりきちっと、その点は法務局できちっと審査をしているということを示していかないといけないと思っておるんです。それで、先ほど委員がおっしゃいました、本当に真の親子関係がある外国人の母親と子供、その人たちがつらい思いをさせるようにしちゃ駄目じゃないかと、そうおっしゃった。そのとおりでございまして、法務局できちっとした審査をしている、だからその法務局の審査を終えた人たちはまさに偽装認知なんかじゃない、ちゃんとしたきちんと届出をして新しく日本人になってくる人なんだと、そういうふうにしたいわけでございます。
 ですから、委員のおっしゃっていることもよく分かりますけれども、そこはそれほど委員のお考えと私どもの考えが違っているとは思っていないところでございます。

○近藤正道君 私もそういうふうに思っておるんですけれども、そもそも、さっき午前中の奥田先生自身は、これはやっぱり行政手続の原則からいくとかなり問題があるよと、こういう指摘をされております。
 皆さんは、言わば国籍という日本国の構成員の範囲を確定することなんだから、一般行政とはちょっと違って厳しくなるのはやむを得ないと、こういう御答弁です。それも分からぬわけではありませんけれども、そもそものところでいろんな議論も出ておりますので、ゆめゆめ行き過ぎということが起こらないように、かつしゃくし定規にならないように、つまり一律という形でならないように、是非心のこもった通達、省令、いわゆるガイドラインといいましょうか、そういうものになるように心掛けていただきたい、これ強く要望を申し上げておきたいというふうに思っています。

法テラスでのDNA鑑定費用の立替えについて

 これはDNA鑑定について関連してお尋ねいたしますけれども、認知裁判などでは外国人母の婚外子の場合にDNA鑑定を求められることが多いんですが、費用が非常に掛かるという問題点が実務的に時々議論になっております。もしDNA鑑定が求められるような場合であったとしても、法律扶助などの支援によって費用負担の軽減が図れないかと、こういう話が時々実務で出ているんですが、いかがでしょうか。

○政府参考人(深山卓也君) 日本司法支援センター、法テラスの民事法律扶助についてのお尋ねですけれども、御案内のとおり、資力の乏しい国民だけではなくて、在留資格を有する外国人の方にも民事法律扶助事業を法テラスでは行っております。
 お尋ねの認知の裁判につきましても、国民又は在留資格を有する外国人からの援助の申込みがあった場合にはこの扶助事業の対象と当然なりまして、資力要件がありますけれども、御指摘のDNA鑑定費用についても現に立替えをしております。相当数の実績もございます。
 また、民事法律扶助制度は原則として立替えの制度ではございますけれども、生活保護を受けている方やそれに準ずるような生計が苦しくて収入の道がないという方の場合には、立替金の全部又は一部の免除の制度もございます。

○近藤正道君 日弁連は六月の最高裁判決を、国際人権基準に従って違憲と断じた画期的な判決であると高く評価をしています。現在、弁護士会では、国際人権基準に関する研修、教育が大変活発に行われておりまして、実務でもこの国際人権基準を基に訴訟を提起するケース、これがどんどん増えております。
 しかし、裁判所でこれがその判断基準として採用されたりあるいは引用されるケース、これは下級審も含めて非常に少ないと、私はそういうふうに思っておりまして、日本が批准をした国際人権規約、これはやっぱり裁判規範としてももっと積極的に裁判所の中でやっぱり生かされるべきだと、こういうふうに思っておるんですが、そこで最高裁にお尋ねをしたいというふうに思っています。
 裁判官に対する国際人権法、人権規約、あるいは子ども権利条約も含めまして、この国際人権規約の研修とかあるいは教育はどういうふうになっているんでしょうか、お聞かせください。

○最高裁判所長官代理者(大谷直人君) 裁判官の研修につきましては司法研修所が担当しておりますが、そこでは、新任の裁判官、新任の判事補等でございますが、に対する研修を始めといたしまして、各種の研修におきまして、これは毎年でございますが、国際人権問題を専門とする大学の先生あるいは国際機関の職員の方、こういった方々を講師としてお招きしまして、今お話のありました国際人権規約、その他国際人権に関する諸問題、これをテーマとしてお話をいただく時間を設けまして、裁判官に対する周知に努めているところでございます。
 今後とも、こういった点に十分配慮して研修等を実施していきたいと、このように考えております。

離婚後300日問題にだけDNA鑑定を採用するのはどうか?

○近藤正道君 今日もそうでありますし、おとといの日も、この法案に関連をいたしましてDNA鑑定の活用を求める質疑がたくさんなされました。そしてまた、皆さんのところもそうだと思いますけれども、連日、議員会館へ行きますと大量の、DNA鑑定を入れろという、採用しろという、こういうファクスが寄せられております。
 私はこの法案には賛成なんですね。ですから、DNA鑑定を入れなければこの法案に賛成できないと、こういう意見にはくみしないんですけれども、しかし、おととい、今日、そしてまた全国から寄せられるファクス見てみますと、国民の間にはDNA鑑定に対する信頼が本当に広範に形成されているなと、そういうふうに思っております。
 こういう中で、離婚後三百日以内に生まれた子を前夫の子とみなす民法七百七十二条問題で、法務省は昨年五月の七日、救済対象を離婚後妊娠に限定する民事局長通知を出しました。しかし、その法務省の推定によれば、離婚後三百日以内の出産の中で離婚後に妊娠したのはわずか一割程度、こういうふうに言われております。
 あくまでも子供の福祉を中心に考えるのが大前提でありまして、DNA鑑定によってそれまで成立してきた幸福な親子関係、家族関係を覆すべきではないというのはそれは言うまでもありませんけれども、先日来の委員会でも民事局長から、科学的な証明だけで親子関係を決めるというような誤った風潮になってはいけないと、こういう答弁がありましたけれども、私自身もこの点については異論はございません。また、鑑定に技術的な問題が伴うことも承知しております。
 しかし、実際に離婚後三百日問題などで、母親が子供の幸せを考えて、子供の本当の父親はこの人だ、前の夫ではありませんと、こういうふうに訴えているときに、DNA鑑定で決するという運用も考えていいんではないかと。これだけ、まあこの法案に対する賛否とは別に、DNA鑑定は物すごく意味がある、これは必要だと、こういうふうにおっしゃっているんだから、むしろDNA鑑定、問題のないところにはどんどん適用すればいいではないか。
 ならば、少なくとも、私はこの法案の中に入れるということについては賛同はできないんだけれども、例の三百日問題についてはこれはDNA鑑定を入れたらいいんではないかと。こういう改善策について、つまりDNA鑑定を入れるということについては与党のPTの中でもいろいろ議論があったというふうに私聞いておるんですが、法務大臣、このことに、三百日問題についてはむしろDNA鑑定を入れて救済すると、こういうことは考えられぬでしょうか。

○国務大臣(森英介君) この問題については、与野党を問わず、それぞれに様々な御意見があることは十分承知しておりまして、なかなか御意見が収れんしていかないところだと思いますけれども、いずれにしても、今、この国籍法の場合と同様に、仮にDNA鑑定の結果、科学的に血縁上の親子関係が否定されたことによってむしろ嫡出推定が覆されるという制度を採用いたしますと、かえって法律上の父子関係をいつまでも確定しないで子の福祉に反するようなことも起こり得るというふうに思います。
 また、いろいろ実際問題として、鑑定の方法がなかなか容易じゃないとか、そういったことも含めて、私、私というか、現時点においてはDNA鑑定を判断材料とすることはなかなか採用し難いというふうに考えております。

○近藤正道君 いや、私はこの法案については採用するということについては異論があるんですが、例の三百日問題については採用するということを考えてもいいんではないかと、こういうふうに申し上げているんですよ。もう一回、どうですか。

○国務大臣(森英介君) 今申し上げましたとおり、三百日問題におきましても、やっぱり民法上の親子関係という意味においては必ずしもDNA鑑定はなじまないんじゃないかというふうに考えます。
 いずれにしても、DNA鑑定によって、むしろ子の福祉に反するようなことが起こったり、様々な事態も想定されますので、やっぱりもうちょっと議論を深めていただいた方がよろしいんじゃないかと考えているところです。

○近藤正道君 大変看過できない御発言を大臣はされておりますけど、もう時間であります。このことについてはまた別のところで議論をさせていただくことにしまして、私の質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

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最終更新:2009年01月09日 06:52
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