最適化

科学室の扉が開かれる。
新たな実験台が来たかと嬉々として振り向く科学教師オオツキ。
そこに居たのは、彼が作成した戦闘用アンドロイド、イ号の13、識別コード"ナミダ"だった。
「博士、私を"最適化"して下さい。」
搾り出すように声を発するナミダ。
若干驚いたようにオオツキは言う。
「あれほど嫌がっていたのに、どういう風の吹き回しだ」
ナミダは、透き通るその声で、語り始めた。

「メアリーさんは、小さいけどいつもで元気です。私の最初の友達です。」
「服部さんは、普段は暗いですが、忍術の話をするときはとても楽しそうです。」
「日向さんは、真面目です。学校を良くしようといつも頑張っています。服部さんとはいいコンビだと思います。」
「鮎坂さんは、会う度に私の口にCDを入れてゲームをやろうとします。でも物知りで、思慮深いです。」
「かがみさんは、よく薬の調合を間違えて爆発させます。私はいつも巻き込まれて、煙の中で堰をする真似をします。」
「立川さんは、一見怖い人ですがホントは優しいです。ゆかり先生の話を始めると止まりません。」
「鳴神さんは、科学部にいるのでよくお話します。内容はたいてい博士への愚痴ですけど。」
「フジカタさんは、いたずらっこです。しょっちゅう兄さんに火薬を詰めようと追いかけっこをしています」
「ホンさんは、うさんくさいと博士のことを嫌っています。私のことも嫌ってるみたいです。ちょっと悲しいです。でもいじめを許さない正義漢です。」
「乱さんは、恥かしがり屋さんですが、私の中ではヒーローです。」
「土田さんは、なんだか不幸な人です。でも彼の商品紹介はとても面白くて好きです。」
「フランソワさんは、私に両腕をくれました。この腕は、誰かを抱きしめることができます。」

「みんな、大切な友達です。」

ベッドに横たわり、コードに繋がれてシャットダウン状態になったナミダ。
オオツキはスイッチを入れ、これまでの経験データから効率的な運動・神経回路の構築を行う。
同時に戦闘の邪魔となる日常の記憶データを削除する。
オオツキはナミダを見下ろしながら、言った。

「お前が何を言っていたのか、全く理解できん。」

そして、処理が終る。
「対魔人戦用人型攻性兵器 イ号の13 起動します。」
「残存する魔人どもを全員殺せ。ついでだ、それが終わったら残った生徒も殺せ。」
「オーダー、了解しました。」
その目には笑顔も悲しみも無い。
オオツキナミダは、もういないのだった。


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