HERO

日曜日。
街に特撮映画を見に来た乱回胴は、ひとりの女性がが男たちに絡まれているのを見つけた。
道行く人々は誰も見て見ぬフリ。

乱は即座に飛び出し、颯爽とチンピラどもをぶちのめす。
衆人からは拍手喝采、女性からは感激の言葉。

という妄想を、心の中で描いた。
別に男たちが怖いのではない。
周りの人目が怖いのだ。
助けたい、でも恥かしい!
強いジレンマを抱えながら、乱は物陰から状況を見守るしか出来ないのだった。

遠くから、排気音を響かせながらバイクが走ってくる。
やってきた大型バイクは男たちの直前で急ブレーキを踏み、すんでのところで停止した。
シートにまたがる大柄な男性と、サイドカーに乗る少女。
しかし、驚くポイントはバイクがチンピラたちの前で止まったことではなかった。
彼らは二人ともタキシードを着ていたのだ。
さらにシルクハットとマントを身にまとい、顔には目が隠れる程度の小さな仮面。
指差された男たちだけでなく、絡まれていた女性も、周りで見ていた人々も、そして乱も絶句していた。
「そこまでです!」
サイドカーに乗っていた少女が立ち上がり、チンピラどもをびしっと指差し、
「この世に悪の栄えたためしはないです!」
ズバっとタンカを切る。そして続ける少女。
「愛と正義のタキシード服美少女&その他戦士、タキシードライダー!!」
「1号メカラッタ!」
思わぬところから声がした。
良く見れば少女の肩には、手足の生えたジュースの缶のようなものが乗っていた。彼ら同様タキシード柄だ。
少女が2号!と叫ぶ。
シートにまたがる男がそれに続くと思いきや、何かつぶやいただけだった。
「声が小さいですよ、立か…」
「3号3号!さーんごーう!!」
少女の声を掻き消すように叫ぶ男。
そして、バイクから飛び降り、ヤケクソ気味にチンピラたちを叩き伏せ始める。
慌ててそれに続く少女と空き缶。

為す術も無く一方的に叩き伏せられた不良たち。
乱闘はものの10数秒で終った。

その後、速攻で少女と缶をサイドカーに押し込み、バイクをスタートさせるタキシードライダー3号。
走り去るバイク。
サイドカーから少女が叫ぶ。
「立川さん待って下さい!まだ決めゼリフを言ってません!立川さ~ん!」
「名前で呼ぶんじゃねええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ドップラー効果を残して二人と1個を載せたバイクは走り去った。
唖然とする人々。

自分に足りないのは覚悟だと、乱は拳を握ったのだった。


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