覚醒者たち

「何だとかがみィ!?もうイッペン言ってみろや!!」
休み時間。金髪オールバックの男、立川トシオは、気の弱そうな生徒の襟首を掴み、凄んだ。
騒然とする教室。
かがみと呼ばれた男はまったく物怖じせず
「何度でも言いますよ」
眼鏡の位置を直して、言う。

「女性は13歳から19歳まで。それ以上は老人です。」
「女はハタチ過ぎてからだっつてんだろうが!!」

緊張の中、状況を見守っていたクラスメイトの意見は一致していた。
「お前ら何を言ってるんだ…」




馬鹿に構ってたらケンカしに行く時間が無くなっちまったぜ。
保健室へ向う廊下を歩きながら、立川は呟いた。
まあ今日のところは頭が痛いって事にしとけばいいか。
保健室通いは彼の日課だった。
ケンカしてできた傷を保健室で治療してもらう。
だが、実それは手段に過ぎず、養護教諭の砂糖ゆかりんへに会いに行くことこそ彼の目的だった。
砂糖の豊満な体を思い出し、やっぱ女は成熟してからだよな、と、にやけながら立川は再度の確信を得た。

「先生、頭が痛くて」
言いながら扉を開け、保健室の中を覗いた。
だが中央にある背もたれ付きの椅子には、誰も座っていなかった。
落胆し、帰るか、ときびすを返した立川に、室内から声がかかる。
「あら、今日はケガじゃなくて頭痛なのね」
誰も座っていないように見えた椅子がゆっくりとこちらを向く。
座上には、小学生くらいの少女が座っていた。
大人ものの白衣を無理に着ており、袖はだぼだぼ、裾はマントのようだった。
普通高校の保健室にはいるはずのない存在だ。
だがその幼い顔に、立川は見覚えがあった。
「せ、先生!?」
少女はこの部屋の主、養護教諭の砂糖ゆかりんだった。
「いやー、薬の調合を間違って子供になっちゃた」
「なっちゃったって…」
「まぁそのうち直るんじゃないかな~?」
「かな~って!」
まぁまぁ、と言って靴を脱いで裸足になる砂糖。
そして椅子に座らせた立川の足をよじ登り、彼のふとももの上にバランスをとって立つ。
自分のおでこを立川のそれにくっつけ
「うん、熱はないみたい」
と笑顔で言った。
呆然とする立川。
熱を測り終えた砂糖は降りようとするが、そこでバランスを崩してしまう。
慌てて砂糖の小さな体を抱きしめる立川。
「ありがとw」
抱きしめられたまま砂糖は言う。
立川の中で新しい扉が開いた瞬間だった。




翌日。
一限目の準備をするかがみの前に、立川が立つ。
これから始まるであろう惨劇に、クラス中が緊張する。
だが、
「昨日は言い過ぎたぜ」
その口から出たのは謝罪の言葉だった。
ぽかんとするかがみに対し、照れくさそうに頬を指でかきながらなおも続ける立川。
「良く考えてみりゃローティーンってのもアリだよな…」
かがみは、立川を睨みつけながら立ち上がった。
そして突然涙を流し
「やっと…やっとキミも分かってくれたのか!」
「ああ、くだらねぇことにこだわってた俺が馬鹿だったぜ」
そして二人は固く握手を交わしたのだった。

状況を見守っていたクラスメイトの意見はやっぱり一致していた。
「お前ら何を言ってるんだ…」


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