SF百科図鑑
ロバート・A・ハインライン『人形つかい』ハヤカワ文庫SF
最終更新:
匿名ユーザー
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February 15, 2005
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この記事へのコメント
1. Posted by SLG February 15, 2005
19:31
冒頭からぐいぐい引き込むねえ。主人公は米国の秘密諜報?組織の下っ端メンバーで、「おやじ」から「空飛ぶ円盤」調査任務を言い渡される。やはりキャラクターや組織のディテールの肉付けが過不足なくしっかりしている。「妹役」の美女の同僚など、色系のネタもしっかり入れ基本を外さない。ポールの不出来な小説の直後に読むとやはり力量の差を感じるねえ。ハインラインも『ダブルスター』『月は無慈悲な夜の女王』のようにつまらない作品はたくさんあるんだが(後者についてはファンもいるようだがぼくにいわせればあんなものただのテロリズム礼讃の退屈な戦争小説に過ぎず、読み通すのに3年もかかるほど退屈だったから、眉一つ動かさず駄作といってはばからない)、さて本作はどうだろうか。
2. Posted by SLG February 15, 2005
21:04
むう、さすがにうまいなあ。50ページ、面白いよ。女性のキャラ設定がちょっと誇張されてるとこ以外、特に不満はない。
3. Posted by SLG February 16, 2005
01:47
100ページ。面白い。抜群に面白く、怖い。1951年の作品とは思えない。
それと同時にいくつか発見したことも。
1 後に「宇宙の戦士」「月は無慈悲な夜の女王」で全開になる暴力至上主義が、本作の段階で既に全開になっていたこと。本作のキャラクターは人間に取り憑くエイリアンを倒すために、取り憑かれた人間を平気で一緒に殺し、何ら良心の呵責を覚えない。エイリアンのあまりの不気味さ故に目だたなくなっているが、基本的主張は『宇宙の戦士』『月は無慈悲な夜の女王』等と全く異なるところはない。自分の生活を守るためには、手段を選ぶな! 弱者は切り捨てろ!
2 男尊女卑思想が空気のようにみなぎっていること。たとえば、こんな主人公の台詞──「ぼくは楽な──ゆたかな気分になっていた。まるで、だれか一人を殺したような──でなければ女を一人ものにしたような──そいつを一匹じっさいに殺したばかりのような気分だった」。おいおい、やばいんじゃないの?
3 シルヴァーバーグの短編「憑きもの」は、かなり露骨な本作の焼き直しであること。本作における乗っ取りの恐怖は、パブリックな視点から主に描かれているが、シルヴァーバーグのものはそれをパーソナルな視点から描き直したものと思われる。
それと同時にいくつか発見したことも。
1 後に「宇宙の戦士」「月は無慈悲な夜の女王」で全開になる暴力至上主義が、本作の段階で既に全開になっていたこと。本作のキャラクターは人間に取り憑くエイリアンを倒すために、取り憑かれた人間を平気で一緒に殺し、何ら良心の呵責を覚えない。エイリアンのあまりの不気味さ故に目だたなくなっているが、基本的主張は『宇宙の戦士』『月は無慈悲な夜の女王』等と全く異なるところはない。自分の生活を守るためには、手段を選ぶな! 弱者は切り捨てろ!
2 男尊女卑思想が空気のようにみなぎっていること。たとえば、こんな主人公の台詞──「ぼくは楽な──ゆたかな気分になっていた。まるで、だれか一人を殺したような──でなければ女を一人ものにしたような──そいつを一匹じっさいに殺したばかりのような気分だった」。おいおい、やばいんじゃないの?
3 シルヴァーバーグの短編「憑きもの」は、かなり露骨な本作の焼き直しであること。本作における乗っ取りの恐怖は、パブリックな視点から主に描かれているが、シルヴァーバーグのものはそれをパーソナルな視点から描き直したものと思われる。
4. Posted by slg February 17, 2005
00:24
読了。面白かった。
恋愛や親子の情愛を絡めながら、金星の荒廃した植民地の謎とヒロインの生い立ちの謎、敵のエイリアンの正体や弱点の究明などの様々な謎解き、戦況の逆転に次ぐ逆転、とサービス満点で飽きさせず、そのストーリーテリングはまさに天才的といっていい。米国の政治状況のディテール描写やキャラクターの肉付けも、文句のつけがたい出来でリアリティがある。1951年という時代にこれだけのクオリティの作品を書いているのはまさに驚異だ。一級のエンターテインメントであり、ほとんど古さを感じさせない。パルプSFに社会科学的なアプローチを持ち込み、「大人の読むに耐えるクオリティのエンタテインメントに引き上げた」といわれるハインライン、本作のようなよく出来た作品を見ると納得せざるを得ない。
あと付け加えておくなら、本作で表現された「平均的鷹派アメリカ人のメンタリティ」は、後年の「宇宙の戦士」とほとんど異なるところがないことに注意すべきだ。ハインラインは『宇宙の戦士」で突然軍国主義者に変身したかのように誤解されているが、ハインラインは単なる個人主義的武力肯定者というだけで、個人の生活の安寧や自由を侵す敵を倒すために、人は一致団結して闘わねばならないということを言っているだけと思われる。それが「人形つかい」や「宇宙の戦士」では、国家対エイリアンという対立図式、「月は無慈悲な夜の女王」では月の革命派対地球政府という対立図式になっているに過ぎない。主人公の視点から敵がエイリアンであれば国家による武力を肯定し、敵が国家であれば革命軍による武力を肯定する。媒介項はたまたま国家であったりなかったりするが、常に主人公の利益が中心にあり、これを脅かすものはすべて敵であって、武力で叩き潰すべき存在ということになる。一言で言えばハインラインのイデオロギーは「利己的武力主義」ということになるだろう。良くも悪くもこれはアメリカ人の平均的メンタリティを代表していると思う。このメンタリティあったればこそ、イラク等の武力制圧を国民の多数が支持することになるわけだ。
本書のラスト、「人形つかいどもよ──自由な人間たちがいま貴様らを殺しに行くぞ! 彼らの上に死と破壊を!」など、「人形つかいどもを」を「クモどもよ」と読み替えれば、「宇宙の戦士」の一節といわれても全く違和感がない。
テーマ性 ★★★
奇想性 ★★
物語性 ★★★★★
一般性 ★★★
平均 3.25点
文体 ★★★
意外な結末 ★★
感情移入力 ★★★★
主観評価 ★★★(30/50点)
恋愛や親子の情愛を絡めながら、金星の荒廃した植民地の謎とヒロインの生い立ちの謎、敵のエイリアンの正体や弱点の究明などの様々な謎解き、戦況の逆転に次ぐ逆転、とサービス満点で飽きさせず、そのストーリーテリングはまさに天才的といっていい。米国の政治状況のディテール描写やキャラクターの肉付けも、文句のつけがたい出来でリアリティがある。1951年という時代にこれだけのクオリティの作品を書いているのはまさに驚異だ。一級のエンターテインメントであり、ほとんど古さを感じさせない。パルプSFに社会科学的なアプローチを持ち込み、「大人の読むに耐えるクオリティのエンタテインメントに引き上げた」といわれるハインライン、本作のようなよく出来た作品を見ると納得せざるを得ない。
あと付け加えておくなら、本作で表現された「平均的鷹派アメリカ人のメンタリティ」は、後年の「宇宙の戦士」とほとんど異なるところがないことに注意すべきだ。ハインラインは『宇宙の戦士」で突然軍国主義者に変身したかのように誤解されているが、ハインラインは単なる個人主義的武力肯定者というだけで、個人の生活の安寧や自由を侵す敵を倒すために、人は一致団結して闘わねばならないということを言っているだけと思われる。それが「人形つかい」や「宇宙の戦士」では、国家対エイリアンという対立図式、「月は無慈悲な夜の女王」では月の革命派対地球政府という対立図式になっているに過ぎない。主人公の視点から敵がエイリアンであれば国家による武力を肯定し、敵が国家であれば革命軍による武力を肯定する。媒介項はたまたま国家であったりなかったりするが、常に主人公の利益が中心にあり、これを脅かすものはすべて敵であって、武力で叩き潰すべき存在ということになる。一言で言えばハインラインのイデオロギーは「利己的武力主義」ということになるだろう。良くも悪くもこれはアメリカ人の平均的メンタリティを代表していると思う。このメンタリティあったればこそ、イラク等の武力制圧を国民の多数が支持することになるわけだ。
本書のラスト、「人形つかいどもよ──自由な人間たちがいま貴様らを殺しに行くぞ! 彼らの上に死と破壊を!」など、「人形つかいどもを」を「クモどもよ」と読み替えれば、「宇宙の戦士」の一節といわれても全く違和感がない。
テーマ性 ★★★
奇想性 ★★
物語性 ★★★★★
一般性 ★★★
平均 3.25点
文体 ★★★
意外な結末 ★★
感情移入力 ★★★★
主観評価 ★★★(30/50点)
5. Posted by slg February 17, 2005
00:38
「フセインどもよ──自由な人間たちがいま貴様らを殺しに行くぞ! 彼らの上に死と破壊を!」
と書いたら、まんまイラク戦争だなw
と書いたら、まんまイラク戦争だなw