SF百科図鑑 David Hartwell etc. "Year's Best SF 7"


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2005年11月24日

ed.David Hartwell etc. "Year's Best SF 7"

ハートウェルの年間SF傑作選シリーズ、2002年版。
作品リストとコメント
Nancy Kress Computer Virus ★★★ コンピュータ化された家のシステムプログラムがAIに乗っ取られる。母子3人が地下室に閉じこめられ人質にされる。FBIと開発者が現地に訪れ、交渉を開始するが、AIは「自衛のため必要な措置」と説得に応じない。人質の男の子が高熱を出し、遺伝学者の母親は、AIと交渉しながら、治療のためウイルスの遺伝子組み換え作業を始める。アイデアはありふれたものだが、AIとヒロインのやりとりや、緊迫感のあるストーリーの運びは安定しており、エンターテインメントとして水準作。
Terry Bisson Charlies Angels ★★★1/2 SFミステリの佳作。「熊が火を発見する」、ルイス・ウー物のようなほら話、「マックたち」のような辛辣な風刺物の印象が強いビッスンだが、これは駄洒落っぽい題名から想像されるユーモア物ではなく(ただし、主人公がしょっちゅう言い間違いをするなどのコメディ演出はある)、真っ当なSFだった。博物館の彫像が月夜に逃げ出し、人を襲う。館長に雇われた<超自然事件専門>の私立探偵の主人公は、この彫像の謎を追ううちに、この彫像が人類進化のためにエイリアンによって作られた殺人ロボットの生き残りであることを知る。この最後のロボットを倒せば、進化のテストに合格し、ふたたびエイリアンがやって来るという。これは人類が残虐性を乗り越えていないことを警告するための罠ではないのかと、主人公は疑う。しかし、警察の介入により、事件は意外な方向に&&。タイトルは、人気テレビ番組と、「チャールズ・ダーウィンの天使」=12人の進化促進用殺人ロボットの意味をかけている。
Richard Chwedyk The Measure of All Things ★★ ペット用に遺伝子操作で作られたミニ恐竜を自宅に保護する男の話。どこかで読んだことがある気がしたが、調べてみたら2003年ネビュラ賞受賞作Brontes Eggsと同じシリーズらしい。Brontes Eggのほうは、コミカルでストーリーにも動きがあり、結構面白かった記憶なのだが、本作はストーリーに抑揚がなく、淡々とミニ恐竜と主人公、訪問客の交流が描かれるだけで、ちっとも面白くなかった。
Simon Ings Russian Vine ★★★ エイリアンが地球を訪れ、人類から識字能力を奪う。このエイリアンの男と地球人の女が男の農場で同棲しながら、物語を語り合う。男は本を読み聞かせ、女は記憶の中の物語を語り聞かせる。ストーリーらしいストーリーがなく、物語を媒介として淡々と哲学的な会話が交わされるという結構難解な作品。初出はオンラインマガジンらしい。作者自身によると一種の<サイバーパンク>らしいが、むしろ純文学に近い味わい。
Michael Swanwick Unders Game ★ SFマガジンに既訳のくだらないショートショート。もちろん、「エンダーのゲーム」のパロディ。スワンウィックはいい短編がたくさんあるのに、何でよりによってこんなつまらないのを訳すんだろう。短いからか?
Brian Aldiss A Matter of Mathematics ★★★★ 月と地球をつなぐ謎の抜け道のようなものが多数発見され、その周辺の月面から異なる数学法則に支配されていることを示す物体が発見され、その研究を通じて主人公は人類の脳内に因子として潜在していた新たな数学法則によって世界を見るヴィジョンに到達する。そうして見た月は、主人公が夢に見たゴルフボールの夢だった&&というような感じの強烈な奇想SF。ちょうど荒巻の似た(心理学的)テーマの長編を2連続で読んだところだったので、印象に残った。
Edward M. Lerner Creative Destrction ★★1/2 女友達の自殺の真相を探る内に、主人公は、アルファ・ケンタウリ人と地球の技術情報密輸(宇宙レベルで禁止されている)をめぐり相争う企業同士の謀略の真相に近づいていく、といった感じの話。SF設定の単なる企業謀略スリラーといった趣の話で、今ひとつ陳腐な感じがする。ピーター・ハミルトンのつまらなさに通ずる。
David Morrell Resurrection ★★ これは凡作。というか古すぎる。作者は一般小説の作家らしく、ノンプロパー作家の書いたSFのアンソロジーに書き下ろし収録された作品だそうだ。重度の白血病で死にかけた父親を冷凍保存する息子。治療法が見つかり蘇生されたとき、自分は父親よりも高齢だった。やがて自分が死にかけたとき今度は父親が自分を冷凍睡眠にかける、という容易に予測のつく陳腐でひねりのない素朴な話。今時これはないでしょう、50年代ならいざ知らず。
James Morrow The Cats Pajamas ★★★ これは強烈な作品。妻と旅行に出かけた男が、旅先でマッドサイエンティストによって脳を摘出される。この科学者は様ざまな人の脳を動物に移植し、利他性を付与する治療を施すという実験を大規模に行っていた。主人公は脳を元に戻せと要求するが、妻もすっかり洗脳されてしまい、幽閉生活を強いられる&&。解説にあるとおり、「モロー博士」+「動物農場」といった感じの作品。
Michael Swanwick The Dog Said Bow-wow ★★★ 遺伝子操作によって知性を持った動物たちが人間と混じって生活している未来社会の話、言葉をしゃべる犬が犯罪捜査をするユーモラスなSFミステリ、だったと思う。ただ犬としての本能も残っており、それにまつわるオチが付いた気がする。実はヒューゴー賞受賞作で数年前に読んでいたため今回スキップしており、上記コメントはおぼろな記憶をたどったもの。
Ursula K. LeGuin The Building ★★★ ふたつの種族が住むある星。一方の種族は、ただ他方の種族の利用に供するためだけに、ひたすら建物を造り続ける&&という話。スケッチ風の小品で明確なオチもなく、佳編というにとどまる。この作者、美しい幻視力は健在なものの、全盛時に比べると理知的なポテンシャルは明らかに減退しているのを感じる。
Stephen Baxter Gray Earth ★★★ 無数の平行宇宙が併存するという宇宙観に基づいた作品で、ネアンデルタール人が遍在する<灰色の地球>に別の平行宇宙からたどり着いたものたちの最後の生活を描いている。壮大な宇宙観と静かな詩情が結合した佳作。
Terry Dowling The Lagan Fishers ★★★1/2 地球上に謎の結晶体植物がはびこり始める。そして主人公は謎の生物を発見する。その生物は主人公を去った恋人の姿になる。調査するうちに、同種の生物が地球人になりすまして暮らし始めているらしいことがわかる。主人公自身もこの<自然>に身を委ねる決意をする。バラード的な美しく静かな終末小説。
Thomas M. Disch In Xanadu ★★★ VRが提供する死後の桃源郷の体験。第2部では性別、身分を偽った男がダルシマー奏者となって桃源郷に住み着く。
Lisa Goldstein The Go-Between ★★★1/2 大使としてある星に赴任した女性。ポートへの入植許可の交渉をする。この星の代表は自ら話さず、「間交者」というものが間に立って通訳をした。かれらは地球から来た犬を飼っていた。交渉中、犬が地球人の軍人に蹴られて負傷するという事件が起こる。また、この星の子供が病気になり、地球人が陰謀で病気をうつしたと疑われる。だが、犬が疑いを解き、かれらはポート入植を許可した。この星の人々は匂いで話すのだった。犬と匂いで会話をして疑いを解いたのだ。ほのぼのとした作品でまあまあ。
Gene Wolfe Viewpoint ★★1/2 TV番組用に10万ドルを受け取り、民衆や連邦警察に追われる男の話で、シェクリイ「危険な報酬」へのオマージュらしい。途中でライフルを撃った女と仲良くなり、 最後は敵と戦う。明確なオチがない。普通。
Gregory Benford Anomalies ★★★ 天体の物理法則に異常が生じ、月の運行や太陽の活動がイレギュラーになるという話。
Alastair Raynolds Glacial ★★★★ 英国ニュースペオペの雄レナルズ、「火星の長城」に次ぐ2本目の短編。氷の惑星で基地の職員全員が集団発狂、基地の設備を破壊し死亡。その原因を調査するために来た男女と知恵遅れの少女。氷の中に住む虫。男女と少女は、機械的に精神を接続して集合知性を構成する技術<コンジョインター>を使う。虫を研究していた男は外でヘルメットをはずして死んでおり、手でアルファベット3文字を記していたが、それは犯人の名前なのか? 集団狂気は毒によるものか? やがて、基地内部で自らを冷凍した男の生き残りが発見される。犯人は彼なのか? 果たして動機は? やがて、驚愕の入れ替わりトリック、ダイイングメッセージの謎は解かれ、虫たちが形作る驚くべき巨大な知性の存在が明らかになる&&。しっかりしたハードSFアイデアに、熟練した本格ミステリのプロットが組み合わされ、安定したエンタテインメント作品に仕上がっている。
James Patrick Kelly Undone ★★★ ベスター風のタイプグラフィを活用した、ユーモア・スペースオペラ。支配種族に反旗を翻した種族の生き残りの女が宇宙船とともに時間と時間線をまたにかけて逃亡。戻ってみたが、故郷の星には誰もいない。彼女は太陽系を訪れ、地球人の女になりすまし、地球人の男と知り合い、彼を連れて故郷の星に戻り、子孫を作り新しい世界を作り上げる。だが、その過程で、宇宙船の力を借りて、時間を何度も巻き戻したり(アンドゥ)、別の時間線にスキップしたりする&&。普通に面白いが、編者が「集中のベスト」と絶賛しているほどではなかった。

silvering at 00:52 │Comments(1)読書

この記事へのコメント

1. Posted by slg   2005年11月30日 23:56
ルグィンの"The Building"は、邦訳の出た『なつかしく謎めいて』というオムニバス短編集の一編であることが判明。別の次元の話であるようだ。そういえば"planet"ではなく、"plane"と書いてあったような気が&&。