2006年01月01日
荒巻義雄『宇宙25時』徳間文庫
「レムリアの日」★
凡作。滅亡に瀕したレムリア大陸の皇女が弟子の男を連れて日本に降り立ち、イザナギとイザナミとなって日本人の祖先になるというなんのひねりもないアイデアストーリー。くだらない。
「ああ荒野」★★
遠い未来、滅亡に瀕した地球上の荒野の風景と、そこに暮らす野人たちの生活を淡々とつづった作品。興味を引くようなストーリー展開は皆無であり、小説としてはさっぱり面白くない。
「無限への崩壊」★★★
ミュータント狩りの男が、自ら手にかけたミュータントの女に恋情を持ってしまったことから狂気の世界に入り込み、カミュの『異邦人』の主人公に感情移入しすぎた結果として自らを銃撃する。ディックの『アンドロ羊』そのまんまのネタだが、後半の展開は荒巻節全開でそこそこ面白い。
「宇宙25時」★★★★
これは「大いなる失墜」『神聖代』『時の葦舟』などと同様、「この現実は何者かの夢見た虚構に過ぎない」というテーマを追究した作者の得意なタイプの作品である。やはり、こういう作品を書かせると水を得た魚のように筆致が生き生きとしていて面白い。しかも、ペダンティックな内容と裏腹に、ヴォークト調ワイドスクリーン・バロックのスタイルで書かれているのが新鮮だ。多用されているタイポグラフィ的手法も絶妙な効果をあげている。結末はいつもどおりで意外性はないのだが、その点を差っぴいても傑作といってよいだろう。