SF百科図鑑 グレッグ・イーガン『ディアスポラ』ハヤカワ文庫SF


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2005年12月16日

グレッグ・イーガン『ディアスポラ』ハヤカワ文庫SF

イーガン初の本格的宇宙SFである。

クラークの『都市と星』に代表されるような遠未来の地球から物語はスタートするが、静謐なクラークの宇宙と異なり、イーガンの未来像は「サイバーパンク」「ナノテクSF」「VR世界」「コピー人格」といった80年代以降のSFの潮流の全てを取り込んだ高解像度の世界だ。地球上の大部分の人間は、物理的肉体に固執した一部の者を除き、<移入>によって自己の精神(=脳内情報)をまるごと巨大コンピュータ上にコピーし、VR上の存在となることを選んだ。それから驚くべき歳月が流れ、VR世界に孤児として誕生した人格<ヤチマ>が、<イノシロウ>らとともに、自らの好奇心、探求心を満たすべく、自らを外部世界の機械人間の肉体へとコピーし、外の物理世界への探検を開始する。この<ヤチマ>を中心に未来の様々な形態を取る人類(ただし、視点は一貫してネット上のコピー人格の形態を取るのを主とする人々を中心としているが)が自らのコピー、クローンを一斉に大量に宇宙に送り込み(=<ディアスポラ(大離散)>)、銀河の核で起こると予告される大爆発の回避方法、他の知的生命との接触、人類より前に人類と同様宇宙を旅し、人類へのメッセージや痕跡を残して消えたエイリアンの行方など、様々な謎と遭遇していく様を連作短編的に描いた作品である。

解説では難解だと書かれているが、技術や理論のディテールがかなり詳細であるというだけで、さほど難解なようには見えない。作者も技術ディテールまで読者が理解することを求めて書いたものではあるまいし、後書きにあるように単に他人の論文のアイデアをつなげただけの代物であるので、この技術ディテールは物語にリアリティを与える程度のものに過ぎまい。その詳細さも、本書の物語的楽しみをそぐほどには至っていないから、特に批判するには当たらないと思う。

物語としては、連作短編的な構成のせいか、だいぶ無駄が削られ、前半の無駄な多数のサブエピが解消されずに終わり何とも言えない後味の悪さを残した前作『万物理論』に比べると、格段の進歩が見える。少なくともバクスター程度には物語技術は進歩しているのではないだろうか。

ただし、本作はオーソドックスな宇宙SF、スペースオペラになっているため、イーガンらしさはわずかに自己の専攻である数学を前面に押し出した独特の宇宙生成論のハードSF的側面にみられるのみで、物語としてそつなく仕上がってはいるものの、イーガンならではの味は気迫になっている。総じて水準級の宇宙ハードSFという印象を超えるものではなかった。

テーマ性  ★★★

奇想性  ★★★

物語性  ★★★

一般性  ★

平均    2.5

文体    ★★★

意外な結末 ★★

感情移入 ★★★

主観評価 ★★1/2(28/50)