SF百科図鑑 Algis Budrys "Michaelmas"


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December 20, 2004

Algis Budrys "Michaelmas"

マイケルマスプリングル100冊より、バドリスの2冊をいく。まずは未訳のほうから。(ちなみにもう1冊はローグムーン=無頼の月)

粗筋追記2004/12/30
マイケルマス アルジス・バドリス

私とこの本の友
シドニー・コールマンに


今夜のように寂しい夜には、ローラント・マイケルマスは、自分が非常に危険な気分に陥っていると考えることが多かった。彼はその気分から逃れようとする。アドベンチャー・チャンネルの数々を回しては、アパートの室内をホログラムがはねまわるのを眺める。ディレクターが視聴者の嗜好に合わせて空間の中に多くのアクションを盛りこもうと注意を払っているのがわかる。だがこういうとき、多分彼はそれほど注意深く、ぶつかり合う投射映像や社会病質的キャラクターたちから逃れたいと思っているわけでもなかった。
彼はニュースチャンネルに切り替える。学ぶべき競合相手の技術に関するニュースを学ぶ。優秀なディレクターやカメラ技術者の名前をメモする。そして、仕事相手に今度会った時言おうと考えているお世辞の数々を頭の中に蓄積しようとしている自分に気づく。だが、それもまた今必要なことではなかった。
その後、彼は教育メディアを見てみる。優れた古典劇やオペラを。ドキュメンタリーを。教育番組を──だがドラマは既に頭の中に収まっているし、ニュースの全部とドキュメンタリーの情報の大半を既に持っていた。何か知る必要のあるものがあれば、いつもドミノがすぐ教えてくれる。それで終わり。
ちょうど今夜のようにそうなった時には、彼は落ちつかなくなる。ロマンス・チャンネルを見るのは嫌だ。彼向きではない。代わりに彼は思う、これはおれをこういう気分にさせるための時間というだけのことだ。ときどき、いつだってこんな風な気分になるのだ。

彼は目を閉じ、角の小さなアンティーク・デスクに座り、何年も前に書いたものを思いだした。

愛に満たされた、お前の目
雲の舞のように、光り変わる
そして私に、お前の夏の雨が降る
私の目を通して
我々の生のまだらな太陽の光が

しばし、彼は両手の上に頭を乗せた。
だが、彼はローラント・マイケルマスだった。目が大きく、丸くてほとんど毛がない頭が短く幅の広い顎の上に乗った男だった。胴体はがっちりと力強く、敏捷な四肢と、正確に動く手先足先を持っていた。公的な仮面のレベルにおいては、彼は偉大な能力を持った無垢な子供として、世界を見張っていた。
**
マイケルマスのマスイメージと実像の違い。彼はニューヨークにセントラルパークを見下ろす家をかった。部屋に座っていると、コンピュータのライトがともり彼に呼びかけた。ドミノだ。ニュースボードが新着したらしい。以下の通り。
「ウォルター・ノーウッドは死んでいない。長期集中治療で職務復帰に向かっている。ノーベル賞二回受賞の生命学者・宇宙飛行士。シャトルの事故で重体となっていた。ニルス・ハネス・リンバーグがサナトリウムで治療に当たっていた。間もなく退院可能となる模様。」
マイケルマスは、「なんてこった」と罵る。
**
ドミノはマイケルマスにノーウッドの他メディアのニュースをきく。が、どの通信社もたいした情報は得ていない。サナトリウムは山の中で、リンバーグは取材に応じない。そのうち記者会見をすると言う噂はあるが、目下どこも情報が不足しているようだ。やがて、ノーウッド本人が宇宙航空統制委員会に電話をかけ、無事を証明したと言うニュースが入った。マイケルマスは気晴らしにギターを爪弾いた後、窓から外を見下ろし、この奇跡の生還について考えた。
**
ニルス・ハネス・リンバーグ、この体中に肝斑と静脈の浮いたひょろひょろの老人が、ロイターの記者に最も都合のよい言語で話をしてから、およそ一〇分が経っていた。今や二十億の人々が目を覚まして彼の話をきき、更に目が覚めるであろうこと必定だった。彼の言ったことをどれぐらいの数のコンピュータが知っているかは誰も知らない。何個の小結石が詰まり、何機のテレプリンターががたがた揺れるかは誰も知らない。
マイケルマスは機械に話す。「ノーウッドは生きていると思うか?」
***
「いいえ。生きていようと死んでいようと、彼を見つけることを期待するのは合理的でありません。シャトル事故に関するあらゆる研究によると、燃料の爆発によって、システム内の温度が全ての有機物及び大半の無機物の発火点を超えました。爆発の前にいかなる警告もなかった。爆発から飛びだして距離を引き離すほどの加速をした物体もなかった&&」
***
つまり生きているわけがないという推理だったが、生きていることの根拠はロイターの記事しかなかった。 
***
「ノーウッドは同じ男なのか?」
「多分彼の脳は傷ついていません、間違いなく」
「外惑星探検隊を指揮することは完璧に可能なのか?」
***
マイケルマスはしばらく対策を考えることにした。


マイケルマスは、ドミノと、リンバーグが文字通り蒸発して死んだはずのノーウッドを生き返らせた問題に着いて検討した。組織サンプルからクローンを造ったことは考えられない。そのようなサンプルは採取不能だし、クローンの成長も早すぎる。リンバーグがそのような技術を短期間で開発したこともありえない。
ドミノは言う──
***
「リンドバーグ博士は第一級の天才で──」
マイケルマスははにかんだように無慈悲な微笑を浮かべたが、遮らなかった。
「──二重生活を送るのは不可能でした。物事を推進するスピードがあまりに頭抜けているが故に、公然たる名声を高める一方で全く異なる研究を密かに行うことが可能であったとしても、克服し得ない現実上の障害が存在します」
「おお、そうかね? 例えば?」ソースが肉鍋に触れた瞬間、じゅわっと溢れ返りながら音を立てた。マイケルマスは器用に数回フォークを操って、ちょうどおいしくなるようにフィレ肉に味付けをし、ようやくディナーを準備した温かい皿の上に乗せ、ダイニング用に空けた場所へと運んだ。籠の中のワインをグラスに一杯注ぎ、食事をするために座った。
「一つ」ドミノが言った。「彼は、通信革命以来、多くの世界の知性がそうであるように、無愛想な聖人というべきキャラクターを育んでいること。彼が自分の思考を高めるプロセスや作業手段に対する妨害を嫌えば嫌うほど、彼が今やっていることをニュースメディアは余計に知ろう知ろうとする。情報入手の基本手段の一つは、彼に送られる荷物の品目が何に使われるかを注意深く説明づけることです。サイエンスニュースサービスが彼のプラスミドに対する関心を推論したのも、彼がオレファージを買いつけたのを知ったからだったことを思いだしてください。その直接の結果として、一部の先見の明のある投資家が適切な製品の製造を選択し、リンバーグが先の受賞に至る研究発表をした際にはひと儲けしました。当然ながらそれ以来、彼の買うもの、捨てるものに関し、推理のために、多くの目録が作られています。彼の公開研究は、その目録上の品目の必要性の全てを説明しています」
「その目録の一つは君が作ったんだろ」マイケルマスはフォークを使いながら笑い声を上げた。「続けてくれ」
「二つ」
***
二つ目が天才の心理としてそのような重要研究を隠すことに耐えられるとは思えない。
マイケルマスの推論は、リンバーグもまたかえ玉である、そして人を作る技術、天才リンバーグのかえ玉を作りうる技術と設備を持つ社会は地球上いや人類が知る限り存在しない。&&太陽系外の存在ではないかと示唆していた。
マイケルマスは最も金がよく制約の少ない相手先と契約するように言い、パパシュヴィリの動向についてきく。彼は宇宙航空委員会で寝ているようだ。パスルパターンは本人のものと確認された。どこに偽者がいるか分からないのだ、マイケルマスは慎重にならざるを得ない。


マイケルマスはビルを降りてタクシーに乗った。
***
空港についた。タクシーの運転手も空港の係員もマイケルマスに気づき、「ノーウッドの件が本当かを調べに行くんですね? 頑張ってください、番組は見ますよ」と言ってくれた。マイケルマスは飛行機に乗り、ラウンジに座った。そこへ別の二つの放送局のうちの一つと契約したと思われるメルヴィン・ワトソンが、ダグラス・カンピオンという若者を連れて乗りこみ、話しかけてきた。彼らはノーウッドの件について情報交換をする。
***
ウィル・ゲイトリーは米国宇宙国防省副秘書官だった。もと宇宙飛行士。常に自己の感情に従って政治行動をする。彼は政府が暗黙に無能な者に割り当てる類の仕事に完璧に相応しい男だった。「この未確認の報告に対する大衆の喝采は時期尚早かもしれない。明日には失望の冷光によって水をさされるかも。だが今夜は少なくとも米国は有頂天のまま眠りにつくだろう。今夜、米国は初心に返るのだ」
ワトスンの腹が震えた。「そして、明日、ロシアが国連宇宙条約の非国有化条項の存在を世界に訴える。ああ、ケロセネ・ウィリーが宇宙開発競争を再燃させるとおれは信じるね」
マイケルマスは、ゲイトリーの失策にもかかわらず、パパシュヴィリー少佐がすぐに昇進するチャンスをふいにすることはなかった、とでもいうように微笑んだ。とりわけ今、ソ連が自国の男であるノーウッドを同じぐらい目立たせることで世界の耳目を集める危険を犯すとは考えがたい。そんなことをすれば、ゲイトリーとソ連の勢力均衡による平和を希求する熱烈で紳士的な協調が、かの妖精のような小男のジョージア人を更なる確実な窮地に陥れるかも知れまい。
カンピオンは、沈黙の後驚いたようにいった。「あの名医は、自分の見せ場を最高にうまく活用する方法を知っているに違いありません」マイケルマスは彼にうなずいた。カンピオンは正しかった。だが、リンバーグに会ったことのない男の割には、少し知ったかぶりをしすぎるきらいもあった。「九月二九日地方時間の午前三時三〇分、つまり彼がロイターの記者を寝床から引きずり出した時間は」カンピオンは要点を指摘した。「ちょうど古きよきタイプのアメリカ人が腹を減らす時間ですからね」九月二八日午後一〇時のニュースを指している。
カンピオンは、リンバーグがゲイトリー・タイプの人間に直接働きかけるべく行動していることを理解している、とマイケルマスはふと思った。だが、ワトスンはカンピオン自身が困惑した様子なのに気をとられ、その点を見落としていた。
「私が考えているのは」カンピオンの最後の相づちの直前にワトスンがいった。「我々はちょうど地方時間午前七時三〇分に着くだろうということだ。リンバーグはまだUNACの連中やノーウッドと共に療養所にいて、会話も弾んでいるだろう。それでも君は、その後あの老人が仮眠もとらないと思うかね? 私は思わない。地方時間の正午頃には、あの狡猾なやからに我々が話をするチャンスがあると思うよ、それは私がいつも寝る時間の六時間後だ。一方でヨーロッパの全メディアが事件の色彩や背景を求めて、ここやら墜落現場やらを探し回っている。要するに、我々は現地に降りたとたんに、自分の脚で狂ったように全力疾走し、自分がどこまで奥深く隠れたかを確認しなきゃならんよ」
「ヨーロッパの連中は、まだ現地に誰も派遣していないのか?」ワトソンのノートパソコンのネットワークのコピー画面にうなずきながら、マイケルマスは穏やかに尋ねた。カンピオンが微笑しながら少し上体を起こした。
「もちろんだよ」ワトスンが請け合った。「だが、特派員がどういうものかは知っているだろう。連中は山の写真のポストカードのどの辺りにカプセルがあるか、