SF百科図鑑

ロイス・マクマスター・ビジョルド『バラヤー内乱』創元

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2001年

4/2

さて「バラヤー内乱」です。
ビジョルドは通俗的な作風だけど、ユーモアがある分チェリイよりは堪えられます。
この作品は2つめの長編賞受賞作で、処女長編「名誉のかけら」の続編にあたり、マイルズが生まれる前後の話です。この作品をより楽しむためには「名誉のかけら」を先に読んだほうがよいとのことですが、もともとこの作品を「楽しむために」読もうという気はさらさらなく、単に受賞作だから仕方なく読むに過ぎないので、「より楽し」く読めなくていっこうに困りませんし、時間が勿体ないので、「名誉のかけら」は読まずにいきなりこの作品からで平気でしょう。
ちなみに「名誉のかけら」のあらすじは、巻末年譜によると、「ネイスミスが交戦中の惑星のアラール・ヴォルコシガン卿に出会う。困難を乗り越えて、ふたりは愛しあい結婚する。」いやぁ~、くだらなそうですねぇ~。この粗筋を読んだだけで内容が想像でき、もう読む必要はなさそうです(笑)。
ビジョルドはたぶん、チェリイほどには読むのが苦痛ではないとは思いますが、しかし、読むことの空しさを味わわせてくれるという点ではきっといい勝負でしょう(笑)。

4/3
「バラヤー」予想外に面白いです。
最初70ページは、とてもSFとは思えない古臭く大時代な舞台/人物設定(特にキャラクターが軍人、摂政などおよそ未来の異星を舞台にしているとは思えない人たちばかり)であることに加え、前作(名誉のかけら)のネタへの言及が出てくることも相まって、かなり苦痛でしたが、ビジョルドの曲者なところは、何もそこまでといいたくなるぐらい、ほとんど確信犯的に、このような中世ロマンス風な型にはまった人物(貴族、王族とか、古い組織の軍隊とか)と舞台設定(農村)を選びながら、その独特のストーリー展開とユーモラスな人物描写でいつの間にか読ませてしまうところにあります。
もちろん、これはSFとしての面白さというよりも、小説としての面白さで読ませるということであり、したがってSFである必然性は全くないので、「SFとして面白いのかどうか」ときかれれれば迷わず否と答えざるを得ないのですが、かといって一概に逸すべからざる独特の位置を占める作品であることは認めざるを得ません。なお、全くSFとしての面白さがないわけではなく、例えば遺伝子技術や、惑星の文明描写等にSF的思弁の要素は若干あります(これすらなければ、もはやSFには分類できないでしょう)が、いかんせん薄味でこれだけでは物足りないのは間違いなく、したがって、やはり小説としての面白さが主を占めるといって差し支えないでしょう。
その「小説としての面白さ」をより子細に分析するならば、その大部分はキャラクター描写の面白さに負うところが大きいといえるでしょう。キャラクター中心の小説は、そのキャラクターに好意的にせよ否定的にせよ、強い興味を覚えられるかどうかで印象が左右されます。この作者のシリーズでは、特に「マイルズヴォルコシガン」のキャラクター描写が強烈です。このマイルズが好きになれるかどうかで、評価が左右されるといえましょう。私個人としては、最初は「ん? ん?」という感じでしたが(特に「跡取り息子」というところが気に入らない)、身体的ハンディを知恵で克服するという、「無限の境界」収録3編がどれも面白く、またこの3編は意外にSF味の強い作品であったことも相まってかなり面白く読め、そういう意味で、いちおう合格といえます。しかし、マイルズが好きになれないと、このシリーズを読むのは地獄でしょう。
ところでこの「バラヤー」はマイルズが登場せず、マイルズに比べると今いち印象が希薄っぽいマイルズの父母の話なので、キャラクターの吸引力の点で読む前は相当不安があり、実際、最初60ページぐらいは淡々と描写が続き事件らしい事件も起こらず辟易しました。ところが、ヴォルコシガンが部下とレスリングの試合をする場面(ここがむちゃくちゃおかしい)から突如、化けたように面白くなり、その後すかさず暗殺未遂事件、とストーリーが動き始めました。こんなことなら「名誉のかけら」、先に読んでおいたほうがよかったと思っています(まだ遅くはない)。ビジョルドの強みはユーモアです。人物描写に親しみ易い温かみのある笑いがあり、これが大きな魅力となっているのです。このへんがチェリイとの違いで、SF設定やアイデアは救いようもないほど陳腐であるという点では共通するものの、同じプロット、ストーリー中心でも、よくいえばたるみがないが、悪くいうとゆとり(笑い)のないチェリイが次第に人気を失い、代わってビジョルドが浮上した理由もこのへんにありそうです。
SFとしては、何度もいうようですが、邪道だと思います、この手の作品は。しかし、SFの裾野を広げる「境界作品」としてそれなりの注目はせざるを得ず、無視することはできません。そして、この手の作品は、とにかくキャラクターに同一化し、ストーリーに浸り切るのが楽しむこつというか必要条件ですので、無理にでものめり込むような読み方をしないとだめでしょう。というわけで、当分はまらざるを得ませんね、好むと好まざるとにかかわらず。

4/4
「バラヤー」少し進みました。

「名誉のかけら」「上海ベイビー」「スパイダ-ワールド」購入です。デスティニーズチャイルドの「ライティングオンザウォール」も買いました。
いちばん期待できるのはもち、スパイダーですが、「上海」を少し読みました。中国の山田詠美といったイメージの作家で、「中国の作家」のイメージとあわないところがこの作家の売り。書いたのが日本人だったらとても買う気にならなかったでしょうが、中国人が書いた作品で舞台が上海で主要人物が中国人、というのが強みですね。ただこの作品は出世作ではありますが、まだ文体、スタイルに内容が伴っていない感があります。今後、内容が伴ってくれば凄い作品を書く期待が持てますが・・・一発屋で終わっても不思議ではありません。
デスティニーズはこれだけ売れているといちおう買っとこうと思って。ただ、彼女らがあか抜けているというより他の連中が勝手にこけているから浮上しているだけという感もします。このアルバムは2枚目で大ヒットが4曲も入っていますが、それよりむしろ後半のバラードのほうがいいですね。しかし、まだ17、8なんだって、それにしちゃああのメインボーカル、老け顔だよなぁ。もうすぐ3rdが出ますが、チャーリーズエンジェルの歌、入るのかなあ。

最近(略)週1、2のペースになってます。今日も(略)美味しかった。

4/7
「バラヤー」今いちだなぁ。
無駄に長いですよねぇ。だらだらとクーデターと逃避行の話が続き、ちっとも面白くありません。何もこんな話をSFで読まされなくても、という気がします。こういう話が好きな人は、もともとSFとはあまり関係がない気が・・・。好きな人にはたまんないんでしょうけどね。メインプロットは単なる歴史ロマンスで、SFである必然性が全くありません。
そりゃあ私も、SFにもいきいきした人間ドラマがあればそれに越したことはないと思います。例えば初期イーガンのようにアイデアはあるが人間描写がダメというのもちょっとねえというふうには思います。しかし、人間ドラマもあくまでも肉付け、プラスアルファとしての要素なのであって、人間ドラマだけでSFアイデアや思弁が薄味になってしまったような小説が、もはやSFと呼べるのでしょうか? ビジョルドのこの小説はまさにその悪しき典型です。本末転倒と言えるのではないでしょうか? SFアイデアと言えるのはせいぜい「人工子宮」ぐらい。あとは他のシリーズ作品で出てきたガジェットの使い回し。この作品プロパーのアイデアは皆無。どこを楽しめというの。もううんざり!
もちろんそういう小説があっていいとは思いますよ。しかしそれはもはやSFとしての傑作にはなり得ないでしょう。少なくとも私のいちばん苦手なタイプの小説です。SFではなく、歴史ロマンとか冒険小説とかを名乗っていただきたい。
これが現代「SF」の代表作で、ぼこぼこヒューゴー賞をとるほどにすぐれた「SF」だというのなら、SFもずいぶんつまらなくなったもんだなぁ、と嘆かざるを得ません。ここまで古臭く時代遅れになってしまっている以上、売れなくて当たり前ではないでしょうか?
今日(略)、喫茶店で我慢して350ページまで読んだのですが、あまりに面白くなくて途中何度も眠りそうになりました。電車でも(略)で読んだんだけど、隣の人が読んでいるミステリや実用書のほうが面白そうで(笑)、何度も挫折しそうになりました。
これだけ退屈なのに550ページ近い厚さで、まだ200ページ近く残っており、まさに地獄です。
途中、面白くなりかけたんだけどなぁ。プロットにメリハリがないというのが、何といっても最悪。まだまだ地獄は続く。

しかし、このチェリイとかビジョルドとかを読んでいると、「天は二物を与えず」とはよくいったもんだねえと実感します。アイデアや思弁能力と人物造型やストーリーテリングを両立させている作家がいかに少ないことか。片方があると大体もう片方がだめなんですよね。だから私にとって、ディックとかシルヴァーバーグとか、プリーストといったところは貴重な存在。

4/8
「バラヤー」残り100ページにして今日中の読破を諦める。夕べ読むつもりだったのにつまらなくて途中で寝てしまったから。代わりにシルヴァーバーグの「兵士入力」を読んでいますが、段違いに面白いです。これに比べたらビジョルドはゴミですね。

と思ったらバラヤー、終盤急に面白くなりました。マイルズ人工子宮奪還作戦のところは完璧! 最初からそうしてよといいたいぐらいです。
これで今日読み終わりそうです。

テイエムオーシャンは強かった。最後ほとんど追っていませんでしたしね、追っていれば33秒台出ていたのではないでしょうか?

さて、次は90年代の未読受賞作です。
<長編>
91
ヴォル・ゲーム(ビジョルド)
92
バラヤ-内乱(ビジョルド) 
93
ドゥームズデイ・ブック(ウィリス) 
94
グリーン・マーズ(ロビンスン) 原
95
ミラー・ダンス(ビジョルド)原
96
ダイヤモンド・エイジ(スティーヴンスン)原/近刊 
97
ブルー・マーズ(ロビンスン) 原 
99
犬については言うまでもなく(ウィリス)原 
2000  
遠き宇宙の深遠(ヴァーナー・ヴィンジ)原 

<中短編>
90
兵士がひとり、また、ひとり(シルヴァーバーグ)原/ドゾア年刊
91
ヘミングウェイごっこ(ホールドマン) 長編化翻訳
熊が火を発見する(ビッスン)SFマガジン 
93 
宇宙船乗りフジツボのビル(シェパード)SFマガジン
94
底地にて(タートルダヴ)原/ヒューゴー
わが心のジョージア(シェフィールド) SFマガジン
ナイルに死す(ウィリス)原/ヒューゴー
95 
オルドワイ峡谷七景(レズニック)原/ネビュラ
火星の子(ジェロルド)原/ネビュラ
愛は盲目(ホールドマン)SFマガジン
96 
キャプテン・フューチャーの死(スティール)SFマガジン
リンカーン列車(マクヒュー)原/ドゾア年刊
97
★龍の血(マーティン)
自転車修理人(スターリング)タクラマカン
★魂がわが社会を選ぶ(ウィリス)原/Eブック
98
ヒンデンブルグ号、炎上せず(スティール)SFマガジン
さあ、魚を飲もう(ジョンソン)原/ドゾア年刊
アンタレスの43王朝(レズニック)SFマガジン
99 
祈りの海(イーガン)祈りの海
タクラマカン(スターリング)タクラマカン
機械の鼓動(スワンウィック)原/Eブック
2000  
大理石弓の風(ウィリス) 原/Eブック
10の16乗から1まで(ケリ-)SFマガジン
ティラノサウルスのスケルツォ(スワンウィック)原/Eブック

今後の予定です。
<長編>
バラヤ-内乱(ビジョルド)
?ヴォル・ゲーム(ビジョルド)
(?わが親愛なるクローン/戦士志願/名誉のかけら)
?*レッド・マーズ(ロビンスン)
?*ドゥームズデイ・ブック(ウィリス)
?月は無慈悲な夜の女王(ハインライン)
(?スノウ・クラッシュ)
?【以下未訳】
?ミラー・ダンス(ビジョルド)
?グリーン・マーズ(ロビンスン)
?ブルー・マーズ(ロビンスン)
?*ダイヤモンド・エイジ(スティーヴンスン)
?犬については言うまでもなく(ウィリス)
?遠き宇宙の深遠(ヴァーナー・ヴィンジ)
*ただし、翻訳が出たら繰り上げる。 

<中短編>
ドゾア7(兵士がひとり、また、ひとり(シルヴァーバーグ))
?ヘミングウェイごっこ(ホールドマン)
?祈りの海(イーガン、祈りの海)
?*タクラマカン(スターリング、タクラマカン/自転車修理人)
?ゴールド(アシモフ、ゴールド)
?ニューヒューゴーウィナース(*底地にて(タートルダヴ)ナイルに死す(ウィリス))
?ネビュラ30(オルドワイ峡谷七景(レズニック)*火星の子(ジェロルド))
?ドゾア(*リンカーン列車(マキュー))
?ドゾア(*さあ、魚を飲もう(ジョンソン))
?SFマガジン(*熊が火を発見する(ビッスン)宇宙船乗りフジツボのビル(シェパード)*わが心のジョージア(シェフィールド)愛は盲目(ホールドマン)*キャプテン・フューチャーの死(スティール)*ヒンデンブルグ号、炎上せず(スティール)アンタレスの43王朝(レズニック)10の16乗から1まで(ケリ-))
?Eブック(魂がわが社会を選ぶ(ウィリス)機械の鼓動(スワンウィック)大理石弓の風(ウィリス)ティラノサウルスのスケルツォ(スワンウィック))
?★龍の血(マーティン*探す)

ビジョルド「バラヤー内乱」★★★1/2
後半少し盛りかえしましたが、しょせん娯楽冒険SF。物足りません。だからなんなの?という感じです。最後のマイルズ少年時代のエピソードもいかにもという感じであざとい。正直いってこの後「ヴォル・ゲーム」にするとたぶんSFを読むこと自体に嫌気がさしてしまいそうなので、やめます。とにかく、疲れました。娯楽小説を読むのって体力いる。時間もかかるし。読み飛ばせないからなあ。
ひと休みということで、スターリングの「タクラマカン」を読むことにします。
今週は(略)などがあり結構きついので、週の後半から加速します。前半は仕事に労力を注ぎます、できるだけ(でもそういうときに限って現実逃避で読書量が増えるんだよなあ)。

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