SF百科図鑑 ハリイ・ハリスン『人間がいっぱい』ハヤカワ


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2001年

3/14
何てこったい! 講談社ノベルズの新刊4冊中3冊までが買わずにいられないものじゃありませんか。最近ミステリの方で買うに足るものがないので油断していたら、まとめて出すなんて(3冊中1冊はSFですけど)。東海洋士「刻Y卵」舞城王太郎「煙か土か食い物」コリン・ウィルソン「スパイダ-ワールド」。ウィルスンは1600円もするのでとりあえず日本人2冊を買いました。
東海は竹本健治と同期同級生作家で竹本が帯と解説を書いておりメタフィクションっぽいので即買い。でたらめに中を開いてみたところ天草四郎が出てきたり超好みそう。舞城はメフィスト賞作家らしいが文体がいいので即買い。ウィルスンも買いたかったのだが金が足りなかった。3月は早川、創元にSFの新刊がないと思っていたらまさか講談社から出るとは思わず驚いた。しかしウィルスンだから早川はまず出さないよな。プロパーファンからは際物視されているし。しかし25世紀を舞台にした思想小説という紹介文を読んだだけでもまさにspeculative fiction!という感じで食指が動く。おれが書きたいと思っているタイプの小説じゃないか! 少なくともハインラインなんかよりは全然面白いはず。

というわけで浮気の虫が動きますけど、スペキュレイティヴという意味ではひけをとらないブラナ-を引き続き読んでいきたいと思います(それとハリスン「人間がいっぱい」)。

「人間がいっぱい」は50ページまでいきました。今のところ事件らしい事件は起こっておらず、要するに人口過密で街全体がゲットーみたいになったニューヨークの描写が蜿蜒続きます。今の段階では面白いのか面白くないのかよくわかりません。

「衝撃波を乗り切れ」は40ページまでいき、さっそくストーリーが動き始めました。個人データがコンピュータで管理されている社会で政府の極秘スパイか何かだった男が唯一秘密を知る上司が死んで以後誰にも正体を知られず自由に自分の個人データを書き換える資格を保持し、次々と個人データを書き換えて複数のペルソナを使い分けていく話で、まさにサイバーパンク的な題材です。この男が機械に繋がれ精神分析されるところから始まり、男の意識の中の場面と外の場面が交互に目まぐるしく展開していきます。全体の構成は明らかに「ザンジバル」で開花したスタイルを熟成させたといえるものです。外の話はまだよくわからないので(誰かに捕まったということは想像がつきますが何者かの説明はなし、「ターンオーバー」という組織のようですが)、意識の中の話に焦点をあわせると、この男、ドーム状の教会を経営し信者のお布施のクーポンで生計を立てていましたが、ある日懺悔スクリーンに映った血まみれの少女、その少女を追ってきた男に会い、男が少女のトラウマ治療のため少女に母親を殺してしまったと思い込ませるような仕掛けをしてショック療法でトラウマを治そうとしているという告白を聞き怒り狂います。そして少女を救うため、神父のペルソナデータを破壊しサンディ・ロックというジゴロのペルソナに変身します。そして、少女の母親に接触しこの母親を誘惑して体の関係を作り少女の住む街(カンサスシティ)に行きます。ここまでで40ページ。この男が少女を救うのか「アンチトラウマ」会社に復讐をするのか。この主人公のキャラがいかにもサイバーパンク的で「先駆」といわれるのもわかります。この先、男の復讐?の話自体も面白そうですが心理分析にも筆を割く傾向のあるブラナーですから、男がなぜ「アンチトラウマ」療法にそこまで過敏に反応したのかの謎解きにもある程度の労力が注がれるのではないかと予想されこの点も楽しみです。
では、さっそく読書に移りたいと思います。今日のノルマは「人間がいっぱい」100ページまでと、「衝撃波」第1の書(87ページまで)。「衝撃波」はこのペースなら3日でつまり金曜に読了予定、「人間がいっぱい」は6日で読み終わる。日本語の本より英語のほうが内容が頭に入り易いというのは皮肉なものだ。これはまあブラナーの文体がそれだけいいせいでしょう。ハリスンのは地味だからなあ、まして日本語で読むとますますひっかかるものがなくなって頭に残らない。

以下は「衝撃波」41ページ「きみは縁取られている」の冒頭です。これは、サンディに変身した主人公がカンサスでアパートに来る場面です。

そこは全くの短期滞在型住居であったがホテルのスイートとはいささか違っていた。粋な個人用アパート風の設備が彼には好ましかった。出し入れ可能な織物張りの壁で部屋を好みに従って6区画に分けることができるようになっていたのだ。彼が着いたときの部屋の装飾は普通に設定されていた。つまりベージュと水色と白である。彼はさっそくドア脇のスイッチを使って豊かな深緑と黄褐色とオールドゴールドに変えた。それは透明なパネルの向こうの光の色によって調節されるのだ。立体テレビや極性切替式衣類クリーナーやバスタブに設置された流電装置はチェーン店のホテルのものではなくもっと高価な一般家庭用のものであった。恐らくいちばん重要なのはカーテンを開けるのみならず窓の開け閉めができる点だろう。今時のホテルでは開け閉めのできる窓にはお目にかかれない。
好奇心から彼は窓を開け自分が木々の上からすぐれた防音壁のゆえにいままで聞こえずにすんでいた咆哮する雑音の源に向かって頭を覗かせているのに気づいた。
一体、世界に何が--?
一瞬後皮肉に矛盾した考えが浮かんだ。
一体この世界から何が--?
マグネシウムの燃焼のごとくまばゆい光が樹上の視界に昇り咆哮に爆発の衝撃が加わった。

というわけで針型の一人乗り軌道船を見た彼は思わず窓を閉めます。彼は「地面から宇宙へ」(G2S)会社(少女の母の勤め先)にコンピュータ技師として招かれてここに来ています。この宇宙船は会社の売り物というわけです。男はすぐ外で音を立てているのが会社の売っている宇宙船だとわかり「この世界から何が」と頭の中で言い直したわけです。

こういう調子で未来社会の風景や設備の描写の一つ一つが楽しく、飽きさせないのがこの作品の特徴です。

3/17
ハリスン「人間がいっぱい」★★★★
非常に地味ながら、手堅く、人口増加と資源の枯渇、環境汚染によりゲットー化したニューヨークの生活を普通小説的筆致で描いた作品です。描写がリアルで飛躍した設定が全くないので、SFっぽくありません。ディックの「高い城の男」もSF性がほとんど感じられない作品でしたが、この作品も負けていない。しかも、ストーリーも非常に地味。ストーリーの焦点は刑事と殺人犯の中国人青年の追いかけっこで、完全に警察/犯罪小説?のネタなのですがミステリやハードボイルドのように謎解きやアクションやサスペンスがあるわけでもありません。むしろ作者の関心はこの軸となるストーリーをめぐる人々の生活と思考を、じめじめ、ねちねちと描写しながら少しずつ終末に向かっていく暗黒都市の姿をできるだけ生々しく描き出すことにあったようです。個人的には突飛な飛躍や波乱万丈のストーリーや斬新な構成の「ザンジバル」のようなはったりのきいた作品のほうが好きなので、この作品のような地味なものについてはどうしても点が辛くなってしまいます。しかし、「第2部」のソル老人とシャールの政治話のあたりに作者の表現したい内容が凝縮されており、このあたりだけは非常に面白く読めました。300ページぐらいの作品だけど1週間もかかってしまいました。

「時の仮面」「時の凱歌」「太陽からの風」を(略)で買いました。

「衝撃波」体調が悪いせいかその後進み具合がよくありません。まだ第1の書すら読み終わっていない。ハフリンガーの生い立ち、いかにしてペルソナを取り替えるようになったかの経過を少しずつ明らかにしながら中の話と外の話(昔の話と今の話)が平行して進んでゆきます。未来予測、シミュレーションのための都市や施設、政策などのアイデアは非常にユニークでさすがブラナ-。ハフリンガーが取り替える「ペルソナ」もビデオ講師やら牧師やらユートピア設計コンサルタントやら変なのがいっぱい。ターンオーバーという研究施設のイメージが、いまいちはっきりしないのですが。しかし、いかにもスペキュレイティヴフィクションという感じで、さすが社会派ニューウェーヴの第一人者だけありますね。

さて、翻訳本は、「内死」にも食指が動くのですがウィリス「我が愛しき娘たちよ」にします。