SF百科図鑑 C・J・チェリイ『サイティーン 1-4』ハヤカワ


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2001年

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続いて、いちばんの難物(主として長さにおいて)である「サイティーン」に入る。
さて、既に100ページ読んだが、要するにクローンをテーマにした政治経済SFである。クローンものは女性作家の好むテーマ(ウィルヘルム「鳥の歌いまは絶え」ビジョルド「ヴォルコシガン」ものなど)だが、この作品の凄いところは世界の隅々まで綿密に構築し詳細に説明を施すところにある。女性作家はどちらかというと細部の綿密な構築や説明を省き情緒的なものを前面に出すタイプが多いイメージがあるが、この作家の場合は全く逆であり、しかも、その視点が極めて常識的で中庸的であるところに個性がある。そういった常識的なところがSF論壇の評価の高くない理由なのかも知れないが、個人的には結構嫌いではない。確かに突飛な発想の過激な作品も好きだが、冷静で常識的な発想を中核に持った綿密な世界構築をSFの舞台設定で行うものは意外に少なく、かえって貴重な存在である。もともと政治、経済といった社会科学系の思考力がSF作家は弱い場合が多く、特に文系のファンにとっては物足りなさを感じることが多いだけに、個人的にはなかなか読みごたえがある。全4巻、たっぷり堪能させてもらいたい。

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第2巻に入り、ようやく面白くなって来た、「サイティーン」。説明文とストーリーを交互に差し挟むスタイルはカードの「死者の代弁者」のもので、多視点的スタイルも影響を受けていると思われる。エイジイと公民の間に交わされるアイデンティティや政治システムに関する議論は、この世界の基本概念に関する予備理解の乏しい状態では難解に感じられるが、2巻に入って用語や多様な登場人物に慣れてくると何とかついていけるようになる。ここまでやる必要があるのというぐらいにプロットや人物関係が複雑で、それゆえに全4巻という長大なものになっている。アリのエイジイが学校で訓練を受ける場面は、カード「エンダーのゲーム」によく似ており、この作者がカードを意識していることは明らかだ。今のところ書き込みが綿密すぎてストーリーのうねりが素直に楽しめない感じがするが、後半に入ればさすがにもっと動きがあるだろう。もともと短編の名作「カッサンドラ」があるように、切れ味のある作家なので、このままで終わるはずはない。
スターリング「タクラマカン」、アンソロジー「死のドライヴ」、みづえのタンギー特集号、ラヴサイケデリコとジンブロッサムズのCD購入。まずいよ、80年代で難航して、90年代に入れない。サイティーン以外にも「ファウンデーション」という難物が控えており(サイティーンよりは読み易いと思うが)、あと、「ダウンビロウステーション」と「雪の女王」もサイティーンほどではないがそれでも上下に分かれ短くはない。他に、中短編も未訳が多数で、未入手分もあるし、中編受賞なのに長篇化されしかも未訳の「巡礼者の道」もある。70年代は上下に分かれているものすら1冊もなかったのに。80年代を冊数にすると、23冊もある(笑)。そのうち9冊はサイティーンとファウンデーションなのだが。
ヒューゴー制覇計画、60年代のハインラインとブラナーもまだだし、80年代がこのままでは大幅にずれ込んでしまう。これではいかん。いつまでたってもネビュラや英国協会賞、非受賞作の名作や、シリーズものの他の作品にも入れないし、ましてやノンSFの読みたい本や、ためていたやりたいゲームにも入れない。頑張って今月中に大部分を読み終え、遅くとも来月前半ぐらいには全巻読破に持ち込み90年代に入らなければ。もうSFM三月号が出てしまう。三月号ができるまでに読破するのは無理だが、せめて三月号がリアルタイムであるうちに90年代に入らないと。
サイティーンが終わったら、ギルガメシュを終わらせるつもりである。

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「サイティーン」面白い! 実に重厚で思慮深い物語だ。アリの成長過程を描く2巻はほとんど「エンダーのゲーム」を思わせるが、筆致は落ち着いて冷静であり、「死者の代弁者」あたりに近い。先代アリの理論への言及場面は難解であり、読者に積極的な読み込みを要求する。社会構築も綿密でリアリティに溢れ、アリの法廷での証言場面も説得力がある。さて、第2巻終わりでいよいよアリの素性がマスコミ公表され、政治劇が再び始動する。アリに先代アリのアパートが開放され、先代アリがプログラムした教育プログラムとのアクセスが始まる。このコンピュータの取扱いも80年代的だ。第2巻を読み終え、いよいよ第3巻に入ったところ。この面白さなら、3巻はすぐ読み終え、4巻に入れるのではないだろうか。チェリイ、さすがの力量である。「ダウンビロウ」も楽しみだし、「ケスリス」「ションジル」「クタス」3部作や「シャヌア」シリーズなどにも食指が動く。また、あの「カッサンドラ」以外の短編にも興味が湧くところだ。そういえば、「地獄の反逆者」にも短編が入っていた。

1/22
「サイティーン」3読み進む。面白くなって来たなり。
(略)でアシモフ誌探すもなし。無駄足だった。

1/26
くっそー、あの馬鹿(略)。間違いなく、今まで見た中で「顔も見たくない」最低馬鹿(略)の殿堂に入る。
不愉快なので本を読んでも頭に入らん! どうしてくれる、(略)ちくしょ~う。

というわけで、「サイティーン」、かわいそうに、かなりの傑作なのにあの馬鹿のおかげで肝心の第4巻に入ってまじめに読めなくなってしまった。ほんっっっっとに頭に来る。
寝るか!
馬鹿といえば、あの(略)、けっ! しゃらくせえ! ほんっとに最ッ低だぜ。

あの(略)虐めたくてしょうがないな。(略)ほんとは銭湯に入っているすきを見て服を捨て、裸で泣きそうになっているのを陰から見てせせら笑ってやりたいぐらいの気持ちだけど。ああいうせこいやつがいちばん嫌いなんだよな、(略)。

おれは一度切れたらしつっこいんだからな、知らんぞどうなっても。
人に馬鹿にされたら10年は覚えてるからな。

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「サイティーン」4巻に入って、おじのデニーズじゃない方が(名前覚えられない)死ぬあたりからストーリーがわからなくなってきて、2日で10ページしか進んでいない。下手をすると最初から(第1巻から)読み直さないといけなくなるかも。
間に仕事が入って注意力が殺がれたせいが大きいが、それでもわずか10数ページ気を殺がれただけでストーリーが分からなくなるということは作品自体(との相性)にも問題があるのではないか。確かに内容がやや難しめ(文体は平易なのだが、詳細に描かれている作品世界の舞台設定やアリの理論を前提とした思索自体が難しい)なせいもあるが、どうも女性の書いた作品というのは、特に割と作者の思想がストレートに反映された作品の場合、漠然とした居心地の悪さを感じさせる。何となく女尊男卑の匂いがするせいだろうか。あるいは、男に対する性的視線が感じられるせいだろうか。この作品などは特にセックスの描写があからさまで一つのテーマになってすらいるので、なおのことである。
もう一人の叔父が死んだ後の大騒ぎが蜿蜒と綴られるが、何がそんなに大問題なのかさっぱり解せない。ジャスティンとアリの性的葛藤は興味深いテーマだったのに、消化不良のまま解決済みにされてしまっている(このあたりはさすがに女性作者の限界を感じさせる。男性心理への理解の浅さはいかんともし難い。まあ、男性作家にも女性の心理は、もっとわかってないんだけどね)。
今のところの印象だが、この作品の最大の欠点は、長過ぎるということだ。この作品のモチーフやテーマを描くには1、2冊程度の長さで十分で、4冊を冗長にならずにもちこたえさせるには相当のストーリーの抑揚かまたは思弁の凄みが必要であるが、この作品は、緻密な世界構築に長所があるもののその世界構築はあまりにも常識的すぎて「思弁の凄み」までには至っておらず、またストーリーも、世界構築の緻密さを保つためにあえて「アリの成長するまでに経験すること」をひたすらミクロな視点で詳述することに費やされるため、最終巻に入ってもストーリーはほとんど進んでいない。違うのは叔父が死んだことぐらいであり、2巻から4巻半分ぐらいまでの間で最大の事件が、叔父が死んだことなのである(笑)。その非常識なまでの「ストーリー蔑視、世界構築命!」の姿勢が、逆にアヴァンギャルドといえるかも。さて、残り200ページでどうなるか、ここで勝負が決まると思う。世界構築の緻密さと確かさで★★★★以上は確定しているが、1/2足すかどうかはここの面白さ次第。

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チェリイ「サイティーン」★★★★
結局、何だかなぁな終わり方。わけのわからないうちにデニーズ叔父を倒して政権をとって終わり。大風呂敷を広げながらただそれだけ? というのは解せない。「サイティーンという惑星を、文明の進展を覗き見るための窓として使いたかった」というのが作者の弁だが、意図はともかくここに書かれているのは「文明の進展」というより現実にある政治そのもので、クローニングや「若返り術」が家族やモラルのあり方、生命観にまで影響を与えているはずであるにも関わらず、それが政治に及ぼす影響については何らの外挿もなされていない。「偉大なる失敗作」というべきか、あるいは作者が目指していたものが小さかったのか。2、3巻あたりが割と面白く、先に期待を持たせられただけにこれはあんまりだ、という気がする。
テーマ的にこぢんまりまとまって、「これじゃあSFでなくても同じ」という結果になってしまったので、せめてストーリーぐらい面白くしてほしかったが、何しろ主演女優アリが浅薄で魅力に乏しく共感しにくいキャラである上に(意図的にそうしていると思われるが)、ストーリーが単線的で抑揚が少なく(これも意図的にやっている疑いがある)、端的にいってあまり面白くない。
結局、「執拗なまでに綿密な世界構築」以外にこの作品の長所はなくなってしまった。それだけで★4つを辛うじてキープしたというところ。しかし、これもチェリイの確信犯的に意図したところかも知れない。ともかく、読む方は疲れた。

結果次第では「ダウンビロウ」に即入ろうと思っていただけに、これでは連続チェリィはつらい。結局途中まで読んでいた「雪の女王」に入った。これがまた、ストーリーがだらだらと進まないんだよね、しかも女のキャラが多く視点も女性的なので、素直に共感できない読みにくさもあるし。良薬口に苦しというが、この作品の場合は、苦労して読んだから良い本とはいえそうに思えない。舞台設定とかは叙情的だからむしろファンタジー色を強めればいいものを、社会構築をそれなりにしてリアリティを出そうとしており、中途半端の印象は否めないし。
ああっ、早く80年代を終わらせたい! 60年代、70年代は読んでて楽しかったのに、80年代は一部を除き、読むのが重荷に感じられる作品がおおい。特に女性作家の作品はつらい。地獄だ。
とりあえずチェリイとかヴィンジとかは、賞でも取っていない限りまず読む気にならなかっただろうし、賞を取っていない作品は、今後も読むつもりはない。正直いって80年代の長篇賞受賞作家で全作品読もうという気になる作家はいないなぁ。60、70年代は結構いたのに、寂しい限り。強いていえばカードぐらいだが、カードもエンダー以外はあまり食指が動かない。