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オースン・スコット・カード『エンダーのゲーム』ハヤカワ文庫SF

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2000年

12/11
カード「エンダーのゲーム」に入る。素材はハインラインやホールドマンのネタと同じで兵士の訓練の話だが、イギリスSF的な繊細なヒューマニズムを特徴とするカードだけに、印象はずいぶんと違う。もともと子供の心理や学校生活の描写に長けているだけに、この作品の前半の読みどころももっぱら「兵隊養成学校」における子供達の生活と心理の描写を味わうところにある。SFとしての発想の凄みはまったくないが、この作者はもともとそのようなものを目指しておらず、人情の機微などを繊細に描写したいい小説を書くところに主たる眼目のある人なので、「アイデアが凡庸」などといって貶しても始まらない。今のところ、エンダーと家族の別れの場面まではぞくぞくするほど素晴らしい出来だったが、入学後の訓練の描写はややたるみがちで少し食傷してきたところ。ここからどれだけ挽回するか? この作風で長編を持たせるにはかなりの力量が要求される。この作品の場合はどうかな? 波乱万丈のストーリーはまず望めない作家なので、少し不安もあるが、もうしばらくこのペースで読み続けてみる。

あわせて、プリースト「暮れゆく島へのフーガ」も読み始めている。冒頭から、何だか謎めいた内戦の都市が舞台となっているようで、詳しい背景の説明はなく私小説的スタイルをとっているために定かには分からないが、バリケードで入り口を封鎖して町民が自警団を組織してパトロールをし、警察と闘争を続けている町を主人公一家が抜け出すところから始まる。いかにもプリーストらしい、一人称のスタイルをとった情感溢れる文章がたまらなくいい。「逆転世界」のような驚天動地のアイデアはなさそうだが、とにかく小説作りの技術に信頼が持てるので、安心して読める。サンリオの続刊情報に題名が出ていてずっと出るのを期待していたのに結局出なかった作品だが、やっと(原文でだが)読めることになって感無量だ。「伝授者」「終わりなき夏」なども引き続いて入手したい。

シソーラス整理、面白い。今日はpropulsionの動詞をやった。「投げる」のいろいろな表現をみた。throw, cast, pitch, tossなどのよく使うもの以外にもいろいろあることが分かった。
各項目は名詞/動詞/形容詞がメインだが、このうちのどれかが基本形で他は基本形の変型というパターンが多いので、とりあえず最初は全部やる必要がない。原則として動詞のみをやり、稀に「名詞基本」「形容詞基本」の項目については基本の品詞をやることにする。
ネット版シソーラスは1000項目なので、こちらを先に整理し、終わったら補遺的に「コンサイス版」をやろう。

12/15
カード「エンダーのゲーム」★★★★★
最後まで読んでよかった。とにかくこの終盤のどんでん返しとエンディングの美しさ。前半ははっきりいってハインラインやホールドマンを子供でやってるだけ、という感じでえんえん続く戦争シミュレーションによる訓練の連続には不可解な印象を持ったが、すべてこのラストに持ち込むための必然性のある描写だった。短編を読んでいなかっただけに、このラストは全く予想外で、エンダーと一緒に見事に騙されていました。このメイントリック自体はむしろ短編向きとも思えるが、戦争SFにシミュレーションゲームのねたを持ち込んだところと(仮想現実が現実になる、というのがイマ風)、サイドストーリーであるエンダーの兄姉のインターネットを使った政治煽動/世論操作のネタの新しさ、の2点でオリジナリティがあり、長編化により深みを増したといえる。長く印象に残る作品だ。続編も期待できるし、最近邦訳が出た裏ストーリーの「エンダーズシャドウ」を読む楽しみも増した。「ゼノサイド」と、未訳の「精神の子ら」も必読。「遥かなる地平」収録の短編もあるし。近々、ピーターのストーリーも出るらしい。

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