SF百科図鑑 オクティヴィア・バトラー「ことばのひびき」


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2000年

12/8

バトラー「ことばのひびき」★★★★★
バトラーの初受賞作は、「血をわけた子供」以上の傑作だった。奇病により言語中枢が侵され失語/失読症が蔓延し破滅寸前となった未来社会の話だが、私小説的な静かな筆致が素晴らしい効果を上げている。誰もが言葉を失い、身ぶり手ぶりでしか意思伝達のできなくなった社会で、言葉をはなせる/読める者は羨望のために迫害を受けている。コミュニケーションの困難のために人々の間で小競り合いが絶えず、子供達はチンパンジーのように廃虚となった街を走り回り、価値のなくなった書物は燃料としてかき集めるだけの存在になっている。主人公の女性は言葉を話せるマイノリティで、生きる意味を見出せず自殺を考える等した挙げ句、数少ない親類の住む街へとバスに乗るが、バスが乗客の喧嘩で止まり、喧嘩をとめに来た警官の制服を着た男と知り合い関係を持つ。このような世界で子供を産むことはできないと初めは拒んだが、男が避妊具を持っていたため承諾する。この男が文字の読み書きができる男であったために嫉妬で殺意まで抱くが、この男が言葉を話すことはできないことが分かると、この男を口説いて家に連れ帰ることを決意させる。その途中、他人の男女のトラブルに巻き込まれ、この男は射殺されてしまい、トラブルの種の男女も死ぬ。埋葬しようと死体を車に積もうとすると、女の子供らしき二人の子が現れ「やめろ」と言葉を話す。子供は奇病に対して免疫を持っているのか? ここに至ってライは初めて希望の光を見い出し、二人を連れ帰って、教師役と保護役を務めることを決意する。全編を覆う静かなペシミズムと荒廃した都市や人心の描写があまりにも見事で、歴代の破滅小説の中でもトップクラスに入る傑作といえる。力強いラストも感動的で、完璧な作品だ。ちなみに、冒頭のバス内乱闘シーンは、バトラー自身の体験を元にしているらしい(短編集版後書きより)。また作品のコンセプトも、作者自身の癌で若くして死んだ親友との交流体験が心理的ベースになっているとのこと。バトラーの作品はどれもこれも暗いけど、安定していい小説を書く作家で、久々に全作品を読んでみたいという気にさせられた。
しかし、一つ疑問があるけど、ここまで崩壊した社会で車の燃料の採掘が未だに続けられているのは解せない(笑)。どうやって供給されるのだろう?