SF百科図鑑 中村融&山岸真『20世紀SF1 1940年代』河出文庫


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2000年

11/6
ついに河出文庫アンソロジー1冊目が出た。こんなアンソロジーが出るのは多分10年以上ぶりぐらいではないか。40年代SF! もうたまんないです。未訳作品が一つも入っていないのはちょっと不満もあるが、巨匠以外の作品は全て現在入手困難だし、巨匠作品も全て新訳または改訳というから再読の値うちはある。集中半分ぐらいは未読なので、お買得だった。ラインスターとライバーが入っていないのは少し不満だが、50年代以後に入るものと期待する。30年代以前でもワインボウム「火星のオデッセイ」とか、名のみ高くて読めない作品も結構あるので、90年代まで出したあと是非「クラシック」編も作って欲しい。やはり有名な短編が気軽に読めないという状況が、慢性的な「冬の時代」の元凶になっている。SFマガジン以外に海外短編を読める媒体が存在せず、かつ、「SFマガジン」なんて雑誌を買う人間はマニア以外にあり得ず(ミステリマガジンなんかより遥かにマニア占有率が高いはず)、要するに、部外者が何気なく買って読んでみてハマる、という現象が絶対に起こり得ない状況になっている(一般人がSFにハマる状況としては、もはや「映画化作品の原作経由」という以外に思い付かないが、SF映画を見るような人種は活字に興味のないタイプがミステリに比べるとかなり多いと思われるため、これもあまり期待できない。ミステリの場合、原作を読んだら原作の方が良かったという話は結構聴くが、SFの場合「原作を読んだけど今いちだった」という感想がほとんど)。マガジンだって、毎号読みたい短編が載るわけではなく、大部分はどうでもいい作品ばかりで、「こんなのを載せるぐらいならあの超有名未訳短編を・・・」といいたくなることも多く、特に日本人作家の作品はほとんど屑みたいなのばっかりで、資源の無駄遣いとしか思えず、例えば電車とかで開いて読んでいるところを他人に見られるのが恥ずかしい。たかが月に1編載るか載らないかの傑作のために毎号買っていては本棚が占有されてスペースの浪費も甚だしいし、何といっても雑誌では、出ている時に買わなければすぐに入手困難になる。これでは、普通の真人間はSFの名作短編を読もうと思っても読めないことになる。ミステリーやホラーは海外ものの短編集やアンソロジーが結構出ているし、古いものも版を重ねているのに、SFだけハヤカワや創元の古典的なものすら品切れや絶版、有名作家以外新しいものも出ない。ダメだこりゃというしかない。売れないから出さない、というのが出版社の言い訳だろうが、それ以前の問題として、売る気があるのかといいたい。下らない脚本のドラマに人気アイドルを起用し、視聴率が取れないとアイドルのせいにするテレビ局とそっくりだ。脚本が悪くても視聴率がとれる俳優は木村拓也と松島奈々子ぐらいのもので、これ以外のキャスティングでは脚本の善し悪しでしか視聴率は決まらないといっていい。それと同じで、SFの短編集が売れないといって出さない出版社は、要するに編集/企画の手腕がまずく、しかも出し方が散発的で下手くそなので売れないだけなのである。自分の無能を棚にあげて、作品が古くなったとか一般のSF離れが進んだとか、他人のせいにする輩は、この河出の短編集を見習うといい。ベストセラーとは縁遠い出版社にしては、かなりの健闘というべきである。多分最初は売れないと思うが、これは第一歩。地道に続けていれば、必ず道は開ける。ハヤカワもこれを機会に、例えば入手困難/未訳名作短編に限った人気投票をやり、投票結果に基づいたアンソロジー(マガジンの別冊でもいい)を出すとか、もうちっと気のきいたことをやって、愛想をつかしたファンを呼び戻す努力をしたらどうかねえ。無思慮に新しいものを追っかけ、ちょっと売れないとすぐ見捨てるような一方通行のミーハー官僚的編集では、春は遠いよ。
常々思っていることだが、アンソロジーの編集は音楽のアルバム製作と似ている。いいアンソロジーの要件は、第一に、当たり前だが、作品の質が高いこと。第二に、作品の配列の仕方が良いこと。あまたの傑作のうちどれとどれをどの順序で入れるのか。これこそアンソロジストの手腕である。作品の順序は重要であり、どの作品の次に読んだかで作品の印象はがらりと変わる。音楽のアルバムでも曲の順序で印象は全然違う。そして第三は、作家やジャンルに関する情報量、蘊蓄の量が十分であること。ここが最もおろそかになりがちなところである。個人短編集と違い、アンソロジーは短編集であると同時に、作家カタログ的な面も有している。この情報面が十分でなければ、アンソロジーで初めて読んで好きになった作家がいても、他の作品に関する情報が得られず、それ以上の読書に発展しづらい。音楽でもよく、ライナーノーツに旧譜やそのアーチストが影響を受けた他人の作品等が紹介されていれば、それを買ってみたくなるだろう。それと同じで、「読み捨て」にさせず新たな読書需要を掘り起こすために、この「蘊蓄」は絶対に必要な条件なのである。ところが、この河出のアンソロジーもそうだが、最近のSFアンソロジーは蘊蓄の部分が弱く、収録作の背景説明ぐらいにしかなっていない(または、独善的な贔屓の引き倒しの表明に終始する)ことが多い。これではアンソロジーを出す意味は半減してしまうといっていいだろう。例えば講談社の福島アンソロジーは巻末にジャンル別の名作リストを付すなど、素朴ではあるが、初心者に親切な内容だった。最近のアンソロジーは読者がマニアであることを前提にしており、情報面で不親切であり、解説が長いものはたいてい、作家や作品に関する情報を読者が「当然知っていること」を前提として、したり顔で独善的な解説を施すものが多く、見当違いなエリート臭が鼻につき、部外者には非常に印象の悪いものになっている。これでは読者が減るのは当たり前だ。この点は、今後改善すべきであろう。
それにしても、この河出のシリーズは少なくともここ最近のハヤカワ/創元のていたらくをみると、非常に魅力を感じる。こんなに魅力的な本を出されては、「年代順にヒューゴー賞受賞作を完読する」というノルマを中断せざるを得ないではないか。鳴り物入りの「レジェンド」「ファーホライズン」すら我慢している私も、さすがにこの本の魅力には負けてしまいそうである。

嬉しさのあまり久々にエキサイトしたが、虫歯が痛くてしょうがないのでこのへんでやめる。うぅ、死にそうに痛い。

11/8
20世紀SF・★★★★★
いっやあ面白かった。ムーア「美女ありき」ハーネス「現実創造」の2編が特に凄く(スペキュレイティヴだ!)、他も秀作揃い。お買得。
ブラウン「星ねずみ」★★★★
クラーク「時の矢」★★★1/2
アシモフ、ブラッドベリは既読。
ハインライン「鎮魂歌」★★★★1/2
ムーア「美女ありき」★★★★★
テン既読。
ヴォート「消されし時を求めて」★★★★
ハミルトン「ベムがいっぱい」★★★★
スタージョン「昨日は月曜日だった」★★★★
ハーネス「現実創造」★★★★★
ムーア、ハーネス作品の新しさにびっくり。90年代作品といっても通る(訳文が見事なせいもあるが)。特にハーネスはもろ量子力学ネタ、ほとんどイーガン「宇宙消失」。こんな凄い作品を40年代に書いているんだから、ただもんじゃない。ブラウンとハミルトンのユーモアも素晴らしいし、ハインラインもこのころのは前向きな叙情がうまく効果をあげていていい。クラークはやや小粒だが水準作。ヴォートの時空間をぐちゃぐちゃにねじ曲げる破天荒なノリも楽しさを満喫できる(最近こういうのってほとんどないよなあ)。スタージョンの「奇妙な味」も地味だがなかなか(彼の作品では小粒な方だろうが)。「この時代のをもっと読んでみたい」という余韻を残して終わるところがまたいい。
実際、「現実創造」が載っているSFマガジンバックナンバー引っぱり出して読んでしまった。以下。
ブリッシュ「コモン・タイム」★★★★★
凄い! いきなり「悪魔の星」はつらかったけど先にこういう短編を読んでいたらとっつきやすかったかも。主観時間と客観時間のずれのアイデア、プロクシマ人とのコンタクトのくだりなどにハード寄りの才能が光っている。名作。ハーネス同様他の短編も読んでみたい作家。
ゴールド「ねじれ」★★★★1/2
これも面白い。見事な奇想小説、最近こういう作品をのびのびと書けなくなっているような。
テン「地球解放」★★★★
「生きている家」よりもこっちのほうが面白い。このひねくれたブラックユーモアのセンスはなかなかのものだ。
ハインライン「コロンブスは馬鹿だ」★★★★
うまくまとまった軽妙なショートショート。
シェクリイ「思考の香り」★★★★1/2
面白い! 目も鼻もなくて姿だけ禿鷹だったり豹だったり、並行進化とかこじつけるけど「んな阿呆な」だけど、この動物の描写が何ともまたユーモラスで素敵。お話としての面白さを満喫できるので、十分です。
ドライフーズ「人間」★★★1/2
ネタは素朴だが結構好き。無名作者のショートショートで、特にどうということはないが・・・。
このころのSFマガジンって翻訳が多くて最高だよなあ。しかも作品も文学性とかリアリティとか全然気にせず、とにかくアイデアと面白さだけを基準にのびのび書いていて、素敵。最近のは質の向上とともに発想の自由さが失われて、どんどんつまんなくなっているような・・・。僕は「アイデアが全て、リアリティ糞食らえ!」派なので、最近のはちょっと・・・という感じ。アメリカで読みたいのはV・ヴィンジぐらいしかいないし・・・。