SF百科図鑑 竹本健治『匣の中の失楽』


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1999年

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「匣の中の失楽」読み終える。
結局、作中作の一方のみ解決され、他はそのまま。ラストは、2つのストーリーが渾然となり、冒頭の不連続線の話が出てきて、冒頭と同じ一文で結ばれる。登場人物は「人形」のまま、「不連続線」を超えることができず、作中(匣)に封じ込められ、永遠に「失楽」のストーリーを繰り返すことが確定する。
2つの合わせ鏡的な作中現実は、作中において、いずれもが「作中現実」=メタレベルにおいては「虚構」であることが作中人物によりほのめかされることにより、この結末は既に暗示されている。
文体・用語、ストーリー、人物造形は明らかに中井英夫の強い影響が認められるが、ペダンチックな推理比べには「黒死館」の要素が認められる。そして、この作品の新しいところは、中井的なアンチミステリ=探偵の不可能・無意味性の証明に、ペダンチックな本格ミステリの色彩を加味したばかりでなく、独創的なメタフィクションの構成を絶妙に重ね合せた点にあるといえる。
人物造形が無個性的であることから、この作品の前半は読みにくく、ストーリー把握が困難で難解な印象を与える。しかし、それもまた、作中人物は匣の中で踊らされる「人形」に過ぎないという作者の意図に沿うものであって、むしろ右の様な難解な印象が読者を煙に巻き、真相を永遠に霧の中に封じ込めるというこの作品の構成の効果をかえって強めている。
まさしく、2読、3読を要求する、奇蹟に近い傑作である。