SF百科図鑑 Isaac Asimov "New Hugo Winners" 1983-85


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2000年

2/1

長編は駄目でも、短編はましなんじゃないかと、例のヒューゴー賞作品集も読み進める。最初のランディス、アシモフと、いずれも佳作なんだが、歴史に残る傑作とまではとても思えない。綺麗な話なんだけどね、どっちも。ちょっとスマートすぎるんだよな。全然、あの、昔のSFのような、訳の分からない物凄さのようなものが感じられない。淋しいね。
で、ナンシークレスの「スペインの物乞い」に入ったところ(題名はマイルスデイヴィスかな?)。遺伝子工学の話ですね? 遺伝子操作して親好みの赤ちゃんを生ませる話のようだが、四六時中眠らずにいられる天才赤ちゃんが欲しいという求めに応じて、生まれたのが双児で一人が普通の赤ちゃんで・・・とかいう展開で、先が読めそうではあるが、テーマ的には面白そうだ。期待を裏切らないことを希望する。筆力も結構あるような感じ、今のところ退屈していない。同じ作者の短編集も持っているので(「ビーカーの一ダース」)、よかったら、そちらも読んでみよう。

しかし、つくづく、90年代のSFってリアリズムと文学性に毒されている。それも、醜いものや真実をえぐり出すという意味の「リアリズム」ではなく、単なる「正確な、事実、現実に即した描写、シミュレーション」という意味での。あんた新聞記者か! 奇抜な発想、冒険心はどこへやら、古い革袋を使っただけの単なるお上品な「芸術品」製作に成り下がっている。面白くないんだよ、ちっとも。死んでくれって感じ。


12/8
ザーン「カスケードポイント」★★★★★
後半は、精神科医の持ち込んだミングメタル入りの治療機具のために、船のバランスが崩れ、転位操作時にぶれが生じてこの宇宙のリーマン面内にとどまる転位角度を超えて別の宇宙に飛び込んでしまい、着いてみるとタイミアの植民地が消失している。そこから元の宇宙に戻るまでの手に汗握る知的パズルが面白い。現実の科学の裏づけの全くない「仮想の科学」をベースにしてこれだけ科学的な思考の面白さを味わわせてくれる作品は少ない(編者アシモフも指摘のとおり)。このハードSF的な知的パズルを軸に、出世コースを外れた船長が自分の人生を肯定的に捉えなおすまでの心理の綾(ホロトン空間に表れる虚像の鬼気迫る描写と密接にリンクする)、転位点を利用した治療で人格が統合され「魅力的な人物」になった精神病者に恋をする女船員の話(しかしこの男は、転位過程を巻き戻す作業の過程で、治療の効果も巻き戻され、転位前よりも悪い状態になってしまう)などを絡めて、魅力的なエンターテインメントに仕上げている。スタートレックのノヴェライズだけで知られている作者だが、このハードなセンスとストーリーテリングの力量は意外な発見だった。
しかしこのネタは、昨日読んだ「燃える脳」と似てるなあ。まあ、あれより科学性は遥かに強いけど。

バトラー「ことばのひびき」★★★★★
バトラーの初受賞作は、「血をわけた子供」以上の傑作だった。奇病により言語中枢が侵され失語/失読症が蔓延し破滅寸前となった未来社会の話だが、私小説的な静かな筆致が素晴らしい効果を上げている。誰もが言葉を失い、身ぶり手ぶりでしか意思伝達のできなくなった社会で、言葉をはなせる/読める者は羨望のために迫害を受けている。コミュニケーションの困難のために人々の間で小競り合いが絶えず、子供達はチンパンジーのように廃虚となった街を走り回り、価値のなくなった書物は燃料としてかき集めるだけの存在になっている。主人公の女性は言葉を話せるマイノリティで、生きる意味を見出せず自殺を考える等した挙げ句、数少ない親類の住む街へとバスに乗るが、バスが乗客の喧嘩で止まり、喧嘩をとめに来た警官の制服を着た男と知り合い関係を持つ。このような世界で子供を産むことはできないと初めは拒んだが、男が避妊具を持っていたため承諾する。この男が文字の読み書きができる男であったために嫉妬で殺意まで抱くが、この男が言葉を話すことはできないことが分かると、この男を口説いて家に連れ帰ることを決意させる。その途中、他人の男女のトラブルに巻き込まれ、この男は射殺されてしまい、トラブルの種の男女も死ぬ。埋葬しようと死体を車に積もうとすると、女の子供らしき二人の子が現れ「やめろ」と言葉を話す。子供は奇病に対して免疫を持っているのか? ここに至ってライは初めて希望の光を見い出し、二人を連れ帰って、教師役と保護役を務めることを決意する。全編を覆う静かなペシミズムと荒廃した都市や人心の描写があまりにも見事で、歴代の破滅小説の中でもトップクラスに入る傑作といえる。力強いラストも感動的で、完璧な作品だ。ちなみに、冒頭のバス内乱闘シーンは、バトラー自身の体験を元にしているらしい(短編集版後書きより)。また作品のコンセプトも、作者自身の癌で若くして死んだ親友との交流体験が心理的ベースになっているとのこと。バトラーの作品はどれもこれも暗いけど、安定していい小説を書く作家で、久々に全作品を読んでみたいという気にさせられた。
しかし、一つ疑問があるけど、ここまで崩壊した社会で車の燃料の採掘が未だに続けられているのは解せない(笑)。どうやって供給されるのだろう?

ブリン「水晶球」★★★★★
「スタータイドライジング」で長編部門受賞の余勢を駆っての受賞作は驚天動地のハードSF。恒星系の周囲を透明な水晶球が包んでおり、内側からしか破ることができないために、他の恒星系から飛来した異星種族は既に水晶球の破れた恒星系にしか侵入することができないという話をクラーク的な筆致で描いている。水晶球破壊後2世紀は飛来する彗星の数が爆発的に増え、惑星上の文明は存亡の危機に見舞われる。この「彗星戦争」は人類がより身軽なスペースコロニーに居住の本拠を移すことで終焉する。人類は、無人の「遠距離探査体」を他の恒星系に送り出し、水晶球の破れた「良星」系の探索を開始する。遠距離宇宙飛行士はコールドスリープに入り、探査体からの発見の知らせを待ちながら幾星霜を経る。新たな開かれた良星系発見の報に、凍眠から目覚めた主人公は遠距離探査に乗り出す。この良星系の「有水小天体」に文明の遺跡が発見され、書物の解読により次第に事の真相が明らかになる、というストーリー。プロットは単純で何のひねりもなく、クラークそっくりだが、アイデアが凄いので帳消しになる。もともと着想の凄さが一つの売りの作家だが、この作品のアイデアは天文学の常識を根底からひっくり返すもので、このジャンルの本質の一つである「認識の変革」の側面を見事に表したものといえるだろう。何百年も後の「最初の接触」を夢見ながら終わるラストの詩情とスケールの大きさもクラークっぽい。歴代の宇宙小説中でもベストの一つに指を屈したい。

以上で、アシモフ「新ヒューゴー賞傑作選(83-85)」ほぼ読了。★★★★★。
収録作は次のとおり。
ラス「祈り」【宗教】
ウィリス「火守り」【時間】
ロビンスン「憂鬱な象」【未来社会】
ザーン「カスケードポイント」【宇宙】
ベア「ブラッドミュージック」【進化】
バトラー「ことばのひびき」【終末】
ヴァーリイ「プレスエンター」【テクノロジー】
バトラー「血をわけた子供」【異星生物】
ブリン「水晶球」【宇宙】
うち、ラス、ロビンスン、バトラー「血をわけた」は邦訳版をアンソロジーとSFMで読んだ。ヴァーリイは短編集で読んだが、★★★★★。ベアは長編化版が★★★★★(中編版と違うかも知れないので、隙な時に中編版も読んでみよう)。ウィリスは違う訳題で「わが愛しき」に収録されており読んだはずなのだが印象が薄いので、再読しようと思っているのだが、この本が所在不明。今探しているところで、見つかり次第再読する。ダンワーシイもの時間小説の初期作で、その後のシリーズを読む上でも必読のはず。
何にせよ、さすが受賞作だけあってクオリティが高く、【】に示したようにテーマも幅広く、歴史的傑作も何編かあった。他の入手困難なものも頑張って手に入れよう。まずは「80-82」。収録作は次のとおりだ。
ロングイヤー「わが友なる敵」【戦争】
マーティン「サンドキングズ」【異星生物】
マーティン「龍と十字架の道」【異星生物】
ディクスン「ドルセイの決断」【戦争】
ディクスン「外套と杖」【侵略】
シマック「踊る鹿の洞窟」【不死/超人】
アンダースン「土星ゲーム」【?】
ゼラズニイ「ユニコーン・ヴァリエーション」【神話伝説/ユーモア】
ヴァーリイ「プッシャー」【時間】
うち、未訳はディクスン「外套と杖」アンダースン「土星ゲーム」、未入手はこの2編に加え「踊る鹿の洞窟」、他は総て入手済み、「ドルセイ」以外は読了。
アンダースンは中編集注文済み、シマックは収録雑誌を注文予定。後は、ディクスンの収録書を探し出して注文するだけだ。ちょっとローカスオンラインで調べてみる。

2冊注文した(アマゾンJP)。あとシマックの載ったSFMも注文した。

シソーラスで「歩く」「進む」に関する類義語74語を調べて、入力し、打ち出した。小説でよく出てくるが、一度まとめておかないと意味や使い方を忘れてしまう。シソーラスの中の基本表現は、まめにやっておかないと。「放浪する」「ゆっくり歩く」「大股で歩く」「気取って歩く」「重い足取りで歩く」「滑る」「横切る」などのいろいろな表現が載っており、重宝した。例えば「うろつく」「散歩する」でstrollというのはよく見かけるけど、saunterというのはあまり見かけないので、これを見て初めて知った。これからはソーンターのほうも使おう。

ううむ、あかん、類義語整理楽しい(笑)。おたくやなあ、おれも。
「旅行」のところで、いろんな歩き方やさまよい方の表現を知ってしまった。
楽しいもんはしょうがないので、これからも意地でも続ける。あっ、でも動詞のところにバカボンが入っていなかった、ダウンロードしたデータの方は。まあ、後で補充すればいいか。