SF百科図鑑 サミュエル・ディレイニー『時は準宝石の螺旋のように』サンリオSF文庫


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2000年


7/25
「竜の戦士」面白かった。後半、時間SFになってもうたがな(笑)。後半部分でようやく、薄味ではあるがSFとしての面目を保ってくれた(もっとも、タイムパラドックスの問題に深入りして物語の面白さをそぐような野暮はせず、御都合主義ともいえるけどあたりさわりのない扱いで終始している)。とにかく、いろんな意見はあろうが話として面白いことは否定のしようがないので、★★★★★とせざるを得ない。後半徹夜で読み終えてしまったもの。後はシリーズ続編でこのテンションを保ちえているかどうかだな。二作目以降今いちというパターンは結構あるからな。

で、「時は準宝石」に入る。初っぱなの「スター・ピット」にすっかり打ちのめされました。こんなに複雑でいて、暗く美しいイマジネーションと、強度の思弁性と、物語としての面白さを兼ね備えた小説は初めて読んだ。一読すると最も表層的な部分での物語を楽しめ、読み終えたとき頭の中にひっかかり、もやもやが残り、もやもやを晴らすためもう一回読んで、「そうか、こういうことだったのか」という再発見。視覚性や抽象性においてライバーを髣髴とさせ、心理面においてディックも入っている。とそういった一般的なことはさておいても、この小説の凄さと哀しさには、完璧にツボにはまってしまいました。個としての人間の限界を認識し可能性の限界を知りそれと正面から向かい合う「成長」というミクロレベルから人類、生物といった全体レベルにおける限界の認識というマクロレベルまで、レベル/内容においてテーマが多層構造を持っており、そのあらゆるレベルにおける限界を認識することのやるせなさ、哀しさが相乗効果を持ちながら胸に迫ってくる名作である。普通の主流小説ではここまでは表現できないよね。SFという形式を生かし切って表現の限界を突き抜けた大傑作。この小説に出てくるキャラ一人一人の哀しみは、そのまま、これを読む我々一人一人の毎日の生活の中で繰り返し繰り返し直面しなければならない現実、限界、その中で何とか折り合いをつけ、自分の枠の中で生きることを選ぶこと、あるいはモラトリアム、全能感との決別といったことそのものでもある。再読、三読、四読、五読に堪える恐るべき奥行きを持った作品です。★★★★★。
ディレーニイ良すぎる。この短編集、3000円の価値はあったというべきです。次のも良さそうなんだよなあ、くーたまらん。全部良さそう。

7/28
「時準」読み進む。
「漁師の網にかかった犬」★★★★
「コロナ」★★★★★
「然り、そしてゴモラ」★★★★
「流れガラス」★★★1/2
「ただ暗黒」★★★★1/2
「真鍮の檻」★★★1/2
「ホログラム」★★★★
個人的にはスターピットを超えるまでのものはなかったが、全部いいですなあ。特に「コロナ」と「ただ暗黒」は良い。ネビュラ賞の「然り、そしてゴモラ」は、多分「危険なヴィジョン」に入っていたから受賞したんでしょう。内容はブッ飛んでいて、いかにも「ヴィジョン」っぽい。ただ、短すぎて物足りない感じがする。山野浩一の訳もいまいちこなれてないせいもあるが。今度、原文にあたってみよう。「漁師・・・」は普通小説だけど全体的な暗さは「スターピット」を引きずってて結構好き。プロットがやや単純な感じもするが短編なのでしょうがないでしょう。「流れガラス」はアイデアは良いのだけどやや短すぎて書き込みが足りない感じがする。「真鍮の檻」は作者が駄作と言っているそうだが、言われるほど悪い作品ではない。宇宙に浮かぶ牢獄のイメージはとても素晴らしい。ただ、確かに囚人3人の会話で進むスタイル自体はやや安易で手抜きの感じはする。「ホログラム」は何の変哲もないアイデアストーリーだが、それ以上の深みはないにせよ、作品として良く出来ておりこれはこれで良いでしょう。
あと二編で読み終わるべ。

読み終わったベ。
「時は準宝石の螺旋のように」★★★★★
「夜とジョー・デイスコンスタンツオの夜」★★★★1/2
「時準」は流石の出来。「ホログラム」の発想を膨らませたものだろうが、キャラの個性の魅力、未来社会の描写の美しさ、定期的に切り替わる宝石の名前の合言葉と時間の経過とが絶妙の相乗効果をあげ、主人公が悪事を重ねてなりあがるにつれて、「ホログラム」の罠にー他の全ての登場人物と同様に-捕えられていくという構成の素晴らしさ、とどれをとっても完璧な出来。両賞独占は当然の名作である。あまりにも魅力的な作品世界ゆえ、続編を読みたくなってしまう、書かないかなあ。
「ジョーディスコンスタンツオ」はアイデアストーリーではあるが、実験のため隔離された男の妄想?世界とこれを監督するうち巻き込まれそうになる監督官の対比が、かなりの迫力。このネタは1/3ぐらいで明かされてしまうのだが、幻想の描写が迫真的なので、最後まで「もう一回どんでん返しがあるか?」と期待されられてしまう。高水準のスリリングな作品である。
いやあ、この短編集、オールタイムベストの1つに入るな。

さて、次は「世界SF1」ゲットしたので読むベ。アンダースン「王に対して」からだな。

ところで、「パヴァーヌ」復刊(扶桑社だったかな?)。しかし、後のラインナップを見たところSFはこれだけ。眠っている名作群の復刊/翻訳の道は険しいようである。

試しに、プリングルの100冊中、現在入手容易なものは、以下の通り。
ハヤカワ文庫NVー1984年/火星年代記/華氏451度/時計じかけのオレンジ
ハヤカワ文庫SFー人形つかい/幼年期の終り/人間以上*/虎よ、虎よ!*/夏への扉/タイタンの妖女/高い城の男/猫のゆりかご/火星のタイム・スリップ/パーマ-・エルドリッチの3つの聖痕/ノーストリリア/ノヴァ/アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/闇の左手/所有せざる人々/忠誠の誓い/ニューロマンサー(*は目録落ちの可能性大)
ハヤカワダニエル・キイス文庫ーアルジャーノンに花束を
創元文庫ートリフィド時代/破壊された男/スターファイター/黙示録3174年/沈んだ世界/子供の消えた惑星/放浪惑星/結晶世界/タウ・ゼロ/逆転世界
他社ーノヴァ急報/パヴァーヌ/クラッシュ/エンジン・サマー
以上36冊。つまりプリングルが選んだ名作100冊のうち少なくとも64冊は、新刊書店では買えないのである。しかも、この36冊に入っているからと言って容易に入手できるとは限らない(他社分は、大きな書店でも見つからず、インターネット通販でやっと買える、というケースも多い)。ハヤカワはNVで出ると割と品揃えが良いが、SF文庫で出ると古典作品、ランキング上位作品も平気で品切れ、目録落ち、絶版にする傾向があり、編集者が違うのか、SF文庫の編集者はジャンルに対する愛情と知識を欠いており、恐らく成績や面接の印象だけで採った経営上無難な人物を配置しているのではないだろうか(想像)。少なくとも、SF読みとしての常識さえあれば、「都市と星」「地球の長い午後」「デューン砂の惑星」あたりが品切れ、目録落ちになるという事態が何を意味するかはわかるはずである(新潮文庫でいえば、「武器よさらば」「罪と罰」「戦争と平和」「ハムレット」などが絶版になるのと同じである)し、これらを品切れにするぐらいなら、自殺するか、辞表を提出するのが当然である。
これに比べると、創元社は、商業的に苦しいはずであるにもかかわらず、いったん目録落ちした古典を復刊するなど涙ぐましい努力をしており、ジャンルに対する愛情が感じられる。
次に、プリングルの100冊のうち、サンリオ文庫の占有率を見る。「時は乱れて」「ノヴァ急報」「ブラッドマネー博士」「キャンプ・コンセントレーション」「パヴァーヌ」「大地への下降」「334」「フィーメール・マン」「去勢」「歌の翼に」「杜松の時」の11冊。特に70年代作品についての健闘ぶりは素晴らしく、サンリオ撤退で70年代の名作群がごっそり読めなくなったことの影響は大きい。
さて、今度は、訳されていながら入手困難な作品を見る。大地は永遠に/宇宙商人/重力の使命/オブザーバーの鏡/永遠の終り/長い明日/草の死/都市と星/呪われた村/悪魔の星/時は乱れて/無頼の月/地球の長い午後/明日を越える旅/中継ステーション/ブラッドマネー博士/デューン砂の惑星/人間がいっぱい/ドリームマスター/キャンプ・コンセントレーション/大地への下降/静かな太陽の年/334/ハイライズ/フィーメール・マン/去勢/マン・プラス/へびつかい座ホットライン/歌の翼に/杜松の時/タイムスケープ/新しい太陽の書(全四冊)、以上32作となっている。一発屋的な作品であればともかく、巨匠の古典作品まで含まれているのには慄然とする。
最後に未訳作品をみよう。リンボー/パラドックス人間/記念祭をわれらに/太陽をめぐる輪/後継者たち/ノンストップ/ああバビロン/ヴィーナスプラスX/ザンジバーに立つ/最終プログラム/英雄と悪漢/永遠の宮廷/バッグ・ジャック・バロン/ケルベロス第五の頭/時の果てで踊るものたちシリーズ/2000年版・かえりみれば/エンベディング/世界の果てまで歩こう/ケンタウリ装置/銀河/オービッツヴィル/時の果てに佇む女/マイケルマス/奇跡の訪問者/歩く影/夢見る竜/野生の葦/リドリィ・ウォーカー/ロデリック二部作/不合理の仮面/時のみぞ敵/南極人民共和国の誕生、以上32作。中には傍流の作品も含まれているが、「ノンストップ」「ヴィーナスプラスX」「ザンジバーに立つ」「バッグ・ジャック・バロン」「エンベディング」「オービッツヴィル」「時のみぞ敵」といった巨匠の作品、受賞作、有名作品も多数含まれており、呆れ返らざるを得ない。