SF百科図鑑 荒巻義雄『柔らかい時計』徳間文庫


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November 22, 2005

荒巻義雄『柔らかい時計』徳間文庫

短編集。唯一未読だった「大いなる失墜」を読み、読了。
荒巻の短編集では『ある晴れた日のウィーンは森の中にたたずむ』の次にいい。既読分は、狂人の記す壁文字が人類の恐るべき未来を予告していたという、バラードにクトゥルフ神話をミックスした感じの名作「白壁の文字は夕陽に映える」★★★★★を筆頭に、生死の不確かな女の幻影を見、自我の多重化=無化の症状に悩む薬物中毒の男が、宇宙は虚にして実でもあるという分裂病的宇宙論の謎に迫っていく内に虚実が入り乱れて混沌としてゆく難解な「緑の太陽」★★★★、ニーチェ哲学を超宇宙的にSF解釈した一種のワイドスクリーン・バロック「大いなる正午」★★★、同題のダリの名画をSF的に解釈しユーモラスな物語を紡ぎ出す「柔らかい時計」★★★、強烈な熱気にあふれた熱帯市の風景が、ある女性に対する主人公のフェティッシュでネクロフィラスな妄念によって変容していく様を「心霊子による世界の変容」というSFアイデアと結合された傑作「トロピカル」★★★★1/2と、作品水準は極めて高い。
今日読んだ「大いなる失墜」★★★は、人生に目標を喪失し無為に生活しながら、この世界がアンアンという少女の読む漫画の世界であるという幻覚を見続けている男が、木製の大赤点に突入しながら<失墜>し、世界の向こう側に突き抜ける&&そしてまたよく似た別の世界に目覚める、という、「夢の中の現実に捕らわれた男」の無限の内宇宙探求の旅を描いた作品。明確でないオチの付け方がやや中途半端な印象を受ける。
総合すると
テーマ性  ★★★★★
奇想性   ★★★★★
物語性   ★★
一般性   ★
平均    3.25
文体    ★★★
意外な結末 ★★★★
感情移入  ★★★
主観評価  ★★★1/2(37/50)
silvering at 15:43 │Comments(0)読書