SF百科図鑑

ジェイムズ・ブリッシュ「地球人よ、故郷に還れ」

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September 08, 2004

ジェイムズ・ブリッシュ「地球人よ、故郷に還れ」

地球人よ、故郷に還れ1954年レトロヒューゴー賞ノヴェラ部門を本書の第4部にあたる原型中篇が受賞しましたので、読むことにしました。<渡り鳥都市>シリーズ4作中の年代順で3番目に当たる作品。
silvering at 18:02 │Comments(13)TrackBack(0)読書

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この記事へのコメント

1. Posted by silvering   September 08, 2004 21:31
第1章まで読んだ。
半重力でニューヨークを宇宙船代わりに飛ばし、仕事を探して宇宙を渡り歩くストーリー。
この都市が、銀河の中にある星のない谷間空間の流浪惑星を発見し、近くにいた海賊都市に気づかれぬよう着陸して、住民に迎えられる。地球人の子孫らしい。猿のような女の入った檻が運ばれ、主人公が鍵を貰う。
つまんね&&
着陸の場面もひどい。降りる先の惑星の地表の森を焼き払って降りている。この星の生態系が破壊されるし、そこに誰かいたらどうするんだよ。めちゃくちゃだな。
ここから面白くなるのだろうか?
2. Posted by silvering   September 09, 2004 23:33
第2章まで読んだが、酷い。「女」を囮にして敵を倒そうとするわ、着陸した星を太陽から切り離して動かした後、放置するわ、めちゃくちゃなことをやったうえに、「契約上の報酬をもらわなかった」とか勝手なことをいうわ。動かした惑星を放置する言い訳が酷い。反重力装置の作る場や火山活動で惑星の温度が保たれるから太陽がなくても大丈夫とか、光がなくても自分で光を起こすぐらいの技術はあるとか。ごまかすにしてももっとごまかし方があるだろうに、あまりにくだらなすぎる。科学的こじつけのもっともらしさ、もったいぶり加減はハードSFの雄といわれたブリッシュらしいのかもしれないが、本作ではそれによってもたらされる社会像(都市が反重力装置で飛び回る)があまりに荒唐無稽で幼稚すぎるためにほとんど効果を上げていない。
正直既にこの本を読むのは時間の無駄という気がしている。この作者、根本的に信憑性のある社会像や人物を構築する能力に疑問がある。
3. Posted by 手下X22   September 10, 2004 00:05
あれ、文庫じゃないのねと思って「地球人よ、故郷に還れ」ぐぐったら見つけたちょっと暇つぶしに良かったサイト。


エイチティtp://www.blk.mmtr.or.jp/~nabesan/meimonku/monku.htm
4. Posted by silvering   September 10, 2004 03:25
流石、面白サイトを探させたら天下一品の手下X22!!
早速おきに登録いたしました。また面白いのがあったら教えてください。
これから常に名文句を探しながら読むようにしなければ。

ちなみに、この本の〆の
「地球は、場所を指す名ではない。ひとつの思想なのだ」
は有名ですけどね。載ってるかな?
レトロヒューゴー賞を取った表題作は巻末部分らしいから、これから尻上がりに面白くなることを期待して読みます。
でも前半の男尊女卑、帝国主義&暴力&破壊描写炸裂で、既に結構萎え萎えだったりするんですが&&(笑)
5. Posted by SILVERING   September 10, 2004 22:39
読了。

結論から言うと期待はずれであった。だが、終盤に若干の救いはあった。

ストーリーを簡単に説明すると、渡り鳥都市のニューヨークが宇宙警察に追われながら宇宙をまたに金儲けをして歩きながら、銀河の谷間の星に降り、海賊都市の攻撃をかわしながらジャングルの蔓延に悩むこの星の地軸を修正して、解き放つという序盤。
スラム化した宇宙都市の集団に遭遇し、この集団に紛れて地球に戻り、宇宙警察の目をくらました上で、消滅したと見せかけながら隣のマゼラン星雲に逃げる中盤。
マゼラン星雲のある惑星に腰を落ち着け定住しようと着陸するが、先住民がいたので、自分たちの行動がいかに帝国主義的で卑劣であったかに気づき悔い改め、現地を支配する官僚を騙して撃退し、農奴を解放する終盤。
以上のほぼ3部構成である。

第3部においては、「悪魔の星」などで知られるディスカッション好きなブリッシュの作風の片鱗がようやく見られ、少し面白くなる。しかし、本書は基本的に出来の悪い陳腐で荒唐無稽なスペースオペラの失敗作の印象を出ない。言い訳のように挿入された第3部で多少まともなものにしようという作者の努力は窺えるものの、前半の失敗を補償するレベルにまではおよそ達していない。

それもそのはず本書はもともと最初の2編がパルプSF的な書きなぐりのスペースオペラの単独中編として発表されたものであったが、ブリッシュが徐々にパルプSFの制約を抜け出しかきたいことを自由に書けるようになるにつれて、同じ舞台設定で「もっと大きいことをやりたくなって」次第にシリアスな文明論的、人類論的で倫理学的な作風に転じながら他の断片を書き足して行った末にそれを無理矢理まとめて長編化した、シリーズ中最初に出版された本らしいのである。道理で前半がくだらないはずである。しかも最初に出た本は冒頭に「オーキー(渡り鳥都市)」というシリーズ最初の中編が入っていたが後にカットされたらしくこの翻訳には入っていない。作者自身が気に入らずカットしたそうだからよほどの陳腐な愚作だったのだろうが、本書前半のひどさをみれば大体想像がつく。
具体的に原型中編の初出年を見ると
オーキー(省略) 1950
季節労働者 1950
失われた都市のサルガッソ 1953
地球人よ、故郷に還れ 1953
となっており、これを1955年に1冊にまとめた。後にそこから最初のものをカットしたのが本書の底本。

こういう「中編の寄せ集め」構成であり、しかも前半が初期の愚作であるため、本書は全体のまとまりが悪く、長編としてのメリハリや構成の妙に欠ける。またストーリー展開が不自然かつ行き当たりばったりで合理性がなく、キャラクターものっぺらぼうで個性がなく、リアリティがない。いかに終盤で立ち上げたテーマが捨てたものではないとしても、単独の長編として評価すれば愚作の評価を免れないだろう。

作者は本書の終盤の中編を書いた段階で新たにこの設定で目論み始めていた壮大なテーマ追究の姿勢をより明確化するため冒頭にプロローグをつけ超未来の歴史家の文献を引用する構成にしているが、それを引き継いで「宇宙零年」「時の凱歌」「星屑の彼方へ」の順に書き継いだようである。そしてこれらの作品は本書とは違い、連作中編集でなくそれぞれまとまった長編であり、かつ、スペースオペラ色が後退しディスカッション小説、論文小説色を強めているようである。正直、本書の惨憺たる出来からして、これら残り3作による質の底上げがなければ、この「宇宙都市4部作」の名声が高まることはなかったことが確実と思われる。

本書終盤(レトロヒューゴー賞受賞対象部分)では、前半で特に自覚的には否定されておらずむしろストーリー展開や主人公である市長の行動を肯定するとすれば積極的に肯定されているとしか読めなかった、帝国主義、差別主義、拝金主義、自由主義という名の利己主義が、ようやく堕落した否定されるべきものとして明確にテーマ化される。本書の各中編の書かれた経緯からいっても作者は前半2編を書いている時点でこう言った問題意識のないまま、従前のスペースオペラの文脈に無意識にしたがって上記各堕落イデオロギーを肯定する前提での下手糞なエンタテインメントの出来損ないを書いてしまったに過ぎないものだろう。そして1953年の段階で悔い改め、これらを否定し、逆に自己の既作を逆手に取って、科学文明が人類を逆に社会的、倫理的に退化させ堕落させてしまう悲惨な現実、諦観的歴史観をテーマ提示する第3部を入れることにより、前半で肯定されかけた陳腐なイデオロギーを裏返すという詐欺を行ったものであろう。ソテレによってかろうじて本書は多少なりとも救われ、前半で読者に与えざるを得ない虫酸の走るほどの嫌悪感を後半で若干緩和することはできている。

しかし、更にいうなら、帝国主義の否定とか文明に対する諦観とかといったテーマ自体が既に古くさく陳腐化している。要するに現代は両者を止揚したところを土台に我々読者は生活しているというのに、作者は底に達しない下のレベルで苦悩しているという時点で、結局ダメである。

ということで結論として、本書は糞だが、残る3作でどこまで、本書の限界性、陳腐性を乗り越えているか、少し興味はある。「コモン・タイム」とか「表面張力」といった凄い短編を書いている作家、この程度で終わるはずはないと信じたい。引き続いて残る3作も読む予定である。
6. Posted by silvering   September 10, 2004 23:26
採点

テーマ性 ★★
奇想性  ─
物語性  ★
一般性  ─
平均   0.75点
7. Posted by 手下X22   September 11, 2004 00:54
低い、恐ろしいほど低い。
ちなみにこの人がスタートレックオリジナルシリーズのノベライズをしているが、テレビの方は大学生の私を虜にする面白さだったのに小説版は全然面白くなく、ファン以外どころかファンすら読むのに苦労する出色の不出来さだった。
きっと文はひどく下手なのだろう。

蛇足デスタ。
8. Posted by silvering   September 11, 2004 01:45
恐らく資質がエンターテインメント(狭義)向きじゃないのだでしょう。どちらかというと、強烈な科学的奇想や哲学的考究に取り得のある生真面目な作家なので、本来純文学作家になるべきだったと思われます。それが、たまたま理系から落ちこぼれてSF作家になったという経歴のせいか、編集者の要求に従うまま、この人の資質と正反対な、それこそブラウンが「発狂した宇宙」であざ笑ったような古いタイプのスペースオペラばかり書かされていたので、こんなひどいものになったのではないでしょうか。
スタートレックのノヴェライズは未読なんですが、確か晩年に書いていたはずなので、作家的に既に成熟しているはずのその時点で、しかも原作のテレビシリーズが面白いにもかかわらず不出来なものしか書けなかったということは、やはりそういうタイプの作品が向いていなかったのだ、としか言いようがありません。
またそもそも、全盛期の作品の傾向からしても、着想と論理だよりの作家なので、根本的に「面白いストーリー、プロットを組み立てる」という作業が苦手というか、軽視していたのかもしれません。
9. Posted by silvering   September 11, 2004 03:32
追記。
本書は、ただ単に気宇壮大なスペースオペラであるというだけではなく、ハードSFとして、「科学技術的アイデアを緻密に突っ込んで構築している」ということで人気があったようだ。確かにスピンディジーだの、地軸の修正と磁場や重力の関係だの、技術的ディテールの説明が異常に細かく厳密ではあり、その辺が理系の人にはたまらないのかもしれない。SFの核は「科学」小説なわけだし。ただ、われわれ文系の読者からすると、科学技術的アイデアの面白さ、凄さ、緻密さといったところは、文学、物語一般の面白さに支えられてこそ、初めて意味を持ちうるわけで、いくら科学的アイデアのもの凄さがあるのだとしても、物語としてつまらなかったり、より一般性のあるテーマとうまく結合していたりするのでなければ、しょせん理系的な興味のある人にしか面白く感じられない、ただのマニアの内輪受けに過ぎず、万人向けでないということになる。そういう作品を無価値と断じることはできないが、少なくとも、「科学知識のあるマニア向けとしての価値しかない」ということは断言できる。本書はそういう観点からすると、特に前半部分は、そのせっかくの優れた科学アイデアを乗せるストーリーやキャラクター設定がうまくない。そのために、科学技術的説明だけが無駄に冴え渡りすぎて、科学にあまり興味がなく違うものを期待して読んだ人間には、だから何?という感想しか起こらない。ここはあくまでも主観評価の場だから、自分の興味を基準にして面白いか面白くないか、あるいは有益か有益でないかを判断すればよいのであって、結論としては、それで十分であろう。
なお、シリーズ全体を読んでみれば、思わぬ仕掛けが明白になるのかもしれない(人類の行動、歴史全体が、何らかの物理学的アイデアになっているといった類の)。その辺は、他の三冊を読んだ上で改めて検討してみたい。

以上が、本書のみを読んだ現段階での最終感想。追って他の三作を読む。
10. Posted by silvering   September 11, 2004 04:41
そもそもブリッシュは4作を後でまとめて合本で出しているようだから、出版順に読むよりも合本の順番どおりに読むべきなのかもしれないが、もともとレトロヒューゴー賞を受賞したから上の本を読んだわけだし、英国協会賞や今年のヒューゴー、ネビュラも読まなきゃならないし、まあいいだろ。

これだけ評価が高いんだから、合本の順番で読み直せばまた違う印象になるのかもしれないけれど、それは受賞作読書ノルマ達成後の楽しみに取っておこう。

ということで次は、予定通り、同じ主人公の「時の凱歌」で。こっちは紹介文を読む限り、面白そうだ。
しかし「宇宙零年」も面白そうなんだよなあ。

オールディスの「10億年の宴」には何と書いてあるのかな? 後でチェックしてみよう。
11. Posted by silvering   September 11, 2004 05:28
あと、本書の印象が悪かったのは、訳文のせいもあるかもしれない(本書は砧一郎氏、他は浅倉久志氏)。今「時の凱歌」少し読んでみたけど、文体がかっこよくて味がある。砧さんの訳文は、けっこう粗削りで、美文とは言いがたい。
12. Posted by silvering   September 11, 2004 06:14
他の3作も読もうと思ったけど、どうせなら「故郷に還れ」含めて「宇宙零年」から順番に読んだ方がいいやと思い直し、後回しにすることにした。
何やら相当独創的な科学アイデアがあるらしいので、根っころがってスペオペ読み飛ばすように斜め読みするのも失礼だろうし。それに、「宇宙零年」や「時の凱歌」は「故郷に還れ」とカラーが違いかなりシリアスな文体・内容のようで、気合い入れて真面目に読んだ方がよさそうだから。1回頭リセットします。
13. Posted by silvering   September 11, 2004 06:34
なお、「星屑の彼方へ」は紛失中、古本屋で見つけて買ったはずなんだけど。
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