SF百科図鑑 Mary Gentle "A Secret History"The Book Of Ash #1


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August 01, 2004

Mary Gentle "A Secret History"The Book Of Ash #1

ash#1
アッシュ4部作、第1部。
実は本国では合本で1冊の長編として出たといういわくつきの作品である。フランク族に滅ぼされるまでフランス東部からスイスにかけて15世紀ごろまで存在したバーガンディ王国のジャンヌダルクを髣髴とさせる娘傭兵「アッシュ」の年代記と、複数の古文書をつき合わせながら自信満々に新たな歴史解釈を行い新訳版を編集者に送る歴史学者ピアス・ラトクリフ博士の手紙からなる外枠の物語の入れ子構造となっている。
「アッシュ」は架空の人物のようだから、一種の改変歴史小説に分類できると思われるが、アマゾンコムの書評などを読むと、通常のヒロイックファンタシイの体裁は第4巻で壊され、歴史SFになってしまうらしい。そのために冒険ファンタシイを期待したファンの評判は悪いが、逆にすれっからしのSF読みには向くかもしれない。そうだとすると、第4巻まで読まねばなるまいが(笑)。とりあえずそれは受賞作読み完了後に回すことにする。
silvering at 19:26 │Comments(7)TrackBack(1)読書

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1. Mary Gentle "ASH -- A Secret History" [ 馬とSFの日々 ]  October 27, 2004 04:14
気が早いが、ビジョルドをもうすぐ読み終わりそうなので、いよいよ最後の1冊、英国協会賞受賞作の本作のスレッドを立てておく。4分冊の米国版の第1巻を既読の、あれである。 ...

この記事へのコメント

1. Posted by silvering   August 03, 2004 00:03
アッシュ 秘密の歴史(アッシュ・シリーズ#1)メアリ・ジェントル

イントロダクション
女傭兵アッシュ(1457-1477)について様々な歴史家が論じてきた。しかしこれまで人目にふれず保管されてきた決定版とも言うべき文書が見つかったので出版することになった。

プロローグ 1465-1467 讃美歌57:4の2「わが魂は獅子とともに」

傷跡ゆえに、彼女は美しかった。
二歳になるまで彼女に名前をつけようという者はいなかった。傭兵の焚火の周りを這って食べ物を探し、雌犬の乳を吸い、泥の中に座るようになっても、〈うんこ犬〉〈汚れ面〉〈灰まみれのケツ〉などと呼ばれる始末だった。その髪がぱっとしない薄茶色から白っぽいブロンドに変わるにつれ、〈アッシー(灰色)〉と呼ばれるようになった。言葉を覚えると、すぐに彼女は、自らを〈アッシュ(灰)〉と呼んだ。
アッシュが八歳のとき、二人の傭兵が彼女を強姦した。
それゆえ彼女は処女でなかった。

アッシュは自分を犯した(顔の三つの傷はこのときのもの)二人の傭兵をクロスボウとナイフで殺し、一人前扱いされ鞭打ちの刑を受けたあと武器を与えられ訓練を受ける。

アッシュはトイレにたち、キャプテンと部下三人が森に入るのを見てあとをつけ、先回りして教会のそばの木の穴に隠れる。傭兵四人は祭壇に向かって歌う。〈処女から生まれた獅子〉が現れアッシュに近づき引きずり出す。アッシュはもらしながらも傭兵の歌を歌うと獅子は襲わずに去っていく。「処女でないのに襲わなかった、これは何かの前触れか」と傭兵は驚く。

アッシュは自分の美しさを際立たせるため髪を伸ばして耳を隠し男たちと寝るが、銃兵のガイライムだけは手を出さない。ある日彼はアッシュに牛を引かせ、剣を与えてトサツ場につれていく。飛び散る血しぶきを浴びて失禁し泣きだすアッシュに、ガイライムは牛を切れと命じる。アッシュは泣きながら牛をやっと切り殺し、体を洗う。

アッシュはリチャードと塔に登り戦闘を眺め、キャプテンのテントできいた軍の部隊配置の話に従って論評を加える。その際中に初潮。塔から降りてすぐ塔が崩壊する。戦闘は双方が捕虜を取って終わる。ガイライムは捕虜に取られ結局戻ってこず、さまざまな噂が流れる。アッシュはリチャードと声が聞こえるという話をしていると村の尼シスター・イグレインからお前には悪魔が宿ってるといわれる。このときの戦は、モリネラの戦い(1467)と思われる。

最後に、この「del Guiz Life」の翻訳者(中世史学者)ピアス・ラトクリフの編集者にあてた手紙で徐々にこのテキストの性格が明らかになる。過去に出された二種類のテキストの編者の一人(チャールズ・マロリー・マクシミラン)はバーガンディ王国(これ自体は実在する、フランス東部のバーガンディ族の国でフランク族に征伐された)が崩壊(アッシュは病死、国王は処刑)後も実在したと論じるが事実ではないと反駁する。

(ここまで読んでぐぐってみた。原書は四部作が全体で1冊の長編として出ており、外側のラトクリフ博士の物語が第四巻で全体を統合し、一種の中世を舞台にしたSFになってしまうそうで、中世を舞台にしたエピックファンタシイを期待した者は面くらい、酷評をしているものもいる。なおアッシュはジャンヌダルクをモデルにした架空人物と思われる。)

第1部 1976・6・16-7・1

アッシュは獅子の旗を掲げ、ロバート・アンセルムを副官とする81人の部隊を率い、バーガンディ軍と衝突する。そして敵将の男爵を負かし、勝利宣言する。ところが、500を越える弓兵部隊が現れ、退却を余儀なくされ、馬を失いながらローマ皇帝フレデリックの領内に逃げ戻る。皇帝には無駄な戦闘をするなと詰られる。アッシュはロバートに自分の領地が欲しいと語る。副官は仲間を失った敵兵の心中を思い、アッシュは神父にでも懺悔しろというと医師フロリアンのテントに行く。肩の外れた男の手当て、強引に肩をはめなおす。アッシュは早く部隊にもどれといい、フロリアンは何でもっと瀕死の患者や死者をつれてこない?と皮肉る。アッシュはフロリアンをテントからつれ出す。そこへリカード少年が皇帝が呼んでいるときたので、医師と共にいくとテントの周りに貴族が集まっている。ゴドフレイもいた。アッシュは報酬として皇帝に「夫」を与えられ、否応なく結婚を承諾する。フェルナンド・デル・ガイズという皇帝の遠い親戚の若者と。

アッシュは姑と婚礼の髪や衣装を整えているがそこへ部下がやってきて指示を仰ぐ。姑は顔をしかめるが、アッシュは謝りながら部隊のキャンプに向かう。皇帝は公爵に下がるよう申し入れているらしい。アッシュはキャンプで報告をきき、フットボールをせよと命じる。またボーイのリカルドがいい男になったので変な噂が立つと困るからもっと幼い少年を雇わねばという。アッシュはゴドフレイから、フロリアンが夫と兄弟で、もともとバーガンディ出身であることをきく。医師であるため勘当同然の状態らしい。ゴドフレイは仲直りを勧めるがフロリアンは断る。ゴドフレイはアッシュの結婚にも難色を示す。5年前、アッシュは婚約者に放尿され侮辱されたことがあったのだ。それをききアッシュはショックを受ける。アッシュはフロリアンに、兄が覚えているかどうか尋ねてほしいというが、フロリアンは断り、実は女性であったことがわかる。男性でないと軍務につけないため男性のふりをして軍医の訓練を受けたが、すぐにばれ、様々な部隊を転々としてここにたどりついたという。アッシュは何とか辞めずに済むようにすると請け合う。
(この展開はあんまりじゃねーの?)


アッシュが元気よく足を踏み入れると、そこは〈青き獅子の旗印〉の下にある中央広場だった。アッシュは背を丸めて屋根なしのカートの後部にのぼり、樽や藁籠や濡れた地面に三三五五座っている、あるいは腕組をして立ち、しかつめらしく彼女を見上げている男たちを見まわした。
「要点を確認する」アッシュの声は緊張してはいなかった。聞こえない者がいないように、はっきりと明確に話した。「二日前、われわれは公爵の軍と小戦闘をした。これは雇い主の指示に基づくものではなかった。私が命じたのだ。軽率だったが、われわれは兵士だ。軽率にならざるを得ない。時には」
最後の言葉で声を落とすと、ビール樽のそばにいる重騎兵の集団から笑い声が上がった。ジャン・ジェイコブ、グスタフそしてピーテル──パウル・デ・コンティの軍からきたフラマン人の男たちだ。
「あの時点で、われわれの雇い主には二つの選択肢があった。契約を破棄することもできた。そうなれば、われわれは敵方に直ちに寝返り、バーガンディ公チャールズと契約していただろう」
トーマス・ロチェスターが叫んだ。「多分、今からでもチャールズ公爵と契約交渉できますぜ。あの人はいつでも戦線から離れた場所にいますから」
「まだその時ではないだろう」アッシュがさえぎった。「一日か二日、待つ必要がある。われわれが彼を殺しかけたことを彼が忘れるまでな!」
また笑い声、もっと大きな。そこへ、ヴァン・マンダーの一味がやってきた──彼らは厳格さで知られ、それゆえ尊敬を集めていたので、これは重要な集会なのだ。
「それについては後で論じるとしよう」アッシュはきびきびと話しつづけた。「ニュースにいる司教がだれだろうと、われわれにはどうでもよいことだ。それゆえ、フレデリックは、もしその選択をすれば、われわれが寝返ることを知っていた。それが第一の選択肢だったが、彼は選ばなかった。第二番目の選択肢──彼が、われわれに報酬を支払う」
「そのとおり!」二人の女弓兵(この二人のいないところでは、二人は「ゲレイントの情婦」として知られていた)が喝采を上げた。
アッシュの鼓動が速まった。左手を剣のつかにかけ、破れた革張りを指でなでた。
「そう、お前たちも気づいてのとおり、われわれは金を受け取ってはいない」
野次がとんだ。群集の後方にいる者たちが前に詰めてきた。弓兵、石弓兵、嘴槍兵、火縄銃兵。誰もが肩を寄せ合って、アッシュを注視していた。
「ところで、私とともに戦った者たちは、よくやってくれた。素晴らしかったぞ。見事であった」考えるように言葉を切る。「あれほど多くの過ちを犯しながらも、戦いに勝つなど見たことがないわ!」
大爆笑。アッシュは負けじと声を張り上げ、特定の名前を呼び上げた。「ユエン・ヒュー、お前は、死体の物を盗む役目を忘れた。パウル・デ・コンティ、お前は突撃の号令時に遠すぎて、敵に達したときには馬がすっかりばてていたぞ! 降りて歩いて来たわけでもないのに、呆れたわ。司令官の命令に注意を払うことについてもな!」アッシュはそれ以上追及するのを止めた。「四六時中、旗印から目を離さぬようにと、きつく言っておかねばならんな&&」つばを飲みこんだ。
ロバート・アンセルムは、何百というかまびすしい話し声に負けじと、必死で声をはりあげて賛同した。「おっしゃるとおり!」
笑い声が起こり、当面の危機は乗り越えたとわかった。少なくとも一時的には。
「そのために、我々は今後、数多くの小戦闘の訓練を積まねばならぬ」アッシュはカートの後部からにらみつけた。「おまえたちのしたことは、とてつもなく素晴らしい。孫たちに語るがよい。それは戦争ではないのだ。戦場では、騎士と騎士の一騎打ちなどありえない。なぜなら、お前たちには弓というものがあるからな! おお、それに──火縄銃もな」銃部隊の男たちの気安い不満に応えるように、にやっと笑い、「火縄銃が不発に終わるときの、あの素敵な音の聞こえない戦いなど、戦いとは呼べんからなあ!」
アストンの軍から来た赤毛の重騎兵が叫んだ、「斧を取れ!」すると、歩兵たちが声を合わせて歌った。銃兵たちもあれやこれやと、下品な声で応じた。アッシュは彼らを鎮めるようにと、アントニオ・アンゲロティにうなずいて指示した。
「何にせよ、あれはすばらしかった。残念ながら、金にはならなかったがな。それゆえ今度、バーガンディ公チャールズの尻に槍を突き立てる機会があれば、私は真っ先に駈け戻り、お前たちの報酬の先払いを要求しよう」
後方の声が一瞬の静寂をとらえて叫んだ。「ハプスブルグ公フレデリックの糞野郎め!」
「寝言を言うな!」
爆笑。
アッシュは尻の重心を反対側に移した。不安定な風が、顔に髪を吹き広げた。料理の火の、馬の糞の、密集した群集の八百日分の汗臭い体の匂いがした。彼らの大部分は頭をつるつるに剃り、野営地で原則的には戦闘から守られているのだ。嘴槍や斧槍は、一ダースもの束になってテントに積まれている。
子供たちは広場の隅を駆け回っているが、戦った男女が集まった群集の中には入れない。戦わなかった男女、つまり娼婦やコックや洗濯女は、大半が野営地の外れにとめたワゴンの縁に腰かけて、聴いていた。いつものことだが──相変わらず、サイコロのばくちに興じている男、濡れた布をかぶって寝ている酔っ払い、どこに行ったかわからない連中もいた。だが、配下にいる人間の大多数は、目の前にいた。
見知っている多くの顔を目にして、アッシュは考えた。私にとって最もありがたいことは、彼らが私の言葉に耳を傾けてくれることだ。彼らは私に指図されることを期待している。彼らの大半は、私に味方してくれる。その代わり彼らに対し、私には責任がある。
他方で、契約先となりうる他の部隊も常に複数あるのだ。
彼らは静まり、アッシュの言葉を待った。あちらこちらで仲間同士の交わす言葉が聞こえた。湿った地面の上で多くの長靴が動いた。人々は何もいわずアッシュを見つめた。
「三年前この部隊を立ち上げて以来、お前たちのほとんどが、わたしについて来てくれた。それ以前からわたしについていた者も中にはいる。わたしが〈金のグリフィン〉それから〈大蛇の仲間〉のために徴発した兵士。周りを見たまえ。狂った荒くれ男だらけだ。お前自身もそうだし、お前の隣の男もたぶんそうだ! わたしについてくる者はみな、狂わねばならん──だが、そうすれば」アッシュは声の調子を強めた。「そうすれば、どんな逆境からでもお前は生きて帰れる──そして、この上ない名声と──報酬がもらえるのだ」
アッシュは鎧をつけた腕を上げ、声の調子を上げた。「そして今度こそがその時だ。たとえ、結婚によって報酬を得るとしてもだ! 何事にも初めというものがある。フレデリックはそれを見つけたのだ」
アッシュは副将軍たちを見下ろした。彼らは身を寄せて立ち、言葉を交わしながらアッシュを見ていた。
「この二、三日の間、わたしはいろいろと画策した。それはわたしの仕事だ。だが、お前たちの未来でもある。われわれはいつも公の集会で、どのような契約ならば受け入れるべきか、あるいは受け入れるべきでないかを議論してきた。そこで今回は、この結婚について論じようではないか」
言葉はいつもどおり滞りなく出てきた。彼らに話しかけるのに困難はなかった。その流暢さの陰で、アッシュの声は張り詰め、細くなった。素手の両手を握り締め、指の関節が緊張しているのがわかった。
何を言えばいいのだろうか? われわれはそれを受け入れるべきだが、わたしにはできないと?
「議論が終わったら」アッシュは続けた。「投票で決を採る」
「投票?」ゲレイント・アプ・モーガンが叫んだ。「本物の投票で決めるつもりですか?」
誰かがはっきりと聞こえる声で言った。「民主主義とは、目上の言うとおりにすることさ!」
「そうだ、本物の投票だ。なぜなら、もしわれわれがこの申し入れを受ければ、わが部隊の領地となり、わが部隊の収益となるからだ。もし受け入れないとすれば──フレデリック皇帝が許してくれそうな言い訳はただ一つ」アッシュは言った。「『わが部隊が許してくれなかったのです!』」
アッシュは、彼らに深く考える暇も与えないまま続けた。「お前たちはわたしについてきた。そして、他の傭兵部隊とも数多くともに働いたが、どれ一つとして何年も続くどころか、ひとシーズンも持たなかった。わたしはお前たちの武装が常に十分であるようにと、行く先々で略奪品をお前たちに与えてきた」
雲が動き、日光がぬれた地面を横切って、アッシュのミラノ式プレート・アーマーを照らした。あまりにタイミングがよかったので、アッシュはゴドフレイに疑わしげな視線を投げた。ゴドフレイは、両手で〈いばらの十字架〉を握りしめて、カートの下に立っていた。
(以上、116pまで)
2. Posted by silvering   August 04, 2004 00:32