SF百科図鑑

Tim Powers "Declare"

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September 24, 2005

Tim Powers "Declare"

世界幻想文学大賞
密度が濃くて凄かったけど、疲れた。力作だが、長すぎる。
普通の歴史スパイ小説風に始まりながら、途中からオカルトスリラーに変わってしまうのが凄い。読んでいる最中は全員全く架空の人物と思っていたのだが、出てくる人物もほとんど実在の人物であるばかりか、その行動も空想した部分を除いては、すべて歴史上の事実であるらしいのに、驚き呆れる。
核となる人物、キム・フィルビーというのは実在の英国、ロシア、米国を転々とし最後は崩壊直前のソ連で死んだ<二重スパイ>として有名で、ジョン・ル・カレをはじめ様々な作家が小説化しているらしい。そればかりか、本人や元妻のエリナーも伝記を書いているようだ。全く知らなかった。こういう予備知識があるかないかで、本書を楽しめる度合いは格段に違うだろう。日本ではあまり知られているとは思えないので、こういう人物の知識を要求する時点で、日本での本作の「一般性」は若干マイナス。なお、父親の聖ジョン・フィルビーという人物も実在人物で本を書いているようだ。巻末の作者あとがきにそう書いてあった。
作者は、ル・カレのファンで、ル・カレの作品からフィルビーに興味を持ち、すべての文献を精査の上、ミッシングリンクを想像力で生めて本作を書いたそうだ。そのミッシングリンクの部分に、千夜一夜物語の<ジン(魔神)>、アラビアのロレンスやレバノンの隕石墜落地などをぶち込んで、ぶっ飛んだ架空オカルト歴史(伝記)ストーリーをでっち上げている。このあたりもある程度知識というかセンスを要求されるので、こういうものに興味をもてない人間(例:私)には少しつらいでしょう。
以上のような予備知識も何もないまま読み始めた。ストーリーは戦時中から終戦直後にかけてのストーリーと、1964年前後のストーリーが交互に進む。1948年、アララテ山の谷間を遭難しさまよう男の姿がプロローグでなぞめいて描写される。一転して、1963年、ロンドンで大学の講師をしているアンドリュー・ヘイルという男が秘密の暗号で諜報部に呼び出される。この男、実は元スパイであったが、かつて失敗に終わった<デクレア作戦>が再開されるというのだ。更に、話しはいきなり戦時中に戻る。アンドリューはベイルート生まれの男で父は不明。母親はロンドンに在住し同地の共産党と連絡を取りロシアのスパイをしている。母の死後アンドリューもロシアのスパイとなった。そして、パリに派遣されるが、そこでともに行動したエリナーという女と恋仲になる。だが、この女はロシアに恋し、ロシアの妻であると公言していた。戦火を逃れてエリナーはロシアへ、アンドリューはロンドンへ戻る。ロシアのスパイであったことを自白ししばらく拘置されていたアンドリューは、そこでキム・フィルビーという男を知った。やがて英国のスパイとなって終戦後のベルリンに東西の<壁>の確認に行ったアンドリューは、エリナーやフィルビーと偶然会う。更に、世界大戦の背後にあるもうひとつの<巨大なゲーム>が進行していると上司に知らされる。それはアララテ山に住む魔物、<ジン>をめぐる各国の諜報戦であり、<ジン>の抹殺計画こそが<作戦デクレア>であった。1948年、フィルビーは、英国諜報部に所属して、現地のベドウィンなどに紛れ込みながら、隕石を使ってアララテ山のジンを爆殺する作戦を遂行。フィルビーや、フランス諜報部に紛れ込んでいるエリナーも現地に向かっていた。しかし、この作戦は失敗に終わり、多数の死者を出した。アンドリューは辛うじて英国に生還、エリナーは死んだと思われていた。ところが、1963年、エリナーは生きており、フィルビーを銃撃する殺人未遂事件を起こしたという情報が入った。アンドリューは第2の作戦デクレアを遂行するためベイルートへ向かう&&。こんな感じの話。
前半まで普通のスパイスリラーと思っていたので、途中から<ジン>だの謎の隕石だの、3つの神器で不死を得るだの、同時に二箇所に存在する人間だの、わけのわからないオカルトネタが次々と出てきて、頭が追いつかなかった。最初から言ってくれよ&&。オカルト風だが実はちゃんとした論理的説明があるのだろうという前提で読み進んだのに、オカルトのままやないか。うんざりして後半はかなり飛ばし読み。
正体不明の<多国籍スパイ>フィルビーは、聖ジョンという男の息子で、<同時に二箇所にいる能力>を父から受け継いだが、10歳のときに腹違いの弟が生まれたのを境にこの能力がなくなってしまった。この弟が実はアンドリューだった。フィルビーとアンドリューで一組として<ジン>に認識されるため、作戦デクレアでは二人が同時にアララテ山にいる必要があったのだ。フィルビーとアンドリューは、第2の作戦デクレア終了後、再びモスクワで再会、40歳の誕生日に教会に行くといっていたエリナーをとるか、3種の神器での不死をとるかで<デクレア>というトランプゲームをする。アンドリューが勝ち、エリナーをゲットするという幕だった。
あまりの長さに途中で体調不良を起こし、後半は頭が朦朧とする中で無理やり読み終えたので、ディテールを相当読み落としているが(作戦デクレアそのものに全く興味を惹かれなかったせいもある)、長すぎるので再読することは当分ないだろう。また、本書を読んでキム・フィルビーや千夜一夜物語、アラビアのロレンス、ル・カレなどに興味を引かれたわけでもないので、作者があとがきで熱く語りながら引用している書物群もさっぱり読む気にならない。本書じたい、単に積読解消のためにいやいや読んだだけだし。
とにかく、この作者の小説は長いのが最大の欠点だ。もう少し短く書こうと思えば書ける話だ。内容がどんなに優れていても、長いのはやはり整理能力の欠如を意味し、明らかな減点材料である。その分印象が悪くなり、点数は低くなる。もったいない。
テーマ性  ★★★
奇想性   ★★★★
物語性   ★★★
一般性   ★★
平均    3
文体    ★★
意外な結末 ★★
感情移入  ★★
主観評価  ★★1/2(26/50)


silvering at 10:11 │Comments(3)読書

この記事へのコメント

1. Posted by slg   September 24, 2005 10:30
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