SF百科図鑑 John Brunner "The Sheep Look Up"


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September 11, 2005

John Brunner "The Sheep Look Up"

1972年長編
破滅もの。前半がやや冗長に感じるが、後半は凄い。
環境汚染が進み、人々は外出するときガスマスクをするようになっている未来のアメリカ。環境汚染を容認して産業開発を進める国の政策に反対する<トレイン派>という団体が、創始者トレインの失踪中に過激派と化し、様々な破壊工作を行い始めていた。ある大企業は有害物質を含む人工食料を無害と称して開発途上国に輸出し、その国ではこの食料に起因して精神に異常をきたした人々が暴動を起こすという事件が起こっていた。米国内では雪崩で多数の死傷者が出、その近辺で伝染病が流行し、大気や水の汚染はさらに悪化し、汚染物質による錯乱によって人々は暴動を起こし、家々に放火して回った。政府は戒厳令を布告し、暴動を鎮圧。折りしも、トレイン派の始祖トレインが再び姿を現し、テレビのインタビュー番組に出演して自らの意見を発表しようとするが、くだんの大企業の社長子息がトレイン派に誘拐された事件の犯人として警察に逮捕されてしまう。米国内は完全にアノミー状態となり、その後も暴動が相次いだ。やがて、トレインの裁判がテレビで生中継されるが、被害者の少年はトレインの顔を見て犯人ではないと断言。捜査段階での証言は検察官に誘導されたものだった。その場でトレインは、一連の環境汚染の原因が米国政府の地中に投棄した生物化学兵器を詰めこんだタンク(地震で破裂)であったことを暴露し、傍聴人や全米視聴者の圧倒的な喝采を浴びるが、過激派のナパーム弾攻撃でて落ちた天井の下敷きになり、殉死。テレビショーで地球を環境汚染から救い人類が生き延びる道をきかれたドクター・グレイは、「人類の中で最も贅沢で浪費家の2億人(=アメリカ人)を皆殺しにすることです」と答える。そして、米国が滅亡したことを暗示するミルトンの引用で締めくくられる。
スタイルはStand On Zanzibar同様に、多数の登場人物が入り乱れて様々なサブストーリーが交互に平行して進行する物語のパートの合間に、広告や文献の引用やテレビ番組の引用などが挿入される<全体小説>スタイルである。したがって読みやすくは必ずしもないのだが、構築された世界像がずっしりと重量感のあるリアリティを持って迫ってくる。環境汚染に関するディテール描写は強烈で、かつ、リアリティもある。そして救いがない。把握しきれないほど多数の人物が次々と登場するが、右往左往しながら次々と死んでいく。核となると思われるオースティン・トレインすら、かなり遅く登場し、登場場面が少ない上に、淡々と描写され、クライマックスの法廷演説場面で一気にスポットライトを浴びるものの、あっさり死んでしまう。その酷薄な悲喜劇ぶりはヴォネガットをも連想させるが、ヴォネガットよりもリアルな分インパクトも強烈だ。救いのない破滅ものという点では、ディッシュの『人類皆殺し』が思い浮かぶが、エイリアンによる外来的終末であった『人類皆殺し』と違い、この作品の未来像は現実となる可能性の低くないリアリティのある未来であるだけに、余計に恐ろしい。国家や企業が、国家的なエゴや企業収益のために環境や国民の健康への配慮を軽視し、危険な兵器や有害な食品・薬品を開発し、公害の原因物質をばら撒いている状況は、公害規制が強まった現在も一掃されているわけではなく、むしろ法の網をかいくぐって闇でなお進行している。Stand On Zanzibarのテーマである人口爆発問題は、すでに人口減少・高齢化が問題となっている現状ではやや古びているが、本書のテーマはまったく古びていない。それだけに、本書のラストはいまなお衝撃的であり、痛烈な政府や企業への批判になっている。
私の読んだブラナー作品の中では、Stand On Zanzibarに優るとも劣らぬ出来(テーマ性では上記のように超えている)だと思うし、50年代に書かれた一連の破滅テーマSFの名作群に比べても、一歩抜きんでた作品なのではないかと思う。

テーマ性  ★★★★★
奇想性   ★★★
物語性   ★★★
一般性   ★★★★★
平均    4点
文体    ★★★
意外な結末 ★★★★
感情移入力 ★★★
主観評価  ★★★(34/50)
silvering at 01:10 │Comments(0)読書