SF百科図鑑 安部公房『方舟さくら丸』新潮文庫


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September 02, 2005

安部公房『方舟さくら丸』新潮文庫

84年の長編
よかった。
駄目人間の主人公がさまざまな駄目人間をスカウトして、採石場跡の洞窟に核シェルターを作り、それをノアの方舟に喩えて搭乗。ところが、そこへ侵入者が現れ、邪悪な実父が率いる老人集団<ほうき隊>との対立が勃発、死体処理を依頼され、乗組員内の足並みが乱れてくる。折も折、主人公の足が便器のパイプにハマって抜けなくなる。そこへ処理する遺体が運び込まれるが、それは主人公の実父だった。<ほうき隊>が狩っているのが女子中学生であることが判明し、逃げ込んだ女子中学生がシェルターの地下に潜んでいるらしい。主人公の足を抜くには、パイプの破壊か、地下の操作盤を探すか、足の切断か。乗組員は女子中学生探しをかねて操作盤を探しに。その間に主人公は地下水流を変えるスイッチを女に操作させ、核爆発でシェルターが作動したとうそをつく。そして足を抜く。主人公は、核はうそで秘密の抜け道があるから抜け出そうというが、乗組員たちは中に残り結局主人公だけが抜け出す。外に出た主人公の目には、町も人も自分も透明で、生き生きと死んでいるように見えた。主人公は思考するのをやめた。
人心の荒廃した社会にうんざりした凡人が逃避的閉鎖空間にはまり込んでいくといういつもの安部パターンがはっきりと構造的に現れた作品で、それが核時代の人類全体に潜む自殺願望というマクロな形でテーマ化され、似非核シェルター内の俗人たちの滑稽な人間模様の中に集約されている。自分で作ったシェルターのこともあろうに便器にはまるというエピが黒い滑稽味を高めている。作中で言及される鯨の集団自殺は人類の自殺願望、終末願望のメタファーでもあろうし、最終的には外の生き生きとしているはずの街や人や生き延びた自分さえもが、幽霊のように透き通って「既に死んでいる」と断ぜられ、ようするに、人類全体の死亡宣告が行われている。大江は人類の狂気を抜け出す道を探ろうとあがくが、安部は人類の狂気を種としての自殺願望の表れと捉え、諦観的に嘲笑しており、テーマは似ているが態度は対照的。
テーマ性   ★★★★★
奇想性    ★★★★★
物語性    ★★★
一般性    ★★
平均     3.75
文体     ★★★★
意外な結末  ★★★
感情移入   ★★
主観評価   ★★★1/2(36/50)
silvering at 11:20 │Comments(0)読書