SF百科図鑑 ルイス・シャイナー『グリンプス』創元SF文庫


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August 15, 2005

ルイス・シャイナー『グリンプス』創元SF文庫

世界幻想文学大賞 100ページほど読んで中断していたのを読了
願望充足ファンタシイであるとともに、父子関係に起因するトラウマで打ちひしがれ、大人になれない中年男の魂の再生の物語。作者の心の自伝的要素もあるのかもしれない。
主人公は自分を理解しない父との冷たい関係に起因して、鬱屈した人生を送る中年のオーディオ機器修理工。父が海で事故死したことで、父との関係を正常化するチャンスを永遠に失い、妻のエリザベスとの関係も危機に差し掛かっている。かれは満たされない思いを、ビートルズの曲を聴いて埋め合わせようとしているうちに、ビートルズの演奏を自分の望むように変更させられることに気づく。彼はこれをテープに落とし、知人のレコード会社社長に聞かせる。知人は、主人公のこの超能力を利用して、さまざまな幻のアルバムの製作をもくろむ。ドアーズ、ブライアン・ウィルソン、そしてジミ・ヘンドリックス。しかも、主人公は、ただ幻の音源をテープに録音するだけでなく、脳内で60年代にインナートリップする能力もあるらしいことがわかる(ただし、外部からは昏睡状態にあるようにしか見えない)。主人公は、ジム・モリソン、ブライアン・ウィルソンに幻のアルバムを作らせる。だが、ジミ・ヘンドリックスの命だけはどうしても救うことができず、ついにはジミをかばおうとしてトラックに飛び込み、自らの命を落とす。あの世で、主人公はジム、ブライアン、ジミ、そして海で命を失った父親と再会する。父親との対話で長年のわだかまりを少し解いた主人公は、生死の境をさまよっていた現代の病院で目覚める。主人公は、エリザベスと離婚し、不倫関係にあったロリという人妻(祖父の性的虐待、夫のDVで心の傷を負っている)と結ばれ、病に倒れた母とともに3人で暮らし始める。父へのコンプレックスをようやく克服した主人公は、初めて父の死の悲しみに素直に身をゆだねる。
エンタテインメント小説と考えるなら非常に冗長に思われるかもしれないが、作者の意図は、60年代的世界や精神性のリアルな再現と、父子関係に悩む男の魂の再生のテーマを追求することにあると思われるので、60年代ロック音楽、若者の生活風俗に関するディテール描写、主人公の家族や妻、恋人との葛藤、セックスの描写にページ数が割かれていることが特にうるさいとは思わない。むしろしっかりとディテールを詰め込むことで、作者の構築する世界に没入し、そのテーマについてリアルに感じ、考えることが容易になっていると思う。
主人公が自分の道を見出し、自己否定を捨て、積極的に自分自身とその人生を受け入れていくことができるようになるエンディングは、静かな感動がある。いい作品だと思う。
テーマ性  ★★★★★
奇想性   ★★
物語性   ★★★
一般性   ★★★
平均    3.25
文体    ★★★★
意外な結末 ★★
感情移入力 ★★★★
主観評価  ★★★(32/50)
silvering at 23:06 │Comments(0)読書