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フィリップ・ホセ・ファーマー『恋人たち』ハヤカワ文庫SF

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August 11, 2005

フィリップ・ホセ・ファーマー『恋人たち』ハヤカワ文庫SF

性テーマSF
メインアイデアにはびっくりしたが、小説としては駄作。
とにかく浅墓でモラルが低く自分勝手で犯罪的な主人公ハル・ヤロウが最低で、感情移入できない。最後にはとうとう殺人まで犯す。また、女性描写も類型的で、それはヒロインのエイリアン女性ジャネットも例外ではない。こいつら、物語の中心人物になる資格である魅力を備えていないだろう。むろん、脇役の主人公の元妻、上司やオザゲン星人の感情移入学者にしても然りなのだが。また、主人公が自由を求めてそこから逃げ出す宗教的絶対主義体制の描写も笑ってしまうほど陳腐である。
ストーリーは要するに、未来の宗教的絶対主義国家の中で強制的に結婚させられた女と週1のセックスの勤めを果たすのにも苦痛を感じていた言語学者が、異星生物の言語を研究するため派遣される。男は、妻と別れるのが目的で応諾する。かれは地球上では事故で死んだものと取り扱われた上で、オザゲン星に行く。オザゲン星は、甲殻類から進化した知的生物のオザゲン星人が支配し、かつていた哺乳類の知的種族は彼らに滅ぼされてほとんど生き残っていない。ここには知性はないがオザゲン人に擬態しアルコールを製造してオザゲン人に規制する虫など、虫類が多い。ここで男は現住の美女と恋に落ち、女性をかくまう。彼女は人間の女性と外見上そっくりだが、彼女の話によれば昔訪れたフランス人と地元人類(哺乳類)の末裔女性との混血だという。彼女はフランス語が崩れた言語を話していたが擬態能力が強くすぐに英語を覚えた。アルコールが好きで、セックスのときは電気をつけようとした。男は女のアルコール中毒を治そうと、酒をだんだん薄めていく。ところがあるとき女は高熱に見舞われて倒れる。血清を入手して注射するとかえって悪化した。男は仕方なくオザゲン人の感情移入学者に相談し、真相を知る。女はオザゲン人、滅亡した哺乳類とは異なる第三種の知的生命で、甲殻類から進化し哺乳人類に寄生して生きる女性のみの種族だった。他の種族の男性を誘惑して寄生し、これと性交しエクスタシーと同時にその顔面を撮影しデータを卵子に送って子の顔面を決定し、卵を産んで死ぬ。セックスのとき電気をつけるのはそのため。アルコールは顔面撮影を妨げ出産死を遅らせる効果があるのだった。主人公は自らのよかれと思ってしたことでジャネットの死を招いたことを知りショックを受ける。上司たちが「虫と交尾した邪悪なやからめ」と彼を糾弾するが、彼は自由を求めて彼らを殺害する。オザゲン人絶滅を計画していた人類は船ごと穴に落とされて死ぬ。
メインアイデアはとてもすごいし、ジーン・ウルフの『ケルベロス第五の首』でも盗用されているほどの魅力的なものなのだが、残念ながら小説としての出来があまりに酷い。人物描写、プロットともに雑すぎる。だいたい、死ぬのが怖くてアルコールを使うんだったら、セックスのときに電気を消せば出産を妨げられるんじゃないのか? ジャネットはなぜ電気をつけてしようとしたのだろう? 愛情ゆえ? 細かいところが破綻しているというか、不自然すぎて説得力がない。何よりもキャラクターに魅力がない。ファーマーはすべての作品がそうだけど(アイデアだけが不釣合いに凄い)。
ジャネットが擬態生物の一種だろうというのはだいぶ早いところで想像がつく。ただ、アルコールを作る知性のない擬態昆虫ではなかったのが救いだ。てっきりそうだと思ってたんだけど。
テーマ性  ★★★★
奇想性   ★★★★
物語性   ★
一般性   ★
平均    2.5
文体    ★
意外な結末 ★★★
感情移入力 ★
主観評価  ★★(23/50) 
silvering at 17:14 │Comments(0)読書

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