SF百科図鑑

C・S・ルイス『マラカンドラ 沈黙の惑星を離れて』ちくま文庫

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August 09, 2005

C・S・ルイス『マラカンドラ 沈黙の惑星を離れて』ちくま文庫

別世界物語1
つまらんかった。神学的啓蒙ファンタシイ。ある言語学者が悪い科学者・同僚学者に拉致されて火星に行く。そこには3種類の原住民(フロッサ、ソーン、プフィフルトリッギ)と、天界に住む透明な天使のような種族エルディルがおり、同じく天界に住む神のような生物オヤルサが統治している。造物主はマレルディルと呼ばれる。火星はマラカンドラ、地球は沈黙の惑星サルカンドラと呼ばれている。主人公は彼を拉致した二人に「いけにえ」にされそうになり逃げ出す。フロッサに助けられ、彼らの言葉を学び、他の原住民の助けも借りながらオヤルサの下に赴く。他の二人もフロス殺害のかどで連行される。かれらとオヤルサの対話が本書のクライマックス。地球人類の悪の象徴であるウェストンとディヴァインの二人は種族本位・個体無視の生命拡張主義をぶち、オヤルサに断罪され、地球に強制送還される。主人公ランサムもこれに同道する。ランサムは自分の体験が現実か幻覚か確認がもてなかったがひょんなことから著者ルイスにこの体験を語り、本書が書かれることになったというオチ。
物語としてはきわめて退屈かつ陳腐で馬鹿馬鹿しく、面白みがない。荒唐無稽のきわみであり、スミスのレンズマン以下の酷さである。人物は類型的でリアリティや深みがないし、火星の異世界描写、異種族描写も陳腐で興味をひかない。ストーリーも平板で行き当たりばったり、クライマックスが長ったらしい神類似生物との対話では萎えざるを得ない。オチのつけ方も酷い。内容のくだらなさを「知人学者から聞いた話、幻覚っぽい」というオチで言い訳しており、恥ずかしい。
唯一の価値は、オヤルサの語る<天界>からみた宇宙、生命の状況に関するヴィジョンや思想のロジカルな面白さぐらいだろう。本書をSFとして評価できるのも唯一この点だけである。徹頭徹尾科学文明を悪として描き<破邪顕正>しようとする単純さ、胡散臭さに腐臭が漂うのにあえて目をつぶればの話だが。
続編2冊もたいしたことはないだろう。
テーマ性  ★★★★
奇想性   ★★
物語性   ★
一般性   ★
平均    2
文体    ★★
意外な結末 ★
感情移入力 ★
主観評価  ★1/2(17/50)
silvering at 14:32 │Comments(0)読書
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