SF百科図鑑 エーリッヒ・フロム『破壊 人間性の解剖(上・下)』紀伊国屋書店


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June 17, 2005

エーリッヒ・フロム『破壊 人間性の解剖(上・下)』紀伊国屋書店

破壊フロムの攻撃性に関する書物。英国協会賞とネビュラ賞数編を除き、ノルマの縛りが解けたので、早速好きな本を読むことにする。
読了。
価値判断を先行させるあまり、理論のディテールがやや粗雑になっていたり、概念設定(線引きの仕方)に不適切な点があったりするものの、基本的な論旨、方向性は非常に説得力のある本だった。特に上巻終盤部分はすばらしい。
一般読者は冒頭の本能主義と行動主義に対する批判、下巻のヒムラーとヒトラーの分析、フロイトの批判はななめ読みで十分だろう。学界内部の楽屋的な事情や、ドイツ国内の特定人の不必要に詳細でありながら不正確な正確分析であり、やや公正さを欠く部分もあるからである。特に、大規模な破壊行為を防止するには、ヒトラー、ヒムラーの性格を分析してもあまり意味がなく(人口が0億もいて生活環境が全部違うならどうあがいても似たような人間が出てくることは防げないし、そういう人間をいちいち見分けることは現実問題として不可能)、むしろ、そういう人間が権力を握ることが可能になったのはどうしてか、なぜ人気があったり権限を与えられたりしたのかという、周囲の人間やドイツ国民のパーソナリティ分析のほうがむしろ興味のあるところである。
またサディスティックな性格、ネクロフィラスな性格に関する定義、概念設定が非常に粗雑であり、相異なる様々なものを直観や乏しい臨床観察を根拠に強引にまとめてしまっている印象がある。とはいえ、基本的な方向性は妥当と思われるし、少なくとも、従前の心理学、精神分析学でほとんどスポットの当たらなかった部分に関する理論化であるという点では意味がある。多少、現実にあった形でアレンジすれば十分に使えるだろう。
本書を読んで新たに知った点は、人類学の章に書かれているように、「原始時代の人間は攻撃性がほとんどなく、文明の発展に従って攻撃性が増している」という事実がほぼ実証されているらしいということだ。恐らくそうであろうとは思っていたが、実際にそうであったということは、「人間には破壊欲が本質的に組み込まれているのではなくて、それは人間が存在的要求を満たすための選択肢の一つに過ぎない」という著者の論旨を裏付けているように思う。もしそうなら、うまく社会制度の設計をすれば、暴力なき(しかも、攻撃欲が抑圧されることも無い)ユートピアは可能なのかもしれない。暴力は、必要悪ではないのかもしれない。
本書の物足りない点は、サディズム、ネクロフィリア(通常の用語法と異なる著者独自の概念である点に注意)の症例研究に終始し、いかなる社会システムにすればこのような悪性破壊性の発生割合を減少させられるのかの分析や提案を全くしていないことだ。また、書かれた年代が1970年代と古いせいか、サイバネティックス的人間像に関する記述も非常に古い。特に、二一世紀のネット&コミュニケーション社会に住む我々の生活環境において、人間のパーソナリティ傾向はどうなるのか、攻撃性傾向はどうなるのかについては、我々自身で考えるしかない。
テーマ性   ★★★★★
奇想性    ★★★★
物語性    ★★
一般性    ★★★★★
平均     4点
文体     ★★★
意外な結末  ★★★
感情移入力  ★★★★★
主観評価   ★★★1/2(37/50点)
silvering at 20:24 │Comments(19)読書

この記事へのコメント

1. Posted by slg   June 17, 2005 20:35
35ページほど、ゆっくり読んでいる。
まずは、本能主義者として精神医学分野のフロイト、生物学分野のローレンツをとりあげ、特にローレンツを批判しているのだが、正直言って、この部分はあまり説得力が無い。
「次々と召使を首にする伯母さん」の攻撃性の説明として、ローレンツは「蓄積した本能的エネルギー」を理由としているが、それをフロムは「ナルシシズム的=搾取的性格」の問題であると決め付けている。
2. Posted by slg   June 17, 2005 20:35
しかし、性格特性の問題は、攻撃性の動力源の問題ではなく、その処理機構の特性の問題に過ぎないだろう。全然次元が違う。批判になってない。ここまで読んだ限りでは、ローレンツの主張のほうがより根源的で説得力がある。性格特性の違いで攻撃性の現れ方の度合いは違っても、その原因が「せき止められた生命エネルギーにある」という部分は内観上の経験則にも合致するし、より普遍的だ。
この本の評価は、ローレンツの本を読むまでは保留にしなければ。
3. Posted by slg   June 17, 2005 20:38
この人も、フロイトを批判しているようでいて、結局フロイトの偏見に染まっている人なんだなあと、なんかちょっとがっかり。
4. Posted by slg   June 17, 2005 20:41
フロイトの理論ってはっきりいって時代遅れだと思う。あんなものを未だに信じてたら、異常犯罪やイラク戦争だの北朝鮮だのを説明できないから問題の解決にならないだろ。使えない。実用性のない理論に一片の価値もない。
5. Posted by slg   June 19, 2005 04:45
また数ページ読んだけど、とにかく、こいつのローレンツ批判はヒステリックで酷い。確かにローレンツの主張も酷いことは酷いのだが、それを針小棒大に誇張曲解してこき下ろしている態度はおよそ「科学的」ではない、同じ穴の狢だ。外れかも。
こちとら自分の頭の中にある人間観、人間の攻撃衝動についての自分の主観に合致する説明は得られればいいので、ローレンツが何を言ってようが、本能主義だの行動主義だのと言った学者の相互オナニーには屁ほどの関心もないのだが、この作者、本が売れまくったローレンツに嫉妬しているのか。この手の学者本のいやな(使えない、役立たずな)ところはこういった世俗と無関係の学者の楽屋話に無駄にページをさくところだ。こういうところは話半分に読み流すのが相応しい。
6. Posted by slg   June 19, 2005 04:45
とにかく、こいつ、人間はこうあるべきだ、こうあってほしいと言う願望的思考がつよ過ぎて、冷静な科学的分析、記述と言う態度が希薄に見えるのが致命的だ。他人を非科学的と罵っている割に、当の自分がはなっから規範的思考を無意識に行っているのが痛すぎる。
7. Posted by slg   June 19, 2005 04:49
社会科学系の人って馬鹿ばっかりだな。やっぱり頭が悪いからそういうのを志すのかも。普通に頭が良かったら、物理学者とかになるんだろうしな。自分がそっち系だけに認めたくはないけど、なんか、ほんとがっかり。
8. Posted by slg   June 19, 2005 05:01
この手の学術書の評価基準だけど、今んとこ以下の3つを考えている。
客観(科学)性:宗教的、道徳的、理想主義的(=主観的)価値判断を排除し、客観的に事実を見据え、論理的に記述しようとしている度合。
普遍(包括)性:「宇宙の万物を統一的に説明できる法則の発見」が人間の理解欲の究極目標であることから、その本で定立されている法則や理論によって説明できる対象の幅の広さ。
実用(現実)性:上記のような法則もわれわれの現実生活に直ちに適用できる有用性がなければ価値は低いことから、現実生活においてその法則や理論を適用することで具体的に役に立つ度合い。
例えば、ストーの「人間の攻撃心」は
客観/科学性 ★★
普遍/包括性 ★★
実用/現実性 ★★★★★
こんな感じ。このフロムのは一緒ぐらいか、もっと低いかも。
9. Posted by slg   June 20, 2005 16:37
行動主義に対する批判は一転して当を得たものだった。
で要するに言いたいのは、価値の問題、目的の問題を全く省いて人間の心理や行動を論じることはできないと。人間が意識、知性、自己制御機構、打算的行動能力、目的的行動能力、高度な感情能力を有するという点が、他の動物との最大の違いだから、この部分を考慮せずに、こういった部分を有しない動物の行動分析や本能分析といった次元だけで人間を理解できないというのは確かに正論。ただ、もちろん、その領域を分析するにあたって、社会的、倫理的観点からの価値判断を先行させて「こうであってはならない」「こうであるべき」というのはまずいけど、まさかフロムのいうのはそういう意味ではないだろう。要するに、観察対象である人間の「価値判断、価値観、主観的行動要因、無意識的動機といった知的領域、性格」を冷静に分析、理解せよということだろう。
10. Posted by slg   June 20, 2005 16:37
その辺は多分後半で分かると思うが。とりあえず、人間のその(知的、情動的)部分の各分野における研究データの分析に入っている。まずは神経生理学。
11. Posted by SLG   June 26, 2005 15:19
投票内容
件数 場名 レース 式別 馬組 金額
(1) 阪神(日) 11R 馬 連 ながし 軸馬:05
相手:06,15
各100円(計200円)
合計 200円
12. Posted by slg   June 27, 2005 01:51
中断していたがまた少し読み進む。人類学に言及している章が出色の出来だ。
そしていよいよ、攻撃性の分類と分析、本書の本題に入った。これまでの300ページはすべて、前書きに過ぎなかった。普通の人はこの最初の300ページは読む必要は無いと思う。
13. Posted by slg   June 28, 2005 01:23
今日もマターリ10ページ。344ページまで行った。
あと2日ほどで下巻に入る。
14. Posted by slg   June 28, 2005 19:41
下巻に入った。
上巻の終盤がとにかく素晴らし過ぎ。さすがに完璧とまでは行かないが、現代に合うように少しアレンジすれば十分に使える理論体系だ。お見事。
下巻も今のところ良好。<サディスティック>という用語法や概念(特に、実際には生命増進的要求にまたがる概念として使っていながら、生命阻害的要求に分類している矛盾)にやや不適切なところはあるのだが、<他害的支配傾向>という命名をして概念修正を加えれば、十分使える。
ヒムラーの分析はややくどく感情的で独断的、公平を欠くが、これは著者がドイツ人だから仕方あるまい。少し割り引いて読めば十分楽しめる。
15. Posted by slg   July 01, 2005 02:03
ウィリアム・ジェイムズの「心理学(上下)」岩波文庫、絶版状態。古本屋に注文。
同著者の「純粋経験の哲学」を読み始めた。
16. Posted by slg   July 01, 2005 16:59
純粋経験の哲学。いまいちつまらない。
人間の現実の活動を理解するのに役立つ概念設定を標榜しているはずのプラグマティズムなのに、何でこんな回りくどい馬鹿げた説明をする必要があるのか。観念論哲学を否定するためだとしたらあまりにも空しいし、少なくとも世間一般の役には立たない学者同士の相互オナニー、マニアックなエロビデオに過ぎない。
それに、人間が経験する可能性のあるものだけが実在を考え論じる実益があるみたいなことをいいながら、経験のひとこまひとこまの関係やそれを認識すること自体も経験であるみたいなことを言っているけど、そこまで経験概念を広げてしまうなら観念論者のいう抽象概念や超越的飛躍だのも全て経験されるものとして実在していることにならないか。どこで線を引こうとしているのかがさっぱり分からない。
17. Posted by slg   July 01, 2005 16:59
観念論哲学に実用性があるかないかは現実と無関係な抽象概念を使っているかどうかとは関係なく、そこで設定された理論が現実に適用された場合にどういう効果があるかで判断すべきだろ。結局社会環境との関係で相対的に決まる。用具的に絶対視することは必要だとしても人間の精神作用は物理的実体という不動と推測されるものに規定されつつかならず主観的だから、絶対ではあり得ないということは心の中で誰でも知っている。看板だけは20世紀の多数人の経験則に合致し有用であるように見えながら、実際は中身がなくむしろ間違った方向に誤導しているような危うさを感じさせる。
18. Posted by slg   July 01, 2005 21:07
ジェームズの上記の本読み終えた。
目下の関心は、人間行動の悪性を抑えあるいは除去しユートピアを実現するてだてなのだが、その観点からするとジェームズの上記の本は期待外れであった。
人間行動の悪性の原因は「悪性化した情動に流され道具化された理性」であると思われるので、悪性除去のためには理性そのものに枠をはめ良性の方向に誘導する必要がある、その観点から理性のあり方を考える哲学や倫理学の理論状況に興味が出てきたのだが&&。
ジェームズの本を読んだ印象では、哲学者の主観的快楽以上に実用的価値を持つと思えない形式論理上の論争に不必要な紙数を費やしている印象があり、がっかりしている。いちおう、古い学者の主要な本も読んでみるつもりではあるのだが&&。

19. Posted by slg   July 01, 2005 21:07
ジェームズの本単独で見ても、古い学説に「新しい見方を付け加え相対化する」という以上の意味は無いように思われる。最後の論文では、オカルティズムに接近し、ほとんどSF的、宗教的な内容になっている。まあ、SF読み的な観点からは、面白いんだが。
ジェームズの思想そのものは、他の本も読まないと明確にならないから、現時点では本書の論評を差し控える。