SF百科図鑑 Ian McDonald "River OfGods"


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June 17, 2005

Ian McDonald "River OfGods"

神々の河プリングル100冊は終わりいちおうノルマ達成したので、あとは摘み残しを読むだけで、それ以外の読むものは自由気ままに選択の予定。だがいちおう英国SF協会賞が発表されたのでその長編賞受賞作の本書をぼちぼち読む予定。それとネビュラ賞のノヴェラとノヴェレットはオンラインで入手済み。あとは英国協会短編賞のバクスターだけだ。
つまらなかった。
前半大風呂敷を広げてだらだらと多数の視点人物からの話を並行して進めた割に、後半の展開がご都合主義過ぎる。これだけ前半が退屈なのだから、後半の種明かしによほどのセンスオブワンダーがないと元が取れないが、「違法AI」という存在がかなり初めのほうでクローズアップされているので、AIが真犯人でありジバンジーも同一の存在だという真相は、かなり早い段階で誰にでも分ってしまう。それを超える驚きの真相が合格の条件であったのに、予想通りの真相だったことであっさり駄作ぶりを証明している。
後半の展開も、人々は第三世代AIの意図のままに操られて翻弄されるだけ。大半の登場人物や死や破滅といった悲惨な末路を辿る。舞台となったバラト国はあっさり崩壊する。物語的カタルシスは皆無である。
唯一の美点とも言うべき「新作したこの宇宙と性質の違う情報宇宙に自らをコピーするAI、その残した贈り物が太古の昔に遡って存在していたコンピュータとして人類に贈られる」というSFネタの根幹部分の描写もあっさりしていて、今ひとつ感動に欠ける。
何より、ウザイ人物描写、情景描写、群集の描写、セックス描写をだらだらと積み重ねる悪文には本当に閉口させられる。本人は名文で読者サービスのつもりで書いているらしいから、始末に困る。あの愚作「イノセント」もウザイ文体にキモイ内容が相まった、頭痛に耐えない作品だった。特にセックス描写が多いのが「イノセント」同様で、作者のセックスを無理やり見せられているような気分にさせられ、この作品のキショさを倍加している。
この作家の作品は「火星夜想曲」なども評判がよいようだが、相性が悪いことがわかったので読むことはなさそうだ。
テーマ性  ★
奇想性   ★★
物語性   ★
一般性   ─
平均    1
文体    ★
意外な結末 ★
感情移入力 ─
主観評価  ★(10/50点)

~粗筋~

神々の河 イアン・マクドナルド

第一部 ガンガ・マータ
1 シヴ
死体は流れの中で回る。幅五歩のコンクリートの新橋がガンガ川を横切り、その橋桁には小枝やプラスチックが花輪のようにまとわりつく。川の漂流物だ。一瞬、死体もその仲間に加わりそうになる。黒い流れの中の黒いかたまり。
シヴは川から上がり、ヨゲンドラという少年の運転する車で走り去る。川べりにいる子供たちが、川に流れる女の死体を引き上げ、宝石類をむしりとる。沿岸の工事現場からまるみえだ。
ここ、インド北部、シヴの名を持つ町。シヴの車は市中にはいる。カシ、ヴァラニシ、ニューヴァラニシときて、宮殿を過ぎ、旧ヴァラニシ、カシ、と至る。カシには駅がある。カシとニューヴァラニシの向こうに第三のヴァラニシがある。工業地帯があり、カルチャーセンターなどがある。イギリス人がデリーにしたことを、ラナ一族はヴァラニシにしている。中央にバラト政府の議会がある。サジダ・ラナが首相を務めている。

2 ミスター・ナンジャ
ナンジャは暴徒化したAIを退治するAIハンターである。強力なコンピュータ・ネット検索、ハッキング、プログラム破壊等のアヴァターと称する神々に模したプログラムを入れたアヴァターボックスと、精神と肉体にそれぞれ作用する二系統の銃を合体させた銃を携帯し、脳の視覚、聴覚中枢で直接、ネットや通信アクセスすることができる。かれは、朝の四時に叩き起こされ、ナワダにあるパスタ工場で発生したAI暴動事件の解決に駆りだされた。かれはサンダーと婦警のセンを伴って、工場を訪れ、いっさいの通信をカットさせた上、内部に入る。現地人たちは、ジンという悪魔の仕業と怯えている。中に入ると、作業用の車に轢かれた男ら二人の死体があった。突然、シャッターが閉まり始め、桶が爆発したので、ナンジャは外に脱出し、アヴァターの<カリ>をネットにアクセスさせ、暴動AIの疑いのあるプログラム200ファイルを消去させた上で、別の入り口からセンとともに入った。中は休止状態になっていたが、小型ロボットに自己コピーしたAIが、いきなり天井から襲ってきた。センが撃ち落とし、ナンジャが留めをさした。<ガネーシャ>でチェックをしたが、AIは既に死んでいた。
新たな長い物語の始まりだ、とナンジャは思った。

3 シャヒーン・バドール・ハーン
シャヒーン・バドール・ハーンは、ラシダ・ラナ首相の指示で、私設秘書として、バラトの水エネルギー大臣スリナバス、気象学者ヴィナヤチャンドランらとともに、船でベンガル湾に出て、南極から引いて来た氷山を視察していた。度重なるモンスーンで氷山移動作業は難航し、氷山は次第に溶けて重心を失いつつある。ガンガ川を通って高地に運べれば水問題の解決は容易になるのだが。ヴィヤナチャンドランは、六ヶ月以内に気候は正常に戻るといっていた。彼らは視察を終え、船をベンガルに戻した。
***
シャヒーンらはダッカ新空港に降り、スリナバスの車で移動しながら、オフィスと交信し、メッセージをチェックした。かれは生まれも育ちもカシだったが、いまだにヒンズー教の真髄が理解できない。もともと信仰に厚いほうでもない。通勤途上で見るハヌマン神像は、いつか死をもたらすのではないか、その担い手はN・K・ジヴァンとかれの率いるシバジ党ではないか、と考えていた。
VIP受け入れセンターに着くと、ロシアの美人モデル、禿頭のユーリを取材する記者たちでごった返していた。シャヒーンはその美貌に目を奪われ、ときめきを覚えながらも、エアバスに乗り、ベンガルからバラトへの帰途に就いた。

4 ナジャ
フリーの記者ナジャ・アスカーザダーは、<独立インドプロダクション>のメロドラマ代表作「町と田舎」のヴェド・プレカシュ役で有名なAI俳優ラル・ダルファンに、同社のワークステーション内のVRスペースでインタビューしていた。ラルは、自分が<2歳のころの風になびくショールと青空の記憶、パトナの家の屋根から母に降ろされ、パラソルの下で、洗濯したショールを見ている記憶>を持っており、自分がプレカシュと違う人格を持つことに気付き、自分が実在すると信じていると話す。そして、ナジャに最初の記憶を尋ねる。ナジャの記憶は、四歳のころ、火事で父親に家から連れ出され、父母と車で逃げる場面だった。ラジオで何か話していたが、あとになって、<女の家を誰かが襲い、犯人に逮捕状が出て、空港が閉鎖された>ニュースだということが分かったのだ。その話を差し支えない部分だけ話すと、ラルは、「どちらの記憶が本物なのか、それとも作られた記憶かは分からないし、そもそも何の違いもない。しょせん記憶とは、たんぱく質分子上の電荷パターンにすぎないのだから。わたしが見るいろとあなたが見る色が同じだと証明することは出来ない。われわれは自分のブラックボックスに閉じ込められ、そこから出ることは出来ないのだから」と主張した。ナジャは、<わたしは自分の記憶が本物だと確信できる。だからこうやって、VRスペースにインタビューに来たのだから>と内心思った。
ナジャは次いで、「ハミルトンAI規制法」の件を問うた。
「クリシュナ警察のことか?」
「あなたは自意識を持ち、知性・感情を持っている? 自分の死亡許可証にサインしているということなの?」
「違う。そうはいっていない。わたしはただのレベル2・8のAIにすぎない。ただ、あなたと同じように実在すると主張しているだけだ」
「なら、チューリングテストには合格できない?」
ラルは、無理であるが、それはあなたとサトナムの場合でも同様だろう、と答えた。
ナジャはインタビューを終え、VRスペースから出た。サトナムが、「どうだ、本気で信じているだろう? それだけヴェド・プレカシュとしてよくプログラムされているということだ」と言った。
サトナムはナジャを次のセクションに案内した。ガラス張りの作業場で多数の作業員が製品を作っていた。中に、禿頭の中性人(ヌート)がいた。タルという新人らしい。ヌートは<彼>、<彼女>ではなく、<彼人(YT)>と呼ばれる。創造的な仕事を好む傾向がある。ナジャはその夜行われるヌートのモデル、ユーリのパーティでもインタビューを申し込んだが、断られていた。
「ラルは、キャラクターとプロットはワンセットだということを分かっていない」とサトナムは言った。「このソフト、各国で違うAI俳優をインプットしているんだ」
更に、サトナムは、「四歳までカブールにいた」というナジャの経歴が、彼の調べたところと違う点について確認を求めようとした。ナジャは、連絡先番号を教え、何かあれば後で連絡をくれと言い、外に出た。
***
ナジャはサトナムとともに、待っていた車に乗り、闘技場へ行った。彼女はインペリアルホテルから記事を送り、報酬をもらっていた。同じホテルにバーナードと言う彼氏もいたが、自信家で冷たい性格で、女目当てに泊まっているのではないかと思った。
ナジャの車は旧カシに入り、民家の上に大企業のオフィスがそびえる街路を通って、闘技場に着いた。
そこでは、<マイクロセイバー>という遺伝子操作用の生物を使って牙を強化するなどしたペットを戦わせ、勝敗に客が金をかけるイベントが催されていた。<マイクロセイバー>の特許を有する企業は倒産していたが、ペットを戦わせるクラブはアジアの各地に広まっていた。
ナジャは、我を忘れてペットの戦いに熱狂した。彼女は戦いに飢えていた。ここへきた本当の目的は、このイベントを見るためだったのだ。

5 リサ
西エクアドルの450キロ上空に<アルデラ仮想進化プロジェクト>のリーダーであるリサ・ダーナウはいた。彼女はケネディ基地から二日前に上空に出ていた。
***
ケネディ基地に来た朝、リサの中からリサが消えた。トーマス・ラルもこうやって消えたのか。デイリー・シュアレスマーティンという女が対応した。ラルがいなくなったから、リサを呼んだのだと。リサはシュアレスマーティンらと船で出発しながら、地球上で自分を惜しく思う人は誰もいないと思った。
***
リサは、太陽系外惑星系イプシロンインディに発見された地球型惑星ティエラの探査プロジェクトにかかわることだと説明を受けていた。だが、実は、地球に接近する小惑星ダーンリー285が地球接近時に全く同じ距離を保つ奇妙な性質があることが分かったので、光子帆船でこの星を移動し調べており、今からそこへ行くのだという説明を受けた。

6 ラル
トーマス・ラルはインドの浜辺で、夜、ビーチパーティを主催していた。若者たちはフークなどの器具をつけ、ネットから流れる音楽で踊っている。そこへ現れた娘は、フークをつけずに踊り始めたが、途中で喘息の発作を起こした。ラルは彼女に魅かれ、他の娘から薬をもらい、彼女に与えて助けた。彼女はインペリアルホテルにいるアージーという娘だった。ラルは明日会おうと約束した。

7 タル
ヌーのタルは車で両性具有のアーダンアリスバラをまつる寺院のヌーのパーティに招待されて向かう。途中道を間違えて検問にあうが、招待状を見せ、道を教えてもらい、寺院に到着する。
***
招待状を見せたが、はじめ偽造ではないかと疑われたようだった。このカードをもらって近所のママ・バラドに見せたら、パーティに来るのはヌーばかりかと、うらやましがっていた。
***
パーティ会場の目玉はユーリの存在だった。タルはバーでトラヌーというヌーと知りあった。ユーリが帰ると彼らはタクシーで帰り、空港わきのホテルに泊まり、音楽をききながら愛をかわした。
***
翌朝タルはシャワーを浴びたあとトラヌーの寝顔を見ながら居眠りし、ボーイのノックで目覚めたらトラヌーは帰っていて、住所と<ノンーシーン>と書いてあるカードが残されていた。

8 ビシュラム
司会者は今まさに聴衆を大笑いさせている。階下の緑の部屋にいるヴィシュラムは、浜辺の波のようにそれを感じる。腹の底からの笑い。止めようがない、苦痛なのにやめられない笑い。世界で最高の音。おれにもその笑いをくれ、人々よ。人は笑い声によって聴衆を識別するのだ。南部の笑いは薄い、中部の笑いは平板だ、島の笑いははるか上方からひびく教会の歌声のようだ、だが、あの笑い声はグラスゴーの良質の笑いだ。ホームグラウンドの観衆の笑いだ。ヴィシュラム・レイは足を鳴らし、頬を膨らまして、緑の壁に貼られた黄色いレビューを読む。この記事ではタバコについて述べている。
ビシュラムはステージに出ていく。
***
ビシュラムはクラブでアニエという女をナンパし、くどいている最中に、会社から封筒を受け取る。シャストリの手紙と、グラスゴーからバラナシへの切符だった。
***
ビシュラムはマリアンヌ・フィスコという女弁護士とともに飛行機に乗る。道中、マリアンヌと情事に耽った。
***
ビシュラムは、父がよこした車でマリアンヌをホテルまで送ることになった。ところが、車は群集に阻まれ、運転手は引き返した。戦闘用ロボットが現れ、メルセデスのSUV二台が現れた。戦争が起こっているのだ。
***
何とかマリアンヌをホテルに送り、自宅に着いた。ラム・ダス、兄ラメシュ、次男ゴビンド、ルヌとサティシュの双子、ディディ、プリヤ、母がいた。父ダダジは不在で、明日オフィスで会うらしい。ようやく家に帰ったのだ。

第二部 サット・チッド・エカム・ブラーマ
9 ビシュラム
会議室で、ビシュラムは、父とマリアンヌ弁護士ほかの弁護士団の会合に同席した。父ランジト・レイはレイ電力の経営から引退して妻のシャストリとともに、巡礼の旅に出たい、ついては経営を息子三人(ラメシュ、ゴヴィンドそしてヴィシュラム)に譲ると宣言した。マリアンヌは契約書に署名を求めてきた。

10 シヴ
シヴはヨゲンドラとともに<クラブ・マスト(フィーチャリング・タルブ)>というクラブに入る。タルブというのはバーテンだ。店内にはバラモンの少年が女たちの注目を浴び、テレビではロシアのヌートの女優、ユーリが注目を浴びている。シヴは、代理母の女を雇って、クローンで生殖しようとするヌートへの嫌悪を口にする。
シヴのクレジットに何らかの問題があったらしく、シヴは紙の請求書を受け取る。初めての経験だ。店主のサルマンが現れる。シヴの保有株の価値が下落しているらしい。
シヴはうんざりして席を立つ。だが、肉欲は忘れていなかった。彼は女たちの気を引き始める。
***
シヴは<アユルヴェディック・レストラン>のマダム・オヴァリーを訪問する。
シヴはふたたび、川の流れの中のあの遺体を見る。あの女の体の下でふくらんだサリーを見る。テーブルに横たわった遺体。シヴは無駄が嫌いだ。特に未熟な施術によって、現場を血の海に変えてしまうようなことは。
「どこにでも、アメリカの最先端技術を使いこなせないやからはいるんだな。ここはバラトだからな&&」
「ビジネスの第一法則を知ってるの? まず無駄を省け。わたしの上にはいろんな役人が支配の手を延ばしている。じき、破滅が来る。それに押しつぶされるのはまっぴらごめん」
「どこへ行く?」
「あなたには言えない。あなたが良識をわきまえていれば、とっくに資産を分散しているはずだけど」
シヴにはそんな贅沢は許されなかった。チャンディ・バスティからこのレストランまでの行程において、許された選択は一つだけ。道徳など、スラム街の外に住むものの特権だ。その夜の唯一の選択肢は薬局を襲うことだった。<分裂>の時代にはすべての悪漢が銃を持つことが出来たが、シヴ・ファラジはみずからのスタイルを貫いた。スタイリストは、日産のSUVで薬局のシャッターを突き破るものだ。姉は結核から回復した。盗んだワクチンで治したのだ。父親ならできないしやろうともしないことを、おれはなしとげたのだ。勇気と決意を持った男に何がなしうるかを証明したのだ。店の金には1パイサたりとも手を付けていない。<ラジャ>たるもの、必要な物以外には手を付けぬ。シヴは一二歳だった。補佐役のヨゲンドラより二つ年下。一歩一歩が後戻りできない。今また子胞が手の中で砕け散ろうとしている。とるべき道はおのずと明らかだ。やるしかない。それが唯一の道だ。逃げることだけはありえない。ここはおれの都市なのだ。
マダム・オヴァリーはスーツケースをカチンと閉じる。
「役に立つように頑張って。ライターをくださらない」
それは一緒にパキスタンに行った時の米軍の旧式ライターだった。機械以上に煙の(つまりタバコの)好きな兵士たちを送りだしたあの時代。マダム・オヴァリーは火をつける。書類が燃える。
「ここは片付いたわ」マダム・オヴァリーは言う。「ご苦労だったわね。お元気で。わたしには二度と連絡してこないでね。二度と会わない、今生の別れよ」
車でシヴはラジオをつける。早口トーク。DJはどいつもこいつもこういうしゃべり方をする。まるでAIと自分たちを区別するには、マシンガンのようにしゃべり続けるしかないといわんばかりに。ガンガ川の流れのように。絶え間ない戯言の垂れ流し。あんたはDJ、音楽を流す、視聴者が聴きたがる音楽を。視聴者は音楽でいい気分になったり、誰か特別な人のことを考えたり、泣き出したりするんだ。
シヴは窓にもたれかかる。計器盤の灯りに照らされた自分の横顔が、通りの人々の上に幽霊のように重なる。だが、それはまるで、自分の姿が重なる人々の一人一人が、自分自身の一部を占めているような感じだ。
うるせえぞ、このおしゃべりDJが。
「どこへ連れていくつもりだ?」
「戦いに」
その通りだ。戦いのない場所などどこにもない。だが、運転手がすぐ近くで見張り、観察し、推測をめぐらせるのが、シヴには気に入らない。
<戦え! 戦え!>という叫びが脈打つように聞こえる。
シヴは車でマーフィーの店に食事に行き、フラスコ入りの飲み物を渡す。食事を終え、車を出したところで、<市街戦ロボット>に襲われ車を壊される。そのロボットは、バクチャンの招いた財政危機のつけの取立が<アヒムサ回収機構>に回っていることを告げる。バクチャンの賭けの請求がおれの口座に回っているのかとシヴは驚く。

11 リサ、ラル
(リサの仮想空間で追体験する記憶)
「ミズ・ダーノー、これはきみの最高のアイデアだ」トーマス・ラルは、ダーノーのCVとプレゼンテーションの書類が乗った幅広いデスク越し、今世紀で最も暑かった六月のカンサスを映した、デスクよりも幅の広いピクチャーウインドウの向こう側に向かって言った。「どこでこんなアイデアを思いついたんだね?」
ダーノーは、父母が離婚する前に父のクリスチャンの道を捨て、サイバーデザイナー、科学者の道を選んだ。彼女はオックスフォードにいたが、認知宇宙論グループの例会には出ず、代わりにカール・ウォーカーに行ってもらい、後で経過をきいていた。他の学者の量子力学的アプローチと、ダーノーのトポロジカルなアプローチとは違っていたのだ。彼女の見解ではAIはその内にパラレルワールドをもっているはずだった。ある日、カールと昼食をとり、そのまま夜中まで話しこんだ。二日後、初めてリサは例会に出たが、他の連中の議論はちんぷんかんぷんで、間違っていた。リサは挙手し、<知性は宇宙から自然に生まれてくる、ポリヴァース、多元宇宙というものがあり、そこに精神が永続的構造物であるサイバーアースがある、この宇宙の精神はその現れである>という理論を話した。だが、誰にも理解されず、あざ笑われた。リサは逃げるように帰り、ロンドン駅のトイレで、突然それを思いついた。慌てて飛びだし、筆記具を買って、<M星理論>の方程式と、11次元が<カラビ・ヤウ>形に結びついた宇宙像を書き付けた。
以上の経過をリサはラルに話した。ラルは、ここでは他の仲間と仲良くして欲しいとリサに要望した。リサはラルのアルテレ・プロジェクトに参加することになったのだ。
***
ラルは友人のダリアス・ゴッツェ医師とボートに乗っている。<サルブ・ヴァギナ号>という船だ。ラルがレコード屋で働いているころ客としてゴッツェが来て以来の仲だ。かれは古いラジオ番組をコレクションしており、今日もコメディ番組のファイルを再生して聴かせた。
船を南に向けようとしていると、ラルが数日前に会う約束をしていたアジという娘が乗ってきた。アジは二人の名前を知っており、一緒にコーヒーを飲むことになった。
***
リサはいったん仮想空間から浮上し、パイロットキャプテンのベスと話してから、ふたたび記憶の中に入っていく。
ラルとシャワールームでセックスに耽った日々。
ある日、ラルを車で送っていくと、ラルの妻は出ていった後で、何もかも運び出されていた。
リサはラルを自分の部屋に連れていった。
だが、数日後、<リサは淫乱>という噂をきいたラルは黙っていなくなった。以後、ラルとは会っていない。
***
ラルは、ゴッツェ医師に頼んで、アジにロシア式喘息治療を施してもらう。
ゴッツェが帰った後、アジをホテルに送る。アジは、ラルに「自分の両親とラルが一緒に写っている写真」を見せ、自分は養子に出され実の両親を探していること、この写真が弁護士から送られラルの居所をつきとめたことを話す。ラルは、その二人を知らないととぼける。アジは、バラニシの弁護士に会いに行くと告げる。ラルは、出発する予定であったが、予定を変え、アジとともにネイガーコイル行きのバスに乗る。
***
リサは夢から目覚め、目的地の小惑星に近づいたことをベス船長に告げられる。謎の小惑星タンレー285、またの名をテイバーナクル。リサは、船と感覚を接続する装置を<電耳(フーク)>につなぐ。たちまち、宇宙船の周囲に真空を感じる。シャトルは目的の小惑星、蜘蛛の巣の中心に近づく。そこには、基地があり、ハッチがある。男が出てくる。彼はプロジェクト・リーダーのサム・レイニーと名乗る。

12 ミスター・ナンダとパーヴァティ
ナンダは高額の請求書に気付き、妻のパーバティに問いただす。野菜栽培用の用水路の費用だった。ナンダは無駄だと叱るが、妻は聞く耳を持たない。
ナンダは家を出てヴィクラムのオフィスを訪ねる。そして、暴走AIのプログラマーが第一の犠牲者になった件、AIが勝手にオデコ投資会社の計算で財務取引をしていた件について、モーヴァと話す必要があると告げる。
***
パーバティは一〇時に業者のクリシャンをむかえ、灌漑水路の設置を見守る。
***
ナンダは、暴走AIがダウンロードされた記録のある<電脳動物愛護教会>のジャシュワントを訪ね、追及する。彼は掃除夫の案内で中を調べながら、AIに感染したと思われる電脳犬を撃ちまくる。ジャシュワントはついに無許可のレベル1AIをダウンロードした事実を自白する。ナンダは、警察が来るまでここを動くなといい、教会を去る。
***
クリシャンはラジオのクリケットを中継するラム・セイガー・シンの声に耳を傾けながらまどろむ。八歳のころ父に町までクリケットを見に連れて行かれたが、遠い親戚のラム・ヴィラスと会えずチケットが手に入らなかったので、ラジオでラムの中継を聞いたのが最初だった。
クリシャンはバーバディに起こされ、夜のパーティにつけていく金のブレスレットはどうかときかれ、素敵だと答える。バーバディは、クリシャンに、クリケットのルールを教えて欲しい、と頼む。
***
ナンダは、オペラスタジオの<ディード&アエネアス>に向かう。カリブの租税回避目的の投資会社、オデコは、バラト大学のAIユニットなどに莫大な投資をしており、神話的な知的AI、いわゆる<第三世代>が各地の都市で開発されている。目的地のビルの15階にも研究設備があるという情報をつかんだのだ。
ところが、目の前で、ビルの屋上から鳥よりも大きく船よりは小さな物体が空に消え、ビルの一五階が爆発する。

13 シャヒーン・バドゥール・ハーン、ナジャ
閣議が行われる。議題は、水不足問題とアワド国とのダム紛争問題である。アワド国へ攻め込む必要がある一方、米国の後ろ盾のあるアワドに対し勝つ見込みは薄いので、あくまでも開戦後の国連調停でダム問題を有利な方向に運ぶのが目的である。
各大臣が様々な意見を述べるが、ハーンは、「反対党のN・K・ジバンジー率いるシバジ党に内乱軍を組織させ、アワドに侵攻させる。われわれは頃合を見て、国連とともに調停のテーブルにつき、戦争の責任は全部シバジ党にかぶせる。こうすれば一石二鳥だ」と述べる。V・S・チョウデュリ防衛大臣は、民衆にそこまでは期待できない、むしろわれわれが攻めこんだほうがよいと主張するが、サジダ・ラナ首相はハーンの案を採用する。
***
ホテルで次の取材対象を首相にしようと考えているところへ、「デオダー電子倉庫に三〇分以内に来い」と呼びだしがかかり、ナジャが行くと、シバジ党のジャガーノート建造工場があり、ナジャは写真撮影をを許された。そこへ、ふたたび電話が入り、ジバンジー自身だった。「ラナ一族こそ曲者だ」と語り、記事にすることを求めた。ナジャは、スクープだと有頂天になり、社へ連絡をとろうと急いで戻りながら、「なぜ私なんだろう」と首をかしげる。
***
ガザルの歌手マムタズ・ハクは一〇時に出演する予定だった。ハーンは妻のビルキス・バドラー・ハーンとともにニーラム・ドーワー主催のパーティに出ていた。ガンガリも出ていた。ハーンは疾病対策室の男と話した。かれは「第二のカースト制を作ってはならない」と力説していた。マムタズのステージが始まるとハーンは会場を出てタクシーを探した。そこへ、タクシーが止まり、ヌートの客が一緒に乗ろうと誘った。ドアを開けて中を見たハーンは驚いた。

14 タル
気がかりな夢から目覚めたタルは、<ノン・シーン>のメモを残して去ったトラヌーに恋していることに気付く、ママ・バラトを訪ね相談するが、探すことにする。服装などを準備万端に整え、タクシーで<バナナクラブ>を訪ねる。探しまわってトラヌーを見つけるが、迷惑そうな顔をされ、ショックを受けて立ち去る。ハーンと名乗る男と話し、2019年マンバイのメタソープドラマ製作の父母の下に生まれたこと、ドラマにAIが導入されたため父母は失業し自分も母コンスタンツァとともに路頭に迷ったことなどを話す。ハーンは情報管理の仕事をしており、明朝やることがあるというので、クラブを出てタクシーを拾う。車中、タルはハーンにキスをされ、反射的に逃げ出す。そして走って立ち止まり、泣きだす。

15 ビシュラム
ビシュラムは父から継いだ会社に赴き、<ゼロポイント研究所>を視察する。ここでは無からエネルギーを作る方法を研究している。サージート博士、ゴーア博士、ハレダ・フセイニー、ソニア・ヤダフらに説明を受ける。彼らはエネルギーのレベルと量子の泡という二つの観点からアプローチしている。
そこへ兄のゴビンドが現れたので、警備のラージプートを呼んで、「ここはおれの会社だ」と叫び、追いだしてもらう。
***
ビシュラムが任されたのはR&D部門だった。弟のラメシュから、ゴビンドは会社を一つにまとめるために何らかのオファーを考えているらしいときかされた。寝室にいるとゴビンドが入ってきたので、ビシュラムは、ノックもなしに入ってきやがって、明日この家から出ていく、と告げる。
***
ビシュラムはイタリアンレストランでソニアとゼロポイント理論について語りあう。それは、ひも理論から発展したM星理論と量子情報論を融合させたもので、一一次元の時空の<ひも>が立体学的にからみあって、あらゆる宇宙をおり込んだ多元宇宙(ポリヴァース)を形成するという理論だった。更に、熱力学の第二法則を結合し、すべての質量はエネルギーであるから、<脳を歪める>ことによって<エネルギーの距離>を操作し、無からエネルギーを生みだす&&。
ソニアは、ついて来い、見せるものがある、と言った。
***
ソニアに連れられ、実験物理学研究室に移動した。エレベーターを下り、エアロックを抜けて研究室に入り、デバに迎えられる。ガラス張りの向こうにオレンジの房状の小部屋が見える。それは、より高いエネルギーを持つ<時空と量子の泡のみからなる真空>の宇宙であった。その宇宙への道を切り開き、そのエネルギーをこの宇宙へ流入させることにより、無からエネルギーを得るのだ。光は、その宇宙の量子の放射であり、その宇宙(第288号宇宙)の量子がこの宇宙の法則に入りこんだとたんに、無化して光子となり、光を放つのである。
ビシュラムは、<これはブラーマの光だ!>と思った。

第三部 カルキ
16 シヴ
シヴは実家に戻る。母に金を渡す。ヨゲンドラという少年がシヴの帰還を触れまわる。妹リーラ17歳も迎える。キリスト教にはまっている。
シヴはマストのプリヤという女と会う。彼女は<アヒムサ債権回収機構>がシヴに対する債権を買い取って取立を開始していると告げる。だが、シヴはプリヤの顔をつかみ、おれは<ラジャ>だ、といって追い返そうとする。マストは住所を書いた紙を渡し、車を示し、あの車が要らないのなら乗って帰るという。
シヴは横で見ているヨゲンドラにお前も来るかときく。
リーラが現れ、マーサに改名したいと告げる。ヨゲンドラはマーサの手をつかみ鍋に突っ込む。シヴはヨゲンドラの顔を蹴り、外に連れだしてお仕置きに蹴りまくる。そして、車を拾うぞと告げる。

17 リサ
リサはサム・レイニーに導かれ、テイバーナクルへ降りていく。徐々に重力が増していく。中の穴に入ると、中央にシルバーグレイに光る球体がある。名札を投げると消滅する。表面付近は50gの重力があるらしい。光るミニブラックホールだという。
***
リサは祖父のマックに白黒のオセロの世界を学び、自分の鈍さをきらびやかな学問の世界に埋没することで埋め合わせた。リサは最終的に人工知性のチェッカーボードからM星理論へと行きついた。人生はゲーム。
***
彼らはISSに戻る。その物体は測定の結果、70億年昔に出来たらしい。しかも、表面に写る画像に認識可能な三つのパターンが連続して観測された。今年の7月3日。一つ目は見知らぬ娘、二つ目はトーマス・ラル、三つ目は自分の顔。しかも未来の自分たちの姿らしい。偽造写真でもドラッグの効果でもない。70億年前に撮られた自分たちの姿だ。リサは、自分が求められていることを悟った。ラルを探すのだ。
***
リサは他の二人と地球のケネディ宇宙基地に着陸する。三年半前に南インドのケララでラルを見かけた手がかりをもとに、ラルを探しだし、テイバーナクルのデータの入ったメモリを見せ、プロジェクトへの参加を説得する予定だ。

18 ラル
ラルはアジとともにムンバイに入り、駅でコーヒーを飲む。アジは、息子を待っている家族のところに行き、息子はバイク泥棒で逮捕されたから待っていても来ないので、すぐに行くようにと告げた。アジは人の周りに後光のように未来が見えるという。息子の名はサンジェイというらしい。
二人は列車に乗り、ラルは写真をまた見せろといい、知らないといったが実は写真の夫婦を知っている、ジャン・イブスとアンジャリ・トルデューだ、人工生命理論学者だ、ストラスブルグ大学から法規制のゆるいバラト大学へ移りたがっていた。アンジャリには子宮がないからアジの母親ではありえないと告げる。
ラルはトランキライザーをアジに与える。
居眠りしていると列車が攻撃される。バラト軍とアワド軍が交戦している。ラルはアジを起こして逃げまわる。ヘリが列車を爆撃し、ミサイルや銃声が飛び交い、軍人や逃げ惑う乗客が入り乱れている。ラルはアメリカ市民だと叫びながらパスポートを見せ、アジを助け、バラト兵士に保護される。

19 ミスター・ナンダ
建物は炎上し、焼死者が出た。ナンダは、司法省のヴァイシュ刑事や検死担当の病理学者チョーハンと現場検証にあたった。チョーハンは死者を調べていた(原型を留めているのは五、六人)。ナンダはヴァイシュとともに、流し台の下にあるコントロールシステムにアヴァター・ボックスをつなぎ、クリシュナを起動してトラブルの詳細を調査した。発火推定時刻は7時22分。他方、七時五分にはガスが遮断され、ドアが自動ロックされた記録が残っている。つまり、発火時刻当時、密室状態になっていた。
チョーハンは、三時に訪問したいとナンダに告げる。
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朝食の席で、パーバティはドーワーのレセプションパーティを話をし続ける。ナンダは、今日は事件の捜査で帰りが遅くなると告げる。
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ナンダは、ビル火災について、軍用機から放射された炎が標的の室内にとどまるようによくコントロールされていたことから、赤外線レーダーではないかと疑い、部下のヴィクラムを呼び、軍事AIのログの調査を命じる。そこへチョーハンが電話を入れ、見せたいものがあると告げる。
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死体安置所には黒焦げの死体がいくつも寝ていた。チョーハンは、遺体の中の男女がカップルであったらしいこと、男はヨーロッパ人で、女性は南インド人らしいこと、女性は生まれつき子宮に奇形があったこと、身につけていたペンダントは、ヴィシュヌ神の第10・最終変身形態のカルキであった事を告げる。
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ナンダは、サルが駆け回る庭の中央のドームに幽閉されているデータラジャの囚人アンレディを訪問する。アワドがハミルトン法を批准し、レベル2・0以上のAI開発が禁止された後に、この男は無許可で人体と機械の融合を行ったかどで、ナンダが逮捕し、この自宅を監獄として収監し、空中飛行カメラで全挙動をモニターしている。反省を示すまでの不定期刑である。
ナンダは、光を嫌うこの男に窓のブラインドを少しずつ上げて苦しめながら、ビル火災について尋問をする。被害者の男女はヨーロッパからより自由なAI研究環境を求めてきていたが、その白馬のペンダントは、終末の神カルキではないか、これは一体何のシンボルか、第三世代AIではないのか。アンレディは認める。カルキとはオデコが開発している第三世代(ジェン3)のAIの名である。それは人間の2~3万倍の知性を持っているが、まだ始まりに過ぎない、これからどんどん進化するだろう。
敵の正体を知ったナンダは、ブラインドを開けたまま、泣きわめくアンレディをそのままに、ドームを去る。

20 ビシュラム
ビシュラムは、AIと結合した個人秘書インダーより、<シガードソン・アーサーズ・クレメンティ・グループ>から招待されていると告げられる。詳しくは車でファスコが説明する。エネルギー秘書のパテルも面会を求めているらしい。ビシュラムはインダーにオフィスの移動の希望を告げ、承諾される。
車中、ファスコは昨夜ソニアと食事し、別の宇宙の実験成功の話を聞いたことを告げる。今日の午後、ゴビンドがラメシュに何らかのオファーをするらしい。
ビシュラムは飛行機に乗る。
到着すると仰々しい警備員に迎えられる。虎よけらしい。
先方のオフィスに入り、昼食をとりながら交渉をした。先方の希望は、ゼロポイント計画に投資をしたい、株を共有したいという申し入れだった。ビシュラムはフークでインダーに相談し、即答は出来ないことを告げた。ゼロポイント計画の成果については、数週間以内に大々的に公表する予定であることも告げた。
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ビシュラムがレイタワーに戻ると、引越し中だった。もとのオフィスにエレベーターで上がる途中、オデコの雇ったチャクラボーティ弁護士が、ゼロポイント計画を後援したいという申し出をしてきた。見かえりに何を提供するのかときくと、父親に提供したのと同じものといった。父親はパートナーシップの申し出を断ったはずだがと告げると、弁護士は、資金援助がなければ父親のゼロポイント計画は破産していたはずだと豪語した。彼は途中の階で去った。

21 パーバティ
パーバティは、地面にチョークで線を引き、杏と鍬を使って、クリシャンからクリケットを習っていた。
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パーバティはクリシャンに雑誌を見せ、メタソープドラマのAI俳優のプレカシュ、ランジャン、クマル、マリク一族を紹介した。AI女優のソニア・シェティ(アシュ・クマル役)は、ラル・ダーファンの妻だったが離婚し、ロニ・ジュティと噂になっている、ラルはソニアの悪口を言いふらしているので、ドクター・プレカシュを見る目も変わった、云々。
AI俳優の家族を自分の家族のように話すパーバティを見て、クリシャンは、自分の家族が恋しいのかと尋ね、パーバティは肯定する。彼女の田舎の村は、ある日レイ電力のトラックがやってきて、一気に電化された。コトカイ村の若者たちは次々と町へ出ていった。ヘリのAIの誤爆でトラックの二人の男が死んだ。パーバティも<町と田舎>を見て都会の女性に憧れ、バラナシに出てあか抜けた。ある日親戚の結婚式でナンダに見染められ、結婚したのだった。(だが、ゆうべ、最近かまってくれないと愚痴を言い、夫婦喧嘩をしていた。)
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事件のニュースで話題のナンダに興味のあるクリシャンは屋根の釘うちで忙しく夕暮れまで働いた。階段を降りていくとパーバティが外で遊びたいと夫にせがみ、夫が怒って部屋を飛びだしてくるのを目撃した。ナンダはそのまま出ていった。クリシャンは、パーバティを慰めているうちに、翌日の英国対バラトのクリケット予選三回戦を一緒に見に行く約束をさせられてしまった。
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スタジアムでクリケットの試合が行われていた。近くで女たちがアワドとの戦争の見通しについて話していた。パーバティはパーマーを使ってクリシャンと連絡しあいながらクリケットを見ていた。パーバティからはクリシャンの姿が見えた。打者が<シックス>を打ち、パーバティはボールをキャッチし、誇らしげに叫んで投げ返した。だが、近くの女たちが軽蔑のまなこで見たのでショックを受け、会場を出た。クリシャンが追って来たが逃げるようにタクシーで帰った。レディになりたくてもなれない、田舎娘。
家に帰ると鍵が開いていて、母親が来ていた。

21 シャヒーン・バドゥール・ハーン
シャヒーンは首相とともにダムの上空を飛行機で飛びながら、開戦後の方策について話しあう。首相はシャヒーンが最近うわの空であることを指摘し、シャヒーンは妻との関係が冷えきっていることを打ち明ける。
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シャヒーンは父が死んで以来嫌っていた河べりの実家に戻り、過去を回想し、ヌートのことを何とかしなければならないと悟る。

22 タル
「その週の残りをタルは仕事に没頭して過ごすが、アパルナ・チョウラとアジェイ・ナディアドワラがヴァーチャルな結婚式の後に住む予定の大邸宅のインテリアですら、悪魔を鎮める効果がある。ジェンダーを与えられた人。男性。ハーン。タルは、その姿を脳裏から払いのけようとするが、ニューロンに<ディワリの光>のようにまとわりついて離れない。究極の恐怖である。」
タルは、ハーンを男性として意識するがゆえに、自らのヌート性を失いそうになっているのに気付き、動揺する。タルはパトナの船のナナクというヌークを訪ね、ハーンへの想いを打ち明け、神経(美容?)治療を受ける。
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タルはパトナからバラニシにもどりニータから封筒を受け取りバナナクラブに行く。そしてハーンに会っていると、写真のフラッシュがたかれる。トラヌーからハーンが主要の私設秘書であることを知らされたタルは、バラニシの外へ逃げろと言われ、連れ出される。

24 ナジャ
ナジアはホテルでバーナードとセックスした後、でかける。パーマーにはジバンジーのメッセージビデオが入っている。
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ナジアは首相の部下(ハーン?)から封筒を受け取る。街角では男が首相を操り人形だと批判するビラを配っている。

25 シヴ
シヴはヨゲンドラと<2047年8月のコンストラクスの砦>に行く。ジューイという娘と知りあう。ニティシュとチャニ・ナスに呼ばれ、ニティシュから、バラトのサンダーバンが米国 NASA、CIAから暗号解読の仕事を請け負っているので、その人物を特定しキーを盗む仕事を頼まれ受ける。2・5、2・75世代AI、宇宙で発見した謎の物体などにも関係があるらしい。チャニは、忠誠を証明するためにジューイをつき落とせという。シヴはためらうが、ヨゲンドラがジューイを下のフロアにつき落とす。

第四部 タンダバ・ヌルティヤ
26 シヴ
シヴはヘイマン・デーンを捕まえ、手錠をし、米人サンダーバンの行方を聞きだそうと詰め寄るが、ヘイマンは口を割らない。
***
シヴはデータラジャのアナンドに相談する。アナンドのアドバイスは第一に、他に手がなければサンダーバンを殺すこと、第二にひたすら調査をすること。ティエラ星へプローブを送る計画は他の何かの計画のカモフラージュだった。そして、第三に、バックにいるのはN・K・ジバンジーらしい。
***
シヴはヨゲンドラやマイクロサーベルを持った女のサイとともにヘイマンを拷問し、サンダーバンの名がラマナンダチャリャでチュヌア・フォートにいることや、ファイルネームとコードがパーマー端末に入っていることを聞きだし、パーマーを奪う。

27 シャヒーン・バドゥール・ハーン
シャヒーンは首相を幻滅させ、車で帰る途中、辞表をしたため、首相に連絡し、辞意を告げ、自分がヌートクラブに通い、ヌートを買っていたこと、写真をとられスキャンダルになるだろうことを打ち明ける。首相は、ジバンジーを見くびりすぎていたこと、わが国が侵略を受けつつあること、シャヒーンの辞意を受け入れること、今後二度とあわないことを告げる。ゴヒルの運転する車に蜂起した群集が向かってくる。スキャンダルが明るみになったことを悟ったシャヒーンは引き返すよう命じる。

28 タル
タルはタクシーでホワイトフォートに向かうが、ニュースでスキャンダルを聞いた運転手はタルを降ろす。タルはシバジの蜂起した群集に追われながらホワイトフォートに逃げ込むが、ママ・バラトの部屋は蜂の巣でママは殺されている。隣人のパスワンに見つかったタルは外へ逃げ出し、駅に入る。女学生の読んでいる新聞にタルの記事が一面トップで乗っており、タルはびびりながら息を殺す。切符を買ったところでシバジの一味に見つかるが、銃を持った女に助けられる。女はナジアだった。彼女がスクープの張本人だった。

29 バナナクラブ
セックススキャンダルで怒り狂った群集によりバナナクラブは放火され、人々が殺された。警察が出動し11時までにようやく鎮圧。マスメディアはこぞって現場を取材撮影した。11時30分にジバンジーがラナ政権の腐敗を糾弾する声明を出した。

30 リサ
リサはシルバナンサプラムに降り、ゴッツェに会う。河には<サルブバギナ号>。ラルはここにいた。リサはタバーナクルのラルの写真を見せ事情を説明する。太陽系が生まれる前に太陽系外生命が作った物体にラルの写真が写っていたことも。
リサは人力車の少年達を雇いラルの調査をする。ラルを知っているという男が見つかり訪ねていくと2043年7月22日<サルフバギナ号>を買ったことが分かった。名義、J・ノーブル・ボイド。
帰る途中三輪車でゴッツェが来る。ラルのメッセージだ。アジという女と同行中列車事故に巻きこまれた。アジはどこかの政府に雇われてきたという話に、リサは三つの写真のうち見知らぬ女の写真を見せる。ゴッツェによると、それがアジだった。

31 ラル
ラルとアジはナグパル弁護士を訪問する。ラルは、トルデュー夫妻と同僚であったこと、アンジャリは子供を生めない体で、卵子を作れないので代理母も使えないことを話す。ナグパルはトルデュー夫妻がビル火災で死んだことを告げる。それから写真と宝石箱を見せる。アジが宝石箱を開けると、白馬のペンダントが入っている。
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ラルらは帰りに軍人のチェックをうけ、ラルはアメリカ人のため時間がかかったがようやくバスに乗る許可を得た。トイレ休憩のとき新聞を買った。バラトの過激派がアワドの列車を襲ったが、現地のジャワンが撃退し、アワドの報復攻撃の口実を奪ったという記事だった。
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ラルはかつてサンダーバンとAI開発の仕事をしていた。そして、かれらが第三世代AIの開発をしていたと思われることをアジに語った。AIにも自我がある、しかし、それは人間の知性と異なる。AIの知性はリアルアースではなく、サイバーアースに反応する。彼らの宇宙では情報は移動されるのではなくコピーされる、彼らも自らをコピーすることができる。彼らと人間の知性とは共存が可能である。しかし、人間はハミルトン法で彼らの抹殺を図っており、これは彼らにとって死活問題であるから、彼らは人間に戦いを挑もうとしている、と。そして、これからバラナシ大学のコンピュータ学部に向かいたいことを。
アジは、バラトの国家情報管理局に行き、DNA鑑定で父母を探したいと言うので、二人は別れた。
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ラルはバラナシ大学を訪ねる。秘書の女はナレシュ・チャンドラ教授が不在で面会予約が必要だというが、ラルはコンピュータ端末で名を名乗り、教授に呼びかけた。するとドアが開いた。

32 パーバティ
クリケットから帰ると母親のミセス・サダーバイがきていた。政情不安のニュースを見て心配してきたという。危険が去るまで村に戻って来いという。クリシャンを紹介すると気に入らないようだった。パーバティは帰る気はないといって母親を帰す。

33 ビシュラム
ビシュラムはファスコとセックス後に、ファスコがオデコのスパイだと告げられる。オデコはゼロポイント計画の成功を望んでいる。チャクラボーティも仲間だ。詳しくはチャクラボーティにきけと言う。
***
ビシュラムはボートでチャクラボーティにラメシュの持分を買い取る資金3000億ルピーの工面を求め、承諾を得る。更にオデコについてきく。オデコはベンチャーキャピタルのAI、知性を持つ市場そのものともいうべき<ブラーマ>がその実体だときかされる。

34 ナジア、タル
ナジアはバーナードの手助けでタルをかくまう。タルが目覚めると事情を説明する。ラル・ダルファンにインタビューをしたこと。サトナムが写真をくれたこと。タルは、チューチャにはめられた、と叫ぶ。タルはナジアからジバンジーのビデオを見せてもらう。ジバンジーと会って話した人間はいない。タルは<インディアペンダント>に行かないと、と叫ぶ。そこへ銃撃。ナジアとタルは逃げる。

35 ミスター・ナンダ
ナンダは上司のアロラやスダーシャンに調査結果を報告する。暗殺されたジャンイブスとアンジャリはチャンドラの下で人工知性の研究をしていたこと。しかも、人間の10倍の知性を持つ第三世代AI。クリシュナシステムによるネットサーチの結果、バドリナス・サンダーバンの襲撃事件前後の軍事記録は抹消されていることが判明。第三世代AIはカルキと呼ばれ、主にネットを通じて活動する。オデコと言う多国籍投資会社が支援。レイ電力とのかかわりもあるらしい。オデコはパトナに謎の医療施設も持っている。以上から、暗殺事件はカルキが自らの痕跡を消すため行ったのではないかと推測される。これは国の緊急事態であり、アワドとのダム紛争以上に重大であって、最大限の軍事力を投入すべきである。
上司らは、ナンダが拷問したアンレディから賠償請求が出ていることを告げ、仕事熱心すぎるのも困りものだと注意するが、ナンダは自己の主張を繰り返す。スダーシャンらは国防省にデータを売り、オデコとカルキに対し、最大限の軍事支援を国に頼むことを決める。

36 パーバティ、ミスター・ナンダ
パーバティが目覚めると母親からナンダが朝早く出たことと、コックのアッシュに休みを出したことを告げられる。パーバティは出かける。
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パーバティは屋上で庭園を作っているクリシャンに、クリケット会場ではしたない言動をして恥をかいたから途中で帰ったことを話し、母親から田舎へ帰るよう言われたが、帰る気はない、と打ち明ける。母親が戻る時間になったのでここにいられないと言い、下に降りていく。
***
ナンダはパーバティの母親が作った朝食が苦手なインド料理だったため母親と喧嘩になる。母親は、パーバティが可哀想だ、遺伝子操作された子供=ブラーミンがほしいのに、あんたが許可しない、と食って掛かる。ナンダは、ブラーミンなんてAI同様人間ではない、絶対にだめだ、明日戻るまでに母親を追いだせとパーバティに命じ、仕事に出かける。

37 シャヒーン・バドゥール・ハーン
シャヒーンは先祖代々の土地にある狩猟小屋に逃げ、妻のビルキスを呼びだし、ネパール経由で北欧に逃げようと話す。だがビルキスは断り、五年間ジバンジーのスパイをしていたこと、スキャンダルを流したのは自分であること、結婚中にたった五回のセックスで五回の妊娠、うち2回だけ息子を生み、あとは人格も認められない生活にうんざりしていたこと、シャヒーンが仕事にでている最中にバラナシの女性弁護士達と政治の話をし、パーマーで国政のシミュレーションをしていたこと、自分達のシミュレーション通りならバラトの国はもっとよくなっていたことなどを話す。シャヒーンは衝撃を受け、膝をついて泣き叫ぶ。ビルキスは予想外の夫の壊れぶりに恐怖し、雨の中に逃げ去る。

38 ミスター・ナンダ
ナンダらはジェット機で雨の中、カシにあるオデコのオフィスに不意打ちの捜索をかける。多数のロボットが現れるが、屋根に穴を開け、突入する。中にはスバダー・メジャー・カウアと、バングラ人弁護士のチャクラボーティがいた。ナンダらは、リマ国際条約二七条違反、第三世代AI隠匿容疑による捜索であることを告げ、アバターを端末につなぐ。スクリーンにはビシュラム・レイの姿のほか、ジャンイブス&アンジャリ夫妻が坊主頭の娘と写っている写真が映った。娘の頭には手術の縫い跡があった。「やつら、これを俺達に破壊させようとしていたんだ」ナンダは娘の顔に指を触れながら言った。「この娘はまだ生きている」

39 クンダ・カダル
低速ミサイルは一〇日間西バラトをわたり、10時30分、レイ電力の配電ステーションを襲った。システムクラッシュの間に、アワド軍はクンダ・カダル・ダムを包囲した。孤立したバラトのジャ将軍は直ちに降伏した。10時40分にシステムが復旧した。

40 ビシュラム
ビシュラムは母のママダ・レイに、ラメシュの持分を買い取ったこと、緊急総会を招集したこと、オデコについても知っていることを話す。ジェット機が現れ、ラム・ダスが刈り取った芝生に降りてくる。
***
ビシュラムはジェット機でアハバラドの寺院の近くに降り、シャストリとマリアンヌに案内されて、カリ寺院に入る。隠居した父のランジット・レイがいた。弟の株を買い三分の2を手にいれたことを告げ、レイ電力のゼロポイント計画の背後にオデコがいることをいつ知ったかときく。はじめからと父は答えた。第三世代AIは生物であり保護する責務がある。三人のgen3AIがおり、そのうち少なくとも2つがオデコをチャンネルにしている、という。
ビシュラムは、アワドがダムを占領したので、ここへ侵攻してくる、あぶないから逃げようと言うが、父は断る。そして、オデコのAIがゼロポイント計画に投資するのは、別のよりAIの生存に適した宇宙への出口を見つけ、そこへ逃げ、二度と人間が追ってこられないようにするためにである、と父は語る。ここにいるのは、カリの時代が終わるときのカリの顔を見たいからである、と。
***
アワド軍が侵攻している。誰が撃退するのか、もはやジバンジーしかいな