SF百科図鑑 Clifford D. Simak "Ring Around The Sun"


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June 09, 2005

Clifford D. Simak "Ring Around The Sun"

太陽を巡る環プリングル100冊残り2冊。この本と、ロデリックの第二部でコンプリートとなります。頑張るぞ。(感想粗筋)2005.6.11
読了。
面白かった。シマックの長編は、「都市」「中継ステーション」以来3冊目だが、「中継ステーション:」よりは面白い。「都市」とは毛色が違うので比べにくいが。
過去と未来に並行宇宙が無限に続いているというSFアイデアをベースに、新人類と旧人類の抗争をミステリ/サスペンスタッチで描いた、進化テーマSFである。題名の「太陽を回る環」とは、無限に連続する並行宇宙の地球が、全体として太陽を取り囲む環を形成することを意味している。
本書は、幼少期のなぞめいた記憶を持つ作家の主人公の日常生活に、奇妙な出来事が立て続けに起こるという、「日常生活に紛れ込んだ謎、超現実」パターンで幕を開ける。そして、次第に、これらの事件の背後にとんでもないスケールの大きな事件や組織が存在することが明らかになっていく。しかも、主人公自身のなぞめいた過去が次第に説明されるとともに、この巨大な事件の渦の中に主人公も否応なく巻き込まれていくことになる。
このあたりの興味をそそる書きぶりは、懐かしき光瀬龍のジュブナイルSF「異次元海峡」「北北東を警戒せよ」あたりを思わせ、さすがにうまい。恐らく初期の日本のSF作家は、かなりシマック作品を模倣しているのではないかと思う(小説だけでなくマンガを見ても、例えば藤子不二雄作品は、かなりシマック作品のテイストに近い)。
そして、中盤で唖然とするようなスケールの大きな世界像と、進化のヴィジョンが開ける。いわゆるセンスオブワンダー全開である。
更に、終盤では、主人公と、互いに恋愛感情を抱くエージェント女性アンの生い立ち、素性、アイデンティティにかかわる驚くべき真実が明かされる。&&もっともこのオチは、だいぶ早い時点で読めたのではあるけれど。
よくできた、古きよきエンターテインメントSFである。

テーマ性   ★★★
奇想性    ★★★★★
物語性    ★★★
一般性    ★
平均     3点
文体     ★★★
意外な結末 ★★★
感情移入力 ★★★
主観評価   ★★★(34/50点)

<あらすじ>
太陽をめぐる環 クリフォード・D・シマック


ヴィッカースはふだんより早い時間に目覚めて非常に気分がよかった。こんな時間に目覚めたのは、前夜にアンから電話があって、ニューヨークにいるある男と会ってほしいと言われたためだった。
ヴィッカースは反対しようとした。
「スケジュールが崩れるということは分かってるわよ、ジェイ」アンは言った。「でもこの機会を逃すのはさすがにまずいと思うわ」
「無理だよ、アン」ヴィッカースは言った。「ぼくは今書いている物があって、手を抜けないんだ」
「でも、これは重要なのよ」アンは言った。「今まであったことの中でも、いちばん重要。他の作家を差し置いて、かれらはあなたを最初の聴き手に選んだんだから。あなたこそそれをやってくれる人と信じているのよ」
「ただの売名だね」
「売名じゃないわ。何か他の目的があるのよ」
「忘れてくれないか。ぼくはかれが誰であろうと、会う気はないよ」ヴィッカースは言って、電話を切った。だが、今ヴィッカースはこうして、いち早く朝食を作り、ニューヨークへ行く準備をしているのだ。
ベーコンエッグを焼き、トーストを焼き、片眼を沸き始めたコーヒーメーカーに注いでいると、ドアベルが鳴った。
ヴィッカースはローブを体に巻き付けてドアに向かった。
隣人の娘ジェーンだった。父母はまだ寝ている。昨夜遅く二人で帰ってきて、母親が父親に酒ばかり飲んで仕事もしないで、とぶつぶつ言っていた。離婚をほのめかしたこともあるとか。
ジェーンはビッカースに結婚していないのか、なぜか、ときく。ビッカースはそうだと答え、昔の女のことを思いだす。春の谷間、山頂には雪&&。思い出に耽るうちにトーストを焦がしていた。


ジェーンが帰るとビッカースはジョンに電話をかけ、留守の間にネズミ駆除をしてくれと頼む。退治用に猫を飼ったのだが、すぐにいなくなっていた。
それから執筆に取りかかろうと思ったが出発まで中途半端な時間しかない。ほんとうは行きたくなくて、家でやるべき仕事もあるから、車が故障していると嘘をついたのだが、アンは有無を言わさず会えと押しきった。
あの女の子、キャサリーン・プレストンを思いだす。祖先の家にいた女の子。あのころはビッカースも若かった。貧しい農場だった。
新聞を見る。冷戦がずっと続いている。行方不明家族の記事。この町や他の町でいくつかの家族が跡形なく消えている。借金などの形跡もない。
<世界は二つ以上ある! とサヴァン述べる>という見出し。1秒未来、1秒過去の世界、そのまた1秒未来・過去の世界&&世界は無数に前後につながっている、という内容だった。
そうこうしているうちに出発の時間になった。


ガレージに行くと、エブが「車は修理でけへんかった」という。そして、昨日セールスマンが紹介しに来た<永久車>を買えよ、という。孫子の代までタイヤを交換するだけで半永久的に乗れる、1500年は持つという。今の車も一〇〇〇ドルで下取りしてくれるらしい。ビッカースは「そんなすごい車を何の宣伝もしないはずがない。インチキだよ」と相手にしない。エブは「そか、残念やなあ、わかっとったら修理しとったのになあ、大した故障やなかったから。もうバスは走っとるから、町行くならバスで行くとええで」という。
ビッカースはバス停まで歩く。薬屋の隣の靴磨き屋は数週前、ハンスが亡くなって店を閉めたが、同じ店舗が<道具屋>の看板を出して開店していた。だが、ショーウインドウにはライター、かみそり、電球の三つしかない。
そこへ隣人のホートン・フランダースが通りかかる。「あの会社の支店がまた出来たな。わたしは非常に興味があるんだ。何かが密かに進行している」
バスが来た。「ちょっと今から町に用事があるんだ。夜、うちによらないか?」
「喜んでお邪魔するよ、いつもどおり」


ビッカースはバスに乗り、<五つのアイテム>の奇妙な符合について考える。永遠のかみそり、永遠のライター、永遠の電球、炭水化物食品、そして永遠の車。こんなものが実用化されれば自動車会社は倒産し、失業者が<炭水化物商会>の求人窓口に押しかけるだろう。商会の社員は、「あなたのような方のために当社はあります」といって、炭水化物食品を配給する。すべての商品が同じ会社のものかは分からないが、作ったのはあるいは同じ人かも。
車中の女性二人が会話している、面白いグループに所属しているらしい。サミュエル・ピープスという人物がいろいろな本や日記を出版している。グラディスという女性は、チャーリイがこのグループに懐疑を示しているというが、メイベルという女性は、同グループに、自分が未来に住んでいるふりをしている人物がいる、という。


ビッカースは、アン・カーターに案内されて、クロフォードという男の待つ、<北アメリカ調査事務所>表札のあるドアを開けてはいる。


ジョージ・クロフォードは、最近財界を震撼させている<永久もの>産業について、ほうっておくと経済を壊滅させかねないが、<長持ちする製品は悪だ>とおおっぴらに消費者に主張するわけにいかない、そこで、ビッカースに本を書いて欲しい、という。永久剃刀、ライター、電球は、当該産業を壊滅に追いこむだろうし、自動車も同様だ。更には<太陽熱発電を完備した永久に長持ちする家>も売りだされているという。インドその他の食料危機の際に無料配布され始めた<炭水化物食>についても同様だ。調べてみると、原材料がどこかから購入された形跡は全くないらしい。政治的陰謀というよりも、あからさまな経済への攻撃ではないか。資本と労働力が死んでしまう。マスコミは同社のCMを拒否したが、多数のセールスパーソンを雇っているのでダメージは少ない。次の標的は洋服だろうか、全く予測がつかない。そこで、ビッカースに反対論の本を書いて欲しいという。
ビッカースは「せっかくのお話でありがたいのですが、わたしには全くネタがありません」と答える。


申し出を断ったビッカースに、エージェントのアン・カーターは激怒し、飲んで悪態をついた挙句、そろそろ出るわよ、勘定お願い、バスに乗ったら二度と戻ってこなくていいわよ、という。


二人は<永久に長持ちする家>のモデルハウスの前を通りかかる。中をのぞくとセールスマンが話しかけ、説明した。ひと部屋500ドルで、後から部屋を追加できる。組みたてのちゃちなものでなく初めから設計しなおす。太陽熱発電も完備し、冷蔵庫やストーブもある。その他の家具は自分で入れる。ペンキの塗り替えは不要。
だがビッカースは「ぼくは自分の家に愛着があるから結構」と断る。


バスで町に戻り新聞を買ってカフェに入り夕食を食う。そこへジェーンが来て、留守中にネズミ殺しのおじちゃんが来てたよ、という。ママとアイスクリーム買いに来たの。母親のミセス・レスリーが来る。隣人なのに初対面だ。彼女は、ビッカーズの本を何冊が読んだといい、プリテンショニスト・クラブに行っている私のことを馬鹿にしてます? ときく。否定すると、「じゃあ、幼児的?」とたたみかけるので、「そうおっしゃるならそんな気がしますね」と答える。彼女は熱中できるものに飢えているらしく、何かないかときくが、返答に窮する。<プリテンショニスト>の生活ってどうだろうか? 幸福なのか? しょせん逃避、だが何から逃げているのか。
レスリーは「今夜でも遊びに来てね」といい、ビッカースもうなずくが、社交辞令で、本当に行くことはないし、向こうも嫌だろう。だがジェーンはほんとに来て欲しそうで、「パパとママは仲直りしたんだよ、パパはもう浮気しないって、きっと来てね」と言いながら母に連れられて去って行った。

10
家に帰るとジョーの置き手紙、ばっちりネズミ駆除は終わった。庭にホートン・フランダース。冷戦40年に及び、何度も危機になったがそれ以上いかないのは、ただ兵器への恐怖だけではない、何かが干渉しているためだ。という。物理学は急速に進歩し蓋然性の科学になっているが、電子の振る舞いの説明はできずにいる。火星人? いやもっと一般的な何か。宇宙には知性がいて、地球に適用できるもの出来ないものがある。向こうがこなくてもこちらから精神を飛ばし理解することは可能だ、精神は物質でなく光速の制約は働かない。そして、永遠の機械という物があれば、という。かれがいわんとしているのはまさに、<永久自動車>のことだった。

11
フランダースは帰り、ビッカースは居間に戻る。やつは宇宙について何を知っているというのか、変な老人だ、いったいどういう生活を歩んできたんだろう。机に向かうが書けない。今日新しい仕事を断ったのはきなくさい、嫌な予感がしたからだ。と、変な音が聞こえ、不自然な静寂。角に目のない変な生き物。紙おさえの金属の錘を投げつけた。

12
それはネズミではなく機械だった。スパイロボット? 何のために? しかし見つかっても逃げなかったしスパイではなさそうだ。むしろわざと見つかろうとしていた。何か知らせようとしたのか?
ビッカースは今日の出来事を頭の中のノートにリストアップして、フランダースはもっと何か言おうとしていたのでないかと思い当たった。もう夜中の二時だが、今から叩き起こしてきき出そう。

13
そして、フランダース邸に着いてみたところが、フランダースは失踪していた。お手伝いの女性が薬を届けに部屋へ行ったところ、藻抜けの殻だったらしい。さっそく、警官やエブ、ジョー、それに薬屋店主のヴィクらがきて、家中を探していた。
結局家の中にはいなかったので、外を手分けして探すことになり、二手に分かれて川べりなどを探したが、「フランダースはこのまま見つからない」という根拠のない予感があった。

14
翌日夕方まで捜索したが、フランダースは見つからなかった。ビッカースは自宅に帰った。床に散らばった機械ネズミ?の部品類を見たが、あの騒ぎは、もうかなり前のことのような気がした。アンから電話があり、例の会社が十五セントの洋服を売り始めたらしい。何か奇妙なことが起こりつつある。後日改めて電話することにして切った。
その後、エブから電話があった。明朝、川の中を捜索するらしい。だが、フランダースが死んでいるとは思わない、とビッカーズは言った。エブの用件は永久車を買ったことだった。見せてやるという。ビッカースも買う気はないとはいえ、興味はあった。
郵便物をチェックすると、何とフランダースからの手紙。失踪騒ぎを見越した内容だった。だが、今どこにいるのか、なぜいなくなったのかの手がかりはなかった。ただ、生きていることだけは間違いなさそうだ。そこには、子供時代に通った道を通り、失ったもの、忘れていたものを見つけよ、埃を払え、などと書かれていた。

15
翌日から数日ビッカースは何もしなかった。墓地へ行き、フランダースが手紙で書いていた<埃を払う>とは何かと考えながら、バスに乗っているときに、何か引っかかりを感じた。なんだろう、この変な感じは。何か忘れていたもの。
家に帰ると、机の引きだしを開けて何かを探した。ふと思いだし、屋根裏部屋に行き、そのノートを見つけ、探しているページまでたどりつく。

16
そのノートは昔つけていたものだった。ビッカースはバスや職場でいつも他人に避けられているという感覚を持っていた。克服しようといろいろ試みたがうまくいかず、日記をつけ始めた。そして結局、仕事をやめ、家にひきこもって作家になる、という形で人間社会から退却した。一五年間、すっかり忘れていた。だが、今再び、おれは他の人間と何か違う、という感覚が蘇っていた。この数日の出来事を考える。何らの根拠もないのに、不思議な予感、予知能力のようなものが働くのだ。本の仕事を断ったこと、フランダースは探しても見つからないと直感したこと。いずれもその予感に基づく行動だ。そして、自分はいよいよ瀬戸際に追い詰められている、と感じた。

17
そこへ、エブがやってきて、誰かがみんなをそそのかして、フランダースはビッカースが殺したと思っている、リンチを計画して集まっている、永久自動車を用意したから逃げろという。ビッカースは、そそのかしたのはクロフォードだろうかと思いながら、フランダースに言われた通り、西へ、自分の子供時代へと車を走らせた。

18
着くと昔の知人達がいた。父の農場は父の死後フェラ-という男に買われていたが、<合成炭水化物>におされて農業は壊滅状態、農場は廃墟状態らしい。ビッカースは車を進める。

19
農場は廃墟化し、雑草がぼうぼうだった。ビッカースは中に入り、子供時代のクリスマスプレゼントにもらったらせん状の縞模様の<独楽>を見つける。縞の一本一本がどこかで消えて次の縞になっていく模様を見ていると、妖精の世界へと誘われていた子供時代の心を思いだしたビッカースは、その独楽を手に取り、外に出る。

20
ビッカースはプレストン邸に移動する。やはり廃墟となり封鎖されていた。裏側には納屋があり、谷へ降りる道があった。ビッカースは、女と二人でここへ来て永遠の愛を確認し谷へ降りた二回目の訪問を思いだしながら、谷へ降りていった。今回はまた<独楽>に誘われて──いや、それは最初だ。ビッカースは葛藤に翻弄されながら、谷から戻る。

21
谷に入っても妖精世界に入れなかったのは独楽が古びているせいだと思ったビッカースは、知人の経営するダイムストアを手始めに、同じ種類の独楽を探すが、見つからない。けっきょく手持ちの独楽のペンキを塗り替えようと思い立ち、道具屋でペンキを購入する。店員は狂人を見る目で見ていた。

22
ビッカースはホテルからアンに電話し、送金依頼する。アンは、クロフォードが自分からやってきて、焦っていて、金はいくらでも払うといっていたといい、早く戻ってきて、明日電話して、という。ビッカースの<独楽で妖精国に行く実験>の話は無視された。

23
ビッカースは独楽のペンキを塗り終え、乾くまで待たなければならないので、部屋の外に出る。ホテルから通りに出てカフェに入る。店の女店員が映画の撮影を見に行きたいといっていた。食欲のないビッカースは注文をせず再び外に出る。

24
部屋に戻ると独楽がなかった。
クロフォードが来た。アンの電話を盗聴して留守中に忍びこみ、独楽をまわしたところ、目を離したすきに消えたらしい。
かれは、ビッカースを、<分析器>がその作品から<自覚のないミュータント>の一人であると判定したこと(同様の自覚のないミュータントがもう一人いるらしい)、他のミュータントは長年の逃走の歴史を通じて旧人類と戦いつづけてきたこと、追いかけても部屋に入ると消えてしまうため取引相手にならないこと、それゆえクロフォードと取引をしたいこと(さもないと旧人は滅んでしまう)などを話す。
ビッカースは、クロフォードに協力する気になったら連絡すると答えた。そこへ消えた独楽が帰ってきた。クロフォードは帰った。

25
アンの自宅と会社に電話したが留守だった。アンもミュータントであると告げ、逃げて落ち合おうというつもりだったが。ともかくホテルを出ることにした。アンと会った後、クロフォードを見つけて真相を吐かせるつもりだった。チェックアウトのとき、クロフォードから手紙があった。「今乗ってる車を使おうとするな。何か起こっても絶対に言うな」と書いてあった。

26
ビッカースは車を走らせながら、プレストン邸に泊まって独楽を試すべきだった、この車を使うべきではなかった、と考える。そして、人類の中に第6感以降の超能力、予知や念動、異次元に入る能力などが備わっても何ら不思議でないと考える。かれはアンもミュータントだと根拠もないのに確信があった。

27
朝の6時に町に着き、レストランに入る。ケーキとハムを食う。外で騒ぎ。ビッカーズの永久車を見つけた群集が取り囲んで叩き壊している。彼らは<ミュータント>の話をきいて反旗を翻したのだ。これがクロフォードの手紙の「永久車を使うな」の意味だったのだ。ビッカーズは町の中を逃げ、公園のベンチで新聞を見る。

28
新聞には、超人が人類にとって代わろうとしているという協同発表が世界中で同時に発表され、ミュータントの変化は目に見えない精神的なものであること、とにかくパニックにならず、<永久製品>を買わないこと、使わないこと、疑わしいものを見たら通報すること、を呼びかけたこと、ニューヨーク他各知で暴動が起こり、永久製品の販売店や永久ハウスが襲われ、死者が出ていること、朝に死体が釣るし上げられ<こいつはミュータント>と書かれていたこと、などが報じられていた。
ビッカースは、車を盗んで逃げようかと考えるが、例の虫の知らせで、<独楽を取り戻さなければ>と思った。突然変異的な新しい精神能力がこの<予知><勘>ならば、それは当然、<論理、理性>にとってかわるべき、それよりも優れた能力であるはずだ。

29
ビッカースは車に戻って独楽を探すがない。
妖精の国の1回目は子供のころ一人で行った。二回目はキャサリーン・プレストンという女の子と行って一人で戻ってきた。プレストン邸に行くとキャスリーンはいなくなったといい、中にいれてもらった。広間に階段──その後はよく覚えていない、事実だったのか、なぜ今まで忘れていたのか。
周囲を歩いていると子供が独楽を持っていた。ビッカースはそれを買い取るが、警官に見つかったので逃げ出す。警官は発砲。ビッカースは地下室に窓から飛びこむ。そして、独楽を何度も試す。童心に返らないとだめだ。何度目かで成功し、丘の上にいるのに気がつく。独楽もあった。

30
丘の周りには人間が手を加えたことを示すものは何もなく、バッファローが走っている。ふと、ドクター・アルドリッジの記事を思いだした。この世界の未来と過去に連続して別の世界、地球が存在する。太陽をめぐる環。そうするとここは、元の世界の少し未来か過去の地球なのだ。
そして、この世界にプレストン邸があるという確信があった。ビッカースは歩きだした。

31
ビッカースは野原を進み森でキャンプをし、魚を食い、果物をとって生活した。何日も進んで、ロボットが働く自動工場を見つけた。飛行場には自動操縦の飛行機が発着し材木などを運んでいる。工場は太陽熱発電だ。永久ハウスでソーラーシステムの説明を受けたのを思いだした。永久自動車その他もここで作られたのに違いないと思った。

32
島のある川に出て、川べりが崖になっているところまで行くと先に谷があって、谷に沿ってキャンプしながらいくと、ついにプレストン邸についた。玄関に回るとドアが開いて、キャスリーンではなく、裸の男が現れ、「どうかしましたか?」と言った。

33
その禿た男はロボットのヘゼキアと名乗り、家の中の椅子に座らせて待たせた。隣室から声が聞こえるので耳をすますと、フランダースらが話している。ビッカースについては急ぎすぎたが、クロフォードを扱えるのは彼しかいない、などと話している。アン・カーターの名前も挙がる。そしてビッカースは、二人がミュータントですらなく、アンドロイドであるという話を聞いてしまう&&。ビッカースはドアを開け、外に飛びだした。

34
ビッカースは自分達がアンドロイドなら、それを作ったのはミュータントであることは間違いないと考える。そして頃合を見て刺激を与え、何かをさせるのだ。
クロフォードに言おうか。きっと興味を示すだろう。その前に、アンと会い、助けないと。
とにかく、元の地球に帰らなければ。

35
ビッカースは男に声をかけられる。かれによると、ビッグハウスというミュータントの本部があるらしい。ミュータントは、テレパシーを持ち、宇宙の生命の心を読み、その技術を盗んでいる。男はアサ・アンドリュースと名乗った。ここ<第二の地球>からオリジナルの地球へは戻れないし、戻ろうというものもいないらしい。元の地球に残した家族がいれば、連れて来てくれる。かれの住居の周囲には、ジェイク・スミス、ジョン・シモンズらが住んでいる。ミュータント達はロボットを派遣し、彼らの生活を助けてくれるという。また、この地球には原住の人類はいないらしい。

36
ビッカースはアンドリュース邸に泊まる。アンドリュースの妻ジーンもいる。夫妻はどちらも読書家で蔵書が多い。快適な生活だ。
ビッカースは、いかにしてこのミュータント文明が生まれたかを想像する。エイリアンの思考を読み取り、そこから集めた情報を元に、<不朽>の製品をつくって資金を稼ぎ、第二の地球にこの文明を作り上げた。当然、多数のミュータントが組織を作っているはずだ。新聞で見た集団失踪事件も彼らの仕業だろう。
だが、おれのようなアンドロイドを、いったい何のために作ったのだろう。
その手がかりを与えてくれる場所は、一つしかなかった。

37
ビッカースはプレストン邸に行く。ホートン・フランダースが現れ、ほとんどすべてを仕組んだこと、アンドロイドの暴露の会話も聞かせるためにわざとしたことをカミングアウトする。かれらはビッカースが極めてレアで強力な<予感能力>と、<遺伝記憶能力>を有していることを発見したが、父になる時点でその能力を自覚しているようにするために、かれが一八歳の時点でかれの意識をアンドロイドの肉体に転写し、オリジナルの肉体は一八歳の時点で保存しているらしい。ビッカースはまだ予感能力を使いこなせていないが、それは旧人類的な理性に頼っているためだ。かれに与えられた使命は、クロフォードをとめること、交換条件として、一八歳の肉体への帰還、永遠の生命に加え、恋仲にあった一七歳のキャスリーン・プレストンを蘇らせ、その間の時間をなかったかのように元に戻す、という報酬を約束した。

38
ビッカースは眠れずにアンのことを考えていた。元の地球に戻ったらアンに愛を告げよう。おれたちはどちらもオリジナルの自分から疎外されているのだ。おれは肉体から、アンは人格から。
ヘゼキアがファイルを持ってきた。そこにはビッカース家のひとびとのデータが記載されていた。ジェイ・ビッカースは1947年に生まれ、1966年に<生命転送>を受けた。予感能力、時間覚(前後に連続する別の時間を認識する能力)、遺伝記憶、潜在的ミュータント(自覚がない)。
父母のデータもあった。チャールズ・ビッカースとサラ・グレアム。父は時間覚、電子工学、潜在記憶など。
時間は過去と未来に無限に連続する階層であり、同じ階層の前後に移動することは出来ない。代わりに、隣り合う階層へと移動することは可能である。<独楽>は、この<時間覚>を活性化するための道具らしい。
更に、父母のオリジナルの肉体も、<不死>が実現するまで<生体凍結>されているらしい。死亡したのは、アンドロイドの肉体に過ぎない。
プレストンのデータは、なかった。

39
不死が実現した世界で、人間は何のために生きればよいのか? 無限の空間と、無限の時間が手に入る。いわば超古代に猿が火や道具を発見したのと同じでないか。不死はただの新しい道具、われわれは未開の原始人。穴から出たら何があるのか? 人間の存在意義を理解するかも知れない。その次に、自然法則を完全に理解し、神を理解するかもしれない。死が訪れれば、宇宙へと飛び立つかもしれない。
ビッカースはヘゼキアに、プレストンの記録がないというのは間違いないかときき、肯定される。そう、キャスリーンとは単に、ビッカースをプレストン邸の記憶へと呼び戻すため条件づけされた、偽の記憶なのかもしれない。
更に、ヘゼキアは、ホートン・フランダースもまたアンドロイドであることを告げる。

40
クロフォードを止めるにはどうすればいい? やつらはミュータントに宣戦布告をした。死に物狂いで戦うし、秘密兵器ももっている、と言っていた。
予感能力を働かせるにはどうすればいい? 思考を止める。<戦争><貧困>そして<人員不足>という観念が浮かんだ。そうだ、ミュータントの精神はアンドロイドの肉体に転写できる。人員不足は容易に解消できる。ビッカースは解決策を思いつくと、アンドリュースを叩き起こした。そして、「ジェイ・ビッカースの生命は何人に分割されたんだ?」ときいた。アンドリュースは「三人だ。きみと、わたし、もう一人は言えない」と答えた。
だが、ビッカースにはもう一人が誰か、何となく見当がついていた。かれは部屋を出た。

41
プレストンの記憶は偽物だった。それがアンへの愛を妨げていた。
だが、アンも第三者の一部だ。おそらくは、ジェイ・ビッカースの。
なら、三人の意識がオリジナルの肉体に戻されたとき、三人の人格は死ぬのか、それとも三つの人格側面を持つ一つの人格としてマージされるのか? また、アンとビッカースの間の愛はどうなるのか? そんなもの初めからなかったことになるのか。肉親よりも近い存在である自分に対して、他人を愛すると同じ意味での愛など、成り立ちそうにない。
ヘザキアがノックし、朝食を告げる。

42
ヘゼキアが服や資金を用意した。貨幣の偽造ではなくコピーだとフランダースは言う。また、多数のダミー会社を作っているらしい。
人員不足についてフランダースと話す。普通人と結婚してミュータントを生んでも本人が気付くまで待たなければならないし、社会的に成功した者にはもはやミュータントとしての協力を求めるのは無理だ。政府に人員を送りこむには人数が足りないし、直接交渉しても拒否されるだろう。
フランダースは言う、人類は今度本当の戦争をすれば滅びる、癌患者だ。それを治療するには荒療治もやむをえないのだ。時間がないし、説得しても応じるわけがない。平和的解決は無理だ。その犠牲になって失業したアンドリュースのような男には、ここへ連れてきて平和な暮らしを与え、埋め合わせをしている。いってみれば自殺のためのナイフをとり上げるようなものだと。
ビッカースは、解決案として、アンドリュースのような通常人を伝道師として、元の地球に戻して欲しいという。現実逃避を求めている<プリテンショニスト>に働きかければ協力を得られるはずだ。
フランダースは承諾した。ニューヨークに行って帰還すればいいというが、ビッカースは、このプレストン邸で帰還したいという。結局、ここで戻り向こうで車を買うということになった。向こうでの連絡役はエブらしい。

43
ビッカースは埃まみれの家の中にいた。20年前の記憶と同じだ。
***
ビッカースは車で田舎道をひたすら進んだ。何の変哲もない平和に見える景色の中に緊張や警戒が垣間見える。食事に立ち寄る店での客の会話も緊張している。東西協力してミュータントに立ち向かう気運が、すぐに元の対立に戻ったという。ミュータントのバックに東側勢力がいるという見解が強まっているためだった。
車での旅を続けるうちに、ミュータントが<別の世界>からきているという噂が徐々に起こり、ついにマスコミは最初は恐る恐る、ついには大々的に報道を始めた。

44
クリフウッドに戻るとまずエブ邸に行った。だが隣人が「エブはミュータントということが分かって殺された」と言った。その隣人は肉屋の男だった。あいてがおもいだす前に、ビッカースが殴って気絶させ車で逃げた。途中で車を捨てトラックの荷台に飛びのって隠れた。検問で三回止まり「逃げているミュータントを見なかったか」ときかれたが運転者は知らないと答え、なんとかクリヤーした。

45
ストアに行くと破壊されていた。アンとは会えない。公園に行くとプリテンショニスト(なりすまし教徒)が演説していた。「やつらが爆弾を落としたら俺達は見殺しだぜ! 仕事をやめて貧乏になれ、そうすれば別世界に行ける! ユートピアじゃ!」
そこへパトカーが来る。ビッカースはつかまりそうになったところで近くの男に助けられ、隠れがに連れていかれる。四人の男と二人の女がいた。助けた男はジョージ。演説した男はチャーリーだった。女のうち美人な方がサリーと名乗った。「実行派? 純粋派?」ときかれ、意味が分からなかったが顔色を見て実行派と答えた。時代はいつかときかれ、記憶の糸をたどって<チャールズ二世>と答える。サリーは「わたしはアステカよ」と答えた。夜集会があるというので、気は進まなかったが「喜んで」と答えた。

46
サリーと集会に行った。ジョージはいなかった。ジョージはオーガナイザーで、こういった集会にはこない。集会で布教をするのはプロパガンディストだ。伝道者を殖やすのだ。
席につく。いろいろな人が座っている。まずミス・スタンホープが読み始める。南北戦争の日記。完全な現実逃避だ。
<実行派>は、もう一つの世界の実在を信じ、町で警察といたちごっこをしながら演説する連中だ。
ビッカースは途中で外にでて、明日はアンと会おうか、と思った。むろんそうしてならないのは分かっていたけれど。

47
アンの家にいった。アンはビッカースをいれた。抱きあった。アンはいった、「ずっと戻ってくるように祈ってた。あなたは人じゃないといっていたけどわたしも人じゃない。昔、男の人と谷の中に入っていった記憶がある。相手の名前は覚えていない。わたしは人の心に入って思いを伝える力があることが分かった、最近試した」
やはりアンは同一人から転写されたアンドロイドだ。女の体だから男と入った記憶をすりこんだのだ。名前を思いだしたとしても偽の記憶だ。三人は同一人格からの転写人格だ。
そこへ電話。クロフォードからビッカースに。シカゴから探知機でずっと追っていた。秘密の兵器は渡すからすぐ来いと言う。外に迎えの車がいると。
「必ず戻ってきてね」とアン。
「ああ、今おれは自分のやっていることが分かっている」

48
クロフォードのオフィスに行く。クロフォードは、お前らはやりすぎた、あの宗教はなんだ、みんな次々と仕事をやめて消えていく。もう戦争しかないという。あらゆる場所にアナライザ-がある、ミュータントはすぐに分かる。
財界の要人などにも自覚のないミュータントがいる話をし、おれが知らせてやるというと、そうはさせない、という。「ビッカース、君は前は利用価値があったが、今は危険なだけだ」
「おれを狼の群に食わせるのか」
「そのとおりだ。ご機嫌よう。会えてよかったよ」
「じゃあまた」席を立つ。
「それはないと思うな」とクロフォード。

49
エレベータを降りタクシーを拾いアパートに戻るとアンは留守だった。強引にドアを壊して入るといなかった。外に出ると買い物から帰ってくるアンとぶつかった。「ぼくの心を読むんだ!」アンは読んだ。
ミュータント狩りが襲ってきたので、アンと共に第二の地球へ移動した。岩の上から落ちて頭をうったが、二人とも無事だった。

50
そこはマンハッタン。船で移動しようか。とりあえず丘の上に行った。アンのテレパシーでロボットと連絡。救援を送るらしい。映画の道具を持ってこさせるように指示。クロフォードの対処法を思いついた。それから子供のころの話をしかけるが思いとどまる。アンとキスしながら、二人は愛しあえないなんておれの口からは絶対いえない、と思う。

51
元の地球に戻ったビッカースはクロフォードに連絡しアポを取る。会議中のクロフォードはビッカースを迎え、他の委員に紹介する。ビッカースは「なぜ独楽をまわした?」とクロフォードにきく。クロフォードは少年時代を思いだしたなどといっている。そこへ呼びだしの電話がかかり、クロフォードが席を外す。そのすきにビッカースは独楽の回る映画(ロボットのナレーション入り)を見せる。潜在ミュータントの委員達が次々と第二世界に移動する。ビッカースは室外に出てクロフォードを迎える。クロフォードに独楽の理由を問い詰め少年時代の記憶を話させたところ自分の記憶と全く同じだった。つまり、フランダース、クロフォードは、ジェイ・ビッカースの肉体から生命移送されたアンドロイドなのだ。
また、アンは、カサリーン・プレストンに違いない。ただし、アンのほうがオリジナルでカサリーンというのは偽人格の偽名。
ということは、アンもビッカースも元の体に戻るときはオリジナル人格として残れるはずだ。おれたちは異性としてつきあえる!
ビッカースはクロフォードに、全員第二世界に送った、もう無駄だ、と宣告する。「殺してやる、殺してやる。なぜお前を殺せないんだ」というクロフォードにビッカースは「来るんだ、友よ、それとも兄弟と呼んだ方がいいかな?」と呼びかける。
~完~

silvering at 02:28 │Comments(3)TrackBack(98)読書