SF百科図鑑 アンソニー・ストー『人間の攻撃心』晶文社


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May 30, 2005

アンソニー・ストー『人間の攻撃心』晶文社

人間の攻撃心英国精神医学界の重鎮の古典的名著らしいです。個人的に、人間精神の持つ破壊的側面を価値中立的に(倫理判断を先行させることなく、人間精神のすべての他の性質・側面と同様の本能的・本質的側面であるという観点から)把握することに興味を持っていることから、いろいろ調べた結果、とりあえずこの本と、エーリッヒ・フロムの『破壊』を注文し、この本が先に届いた。
読了。
内容は、嘘や首を傾げたくなる間違い、短絡的推論がけっこう見受けられるものの、テーマ自体が興味深いことと、断定的な文体のゆえに、終始面白く一気に読み終えた。読み物としては一級品だろう。
ただし、書かれたのが1968年とかなり古く、内容のかなりの部分が古びていることは否めない(例:性差に関するとらえ方の古くさい類型性・倫理依存性、異常犯罪者に対する甘い分析、人口問題や国際情勢に関する言及の古さ)。このあたりは割り引いて読む必要がある。
また、精神医学者であるが故の限界であろうが、「うつ病」「分裂気質」「妄想的敵意」「精神病質的敵意」といった、病理学上の陳腐な伝統的病名ラベリング(=攻撃性の表面的な現れ方の特徴)に拘泥しすぎて、現実の実体としての人間精神そのものと乖離した、「仮想的模範的異常者」を恣意的に措定した上、これを論じることで、すべてを論じているかのような錯覚に陥っているように見える箇所が多いのも欠点であるが、精神医学者の業病のようなものであるから、「この点に関してはこの人は職業上必然的に知的に不自由なのだ」と了解の上、割り引いて読む必要がある。
細かいところは眉につばをつけて読むにしても、以下の2点で本書は画期的である。
1)フロイト学派が「非科学的・宗教的・倫理的価値判断」を先行させこれに基づいて不当に無視・否定しようとした人間精神の持つ「本質的・本能的攻撃性」が、実は人間精神に普遍的かつ正常であるばかりか、創造的建設的活動の活力の源泉と同一のエネルギーである(ただ、エネルギーの現れ方の相違によって、恣意的に概念差別しているだけに過ぎない)ことを、正当に理解し摘示した点。特に、フロイト学派がなぜ袋小路に陥ったのかを、「均一な集団内において攻撃心を抑圧された構成員がこれを発散するために<為にする>分派活動を行った」と自らの<攻撃心>理論で説明しているのは笑った。
2)この攻撃心こそが人間の創造的活動や文明、労働、経済活動といった生産活動の原動力であり、破壊へ向う攻撃心を抑圧するのでなく、生産活動へとスムーズに誘導する方法を考案するのが肝要であるという正論を結末章において提示していること。
この二点だけでも、「精神医学者ごときが書いた本にしては上出来である」と思う。確かにこの本の特に中盤部分における細かい一つ一つの評価・判断のかなりのものは、論理が粗雑かつ根拠不明確で誤っており、中には救いがたいほどの間違いや決め付けもあるが、上記二点だけで充分に元は取れるので、大目に見てやろう。
テーマ性   ★★★★★
奇想性    ★★★★
物語性    ★★★
一般性    ★★
平均     3.5
文体     ★★(断定的文体はよいが、翻訳文はひどい)
意外な結末  ★
感情移入力  ★★★★★
主観評価   ★★★(32/50点)
silvering at 03:03 │Comments(4)TrackBack(99)読書

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この記事へのコメント

1. Posted by slg   May 30, 2005 03:16
第三章まで既に読んでいる。面白い。
ただ、本人が批判しているフロイトやその門下生の他の学者と同様、人間精神の一側面をあまりに全部であるかのようにとらえすぎて現実の人間精神と理論が乖離している感があるのは、程度の差こそあれこの本も同様。攻撃心の帰結としての組織化、支配的側面を説明しているけれども、攻撃心のみからなぜそれが帰結されるのか全く説明されていないのだ。というよりも、これらの場合は、『支配欲、優越欲、所有欲』といった人間精神の別の側面が原動力であり、そのために『攻撃欲』が利用されているだけであると位置づけるべきではなかろうか。純粋なる欲望としての攻撃欲と、他の欲求充足のための手段としての偽装的攻撃欲とは明確に区別されるように思われる。
2. Posted by slg   May 30, 2005 03:16
といった具合で、現実の人間心理を説明しえていなかったり、論理的に明快でなかったり矛盾していたりする箇所は多々あるから、およそ鵜呑みに出来る内容ではないが、ところどころの着想で自己の思想形成に役立つ部分はいくらもある。要はそれを元に私が私なりの人間精神の働きに対する理論を構築すればよいだけの話である。そもそもこの本を読むのも、ただそれだけのためである。フロム然り。
3. Posted by slg   May 30, 2005 20:20
半分ほどまでいった。
面白いが、ところどころ価値判断が論理に先行しているのが目に付く。特に、性差と攻撃心について書いた章はひどかった(ほとんど宗教的説教に近い内容)。やはり一流とはいいがたいのかもしれないが、精神医学者としてはこれでもマシなほうだろう。
ま、科学的記述と宗教的記述を注意深く峻別しながら読んでいれば、前者に関してはなかなかよく出来ていると思うので、無益ではない。
4. Posted by slg   May 30, 2005 20:22
この著者の言う「攻撃心」は、かなり広く、「活動性」「対他的働きかけ欲求」に近い意味で使われているので、そこに注意して読む必要がある。