SF百科図鑑

John Sladek "Roderick At Random (or Further Education of a Young Machine)"

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May 13, 2005

John Sladek "Roderick At Random (or Further Education of a Young Machine)"

ロデリック・アトランダムで、こっちが第二部のスレね。どうせ続けて読むからまとめて立てときます。写真は一応単独版にしたけど実際読むのはどっちかは気分次第。ちなみにor以下の副題は合本版のみについています。(感想・粗筋2005.6.16)
読了。
第一部の「ロデリック」で解消されていなかった伏線が、いちおう全部解消された。やはり、2冊まとめて1つの長編とみるべきである。
本第二部では、ロデリックは、既に成長しきって、ほとんど(純粋な、すれていない)人間のように自由意志で考え、行動するようになっている。対する人間は、相変わらず利己的で、狭量で、犯罪的で、不道徳で、感情的で、きちがいじみている。無垢なロデリックを視点に置くことで、第1巻と同様に、ヴォネガット世界的なイカレた人間たちのドタバタ喜劇が満喫できる仕組みになっているから、こういうのが好きな人にはたまらないだろう(私は必ずしも好きというわけじゃない、というより、程度問題)。
ストーリーは、主に、ロデリックと、これを追う二つの勢力、<オリノコ研究所>という謎の機関と、KURという財閥の攻防戦、及び、<機械>に関して廃絶を叫ぶ<新ラッダイト>と、その解放を主張する<機械解放主義>の対立を軸に、第一部で出てきたキャラ、新たに登場したキャラが入り乱れ、ドタバタ喜劇が展開される。第一部同様、とにかく登場人物の数がめっぽう多いうえ、あっさりと死ぬ。第一部で謎のままだった連続殺人事件、あるいはレオ・バンスキといった人物の謎も、本書を読んで初めて未解決のままだったことがわかった(第一部でよく分らなかったのは、単に積み残しのまま放置されていただけで、私の読解力のせいではなかったことが分ってほっとした)。
第一部と違い、本書では、<機械>と<人間>の関係という明確な論点が、割と単純な図式で対置され、これを焦点に様々な議論が展開されるので、非常に読みやすい。それほど議論に深みがあるわけではないのだが、第一部に比べれば読み応えは増していると思う。
危惧されたロデリックの運命も、オリノコ研究所の滑稽なミス(あるいは、バンスキの故意? 最後の告白は何だろう?)が判明し、方針転換により破壊を免れる。が、このオリノコ研究所の実体に嫌気がさしたロデリックはKURに戻る。が、そこにも居場所がない&&。けっきょく、その後のロデリックの消息は分らない。
あるいは、最後に出てくる、彫刻の元になった<モクソンが所有していることすら気付かなかったロボット>こそが、<絶望し雨に打たれさび付いて機能停止したロデリック>だったのかもしれない。そうだとすれば、ロデリックは、自殺することで人間になったことを示したともいえる。どちらにしろ、作者はわざとどちらともとれるような曖昧な書き方をしているようだ。
第一部では散々な酷評をしたが、この第二部まで通して読むと、伏線も大部分解消されているし、人間と機械との関係というテーマが全編を通して戯画的タッチでよく描けているし、やはり傑作であると思う。第一部はやや冗長に感じたが、この第二部はそんなことはなく、プロットも無駄が少なかった。
場当たり的なありえない展開は、確かに私の好みではないのだけれども、コミカルさを出すため作者がわざとやっているのだろうから、批判しても仕方がない。

テーマ性   ★★★★
奇想性    ★★
物語性    ★★★
一般性    ─
平均     2.25
文体     ★★
意外な結末 ★★
感情移入力 ★
主観評価  ★★(21/50点)

<あらすじ>

ロデリック、自由意志で動く <ロデリック第二部> ジョン・スラデック


レオ・バンスキーは、ロボット開発のロデリック・プロジェクトに復帰していた。心臓病も完全に治っていた。夢を見ているのか、死んでいるのか。どちらでもあり、どちらでもない。タイムワープを経て平行宇宙にトリップしたようだ。
ロデリックとは、学習能力を持ったロボットだ。
バンスキーの仕事は簡単なコンピュータプログラムに話し方を教えることだ。今のところ「ママ、ママ」と話すプログラムを作ったが、感情を理解して話すわけではない。子供はどうやって言葉を学ぶのか。脳をブラックボックスと考えれば話は簡単なのだが。
壁のファイルカードに「人間は過ちを犯す動物」と書いてある。何かが思いだせそうで思いだせずに、頭痛がする。
助手のベン・フランクリンが入ってくる。この男のことはまだよく知らない。この男は<使えない変人>で有名で、ドクター・フォングがライブラリー&歴史担当として雇ったはいいが、本ばかり集めて、歴史資料のほうはさっぱりだった。しょっちゅうタバコをすってばかりいるのもうっとうしい。
「レオ、このプロジェクトに疑いを持ったことはありませんか? ロデリックについて。倫理上のちょっとしたグレイゾーンがあるとは思いませんか? ぼくらはあの危険な代物で、環境を汚しているだけではないですか?」
「新しい種の誕生に、危険はつきものだよ」
「でもロボットという機械の種があまりにも早く進化して、ぼくらを乗っ取ったら?」
「短絡的なことをいわないでくれ」バンスキーの頭痛はひどくなった。「君のいいたいことは分かった。救いがたいトンマだな、きみは。わたしは、人間の知性とは仮説、推量の積み重ねだと思っている。ロボットというのは究極の仮説だよ。われわれ自身の完璧なコピーだ。われわれには、ロボットという<理念>が必要なのだ」
「ぼくは<理念>の話をしているんじゃありません。問題はその<具現化>ですよ」
「何を言ってるんだ。太古の昔から、人は理念の具現化をためらったりしてはいない。<パンチ&ジュディ>の人形劇は大人にも人気がある。ラジオですら<エドガー・ベルゲン&チャーリー・マッカーシー>の腹話術をやっている。わたしにはSF映画で見たある場面が忘れられないんだ。タンクの中で浮かんで光っている脳だよ」
***
「バンスキーは笑っているよ。ジョークを言ってな」
白衣を着た<オリノコ協会>職員の年上な方が、モニタを見ながら若いほうに言った。
心臓手術を受けたが失敗してバンスキーは死んだ。オリノコ協会が辛うじて脳を摘出して生かし、こうやって利用しているのだ。バンスキーの脳は、自分が生きて心臓病を克服し、ロデリック・プロジェクトに復帰したと思いこんでいる。ベン・フランクリンを入力ダミーとして用いることで、バンスキーの脳を操作することができる。このようにして、バンスキーの脳からの出力を得ることができるのだ。
二人は部屋の隅の映写コーナーの席に座った。年配職員は、いかにバンスキーの脳が優秀かを説明した。オットー・ニューラスがいうとおり、科学とは大海を漂う船に似ており、電子工学、通信理論、言語学へと進んだバンスキーこそはロボット学の最高の逸材であった。ロボット、というよりも<存在(エンティティ)>と呼ぶのが正確であるが。
ロデリック・プロジェクトは、自動生存の可能な学習能力を有する人工知性存在の開発プロジェクトであったが、NASAの予算を詐取して推進されていたものだった。だが、バンスキーにしろ、主催者のパターン認識学者のリー・フォングにしろ、メンデスやソネンシャインにしろ、優秀であった。この<自立生存的学習機械>ロデリック完成と同時に、不正発覚で計画は中止となり、レオは失脚し、やがて心臓発作で手術を受け死亡し、こうやって脳だけを取りだした。ロデリックは、言葉を話せるようになっていたが、これを可能にしたのがレオ・バンスキーであった。
ところで、<オリノコ協会>がロボット研究への破壊工作に金を使う理由はなんなのか、と若い職員はきいた。年配職員は、ロボット、<存在>がネガティブなものだからだ、人間性への危険をはらむからだ、人間の文化を破壊するからだ、という。八つのシナリオ、三つのモードの全てにおいて、人間性への脅威であることがわかった。六つの有効数値が出た。
ロデリック計画は中止され、フォングは台湾に追放され業界から閉めだされたが、肝心のロボット、ロデリックは民間で人間の子供として教育され、見つけるのが困難になっているのだという。かれは、<人間を演じること>を学習しつづけているのだ。
ロデリックは野放し状態で、いわば<でたらめ><でたとこまかせ>に歩き回っているというのだ。


ロデリックは、ダントン氏のドッグフードレストランの厨房で皿洗いの仕事をしながら、ペーパーバックの小説の残虐、殺人シーンを思いだしていた。自分の夢想にひたるあまり、五分間で1枚しか皿を洗わず、ダントンに恫喝された。そして、何というやかましい職場だ、と思った。ロデリックは仕事が終わると、よく路地に抜け出し、ゴミ箱の横で瞑想に耽った。そこへ、酔ったオールブライトが立ち小便に来て、ロデリックと話すのだった。ロデリックは、自分がロボットであると主張するのだが、外見は人間と変わりがなくなっているために、信じてもらえない。オールブライトは、「ともかく、ぼくは詩人なんだ」と言った。ロデリックには「ともかく」とか「give the right」といった言葉の意味はわからなかったが、詩人に会うのは初めてだった。詩人というのは死んでいるものとばかり思ったが。人生を理解する手がかりになるかも!
ロデリックは路地で眠った。
***
ロデリックの人生は限られていた。ダントンのドッグフードレストランで安月給でこき使われたが、IDカードのないロボットでは、他に仕事はなかった。職場近くにバス停があり、ホテルがあった。ロデリックはそのホテルに泊まり、よく読書をした。スパイ物、法廷物から医学書まで読みまくった。
***
ロデリックは、病院に行き、家族と称してソネンシャインを訪ねようとしたが、追い返された。
***
ロデリックは、金を払って、オールブライトに詩を読んでもらった。「スキナーの夢」という題で、夕暮れどきの鳩の動きを歌っていた。そこへ、金髪男がやってきて、ゴミ箱に包みを捨てた。そして、「この界隈でここだけ、ゴミ箱が空いてるな」といった。オールブライトが「ドッグフードの店が、廃物をリサイクルしてるんですよ」というと、男は、人と犬の関係についてひとしきり、話していった。
職場に戻ると、ダントン氏に怒られた。サボりやがって、今度やったら首といわれた。コックのデイブが「殺されるよ、あんたは、ダントンの息子のライルに似てるから」と脅した。息子を殺すとはどういうことかとロデリックは首をかしげた。
ロデリックは人間の行動についての本を読んだ。それには現代の人間が孤独で疎外されていると書かれていた。思ってくれるのは父母ぐらいだと。だがロデリックは原子力発電所の事故以来、マやパから何の連絡ももらっていない。あの事故の原因は音楽だった。衛星から送られる24時間放送の音楽を流すため天井に巨大なアンテナを備えていたが、それによって天井が落ちたのだ。今や町全体が封鎖されていた。政府は「もう生存者はいない」と発表している。そう、人生とはこのテレビのニュースのように疎外されているのだろう。
ロデリックはチャンネルを切り替える。白人と黒人の男女が抱きあっている。やがて、下水道清掃のCMに変わる。
***
ロデリックは、ウェイトレスの代わりをせよとダントンに命じられ、扮装して接客した。客の連れてきた犬を、主賓であるかのごとく犬用のテーブルに案内し、料理を食わせるのである。飼い主は見えないところに隠れて見守った。


時計が正午を告げた。クラット氏は社の業績レポートに目を通しながらベン・フランクリンと話していた。かれはベンとヘアに六ヶ月前に課したロボット捕獲に関して、いまだに完了しないのはどういうことだと問いただした。ベンは、チームのメンバー集めに手間取ったことを理由に挙げた。例えばダン・ソネンシャインのスカウトが必要であったにもかかわらず、手間取った。ダンこそはロデリックチームの中でもプログラミングに深くかかわっていたのだ。だが(ベンは製品開発部の次長になっていた)、ダンが精神をやられて病院に入ってしまった。
「それをいうならヘアもだ」とクラット。
「ヘアにはこの仕事をこなす力量はありませんし」
「KUR社は成長企業だ。様々な物を作ってきたのだ。人形クッキーも好評だ」
「しかし、われわれの水銀電池にちょっとした問題が」
「問題だって? せいぜい敵対的なマスメディアの動きがあること、子供達が腹痛をうったえたことぐらいだ」
「人形クッキーを食べた子供たちが水銀で死んだり、脳をやられたりしていますよ」
「だが証拠はないぞ。忘れろ。未来を見るんだ。とにかく、ロボットを捕まえろ」
***
「イニシャルがDのソネンシャインさん?」
「ええ、ぼくは息子のロデリックです」
「残念ながら、記録上、直系の家族はおりません」
***
客達は小部屋から、ウェイターを務めるロデリックを見て、ライルに似ていると噂する。ロデリックは接待をしながら、客の取りとめない会話に耳を傾けるが、中にはさっぱり理解できないものもあった。
「ぼくは今<ロルフィング>をやってるんだが、<一体化>の訓練をするには<へヴィ>なようだ」
「<コネクション>だろ、知ってるとも。この<ゲシュタルト>的なものは、わたしの家族にも作用したんだ。知ってるかね」「ところで、ジェイニスは元気?」
「彼女はいま、自分とコンタクト中だ──よくわからんが、たぶん彼女は<家族する>タイプじゃないんだろう」
「シナプスの緊張が多すぎると感じたよ、<取引>の後には。ぼくはシナプスの緊張を見失わないように努力した。今度は<精神科学>のトレーニングにするか、触覚学にしようかと思ってる、君も何かやるつもりなんだろう」
「んー、そうだな」
「<相乗効果>ってやつだろ?」
「そうだな。ウェイターさん、注文したいんだけど」
ロデリックは注文を取り、別の小部屋に移動する。女達が薬の話をしている。一人の女が錠剤を見せている。<タニドーム><トクシドル><イェグリン><ゾンブタル><ヴァルスト><クァジポイズ><ジタヴァート><ロブタイル><ノーマドーム><ペンセロン><パラソル><インヴィドン><ユーレプトン><バービドル>&&わけの分からない名称が飛び交っている。
***
客がスー・エレンという結婚と離婚を繰り返している女の噂をしている。それをきいていたロデリックは「エレンの三人目の夫は誰だろう?」と口にしてしまい、客に「何あんた?」と文句をいわれる。
ロデリックは内心人も犬も滅んでしまえと思うが、1時間後、ある女性に微笑みかけられ、気分を変えてダンスに行こうと思った。
だが、その前にもう一度、大学病院に行ってみよう。
***
今度はダニエル・ソネンシャインの義理の息子といって面会を試みるが、やはり追い返された。


ロデリックはアイダという女とダンスフロアに行く。ビールを買い、踊れないのでアイダと離れ、音楽ステージに行くとジ・オークスというバンドが準備中だが、機材の具合が悪そうだったので、直してやった。オークスはロボットの曲を演奏しだした。ある娘が、ロデリックがバンドメンバーと知り合いらしいと言うのでつきまとっていたが、その連れの男が勘違いをしてロデリックに殴りかかった。ロデリックはアイダに助けられ、ほうほうのていで逃げ出した。


ロデリックはアイダの猫のいるアパートに行く。ロデリックは服を脱ぎ、ロボットであることを確認させる。
「じゃああなた、感情がないの?」
「少しはあります」
そしてセックスは頭の中にあるというパの言葉を思いだす。。
***
テレビで最初の里母のインディカ・ディンクスが話している。ロデリックは、真と偽、右と左の対象性について図を書きながら話す。しだいにバッテリーが切れ、眠くなる。起きるとアイダは出かけていた。ロデリックは丘を降りていく。伝道師の男が<悔い改めよ>という裏返しのプラカードを持ち、ロデリックに話しかける。ロデリックは鏡と対称性について考える。神は鏡の中にも福音を及ぼそうとしているのだろう。
***
ロデリックがダントンに暴力を振るわれていると警官が来て、ゴミ箱から女の脚が見つかったという。ロデリックは数日前の金髪男の様子を微に入り細に入り証言する。おそらくオールブライトが逮捕されるだろう。


寒気が訪れ、気温の低下とともに、ロデリックの運気も低下した。両者は関連していた。
近ごろは、<毛皮のコート>と<プードルのセーター>が定期的に食堂を訪れた。とにかく、自分を暖かく保とうとするこれらの生き物を見ると不愉快になった。最初の復活祭のときの映像を思いだすのだ。坊主頭や毛羽頭たちが座って飯を食っている。ロボットの居場所はこの宴のどこにある? 給仕をすればいいのか? 外の寒気の中?
技術的にいえば特別な防寒着は要らないが、ロデリックは着ごこちのいい(コージー)ものが欲しかった。気さく(コージー)な下町っ子のマやパがもしいれば、わかってくれただろうに。何かをするかどうか迷ったときには、マは思い切ってやりなさい、と言ったものだ。
ロデリックはただ一軒あるスポーツ洋品店に行き、二週間分の給料をはたいて、上物のウールのストッキングキャップを買い、それをかぶって仕事に出た。
不運にも、ロデリックはテーブルで給仕をするとき、それを脱ぐのを忘れた。大半の客はただ笑っただけだったが、ある客が店長に苦情を言った。ミスター・ダントンはここを先途と、ロデリックを解雇した。
「息子だろうがなんだろうが、お前は寒空の下のたれ死ぬの似合いだ」ダントンは言った。
***
「イニシャルがDのソネンシャインさんですね」病院の受付嬢がパソコンのキーボードを叩いた。「いらっしゃいます。ウッドさん、患者さんとどういうご関係で?」
「わたしは──弁護士です。用件は──」
「けっこうです」機械がブーンと鳴って、赤いチケットを吐き出した。「このパスを、出るまでお持ちください。第一八G棟の一八階まで、急行エレベーターがあります」
一八階で、別のパソコン端末を担当している看護婦にパスを渡した。「その帽子、いいですね」ロデリックは言った。「普通じゃない」
「ありがとうございます」看護婦はパスを読んで、キーを叩いた。「たくさんの方に気に入っていただけるんです」
「いえ、特別だという意味じゃありません。変わっているという意味です」
看護婦は警戒した表情になった。「どういう意味です?」
「その、気付いたんです、他の看護婦さんの帽子は全部左前なのに、あなたのだけ右前だと」
「そうですか?」看護婦は笑った。「気付いたのは、とにかくあなたが初めてですわ」
「あの、気付いたのはただ、その帽子が、<ザ・スリッパ->という銘柄の飾りのディナーナプキンを畳んだものの一種だからです。<ミセス・ボウダーの精選百科事典>の写真で見たのを覚えているんです」
「ほんとうに?」
「子供のころ、何度も読みました。その机の上の花瓶のように、花の言葉で書かれていました、黄色い菊だとか──」
「もうけっこうです。右側のふたつ目のドアをおはいりください。待合室になっております。お待ちいただければ、ソネンシャインさんはまもなく来られます」看護婦は忙しくて、ロデリックを見る暇もないといわんばかりだった。だが、ドアに着いて後ろを振りかえると、看護婦はこちらを見ていた。
また、赤い帽子だ。ロデリックは帽子を脱ぎ、ポケットに突っ込んだ。しまった。
入ってみると、広い待合室に老人一人だった。
ロデリックはテレビを見ようとしたが、チャンネルがきかないので、新聞を読み始めた。

元詩人逮捕さる
下町の路地で切断した脚が発見されてからわずか三〇日後、警察は下町で第二の脚を発見した。検死の結果、二本の脚は別々の二つの死体から切断されたものであることが判明した。「どちらも女性の脚で、膝の部分で切断されている」監察医は述べた。「おそらく、電動彫刻刀を利用したものだ。どちらも死後に切断されている」
一本目の脚はダントンの店の近くで発見されていたが、ダントンは、人肉を料理に使ったことはない、材料の仕入先は領収書で証明してみせる、と語った。
二番目の脚が、新たに発見された場所はザビエル通り。パスバトンのブティック新店の近くだ。
元詩人のA.L.ブライトは、二本の脚の近くにいたことを認めたが、人を殺した覚えはないと語った。警察は、この男がダントンの店の皿洗い係の証言する<好運の脚>連続殺人犯の特長に酷似していると語った。

そこへ手足の不自然に長い男がやってきた。ダン・ソネンシャインだった。「あなたがわたしの弁護士?」
ロデリックは、「それはここへ入るための方便。わたしはロデリックです」と答えた。
ソネンシャインは、「そういえば、一度ランチをごいっしょしましたな」と言った。しかし、それ以上のことは思いださないようだった。
ロデリックは、ソネンシャインが四年かけて自分を作ったこと、その後、ソネンシャインの義理の父母であるマ&パのところへ自分を預けたこと、お互いに友達になり、助け合えると思ってここまできたことを話すが、ソネンシャインは、反応が悪い。
「あなたの仕事の助けになると思ったんですが」
「仕事だと! わたしは仕事のせいでここに入るハメになったんだ! ロデリック計画のせいでわたしは人に追われ、研究のすべてを破棄しなければならなかった。そのあげく、ここに閉じ込められたんだ。あの研究は非常に価値が高かったが、論文の所有は大学に帰属したし、ロボットは反社会的存在だった。だから、こうなったのだ」
「治療のために?」
「二度とロボットを作れないようにだ。さらに、もう既に一台作ったのかどうか確認するために」
「わかりません。ロボットに高い価値があるからこそ、それを求めたのでしょう。なのに今度は、作ってはいけないというのですか」
「うまく説明できないが、大学は自ら金を出して作ったロボットを所有している。しかし、もっと地位の高い人が、ロボットを作るなと言ったのだ。わたしに理由をきかんでくれ。パラノイアの分裂病患者は、自分を攻撃する陰謀の理由を説明することはできん。わたしはキチガイなんだよ。たとえ違うとしても、世界が危険である以上、無害な狂人扱いされるほうがましだ」
「出してあげます」
「いやだ。ここのほうが安全だ。マンションに用事があるので出ようとしたことがあるが、張っている連中がいる。危険なんだよ、外は」
「なら、毎日ここに来ます」
「危険だ。君がロデリックなら、人につけ狙われている」
「なら、差し入れをします。本とか食べ物とか」
「ピーナツバター」
そこへ、キャップの巻きを直した看護婦が入ってきて、ソネンシャインを連れ戻した。弁護士に連絡を取り、訪問の事実がないことを確認したという。「畜生」とロデリックは言って、帽子をかぶった。
***
病院のモニタを男達がチェックしている。一人目がソネンシャインに面会した後、ベン・フランクリンが面会していた。その音声をきくと、ソネンシャインがロデリックに会ったことをベンに話していた。「なんてこった! エレベーターですれ違ったよ、俺達は会っていたんだ!」
「畜生、そのとおりだよ」モニタを見ている男が言った。
***
病院を出たロデリックは教会に入る。四人の男がいた。パンフレットが置いてある。11セントのお布施をした。エイモス・ソマという牧師が、「われわれは鏡を崇拝する、黒魔術を使う異端派と非難されている」と言い、説教を始めた。同席している男が、「お前、スパイか?」とロデリックにきくので、否定した。
エイモスは、人間が左右対称なのは神が自分に似せて作ったからだ、などと力説していた。
ロデリックは、そのルーク・ドレーガーという男と親しくなり、抜け出した。ルークは、チクタククラブに飲みに行こうじゃん、と誘った。かれはロデリックをリックウッドと呼んだ。ロデリックは、ぼくは飲めません、それより仕事が欲しい、といった。
出口に乞食がいたので、ルークはコインを投げ、ロデリックは帽子をやった。
ルークは、それに感心し、「分かった、お前に仕事を世話してやろう。実は工場で働いてるんだ、紹介してやるよ」と工場に連れていった。
その工場は、いろいろなものを手作業で作っていたが、全部<メイドインコリア>と書かれていた。そう書くと、割安に見えてよく売れるらしいのだ。実際、韓国より安い人件費で作っているらしい。
ルークは社長と交渉していたが、出てきて、「ごめん、無理だ。つうか、おれも首になった」と言った。
それからチクタククラブに行くと、パトカーと救急車がとまっていた。人々がざわざわしていた。「突然二人組が、あの人を撃ったのよ!」と誰かが言っていた。見ると、ロデリックの与えた帽子をかぶった男が、血まみれで担架に乗せられようとしていた。


ルークはスコッチを二つたのみ、「あの男がやられたのは、おれが恵んだ39セントのせいだ。おれに対する試練なのだ」と言った。
話をきいてみると、ルークは元宇宙飛行士だったが、そのときに執拗な健康状態チェックを受けたことがきっかけで精神を病み、追跡妄想に陥り、宇宙飛行士を首になり、妻と離婚し、職を転々としながら宗教を次々と変えているらしい。前に入信した<4つのゴプセルの伝道師>のせいで社長に睨まれ、首になると思っていたという。この宗派は、人間は過ちを犯すもの、神は過ちを犯さないもの、人間が完璧に振舞えは神の侮辱になる、よって必ずわざと過ちを犯せ、と教えるもので、ゴスペル(福音)をゴプセルとわざと間違えているのだった。ルークはこの宗派の教えを実践して、カーシートカバーの塗装の仕事でわざとミスをするばかりか、他の27人の工員にも影響を与えたため、前から首になりそうな雲行きだったらしい。
「つまり社長も、わざとミスを犯したというわけですね」とロデリックは言った。
ルークは更に<スパイされているという妄想>の原因は、以前いた<宇宙飛行士協会>のせいだと語った。かれは181番目に月に立った人間だという。子供のころから宇宙に憧れ、空軍で爆弾二個を落とした後、結婚して三人の子をもうけたが、宇宙での孤独に憧れるようになり、カンニングと論文の代筆で大学の博士号を取り、上院議員の父のコネを使って宇宙飛行士になった。だがいざ宇宙に出てみると、二人で狭い空間に閉じ込められ、やることなすこと細かいチェックを受ける生活が続いた。地球上に戻ってからも、ことあるごとに耳の中で機械のチェックの声が聞こえるようになった。妻とセックスしようとしていざ勃起しても、耳の中で<勃起状態に入りました。心拍数
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