SF百科図鑑 Ian Watson "Miracle Visitors"


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April 19, 2005

Ian Watson "Miracle Visitors"

奇跡の客プリングル100冊からイアン・ワトスンもう1冊。何でもUFOものらしいです。

感想・粗筋追記2005.4.21


これは凄い。大傑作だ。いってみれば、ワトスン版「幼年期の終り」。
本作で結合されているのは、UFOに関するユングの学説、不確定性原理、主観と客観の分離、言語と認識対象との相関関係、唯心論、人間宇宙論、スーフィ教神話、催眠術と意識状態の変化、群集心理、などなど。いつものように、多数のアイデアをアクロバティックに結び付けて、宇宙の生成や成り立ち、人間の意識の成り立ち、世界の論理法則の成り立ちといった全ての根源的なものを一つの体系に紡ぎ上げてしまう。しかも、個々の論題に関して知識が無くても直感的に理解させてしまう分りやすい論理運びで、面白く読ませてしまうのは流石だ。
また、「ストーリーはメインアイデアを乗せて展開するための入れ物に過ぎない」という初期ワトスン作品の基本構造は変わらないものの、本作では、プロットに初期作のような破綻は無く、一つのストーリーとしてすっきりまとまっていて、エンディングまで鮮やかである。本作は中盤の中だるみも無い。最初のピークは、マイケル・ピーコック青年がエイリアンと会って、反重力飛行する自動車で月に行く場面で、この中でエイリアンが展開する「惑星・宇宙生物理論」ないし「意識格付け理論」は極めて魅力的なアイデアだ。ところがこのアイデアすら、「全ての現象・世界は虚無=単純な意識のゆらぎ、すなわち、思考により発生する」という更に上位の理屈の中に取り込まれてしまうのだ。主人公というべきディーコンがスーフィの神と一体化して見るめくるめく時空・因果律を超越したビジョンと、訪問者の導きによりディーコンが導かれる階梯上この世界の上位にある「街」のビジョンはまさにセンスオブワンダー。クラークの「幼年期の終り」とは一桁違う、この宇宙の論理法則を超越した「進化」の姿はまさにワトスンならではのスケールの大きさだ。
つまりは、アイデア、ストーリーともに、非常にバランスがよいのだ。まぎれもなく、私の読んだ中ではワトスンの最高作だと思う。
テーマ性   ★★★★★
奇想性    ★★★★★
物語性    ★★★
一般性    ★
平均      3.5
文体     ★★★
意外な結末 ★★★★★
感情移入力 ★★★
主観評価  ★★★★(40/50点)

<粗筋要約>

奇跡の客 イアン・ワトスン

プロローグ
ペダルの上に立ったまま、その男子生徒は自転車で牛の檻を通りすぎた。
彼は電波塔の上で発光する物体を見つけ、それを追いかけてみると、奇妙な光る金属製の肺のような物体が着陸していて、やがて動きが止まるとハッチが開いて、長い白髪の美女が現れた。その日彼は家に遅く帰ったが理由を覚えていなかった。しばらく目が痛み、肌が痒く、全身がピンクにほてり、水に入ると体が焼ける感覚があったが、まもなく症状がやんだ。しかしいつもの自転車のルートを通るとそこで何かが失われたような感じがして耐えられず、バスで回り道通学をするようになった。

第一部

ジョーン・ディーコンは催眠術にかけられた人の意識の状態を研究している。そして、スタンフォード基準で12という高い「催眠術へのかかりやすさ」の数値を示した生徒、マイケル・ピーコックを相手に実験を始めようとしていた。
ディーコンが用いようとしている基準は、ノースキャロライナ基準と言うもので、
0=通常の意識レベル
1~12=次第にリラックスしていく。
20~=麻痺の感覚が生じる
25~=夢見ごこちの気分
30~=過去や実在しない感覚へと移行する
40~=全く存在しない現実を認識する
50~70=「冗談の感覚」。自分であるという感覚がなくなり自分が他の人や物であるような気分になる。
80~120=無の感覚、仏教的無我の境地。
である、と説明したディーコンは、マイケルに対してセッションを開始する。
***
マイケルは自ら75レベルまで入ったと告げた。ディーコンはすぐに戻れと告げたが、マイケルは無理だと答えた。そして、自分は今沼地にいると告げた。
マイケルは、空飛ぶ円盤を目撃したと叫んだ。ディーコンはきいた。「君の年は?」
「16歳だよ。
きれいなブロンドの女の人がハッチから出てきた。そして、入るかどうかときくので、僕は入れてもらったんだ。入るとあのハッチはひとりでに消えてしまった。
中には男の人が二人いて、一人はタモンと名乗った。女の人はルーヴァと言う名だった。&&」
ディーコンは、完全に性的妄想だと断定した。とはいえ、この子はスージー・ミードと言う娘とつきあっているらしいから、欲求不満ではなさそうなのだが&&。
「その人たちはスキー服のようなものを着ていたよ。プレアデス星系のウルロという星から来たって。ウルロって言うのは向こうで地球って意味らしい。彼らは僕らが自分の核兵器で滅びるのを心配し、助けようと思ってきたとか。
彼らは単性生殖ができるんだ。女性は単独で妊娠できる、ある種のホルモンが出れば卵が勝手に遺伝子をコピーし始めるらしい。それに精子を卵に触れさせると卵が精子の遺伝子をコピーするホルモンもあるらしい。クローンのように男または女と全く同じ遺伝子の子が生まれるんだって」
オナニーのための妄想に違いない。
「そのホルモンで、僕たち人間の遺伝子もコピーできるらしいんだ。それで僕たちが滅びたときのために、僕たちの遺伝子をコピーして一部の個体を保護しようというんだ。
それから彼女は服を脱いで僕と交わった。彼女は無毛だった。僕はちょっと痛くて、きんたまが冷たくなった感じがした。彼女はまるで人間の男を見るのが初めてみたいだった」
そらみろ、自分が女性の恥毛を見たことがないのを、相手に転嫁している。
「終わると彼女は服を着て、僕を外に出した。僕はその夜遅く家に帰りついた&&」
ディーコンはマイケルを呼び戻した。
彼は13レベル以上のことを全く覚えていなかった。
彼はテープをききたがったが、次回のセッション前に聞かせることにして帰した。
***
それからディーコンはテープを再生しようとした。すると電話が鳴って、とると、甲高い妙なノイズが聞こえた。電話を下ろしてテープをきくと、肝心のところが無音になっていた。
いったいこれは? マイケルにこれを消去する暇はなかったはずだ。いったい? 
せっかくの研究データが消失してしまった。ディーコンは証拠なしで記録を書き始めざるを得なかった。


ディーコンは帰宅し、妻メアリにマイケルの話をする。メアリは、性的妄想というよりも、それはブレイクの詩そのものだという。ブレイクの詩にも、ルヴァーという人の面倒を見る男性の半神がいるほか、ルヴァーの敵の半神エニタモンが出てくる。ウルロとは地獄のことである。ディーコンは、意識変容状態=ASC実現に対する野望を語る。催眠にかからずに意識の深層に入る状態のことである。マイケルを使って何とか研究を成功させたかった。
そこへ子供のロブとセリアが入ってくる。彼らが採取したキノコが幻覚剤ではないかと思っているらしい。そして、このキノコがディーコンの研究の役に立つのではないかという。ディーコンは一笑に付すが、子供たちは真剣だ。


マイケルはスージーとデート中にUFOを目撃し、プレアデス星人とあったことを思い出して、スージーに話した。消防車が走っていった。
***
翌日目覚めたマイケルはスージーにディーコンの言葉を話す。「ピンを見つけるためにはピンを投げよ」
ディーコンは、状態固有論理という概念を提唱していた。それぞれの意識レベルに応じた固有の論理があり、それらは相互に意思疎通不能であるというのがディーコンの論理だった。
彼は僕を必要としているのだ、とマイケルは思った。


バリー・シュリヴァーは元軍人だった。1954年四月第二週、エドワーズ基地で空飛ぶ円盤5機を見たことがあったが、妄想だと思っていた。したがって、今朝の長官の世界各地でのUFO目撃記事(最近は、UFOに乗ったなどの第3種遭遇が増えている)も鼻で笑っていた。
そこへノーマン・テートから電話が来て、本物の空飛ぶ円盤が出たと騒ぐ。バリーはありえないと否定するが、ノーマンは、妄想の円盤は火を放ったりしないと否定した。


マイケルとスージーは、UFOの光に照らされて肌が焼けたと訴えてシュリヴァーに相談するが、シュリヴァーは妄想だと相手にしない。
***
スージーも再び妄想説に与し、UFOを見たと力説するマイケルに反論。マイケルは、ディーコンに相談しようという。スージーは難色。


マイケル、スージー、シュリヴァーはディーコンを訪ね、ディーコンの「消えたセッションテープ」と、同日のUFO事件の関係について話す。やはり共同の妄想なのだろうか。偶然の一致なのか。
***
マイケルのセッション。マイケルは、「前回記憶から消されていた部分」を報告し始める。円盤の外の景色。タモンの制御盤に描かれた図表。ディーコンが紙を渡すと、円が三つ横に並び中央を横線が貫き、両端に下向き矢印がつき、円と円の間に縦線、円三つの中央に重なって横倒しの長方形の絵を描いた。シュリバーは驚きの声をあげる。
***
円盤のルートについて、ディーコンとシュリヴァーは確認していた。シュリヴァーはマイケルが描いた図が反重力装置つきの飛行隊の設計図ではないかという。果たして本当にマイケルが(あるいは無意識に)作り上げたのか、それとも正体は分からないがUFOは実在するのか? UFOが重力操作による飛行を行うという説は世界的に少ないので、その文献に目を通した人も少ないと思われる。あるいは、未来人がやってきたのか?
シュリヴァーは提案する。もし催眠暗示があのような物をでっち上げさせたのなら、同じことを自分に対してできないか?「もし君が僕に催眠をかけて、何かの事件を起こるように仕向けたらどうだろう?」
「ピンを見つけるにはピンを投げろってか。それは名案だ」


ディーコンはマイケルにセッションを行った、成果なし。スージーは相変わらずマイケルと一緒にセッションを受けるのを拒んでいたし、成果はなかった。
ディーコンらは窓外に飛ぶ物体を見た。鳥だろうか? UFO?
***
スージーは自宅に英国航空省のベイカー、ジョーンズと名乗る二人組の訪問を受け、UFO目撃やおいたちについて根掘りは掘りきかれ、逆切れしてドアを閉める。立ち去る音すら聞こえなかった。


スージーとマイケルは不審な訪問者の件をディーコン&メアリ夫妻に報告する。マイケルは役所に電話したがそのような調査員はいないといっていたらしい。ディーコンは、それはメンインブラックだろうと言う。
そこへ庭で悲鳴が聞こえた。行くとセリアたちが塀の何かと格闘していた。犬のシェップが首を切られ血を抜かれていた。
***
そして彼らは発光する飛行球を見た。メアリが「警察に電話する」と言った。


軍曹が来て、犬の首切り事件を調べる。日本刀で切られたような傷だった。UFOにやられたのか、ただの通り魔なのか。あの光はUFO、それともただの風船?

10
ディーコンはマイケルのセッションで過去の記憶を探った。緑の男、シーク・アリ・イブラム・ムラディのスーフィ教に関する演説。奇跡、オカルト現象について。マイケルは16歳UFO目撃前の12歳のとき車の2人の男(メンインブラック)に助けられ事故を免れたことを話す。
***
カラマ──理解を越えた救助。
ムラディもUFOの仲間でマイケルを支配する暗示を演説によって与えたのだろうか。マイケルを救った男たちもその一味か。
ディーコンはマイケルに言う。UFOを思いだす意識レベルまで入った状態で自我を捨てろ、なぜならその自我は作られた偽自我かもしれないから。そして私の質問に答えるのだ。そう言って実験を再会しようとしたとき、電話が鳴り、何者かに操られたような声で、スージー・ミーズらしき声が言った。「宇宙と人類は一つ。精神と物質は一体。精神は満月に栄える、だから女の月経がある。人間が行動によって創造物の調和を狂わせる。恐るべきときが迫っている。世界は自らを流産する。お前が子宮に毒を盛ったために。そして何者かがお前にとって代わる。だが時間は残る。お前は導かれる。お前はただ言われたことをすればいい。質問するな決して。空飛ぶ円盤について質問するな。受けいれよ」
やつらは、電話に、人の精神に割って入ることができるのだ。空中にプラズマの雲を作り、プログラムの壊れたタルパを作れる。車をコピーするごとく。
ともかく、今は質問してはいけない。「来年やろう」ディーコンはマイケルにいう。

第二部
11
ナジブ・ファウアドは50歳にして財務省の階層組織の高い地位まで昇りつめていた。ナジブは妻や息子サリムとシークの神について議論する。
***
サリムはアルアザルへ行き、シークの集会に参加する。大勢の教徒が集まり、シークが入ってきて儀式を始めた。

12
ディーコンは意識研究学会に出る。激論が戦わされるが結論は出ない。ディーコンはマイケルのUFO意識レベルをめぐる理論で自分が先陣を切りたいと思った。いよいよ彼の番になった。
***
ディーコンは自らの研究内容を発表し、「別の意識状態」ASCの理論を説明した。彼は様々な精神状態を構成する量子を「ヌーン」と名付け、これによって、ある精神状態レベルにおいてはUFOが物理的に発生するという理論を説明し、妖精物語もUFOもすべて同じである、と主張した。様々な反論に対し、不可解な失踪・移動事件を紹介し、これらは事実である旨を強調した。
***
マイケルと会場を出るとき、先ほどの質問者サンドラ・ニールストロムが言った。「あなたは真空の中を研究しているのね。いえ、文字通りの意味よ。宇宙が真空の揺らぎだという理論をご存知? もし全宇宙のプラスの質量エネルギーとマイナスの重力エネルギーが均衡すれば、ゼロになる。虚無よ。量子レベルでは真空から素粒子が容易に発生する。なら、そこから全宇宙が生まれてもおかしくないわ。巨大すぎて遠くにあるから観測できないだけで」
「なぜさっきそれをいわなかった?」
サンドラはいたずらっぽい表情で立ち去った。

13
コモンでスージーはゴブリンを見た。そいつは近づいてきた。スージーはゴブリンにはじかれ、逃げ出し、飛んだ。どこへ着地するか知らずに。

14
儀式が終わり、サリムはムラディの部下に呼ばれた。
***
ムラディはサリムに、最高神キーダについて話す。彼によるとキーダはすべてを超越し創造する。意識はすべてに宿り自らを客体化することはできない。この世界を科学する者たちも、一面のみを理解するだけで、全体を理解することはできない。キーダ、それは宇宙を超越して偏在する。
そこへ突然謎の男が現れる。ムラディは彼を「主よ」と呼んだ。彼はムラディに本を渡し、「春先に現れる男にこれを渡せ。それと知らずにこれを求めている男が来るはずだ」と言い置いて、消える。

第三部
15
イースターの月曜、マイケルはスージーを自転車の荷台に乗せて走り転倒する夢を見た。スージーはこう言った。「わたしを荒野に──連れてって。今すぐに」
***
スージーは精神に異常を来たして裸足でグラントンを歩いているところを発見され、しばらく精神病院に入院した。以後、彼女もその家族もマイケルを寄せつけなくなった。ディーコンのセッションも進捗がはかばかしくなかった。
***
マイケルは自転車でUFOを見た荒地に行った。そこに盗んだ自動車を改造して反重力宇宙船サンダーバードにした、亀の顔、象の体、一本腕、宇宙服姿のエイリアンが現れ、彼を乗せて月の裏側に飛んだ。前のセッションのとき、シュリヴァーから、UFOは反重力装置を備えているときいていたからその概念はマイケルの頭の中にあった。エイリアンの名はガーブーアオールディーだったが「ガリバルディ」と呼ぶことにした。
ガリバルディは驚くべき話をした。彼によるとそれぞれの星は一個の生命で精神を持っており、個々の生物はその部分に過ぎない。都市などがその部分であり、道路、水路などが血管といっていい。星と星は更に上位の精神の部分に過ぎない。最終的には巨大な一個の精神になる。で、個々の生物はそのレベルの論理法則に縛られているので上位の精神を認識できない。UFOなどの現象は、星の精神から部分たる個体生物の精神に対するコンタクト、指示、命令手段である。それゆえ個体生命レベルの論理で認識できず、「未確認(飛行)物体」などと呼ばれるのだ。個体生命が全体生命(=全惑星生命体、WPL)に害毒をもたらす場合にWPLはUFOなどを使って部分修正行為を行う。WPL全体が発狂するなどしとり返しがつかなくなればそれは更に上位の星雲などの精神にとって害毒となるから修正・抹消される可能性がある。
カリバルディはカシオペアの方向一八光年の距離にあるゲボールドという高重力惑星から来た。WPLからの「未確認物体」による攻撃に悩まされており、知恵を借りたいので協力して欲しい、ついては、上位精神による下位精神抹消行為の証拠を見せるから月の裏に来て欲しい、そこには地球人類が観測しているときだけ自動的に姿を消す場所があるのだ、ということだった。

16
ディーコンはカイロにいて、どこかに向かっていた。おれは何をしにここへ来たのか。いろいろ考えて、ようやくムラディに会いに来たのだと理解した。
***
ディーコンはホテルに入り、換金にてこずった挙句、ムラディに連絡をとってもらう。ムラディはすぐ車をよこすと回答した。

17
車は月面の基地に入った。エアロックを通って、エイリアンたちと共に、ヘレン・キャプロヴィクスと名乗る地球人の女が現れ、「この基地に地球人の仲間がマイケルを入れて六人いる」といい、ボナパルテというエイリアンを紹介した。
***
ボナパルテは彼らをスクリーンのある部屋に案内し、エイリアンの故郷の星の歴史スライドを見せた。その星ゲブロードは、近隣の星の超新星化で気温が上昇して生態系が変化し、古い支配生物が滅び新しい生物が支配層となった。そして文明が生まれた。彼らはその星の危機を乗りきるため、近隣の太陽系の同様の状況にある地球の知的生物と協力するように、「未確認物体」に指示を受けてやってきた。「未確認物体」=UFOがその星の知的生命体と調和するほど、それはその相手に近い形態をとるので、地球のUFOの乗員は地球人に似ているし、ゲブロードのUFOはゲブロード人に似ているらしい。マイケルが遭遇したUFOは「いいUFO」だろう、とボナパルテはいった。地球は狂気に蝕まれ破滅に向かっているが、UFOにはよいものと悪いものがあり、識別は未だ可能だという。
小休息をとることにし、彼らは別室に移って食事をした。

18
ディーコンはサリムに迎えられ、車でモスクに向かう。途中、サリムは、ディーコンの研究内容(改変意識状態理論)を第二の科学とすれば第三の科学が必要なのだ、これら三つは互いに関連しあっているのだ、と、ディーコンを呼び寄せた理由を説明する。自分がいつのまにかカイロに移動させられた方法についてははっきり説明されなかった。サリムによると、シークは文字通り物理的に実体化したキーダ神の訪問を受けた、それをサリム自身が目撃したのだという。
***
ディーコンはシークに迎えられた。ディーコンがどうやってカイロに瞬間移動したかの説明はなかった。シークはキーダ神の訪問を受けたといい、受け取った本をディーコンに渡した。それはフランス語の黒魔術の本のように見えたが、マイケルがセッション中に描いたUFOの設計図らしき図表が描かれていた。UFOは黒魔術だとでもいうのか、それとも? ディーコンはサリムを通じて妻に電話をかけてもらったが、不在で折り返し電話するとの返答があった。シークの書斎にはシャムズ・オブ・タブリスの墓の写真があり、彼がマスター・ルミに多大な影響を与えた、彼自身キーダ神だったのではないか、とサリムは言った。

19
アクセル・モラーというスウェーデン人が食事を運んできた。
ヘレンは、アイデア、概念を伝える「概念遺伝子」について話した。それはある種がある進化レベルに達したとき、肉体的欠陥を補うためにDNAの外で作用するという。
アクセルは、ゲブロードを礎にして人類が宇宙に進出する野望を語った。
ボナパルテは次のスライドでバイオマトリクスについて説明した。これは意識を持った機械で、宇宙船を支配し、乗員と宇宙船を結びつけると共に、乗員の健康管理をも行う。その意識は、個としての意識よりも一般的で基礎的な意識であるため、上位精神たるWPLとの連絡が容易にでき、個体としての知的生命のごとく意識が個別化されすぎて上位精神の認識に欠けるところがない。WPLの時間感覚は個体のそれのように個別化されておらず、その「現在」はもっと一般的で幅が拾い。このためWPLの部分個体への干渉は時間的因果律に反する超自然的現象として感知されやすいという。
マイケルは食事をとりながら思う、そういえば意識レベル30超のとき、ディーコンは、偽者の味も本物のように感じられるといっていた。一体おれは今、どれぐらいのレベルにいるのだろうか。
ジョン・ディーコン、あなたは今どこにいるのですか?

20
ボナパルトによると、地球のWPLの時間認識の最小単位は24時間らしい。そして、地球のWPLはその脳細胞にあたる人類その他の知的生命のうち、イルカらに劣る人類が、死を恐れこれを回避すべく行動をするために、それが周囲の自然を汚染するために、自閉症的で精神異常な状態になっている。ゲブロード人の第一陣が地球で破壊されたのは自閉化した地球WPLの防衛行動だった。地球WPLはこの異常な精神状態を自ら治療すべく、自らの脳細胞=知的生命たちにUFOによるメッセージを送ろうとしている。だから二〇世紀以降、UFOの目撃例が増えている。海へ飛びこむケースが多いのはイルカたちのほうが人類よりも知的であるためだ。
しかし、マイケルはボナパルトらの言うことを信じず、彼らの実在を信じない。地球WPLの病気の治療などという戯言を信じ、人類が自然死を受け入れ物質文明を捨てて原始生活に戻るなどありえないと。
ボナパルトは絶望し、宇宙服を脱ぎ捨て胃の内容物をもどして自殺を図る。
アクセルが言う。「彼らは純粋に利他的な本能を持っている。受けいれられなかったときにとりうる反応は自己破壊しかないのだよ」
マイケルは小さいころ見た、DDTに汚染されて自ら死のうとしている鳥のことを思いだした。彼は見かねて踏み潰し、以来、虫一匹殺すのすら恐れるようになった。米国のアジア人に対する侮蔑的行動に抗議し切腹した日本人がいたのを思いだした。
マイケルはたまりかねて叫んだ。「彼を助けてくれ!」
***
ボナパルトは別室に運ばれ治療を受ける。
マイケルは他のエイリアンにサンダーバードの操縦を習った。

21
四苦八苦した末、ようやくディーコンはイギリスに戻る飛行機に乗ることができた。
***
迎えに来たメアリによると、ディーコンは預金を引きだして飛行機の片道切符を買ったらしい。だが記憶にはなかった。
「それはどうでもいいことだ、要は私はUFOレベルの改変意識状態にあったということだ」
「何をおかしなことを言ってるの。そんな話を新聞社がどう考えると思う?」とメアリは呆れた。
だが、ディーコンのポケットには、シークから受け取った本が入っていた。

22
マイケルはサンダーバードで翌日家に戻り、アリバイのためにスージーを使い、両親に迎えられ飯を食ってベッドに向かった。
***
その夜彼は月面にいて、ヘレン=スージーが窓を壊したために窒息する夢を見て目覚めた。

23
マイケルはサンダーバード(月面のバイオマトリクスの振動をエネルギー源とする)で、地球WPLのUFOが生じやすい場所にバイオセンサー(同様に月面バイオマトリクスに反応する)を設置して回った。途中、電話ボックスでスージーに電話をかけた。彼女はゴブリンを見ておかしくなったので、実地治療のため喫茶店のウエイトレスを始めたことを話したが、話の途中で電話は切れた。
***
マイケルは黙々とセンサーの設置作業を続けた。
やがて母親の持ってきた新聞記事で、ディーコンが戻って来たことを知った。

24
ディーコンは、ブルース・フレイザー、マーティン・ブル、サンドラ、サリー・プリングルら意識研究学会の連中と食事をしながら集会を開いていた。
彼はユング心理学においてUFOが心理的神話であるという説を解釈し、自らの改変意識状態理論を更に進めて、精神空間と物質世界を結びつける手法として意識状態に自我の識別タグをつける方法を研究すべきだと主張したが、意識学会は彼の私物ではない、そのような絵空事に人的資源を浪費できないという反論が相次いだ。
そこへ、マイケルから電話が入った。ディーコンにどうしても見せたいものがあるという。

第四部
25
マイケルはシュリヴァーとディーコンをサンダーバードに乗せる。シュリヴァーは二人の話を絵空事とあざ笑った。だが、マイケルが車を空に飛ばすと驚いて冷や汗を流した。
「今から月に行くんですよ」おずおずと微笑しながらマイケルが言った。
***
マイケルは一連の経緯を説明した。WPLのことをディーコンは「メタ意識」と呼んだ。そして、シュリヴァーとディーコンはこの車を政府に引き渡すべきだと主張したが、マイケルは拒否し、車を月の裏側に進めた。
***
マイケルは車をツィオルコフスキーのクレーターに近づけたが、基地ドームがあるべき場所には廃墟があるだけだった。

26
全てが押しつぶされていた。ヘレンの車はつぶれ、ヘレンの手が突き出していた。重力操作を間違えて一瞬につぶれたような感じだった。当然、バイオマトリクスも崩壊している。燃料補給は無理だ。車の帰り用の燃料が足りるかどうか微妙だった。
ふと頭上を見上げると星の手前に黒い穴が現れ広がった──基地をつぶした強力な重力が押し寄せた。車は月面に押しつけられタイヤが次々とつぶれ、天井がへこむ。マイケルは必死で車を前方に進め、重力場から逃れようとした。
***
車は重力の傘から抜け出すと同時にすごい勢いで月面から飛びあがり、月と地球から離れていった。月面の重力の傘が追って来るように見えた。いずれにせよそれは地球と車の間にたちふさがっている。
あれはいわゆる改変意識状態の産物、タルパの一種だ、それを生んだのは誰の意識か、どうやったら抜け出せるのか、ディーコンは必死で考える。この車のこれまでの動きはそれ自体としては地球上での動きと何ら異なるところはない。ディーコンは今この車が地球上の路面を走っている様子を必死で想像した。地球上のどこを走ればよいだろうか。

27
車は北米の砂漠を越えてサボテンなどの生えた茂みに着地。ここにしたのはディーコンが車を空軍基地に引き渡そうと思ったためだが、燃料切れで車はもう動かない。頭上にあの重力の黒い羽が現れた。ディーコンにはその超越的存在に比べれば世界の全てが不在も同然に思えた。かれは「撹乱するためばらばらのルートを通ってハイウェイで落ちあおう」と叫んで走りだした。
***
シュリヴァーは、黒いUFOがサンダーバードの上に降り、車を押しつぶすのを見た。それは去った。かれはバーストウあたりで車を借りられればと思った。だが、他の二人の証言もいる。彼は二人の名を叫んだ。
***
マイケルは、遠くの枯れた湖に人影が入り、あの黒い傘に包まれて消えるのを見た。
かれはスージーに助けてくれと叫びながらハイウェイにたどり着き、トラックに拾われ、「スージー」とつぶやいて失神した。
***
ジョン・ディーコンは、その黒い影が自分を追っていることを知っていた。唯一の実在であるその虚無。その前で彼は個、自我など全く有しない。そしてそれに飲みこまれた。

28
何も見えない。ただそれが見るだけ。何の特徴もない。純粋な意識、平衡状態。これは死だ。おれは死んだのだ、と思った。
***
自意識と共に渦巻きが生じ、時間が生じ、もろもろの物体が、生物が宇宙が生じた。今やディーコンは理解した、宇宙とはそれ自身のシミュレーションだ、記録だ。何らの法則も持たぬただの「虚無」、それが自らをシミュレートしているのだ。ブラックホールとホワイトホールで無限に結ばれたメビウスの輪。そして空飛ぶ円盤はその原初の渦。ディーコンは車の中にいて、草人間が運転席にいた。キーダ神だ。キーダ神とは全なる「虚無」への入り口だ。われわれすべての人間がその一部であるところの全体たる「虚無」への。ディーコンはキーダ神からコントロールを受け取った。

29
マイケルはトラックで警察署に運ばれ、カール・ドリスの尋問を受けていた。スリヴァーは保護されて病院に運ばれているらしい。マイケルは、空飛ぶ自動車が事故にあったこと、UFOが原因であることなどを話し始めた。
***
マイケルとシュリヴァーはヘリで事故現場へカールを案内させられた。
***
彼らはつぶれたサンダーバードを発見し、中を開けたがエンジンはなくゴミ箱のような状態だった。ドリスはナンバープレートから盗難車であることを突きとめ、エイリアンが改造した宇宙船であることを信じなかった。そこへ、ディーコンが見つかったという連絡が入った。

30
ディーコンはキーダ神を中に含みながらUFOのコントロールを行い時空を越えてあらゆる因果を吸収=惹起した。犬の首を切り、スージーを驚かせ、マイケルを訪問して3つの個体に分裂して女個体で性交し、月面の裏に降下して基地を押しつぶし、(あの女は米国で交通事故に会うのを見た)アメリカでサンダーバードを押しつぶした後、砂漠をさまよう自分を吸収した上、UFOコントロールをコーダ神にもどして個体分離した。
世界はシミュレーション、自分を書いた小説に過ぎない。それは読めない、もし読めるならそのこと自体によって全部を認識した読者が虚無に帰り、本の内容自体が消滅するのだから。

31
ディーコンはヘリから降りてきたマイケルらと会った。ディーコンは、シュリヴァーに自分の体験を話し、今は全てはなかったことになったことを話した。自動車の残骸を調べても反重力装置の作り方は分からない、なぜならそれは上位次元の「未確認物体」であり、この次元の因果関係、論理法則に従わないから。全ては虚無の自己シミュレーションに過ぎない。事件とは虚無=神の思考に過ぎない、全てはその一部、物それ自体が思考であると。主観と客観の分離により初めて現象は生じる、というよりも客観から主観が離れてそれ自体を見ることが現象それ自体なのだと。不確定性原理、観測者がいるからこそ現象がある。
そこへ空軍基地から無線連絡。
***
空軍基地は「不可視プロジェクト」なるプロジェクトを組んでいるらしい。今からくるという。ディーコンの説明に、シュリヴァーは、「俺たちは狂っていたんだ! 月になんか行ってないんだ」と叫んだ。ディーコンは「おれたちは(理解を越えた現実)のエリアに行っていたんだ、そこは月ではあるがね。この理解を越えた現実の領域を通じて現実を操作する方法を学べば、われわれはすごいことができるよ」とディーコンは言った。
***
エドワーズ空軍基地からバウアー大佐と副官が来て、シュリヴァーに尋問を始めた。
ディーコンはこの世界の存在について考えていた。石と言うときどこからどこまでが石なのか、原子なのか、一個の石なのか、それが分離した元の岩なのか? 個体の意識は、実は全体の意識の一部に過ぎなくはないか? 全てのものは常にこういった二面性を持っていないか?
バウアー大佐は、不可視プロジェクトと言っても大したことはしていない、君たちを心理学的に調べたいので一緒に来てくれと言った。シュリヴァーは、大佐は嘘をついている、本当は何かのプロジェクトが進行しているのだと思った。
彼らは基地に運ばれた。

32
空軍基地に戻ったバウアーは仲間の士官たちに持ち帰ったケーススタディの説明をはじめた。この不可視プロジェクトとは心理学的アプローチによって「心理戦争」に勝つための手法を研究しているようだ。
***
ハウアーは仲間に一連の経緯を話し、実際には彼らはある一定の「心理状態」に共同で移行し、飛行機でアメリカに来て、あの車を見つけたのだろうが、彼らの主観では話していることを本気で信じている、UFO現象も誰かがこれを信じれば他のものがそれを影響を受けて信じた結果、自分もそれを目撃してしまう、今回のはその実例だ、いつの日がこの精神状態の力を利用して戦士たちを強くさせる技術が開発できるに違いない、UFOもまんざら役に立たなくはないのだ! と語った。

第五部
33
マイケルはスージーと再会し、全ては群集狂気の産物であったと語り、現実のありがたみをかみしめ、遊園地へ行こうと言った。
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マイケルはスージーと遊園地で遊び、現実のありがたみをかみしめた。
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マイケルはスージーに「感染する狂気」というのはあると語り、スージーに誘われるまま砂漠の中の小屋で、スージーと結ばれた。ふと目をあげるとUFOらしきものが見えたが、それは狂気の後遺症、残像に過ぎず、網膜ではなく心の目に映っているに過ぎないと言い聞かせた。果てた後、再び見るともう見えなかった。

34
ディーコンは研究所を首になり、メアリにかんかんに怒られる。ディーコンはたまりかねて外に出かける。
***
外でディーコンは奇妙な地図を持った見知らぬ男に声をかけられた。それは理想の街の設計図で、レミゲトンの「小さな鍵の書」の内容そのものだった。これを見てディーコンはあの本の意味を悟った。あれはシンボルの力で、人類の思考を集合化してより高い次元の現実に進化させるための鍵(シンボル)概念が詰まった本だったのだ。
男は、この地図で今の世界、名前を捨てて望む場所、名前に行けるといった。男に腕をつかまれ、もはやディーコンでなくなった彼はもはや見知らぬ人でなくなった男とその世界に移行した──。
***
すぐに海が現れた、時間も空間もなく全ての場所が全ての別の場所である意識の海だ──。彼は海を認識すると、そこにもろもろの存在が、都市が分離して生まれる、何もかもがU管(U-tube=Unidentified Tube?)から枝分かれしたものだ。
そして──。
***
彼はその街にいた。そこは彼のいた世界から認識不可能な街で、そこから枝分かれした管が様々な世界につながっている。彼はその街を通じて様々な生物に転生できるし、遠くの星のエイリアンとも会うことができるはずだ。きっとゲブロード人はこの街を知っていたのだろう。
彼を連れてきた男も同じように昔ここへの入り方を覚えた男だった。男は彼に「焦って枝の下に行くな。戻れなくなるかもしれないから。まずはここで訓練をつめ」と言った。
***
ジョン・ディーコンは結局帰ってこなかった。だがメアリはどこかで隠れて生きているのだろうと心配しなかった。子供たちもかえってのびのびと育った。

35
卒業してデルタ地帯のタンヤに配属されたサリムは実家に帰りがてら、スーフィ教の奇跡が起こったとされる場所、バブ・ズウェイヤに向かった。そこで、車の中でシークと話しているディーコンを見かけた。だが、視界を一瞬遮られ次に見たときは消えていた。ぼーっとしているシークに声をかけると、彼はようやく気付いて、車で送ってくれた。
車中、ディーコンの話をすると、シークは彼がいたことを認め、「今度の彼は全てを知っていたよ」と言った。そして、「彼が消えるところを見たかね?」ときいた。
サリムが否定すると、シークは、「誰も見ていないというわけだ。つまり、まだ君の番ではないということだな、サリム。世界はそういうものだよ。君のエンジニアリングの話をしてくれ!」
サリムは語った、ナイルデルタ地帯の橋建設の話を。父は息子の仕事を誇っていた。
***
どこか他の場所で、
キーダ神が微笑んだ。
~完~


silvering at 02:07 │Comments(10)TrackBack(0)読書

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この記事へのコメント

1. Posted by slg   April 19, 2005 02:25
プロローグだけ読んだ。少年がUFOを目撃するがその後見たことを忘れてしまう。少年の体には直後、特殊な症状が出たがやがて消えてしまう。