SF百科図鑑

インターゾーン1996年1月号

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April 14, 2005

Barrington J. Bayley "A Crab Must Try"

蟹の挑戦ベイリーの英国SF協会賞受賞短編。インターゾーン1996年1月号。
これは怪作。蟹(実はエイリアンであることが分る)の不良グループの青春小説、といった体裁をとりながら、この地球の蟹に似た生物の、悲しい性が描き出されていく。とにかく、こんな大ばかもののネタをまじめに小説にしてしまう作者に拍手。そして、そのばかばかしいネタにもかかわらずいつの間にか主人公の視点に引き込まれてしまうのは、作者の擬人化の手腕のなせる業だろう。とにかく登場蟹物のキャラがどいつもこいつも人間くさくて、おかしすぎる。そして、最終パラグラフでは、ここが地球ではなくどこか他の星であることが明かされ、そのおかれた悲しい状況が明らかになる。エンディングもいい。怪作にして、傑作といっていい。
テーマ性 ★★
奇想性  ★★★★
物語性  ★★★
一般性  ★
平均   2.5
文体   ★★★
意外な結末★★★
感情移入力★★★
主観評価 ★★★(31/50点)

<要約>
蟹の挑戦 バリントン・J・ベイリー

あの夏は何と楽しかったことか! 浜辺を飲み歩き、店をはしごしてアルキイマッシュを食らい、岩プールで水遊び。水の中でかけっこ。別の蟹ギャングと喧嘩。
女蟹を追っかけまわす!
ほんとに楽しかったなあ。メンバーは、おれ、(赤甲羅(レッドシェル))──我らが巨漢、勇敢なる(赤甲羅)!──(柔頭(ソフトナット))、(速鉤(クイッククロー))、肢が曲がってほとんど前方を向いているために歩き方のおかしい(びっこ肢(ギンピー))、ギンピーよりもちいさい(チビ(タイニー))。チビは体の小ささを埋め合わせるために高慢に振るまい、やたらと辺りをはねまわる。レッドシェルは、ギンピーもチビも大目に見てやったし、他のみんなもそうだった。どうせやれっこないってわかっていたんだけどな。
そうさ! 女とやれるやつはレッドシェルだって、みんなわかってたさ!
あの夏で覚えておかなきゃならないことは沢山ある。崖鉄道に乗って、浜沿いの隣町の(高岩(ハイロック))に行ったときのことを考えるのが好きだ。そこの店はどこも新鮮だったね。アルキイマッシュも違った味がしたよ。それに、いつもよりはやく酔っ払ったさ! 
おれたちがある店を出たとき、地元の不良連中にでっくわした。おれたちは立ち止まり、千鳥足でお互いに体がぶつかるような感じ。やつらは肢を伸ばして立った。典型的なチンピラの威嚇のポーズだ。
だからなんだってんだ、おれらはそいつらの見た目が気に入らなかったんだ。そいつらの発する匂いがまさに、そいつらがおれらと違う託児所育ちだってことを物語ってた。もちろんやつらが本気で気に入らなかったのは、地元の娘たちが脇を通りすぎながら立ち止まっては、色っぽくしなを作ったってことだろう。新しいオトコが町に来たわよ!ってな。
やつらのひとりはでかい男で、チビの二倍はあった。やつは前に出ると、われらがチビの片肢をつかみ、空中に持ち上げた。
「こいつはたいしたことねえな、ああ?」そいつはあざ笑って、眼柄をひらめかせた。「肢をひっこ抜いてやるぜ」
他の蟹が進み出て、チビの別の肢をつかんだ。やつがチビの体を引き裂いても、おれは驚かなかったろう。すると──バキッ! レッドシェルの巨大で頑丈な鉤爪が大男の大顎を殴り降ろし、そいつを後ろに転倒させ、チビの体は敷石の上に落ちた。
それを合図におれたちも加わった。甲羅がぶつかり、鉤爪が引っ掻き、殴打する。チビはぴょんぴょん跳んで、悪口をわめきたてる──だが、強力な鋏を持った連中から十分距離を置くのはもちろんだ。地元の男の一人がすぐチビの後ろに回る。鉤爪を振ってしゃちこばりながら。
通りの端に見まわりが現れたときに喧嘩は終わった。そいつらは歩哨みたいにつっ立って、棍棒を振りまわした。地元のギャングはその棍棒を食らったことがあるのだろう。その証拠に、悪態をつきながら、あっという間にずらかった。
その結果、おれたちはそこにつっ立って、喧嘩を見物していた女たちに取り巻かれていた。チャンス到来! おれたちはさっそく、鉤爪でモーションをかけ始めた──ギンピーとチビ以外は。かれらはやっても無駄だと分かってて、決してモーションをかけない。
本能的に女たちは、守りのサインを送り始めた。おれたちは女と一対一になり、鉤爪のサインはちょっと混乱した。おれは興奮してたんだ! でも酔っ払ってもいて、うまく調整がいかなくなった。おれの狙った女は、突然シグナルを止めて、行っちゃった。
レッドシェル以外は全員諦めた。レッドシェルはモーションを続けていた。かれはいつも他の誰より長くモーションを続けるのだ! 女の後ろの鉤爪が今にも飛び出さんばかりに震えている。レッドシェルはシグナルの第二段階に入ろうとしているのだ! だが、かれもまた酔っていて、肢をその段階の複雑な動きに調整することができなかった。女が去っていくと、かれはおれたちを振りかえり、片爪をあげてセックスを表すジェスチャーをした。
見まわりの蟹がやってきた。「若い衆、これ以上トラブルを起こすんじゃないぞ」一人が荒っぽい声で言った。
誰が好き好んでトラブルなんか起こすんだよ? アルキーマッシュの店に戻ろうぜ! おれたちが店を出るころにはとっくに終電を逃していた。おれたちは岩の坂を浜へ滑って降り、夕日が沈むのを見ながらふざけまわった。それから出発した。帰りつくまでに一晩かかった。岩を越え、潮のある水たまりをぱしゃぱしゃと渡り、潮が満ちたころ、海底をのこのことゾンビのように歩いた。ああ、いい一日だったさ。
***
冬の洞穴を出ると、外はまだ寒くて、やるべき仕事がある。たいていおれたちは建設作業班に配置されて、浜辺を移動しながら、水際のビルを修築したり、霜でだめになった柔らかくて穴の多い海石を交換したりする。もちろんギンピーは違う。やつはその手の仕事ができない。やつは春のあいだ、浅瀬で海草を養殖している。しくじるなよ、ギンピー。おれたちの酒の原料なんだから!
夏の真っ盛りには主な経済的仕事は終わり、休暇になる。アルカイマッシュ・バーは朝から晩まで店を開け、明日のことは心配しなくていい。若い蟹は気の向くまま友人とうろつき回り、マッシュをすすりながら道行くねえちゃんをナンパしていればいい。
だが実を言うとおれたちは、女の来ない店で時間を過ごしてるほうが多かった。
で、どんな話をするかって?
それについて言わせてもらえば、頭に焼きついてはなれない問題さ。『あれは、どんな風に見えるんだ?』つまり、女蟹の卵の入ったチューブと──もっとヤバイのは!──交尾の穴。もちろん、まだだれも見たことがない。おれたちは、見たことがあると言うやつから聞いた話を際限もなく披露しては悦に入るのさ。
もう一つの話題はどこまで行ったかの自慢。おれたち全員(ギンピーとチビは除く)、シグナルの第三段階まで行ったことがあると言っている。だがおれのみたところ、レッドシェル以外は嘘だ。おれたちを勇気づけるのは希望さ。いつの日か、女の守りシグナルに見あうだけの力のあるシグナルを送り、セックスに持ち込むという夢。女の鉤シグナルは本能的に複雑な動きができるが、男のは学ばなきゃならないというのは自然の残酷ないたずらだ。せっかくスピードと調整能力のレベルをあげたと思ったら、女はいともたやすく次のレベルに上げて行きやがるんだ。
千人もいる男蟹の中で、生涯に女とヤれるのはたぶん、三、四人だけ。
だが、蟹はチャレンジしなきゃならない。
***
ある日、おれたちが通りを歩いていると、(萎れ角(ドループストーク))に会った。こいつは昔のクラスメートだが、おれたちは成績が悪く、卒業後すぐ就職しちまったので久しぶりだった。こいつは、いつもどおり伏し目がちに歩いている。おれが声をかけるとびびっていた。
「どっかに引っ越したと思ってたよ! どこで働いてるんだ?」
「あそこさ」
彼は崖の上の宇宙開発センターを示した。
「うひょ! 科学者かよ」
「うん、そうさ、すごく面白いよ。星や惑星を研究してるんだ」
チビは跳びはねて言った。「星と惑星だってさ! こりゃいいや! おれたちは女の子の殻の下がどうなってるかを研究するほうがいいね!」
ドループストークは困ったように爪を振って、去っていった。
おれたちは飯を食って浜で遊んだあと、そろそろ飲む時間だというので中央通りの飲み屋に向かった。その途中、チビの姿が見えなくなった。探してみると、チビは通り脇の階段の下にかがんで、敷石の上を見上げていた。ちょうど女の子が通りかかっていた。そして急ぎ足で通りすぎた。チビは女の子の甲羅の下を必死で覗き込んでいた。
チビの存在をばらしたのはおれだった。おれの目線で、女の子が気付いたのだ。彼女は怒りの叫びを上げて、反対側に駆けて行った。
「いやったぁ~! 見たぞ、見たぞ、あの子の卵管を見ちゃったぞ! マジで! もうちょっとで、穴も見えたぜ、ちくしょう!」チビが狂喜乱舞した。
おれたちは興奮のあまり、みんな泡を吹いた。レッドシェルを除いて。レッドシェルは馬鹿にしたように四本の爪を振り、「ほんとにおまえは最低のやつだなあ。だがともかくおめでとうよ、チビ」と言って笑った。
飲み屋に行くと、おれたちは我慢できなくてチビにきいた。
「なあ、どんな形してたんだ? あの子の卵管はよ?」
「すっげえすべすべして、赤黒いんだよ」チビは嬉しそうに語った。「腹の下からまっすぐ下りててさ、でもそれほど長くはない。で、端っこがこう、ちょっと前に曲がってるんだよ」
たぶんそうなってるだろうと思った通りの形だった。チビは今まできいた話をただ繰り返しただけとも考えられる。
おれは頭をひねった。こいつ、ほんとに見たのか?
ええ、ほんとに見たのかよ?
***
もう一つのおれたちの楽しみは、高潮に身を委ねることだった。
それは一日一回必ず訪れるのだが、時刻は一定ではない。
ドループストークによると、おれたちの月は月の割に小さくて、すぐ近くを回っている。そして一日より早い周期で一回転する。だから空に登って通りすぎるときに海水を引っ張って波を起こすらしいんだ。
浜辺にいると、その高波がやってきて、浜辺のものを全部洗い流す。それに巻きこまれると、おれたちはトリップできるんだ。海水は空気よりも酸素が少ない。そのせいで酔っ払ったみたいにトリップできる。
女たちは海に来ない。トリップすると酸素不足で、守りのシグナルが使えなくなるからだ。
この夏、解体刑が執行された。犯人の男は、女の子を海に誘って犯したんだ。シグナルが停止している間に。そこで処刑台が建てられ、やつはばらばらに解体された。残念ながら、女の子の方も解体されることになっている。彼女は受精卵を身ごもっているが、合意に基づかない妊娠は犯罪なんだ。
この二重の解体刑の話に、チビは大興奮した。「当然だよ。当然だ。女のほうもやりたかったんだからな。同じぐらい悪いのさ」
女の子も本当はセックス好きで、ただ本能的に守りのシグナルを送ってしまうことからその欲求が妨げられているだけだ、というのが男どもに通用する俗説だ。
女の子が強姦魔と合意の上で海に入るなどということがあるだろうか? チビは、スモーレ群島の蟹たちが合意の上でこっそり海へ行き、シグナルなしでセックスをしては、卵が孵るまで隠れて暮らし、卵が生まれたら破壊する、という噂を嬉しそうに話した。「おれたちと一緒でさ、そいつらも、ただやりたいだけなんだよ。どうかな、おれたちも女の子を誘ってやってみないか&&」
「いいじゃん、やってみなよ、チビ」ソフトナットがそそのかす。「いいぞいいぞ! やれやれ、女をたらしこめ! 向こうのあの子なんかどうだ!」
おれたちは酒場を出た。向こうから女の子がやってきたので、ソフトナットが「ねえねえ!」と話しかける。「あのチビが、君に話があるんだってさ!」
だがチビは女の子が脚を速めて通りすぎる間、眼柄を引っ込めたままだった。
「やれよチビ! またきたぞ!」
「鼻の穴にテープ貼っていいですかってきけばいいじゃん!」
みんな面白がってはやしたてた。
だがある日、とうとうチビは本当にやってみせた。
おれたちは浜辺に出ていた。その日の高潮は既に終わったあとで、女の子も安心して浜辺を歩いていた。
チビは、おれたちが冗談半分ではやしたてたことをずっと本気で考えていたようだ。向こうからやってきた、それほど可愛いわけではない女の子に目をつけて、近づいていった。自分に自信がないチビは、いつもいちばん可愛い子は自分から避けるのだ。チビは女の子の前にたち、何かを話しかけた。
突然、女の子は怯えた様子で慌てて後じさりして逃げた。半狂乱で泣き叫びながら、パニック状態で大通りに消えた。
クイッククローがチビにきいた。「お前、何を言ったんだ?」
「きいただけだよ、それだけさ」
「だから何を?」
「一緒に海に入りませんかって」
おれたちはショックを受けて、チビを見た。
「よお、チビ」おれは言った。「今度はお前、本当にやったな」
チビ自身も、自分のしたことにショックを受けていた。あるいは、女の子の反応にかも。だが、他の反応をまさか期待してたわけじゃあるまい? 熱烈な白昼夢のあまり、とんでもないことをしでかしたもんだ。
***
夏が過ぎ行くにつれ、おれたちは、チビとギンピーを除いて、ますます必死で女を口説きつづけた。特にレッドシェルはマジだった。だが、レッドシェル以外のものは、いつも早々に女に逃げられていた。ギンピーはよく、クイッククローに近づいていき、ある日言った。「なあクイッククロー、こういうジョークはどうだい。あんたが途中まで女を口説き、途中でおれが入れ替わるんだよ。たぶん、相手は気付かないぜ。面白いジョークと思わない?」
「ああ、そいつはお笑い草だな。だがな、あの子はお前の相手にしちゃ、ちょっと年を食いすぎだよな? ええ、ギンピー?」
これはもう話したくないという意味だった。ギンピーは、下校時に校門をうろついて、守りシグナル能力の乏しい女学生をつけねらう悪い癖があった。むろん犯罪である。だが、ギンピーにはそうでもしないと、女とやれるチャンスはなかったのだ。
それ以来しばらく二人は口をきかなくなった。
ある日、とうとうレッドシェルが成功した。
おれたちが浜辺にいると、浜にすごく可愛い子がいるのに気付いた。レッドシェルは近づいていき、口説き始めた。
おれたちが陰で見ていると、二人は次々とシグナルのレベルを上げ、いったい何段階いったのかおれたちにもわからないぐらいだった。
そしてとうとう、女の子が降参のジェスチャーをして、レッドシェルに体を預けた。あとは、レッドシェルが女の子の体を裏返し、挿入する段取りのはずだ。
もしおれたちだったら、みんなの見ている前で自慢げにやっただろう。だが、レッドシェルはそうじゃなかった。彼は女の子を導いて、おれたちから見えない場所へ去っていった。チビが追いかけようとしたが、クイッククローが引きとめた。
おれたちは、そこを去り、いつもの飲み屋に行った。一時間ぐらいしてレッドシェルが戻ってきたが、どんな気分だったかときいても何も語らなかった。蟹の生き方についてちょっとしたアドバイスを口にしただけだった。
そして、夕方早い時間に、おれとクイッククローの甲羅を叩き、「頑張れや、みんな。おれはもうちょっとヤって来るよ」と言い残して出ていった。
***
それ以来、おれたちはレッドシェルをほとんど見かけなくなった。一度女とやると、蟹の生活は変わる。もはや古い生活にかまけていられなくなるのだ。
おれたちはそれからも必死で女を口説きつづけた。とはいえ、本気でレッドシェルみたいに成功できると信じてたわけじゃない。その日もおれは女から女へと渡り歩いては、必死で口説きつづけていた。ほとんど意識が朦朧としていた。そのとき、海に高潮が押し寄せてきた。と、メインストリートでざわめき。伝統的な結婚式が行われているのだ。
それはレッドシェルだった! 後ろに美人の花嫁。7台の荷車に、何千人もの子蟹が動いている。
昔なじみのいいやつ、レッドシェル。彼らはこの浜辺の次の世代を担う六組ほどのカップルの一つになるのだ。恐ろしいことだが、それが自然の摂理。片手分の数の蟹がいれば、生殖には十分だ。
「あれはおれたちの友達のレッドシェルだ」おれは新しいリーダーに自慢した。
レッドシェルはおれたちにサインをよこして歩き過ぎた。
***
それが二夏前。そして今年も終わりが近づいている。流氷が流れてき始めている。おれたちはあまり熱心にナンパをしなくなった。酒場にたむろしてるじいさんたちをおれらは馬鹿にしてたけど、ああいうのも悪くないなと思い始めた。
おれはときどき宇宙開発センターを見上げる。ドループストークはあそこにずっとこもりっきりで、女を口説くなんて考えたこともないんだろうな。おれは学校の授業で彼が目を輝かせたときのことを覚えている。この太陽系には惑星が19あって、ここは四番目だ。小さくて、空気がだんだん吹き飛んでいるらしい。一億年もすれば、誰かが何かをしない限り生命の住めない星になるんだって。未来の蟹がそれを解決するだろう。そいつら、いったいどんななりをしてるんだろう? おれたちには似ても似つかないんだろうな。みんなドループストークみたいなやつなんだろう。どうやってセックスするんだろうか? 想像もつかないや。
おれは人生の最良の時に思いをはせた。友達といるときではなかった。ある日おれは一人で町の南の岩場を探検したんだ。ある谷間に水から上がると、女の子がいた。その子はびっくりしておれを見た。おれはさっそくシグナルを始めた。その子は守りシグナルを返してきた。おれは必死で頑張った。結局、ふられちまったけど、二分ぐらいは頑張ったと思う。
二分だぜ! あと六分ほど頑張ればやれたんだ! 考えても見ろよ!
興奮!
欲求不満。
おれはため息をついて砂にもぐる。クイッククローもチビもギンピーも近くにいる。みんな何を考えてるんだろう。おれはあの子のことを考える。あの子の穴に、おれの棒を突っ込むんだ。あの子は鉤爪を前につきだす。あの子の中に入るんだ、入るんだ、あの子は鉤爪をつきだすんだ!
もう考えるのはやめろ! つらすぎる。
以前なら、つらすぎた。今は、ちょっとこそばゆいだけだ。今になってみるとどうでもいい感じがするのは、面白いな。
おれたちは今回は冬眠の穴に入らない。寒くなる前にみんな死んじまう。砂這いの連中がおれらの甲羅や鉤爪を集めて回る。そして、内陸の合同墓地に埋めるんだ。おれ、クイッククロー、ソフトナット、チビ、ギンピー、そして男も女もみんな。むろんレッドシェルは違う。父母になる者は(先祖の聖遺物)として特別な埋葬が行われるんだ。すぐに町はレッドシェルの子供たちで溢れかえるだろう。
正午の太陽の高度は、今日、とても低かった。おれはそれが水平線に沈み、海を赤く染めるのを見ていた。おれは飲み屋に座って、それが町に沈むのを見ていてもよかった。でもそれはちょいと面倒なことになりそうだ。おれはここに寝て、太陽が沈むのを見ていたい、それがまた昇るかどうか、ずっと待ってて確かめたいんだ。
~完~









silvering at 19:26 │Comments(1)TrackBack(0)読書

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この記事へのコメント

1. Posted by slg   April 14, 2005 20:04
これで去年までの英国協会賞受賞作コンプリートした。
後は今年の二作だけだ。
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