• atwiki
  • SF百科図鑑
  • ジーン・ウルフ『独裁者の城塞』(新しい太陽の書4)ハヤカワ文庫SF

SF百科図鑑

ジーン・ウルフ『独裁者の城塞』(新しい太陽の書4)ハヤカワ文庫SF

最終更新:

匿名ユーザー

- view
管理者のみ編集可

April 02, 2005

ジーン・ウルフ『独裁者の城塞』(新しい太陽の書4)ハヤカワ文庫SF

プリングル100冊より新しい太陽の書第4巻。プリングル100冊の選定対象はこの第4巻までなので、その後に付け足しで出た未訳の第5巻はノルマ対象としないことにしました。独裁者の城塞

***
読了。
もう一度1、2巻(特に1巻)を読み直しておくべきだったと激しく後悔しているが、そんな時間があれば少しでも次の本を読むことにつぎ込みたい切羽詰まった状況にある自分にそれを求めるのは酷だということも判るから、仕方がない。
第1巻で語られた主人公の生い立ちや若い日のエピソード、様々な不思議な出来事のタネの大半が本書で明かされる。そういう意味でのシリーズ解決編にあたる。
主人公が逃避行の果てに軍隊に紛れ、戦火をくぐり抜け、死亡した独裁者の跡を自ら継ぐといった表面的なストーリーをいちおう本書はたどるわけだが、この辺はもはやほとんど興味をそそらない(反逆者ヴォダルスだの何だのといったサブキャラがどういう人物であったかすら既に忘れている状態で読んだので何の戦いなのかすらわけがわからず100ページほど飛ばし読みしてしまったが別に後悔はしていない)。時の歩廊でつながれた連続する無数の宇宙(極限まで拡張して内破し次のビッグバンに至り、更にそれらの宇宙はいずれも非常に似た変化の過程を辿るので、あたかも宇宙全体が同一物として輪廻転生しているかのような観を呈する)、その歩廊を渡り歩くと思われる初代セヴェリアン&&はたして話者は何代目のセヴェリアンなのだろうか。確かに宇宙全体の無限の連なり全体を巻き込んだ猛烈に壮大なスケールの本格SFである。この壮大なスケールの宇宙観を、かぎ爪による時間逆転効果(結局ドルカスは話者セヴェリアンの祖母であったことが判明するw)をはじめとする諸々のよく構築されたアイデアやプロット上のトリックのディテールが埋め尽くし、精密な一大伽藍を構築しているといえる。
正直、ドルカスやらセクラといったエピソードは本書を読んでいる最中全く覚えておらず、読み終えてから1、2巻をぱらぱらめくって復讐して「ああ、そういえばそんなやつがいた、ああ、そういうことかすげえすげえ」と後付けで驚いた次第である。話者の母がキャサリンだっというくだりなど、未だにそれがどこの箇所に書いてあったのか特定できていない。
この点については、本シリーズを絶版にして、私がこの4冊を一気に通し読みすることを出来ない状況を強いた出版事情を未だに恨んでいる。
また本書でも、全ての謎を明快に解き明かしたとは言えない。新たないくつかの謎を読者の心に委ねつつ、本書はいちおうシリーズの幕を閉じている。
本書まで読んで、ようやく、だいぶ後に出されたという第5巻「新しい太陽のウールス」を読んでみようかという気になっている。だが、それはプリングル100冊等を片付けて気持ちにゆとりができてからである。
本シリーズはしかし、やはり1冊分だけ長過ぎた。第2巻と第3巻は通して1冊ぐらいでよかったのではないか。第4巻も前半はもう少しはしょってほしかった。物語空間のディテールにこれでもかとサブエピソードを詰め込んで構築する作者の方針だからしょうがないという気はするが。本人が作中でたびたびそう自認しているし。
あと、ひとついっておくと、凄い作品なのだが、読むのが楽しいタイプの作品でないことは間違いない。どちらかというと苦行である。読者に努力を強いる作品と解説で鏡明氏が書いているが、全くその通りである。ジーン・ウルフ作品はやはり、作品の表面的印象や世評以上に難しい。
テーマ性 ★★★★
奇想性  ★★★★★
物語性  ★★
一般性  ─
平均   2.75
文体   ★★★★
意外な結末★★★★
感情移入力★
主観評価 ★★★(34/50点) 



silvering at 04:40 │Comments(5)TrackBack(0)読書

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by slg   April 02, 2005 16:51
ちょっと読んだ。噂どおり、がらっと変わって普通のSFになったら、普通に面白い。
最初からこうだったらもっと面白く読めたのにと思うのは単に俺がファンタシイ受け付けない体だからか。幻想・幻覚物は好きなんだけど、とにかく型にはまった様式化された設定やキャラが苦手で、続けて読むと気が狂いそうになるんだよなあ。ファンタシイに限らず、ハードボイルドとか時代小説もそうなんだけど。新しい物を求めて読むのに古いものを見せられる腹立たしさというか、金返せ詐欺だ感というか。
2. Posted by slg   April 02, 2005 16:51
でもSFだとベタな設定、キャラでも割と許せてしまうのはやっぱりえこひいき、というよりも体質なのか。
3. Posted by SLG   April 02, 2005 17:05
なんていうのか、新車といわれて20年ものの中古車を買わされるような腹立たしさというか。あるいは20歳といわれて入ったら80婆さんだったというような。
4. Posted by slg   April 02, 2005 20:47
と思ったら150ページ過ぎからまたつまらなくなった&&
とにかくこののっぺりした旅の描写がたまらなく不快。たまりかねて100ページ眺め読みしました。100ページ飛ばしてもストーリー追う上でまったく無問題。
他の部族と戦争して独裁者が来て飛行機に乗ってどっか行ってつかまって独裁者が死んで自分が独裁者になったというぐらいの粗筋は分った。こんだけ分れば十分。つまらないので早く読み終わりたい。この後の展開も大体想像がつく。
5. Posted by SLG   April 03, 2005 01:58
読了。
そして、やはり1、2巻の内容を忘れた状態で読んでも意味がなかったことが判り激しく後悔。
とはいえ、僕が1、2巻を読んだ段階で3、4巻を安価で入手する方法が存在しなかった。4巻揃いで1万円もするものを、1、2巻既に思っているというのに3、4巻だけのために買うわけにいかない。
結局、友人の好意により数年後にようやく3、4巻を手に入れるに至ったわけだが、その時点でも既に1、2巻の内容を忘れていたため後回しになり今に至った次第である。
私がこの4冊を十分に楽しめなかった原因は、このような傑作が絶版になっている出版事情のせいである。この作品に罪はない。
ただ、一点だけいうとすれば、やはりこのシリーズはちょっとだけ長過ぎたと思う。特に第3巻部分はまるまる不要だろう。
記事メニュー
目安箱バナー